よすが
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#180 [蜜月◆oycAM.aIfI]
しかし、あたしはこんがらがった感情をその場に置き去りにして、行動を開始した。
サトルがかきわけて出来た枝の隙間をくぐり、彼の横に並んだ。
「ユキは後ろにいなよ。枝で顔に傷ついちゃうよ?」
「いいの、それぐらい」
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:08/04/13 23:46
:SH903i
:HMtueqDg
#181 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしはきっぱりと答えると、目の前を遮る細い枝を押し曲げて道をつくる。
その向こうに張り出している少し太めの枝を、同じように避けて一歩進む。
怖いとか不安だとか、もう何も感じないように、あたしは目の前の障害物に意識を集中した。
サトルも尖った枝から自分の身を守るので精一杯のようで、一心不乱に手と足を動かしている。
一歩一歩、枝や幹を避けながらゆっくりと地面を踏み締める。
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:08/04/14 00:23
:SH903i
:a42MtXbw
#182 [蜜月◆oycAM.aIfI]
数メートル進むのに何分かかっただろうか。
あたしたちの両手がひっかき傷でいっぱいになった頃、目の前にぽっかりと空間が現れた。
空間といっても、直径はあたしとサトルが並んで両手を広げたぐらいだ。
密集している周りの木々と比べ、その内側だけは不自然なほど何も生えていない。
しかし、そこを囲む木の枝が空間のほとんどを覆っていて、明るさはそれほど変わらなかった。
あたしは意を決し、空間に足を踏み入れた。
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:08/04/14 00:24
:SH903i
:a42MtXbw
#183 [蜜月◆oycAM.aIfI]
柔らかい土が、あたしの靴底を受け止める。
思っていたより自分の気持ちが落ち着いていることに、逆に驚く。
ゆっくりと足を進め、あたしは空間の中心に到達した。
茶色い土、太い木、枯れた草、落ち葉。ぐるりと見回しても、それ以外何もない。
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:08/04/14 00:25
:SH903i
:a42MtXbw
#184 [蜜月◆oycAM.aIfI]
この空間の中にあたしは倒れていたのだろう。
二人してこれほど苦労してたどり着いた場所にいたあたしを、なぜ発見出来たのかわからない。
昔はここまで荒れていなかったのだろうか。
それとも散歩中の犬かなにかが嗅ぎ付けたのだろうか。
もし、見つけてもらえなければ多分……あたしも死んでいたかもしれない。
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:08/04/14 00:26
:SH903i
:a42MtXbw
#185 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしはその場に寝転んでみた。
空間のど真ん中に大の字になって、木や葉の隙間から空を仰ぐ。
また何か思い出せるかもしれないと思ったのだ。
横向きに寝転んだり、俯せになったりしてみた。
場所を変えて、木にもたれ掛かってみたり、座ってみたりもした。
けれど、何一つとして浮かび上がってこない。
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:08/04/14 22:28
:SH903i
:a42MtXbw
#186 [蜜月◆oycAM.aIfI]
しばらくの間、ごろごろ転がりながら待ってみたけれど、二度目の変化は訪れなかった。
あたしは諦めて立ち上がり、服についた土を払う。
すると、サトルがなにかを見つけたように木々の間を見つめているのに気付いた。
「どうしたの?」
「ねえ、これ……道じゃない?」
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:08/04/14 22:28
:SH903i
:a42MtXbw
#187 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そう言ってサトルが指差した方をじっくりと観察してみると、トンネルのように一本につながった隙間があった。
わずかにだが、枝が折れていたり靴跡らしきものがあったり、人が通ったかのような痕跡も見て取れた。
――こんなところ、一体誰が通るんだろう?
もしかして、十年前あたしを見つけてくれた人……?
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:08/04/14 22:29
:SH903i
:a42MtXbw
#188 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの目の前に、ひとつの手掛かりが現れた。
それをみすみす逃す訳にはいかない。
「行こう」
ここで立ち尽くしていても何も思い出せそうにもない。
かと言って、このトンネルの先には何も無いのかもしれないけれど。
それでも、自分から動かなければ何も見つけられない。
そう考えたあたしは、この道の先に行くべきだと思ったのだ。
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:08/04/14 22:30
:SH903i
:a42MtXbw
#189 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルがいつもの笑顔で頷くのを見て、あたしは道とも言えない道に足を進めた。
狭いし、飛び出している枝は多いし、足場は悪い。
後ろを振り返るのは難しいけれど、葉や土を踏み締める靴音で、サトルが後ろからついてきてくれているのがわかる。
不安は、無い。
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:08/04/14 22:31
:SH903i
:a42MtXbw
#190 [蜜月◆oycAM.aIfI]
トンネルのようなこの道を進むにつれて、あたしはひとつの確信を得た。
やはりこの道を使っている人がいる。
さっきの空間までの道のりを考えると、今歩いているところはかなり歩きやすかった。
ちょうど人ひとりが通れるギリギリの隙間が続いていて、足元に落ちている葉や草の量も他の場所より少ない。
飛び出している枝はどれも、少し体をひねればうまく避けられる。
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:08/04/15 22:03
:SH903i
:OfU8ov5.
#191 [蜜月◆oycAM.aIfI]
しかし歩きやすいとは言ってもそれはさっきの道と比べてのことで、やはり足場は悪いし時々は枝に引っかかれる。
あたしは顔を歪めながら、ゴールの見えない道を前へ前へと進む。
この道を通っているのは誰か。
その人物は、あたしの過去に関係があるのか。
何かを、知っているのか。
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:08/04/15 22:05
:SH903i
:OfU8ov5.
#192 [蜜月◆oycAM.aIfI]
今はまだ、何も解らない。
けれど、知りたければ進むしかないのだ。
あたしは後ろから響くサトルの靴音を聞きながら、何も考えず歩き続けた。
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:08/04/15 22:06
:SH903i
:OfU8ov5.
#193 [蜜月◆oycAM.aIfI]
足の痛みは、もう既に限界値を越えたように思えた。
この木のトンネルは、どこまで続くのだろう。
歩き続けた末に、あたしもサトルも疲れ果ててしまったが、それでも足を引きずるようにしてさらにゆっくりと進んでいた。
ふとトンネルの先に目をやると、乱立している木々の間から、自然の中にはありえない、灰色のコンクリートのようなものが見えた。
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:08/04/15 22:07
:SH903i
:OfU8ov5.
#194 [蜜月◆oycAM.aIfI]
驚きながらも少しずつ近づいていくと、それはコンクリートで出来た小さな建物だった。
建物の少し手前で、視界が開ける。
最後の木と木の間を通り抜けると、先ほどのものよりかなり大きな空間が現れた。
見上げると、さっきまで全く見えなかった空は、さらに雲を増やし、色を濃くしていた。
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:08/04/16 18:53
:SH903i
:ncWRAm.w
#195 [蜜月◆oycAM.aIfI]
その空間の真ん中に、コンクリートの建物が建っている。
近くで見ると、コンクリートを正方形に固めて壁の一部にドアを取り付けただけのものだった。
天井はどうか解らないが、見えるところに窓は一つも無い。
「なに、これ……」
不気味だった。
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:08/04/16 18:54
:SH903i
:ncWRAm.w
#196 [蜜月◆oycAM.aIfI]
自然しかないと思っていた山の中に、コンクリート製の箱がぽつりと置かれている。
あまりに不釣り合いで現実離れしたその光景に、あたしは次の言葉が出なかった。
それはサトルも同じだったようで、ぽかんとした顔でコンクリートの箱を眺めている。
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:08/04/16 18:55
:SH903i
:ncWRAm.w
#197 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは目の前にある異様な建物に、少なからず恐怖を覚えた。
戸惑いながら、その建物を観察する。
取り付けられたドアの近くに目をやると、焚火の跡のような燃えかすと灰が散らばっていた。
「ちょっと……ここ、誰か住んでるんじゃない?」
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:08/04/16 18:55
:SH903i
:ncWRAm.w
#198 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは小声でサトルに囁き、燃えかすの方を指で指し示した。
それを見たサトルは、驚いた表情でキョロキョロと周りを見回す。
「戻る?」
サトルに言われてあたしは少し迷ったけれど、引き返すのはやめた。
今さっきあたしたちが通ってきた森の中に戻り、木の影からコンクリートの箱を観察することにした。
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:08/04/17 23:00
:SH903i
:XxBpfdyc
#199 [蜜月◆oycAM.aIfI]
しかし、見れば見るほど不気味だ。
箱の高さはあたしの身長より頭三つ分ほど高い。
ところどころにシミがあるのを見ると、それほど新しくはなさそうだ。
ドアは鉄製のようで、かなり頑丈そうに見えた。
――何のために作られたんだろう……?
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:08/04/17 23:01
:SH903i
:XxBpfdyc
#200 [蜜月◆oycAM.aIfI]
人が暮らすには不自由すぎないだろうか?
窓が無ければ中は完全に真っ暗だろうし、コンクリートだけで造られているなら今の時期かなり寒いだろう。
何より、こんな山の中に建てる意味がわからない。
食料を買いに行くだけでもかなり不便ではないか。
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:08/04/17 23:02
:SH903i
:XxBpfdyc
#201 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そんなことを考えながらコンクリートの箱を観察していたが、何の動きもない。
腕に付けていた時計を見てみると、時刻はもうしばらくで夕方の四時になるところだった。
さっきまで汗だくになって歩いていたので、熱が引いた今、汗で濡れた体が冷えてきた。
雲に遮られたせいで太陽の光が全く届かなくなったのもあって、あたしの体はカタカタと震える。
同じように震えているサトルの呟きが聞こえた。
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:08/04/18 22:29
:SH903i
:gqbjt9BM
#202 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ううー、寒いよぅ……」
次の瞬間、トン、という音がしたかと思うと、それは連続した雨音に変わっていた。
あたしとサトルの上を覆い尽くす木の葉は、傘の代わりにはならなかった。
視界は一気に明るさを無くし、大量の水滴があたしの体から更に熱を奪ってゆく。
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:08/04/18 22:30
:SH903i
:gqbjt9BM
#203 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――寒い……暗い……冷たい……
あたしは寒さで朦朧としながら、なんとなく妹のことを考えていた。
――あたしの妹……。
どんな子だったんだろう。あたしと似てたのかな……性格はどんなだったの?
あたしと仲良しだったのかな。
何をして遊んでたのかな……。
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:08/04/18 22:31
:SH903i
:gqbjt9BM
#204 [蜜月◆oycAM.aIfI]
考えれば考える程、悲しくなり、寂しくなった。
妹がいないという事実。十年前から変わらないはずのそれは、ここ何日かで大きな悲しみをまとうようになっていた。
――でも……妹はもっと暗くて寂しくて、もっと冷たい世界に逝ってしまったんだ。
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:08/04/18 22:32
:SH903i
:gqbjt9BM
#205 [蜜月◆oycAM.aIfI]
胸が詰まり、目の中の水分が一気に増えた。
収まりきらなくなった涙は、雨と混じり合いながらあたしの頬を滑り落ちていく。
鳴咽を漏らすこともなく、声を上げるでもなく。
ただ、ひたすら流れ落ちてゆく涙。
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:08/04/18 22:32
:SH903i
:gqbjt9BM
#206 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしたちの視線の先にあるコンクリートの箱は、雨に濡れて濃い灰色になっていた。
あたしは潤んだ目でその壁の一点を見つめたまま、あの病室から始まった自分の人生に想いを馳せた。
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:08/04/18 22:34
:SH903i
:gqbjt9BM
#207 [蜜月◆oycAM.aIfI]
:08/04/18 23:26
:SH903i
:gqbjt9BM
#208 [蜜月◆oycAM.aIfI]
毎日毎日病院に通ってくれた両親。
母は朝から晩まであたしに付きっきりで世話をしてくれた。
面会時間の許す限り、母はあたしの隣にいてくれた。
睡眠も充分に取っていなかったのだろう、母の顔はいつも疲れていた。
けれどあたしの前では、いつも笑顔だった。いつも優しかった。
傷が痛いとうめけば、体をさすってくれた。
一人で寝るのが怖いと言えば、宿泊許可をとって隣で眠ってくれた。
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:08/04/19 22:32
:SH903i
:AmiMOAoA
#209 [蜜月◆oycAM.aIfI]
その優しさは今もずっと変わっていないけれど、一度だけ、母に叱られたことがある。
高校生になってすぐの頃、あたしは仲良くなった友達と遊びに出かけ、帰りが遅くなったのだ。
いつもなら連絡するのだが、その日はたまたま携帯電話の充電が切れていた。
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:08/04/19 22:33
:SH903i
:AmiMOAoA
#210 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは母がどれだけ心配するかなんて少しも考えず、連絡しないままにしてしまった。
友達と別れた後、怒られるかな、なんてのんきに考えながら帰りの電車に乗った。
家に着いて、なぜかあたしは出来るだけ音を立てずにリビングに向かった。
これだけ遅くなったのだから、もう怒られるのは避けられない。
だから、出来るだけ刺激したくないという無意識がそうさせたのだろう。
ドアを開けると、父と母が目を赤くして待っていた。
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:08/04/19 22:34
:SH903i
:AmiMOAoA
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