よすが
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#275 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
幼いあたしは、一番古い記憶から新しい記憶へとあたしを導いてくれた。
父。母。ハナ。サトル。
そして最後に蘇った記憶……あの事件。
恐ろしく、悲しいものだった。

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⏰:08/04/29 23:06 📱:SH903i 🆔:KV.55ENY


#276 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし、あたしはそれ以上に幸せな記憶を手に入れた。
家族と大事な友達と過ごした幸せな日々。
それがあるからか、当時は恐ろしいだけでしかなかったあの事件に記憶を巡らせてもあたしの心に現れるのは恐怖だけではなかった。

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⏰:08/04/29 23:07 📱:SH903i 🆔:KV.55ENY


#277 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしたち一家を苦しめた事件の始まりは、ある男の身に起きた悲しい事故だった。
夢の中であたしの手を引いて歩いていたあの大柄な男。

男は十年前の冬のある日、あたしとハナが近所の公園で遊んでいるところにやって来て、言葉巧みにあたしたちを誘拐した。
見たこともなかったその男はとても優しくて、まさかその人があたしたちを誘拐しようとしているとは思わなかった。
けれどその時ハナは、あたしの袖を引っ張ってしかめた顔をこちらに向けていたような気がする。
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⏰:08/04/29 23:08 📱:SH903i 🆔:KV.55ENY


#278 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――あの時ハナの言うことを聞いていれば……。
ハナが死ぬことも無かったのに。

しかしあたしはハナの無言の制止を無視して、男の車に乗ってしまった。ハナを連れて。

男が運転する白い乗用車は、山の中腹にある人気(ひとけ)のない駐車場で停まった。
そこであたしは初めて恐怖を覚えた。
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⏰:08/04/29 23:09 📱:SH903i 🆔:KV.55ENY


#279 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
男がいきなりあたしを殴ったのだ。
男は運転席から体をひねり、後部座席にいたあたしの頬を平手で打った。次に拳で頭の右側を殴られた。あたしはその二発ですでに意識を失いかけていた。
しかし、ハナが心配だった。それだけがあたしの意識を繋ぎとめていたように思う。
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⏰:08/04/29 23:09 📱:SH903i 🆔:KV.55ENY


#280 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし驚きと恐怖であたしの体は固まってしまった。それを見て男は満足したのか、その時の暴力は二発で終わった。
そして男はあたしの隣にいたハナの頭に手を伸ばした。

殴られる!
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⏰:08/04/30 20:17 📱:SH903i 🆔:xkpfSZAU


#281 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そう思ったのもつかの間、シートの間から伸びた男の手はハナの髪を優しく撫でた。
男の顔にはあたしを殴っていた時の凶暴さなど微塵もなく、ただ愛しそうにハナを撫でていた。
そして車を降り、ハナは男に抱かれあたしは無理矢理手を引っぱられ、山の中へ連れて行かれた。
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⏰:08/04/30 20:18 📱:SH903i 🆔:xkpfSZAU


#282 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
その時は訳がわからなかった。それがまだ誘拐だと思っていなかったあたしは、何か男の気に障るようなことをしてしまったんだと思った。

しかしそうではない。今ならわかる。
男はハナに自分の娘を重ねて見ていたのだ。

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⏰:08/04/30 20:18 📱:SH903i 🆔:xkpfSZAU


#283 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
男はあたしとハナを掠う少し前に、妻と娘を事故で亡くしていた。
十数年前に結婚し、あたしたちが住んでいた町から少し離れた別の街で暮らし、娘を授かった。
男は幸せだったという。愛する妻と可愛い娘と三人で、何の不満もない生活を送っていた。
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⏰:08/04/30 20:19 📱:SH903i 🆔:xkpfSZAU


#284 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし絶望は突然訪れる。
酔っ払いが運転する車が買い物帰りの妻と娘を轢き、逃げた。
人通りの少ない道だったのが災いし、発見された時には二人とも息絶えていた。
男は自分よりも大切な家族を一度に失ったのだ。

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⏰:08/04/30 20:20 📱:SH903i 🆔:xkpfSZAU


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