*柴日記*
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#662 [向日葵]
―――――次の日。

祐子のもつ、あのとげとげした雰囲気が時が経つにつれマシになっていったということで、3年になってからは人が祐子に喋りかけてくれるようになった。

少し戸惑う祐子に、周りの誤解は晴れていき、そんな祐子を慕って暮れることに祐子自身も嬉しかった。

今日もそんな気分で学校へ来た祐子だが、家を出た時から緊張の為心臓が早鐘を打ちっぱなしだった。
教室についてから、鞄を机に置きそれをじっと見つめる。

「甘いな……あたし……」

呟くように言う。

実は、鞄の中には一朗リクエストであるお弁当が入っているのだ。

⏰:08/10/09 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#663 [向日葵]
早起きして作ったものだから、いつも早起きな翠とばったり会い、「誰に?」などとニヤニヤしながらわざとらしく訊くものだから、「うるさいっ!」と怒号してしまった。
しかしそれで翠が怯む訳もなく、お弁当を作る祐子の周りをちょこまか動くから、祐子はせっかく作ったお弁当がちゃんと美味しく出来ているかが心配だった。

そしてそこでハッとする。

何気に自分がお弁当作りに気合いを入れてしまっている。

美味しくなくてもいいじゃないか。
美味しくなければ一朗はもうお弁当を作ってくれなどと言わないし、祐子も面倒な事をしなくていい。

⏰:08/10/09 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#664 [向日葵]
いやしかし、やるからにはちゃんとやらなければ気がすまないと言うか……。

段々自分が何をしたいかが分からなくなってきた祐子は、机に突っ伏す。

この頃自分はどうしたんだろう……。

「森下さん」

クラスの女子が話かけてきたので祐子は顔を上げる。
「何?」と訊けば、戸口らへんを指差して「呼んでるよ」と言われた。

見ればそこに男子が立っていた。見た事がある。
確か一朗の友達で、「坂上」とかいった。

⏰:08/10/09 01:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#665 [向日葵]
何の用だろうと首を傾げつつ、祐子は坂上の元へと行った。

「おはよう」

礼儀正しく挨拶してくれる。

「おはよ。何?」

「ちょっといい?廊下出てよ」

いぶかしげな顔をして、祐子は導かれるままに廊下へ出た。

向き合うように立った坂上は、少し睨むように祐子を見る。

「いい加減、一朗を解放してやってくんないかな」

耳を疑う。
眉根を寄せて、上目遣いで坂上を睨む返す。

⏰:08/10/09 01:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#666 [向日葵]
「……は?何が?なんだよ解放って」

「アイツの家は、代々医者にならなくちゃならない。だからお前と遊んでる暇はない。だから早く解放してやってくれと言ってる」

初めて聞いた祐子は驚きを隠せなかったが、まるで自分が一朗を玩具が如く連れ回しているみたいな言い方をされて、こめかみ辺りに青筋が浮かぶ。

「そんなの本人に言えよ。あたしはアイツを束縛してるつもりはない」

「アンタにはなくても一朗はそれで迷惑してるんじゃないのか?それに一朗には、恋人がちゃんといる」

は……?

もう何がなんだか分からなくなってきた。

恋人?
そんな人見た事も聞いた事もない。

⏰:08/10/09 01:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#667 [向日葵]
坂上はわざとらしくため息を吐く。

「俺ははっきり言って、早く一朗がアンタから離れるよう願ってたよ。なんてったって、アンタはそんなだ」

“そんなだ”

たった4文字の言葉に、明らかに馬鹿にした気持ちが入っているのが分かった祐子は、怒りに握った拳を震わす一方で、泣きたくなった。

どうして……こんな事言われなくちゃならないんだ……。

悔しい。
どうして殴れない?
いつもみたいに、言い返せない?

⏰:08/10/09 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#668 [向日葵]
耳の奥で、迫力ない声が聞こえる。

“女の子が喧嘩しちゃ駄目っ!”

「分かったなら、もうつきまとわないでくれよな」

どいつもこいつも好き勝手言って。
あたしはあたしだ。
自分が思ったように行動するだけだ。

そこで祐子は気づいた。
一朗の事を、一朗の気持ちを、分かろうとしたくなかったのは、自分らしくなくなっていってるのを感じたからだ。

しかし恋人がいた?
じゃあ彼は祐子をからかっていただけなのだろうか?

⏰:08/10/09 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#669 [向日葵]
それなら、一朗の気持ちを分かろうとしないでいい。

私は……私だ。

「待てよ……」

祐子は坂上を呼び止めた。
坂上は眉を寄せて祐子の方を向こうとした。
しかし、その瞬間、横っ面に激痛が走る。
目がチカチカして立っていられず、坂上は尻餅をついた。

祐子は殴り飛ばした、拳を突き出したままの状態ままで静止していた。
そしてゆっくりとその腕を下ろす。
祐子の周りは、不穏な空気が流れていて、それを感じ取った坂上は血の気が引いていくのが分かった。

⏰:08/10/10 23:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#670 [向日葵]
「どうして……」

祐子は呟き、歯を噛み締める。

「どうして……お前にそんな事言われなきゃなんないんだっ!!」

祐子は坂上に馬乗りになり何発も殴りつける。
何人もの生徒が周りに集まったり、祐子を止めようとする。

自分なりに生きてきた。
それをたった4文字で片付けられた事がすごく嫌だった。
好きでこうなったんじゃない。

何も知らないくせに、何も分かろうともしないくせに……。
あたしの何がいけないの……っ。

祐子には、いつの間にか何も見えなくなっていた。
勝手に動く拳を止める気もなく、そのままにしている。
ただ、遠くの方で、教師のの太い怒鳴り声が聞こえた気がした。

⏰:08/10/10 23:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#671 [向日葵]
気がつけば、目の前に翠がいた。
誰もいない学校の応接間みたいなところのソファーに力なく座り、どこを見ているか分からない祐子を心配そうに見ている。
そっと、繊細な肌を持った指先が、祐子の頬を撫でる。

祐子はぼんやりと、自分が翠のようであれば、何も言われず、平和に素直に生きていけたのだろうか。

「ママ…………」

かすれた声で、翠を呼ぶ。
いつもは呼び方を否定する翠が、首を少し傾げて優しく「なぁに」と聞いてくる。

「あたし……間違ってるの…………?」

⏰:08/10/10 23:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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