よすが
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#320 [蜜月◆oycAM.aIfI]
男が部屋を出てドアを閉めたのを確認してハナがこちらを向いた。大丈夫か、とその目が問い掛けていた。
あたしはハナの目を見つめたまま頷く。
――大丈夫。
袋の中から昼に食べる分だけを取り出し、残りは夜に取っておく。今日の夜にはあたしはいないけれど。
そう思うとまた少し不安になった。
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:08/05/10 01:37
:SH903i
:c20X8gQs
#321 [蜜月◆oycAM.aIfI]
食事を終え、あたしはドアの前に立つ。ハナは部屋の隅で毛布に包まっていた。
緊張と不安が増してきて、心臓の音が聞こえる。自分の息遣いが荒いのがわかる。
目線は丸いドアノブに集中していた。
銀色のノブがゆっくりと回った。あたしは瞬時に振り向いてハナを見たけれど、彼女の顔は毛布に埋(うず)められていた。
それだけ確認するとすぐにドアに目線を戻す。向こう側のノブにかけられた男の腕が見えた。
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:08/05/10 23:39
:SH903i
:c20X8gQs
#322 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――上手くいきますように……。
そう願いながら、光のある外へと足を踏み出す。雨は止んでいた。
男が優しく微笑んであたしを見下ろしていた。自然とその大きな手を握る。
繋いだ手から緊張が伝わらないだろうか、そう心配になったけれど男はいつも通りだった。
あたしたちはいつものコースに向けて歩き出した。
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:08/05/10 23:40
:SH903i
:c20X8gQs
#323 [蜜月◆oycAM.aIfI]
はずだった。
けれど何時間か歩いた後、男はあたしの手を放した。いつもなら絶対に逃がさないあたしの手を、その日は何故か自由にさせた。
「パパちょっと疲れたから、向こうで遊んでおいで」
男は体を屈め目線をあたしに合わせてそう言った。その顔は本当に疲れているように見えた。
やつれているし、目の下のクマが濃い。
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:08/05/10 23:41
:SH903i
:c20X8gQs
#324 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしとハナの企みがバレているのだろうかと不安になったけれど、男の目に怒りや憎しみは見えなかった。
むしろ寂しそうな、悲しそうな感じがして、あたしは男が可哀相に思えて言葉をかけた。
「パパ? ……大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。行っておいで……」
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:08/05/10 23:41
:SH903i
:c20X8gQs
#325 [蜜月◆oycAM.aIfI]
男はとうとう木の根に腰をおろして、頭を抱えてしまった。
あたしはこのまま逃げてしまおうか、そう考えたけれど、ハナに何も言わずここから去るのは嫌だった。
――戻ってこよう。
うずくまる男から視線を外して、あたしは自由になった体で歩き出した。
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:08/05/11 22:15
:SH903i
:1rttUfes
#326 [蜜月◆oycAM.aIfI]
一人で森を歩けるのが嬉しくて、あたしは随分遠くまで来てしまっていたらしい。
男が来てあたしに声をかけた。
『ユウコ、もう暗くなるよ』
――あぁ、あの夢はこの時だ。最後の日だったんだ。
指輪が光る手をとり、あたしたちはコンクリートの箱に帰ろうと山道を歩く。
木の向こうにコンクリートが見えてもう少しで着く、というところで男が豹変した。
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:08/05/11 22:15
:SH903i
:1rttUfes
#327 [蜜月◆oycAM.aIfI]
頬を平手打ち――痛い――また頬を――耳がちぎれそう――引っ張らないで!――押し倒され――頭を地面に打った――割れそう――背中に激痛――目に液体が――血!――お腹――肩――腿――頭――痛――止まらない――脇腹――嫌な音――もうやめて!
――意識を失いそうだった。
あたしはやはり謝り続けていたけれど男の手はいつまでたっても止まることなく、あたしは、死を覚悟した。
その時。
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:08/05/11 22:16
:SH903i
:1rttUfes
#328 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「パパ!」
ハナの……声だ。
「パパ、やめて!」
あたしの体に降り注いでいた痛みが止み、男が振り向いた気配を感じた。血が目に膜を張ってよく見えない。
:08/05/12 22:14
:SH903i
:58D7rq3M
#329 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ユウコ……」
「パパ、やめて。あたしの大事な友達なの」
ハナの声が少し震えている。でもその言葉ははっきりとあたしの耳に届いた。
――やっと……きた。
これがあたしたちの考えた方法だった。
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:08/05/12 22:16
:SH903i
:58D7rq3M
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