よすが
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#690 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしはどの部活動にも属しておらず、いつもなら真っ直ぐ家に帰っている時間だったが、その日は誰もいない教室で一人静かに読書に耽(ふけ)った。グラウンドで活動するサッカー部と野球部、陸上部の声が教室にまで届いている。同じ階にある音楽室からは吹奏楽部による演奏がきこえてきた。
:22/10/25 18:28
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#691 [○○&◆.x/9qDRof2]
しかしひとたび本に集中すると、まわりの雑音は全て消えさり、無音の空間になるだ。そのせいだろう。話し掛けられていることに全く気付かなかった。
「.......大高!」
ハッとして顔をあげると目の前に同じクラスの奥村くんが立っていた。奥村くんはクラスでもかなり目立つほうで、明るく茶目っ気があり、みんなに好かれていた。
:22/10/25 18:28
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#692 [○○&◆.x/9qDRof2]
当然友人も多く、誰とでもすぐにうちとける。わたしみたいに異性と話すときに緊張して口ごもってしまうということがない。彼みたいな人を世渡り上手、というのだろうなと思った。
「あ、やっと気付いた。さっきから何回も呼んでたんだけどさ、シカトされてるのかと思ったよ」
:22/10/25 18:28
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#693 [○○&◆.x/9qDRof2]
突然話し掛けられ口ごもっているわたしを無視して、奥村くんは近くにあった椅子に腰掛けた。
「その本、今日ずっと読んでるね」
「あ、これ、面白いんです」
「だよね、俺も読んだことあるんだ」
「え?」
意外だ、と思った。
「俺、その著者好きなんだよね。知ってる?その人、この樫ノ宮町出身なんだぜ」
:22/10/25 18:29
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#694 [○○&◆.x/9qDRof2]
読み途中のページに指をはさみ、本を閉じて表紙をみた。金色の文字で【永原 愛(ながはらあい)】と印刷されている。奥村くんは【永原愛】について色々な話を聞かせてくれた。
「すごく詳しいんだね。ストーカーみたい」
決してほめたわけではないのだけれど、奥村くんは得意げにふふん、と鼻を鳴らした。
:22/10/25 18:29
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#695 [○○&◆.x/9qDRof2]
家に帰ると、母が調度夕飯の支度を終えたところだった。テーブルの上には父と母とわたしの三人分のサバの味噌煮が並べられていた。サバの味噌煮は父の大好物である。
「あ、梨菜お帰り。ご飯できたからお父さん呼んできて」
「.......わたし、あんまりサバってすきじゃないんだよね」
「いいから早く呼んできなさい!」
:22/10/25 18:29
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#696 [○○&◆.x/9qDRof2]
渋々階段を上がり、父の部屋のドアをドンドン、と叩いた。
「お父さん、ご飯だよ!」
返事はない。今度はドアを開けて呼んだ。なにやら机に向かって読書でもしていたらしい。父は読書家で、部屋には専用に大きな本棚があるのだが、中に入りらない沢山の本が床に積みあげられていた。
:22/10/25 18:29
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#697 [○○&◆.x/9qDRof2]
父が読んでいた本は見覚えのあるコバルトブルーの表紙だった。父もわたしと同じように、読書に夢中になるとまわりが聞こえなくなるのだろう。その時、改めてわたしはこの人の子供なのだと思った。
「お父さん、ご飯出来たってば!」
父はびっくりしたように振り返り、立ち上がった。
:22/10/25 18:29
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#698 [○○&◆.x/9qDRof2]
「.......いま、いくよ」
読みかけのページにボロボロのしおりを挟み本を閉じた。そのしおりはアサガオの押し花で作られていて、わたしがちいさい頃から父はいつもそのしおりを大事そうに使っていた。
「手紙を出してみようと思うんだけど」
:22/10/25 18:30
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#699 [○○&◆.x/9qDRof2]
あの日の放課後以来、わたしと奥村くんは急激に仲良くなっていた。奥村くんと向かい合って座り、 彼はなにやらわたしの机に落書きをしている。
「永原愛に?」
うん、と頷いた。
「俺も何回か出したことあるよ」
「返事は?」
「くるわけないだろ」
:22/10/25 18:30
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