よすが
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#311 [蜜月◆oycAM.aIfI]
時間は多分朝九時か十時ぐらいだったと思う。
雨音が室内に響く中、ハナが意を決したように口を開いた。
「家に帰りたい?」
こちらを見ることもなく彼女は突然問い掛けた。
あたしは彼女の顔を見つめたまま答えた。
「帰りたいよ」
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:08/05/08 00:19
:SH903i
:hl2laBBQ
#312 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そう言ったものの、それは絶対に不可能なことだと思い込んでいた。
あたしにはもう希望のかけらも無かったのだから。
「ユキ、お母さんとお父さんを安心させてあげてね。あたしは帰れないけど、ユキ一人なら逃げられるから」
――逃げられる? まさか。無理に決まってる。
あたしはユキの言葉を胸中で否定してから耳を疑った。
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:08/05/08 00:20
:SH903i
:hl2laBBQ
#313 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「あたし一人……? それどういう意味? ハナは帰れないってどういう意味!?」
ハナの腕を掴んで問い質(ただ)す。自分の体に巻きつけていた毛布が滑り落ちたのにも気付かなかった。
ハナが自分の腕を掴むあたしの手を優しく外し、毛布をかけてくれる。
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:08/05/08 20:45
:SH903i
:hl2laBBQ
#314 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「あたしが逃げようとしたらあの人多分追いかけて来ると思う。でもユキだけなら大丈夫。あたしが何とかするから」
「何とかって……何とかってなによ!? ハナだけ置いていける訳ないじゃない! っつう……」
大声を出すと右脇腹に刺されたような痛みを感じて床に倒れ込んだ。
「ユキ、わかってるでしょ? あたしよりユキの方が怪我酷いの。あの人、あたしには本気で殴れないんだよ。
……このままだとユキが死んじゃう」
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:08/05/08 20:46
:SH903i
:hl2laBBQ
#315 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ハナの表情に悲しみと戸惑いが見えた。
薄々は気付いていた。ハナの傷があまり多くないこと。
やっぱりハナの方が亡くなった娘に似ているから……。
あたしは手をついて体を起こした。
「でも……やっぱりハナを置いていけないよ。あたしが逃げたってわかったら、ハナ……何されるかわからないじゃない」
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:08/05/08 20:47
:SH903i
:hl2laBBQ
#316 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「お母さんとお父さんが心配なんだよ。ユキが帰れば二人も少しは安心すると思う」
ハナは頑として譲らなかった。
でも、でも、とあたしは反論したけれどハナの意志は強かった。
結局、あたしだけが逃げると二人で決めた。
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:08/05/08 20:47
:SH903i
:hl2laBBQ
#317 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――あの時どうにかしてハナを説得出来ていれば……あたしが逃げないと言い張れば……
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:08/05/08 20:48
:SH903i
:hl2laBBQ
#318 [蜜月◆oycAM.aIfI]
どうやってあたしを逃がすつもりなのかハナに問うと、ハナはゆっくりと説明を始めた。
懐中電灯を二つ点し、あたしたちは慎重に作戦を練る。
成功するかどうかは賭けだ。男の反応に全てがかかっていた。
ハナは必ず成功すると信じていたから、あたしもハナを信じることにした。
――今日、男が来た時が勝負だ。
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:08/05/10 01:36
:SH903i
:c20X8gQs
#319 [蜜月◆oycAM.aIfI]
鉄製のドアにガチャガチャと鎖のぶつかる音がして、それが聞こえなくなると暗闇の中に一筋光が射した。
――来た。
ドアに繋がれていた鎖とスーパーの袋を手に持って、男が部屋に入ってくる。いつもの光景だ。
無表情な男は惣菜やパンが詰められた袋を床にドサッと置いてその隣に鎖を投げた。
金属とコンクリートがぶつかり合う嫌な音が響いて、あたしは体を強張らせた。ひどく緊張している。
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:08/05/10 01:37
:SH903i
:c20X8gQs
#320 [蜜月◆oycAM.aIfI]
男が部屋を出てドアを閉めたのを確認してハナがこちらを向いた。大丈夫か、とその目が問い掛けていた。
あたしはハナの目を見つめたまま頷く。
――大丈夫。
袋の中から昼に食べる分だけを取り出し、残りは夜に取っておく。今日の夜にはあたしはいないけれど。
そう思うとまた少し不安になった。
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:08/05/10 01:37
:SH903i
:c20X8gQs
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