*柴日記*
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#711 [向日葵]
「それは小さい頃の約束だろ?僕には大切な人がもういる」
と言って祐子を引き寄せる。
杏は眉を寄せて目を見開く。
「小さい頃の約束でも約束は約束よ!おじ様達だって、杏ならいいって言ってたもの!杏だって一朗の立場をちゃんと支えてあげられる、いいお嫁さんになるわ!」
言ってから祐子を睨む。
売られた喧嘩は倍額で買う主義の祐子は当然睨み返す。
「こんな……男まさりな人がいいの?前はあんっなに女の子らしくて可愛らしい人が好きだなんて言ってたくせにっ!」
「いつまでも夢見てんじゃねえよタコがっ!」
いい加減我慢出来なかった祐子が言う。
:08/11/08 01:20
:SO906i
:☆☆☆
#712 [向日葵]
腕組みをして、祐子は杏に詰め寄る。
身長は祐子の方が高いので見下したように杏を見る。
「あたしも大概、世間知らずだけど、アンタはあたしを上回るみたいだね」
「一朗があなたみたいな庶民と結婚していいと思ってるの?一朗は病院の跡取りなの!あなたが一緒にいていい相手じゃないのが分からない?」
馬鹿にされたので、祐子の中で何かが切れた。
その音を自分で聞いていながら、少し冷静な部分で一朗の事を考えていた。
彼は本気かどうかは分からないが、自分の事は何も言わず自分と結婚するなどと言う。
果たしてそれでいいのかが分からない。
:08/11/08 01:26
:SO906i
:☆☆☆
#713 [向日葵]
一朗と通じあった日、その前まで自分はもう邪魔をしたくないから諦めると思っていた。
それを打ち砕くように一朗が自分を求めてくれたから、我慢出来ず自分も求めてしまった。
本当にこれで良かったのか、祐子は再度迷い始めた。
「跡継ぎなら弟がするよ。第一、僕はもともと継ぐ気はない。それは父さん達も前々から知ってる」
「一朗分かってないわね。おじ様達は、本当はあなたに継いでもらいたいのよ。」
「僕は普通に働きたい」
「普通を求めるのは、この人がいるからじゃないの?」
:08/11/08 01:31
:SO906i
:☆☆☆
#714 [向日葵]
そう言って、また祐子を睨む。
祐子はちらりと一朗を見た。
一朗は困ったように顔をしかめていた。
どうして「違う」と言わない?
まさか本当に自分は邪魔者なのか?
教室から考えていた事や、今つきつけられた現実の迷いに、祐子は怒りの薪に着火してしまう。
「ばかばかしいっ!身内問題なら勝手にテメェらでやれ!」
足早に自転車を取りに行き、一朗が追いかけてくる前に祐子は家へと帰ってしまった。
―――――――――…………
「まぁまぁ!祐子ちゃんどうしたの?そんな恐い顔しちゃって」
:08/11/08 01:39
:SO906i
:☆☆☆
#715 [向日葵]
玄関にある全身鏡を見れば、確かに酷い顔をしていた。
八つ当たりはみっともないから嫌なのに、緊張感のない翠の声に苛立ちを隠せない。
「もともとだよ!悪かったね!」
翠の前を通り過ぎ、自分の部屋がある2階へと向かう。
「一朗くんと何かあったの?」
こわごわと聞いてくる。
足を止め、握りこぶしを作る。
「そんなんじゃない……」
低く呟いてから、また足を進めた。
ドアを閉めて、ズルズルと床に座り込む。
:08/11/08 01:44
:SO906i
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#716 [向日葵]
やり場のない怒りはどうしてくれよう。
こんなのでは何の罪もない翠がとばっちりをくらってしまう。
しばらく考えて、祐子はサッとラフな格好に着替えると、何も告げず家を出て行った。
向かう先は昔から決まっている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気分が優れない時、家から少し離れた公園のジャングルジムにのぼる。
てっぺんに腰かければ、丘の上にある公園はちょっとした夜景が見えた。
昔から、ここはお気に入りの場所でよく来ていた。
暗くなりつつある今は、藍色の空と鮮やかな家の光がとても綺麗だ。
:08/11/08 01:49
:SO906i
:☆☆☆
#717 [向日葵]
少し蒸し暑いが、風があるので気にならない。
そして祐子はため息をつく。
明日どんな顔で会えばいいのだろう。
いや、むしろ一朗はどんな顔して会いに来るのだろう。
何も無かったように接するのだろうか。
もしそうならば、祐子はきっと殴ってしまうだろう。人の事をなんだと思っているのだと。
本当に好きなのかと……。
そばにいてもいいのかと……。
結局1番引っかかるのはそこだったりする。
自分はいつの間にこんな腑抜けになってしまったのだろう。
それでも、こうなる事を自分から望んだ。
全ては一朗の為に……。
:08/11/08 01:55
:SO906i
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#718 [向日葵]
難しい事を考えるのは嫌だから、目を伏せて風と空気だけを感じようとする。
すると耳に砂利を踏む音が届いた。
ゆっくりと目を開ければ、少し離れた所に一朗がいた。
「いた。良かった、探したんだ。翠さんは正解だったみたいだね」
1度帰っただろう彼は、ストライブのカッターにジーパンといった格好だった。
やはりと言うか、いつもと変わらない微笑みを祐子に向けている。
だから祐子はつい叫ぶ。
「近寄るな!」
:08/11/08 01:59
:SO906i
:☆☆☆
#719 [向日葵]
祐子の元へ行こうとのぼりだした一朗の動作が止まる。
「……どうして?」
「何をするか、分からないから……。何を言うか、分からないから……」
「それでもいいよ」
「あたしが嫌なんだ!頼むから……」
しばらく考えた彼は諦めたように祐子がいる真下に来て、ジャングルジムを背もたれにして立つ。
「綺麗だね」
祐子は答えない
「こんな場所があるなら教えてくれればいいのに」
:08/11/08 02:10
:SO906i
:☆☆☆
#720 [向日葵]
やっぱり祐子は答えない。
「……さっき否定しなかったのも、肯定しなかったのも、君が負い目を感じないようにだよ」
祐子は一朗に目を向ける。
一朗は夜景を眺めたままだ。
「病院を継ぐのは、僕には向いてないと幼い頃から感じていた。両親もそれは承知だった。もともと2人共、固まった考えを持っていない人だから、僕が普通の職に就きたいと中学の時に話せば快く応じてくれた」
淡々と話す一朗の話を、祐子は一生懸命聞く。
「でも申し訳ない気持ちはあるから、せめて成績だけは優秀であろうと思ってるんだ。だから特に医者になる家系だからって言うのはない」
:08/11/08 02:18
:SO906i
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