よすが
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#160 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは気が狂ったように地面を撫で回す。
傷口に土が入り込んでしまうのも気にせず、あちこちの地面を触ってみる。
――前にもあたし、こうして地面を撫でてた。
一心不乱に土を触っている内に、はっきりそう確信した。
あたしはここで、今と同じように地面に触れたことがある。
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:08/04/11 22:56
:SH903i
:WPZmRcek
#161 [蜜月◆oycAM.aIfI]
目を閉じて、土を触り匂いを感じながら記憶を辿る。
――やっぱり何も思い出せないのかな……。
…………と、あたしの頭の中で変化が起きた。
これは記憶か? 想像か?
どちらかは解らないが、ある情景が思い浮かんだ。
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:08/04/11 22:57
:SH903i
:WPZmRcek
#162 [蜜月◆oycAM.aIfI]
目の前に広がる茶色の土。その地面とあたしの顔は、今にも口づけするかという近さだ。
多分、あたしはその時も何かにつまずいたのだ。
つまずき、地面に手と膝をついていた。
そして、多分、あたしは立ち上がりたくなかった。
あたしは、後ろにいた誰かを気にしていた。
気にしながら、地面を延々と撫でていた…………。
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:08/04/12 22:09
:SH903i
:xQx.Xh9k
#163 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「うっ……」
急に頭が痛み、浮かんでいた情景が途切れた。
あたしに残ったのは、手の平にジンジンと響く痛みと、土の匂いだけだ。
「ユキ!」
少し離れたところであたしを見守ってくれていたサトルが、慌てて駆け寄ってきた。
あたしは顔を上げて彼の方に向ける。
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:08/04/12 22:10
:SH903i
:xQx.Xh9k
#164 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「大丈夫、大丈夫」
笑顔で答えようとしたのに、どうしてか表情が引き攣ってしまう。
幸い頭の痛みは一瞬で消え去ったけれど、頭に浮かんでいた情景まで完全に消えてしまった。
今のはあたしの想像だろうか?
それにしては、はっきりし過ぎていたような気がする。
感情まで鮮明に流れ込んできた。
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:08/04/12 22:11
:SH903i
:xQx.Xh9k
#165 [蜜月◆oycAM.aIfI]
恐らく、あれはあたしの記憶、だ。
そしてそれが正しければ、あの情景は誘拐されたまさにその時の記憶に違いない。
あたしの中にはっきりと流れ込んできた感情……恐怖と怯え。
そして、とてつもない不安。
間違いない、あれはあたしが誘拐された時の記憶だ。
誘拐され、怪我を負わされる前の。
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:08/04/12 22:12
:SH903i
:xQx.Xh9k
#166 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「サトル……」
あたしは無意識の内にサトルの名前を呼んでいた。
しゃがみ込んでいるあたしのすぐ横に居たサトルは、「ん?」とあたしの顔を覗き込む。
「あたし……思い出した……ここにいたの」
「うん」
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:08/04/12 22:13
:SH903i
:xQx.Xh9k
#167 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルが次の言葉を待っているかように、あたしを見つめているのがわかる。
地面と向かい合わせになったあたしの右側から、痛いほどの視線を感じる。
けれどあたしはそれ以上何も言えず、地面を見つめていた。
地面からは何の答えも得られなかったけれど、懐かしい土の匂いは、ふわりとあたしの視線を受け止めてくれた。
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:08/04/12 22:13
:SH903i
:xQx.Xh9k
#168 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――もうここまで来たら引き返せない。
行くしかない。
あたしは黙って立ち上がり、サトルに向かって頷いた。
それを見たサトルも安心したように微笑み、立ち上がって再び歩き出した。
自分の決心の甘さを恨みながらも、あたしはまたサトルの背中を追う。
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:08/04/12 22:15
:SH903i
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#169 [蜜月◆oycAM.aIfI]
夢中で足を動かしている間も、あたしの頭の中は、さっきの情景とそれに対する不安でいっぱいだった。
あれがあたしの記憶なら、近くに妹がいたはずだ。
そして、犯人も。
思い出したくてここにきたのに、思い出すのが怖くて仕方なかった。
妹のことは思い出したい。
でも、犯人のことなど一つも思い出したくない。
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:08/04/12 22:19
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