よすが
最新 最初 全 
#235 [蜜月◆oycAM.aIfI]
『ユウコ、もう暗くなるよ』
振り返ると、見知らぬ大柄の男が立っていた。
今のは、あたしに向けられた言葉のようだ。
――ユウコ?
あたしはユウコじゃない、ユキだよ。
.
:08/04/22 23:10
:SH903i
:.2zmGT5A
#236 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そう思いながらもなぜか逆らうことが出来ず、あたしは自分を“ユウコ”と呼んだ男が差し出した手を取った。
夕日を背に立っている男の顔は、逆光のせいでよく見えない。
表情もわからないけれど、なんとなく微笑んでいるような雰囲気が感じられた。
そのかわり、差し出した左手の薬指に光る指輪に、あたしの視線は捕らえられた。
.
:08/04/22 23:10
:SH903i
:.2zmGT5A
#237 [蜜月◆oycAM.aIfI]
夕日を反射してキラキラ輝くそれは、今まで見たことが無いほど美しい。
男のゴツゴツとした手にはとても似合わない。
けれど、何の石も背負わないそのシルバーの細い輪っかは、男の指にしっかりとはまっていた。
男は、あたしの手をギュッと握りしめて歩き出した。
何も言わず男の行動に従うあたし。
.
:08/04/22 23:11
:SH903i
:.2zmGT5A
#238 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――今は大丈夫だ。
え?
……今は?
あたしは確かに今、そう思った。
けれど、全く意味が解らない。今のはあたしの意識ではない。
でもあたしじゃないなら一体誰の?
.
:08/04/22 23:12
:SH903i
:.2zmGT5A
#239 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そう思ったけど、あたしは考えるのをやめた。
これは夢だ。夢というのは有り得ないことが起きても良い世界なんだ。
そして夢というものは、しばしば現実とリンクする。現(げん)に今、あたしは過去のあたしを夢に見ている。
このまま夢に飲み込まれてしまえば、この世界で全ては明らかになるんじゃないか。
あたしはそれを期待し、夢の世界に潜っていく。
.
:08/04/23 13:04
:SH903i
:n.zKpr4g
#240 [蜜月◆oycAM.aIfI]
小さな体のあたしは、男の大きな手に引かれながら坂道を歩いている。
あたしの小さな影と男の大きな影が、足元から進む先に向かって長く延びていた。
あたしは自分の影の頭を踏もうと、出来る限り歩幅を広げてみたけれど爪先さえ届かない。
そうこうしている内に、ただの遊びにいつの間にか真剣になってしまっていた。
躍起になって、飛んだり走ったりして影を追う。
.
:08/04/23 13:05
:SH903i
:n.zKpr4g
#241 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしが自分だけの影踏みに熱中していると、いつの間にか辺りが暗くなっていた。
いや、暗くなったと言うよりも、この世からあたし以外のものが全て無くなったようだ。
どこを見ても闇、闇、闇。
さっきまで手を繋いで隣を歩いていたはずの男も、空をオレンジに染めていた太陽も、あたしが踏み締めていたはずの地面さえも、今はどこにも見当たらない。
.
:08/04/23 13:05
:SH903i
:n.zKpr4g
#242 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そう。これは夢なんだ。
夢だから、何が起きてもおかしくない。どんなことも起こり得る。
光が無いように見えるのに、あたしの手ははっきり見えた。
そこで、あたしは自分の体をもう一度見下ろしてみる。
やはり、小さいままだった。
.
:08/04/23 13:06
:SH903i
:n.zKpr4g
#243 [蜜月◆oycAM.aIfI]
周りを見回しても、やはり永遠に続く闇しかない。
しかし夢だと解っているからなのか、恐れは無かった。
自分がどこに立っているのかも解らないまま、あたしは歩き始めた。
一歩、また一歩、さらに一歩。
右足と左足を交互に前に出す。
.
:08/04/23 13:07
:SH903i
:n.zKpr4g
#244 [蜜月◆oycAM.aIfI]
地面を踏む感覚はあるのに、あたしの足の下は深い闇。何も、無い。
前に進んでいるつもりだけれど、実は後ろに進んでいたとしてもあたしは気付かないだろう。
.
:08/04/25 00:30
:SH903i
:ZORuxzbU
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194