よすが
最新 最初 🆕
#891 [ん◇◇]
これといって欲しい本があったわけではない。わたしは漫画は読んでも、小説のように文字だけで紡がれた物語を読むのは苦手だった。文字の列だけが数百頁にもわたり延々と続いてるだけだなんて考えただけでも瞼が重くなってくる。.......正直、本ならなんでも良かった。そしてこの本に出会ったのは単なる偶然である。

⏰:22/10/25 21:43 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#892 [ん◇◇]
店に入るとすぐ、レジの横に新作の本が何種類か並べられていて、なかでも、一際目を引く一冊があった。綺麗なコバルトブルーのカバーには金色の文字で【bluebird】と書かれており、真ん中には翼を広げて今にも飛び立ちそうな鳥の絵が描かれていた。いわば、一目惚れだった。

⏰:22/10/25 21:43 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#893 [ん◇◇]
本当は適当に安い文庫本なんかを買って、お釣りで漫画本を買おうなどと考えていたのだがそんなことはもう頭になかった。母は小学校の教師をしている。わたしが買ってきた本をみせると「梨菜が漫画以外の本を買うなんて!」と、びっくりしていた。

「に、さん、ページよんで飽きたなんてことにならないといいけどね」と、母は笑ったけれど、そんなことにはならなかった。

⏰:22/10/25 21:44 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#894 [ん◇◇]
読みはじめると、止まらなかった。続きが気になって仕方がなかったのだ。朝の読書時間だけにとどまらず、休み時間にも読み、授業中にも読み、放課後も残って読んだ。わたしはどの部活動にも属しておらず、いつもなら真っ直ぐ家に帰っている時間だったが、その日は誰もいない教室で一人静かに読書に耽(ふけ)った。

⏰:22/10/25 21:44 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#895 [ん◇◇]
グラウンドで活動するサッカー部と野球部、陸上部の声が教室にまで届いている。同じ階にある音楽室からは吹奏楽部による演奏がきこえてきた。しかしひとたび本に集中すると、まわりの雑音は全て消えさり、無音の空間になるだ。そのせいだろう。話し掛けられていることに全く気付かなかった。

⏰:22/10/25 21:44 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#896 [ん◇◇]
「.......大高!」

 ハッとして顔をあげると目の前に同じクラスの奥村くんが立っていた。奥村くんはクラスでもかなり目立つほうで、明るく茶目っ気があり、みんなに好かれていた。当然友人も多く、誰とでもすぐにうちとける。わたしみたいに異性と話すときに緊張して口ごもってしまうということがない。

⏰:22/10/25 21:44 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#897 [ん◇◇]
彼みたいな人を世渡り上手、というのだろうなと思った。

「あ、やっと気付いた。さっきから何回も呼んでたんだけどさ、シカトされてるのかと思ったよ」

突然話し掛けられ口ごもっているわたしを無視して、奥村くんは近くにあった椅子に腰掛けた。

「その本、今日ずっと読んでるね」
「あ、これ、面白いんです」
「だよね、俺も読んだことあるんだ」

⏰:22/10/25 21:45 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#898 [ん◇◇]
「え?」

意外だ、と思った。

「俺、その著者好きなんだよね。知ってる?その人、この樫ノ宮町出身なんだぜ」

読み途中のページに指をはさみ、本を閉じて表紙をみた。金色の文字で【永原 愛(ながはらあい)】と印刷されている。奥村くんは【永原愛】について色々な話を聞かせてくれた。

⏰:22/10/25 21:45 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#899 [ん◇◇]
「すごく詳しいんだね。ストーカーみたい」

決してほめたわけではないのだけれど、奥村くんは得意げにふふん、と鼻を鳴らした。家に帰ると、母が調度夕飯の支度を終えたところだった。テーブルの上には父と母とわたしの三人分のサバの味噌煮が並べられていた。サバの味噌煮は父の大好物である。

⏰:22/10/25 21:45 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#900 [ん◇◇]
「あ、梨菜お帰り。ご飯できたからお父さん呼んできて」
「.......わたし、あんまりサバってすきじゃないんだよね」
「いいから早く呼んできなさい!」

渋々階段を上がり、父の部屋のドアをドンドン、と叩いた。

「お父さん、ご飯だよ!」

⏰:22/10/25 21:45 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194