*柴日記*
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#150 [向日葵]
威勢のいい掛け声に答える声は尚デカイ。
グラウンド中に響いて、余韻を残しながら消えていく。
曲がかかれば中央に出ていって踊る。
私達は先生の年齢層を考えて、ソーラン節を踊る事になってる。
なので只今の恰好、制服のスカート、素足、体操服の上にオレンジ色のハッピ、頭にはお祭り用のハチマキ。ちなみにクラス色のハチマキは手に結んでちょっとしたリボンみたいになってる。
「越、似合うねーっ」
袖を捲っていると、美嘉が言った。
:08/04/04 02:24
:SO903i
:☆☆☆
#151 [向日葵]
「美嘉には負けるよ」
短髪のせいか、ハッピ姿がよく似合う。
足もスラリと長く筋肉質だから、さっきから皆が美嘉をチラチラ見ているなんて本人は知らない。
<B組!用意!>
3年生のリーダーが合図を出したので、皆スッと顔を引き締め、息をひそめる。
ドォン!と太鼓が高らかに鳴ったので、私達は駆け足で定位置へ。
曲がかかるのを待つ。
胸が高鳴るのが耳の奥で聞こえた。
:08/04/04 02:29
:SO903i
:☆☆☆
#152 [向日葵]
そして曲が鳴った。
曲の中で「どっこいしょー!どっこいしょー!」の掛け声に合わせて私達も叫ぶ。
皆と一体になっているのを感じた。
しかし終盤に事件は起きる。
移動した時だった。
小さな石か何かで、足を切ってしまったのだ。
鋭くも鈍い痛み。
途中から止める事も出来ず、なんとか最後まで踊りきった。
大勢の拍手を聞きながら、なんとか続けられて良かったと大きく息を吐いた。
:08/04/04 02:35
:SO903i
:☆☆☆
#153 [向日葵]
何組か演技が終わった後、1時間の昼休憩。
裸足に運動靴を履いて、バレないように少し足を引きずった。
「午後も楽しみだね!意外とB組って運動神経いいんだ!」
「そうだねー」
と言いながら足がズッキンズッキン痛むのに顔を歪めた。
密かに保健室へ行こうと決心。
「越!」
ふと前を見ると、少し離れた所に柴が。
結構身長がある柴の頭がひょこりと見える。
人垣を分ければ、その顔が私を心配しているのが分かった。
:08/04/04 11:54
:SO903i
:☆☆☆
#154 [向日葵]
柴には私の足の状態が分かってしまったらしい。
人前だろうが何だろうが担ぎそうなので、柴の元へ行くのは少し気が引けた。
ここはいらない心配を周りにさせたくないので、穏便に事が過ぎるよう言い聞かせようと決意し、止まりかけていた足をまた進めた。
が、その時、後ろから勢いよく腕を掴まれた。
そのせいで足の傷がまたズキリと痛んだ。
「何事?」と振り返れば、少し息を切らした立川君がそこにいた。
「美男子は何しても輝いてるなー」と呑気に思っていたら、驚く事を口にした。
:08/04/04 12:02
:SO903i
:☆☆☆
#155 [向日葵]
「足、怪我してますよね」
「――えっ……」
まさか立川君にまでバレていたとは。
先を歩いていた美嘉と椿は、振り返り私に声をかけてくる。
「越ー?どうしたー?」
「あ……えと、ちょっと委員の用事ー!先に行っててー!」
美嘉が片手でヒラヒラと応じるのを見てから、私は立川君に向き直った。
「大丈夫、後でちゃんと保健室には行くから」
:08/04/04 12:05
:SO903i
:☆☆☆
#156 [向日葵]
まだ私の腕を掴んでいた立川君の握る力がギュッと強まり、少し怒っている整った顔が近付いた。
「後でと言いながら最後まで無理しそうなのが貴方です。今すぐ行きますよ」
「え、で、でも……」
有無を言わない間に立川君はやんわりと手を引く。
どうやらこのまま保健室直行らしい。
ちらりと見れば、遠くで柴が軽く目を見開いてこちらを見ていた。
と思えば、急に目をつり上げ、口を一文字に結び、睨まれた。
いや、睨まれたと言うか睨んでいる。
それも私じゃなく、立川君を……。
:08/04/04 12:11
:SO903i
:☆☆☆
#157 [向日葵]
鋭い視線が突き刺さる。
何故そんなに怒っているのか分からない。
いつもの拗ねたような可愛らしい雰囲気なんてどこにもない。
少し……柴が怖く見えた……。
校舎に上がる為、靴を脱ぐと、思っていたより出血していて冷や汗が出てきた。
床に血が付くといけないので、ケンケンしながら保健室まで移動。
そんな私を見て、立川君が顔を歪めた。
「貴方は無理ばかりする。何故僕がいるのに頼ってはくれないんです」
:08/04/05 02:07
:SO903i
:☆☆☆
#158 [向日葵]
私の中で頼ると言うのは、どうしようもなくなった最終手段な訳で、今は立川君が言う程ひどい状態でもないから特に頼る事は何もなかった。
これがもし両足ならば、人を呼んでくれとか言うだろうけど……。
悪い事はしてない筈だけど、なんだかお父さんに怒られてるみたいで、しゅんとうつ向く。
立川君はそんな私を見て「あ……」と小さく呟いてから、「すいません」と謝ってきた。
「偉そうに……。ただ神田さんは何でも1人でやってしまうから、同じ委員の僕としては、色々頼って欲しいんです」
:08/04/05 02:13
:SO903i
:☆☆☆
#159 [向日葵]
立川君は保健室のドアを開けてくれた。
さっきの立川君の言葉を嬉しく思う。
ただのクラスメイトにここまで良くしてくれる人なんて滅多にいないだろう。
立川君の人気は美男子だからだけではないと思った瞬間だった。
少なからず立川君は私に好意を持ってくれてるから、心配してくれてるのだろう。
心配してくれるって少し嬉しいかも……。
「ホラ、足見せてごらん」
保健医の指示に従い、丸いイスに座った私はヒョイと足を上げて見せた。
一頻り傷を見た保健医はさっとピンセットと茶色い瓶を持ってまた私に向き直る。
:08/04/05 02:20
:SO903i
:☆☆☆
#160 [向日葵]
それを見た私の口はひくりとなる。
今からするのは明らかに消毒だ。
今でさえ、痛みがひどいのに、消毒となったらそれが2倍くらいの痛さになる。
なんとなくイスごと後退っていた私の足首を、楽しそうににっこり笑いながら保健医が掴む。
「どこ行くかしら?こんな血だらけの足さらして」
ピンセットに挟まれているは、茶色く変色している一千切りの綿。
ばい菌を消してしまう液をたーっぷりと含んでいる。
:08/04/05 02:25
:SO903i
:☆☆☆
#161 [向日葵]
「ひっ……」と思わず息を吸い込む。
綿が近づくに連れ、体内に息を取り込むのを忘れた。
軽く綿がチョンと付いた時、電気のような痺が全身を駆け抜ける。
それは回り回って悲鳴になった。
「い…………っったぁぁぁぁい!!いやー!痛い痛いいたぁぁぁい!!」
「うっさい!大袈裟!」
……鬼畜っ!
保健医は容赦無く綿を押しつける。
その度私は手をあちこちに掲げて悶絶した。
:08/04/05 02:32
:SO903i
:☆☆☆
#162 [向日葵]
「出血のわりに、傷は浅いから、ガーゼだけ貼っておくわね。」
厚めのガーゼを手早くつける頃には、暴れすぎによる疲れと痛みでぐったりとしていた。
「ハイいいわよ」
ペシリと膝を叩かれたので、そろりと立ち上がる。
ガーゼのおかげで、直に床と足がくっつかないので痛みはさっきより半減していた。
その事に少しホッとして、久々に新鮮な空気を取り入れた気分になった。
立川君は戸口でずっと立って待っててくれた様子。
:08/04/05 02:36
:SO903i
:☆☆☆
#163 [向日葵]
つまり、痛がって子供みたいに暴れていたみっともない私を見られていたと言う事……と思えば、恥ずかしくなった。
きっと面白かったに違いない。
その証拠に私と目が合うと、口にギュッと力を入れてる様子が伺えた。
多分笑いたいけど笑っては失礼と思ってるんだろう。
立川君はドアをまた開けてくれた。
まるで紳士みたいだなー……。
「ありがとう、立川君」
:08/04/05 02:41
:SO903i
:☆☆☆
#164 [向日葵]
立川君は無表情で首を振る。
「いつでも、また頼って下さい。僕は……」
「越っ!」
横を見れば、柴が率いて桜達が外へ出る広い戸口に立っていた。
出てくるまで待っていたみたいだ。
柴はさっきの怖い雰囲気を引っ込めて、心配そうに私を見ていた。
しかし隣にいる立川君を見ると、またじわじわと引っ込めていたオーラを出し始めた。
困りながら立川君を見れば、柴の視線を真っ向から受け、ふいっと私に視線を落とした。
:08/04/05 02:47
:SO903i
:☆☆☆
#165 [向日葵]
「ご家族が心配してるようなので、僕はもう行きますね」
「あ、立川君、ありがとう」
立川君は一度ほのかににこりと笑って、歩いて行ってしまった。
振り向けば、柴が靴を履いているにも関わらず校舎に入ってこちらにズンズンとやって来た。
なんだか勢いがあったので、微妙に後退ってしまった。が、がしりと腕を掴まれた。
「わ、ちょ……っ柴?」
「アイツ……」
:08/04/06 15:16
:SO903i
:☆☆☆
#166 [向日葵]
立川君が歩いて行った方を睨んで、また私に視線を戻した。
「前も見た。何なの?」
「な、何って、説明しなかった?クラスメイトの立川君」
柴は眉にしわを寄せながら、唇をキュッと引き縛った。とても不機嫌みたい。
一体何だと言うのだろう。
「越、アンタ怪我してんだって?」
律儀に靴を脱いでやって来たお母さんが言った。
「え、何で知って……」
「柴が気付いたの。ね、柴」
:08/04/06 15:19
:SO903i
:☆☆☆
#167 [向日葵]
話しかけられても、柴の目には私しか映っていない。
灰色の神秘的な目に威圧されながら、私は柴に言う。
「柴、心配してくれたの?」
「……」
柴の機嫌が直らない……。私まで難しい顔になってしまう。
どうしたらいいのよ……。
「ねえお姉ちゃん、午後に保護者リレーあるんだって?」
「あ、ウン。お母さんが出るの?」
:08/04/06 15:28
:SO903i
:☆☆☆
#168 [向日葵]
お母さんは「うーん」と唸ってからちらりと柴を見てからニヤッと笑った。
「柴を出すよ」
「えぇっ!?」
桜、空と一緒に私は叫ぶ。
指名された当の柴はキョトンとしているけれど、何か企んでいるお母さんの真意を読み取ったのか、特に大きなリアクションはしなかった。
「柴、アンタやるね?」
「ウン」
「え、即答?」
驚きを隠せない私を無視して、勝手に盛り上がり始める兄弟とお母さん。
:08/04/06 15:35
:SO903i
:☆☆☆
#169 [向日葵]
「ねぇ越姉」
呆気にとられている私の体操服を空がクイクイと引っ張ってきた。
「柴が何で怒ってるか、本当に分からない?」
「え?怒ってるって言うか、拗ねてるんでしょ?」
空は大袈裟にため息をついてから、私を呆れた顔で見上げた。
まるで「越姉ダメだ……」と言われてる気がして、少しムッと口を尖らせた。
そんな訳で、何かが起こりそうな体育祭はまだまだ続くのでした。
:08/04/06 15:41
:SO903i
:☆☆☆
#170 [向日葵]
―*4日目*―
えつおねえちゃんはみんなからだいすきってよくいわれてるの!でもね、しばおにいちゃんもみんなからだいすきっていわれてたよ!
(神田家・三女・苺談)
昼休みが終わって部活行進が終わり、部活リレーが終わった。
昼になれば朝よりも更に気温、湿度が上がってより汗がふき出す。
そのせいか一気に皆がだらけだしてきた。
:08/04/06 15:54
:SO903i
:☆☆☆
#171 [向日葵]
「な……なんなの。水分取っても流れ出ちゃうこの悪循環……」
「美嘉ちゃん……大丈夫ですか……」
日焼けと暑さよけの日傘をさして、心配そうに見る椿が美嘉にペットボトルの水を差し出す。
イスにぐったり寄っかかっている美嘉はダルそうにそれを受け取る。
喉を鳴らしながら半分まで一気に飲み干してしまった。
「……っくぁーっ!!あー美味い……」
「越ちゃんは大丈夫ですか……?」
:08/04/06 16:04
:SO903i
:☆☆☆
#172 [向日葵]
そんな椿の呼びかけにも気付かず、私はぼんやりとしていた。
次はなんだっけかなー……。
「あ、お母さんだ」
誰かが言ったので、入場門を見れば、様々な年齢層の保護者が集まり始めていた。
「そっか、保護者リレーとかなんとかあったよね」
貰った水をまたゴクゴク飲んで美嘉は言った。
保護者……。
柴が出るんだよね、確か……。
:08/04/06 16:11
:SO903i
:☆☆☆
#173 [向日葵]
[本当に分からない?]
空の言葉を思い出す。
分からないって何だろう。
柴は拗ねてたんじゃなくて、怒ってたって事?
それもきっと立川君に……。
「ただ助けてくれただけなのに」
私を取られたとか思ったのかな。
それならやっぱり拗ねてる部類だよね。
なのに空は怒ってるって言った。
:08/04/06 16:16
:SO903i
:☆☆☆
#174 [向日葵]
空を見上げれば、太陽が隠れる程の雲は無かった。
青空が広がっていて、私の中の分からないモヤモヤを拭い去ってくれるかと思ったけれど、欠片は残り、正体が分からないそれは小さくまだうずく。
そんな事を思っていると、曲が流れ出した。
いよいよ保護者リレーが始まるらしい。
位置についてる大人達の中で、どこに柴がいるか探す。
「おねーちゃん!」
「へ?あ、苺。……って1人で来たの!?」
「おかあさんがおねえちゃんのトコのほうがしばちゃんみえるよって!」
:08/04/07 01:52
:SO903i
:☆☆☆
#175 [向日葵]
一応一般はこちら側に来ちゃいけない事になってんだけど……ま、いっか。
「苺ちゃん!こんにちわ!」
「こんにちわ……」
「みかちゃん、つばきちゃんこんにちわ!」
苺は見た目の可愛さあって人気者なのだ。
確か去年もこうして来て、私の周りには苺を一目見ようと人だかりが出来たものだ。
「あ!しばちゃん!」
「え!」
苺の小さな指が差した方に、柴がいた。
:08/04/07 01:55
:SO903i
:☆☆☆
#176 [向日葵]
長めの髪は、お母さんから貰ったのか小さく縛っていて、Tシャツは肩まで捲っていた。
柴とは思えない恰好。
それに目を奪われる。
ひょろひょろしてるように見える体は、意外と筋肉質で、甘えてばかりの柔和な雰囲気はなく、背筋を伸ばして、いかにもスポーツをする男の人に見えた。
並んでる順番から言ってアンカーらしい。
多分若いからと無理矢理やらされてるんだろうけど。
そして気づく。
周りの女の子の視線が、柴にいってる事を。
:08/04/07 02:09
:SO903i
:☆☆☆
#177 [向日葵]
「ねぇ越。あの人知り合い?」
「え、あ、ウン……居候の柴って言うの……」
心ここにあらず。
適当に喋って、また私は柴を見る。
そうか、近くにいて分からなかったけど……柴はああ見えてカッコイイんだ……。
ダレていた空気が、一瞬にして変わり、代わりにピンク色へと変色するのが分かった。
「あれ誰かのお兄さんとかかなー」
「すごいカッコイイー……」
:08/04/07 02:12
:SO903i
:☆☆☆
#178 [向日葵]
アイドルみたいに、そう、例えば立川君みたいに、キャーと叫ぶような感じではなくて、ため息をつきたくなるくらいほれぼれとした感覚で皆柴を見る。
1度見たら、目をそらせない。
今、私もそんな風だ。
パァン!と乾いた音が響けば、一斉に走り出した。
そんな間も、私は柴を見ていた。
柴は一体どんな走りをするんだろう……。
先生も加わっていて、笑いが起きても、やっぱり柴に視線が集まる。
:08/04/07 02:17
:SO903i
:☆☆☆
#179 [向日葵]
「あ、次しばちゃん!」
膝に座っている苺がはしゃぐ。
走る位置についた柴は、バトンを貰う為リードを始める。
そしてバトンが手に触れた瞬間。
鳥肌が立った。
疾風のように早く、綺麗なフォームで走り出した柴。
灰色のあの瞳が鋭く光る。
息を飲んだ。
あの柴が、こんなにもカッコよく見える事に驚く。
:08/04/07 02:20
:SO903i
:☆☆☆
#180 [向日葵]
ゴールテープを切った柴に、どよめきが起こる。
そして女の子達が静かに騒ぎだす。
「わー……あたし今恋に落ちた」
「私も……」
「ってか、目が追っちゃう……」
なんだか、いてもたってもいられなくなった私は、苺を抱き上げて柴がいるだろう場所に向かう事にした。
「越?どこ行くのー?」
「ちょ、ちょっと!」
退場門の場所について、柴を探す。
:08/04/07 02:24
:SO903i
:☆☆☆
#181 [向日葵]
「あ……」
細身で長身の柴を発見した。
縛っているのが嫌なのか、髪ゴムを外しているところだった。
「しばちゃんっ!」
無邪気に苺が柴を呼ぶ。
苺に気付いた柴は、軽く汗を流しながらこちらを向いた。
その時、何故か胸がドクンと高鳴った。
柴は元の機嫌に戻ったのか、いつもの柔らかな雰囲気でこちらに近づいてくる。
さっきの柴じゃない。
分かってるけど、何故かまだ胸がドキドキしていた。
:08/04/07 02:28
:SO903i
:☆☆☆
#182 [向日葵]
側にくると、にこりと微笑んで、私の手から苺を抱き上げた。
「越、見た?俺どうだった?」
嬉しそうに言うから、いつもみたいに気軽に「カッコ良かったよ!」と言うのが恥ずかしくて言えなかった。
な、何でー……っ!?
「?越、どうかした?」
「へ?いや、な、何でも……っ?」
「顔赤くない?日焼けのせい?」
と、片手で苺を抱くと、空いてる手で私の頬に触れた。
おかしな反応をしてしまったのは、私だった。
「おぅわぁぁぁ!!」
:08/04/07 02:33
:SO903i
:☆☆☆
#183 [向日葵]
びっくりした柴はすぐに手を引っ込めて、キョトンと私を見る。
苺も瞬きを繰り返していた。
何だ……今の……。
触れられた瞬間、キューッてした……っ!
「え、越、どうかした?」
おずおず聞いてくる柴を見れば、その灰色の瞳に余計心を乱されそうな気がして、1歩1歩足を後退させていた。
「あ……、あの……私席戻らなきゃ……!」
「越!?」
:08/04/07 02:36
:SO903i
:☆☆☆
#184 [向日葵]
顔が暑い。
それは湿気のせいでも、温度のせいでもない。
全て柴のせい。
でも何で?
早足で、高鳴ったままの鼓動を聞く。
「何で」と思う度、どんどんドクドクと早まる。
両手で顔を覆う。
早くおさまってー……っ!!
「わ!越、どうしたの」
「お顔、真っ赤ですよ……」
:08/04/07 13:34
:SO903i
:☆☆☆
#185 [向日葵]
席に帰ると、一番に顔の色の事を言われた。
多分2人共、この暑さのせいと勘違いしているだろう。
だから私はその勘違いを利用する事にした。
「や、温暖化ヒドイよね!」
高速で手をパタパタして団扇代わりに顔を扇ぐ。
大丈夫、家に帰ればすぐに元通りになる筈だよ。
そう言い聞かす。
「ねぇ越、あのカッコイイお兄さんなんて名前?」
美嘉が話かけてきたので、なんとか平静を装って答える。
:08/04/07 13:39
:SO903i
:☆☆☆
#186 [向日葵]
「柴って言って、さっきも言ったみたいにうちで居候してるの」
「私……どこかであの方見た事あるんですが……。名字はなんとおっしゃいますか……?」
椿の言葉に気づいたけれど、そういえば私は柴の本当の名前を知らない。
会った時に「好きに呼べば」と言われたから、そのまま私が付けた“柴”で今日まで通ってきたけど。
「聞いたけど……忘れちゃった。今は柴ってずっと呼んでるから」
「そうですか……」
:08/04/07 13:44
:SO903i
:☆☆☆
#187 [向日葵]
今でこそ、心を開いて、笑ったり甘えたりしてくれるようになったけど、初めの方は心身共にボロボロと言った感じだったし。
本人も、あまり深い所までは追求しないで欲しそうだったから、柴の家族とか、周りの環境とかは柴が話した事以外は知らない。
柴も話さない。
「名字……かぁ……」
本当の柴を、私はまだまだ知らないんだなぁー……。
と思えば、またさっきの柴を思い出して、顔が暑くなっていった。
:08/04/07 13:49
:SO903i
:☆☆☆
#188 [向日葵]
********************
「おねえちゃんどうしたんだろうね」
越が去ってしまった後、お母さん達の元に帰って行く中、柴に抱かれている苺が聞いた。
柴も分からない。
顔が赤かったので熱でもあるのかと、顔に触れた途端変な声を出された。
少し柴はショックを受けてたりもした。
さっきまで柴は越(と言うから立川)に対して不機嫌をあらわにしていたから、それに呆れられてしまったのかましれないと思っていた。
:08/04/07 13:54
:SO903i
:☆☆☆
#189 [向日葵]
「でも……」
と柴は考え直す。
呆れていたと言うより、越は驚いていた。
何故驚かれたんだろう。
いつも朝後ろから抱きついても慣れたように接するあの越が、ただ頬に、しかも真っ正面から触れただけで驚くなんて。
考えていると、視界に苺が入ってきて、眉間に小さな手が触れる。
「しばちゃんさっきからムーッてなってる。えつおねえちゃんのこと?」
苦笑いしながら柴は1つ頷く。
:08/04/07 14:01
:SO903i
:☆☆☆
#190 [向日葵]
苺は柴の眉間を擦りながらにこりと笑う。
「しばちゃん、えつおねえちゃんがだいすきなんだね!いちごもおねえちゃんだいすき!」
苺の無邪気な笑顔に、柴はくすりと笑った。
笑いながら、苺の“好き”と自分の“好き”は違うんだけどなーとか思いながら。
それでも、何だか苺に慰められた気分になり、柴の越に対する難しい考えが緩和された。
「あ、あの!」
声をかけらるたので、柴と苺は顔を合わせてから後ろに視線をやった。
そこには越と同い年くらいの女の子が2人いて、何か言いたげにこちらを見つめていた。
柴は「何?」と言う風に首を傾げると、1人の女の子が驚く事を行った。
:08/04/08 01:01
:SO903i
:☆☆☆
#191 [向日葵]
「一目惚れしました!付き合って下さい……っ!」
柴は瞬きを繰り返した。
一目惚れ?
今?早すぎない?
いやそれが一目惚れか。
「しばちゃん、ヒトメボレってなぁに?」
意味が分かってない苺は柴に聞く。
それを今この子の前でしては可哀想と思い、苺の質問はスルーした。
「……えっと、ごめんけど好きな子いるから……」
女の子は目を見開くと、涙を溜めてうつ向いた。
:08/04/08 01:05
:SO903i
:☆☆☆
#192 [向日葵]
「そうですか……すいません突然……」
それだけ言って、付き添いであろうもう1人の女の子と共に去って行ってしまった。
「しばちゃぁん、ヒトメボレってなぁーにー?」
襟元をグイグイ引っ張りながらしつこく聞いてくる苺に「ハイハイ」と答えてから、柴は苺に分かりやすく説明しながら歩いて行った。
******************
「うわぁぁ……っ!」
体育祭の歓声や、応援合戦の騒ぎの中、違う音を聞いた私はふとそちらに振り向いた。
:08/04/08 01:10
:SO903i
:☆☆☆
#193 [向日葵]
そこには顔を両手で覆った女の子と、なだめているような女の子がいた。
どうやら片方の人は泣いてるみたいだ。
どうかしたのかな……。
「あ、男子スウェーデンだよ!」
美嘉の声に、その子達からは視線を外し、グラウンドに向ける。
男子が入場して来た途端、女の子達の黄色い声が。
何故なら立川君がいるからだ。
今だけクラス別なんて忘れてるみたい。
「立川くーん!」
「頑張ってー!!」
:08/04/08 01:16
:SO903i
:☆☆☆
#194 [向日葵]
「すごい人気ですね……」
椿が呟く。
確かに。
上級生から下級生、そして同級生。
これだけ女の子から人気があるにも関わらず、男子からも慕われている。
神だね。
立川君はきっと神だよ。
「いや菩薩様……?」
「ボサツ?」
私の呟きを聞いた美嘉が片眉を寄せて聞き返す。
「や、何でも」
:08/04/08 01:20
:SO903i
:☆☆☆
#195 [向日葵]
スウェーデンは惜しくも2位だった。
それでも立川君がいるので特に文句を言う人もいなく、爽やかに労いの言葉を皆かけていた。
「神田さん」
立川君に呼ばれたので、目で応じると、手招きしてちょっと離れた所まで連れていかれた。
なんだろうと立川君を見つめると、立川君は私の足を見つめてから口を開いた。
「次、学年種目、止めておいた方がよくないですか?」
どうやら午前中に負った怪我を心配してくれてるみたいだ。
:08/04/08 01:25
:SO903i
:☆☆☆
#196 [向日葵]
多分ここへ連れて来たのも、私が皆の目を気にしているから気を遣ってくれたのだろう。
「大丈夫!もう痛くないから!」
にこっと笑って、「ホラ!」と怪我した方の足を思いきり地面を踏むようにすれば、さすがにやり過ぎたか、痛みを忘れていた傷が復活してじわぁーと頭まで伝わってきた。
笑っていた顔が少し引きつる。
そんな私を、不安そうにして無言で立川君は見つめる。
それに答えるように何度も足を踏みならす。
:08/04/08 01:34
:SO903i
:☆☆☆
#197 [向日葵]
あ……なんか今明らかに傷が開いた音したぞ……。
「た、立川君心配症だよ。ホント大丈夫だから!」
それ以上見られたりすれば、痛いのがバレてしまいそうなので、逃げるように立川君の元から駆け出した。
頑張らなきゃいけないのに弱音吐いてる場合じゃないと自分に言いきかせ、奮いたたせる。
「……そんな神田さんだから、僕は心配症にもなっちゃうんですよ」
そう言った立川君の呟きは、痛みをかき消そうとしている私の耳に届く事は無かった。
:08/04/11 00:33
:SO903i
:☆☆☆
#198 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と言う訳で、2年生学年種目綱引きトーナメントが始まった。
本当は予選をやってからなんだけど、昨日の予行でそれは済んでしまったのでいきなりトーナメントから入ったのだ。
とは言うものの、私達のチームは負けているので今からは3位決定戦。
これに負けたらB組の得点は無しになる。
だから皆は「せめて3位を!」と闘志を燃やしていた。
皆盛り上がっている時、私は落ち着かなかった。
足が気になって仕方なかったからだ。
:08/04/11 00:38
:SO903i
:☆☆☆
#199 [向日葵]
あんなに激しく踏み鳴らさなかったら良かったと今更ながら後悔していた。
足をモジモジさせていながら周りに視線をやると、立川君がこっちを見ている事に気づきギクリとした。
内心鳴りもしない口笛を吹いてる気分で、足がどうもない事を装い美嘉に話しかけた。
「もう少しで体育祭終わっちゃうね」
「寂しいよー……美嘉の祭がぁぁ……」
せっかく綱引き頑張ろうと盛り上がっていた美嘉を落ちこませてしまった私はオロオロした。
:08/04/11 00:42
:SO903i
:☆☆☆
#200 [向日葵]
「ら、来年もあるし、今は今で楽しもうよ!ね?」
「違う……違うの越!!それだけじゃない!体育祭終わったらまた勉強の日々!あの校舎全体が活気に満ちてる雰囲気が無くなるのが嫌なの!」
美嘉の熱弁に若干引きながらも、その気持ちはよく分かった。
走り回ったり、旗を作ったり、どうやって応援するか考えたり……。
そんな楽しみが無くなれば、学校は元の静けさを取り戻していく。
それが手に取るように分かるから、体育祭が終わるだけが寂しいんじゃないと美嘉は言うのだ。
:08/04/11 00:47
:SO903i
:☆☆☆
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