よすが
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#210 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは母がどれだけ心配するかなんて少しも考えず、連絡しないままにしてしまった。
友達と別れた後、怒られるかな、なんてのんきに考えながら帰りの電車に乗った。

家に着いて、なぜかあたしは出来るだけ音を立てずにリビングに向かった。
これだけ遅くなったのだから、もう怒られるのは避けられない。
だから、出来るだけ刺激したくないという無意識がそうさせたのだろう。
ドアを開けると、父と母が目を赤くして待っていた。
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⏰:08/04/19 22:34 📱:SH903i 🆔:AmiMOAoA


#211 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
……泣いていたのだろう。
それを見て、あたしはなんてことをしてしまったのだろう、と激しく自分を責めた。
その時初めて母に叱られたのだった。

そういえばその次の日、母は「はい、これプレゼント!」と言って持ち運べる充電器をくれたんだっけ。
母の優しさを形にしたそのプレゼントは、あたしが肩にかけているバッグの中に今も入っている。

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⏰:08/04/19 22:34 📱:SH903i 🆔:AmiMOAoA


#212 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
父は、いつも忙しそうだった。
飲食関係の仕事をしていたので、土日はいつも家にいなかった。
朝早く家を出て、夜中になってやっと帰ってくる。
あたしはそれが淋しかったけれど、平日にたまに早く帰って来て外食に連れていってくれる父が大好きだった。
もちろん、今も大好きだ。

そう考えると、あたしがまだ入院していた時はかなり無理をしていたのだろうか。
曜日に関わらず、いつも夕方には病院に来てくれていた。
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⏰:08/04/19 22:35 📱:SH903i 🆔:AmiMOAoA


#213 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
仕事先からそのまま来ていたので、あたしにとってその頃の父といわれて思い出すのは、飲食店特有の、油の匂い。

母は、臭いからシャワー浴びてから来てよね、などと散々文句を言っていたけれど、あたしはその匂いも引っくるめて父が大好きだった。
油まみれの仕事着を来た父に抱き着いて、息を思いきり吸い込む。
それが、父が病室に来たらまず一番にする、あたしの日課だった。

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⏰:08/04/19 22:36 📱:SH903i 🆔:AmiMOAoA


#214 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そんな父と母に守られながら、あたしは生きてきた。
退院してからもそれは変わらなかったけれど、もう一人、あたしの側にいてくれる人が増えた。
それが、サトル。

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⏰:08/04/20 01:35 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#215 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルとの出会いは、いきなり訪れた。
新しい学校に初めて登校する日、サトルがあたしの家に迎えにきた。
あたしは久しぶりの学校に緊張していて、朝からずっと泣きそうだったのを覚えている。
そんなあたしに母が、新しいお友達よ、と言ってサトルを紹介してくれた。
サトルは、今はもう見慣れたあの人懐っこい笑顔で、「サトルです! ユキちゃんよろしく!」と言って、学校まであたしの手を引いてくれたっけ。
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⏰:08/04/20 01:36 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#216 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
どうして母がサトルを知っていたのかあたしは知らないけれど、そのおかげで今となっては一番の友達だ。

サトルはひとつ年下なので、学校ではあまり顔を合わさなかったけれど、行き帰りや休日はほとんど一緒だった。
あたしが同じ学年の友達と遊ぶ時でも、サトルはみんなに混じって遊んでいた。
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⏰:08/04/20 01:36 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#217 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルとは中学校も同じで、あたしに合わせたんじゃない、と本人は言っていたけれど、部活まで一緒だった。同じ、バレーボール部。
サトルは運動神経が良いからか、どの試合でも活躍していた。
あたしはといえば、万年補欠。
なぜバレーボール部に入ったのか、と聞かれてもおかしくないほど下手だった。
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⏰:08/04/20 01:37 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#218 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
情けなくも、あたしはサトルにコーチを頼んで秘密の特訓をしてもらったことがある。
そのおかげか、中学生活最後の試合で、あたしは初めてスタメンに選ばれたのだった。


こうして思い返しても、サトルはいつも側にいてくれた。
サトルとの思い出は、楽しいものばかり。
ケンカなんて一度もしたことがない。
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⏰:08/04/20 01:38 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#219 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルがあたしを理解してくれているからだろう、と思う。
あたしはサトルのことを理解出来ているだろうか?

いや、出来ていないだろう。
サトルは喜怒哀楽が激しいように見えて、実は感情を抑えているような気がする。
あたしの気のせいかもしれないけれど。



「ユキ? ……ユキ! ユキ!」
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⏰:08/04/20 01:39 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#220 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルがあたしを呼んでいる。

――でも……なんで? 返事が出来ない……。
熱い……体が重い……。


コンクリートの一点を見つめながら、あたしの体はゆっくりと水溜まりの中に倒れ込んだ。
遠くであたしを呼ぶ声がする。

これは……サトルの声?

いや、違う。この声は――。



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⏰:08/04/20 01:39 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#221 [蜜月◆oycAM.aIfI]

まとめ(・ω・*)

>>149

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⏰:08/04/20 01:42 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#222 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
―X―


「ユキ? ……ユキ! ユキ!」

目の前でユキが倒れ、サトルは慌てて彼女の体を抱き上げた。
泥がつくのも気にせず、彼女の軽い体を自分の両手と胸で支える。
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⏰:08/04/20 23:05 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#223 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
何度名前を呼んでも、反応がない。
ユキの頬は紅潮し、息遣いもかなり荒くなっていた。
はっとした表情で、サトルはユキの額に手を当てた。

「ユキ……」

彼女の額は、熱を帯びていた。
冷たい雨に打たれて、熱を出してしまったようだ。
サトルは慌てて自分が着ていた上着やマフラーを外し、ユキの体に巻きつけていく。
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⏰:08/04/20 23:06 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#224 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――こんな山の中で……どうしよう! 早く乾かさないと! ていうか着替えさせないと!

サトルは焦っていた。
まだ雨は降り続いている。
早くどうにかしないと、ユキが死んでしまうんじゃないかと思っていた。
その時。

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⏰:08/04/20 23:06 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#225 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「大丈夫!? どうしたの!?」

コンクリートの箱がある方から、雨の音に紛れて女性の声がサトルの耳に届いた。

「倒れてるじゃない! しっかりして!」

彼は自分の耳を疑った。

――さっきまで人の気配なんてしなかったのに、ていうかなんでこんな山奥に女性が?
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⏰:08/04/20 23:10 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#226 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれど、サトルが振り返ると、そこには確かに女性の姿があった。
大粒の雨が空から降り注いでいるというのに、女性は全く気にしていない様子で、水を浴びながらこちらに向かって足早に近づいてくる。


「あ……いや……」

サトルは言葉を失った。
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⏰:08/04/20 23:11 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#227 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
その理由は、女性の容姿に目を奪われてしまったからだ。

女性がこちらに近づいてきたせいではっきりと全身を確認することが出来る。
その女性は、サトルと同じくらいの年齢に見えたが、しかし彼の身の回りにいる女性たちとは全く違っていた。
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⏰:08/04/20 23:11 📱:SH903i 🆔:bC7weAIo


#228 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
伸びきってボサボサに絡まりあった汚らしい髪。
爪はボロボロ、両手は小さく赤い切り傷がいくつもあり、何かの模様のようだ。
こちらに近づく前に彼女を女性だと認識させたロングスカートは、ところどころに土や泥がついている。裾もすっかり破れてボロボロだ。
上半身にはニットのセーターを着ているが、毛糸はほつれ、いくつもの穴があいていて、腕や腹の皮膚を剥き出しにしている。

全てにおいてみすぼらしい。
しかしそんな服装や髪型に反して、彼女の顔はとても美しかった。
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⏰:08/04/21 21:45 📱:SH903i 🆔:BUaVqwCg


#229 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
手と同様いくつかの切り傷は見られるものの、日光を知らないかのような肌の白さによって、赤く鋭い傷はまるで美しさを際立たせる飾りのようにも見えた。

目は切れ長で大きく、意思の強さを感じさせる。
スッと筋の通った鼻からは、隠された品の良さが見受けられた。
唇は薄く、しかし存在感があり、笑顔はさらに美しいだろうということを簡単に想像させる。
眉は整えられていないが、それに気付かないほど、彼女の顔は麗しい。

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⏰:08/04/21 21:46 📱:SH903i 🆔:BUaVqwCg


#230 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし、サトルが言葉を失ったのはその美しさのせいではなかったし、もちろん、服装の汚らしさとのギャップのせいでもなかった。


彼女の顔は、サトルの幼なじみに瓜二つだったのだ。


「まさか……君は――」


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⏰:08/04/21 21:47 📱:SH903i 🆔:BUaVqwCg


#231 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
***



綺麗なオレンジ色の夕焼け空の下。
あたしの目の前には、大きな木がある。
大きな、大きな大きな木。
見上げても、てっぺんが見えない。
枝や葉が、今にも襲い掛かってきそうな程繁っているのが見えるだけ。
こんな立派な木は見たことない。
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⏰:08/04/21 21:50 📱:SH903i 🆔:BUaVqwCg


#232 [蜜月◆oycAM.aIfI]
足元に目をやると、地面がすぐ近くにあった。
落ちている葉のひとつひとつがとても大きい。

――この靴……懐かしい。

あたしが好きだった子供向けのキャラクター。
リボンをつけたうさぎが体ほどもある人参を抱えている絵がプリントされた、あたしのお気に入りの靴。
それを、どうして今、あたしは履いているんだろう。
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⏰:08/04/21 21:50 📱:SH903i 🆔:BUaVqwCg


#233 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ふと自分の手や体を見て気付く。

――今、あたし……小さい頃の姿に戻ってる?


一瞬、タイムスリップしたのかと驚いたけど……。
多分、夢を見ているんだろう。
このぼんやりした感覚は、きっとそうだ。
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⏰:08/04/22 23:09 📱:SH903i 🆔:.2zmGT5A


#234 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
身につけているものをひとつひとつよく見てみると、昔着ていたものばかりだった。
首に巻かれた毛糸の赤いマフラーも、ラインの入った白いセーターも、赤と緑のチェック模様のスカートも、白い水玉が編み込まれた黒いタイツも。

好きで毎日着たがったものもあれば、母に無理矢理着せられていたものもある。
懐かしさに浸っていると、誰かの長い影があたしの影に重なった。
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⏰:08/04/22 23:09 📱:SH903i 🆔:.2zmGT5A


#235 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
『ユウコ、もう暗くなるよ』

振り返ると、見知らぬ大柄の男が立っていた。
今のは、あたしに向けられた言葉のようだ。

――ユウコ?
あたしはユウコじゃない、ユキだよ。
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⏰:08/04/22 23:10 📱:SH903i 🆔:.2zmGT5A


#236 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そう思いながらもなぜか逆らうことが出来ず、あたしは自分を“ユウコ”と呼んだ男が差し出した手を取った。
夕日を背に立っている男の顔は、逆光のせいでよく見えない。
表情もわからないけれど、なんとなく微笑んでいるような雰囲気が感じられた。

そのかわり、差し出した左手の薬指に光る指輪に、あたしの視線は捕らえられた。
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⏰:08/04/22 23:10 📱:SH903i 🆔:.2zmGT5A


#237 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
夕日を反射してキラキラ輝くそれは、今まで見たことが無いほど美しい。
男のゴツゴツとした手にはとても似合わない。
けれど、何の石も背負わないそのシルバーの細い輪っかは、男の指にしっかりとはまっていた。

男は、あたしの手をギュッと握りしめて歩き出した。
何も言わず男の行動に従うあたし。
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⏰:08/04/22 23:11 📱:SH903i 🆔:.2zmGT5A


#238 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――今は大丈夫だ。



え?

……今は?

あたしは確かに今、そう思った。
けれど、全く意味が解らない。今のはあたしの意識ではない。
でもあたしじゃないなら一体誰の?
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⏰:08/04/22 23:12 📱:SH903i 🆔:.2zmGT5A


#239 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そう思ったけど、あたしは考えるのをやめた。
これは夢だ。夢というのは有り得ないことが起きても良い世界なんだ。
そして夢というものは、しばしば現実とリンクする。現(げん)に今、あたしは過去のあたしを夢に見ている。
このまま夢に飲み込まれてしまえば、この世界で全ては明らかになるんじゃないか。
あたしはそれを期待し、夢の世界に潜っていく。


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⏰:08/04/23 13:04 📱:SH903i 🆔:n.zKpr4g


#240 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
小さな体のあたしは、男の大きな手に引かれながら坂道を歩いている。
あたしの小さな影と男の大きな影が、足元から進む先に向かって長く延びていた。
あたしは自分の影の頭を踏もうと、出来る限り歩幅を広げてみたけれど爪先さえ届かない。
そうこうしている内に、ただの遊びにいつの間にか真剣になってしまっていた。
躍起になって、飛んだり走ったりして影を追う。

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⏰:08/04/23 13:05 📱:SH903i 🆔:n.zKpr4g


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