よすが
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#130 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは心の底から父と母に感謝した。
もし幼かったあたしが事実を突き付けられれば、どうなっていたか解らない。
全ての記憶を取り戻したら、真っ先に父と母に伝えよう。
そして二人には、妹の不在をきちんと悲しんでもらおう。
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:08/04/09 17:08
:SH903i
:APNEtQ/Q
#131 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの記憶の中の両親は、いつも笑顔だった。
きっと悲しむことさえも押し殺して、あたしを守ってくれていたのだ。
あたし自身のためだけではなく、両親と妹のためにも、何があったのか、どうして妹が戻らなかったのか、あたしが忘れてしまった全てをこの手の内に取り戻さなければならない。
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:08/04/09 17:08
:SH903i
:APNEtQ/Q
#132 [蜜月◆oycAM.aIfI]
椅子に座らされたままのあたしの肩に、ふわっ、と何かがかけられた。
後ろを振り向くと、サトルが膝掛け用の毛布をかけてくれていた。
そしてまたすぐにどこかに行ったかと思うと、温かい缶コーヒーを二つ手にして戻ってきた。
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:08/04/09 18:20
:SH903i
:APNEtQ/Q
#133 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「大丈夫?」
サトルはやはり小さな声でそう言うと、あたしの顔を覗き込む。
あたしは声には出さずに首を縦に振ってそれに答え、差し出された缶コーヒーを両手で受け取った。
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:08/04/09 18:21
:SH903i
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#134 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしもサトルも口を開くことなく、ただ黙ってコーヒーを口に運んでいる。
少し離れたところから、誰かがノートに何かを書き込んでいるのだろう、カリカリカリ……という音だけが聞こえていた。
崖っぷちに立たされていたようなあたしの気持ちも、だんだんと落ち着いてきた。
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:08/04/09 20:24
:SH903i
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#135 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ふとサトルの手元に目をやると、印刷用紙が一枚握られている。
あたしがそれを見ているのに気付いたサトルが、用紙を広げて見せてくれた。
新聞に載っていた事件の記事を印刷したものだった。
あたしが自分の考えに没頭している間にコピーしておいてくれたようだ。
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:08/04/09 20:25
:SH903i
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#136 [蜜月◆oycAM.aIfI]
コーヒーを飲み終えて、あたしたちは図書館を出た。
外は北風が強く吹いていて、あたしは首に巻いたマフラーをぎゅっと締め直す。
「ねえ、サトルだったらどうする?」
帰り道、冬の澄んだ空気を夕日が染める中、あたしはサトルに疑問を投げかけた。
全てを明らかにしたいと思ったけれど、あたしの記憶が戻りそうな気配は全く無い。
ということは、今ある情報から、一つの真実を見つけださなければならない。
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:08/04/09 20:26
:SH903i
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#137 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは、もう一度あの町に行って、以前住んでいた家やあたしが発見された場所を見てみたいと思った。
しかしそれが正しいのか、間違っているのか……あたしは迷っていた。
正解なんてものが無いことは解っているけれど。
あたしはただ単に、サトルに背中を押して欲しかっただけなのかもしれない。
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:08/04/09 20:26
:SH903i
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#138 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「僕なら……うーん、そうだなあ。僕だったら、もう一回T町に行ってみるかな!」
サトルはあたしの隣を歩きながら、いつもの笑顔で、やっぱりあたしの欲しかった答えをくれた。
「そうだよね。明日、あの町に行ってみる」
「僕も行く!」
手を挙げかねない勢いで、サトルは元気いっぱいに声をあげた。
あたしは内心一緒に来て欲しいと思っていたけれど、サトルをこれ以上振り回しては申し訳ないという気持ちも大きかった。
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:08/04/09 22:52
:SH903i
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#139 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「明日は中山先生には会わないよ?」
「いいの! 僕明日も暇だし、ユキの邪魔しないからさ」
邪魔なんかじゃないよ、サトル。
サトルに甘えるのは、これで最後にしよう。
そう決めた。
「ありがと、サトル」
そうしてあたしたちは、十二月の冷たい風が体を冷やす中、家路に着いた。
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:08/04/09 22:53
:SH903i
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