よすが
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#302 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
違う。

止めなかった。


あたしは自分が大事だったんだ。

ハナがどんな思いでそこに立っているかなんて考えもせず、あたしはただ彼女の背中を罪悪感のこもった瞳で見つめるだけだった。
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⏰:08/05/05 00:13 📱:SH903i 🆔:Nqg5T9kk


#303 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
正気を取り戻した時の男が言うには、あたしとハナは彼の娘に似ているらしかった。年齢も同じくらいで、髪もちょうど同じ長さだった。
特にハナは、雰囲気や仕草がとてもよく似ていると男は悲しげに笑っていた。

ハナはそれを知った上で、毎回、自ら狂った男の手を握りドアを閉めた。あたしに笑いかけながら。

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⏰:08/05/05 23:27 📱:SH903i 🆔:Nqg5T9kk


#304 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしは心のどこかでそれを喜んでいたのだ。ハナがあたしの身代わりになって暴行を受けることを、ラッキーだと思っていたのだ。

――あの時ハナを止めていれば……こんな結果にならなかったのかな……?


そしてこの事件はあたしとハナにとって最悪の終わりを迎える。
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⏰:08/05/05 23:28 📱:SH903i 🆔:Nqg5T9kk


#305 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
男の狂った行動に何度も何度も付き合わされ、あたしたちは憔悴し切っていた。
コンクリートの中の闇と寒さ、男の加減を知らない暴力、そして終わりの見えない不安は、あたしを絶望させるのには充分過ぎるほどだった。

四、五日目までは、いつか解放されるだろうと思っていた。
男が正気を取り戻した時の優しさは、あたしたち二人を両親の元に返してくれるかもしれないと思わせた。
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⏰:08/05/05 23:28 📱:SH903i 🆔:Nqg5T9kk


#306 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
しかし一週間を過ぎた頃から、男は「もう戻れない」、「死ぬしかない」、そんな言葉をぼそっと独り言のように呟くことが多くなっていた。
男は正気と狂気の間を行ったり来たりしているかに見えていたけれど、その頃にはもう完全に、狂気に飲み込まれていたのだろう。
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⏰:08/05/06 22:29 📱:SH903i 🆔:1bdF9NU6


#307 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
だんだんおかしくなっていく男の様子に、あたしはさらに絶望を感じ始める。
男の独り言がじわりじわりと洗脳のようにあたしの意識に染み込んで、「もう戻れない」、「死ぬしかない」、いつの間にかあたしもそればかり呟くようになっていた。
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⏰:08/05/06 22:30 📱:SH903i 🆔:1bdF9NU6


#308 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナはその頃、あたしや男のように絶望するでもなく常に何か考え事をしているようだった。
あたしは自分のことしか考えられない状態でそんなハナの様子など気にも留めていなかったが、ある雨の日、彼女が日々何を考えていたのかが明らかになる。

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⏰:08/05/06 22:30 📱:SH903i 🆔:1bdF9NU6


#309 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
その日はあたしたちが誘拐されてから初めて雨が降った。雨足は強く、コンクリートに打ち付けられる雨粒の音がうるさかった。
箱の中はジメジメとして、寒さと合わさりあたしたちを一層凍えさせた。
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⏰:08/05/08 00:18 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#310 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
ハナは懐中電灯を床に立てて天井を照らしたまま、体育座りした体に毛布を巻き付けて黙り込んでいる。
その頃にはあたしたちの体は傷と痣で埋め尽くされていた。ハナは痛みを口に出さないので解らないけれど、あたしは二日前から右脇腹に激しい痛みを感じていた。
あたしはハナの顔の痣をぼーっと見ながら、毛布に包まって寝転んでいた。
どうしようもないこの状況のせいで、あたしの頭は空っぽだった。何かを考える気力さえ失っていたのだ。
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⏰:08/05/08 00:19 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


#311 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
時間は多分朝九時か十時ぐらいだったと思う。
雨音が室内に響く中、ハナが意を決したように口を開いた。

「家に帰りたい?」

こちらを見ることもなく彼女は突然問い掛けた。
あたしは彼女の顔を見つめたまま答えた。

「帰りたいよ」
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⏰:08/05/08 00:19 📱:SH903i 🆔:hl2laBBQ


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