よすが
最新 最初 全 
#198 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは小声でサトルに囁き、燃えかすの方を指で指し示した。
それを見たサトルは、驚いた表情でキョロキョロと周りを見回す。
「戻る?」
サトルに言われてあたしは少し迷ったけれど、引き返すのはやめた。
今さっきあたしたちが通ってきた森の中に戻り、木の影からコンクリートの箱を観察することにした。
.
:08/04/17 23:00
:SH903i
:XxBpfdyc
#199 [蜜月◆oycAM.aIfI]
しかし、見れば見るほど不気味だ。
箱の高さはあたしの身長より頭三つ分ほど高い。
ところどころにシミがあるのを見ると、それほど新しくはなさそうだ。
ドアは鉄製のようで、かなり頑丈そうに見えた。
――何のために作られたんだろう……?
.
:08/04/17 23:01
:SH903i
:XxBpfdyc
#200 [蜜月◆oycAM.aIfI]
人が暮らすには不自由すぎないだろうか?
窓が無ければ中は完全に真っ暗だろうし、コンクリートだけで造られているなら今の時期かなり寒いだろう。
何より、こんな山の中に建てる意味がわからない。
食料を買いに行くだけでもかなり不便ではないか。
.
:08/04/17 23:02
:SH903i
:XxBpfdyc
#201 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そんなことを考えながらコンクリートの箱を観察していたが、何の動きもない。
腕に付けていた時計を見てみると、時刻はもうしばらくで夕方の四時になるところだった。
さっきまで汗だくになって歩いていたので、熱が引いた今、汗で濡れた体が冷えてきた。
雲に遮られたせいで太陽の光が全く届かなくなったのもあって、あたしの体はカタカタと震える。
同じように震えているサトルの呟きが聞こえた。
.
:08/04/18 22:29
:SH903i
:gqbjt9BM
#202 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ううー、寒いよぅ……」
次の瞬間、トン、という音がしたかと思うと、それは連続した雨音に変わっていた。
あたしとサトルの上を覆い尽くす木の葉は、傘の代わりにはならなかった。
視界は一気に明るさを無くし、大量の水滴があたしの体から更に熱を奪ってゆく。
.
:08/04/18 22:30
:SH903i
:gqbjt9BM
#203 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――寒い……暗い……冷たい……
あたしは寒さで朦朧としながら、なんとなく妹のことを考えていた。
――あたしの妹……。
どんな子だったんだろう。あたしと似てたのかな……性格はどんなだったの?
あたしと仲良しだったのかな。
何をして遊んでたのかな……。
.
:08/04/18 22:31
:SH903i
:gqbjt9BM
#204 [蜜月◆oycAM.aIfI]
考えれば考える程、悲しくなり、寂しくなった。
妹がいないという事実。十年前から変わらないはずのそれは、ここ何日かで大きな悲しみをまとうようになっていた。
――でも……妹はもっと暗くて寂しくて、もっと冷たい世界に逝ってしまったんだ。
.
:08/04/18 22:32
:SH903i
:gqbjt9BM
#205 [蜜月◆oycAM.aIfI]
胸が詰まり、目の中の水分が一気に増えた。
収まりきらなくなった涙は、雨と混じり合いながらあたしの頬を滑り落ちていく。
鳴咽を漏らすこともなく、声を上げるでもなく。
ただ、ひたすら流れ落ちてゆく涙。
.
:08/04/18 22:32
:SH903i
:gqbjt9BM
#206 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしたちの視線の先にあるコンクリートの箱は、雨に濡れて濃い灰色になっていた。
あたしは潤んだ目でその壁の一点を見つめたまま、あの病室から始まった自分の人生に想いを馳せた。
.
:08/04/18 22:34
:SH903i
:gqbjt9BM
#207 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/04/18 23:26
:SH903i
:gqbjt9BM
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194