*柴日記*
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#734 [向日葵]
小さく、一朗と杏の姿が見えた。
杏は一朗の口に何かを運び、無理矢理入れようとしている。
皆はおろか、野次馬すら、祐子がいる事に気づいてはいない。

ふつふつと、また祐子に怒りが蘇る。
最早この怒りはどちらに向けられる怒りか分からない。
怒りながらも、祐子はしばらく二人の様子を見る事にした。

「いいからっ」

ぐっと強制的に箸が一朗の口に入れられる。
困りながらも、しばらく噛んでいた一朗は、段々と顔を輝かせていった。

「これ……」

「懐かしいでしょ?野菜があまり得意じゃない一朗の為の私のうち特製かき揚げ。何故か昔からこれだけはよく食べてたよね」

⏰:08/11/29 22:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#735 [向日葵]
野菜が……得意じゃない……?

初耳だった。
弁当には、いつもなんらかの形で野菜が入っていた。
それでも一朗は、何も言わず、いつも笑顔で「おいしいね」と食べていた。

好きな人の、好き嫌いさえしらない……。

祐子は持っていた弁当をぎゅっと抱き締め、静かに後退りした。
すると弁当が音を立てて落ちた。
それに気づいた野次馬が、やっと祐子の存在に気づき、ざっと顔を青くする。
一朗と杏はまだ気づかない。

弁当を拾う気力すらおきない。
それでも力なくしゃがみ、ゆっくりした動作で弁当を拾う。

⏰:08/11/29 22:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#736 [向日葵]
どうして、こんなに惨めな気持ちにならなきゃならないんだろう。
一朗の恋人は自分で、いつも隣で笑って食事してるのも自分の筈なのに。
朝早いのがあまり得意じゃなくても、弁当はちゃんと一朗が笑顔で食べてくれるよう頑張ってるのに。

「祐子……さん……」

顔を上げれば、一朗がやっと気づいたのか、立ち上がってこちらを見ている。
杏は勝ち誇ったように、祐子を見てニヤリと笑っていた。

涙で視界が滲み出す。

「違うんだ祐子さんっ……」

皆がいる前では泣きたくなかったから、居ても立ってもいられず、歯を噛み締めて祐子はその場を駆け出した。

⏰:08/11/29 22:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#737 [向日葵]
いく場所も分からず走る。

「祐子さんっ!」

後ろから一朗が追いかけてくる。
こんな時、いつも抜けている筈の彼はこけてもおかしくないのに、すごい早さで祐子に追いつく。

腕を引かれ、祐子は止まるしかなかった。
走りながら流れてしまった涙を見られたくはないから、うつむいてそっぽを向いたまま腕を振り払おうとする。

「祐子さん、話を聞いてっ!僕は今から祐子さんの所へ行こうとしてたんだ!」

今更何を言われても信用出来ない。

⏰:08/11/29 22:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#738 [向日葵]
祐子は腕を振り払うと、その勢いに任せて一朗の弁当を床に叩きつけた。
弁当箱が一部破損し、中身が少しばかり出てしまった。

無意識に、息が荒くなる。

「もういい……」

声がかすれる。

「あたしは……アンタが野菜嫌いだなんて知らなかった。そうならそうで、言ってほしかった……」

「それは……」

「もうアイツに作ってもらえよ!あたしだって…………アンタの弁当を毎朝作るなんてごめんなんだよ!」

⏰:08/11/29 22:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#739 [向日葵]
祐子は階段を駆け降りる。
もう一朗は追ってこなかった。

辿り着いた場所は、いつも喧嘩で呼び出されていた校舎裏だった。
そこで座り込み、空を見上げる。

[そばにいるよ]

まだ素直になれていない頃、一朗がそう言った。
でももう無理だ。
自分と一朗は、やはり住む世界が違いすぎたんだ。

それでも、冗談でも、結婚しようと言ってくれた事は嬉しかった。恥ずかしくて、つい可愛くない事を言ってしまったけれど、本当は一朗のそばにずっといてもいい証を約束する事は、これ以上ないほど嬉しかった。

⏰:08/11/29 22:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#740 [向日葵]
でももういい。

あの杏とか言う奴と、くっつけば……。
祐子の心は、段々と真っ暗になっていった。

するとそんな祐子の元へ、いくつかの足音が近づいてきた。
座り込んでいた祐子が顔を上げると、何人かの女子が祐子を囲んでいた。

「おい森下。お前も腑抜けになったなぁ?」

耳障りな甲高い笑い声が響く。
祐子に恨みをもったグループらしい。

「丁度いいや。お前からうけた拳の数々、今返してやるからよぉっ!」

⏰:08/11/29 22:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#741 [向日葵]
一斉にかかってくる。
祐子は無意識にそれをかわし、一人ずつに攻撃をくわえていった。
祐子の口角が、不気味に上がる。

「よえーんだよ……。バーッカ」

逆上した女子たちは、また一斉に祐子に飛びかかった。
祐子も負けじと攻撃する。
しかし数が多すぎる。
体に何発も重い衝撃を受ける。

……数分後、決着はついた。
祐子の勝利。
荒い息を繰り返して、攻撃してきた女子たちは地面に崩れている。

祐子もボロボロだった。
もしかしたらどこかの骨が折れているかもしれない。

⏰:08/11/29 23:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#742 [向日葵]
壁を支えに、歩いて行く。

痛い。
けれどそんな事とは別に祐子は涙を流していた。
声を出して泣いてしまえば、やっぱり体は痛く、それ以上に胸が痛かった。
それでも息が出来ないくらい激しく泣く。

そして一瞬突き抜けた頭の鋭い痛みに耐えきれず、祐子はどさりと地面に倒れ込んだ。

――――――――………………

「祐子ちゃん……っ!」

再び目を開いたら、まず目に入ったのは翠と病院の天井だった。

「翠……ちゃん……」

⏰:08/11/29 23:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#743 [向日葵]
体か重い。
右を見れば点滴。
左を見れば、包帯が分厚く手に巻き付いていた。
巻き付いているのは手だけではなく、足が自由に動けないからして足もそれは沢山巻き付いているみたいだった。

「目を覚ましてくれて良かったぁ……」

翠はボロボロと涙を流す。
祐子はそんな可愛らしい母を見てフッと笑った。

部屋のドアが勢いよく開いたと思うと、父が息を切らせて入ってきた。

「祐子っ!大丈夫かぁっ!」

額に汗を浮かべている。
全力疾走で来てくれたのだろう。

⏰:08/11/29 23:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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