*柴日記*
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#270 [向日葵]
心臓が跳ねる。
私は返事をしなかった。
するとまたノックをして、私の名前が呼ばれた。
静かな事を証明する耳鳴りのような音が聞こえた。
しばらくすれば、柴はどこかへ行ってしまった。
足音が消えた所で、私はベッドから降りる。
1日こんな気まずい状態でいれやしない。
遅刻上等で学校へ行こう。
私はさっさと支度を始めた。
鏡を覗けば、少し目が腫れていたけれどそのうち直るだろうとほっておく事にした。
:08/04/27 17:41
:SO903i
:☆☆☆
#271 [向日葵]
支度を全て終えたのはいいけれど、困った事がある。
柴の現在地が分からない。
部屋にいるのか、リビングにいるのか、はたまた別の場所にいるのか……。
深呼吸をしてから、ドアノブに手をかけ、「いざっ!」と自分を奮い起こす。
勢いよくドアを開けた。
「どこに行くつもり?」
私は1歩も部屋から踏み出す事なく硬直する。
なんと柴はドアのすぐ横にいたのだった。
:08/04/27 17:45
:SO903i
:☆☆☆
#272 [向日葵]
「……が、……こう……」
蚊が鳴くような――……とはこの事。
絶対に柴に聞こえてなかったと思うけれど、私の格好を見れば一目瞭然だと思う。
柴は私を押し戻して、また部屋に入れる。
入口は柴が塞いでしまった。
逃げ場所はない。
自分の鼓動だけがやけに早く聞こえた。
柴は腕を組んでドアにもたれる。
私はお腹辺りで指を絡ませて手を組み、うつ向く。
:08/04/27 17:49
:SO903i
:☆☆☆
#273 [向日葵]
「体、良くないんだろ」
「よく寝たから……大丈夫。心配かけてごめん」
必死に、なんでもない風を装う。
でなければ優しい柴はきっと責任を感じてしまうから。
私さえ頑張れば、全ていつも通りに戻る。
そう思い、顔を上げる。
「私、これでも委員長だから、しっかり学校行かなきゃ。柴に迷惑はかけないよ」
「別に迷惑とは思わないよ」
「ううん。私が心苦しいの。だから、大丈夫……」
:08/04/27 17:53
:SO903i
:☆☆☆
#274 [向日葵]
にこっと笑って見せる。
大丈夫だよ。私は平気だよって言うように。
柴はしばらく黙っていた。
時計の音と、私の心音がハモる。
そして柴は口を開いた。
「大丈夫なら……何で俺の事見ないの?」
私は目を見開いた。
そうなのだ。
顔を上げたものの、私は柴を見れないでいた。
それはこの前の柴の冷たい顔が目に焼き付いてしまって、怖くて見れなかったのだ。
:08/04/27 17:57
:SO903i
:☆☆☆
#275 [向日葵]
「嫌いになった?」
「……そんなんじゃない」
「じゃあ何?」
胸か苦しくなって、強行突破で柴に近づき押し退けて出て行こうとした。
でもこの作戦は有効じゃなかった。
柴は私の腕を掴んで反転すると、壁に私をドアに押し付けた。
私は息を飲んだ。
動揺していると、柴の顔が近づいてきた。
おでこがぶつかりそうな距離だ。
:08/04/27 18:01
:SO903i
:☆☆☆
#276 [向日葵]
「怖がらないで」
低く穏やかに柴が言う。
私はまだ柴に目を向けられないでいる。
「前の態度は良くなかった。謝るよ。でも俺だって、思い出したくもない過去の1つや2つある。越だって、あるでしょ……?」
「……ある」
「だったら分かって?越は知らなくていいんだ」
違う……。
そんなんじゃない。
「知らなくていいって……私は柴に必要ない?」
口をついて出たのはそんな言葉だった。
:08/04/27 18:05
:SO903i
:☆☆☆
#277 [向日葵]
「私、柴が好きだもん。大好きだもん……柴の悲しい嫌な思い出消し去るくらい、幸せになって欲しいだけなの……っ」
私達は家族。
色々な形はあると思うけど、私達家族は、悲しみを分かちあって支えあってる。
だから柴にも、打ち明けて欲しかっただけ。
でも柴は「知らなくていい」と言った。
それは柴だけが私達家族に加わっていないように私は思った。
「それでも……柴が傷つくなら聞いちゃダメって思った。これは、私のワガママだから……だからっ」
:08/04/27 18:10
:SO903i
:☆☆☆
#278 [向日葵]
「もう何も聞かないって決めてたのに」と言おうとしたら、柴の腕に包まれた。
力強く抱き締められて、私の心臓はさっきとは違う意味の脈を打った。
柴の体が密着して、体温を感じれば、更に加速していく。
「越……」
柴が耳元で呟く。
自分の名前がこんなに甘い響きを持っているなんて知らなかった。
恥ずかしさのあまり、私は目をギュッと瞑った。
「違うよ越……。俺は越が、越達家族が大切なんだ。わざわざ俺の闇に手を触れて、光を失う必要なんて無いって言いたいんだ」
:08/04/27 18:17
:SO903i
:☆☆☆
#279 [向日葵]
柴の声は、苦しそうだった。
私は瞑っていた目をゆっくり開いて、視線だけ動かす。
柴の綺麗な茶色い髪の毛しか見えない。
「分かって越。大切だから傷つけるのが怖いだけなんだ。でも言える時が来たなら、きっと言うから」
そう言って、少し距離を取った柴をようやく見つめる事が出来た。
「それまで待って欲しいんだ」
昨日見たあの冷たい印象を持った灰色の瞳は、温かさを取り戻していた。
それを見ただけで、ホッと安心して、頬を緩める。
「分かった」
:08/04/27 18:24
:SO903i
:☆☆☆
#280 [向日葵]
すると柴の瞳が小さく変化したような気がした。
それを感じた私は、「ん?」と思うと同時に柴の手に顔を包まれた。
和解するかのように、顔を変形させて盛大に笑うのかと思ったけどそうじゃなかった。
柴は徐々に私に顔を近づけてきた。
灰色のあの瞳に私が写っていると分かるくらい。
鈍感と言う判子をデカデカと押されている私でもさすがに今から何をされるか予想してしまった。
「わ、わぁぁっ!」
:08/04/27 18:28
:SO903i
:☆☆☆
#281 [向日葵]
ザッと勢いよくしゃがみ込んだ。
そして近くに落ちていたカバンを持ってドアを押し開ける。
「い、いいいってくるっ!!」
階段を一気に駆け下りて、外へ出れば自転車を動かして一心不乱に漕ぎだした。
何……っ!今の……っ!
ど、どどどうして柴、私にキッ……!!
そこまで思って、更に頭はヒートアップした。
「わぁぁぁぁっ!」
意味もなく叫ぶ。
明らかにおかしな子に認定されただろう。
:08/04/27 18:33
:SO903i
:☆☆☆
#282 [向日葵]
結局私が学校に着いたのは、2時間目が始まった時だった。
教室に来れば、皆がいなくておかしいと思った私は、机の上や床に置いてある沢山の荷物を見て、2時間目が体育である事を思い出す。
途中で行くのもなんなので、そのままサボる事にした。
幸い自分の席は空いていたので座った。
「はぁ……」
ため息をついて机に突っ伏す。
柴と仲直り出来たのはいいけれど、今度は違う意味で気まずくなってしまった。
:08/05/02 00:16
:SO903i
:☆☆☆
#283 [向日葵]
「家に帰りずらいよぉ……」
どうして柴は私にキ……キ、キスしようとしたんだろう……。
そして私はどうしてこんなにドキドキしてるんだろう……。
今まで柴が抱きついたり、抱き締めたりしても何も思わなかったし、キスなんてされてももしかしたら平気だったと思う……まぁ口は別だと思うけど。
そこで桜の言った言葉を思い出す。
[お姉ちゃん、柴が好きなの?]
す……好き……?
:08/05/02 00:19
:SO903i
:☆☆☆
#284 [向日葵]
好きって……そりゃ好きだけど……。
桜の言ってる“好き”は、私と違う意味を持ってるのだろうか。
頭を抱えていれば、柴がどんな人なのかを思い出す。
透き通るような茶髪。
細身で、だけどほど良く筋肉がついていて。
神秘的で魅惑的な灰色の目は、人の心を惑わす。
性格は甘えん坊。少し毒舌。とても妬きもちやき。誰よりも愛情を欲していて、優しい……。
これだけ柴の事を分かっていても、私はまだ足りないって思っちゃったんだ……。
:08/05/02 00:26
:SO903i
:☆☆☆
#285 [向日葵]
それは……。
「好きだから……?」
口にしてしまえば、それは形となって、胸の奥に甘い衝撃をもたらした。
そうだったんだ……。
私……柴が好きだったんだ……。
じゃあ柴は?
柴はどう思ってるんだろう。
もしかすれば、柴はさっきキスしようとしたんじゃないのかもしれない。
私の早とちりだったのかもしれない。
甘えたい時にはいつもやるみたいに、肩や頭に自分の頭を乗せたかっただけかもしれない。
:08/05/02 00:29
:SO903i
:☆☆☆
#286 [向日葵]
なら柴は、ただ私の事を飼い主程度にしか思ってないかもしれない。
なら、完全に私の片思いか……。
……でもこれが分かったからって自分が何をしなきゃならないかなんて分からない。
恋愛の基礎なんて自分は知らない。教科書があればそれを買いたいくらい。
いや……それよりもっと重要なのは、帰ったらどうすればいいかだ。
慣れない事で頭をフル回転していれば、次第にどこかに支障が出る。
私の考えはどうどう巡りしだした。
:08/05/02 00:34
:SO903i
:☆☆☆
#287 [向日葵]
そんな時、誰かがドアを開けた。
頭を抱えながらその方を見れば、そこに立っていたのは体操服姿の立川君だった。
立川君はこちらに気づくと、目を軽く見開いて驚いていた。
「神田さん?どうして……。だって今日休みじゃ……」
「体調も良くなったから来ちゃったよ。家にいてもしょうがないし」
と言って、またさっきの出来事を思い出した。
「しょうが……ないし……ウン……」
:08/05/02 00:37
:SO903i
:☆☆☆
#288 [向日葵]
そういえばと立川君を見る。
彼はどうして授業の最中に教室にいるのだろう。
「立川君はどうかした?まだ授業やってるよね」
「あ……はい。そうですが……。幻かと思ったんです」
立川君はなんだか眩しそうに私を見る。
私は首を傾げながら「幻?」と言った。
立川君は前髪に指を埋めて、困ったような表情を見せる。
「貴方が……グラウンドから見えたので、休みの筈なのにおかしい。自分は幻を見てるんじゃ……と思ったもので」
:08/05/02 00:41
:SO903i
:☆☆☆
#289 [向日葵]
「やだ立川君。私がいなくても別になんともでしょ?そりゃ委員長としては、仕事しっかりやらなきゃいけないけど」
立川君は今度は真っ直ぐに私を見る。
私の席は窓際だけれど、教室の端と端でも立川君の眼光は届いた。
「なんともない?」
呟いたその声は怒っているようにも聞こえた。
なので私は何か悪い事言ったかと不安になった。
「貴方は何も分かっていない」
立川君はそう言って、ゆっくり私との距離を詰めて来る。
その威圧感に、後退りしたくても後ろはもちろん窓なので無理だった。
:08/05/02 00:46
:SO903i
:☆☆☆
#290 [向日葵]
「た……立川君?」
名前を呼ぶと同時に、立川君はぴたりと止まる。
私との距離は1メートルほど。
「僕は、貴方が必要です。貴方ては毎日でも会いたい」
「必要って……。私は立川君みたいにしっかり仕事も出来ないし……あ、そりゃ頑張ってるつもりだよ!?でも必要って言われるほど大事な役割を担ってる感じは……」
「だから分かってないと言うのです」
立川君は手を伸ばし、私の腕を掴んだ。
:08/05/02 00:50
:SO903i
:☆☆☆
#291 [向日葵]
そして次の瞬間、私は立川君の腕の中にいた。
「ここまで言っても分かりませんか……。いや、前に言っても分かっていなかった。だからもう1度言います」
柴のような、細く力強い感じではなく、たくましい立川君の体に抱き締められた私は動揺を隠せないでいた。
「僕は貴方が好きです。友人としてではなく、異性として貴方が好きなんです。神田越さん……」
「……っ!」
驚いて、体が硬直した。
立川君が私を……っ!?
:08/05/02 00:54
:SO903i
:☆☆☆
#292 [向日葵]
:08/05/04 01:29
:SO903i
:☆☆☆
#293 [向日葵]
「神田さんの悩みや辛い事は僕に打ち明けてもらいたい……。貴方は無茶をしすぎるから、僕は助けてあげたいんで……」
立川君の言葉を聞き終える前に、両手を突っ張った。
頭が混乱した。
そして何より……柴じゃない腕に抱き締められるのが嫌だと感じてしまった。
別に立川君が嫌いな訳じゃない。
ただいつもと違う腕の感触が違和感を覚えてしまったのだ。
私はうつ向いて言葉を無くす。
なんて言えばいいのか、どうすれば立川君を傷つけないだろうか。
傷つけないと結論が出ているのならば、私はやっぱり立川君の告白を受け止める事が出来ないと言う事だ。
:08/05/04 01:34
:SO903i
:☆☆☆
#294 [向日葵]
たまらず出て行こうとすると、腕を掴まれた。
「待って下さいっ!」
私は立川君を見た。
いつもクールで冷静沈着な立川君が、困った顔をして焦っていた。
何故か荒くなる息を、私は静めようとする。
耳の奥では、ドクドクと鼓動が聞こえた。
「こんな事してすいません……でも、嘘偽りはありません。これが自分の気持ちですから……。でも、だからと言って、気まずくなるのだけはやめて下さい……」
「う……うん……分かった……」
:08/05/04 01:38
:SO903i
:☆☆☆
#295 [向日葵]
「でも」と私は続けた。
「きっと……立川君の気持ちを、受け止める事は出来ない……」
立川君は軽く目を見開く。
「それは、体育祭に来ていた男性ですか?」
思えばその時からだった。
私が柴を意識し始めたのは。
初めて柴をかっこいいと思った。
知らない一面を見れば本当の柴を知りたくてドンドンのめり込みそうになる自分に驚いた。
本当は知っていたのかもしれない。
この気持ちが何なのかを……。
:08/05/04 01:43
:SO903i
:☆☆☆
#296 [向日葵]
でもその気持ちを拒否された時、私はどうすればいいか分からない。
ならば今のままでいいじゃないか。
心の底では、そう感じていたかもしれない。
だから分からないフリをし続けていたのだろうか……。
「柴は……守ってあげたいと思った人だから……」
大切に、大切にしてあげたい……。
「そう自覚したのはいつですか?」
「えっと……分からないのだけれど、気づいたのはさっきで……」
「ならチャンスはあります」
:08/05/04 01:46
:SO903i
:☆☆☆
#297 [向日葵]
え?
するりと立川君の手が私の腕を離した。
「その気持ちが、実は勘違いかも……となれば、俺にもまだ挽回のチャンスはありますよね」
「あ、いや、それは……」
そんな事を言われれば更に困ってしまう。
勘違い?
そんな筈ないと思う。
だって柴を思い出す度に胸が苦しくなるんだもの……。
「とにかく……まだ決定打を打たれるまでは、俺は諦めませんから」
:08/05/04 01:50
:SO903i
:☆☆☆
#298 [向日葵]
それだけ言って、立川君は行ってしまった。
力が抜けて、その場に座りこむ。
なんなんだ今日は……。
柴にキスされそうになるし、立川君には好きだとか言われるし……。
いっぺんに言いたい放題言わないで!したい放題しないで!
一番困っているのは……私だよ……。
と、急にクラリときた私は、そのまま床に倒れてしまった。
そういえば過労とか言われてたっけ……。
:08/05/04 01:54
:SO903i
:☆☆☆
#299 [向日葵]
―――――――……
ヒヤリとした物が、額に当たるのを感じた。
優しく髪の毛を撫でる指は、なんて長いのだろう。
誰……?
・・・・・・・・・・・・・・・・
「おねえちゃん。だいじょうぶぅ?」
「苺……?」
目をうっすら開けて周りを見れば、見慣れた景色だった。
私の部屋だ。
「もう、心配かけないでよね!」
「あれ、桜……」
:08/05/04 01:57
:SO903i
:☆☆☆
#300 [向日葵]
「学校から電話があって、お姉ちゃんが倒れたって言うから、柴が迎えに行って家まで連れて帰ってきたの!過労ならちゃんと休んでなよねぇっ!」
じゃあ……。
頭にそっと触れる。
さっき寝ている自分の髪を撫でたのは、柴なのだろうか……。
「おねえちゃん、しばちゃんにありがとうしなきゃメッよ?」
「……そうねぇ」
と苺の頭を撫でた。
苺はされるがままになっている。
「今何時?」
:08/05/04 02:01
:SO903i
:☆☆☆
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