よすが
最新 最初 🆕
#371 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「お別れだね」

あたしの呼吸の間から、小さくくぐもったハナの声が聞き取れた。

「ヤダ……一緒じゃないと……」

「ごめんね、ユキ。あたしは帰れない」

「……嫌だ……!」
.

⏰:08/05/21 19:59 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#372 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
胸が苦しくなって涙が溢れてくる。
ハナに伝えたいことはたくさんあるのに、声にならない。

「……ハナ……行かないで……」

「ユキ、よく聞いてね」
.

⏰:08/05/21 19:59 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#373 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしの手を握るユキの力が強まった気がした。
聞こえてくる音が水中にいるように感じさせる。
少し上にあるハナの顔を見つめて小さく頷いた。

「あたしとユキはここで一旦お別れなの」

その言葉に、また涙が溢れる。
けれどあたしは口をきつく結んでまた頷く。
もうこれで最後かもしれないハナの声を、聞き逃す訳には行かなかった。
.

⏰:08/05/21 20:00 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#374 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ユキはきっと助かる。誰か大人の人が見つけてくれて、病院に運んでくれる」

一言も聞き漏らさないように、無心で耳を傾ける。
涙をしゃくり上げる声を押し殺し、ハナの声だけに意識を集中する。

「助かって、目が覚めたら、あたしのことは忘れて。絶対に忘れてね」
.

⏰:08/05/21 20:01 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#375 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
催眠にかけられたように、あたしは空っぽの頭で何を考えることもなく、ただハナの言葉に頷く。
彼女の声があたしの脳を直接震わせる。

「お父さんとお母さんのことは忘れないで、二人を心配させちゃダメだよ? あたしのことだけ、全部忘れて」

忘れる。ハナを、忘れる。
.

⏰:08/05/21 20:02 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#376 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「あたしは一緒に帰れないけど、ユキはあの町で、みんなと一緒に生きてね、あたしの分まで生きて……いっぱい生きてね」

生きる。ハナの分も、生きる。

「それでもし、この先あたしのことを思い出すことがあったら、」


……あったら?

.

⏰:08/05/21 20:04 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#377 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「……その時は、迎えに来て。あたしはいつまでも待ってるから。何年先でもあたしはあそこで、ユキを待ってるから」


その時、静寂に包まれていた森の中、冬の冷たい空気を震わせて大きな爆発音が響いた。
と同時に真っ黒だった空が一瞬にして真っ白に光る。いや、黄、赤、青、何色もの光が混じり合った明るい空……。
.

⏰:08/05/21 20:04 📱:SH903i 🆔:5BNBitiM


#378 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
花火。
それに続いて、いくつもの光の花が空に舞う。体の芯を揺さぶる低い爆発音とともに。
あたしの薄く開いた目に、無限に散らばる光の花びらが舞い込んできた。

花火が弾ける度に、辺りの景色は明るく照らされた。
いきなり現れた花火に驚き目を奪われているハナの横顔も、鮮やかに染められる。
あたしは赤や青の光をうけて輝くハナの顔を見ていた。
.

⏰:08/05/22 00:09 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#379 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「お祭りかな……」

音と光の洪水の中、見つめていた顔がぽつりと呟く。
あたしの頭は体に響く振動と眩しい閃光で朦朧とし始めていた。
ハナの顔がこちらに向けられたような気がする。
.

⏰:08/05/22 00:10 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


#380 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「忘れてね、あたしを。でも、あたしはいつでも待ってるから」

再びあたしの体に力が加わる。
けれどあたしはその直後、全ての感覚を断ち切って闇の世界へと旅立った。

.

⏰:08/05/22 00:11 📱:SH903i 🆔:D09uoF5Q


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194