*柴日記*
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#746 [向日葵]
ついそんな事を思ってしまう自分が、どうしようもなく情けない気がした……。
祐子の怪我は、夏休み中に治り、退院を迎えた。
何かを察した翠は、残り少ない夏休みを田舎の方で過ごさないかと提案してきた。
丁度そこには翠の母、つまり祐子の祖母と親戚が一緒に住んでいて、なんだったら遊びに行こうと言った。
祐子は悩まずに直ぐに行くと返事をした。
:08/12/02 00:15
:SO906i
:☆☆☆
#747 [向日葵]
一朗が家に来そうだったからだ。
現に、祐子の着替えを取りに帰ったりした時、翠が一朗らしき姿を何回か見たと言っていた。
一朗はもちろん、クラスメイトにも病院の住所は教えていない為、お見舞いに来るものはいなかった。
だから一朗も来なかった。
それでも、先生に聞けば教えてくれるだろうに……。
もう、どうでも良くなった……?
どちらにせよ、一朗と向き合える自信はなかった。
逃げたい。
今はそうしか思わなかった。
:08/12/02 00:21
:SO906i
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#748 [向日葵]
田舎へ来て、古びた祖母の家の縁側で、祐子はぼんやりしていた。
回りは山と畑ばかり。
時々聞こえる畑を耕したり、遠くの山で聞こえるカラスの鳴き声は、時間がゆっくりと過ぎているのを感じさせた。
オレンジ色の夕焼けが柔らかい。
荒んだ心を段々と癒してくれる。
「なに感傷に浸ってんのよっ」
言葉と共に、背中を平手で思いきり叩かれた。
唐突の攻撃に祐子はむせる。
「なによ、さやか姉」
さやかは祐子の2つ上の親戚だ。
:08/12/02 00:27
:SO906i
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#749 [向日葵]
姉御肌で、一人っ子の祐子はさやかを慕っていた。
さやかはニカリと笑うと、祐子の隣に座る。短パンで白く長い綺麗な足を投げ出す。
体にフィットしているタンクトップは、彼女の体を引き立てている。
「……別にそういう訳じゃ……」
「隠したって無駄無駄。ユウは分かりやすいんだから」
ユウとは、祐子のあだ名だ。
「そんな事ないよ」
「じゃあ当ててあげる。ズバリ、好きな人関係でしょっ!」
人差し指を立てて得意気に言う。
そんな元気なさやかとは反対に、祐子は大きくため息を吐いた。
:08/12/02 00:32
:SO906i
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#750 [向日葵]
「あれ?違うの?」
「……。いいや、当たり」
「で、なんなの?翠ちゃんや圭ちゃんが心配してるわよ」
祐子は膝を抱え、目の前にある植木をじっと見つめた。
語ろうとして、口を開くもやっぱり閉じる。
それを何回か繰り返しながら、頭の中で色々と整理をしていく。
「あたしは、そいつの事を何も知らなかった。そいつにとって、あたしは多分一番大切な人なのに、そいつは何も言ってくれないし、教えてくれない……」
今、彼が何を思ってるかなんて分からない。
:08/12/02 00:37
:SO906i
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#751 [向日葵]
「じゃあ教えてってねだればいいじゃん」
「え……」
当たり前のような顔をしてさやかは言った。
あまりに早く返事を返されたので、祐子はびっくりして言葉が出てこない。
「人はどうして他の動物と違って言葉を発するようになったか。行動だけじゃ足りなかったからでしょ?なら言葉を有効に使いなさいよ」
カラカラ笑いながらさやかは言う。
さやかには悩みと言う言葉ほど似合わないものはなさそうだ。
清々しささえ感じるさやかに、祐子は思わず笑う。
:08/12/14 00:57
:SO906i
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#752 [向日葵]
言葉……。
確かに言いたい事はふせていたかもしれない。
どこかで、一朗なら分かってくれてるとか甘えた考えと同時に、聞きたくない言葉も返ってきそうで怖かった、と祐子は思う。
相手ばかり責めて、いけなかったのは自分もではないか。
「で?圭ちゃんにはもう言ったの?」
「言う訳ないでしょ。圭ちゃんそれでなくても体のわりにはノミの心臓なんだから。それに親バカだし。言ったら卒倒しちゃうよ」
「でもアンタを夢中にする奴なんて、あたしも見てみたいよ」
「いつか……ね」
一朗と、しっかり向き合う覚悟が出来て、一朗がまだ自分を好きならば……。
:08/12/14 01:03
:SO906i
:☆☆☆
#753 [向日葵]
山の向こうへ飛んで行くカラスを眺めながら、祐子は思う。
「祐子ちゃーん、さやかちゃーん。スイカ切れたわよー」
―――――――――…………
新学期が始まり、祐子はいつもどおり学校へ行く。
「祐子さぁんっ!」
クラス中の女子が、久しぶりに姿を見せた祐子の元に集まり抱きつく。
いっぺんに体にしがみつかれた祐子は重力に逆らえず床へ尻餅をつく。
「もう大丈夫なの!?」
「すっごく心配したんだからねーっ」
「入院先くらい教えてくれればいいのにぃー」
:08/12/14 01:07
:SO906i
:☆☆☆
#754 [向日葵]
口々に、しまいには泣いてしまいそうな女子たちに、祐子は困りながらも薄く微笑む。
1年前の自分には想像出来ない光景だ。
「ありがとうね……。みんな」
みんなを引き剥がし、祐子は鞄を机に置くと、すぐに教室を出て行った。
向かう先はもちろん、一朗のクラス。
逢いたい……。
自分を変えてくれた、大切な人のもとへ……。
教室を廊下から見てみるが、一朗の姿はなかった。
まだ来ていないのかと肩を落とす。
:08/12/14 01:11
:SO906i
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#755 [向日葵]
踵をかえそうとした瞬間、祐子の体が包まれた。
耳元に、荒い息遣いが聞こえる。
祐子が目を見開き、驚けば驚く程包まれている力が強くなった。
「逢いたかった……」
かすれて聞こえる、一朗の声。
自分を包むのは、紛れもなく一朗の腕だ。
人目も気にせず、鞄を床にほうって、強く強く祐子を感じるように抱き締める。
「逢いたかった……っ」
苦しそうに、愛おしいそうに言うから、祐子の胸が締めつけられる。
硬直させていた腕を、ゆるゆると動かし、一朗の背中へ控えめにまわす。
:08/12/14 01:17
:SO906i
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