*柴日記*
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#600 [向日葵]
しばらく口を開けたまま固まった祐子は、「ありえない」と頭を振り、自転車を進ませた。

それに神田一朗はついてくる。

「森下さん、どうしたの?」

「お前は宇宙人か。あたしを好き?馬鹿もやすみやすみ言え。それと寝言は寝てから言え」

「馬鹿な事でもないし、寝言でもないよ。本気の気持ち」

それがおかしい。

「そんな事言ってないで、大好きな本でも読みあさってろよ」

「僕は本気だっ!」

いきなり大声を出されたので、びっくりした祐子は足を地面につけながらよろける。

⏰:08/09/16 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#601 [向日葵]
神田一朗の方を見れば、なかなか信じてくれない祐子に少々腹をたててるようだった。
しかし、祐子からしてみればあまり怒っている風には見えず、どちらかと言えば拗ねてるように見える。

祐子は彼の額に指を弾いて当てる。
急に攻撃された彼は小さく「痛っ」と言って額に手を当てる。

「何考えてるか分かんねぇけど、冷静に考えてみれば分かる。お前は普通の人間。あたしは問題児。どう見られるか分かるだろ。分かったなら、二度と話かけるな」

それだけ言うと、祐子は自転車を走らせる。

もう、神田一朗は追って来なかった。

⏰:08/09/16 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#602 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただいまー」

帰ってくればいい香りが祐子の鼻をくすぐる。

そしてフリフリなエプロンを着ておたまを持った祐子の母が祐子を迎える。

「おかえり祐子ちゃぁんっ!今日は祐子ちゃんがだぁい好きなハンバーグよっ」

「あのさママ……いつも思うけどそのエプロンどうなの……」

すると母は可愛らしく頬を膨らませる。

「んもうっ。ママじゃなくて翠(ミドリ)ちゃんって呼んでって言ってるじゃなぁいっ!」

⏰:08/09/16 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#603 [向日葵]
母が嫌いな訳ではない。
むしろ好きだし、尊敬するが、この少々ぶりっこが入った母の血が自分の体のどこを通っているか不思議で仕方ない祐子だ。

「早く着替えてらっしゃい。あ、そういうば今日喧嘩しなかったのね。良かったわ、これ以上女の子に傷がついたら翠悲しいんだからぁっ」

そういえば、神田一朗もそんな事を言ってたなと思い出す。
彼の事を思い出せば、帰りの事も思い出す。

「ママ……じゃない。翠ちゃん。今日あたし告白されちまったよ」

「え!本当に!?やっだぁ早くその子連れて来てぇっ!翠会いたいわぁっ!」

⏰:08/09/16 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#604 [向日葵]
「やだな翠ちゃん。連れて来るわけないっしょ。それ以前に、本気じゃなさそうだもん」

「また祐子ちゃんはぁっ!そんなの分からないでしょぉっ!?」

少し怒ったように、上目遣いで祐子を睨む。
神田一朗もこんな目してたっけ……。
やっぱり、本気じゃなさそう……。

きっと自分のような問題児が珍しいのだろうと思いながら、祐子は自分の部屋へと向かっていく。

「あ、今日、圭ちゃん遅くなるんだって!先にご飯食べちゃいましょー」

圭ちゃんとは、祐子の父、圭司(ケイジ)の事。

⏰:08/09/16 01:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#605 [向日葵]
あんな筋肉ムキムキな父が果たして圭ちゃんと呼ばれていいのだろうかと祐子は遠い目をした。

着替えが済んだ祐子は下へ向かいテーブルに並べられた夕飯に目を光らす。

「たっくさん食べてね。翠、いーっぱい作ったから」

「うん。いただきまっす!」

空腹は最大の調味料。
体の芯まで味が染み渡っていく。

満足気な顔でご飯を頬張る祐子を見て、翠は微笑む。
そして正面に座る。

「で、祐子ちゃん、その子どんな子?」

「その子?」

「んもうっ、しらばっくれちゃって。好きって言ってくれた子よぅっ」

どんな子……。

神田一朗の事を思い浮かべる。

⏰:08/09/18 02:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#606 [向日葵]
ふにゃふにゃしててアハハと笑いながら頭をポリポリかいてる姿が目に浮かぶ。

「……なよっちくて、変人……。いや、宇宙人……?」

「まぁ宇宙人だなんてっ。祐子ちゃんにとっては珍しく気になっちゃってるのねっ」

「え、何言ってるの」

あの宇宙人を何故気にしなくちゃならないと祐子は眉間にシワを寄せる。

出来れば関わりたくないタイプなのに気になるだなんてとんでもない。

「……ママ」

「“翠ちゃん”っ」

⏰:08/09/18 02:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#607 [向日葵]
どっちでもいいだろうに……。

「翠ちゃん達はいつ知り合ったの?」

訊けば翠は頬をポッと赤く染めてモジモジしだした。

「16歳の時、圭ちゃんがね、女の子に囲まれてる翠を助けてくれたの」

翠は指を組んでキラキラした目で宙を見つめた。
その時の父を思い浮かべ、もう1度恋に落ちるかのように。

「スーパーマンだって思ったわ!だって赤いマントが見えたものっ!」

幻覚だと言いたいのをぐっとこらえる。

「今と変わらず大きな体で必死に庇ってくれる姿に、翠は運命を感じたのっ」

⏰:08/09/18 02:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#608 [向日葵]
聞くんじゃなかったと後悔する。

翠には少々……いやだいぶ、乙女チックな所がある。
そう思えば、自分は父の似たのだなと祐子は思った。

守られるだなんてとんでもない。
守られるぐらいなら守ってやる。

ふと、あのたれ目を余計にたらして笑う神田一朗を思い浮かべる。

あれはどう見たって、守ってやらなくちゃいけないタイプだ。

――――――――…………

爽やかな朝。
あくびをしながら祐子は学校へ向かっていた。

⏰:08/09/18 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#609 [向日葵]
今日は数学のハゲチャビンの日か……。
屋上で昼寝でもしようかね……。

校門が見え、祐子の姿を見た一般生徒達は半径2メートルは離れて行動する。
いつもの場所に自転車をガシャンと置いただけでその場にいた人はそそくさと去っていく。

祐子には日常茶飯事なので、我関せずといった風にカゴから鞄を取り出す。
くるりと方向転換する。

「おはよう」

思わずぶつかりそうになる。
そこにいたのは神田一朗だった。祐子はわざとらしくため息を吐く。

「なんだよ。今日は足骨折でもしたか?」

⏰:08/09/18 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#610 [向日葵]
「荷物扱いされるつめりはないから気にしないで」

にっこり笑う。
祐子は無視して歩き出す。
彼は後を追ってくる。
早歩きしてもなんなく付いてくる。

祐子のこめかみに、青筋が浮き出る。

「なんだよお前よぉっ!」

振り返って彼に怒鳴る。

片目を瞑ってそれをやり過ごす彼は、ずずいっと近づいてきた。

「考えたんだ」

「は?」

「君がいったんだよ。冷静に考えてみろってさ」

⏰:08/09/18 03:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#611 [向日葵]
言ったような言ってないような……。

祐子は自分が言った事を忘却の彼方にやってしまっていた。

半目で神田一朗を睨む。
彼は涼しい顔で受け流す。

「僕が普通だろうが、君が問題児だろうが関係ない。僕は森下祐子さんを好きになったんだ。これが答え。合格はもらえる?」

祐子は顔が熱くなると共に足から順番に鳥肌が立っていくのが分かって身震いしながら数歩後ずさる。

「う、宇宙人……っ!寒い事言ってんじゃねぇぞっ!」

「寒い?僕はただ本音を……」

「黙れっ!」

⏰:08/09/18 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#612 [向日葵]
なんでこんなに心をかき乱されなくちゃならないのかと腹が立って、鞄で彼の胸辺りを殴る。

反動でカシャンと彼の眼鏡が落ちる。
彼が取ろうとする前に、祐子はその眼鏡を勢いよく踏む。
呆気ない音と共に、眼鏡は粉々になった。

さすがにやり過ぎたかと罪悪感を感じるが、全て彼が悪いと思えばそれも薄れた。

「これで私が見えないだろ。それでいい」

ならこんな風に追いかけられる事もない。

「じゃあな」

珍しく後味が悪いと思いながら、教室には行く気にはなれなかった祐子はそのまま屋上へと向かう。

⏰:08/09/18 03:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#613 [向日葵]
ひとまずアンカーしておきます

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700

⏰:08/09/20 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#614 [向日葵]
―――――――――…………

粉々になった眼鏡を拾いながら一朗はため息をつく。

彼女がそこまで自分を拒絶するのは何故なのだろうか。

粉々になった眼鏡同様、一朗の祐子に対する気持ちも粉々になりそうだった。

眼鏡を壊されても怒る気にはならない。
そうやって感情をぶつけてくれると言うのはまだ自分は眼中にあるからだ。

だからこそ、気持ちを理由もなく受け取ってくれない彼女対し、へこみつつある一朗だった。

「――……たは?」

⏰:08/09/20 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#615 [向日葵]
>>610

誤]つめり
正]つもり

⏰:08/09/20 02:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#616 [向日葵]
話し声が聞こえたのでその方を見る。と言っても、彼のただ今の視界は水の中にいるようにぼやぼやしている。
分かるのはなんとなくそこに人がいるという事だけだ。

「さっき屋上に行った……」

「よし……行くぞ、この間の復讐……」

途切れ途切れにしか聞こえないが、誰かに喧嘩を売りに行くのだと言う事は分かった。
それもただの口喧嘩ではないらしい。
声からして計画を企てているのは女の子だろう。

女の子がそんな事しなくてもいいのに……と一朗は思う。

「いやー……女って恐ぇーなぁ……」

⏰:08/09/20 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#617 [向日葵]
「坂上?」

友人の声に反応する。
気づけば隣にいた。この距離なら見えなくもない。

「寄ってたかって暴行計画とは、穏やかじゃないねー。あれ、お前眼鏡は?」

粉砕した眼鏡を乗せた掌を見せると友人は納得したように頷く。
おそらく一朗がドジをしたとでも思っているのだろう。

「でもさ、あの女子達、絶対返り討ちになるよな。なんてったって、相手は学校の鬼神だかんなぁー」

呑気に言って去ろうとする友人の肩を一朗は勢いよく掴む。

「それって、森下さん?」

「ん?あぁそうだけど?」

⏰:08/09/20 02:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#618 [向日葵]
それを聞くなり、一朗は駆け出した。

―――――――――…………

「ぃえっくしっ!」

なんともおっさんくさいクシャミをしながら祐子は屋上で寝そべっている。
しかしさっきから寒気がして仕方ない。

ついに誰かから呪われ始めたか?と心の中で笑っていると、また派手にクシャミをする。

あぁ寒い……。
やっぱり冬に屋上に出るものじゃないな……。

別の場所に移ろうと、半身を起こした時、屋上のドアが開く。

⏰:08/09/20 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#619 [向日葵]
「ん?」と振り向けば、見た事ある4人組が立っていた。

「あれま先輩方、怪我はすっかり治ったみたいっすね」

にやりと余裕の笑みを浮かべる裕子に、この間こてんぱんにやられた4人は歯ぎしりする。

「あんなの怪我のうちにはいんねぇよ」

「で、何の用です?」

立ち上がりながら祐子は訊いた。

「リベンジいつでも受けるっつっただろ。正にそれだよ」

「今度はいい勝負になるといいんですけど……。ちゃんと腕あげてきたのか?」

⏰:08/09/20 02:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#620 [向日葵]
「へっ!身をもって体験しやがれっ!」

4人いっぺんに祐子に飛びかかる。
ゆっくり身構えて、相手がまずどう出るかを目で微かに捕らえてまず何をお見舞いするかすぐさま考える。

避けて回し蹴りが有効そうだと考え、実行に移すため避けた時だった。

「いけませーんっ!!」

そこにいた5人はピタッとそのままの体勢で静止する。

この……迫力の無い声は……。

振り向けば、ドア付近に息を切らした神田一朗がいた。

⏰:08/09/20 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#621 [向日葵]
「お前……」

祐子は頭痛を覚えて額に手を当てる。
他の4人はポカンとしていた。

「前も言ったじゃないか森下さんっ!女の子が顔に怪我したら大変なんだよっ!」

ピリッとしていた空気がまるで砂のようにさらさら呆気なく去っていくのが分かる。
変わりにぽけぽけした空気に支配されていく。

「お前は今さっきの私の行動を全く反省してな……あれ、お前眼鏡……」

粉砕したはずの眼鏡を彼はかけていた。

「スペアだよ。ホラ僕ドジだから持っておかないとダメでしょ」

⏰:08/09/20 02:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#622 [向日葵]
神田一朗の空気に流されそうになってハッと気づいた祐子はかぶりを振る。

「ってかあたしの事にいちいち首突っ込むなっ!」

「好きだから突っ込みたくもなるよ。ホラ帰ろう」

と神田一朗は祐子の手を取る。
そして目を軽く見開く。

「森下さん……熱ある?」

眉を寄せた祐子はまたクシャミをする。

さっきからのクシャミや寒気はそれで?こんな丈夫な体が?

自覚した途端、頭がくらくらしてきた。

⏰:08/09/20 02:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#623 [向日葵]
それを聞いた4人もさっきの気分を取り戻しす。

「熱ならなおのこと都合いいじゃねえか。そこの彼氏共々ボコボコにしてやんよ」

「彼氏じゃねぇし」

くらくらしながらもしゃんと立っている祐子は神田一朗を背に庇い4人に向き直る。
それを神田一朗はのけさせようとする。

「森下さん、今日は駄目っ」

「うっさい、アンタ弱いんだからさっさと帰れっ!」

その言葉に、神田一朗は目をパチパチさせた。

「僕弱くはないと思うよ」

⏰:08/09/20 02:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#624 [向日葵]
そう言うと、祐子の前に進み出て、そのまま4人の所まで平然と歩いていく。
祐子は驚いて止めようとするが声が出ない。

「先輩方、喧嘩はよしませんか?」

神田一朗はにっこり笑って言う。

「なよっちい奴は……ひっこんでなっ!」

言葉と共に繰り出された拳を、神田一朗はひらりとかわし、ひね上げ、動けないようにする。

「ね?森下さん体調不良ですし」

笑って喋りながら、近くで呆けていた1人を足払いでこかす。
あとの2人は目だけで威嚇する。

⏰:08/09/20 02:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#625 [向日葵]
笑っているのに、目からは冬の寒さよりも冷たい空気が流れてきて、4人はもう固まるしかなく、遠くにいた祐子もなんとも言えない表情をして固まっていた。

「わ、分かった!今日は止めるから放しやがれっ!」

パッとひねり上げていた手を解放すると、彼はまたにっこりと笑う。

「ありがとうございます」

野生の本能で分かる、この人には敵わないと言う雰囲気に、4人は押され、そのままそそくさと帰る。

祐子はそれを呆然と見送ってから、神田一朗を見る。

「ね、弱くないでしょ?」

⏰:08/09/20 03:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#626 [向日葵]
「……どうしてついて来るんだ……。あたしはお前がうっとおしいっつっただろ……」

「何回も言ってるじゃないか。僕は君が好きなの」

「だからあたしは……」

「ねぇ森下さん」

彼は祐子の言葉を遮る。

「森下さんは僕の事や、自分の周りからの評価でしか僕の事を拒否してない。でも僕が求めてるのはそんなのじゃなく、森下さん自身の気持ちが知りたいんだ」

真剣に言われてしまえば、ここから去ってしまいたい程恥ずかしい。
考えれば考える程頭が熱くなっていく。

⏰:08/09/20 03:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#627 [向日葵]
そして忘れていた。

熱があった事。

視界が真っ暗になる。

「あ、森下さんっ!」

彼の声を最後に、祐子は意識を手放した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

学校のチャイムが聞こえた気がした。

額にひやりとした物が乗せられているのが分かる。
暖かい物にくるまれているのも分かる。

体がダルい……。
そう思いながらも目を開ける。

⏰:08/09/20 03:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#628 [向日葵]
*アンカー*

>>613

*感想板*

>>319

⏰:08/09/20 03:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#629 [向日葵]
>>614

誤]彼女対し
正]彼女に対し

⏰:08/09/20 03:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#630 [向日葵]
>>623

誤]取り戻しす
正]取り戻す

⏰:08/09/20 03:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#631 [向日葵]
急な光に眩しいと思いながら周りを見渡す。

「……保健室?」

「そうだよ」

シャッとカーテンが開いたと思えば、そこに神田一朗が立っていた。

「風邪らしくって、熱が38度もあったんだ。家の方に電話してきた所だから、もう少し寝てていいよ」

ベッドのそばにある椅子に神田一朗は座る。
そしてあのたれ目がちな目で優しく祐子を見つめる。
祐子は落ち着かなくてそわそわしだす。

「森下さんって軽いよね。喧嘩強いから筋肉もついてるかと思ったけど柔らかいし」

⏰:08/09/25 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#632 [向日葵]
ここにいると言う事は神田一朗が運んだからだろう。
そしてその持ち上げた感想を聞かされ、祐子は顔を赤くする。

「だから……っ、何が言いたい……っ」

神田一朗はゆっくりと手を伸ばすと、祐子の髪に触れ優しく撫でる。
その柔らかな手つきに、祐子の胸は跳ね上がる。

「女の子だからって言うのもあるけど、僕にとっては森下さんは特別な女の子だからね、自分で自分の身を守るんじゃなくって、僕が守ってあげたいと思うんだ」

決意表明かのように、まっすぐに祐子を見つめ、そう言う。
ギュッと目を瞑りたい衝動に祐子はかられる。

⏰:08/09/25 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#633 [向日葵]
[女の子に囲まれてる翠を助けてくれたの]

あぁ、これじゃ両親と同じではないか。
ゆくゆくは恋愛?そして結婚?
なんとも馬鹿馬鹿しい……。

そう思っていても、この優しい綺麗な手をはねつけれない祐子だ。
それどころか心地よくて眠気すら感じる。
でもそれは熱のせいだという事にする。

「祐子……」

「ん?」

「森下さんなんて痒い呼び方するな。呼ぶなら下の名前で呼べばいい……」

⏰:08/09/25 01:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#634 [向日葵]
一層笑みを深くする神田一朗。
息をするのを忘れてしまいそうになる。

「僕も一朗でいいよ。祐子さん」

下の名前だと、余計に痒くなってしまった。

――――――――
―――――――――――……

若かったんだなあたし……。

食事も終わり、食後の一服と煙草をくわえながら祐子は思う。

あんなにうろたえなくても良かっただろうに。

それは仕方のない事なのだ。
喧嘩しかなかった毎日に突然舞い降りたロマンス。
慣れれる訳がない。

⏰:08/09/25 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#635 [向日葵]
結婚だってするとは思ってもみなかったのも本音だ。

一朗は思ったよりもずっと強引で、しつこかった。

――――――――
―――――――――――……

「祐子さん、一緒帰らない?」

「なんでお前と……」

3年にもなんとかあがれた祐子は、相変わらず一朗に追いかけられていた。
それはもう忠犬としか言いようがないくらい、毎時間、毎日……。

しかし祐子は、段々と自分の気持ちを自覚しつつある為、前のように強く拒否出来ないでいた。

⏰:08/09/25 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#636 [向日葵]
それにもまた困ったし、戸惑っていた。

「まさかまた喧嘩?」

ずずいと顔を近づけるものだから、祐子はびくっとしながら数歩素早く後ずさる。

「あ、あたしが喧嘩しようが何しようが自由だろっ!それに喧嘩じゃない!母親に頼まれてる事があんだよっ!」

「なぁんだ買い物か。じゃあ一緒に行こっかぁっ」

と突然手を握り指を絡めるものだから祐子は更にうろたえる。

「だからついてくんなぁぁぁっ!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

頼まれていたものとは、翠が趣味としているお菓子作りの為の材料だった。

⏰:08/09/25 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#637 [向日葵]
「祐子さんは料理しないの?」

「出来なくはない。でもめんどくさい」

ポイポイと頼まれてる材料をカゴに入れながら祐子は答える。
すると一朗が「んー」と唸ったので、片眉を上げて振り向く。

「なんだよ」

「不味くはないんだよね?」

「だから出来なくはないって……」

「じゃあお弁当作ってよ」

口をポカンと開けて一朗を見る。
一朗は目を輝かせたまま祐子を見る。

⏰:08/09/25 01:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#638 [向日葵]
「……誰が誰に何で」

訊きたい事をいっぺんに詰め込み訊く。

「祐子さんが、僕に。食べたいからっ。なんかそりゃ好きな人の手料理って食べたいし」

恥ずかし気もなく“好きな人”だなんて言うから祐子は背筋がゾワッとしながらも耳が熱くなるのを感じる。

「めんどくさいっつったろっ!」

「そう言いながら作ってくれるんだよね祐子さんは。前だって調理実習のカップケーキくれたしっ」

くれ、とせがまれていたが、祐子は嫌だと言っていた。
しかし本当にくれないと分かればしょんぼりするのが一朗なので、可哀想だと思って前はやったが……。

⏰:08/09/25 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#639 [向日葵]
「あれはあまりがあったからだ!そうでなきゃなんでお前にやらなきゃならんっ!」

「分かったよ。そこまで否定しなくてもいいじゃない」

苦笑いを浮かべて、一朗は祐子の持っているカゴを持つ。

取り返そうとするも、また手を握られる。
思わず固まる。
これではまるで恋人同士。
顔が熱いのなんて気づかないフリをする。
一朗は何とも思わないみたいに歩く。
それを見るとなんだか腹が立ってくる。

どうしてここまで振り回されなきゃならない……。

祐子に反発心が芽生える。
主導権を握られるのは好きじゃない。

手だってなんだか汗をかいてるみたいだし……。

⏰:08/09/28 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#640 [向日葵]
買い物を終え、自転車のカゴに荷物を入れて、ハンドルを握ると、その上から長い指をそなえた手が被さる。

「――っ、なにっ!」

「暗くなるから送るよ。毎日送らせてくれずに自転車で逃げるように帰っちゃうからちょっと不愉快だったんだよね」

不愉快って……。

にっこりと、トゲを刺してくる一朗に、苦虫を噛み潰したような顔をする祐子。
有無を言わさず、後ろに乗せられ、一朗と2人乗りで帰る事になった。

沈みかけの夕日が、なんとも幻想的で綺麗だった。

⏰:08/09/28 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#641 [向日葵]
それも、今までで1番綺麗な気がする。

そう思うのは、どうしてだろう……。

握られたり、重ねられたりする自分の手をそっと撫でる。
自分の手が、彼の手のように綺麗になったように感じる。
自転車で進む度ふわりと吹いてくる風が心地よい。
その度、祐子の少しウェーブがかった髪もふわりとする。

ぼんやりと過ぎ行く景色を見ていたら、一朗から口笛が聞こえてくる。

「さて、なんでしょう」

その問いに、祐子は口の中でさっきのメロディを繰り返す。

⏰:08/09/28 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#642 [向日葵]
「……赤とんぼ?」

「正解っ」

そう言うと一朗は今度は口ずさむ。
その声に、祐子は耳を傾ける。

「その歌って、寂しい感じがする……」

ぼんやりと祐子は言う。
一朗は「そう?」と訊き返し、祐子の返事を待つ為に歌うのを止めた。

「夕焼けって寂しいイメージがする。そこに1匹だけ赤とんぼが飛んでる気がする。それってなんだかすごく……切ない」

夕日が嫌いなんじゃない。
さっきも思ったように綺麗だと感じるし、むしろ好きだ。

⏰:08/09/28 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#643 [向日葵]
ただ、祐子は教室で1人ぼっちでいる自分と、赤とんぼのイメージを重ねていた。
どこか、孤独な、その様を……。

「……祐子さん、僕がいるよ」

「は……?」

「寂しくないよ。僕がいるから」

「だ、誰が寂しいなんて言った……っ。あ、あたしはただ、そんなイメージがって……」

「うん……」

納得したのか、それとも適当に頷いたかは分からない。
ただ、彼は祐子の思いを感じ取ったようだった。

⏰:08/09/28 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#644 [向日葵]
心に、無遠慮に侵入してくる……。
居心地が悪くないのがまた困る。言うんじゃなかった……。

「なぁ神田」

「一朗でいいよ」

「かーんーだ」

意地でも呼びたくないと思い、一朗の言葉を無視する。
クスクス笑う一朗は「何?」と言う。

「手を握ったりするをやめてくれないか?」

「どうして?」

「…………手汗をかくから」

大した理由が浮かばない。
本当は恥ずかしいなんて絶対に言いたくない。
何故か、一朗の好きだと言う態度には反抗したくなる。

⏰:08/09/28 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#645 [向日葵]
「緊張するって事?」

「じゃない」

一朗はただクスクス笑う。
こっちの考えを見透かされているみたいで、祐子は居心地が悪くなる。

「やめてくれない?そうやって何でも分かった風に振る舞うの」

「だって祐子さんは分かりやすいから」

「何それ。単純馬鹿って言いたいのかよ」

「素直で可愛いって事」

そんな風に言う一朗ね背中を拳で叩く。
「痛い痛い」と、さほど痛くなさそうな声を出して、また笑う一朗。

⏰:08/10/04 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#646 [向日葵]
居心地が悪い。
ムカつく。
寒いやつ。

そう思うのに、そばにいる事を許している自分はなんなのだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あらあらあら!まぁまぁまぁ!」

翠がたまたま外へ出てくるのと、祐子を乗せた一朗が家に着くのとは同時だった。

祐子は頭を抱えてうなだれる。

この事態だけは避けておきたかった……。

案の定、翠は興奮に頬を紅潮させ目をキラキラさせる。

⏰:08/10/04 00:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#647 [向日葵]
一朗は祐子が怪我しないようゆっくりとブレーキをかけて止まる。祐子をおろし、自分もおりると、翠に向き直りにっこり笑う。

「初めまして。神田一朗です。祐子さんをお送りさせて頂きたくて、やって来ました」

「あらあらご丁寧に。祐子ちゃんのママの翠です」

「挨拶しなくていいからっ!ホラママ」

「翠ちゃんっ!」

「……翠ちゃん、家に入ろう」

翠は口を尖らせて祐子のそばをすり抜けると、一朗の前に行く。
そして一朗に負けないくらいにっこり笑う。

⏰:08/10/04 00:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#648 [向日葵]
「一朗君、ビーフシチューは好きかしら?祐子ちゃんを送ってくれたお礼をしたいのだけど、食べていかない?」

「ち、ちょっと翠ちゃんっ!」

こんな居心地が良いような悪いような訳の分からない気持ちにさせられる奴と食事をするなんて嫌だと思った。

せっかくの美味しい料理すら味が分からなくなる。

「好きです。邪魔にならないのでしたら、お言葉に甘えたいです」

「お前も何言ってんだよ!」

「じゃあ決まりね」

「あたしを無視するなぁぁっ!」

⏰:08/10/04 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#649 [向日葵]
結局、同じような空気をもつ2人には勝てず、渋々祐子は一朗を招き入れる事を承諾した。

「着替えてくる」

「手伝おうか?」

「殴られたいのか」

「簡単には殴られないよ」

真実なのでイラッとした祐子は口を真一文字にキュッと引っ張り足を鳴らして階段を上がっていった。
そんな姿を一朗は見てクスリと笑う。

「一朗君、好きな場所に座って」

いつにもましてルンルンな翠は、そう言いながらいつも祐子が座る場所の隣をさりげなく勧める。

⏰:08/10/04 00:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#650 [向日葵]
それを一朗は知らないので、勧められるがままに座る。

「ありがとうございます」

翠は笑顔で返す。
そしてソワソワするので、一朗は翠に問う。

「どうか、なさいましたか?」

「あなた、祐子ちゃんが好きなのよね?」

「ハイ。とても」

恥ずかしがるわけもなく、一朗はそう答える。
翠は更に興奮し、「キャー!」と軽い叫び声をあげる。

「素敵!私あなたなら祐子ちゃんをお嫁にあげてもいいわっ」

「それは光栄です」

⏰:08/10/04 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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