よすが
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#367 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナに体を預けてあたしは歩く。が、歩いているという意識は薄かった。ひとりでに動く二本の足が体を運ぶ。
だらんと首を下げて進むあたしの足元は、明るくなり、暗くなり、明るくなる。
頭を少し上げてみると細い道の脇に街灯がひとつあり、三十歩程先にもひとつ、そのまた先にもひとつ。
それが無ければあたしたちは脇の茂みの中に落ちてしまっていただろう。
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:08/05/21 18:18
:SH903i
:5BNBitiM
#368 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの喉はゼェゼェと音を立て、ハナの方からも微かだけれどハァハァと聞こえてくる。
黙々と歩き続けた。
目的地はどこ? いつまで歩けばいい?
そんなあたしの気持ちに気付かず、ハナは迷いなく進んでゆく。
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:08/05/21 18:19
:SH903i
:5BNBitiM
#369 [蜜月◆oycAM.aIfI]
痛いくらいの寒さが体を震えさせる。すでに指先は感覚を失っていた。
未だ登り坂の終わりは見えず、あたしたちは街灯の明かりを頼りに夜の山道をひたすら進んでいた。
細かった道幅はさらに狭まり、今ではあたしとハナが並んで歩くのがやっとだ。
ハナは茂み側を慎重に、しかし多少焦りながら歩いているようだった。
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:08/05/21 19:57
:SH903i
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#370 [蜜月◆oycAM.aIfI]
けれどある場所で、ハナの歩みが止まった。
ここは道の途中だろうか?
少し先で街灯が白い光を浮かべている。
再び崩れ落ちるあたしの体を、ハナは同じようにゆっくりと寝かせてくれた。
体は限界に近づいていて、今すぐにでも眠ってしまいそうだ。
ダランと転がるあたしの横にハナがしゃがみ込んで、手を握りしめられる。
「……ハナ……」
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:08/05/21 19:58
:SH903i
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#371 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「お別れだね」
あたしの呼吸の間から、小さくくぐもったハナの声が聞き取れた。
「ヤダ……一緒じゃないと……」
「ごめんね、ユキ。あたしは帰れない」
「……嫌だ……!」
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:08/05/21 19:59
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#372 [蜜月◆oycAM.aIfI]
胸が苦しくなって涙が溢れてくる。
ハナに伝えたいことはたくさんあるのに、声にならない。
「……ハナ……行かないで……」
「ユキ、よく聞いてね」
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:08/05/21 19:59
:SH903i
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#373 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの手を握るユキの力が強まった気がした。
聞こえてくる音が水中にいるように感じさせる。
少し上にあるハナの顔を見つめて小さく頷いた。
「あたしとユキはここで一旦お別れなの」
その言葉に、また涙が溢れる。
けれどあたしは口をきつく結んでまた頷く。
もうこれで最後かもしれないハナの声を、聞き逃す訳には行かなかった。
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:08/05/21 20:00
:SH903i
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#374 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ユキはきっと助かる。誰か大人の人が見つけてくれて、病院に運んでくれる」
一言も聞き漏らさないように、無心で耳を傾ける。
涙をしゃくり上げる声を押し殺し、ハナの声だけに意識を集中する。
「助かって、目が覚めたら、あたしのことは忘れて。絶対に忘れてね」
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:08/05/21 20:01
:SH903i
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#375 [蜜月◆oycAM.aIfI]
催眠にかけられたように、あたしは空っぽの頭で何を考えることもなく、ただハナの言葉に頷く。
彼女の声があたしの脳を直接震わせる。
「お父さんとお母さんのことは忘れないで、二人を心配させちゃダメだよ? あたしのことだけ、全部忘れて」
忘れる。ハナを、忘れる。
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:08/05/21 20:02
:SH903i
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#376 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「あたしは一緒に帰れないけど、ユキはあの町で、みんなと一緒に生きてね、あたしの分まで生きて……いっぱい生きてね」
生きる。ハナの分も、生きる。
「それでもし、この先あたしのことを思い出すことがあったら、」
……あったら?
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:08/05/21 20:04
:SH903i
:5BNBitiM
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