よすが
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#408 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そう言って、さっきまでしてくれていたあたしの体の心配はどこへやら、腕を掴まれて外へと連れ出された。
鉄製の錆びたドアがサトルの手で開かれると、外は一面闇だった。
腕を引かれて外に足を踏み出すと、そこは確かにあの場所だった。
今日の夕方サトルと見ていたコンクリートの箱、そして十年前ユキと共に監禁されていたその場所に違いなかった。
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:08/05/26 01:55
:SH903i
:190zu.A6
#409 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは掴まれていない方の手でサトルの服の裾をギュッと掴んだ。
それに気付いたサトルがその手を優しく握ってくれる。
「安心して、僕を信じて?」
サトルが俯き気味のあたしの顔を覗き込みながらそう囁いた。
あたしの瞳に差し込まれたサトルの視線には、不安など一切無く、むしろ喜びとか楽しさとかそういったものが込められていた。
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:08/05/26 01:56
:SH903i
:190zu.A6
#410 [蜜月◆oycAM.aIfI]
もちろんあたしはサトルを信じている。信じない理由がない。
だからあたしはサトルに引かれるまま足を進めた。
サトルはコンクリートの箱を取り囲む木々の間に開いたわずかな隙間に体をねじこんでゆく。
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:08/05/26 01:57
:SH903i
:190zu.A6
#411 [蜜月◆oycAM.aIfI]
夕方の薄暗さとは比べ物にならないくらい真っ黒な闇が辺りを満たしていた。弱々しい月の光がかろうじて数歩先までの景色を瞳に映す。
電灯のひとつもなく、あたしは赤い上着を着たサトルの背中を見失わないようにとそれだけに集中して木々の間を縫い歩んでゆく。
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:08/05/26 01:57
:SH903i
:190zu.A6
#412 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしとサトルとを唯一繋いでいる手の平に温かさを感じる。
真冬の山の中、しかも夜。
寒くない訳がないのに、あたしはその手に感じる温度と興奮からくる熱で寒さを忘れていた。
口から漏れる白い息ごしに赤い背中を見つめながら一歩一歩地面を踏み締める。
その行為だけを繰り返していた。
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:08/05/26 01:58
:SH903i
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#413 [蜜月◆oycAM.aIfI]
視線を集中していた赤い背中の前進が急に止まった。
それに倣いあたしも立ち止まると、サトルが顔だけをこちらに向けて小さく囁いた。
「やっと会えるね」
その表情は――暗さのせいで喜んでいるのか悲しんでいるのか判別出来ない。
あたしが戸惑い答えられずにいると、サトルは大きく一歩左に動いた。
繋いでいた手が解かれ、その手は前に進めと促すように先を指差す。
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:08/05/26 01:59
:SH903i
:190zu.A6
#414 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしはサトルの側から離れるのが恐ろしくて、彼の顔を見つめたままその場に立ち尽くしてしまった。
「大丈夫だよ、さぁ」
背中を優しく押され、その力であたしはつんのめりながら二歩、三歩と進んで再び立ち尽くす。
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:08/05/26 01:59
:SH903i
:190zu.A6
#415 [蜜月◆oycAM.aIfI]
真っ暗な闇の向こうを探るように目を這わせた。
何も見えない。そう思った瞬間、何かが落ち葉を踏み締めた音がした。
急に心臓の鼓動が激しくなる。息遣いも荒くなる。
サトルの方を振り返りたいという思いに駆られたけれど、あたしの目は闇の中の一点に引き付けられていた。
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:08/05/26 02:00
:SH903i
:190zu.A6
#416 [蜜月◆oycAM.aIfI]
何か白いもの。
闇の中に白い何かが浮かび上がり、こちらに近づいてくるのが見える。
あたしはすぐ後ろにサトルがいることも忘れて、前方にいる何かから目が放せなくなってしまった。
ガサッ、ガサッ、と音を立てながらだんだんとはっきり見えて来る。
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:08/05/26 02:01
:SH903i
:190zu.A6
#417 [蜜月◆oycAM.aIfI]
自分の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
近づいてきたそれは、
……人間だった。
しかも、あたしにはとても見慣れた姿が……そこにあった。
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:08/05/26 02:02
:SH903i
:190zu.A6
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