よすが
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#458 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれど、ハナは父を前にすると苦痛を感じてしまうのだ。
彼女は、犯人の男を憎んでいるつもりも恨んでいるつもりも、ましてや恐怖を感じているつもりもない。
そして彼女自身は自分の父とともに過ごしたいと望んでいるのに、心に残された傷痕が悲鳴をあげて暴れ出す。

長い間共に生活し、そのせいで心の表面は犯人の男を受け入れた。
しかし奥深く、心の深層では男に恐怖を感じているのだ。
そしてその恐怖の対象に、父も入れられてしまった。
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⏰:08/06/12 05:15 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#459 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
父の悲しみは深く、あたしや母にもそれを埋めることは出来なかった。
そしてまたハナ自身も、会いたいのに会えない、自分の感情と苦しみの板挟みに哀しんでいた。

しかしここ数日の間に、ハナは父と会話し、お茶を飲み、食事をともにするところまで回復していた。
あたしは今希望を掴んでいる。また家族四人揃って一緒に暮らせる希望を。



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⏰:08/06/12 05:16 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#460 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルがドアの横のチャイムを鳴らすと、パタパタとスリッパの音が聞こえ、ドアが開かれた。

「お帰り」

「ただいま!」

ハナの出迎えにまずサトルが答えてドアをくぐる。
あたしもそれに続き、今ハナが一人で暮らしている部屋に入る。
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⏰:08/06/12 05:16 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#461 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ただいま。これ、スーパーで買って来たよ。足りないものある?」

一人で暮らしていると言っても、今のハナは一人で外出もままならない。
生活費は両親に出してもらっていて、必要なものがあるとあたしが学校帰りに買って届ける。
初めは母が届けていたけれど、いつの間にか毎日来ているあたしが届けるようになっていた。

「ありがと。……シャンプーと、歯磨粉と……洗剤。うん、大丈夫、完璧だよ」
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⏰:08/06/12 05:17 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#462 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
今日もハナの笑顔が見られた。
十年間見ることが出来なかった笑顔を、これから先少しでも多く見ていたい。
あたしはそう思っている。

マンションは五階建てで、ハナは最上階の部屋を使っていた。
ワンルームキッチン付きのあまり広くはない部屋だけれど、荷物が少ないせいか狭くも感じない。
ベッドと、小さなテーブルと小さな引き出し式の棚。その上に電話機があり、洋服なんかはクローゼットにしまってある。
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⏰:08/06/12 05:17 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#463 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「今日は僕が話したげる! ……ユキの失敗話、聞きたい?」

サトルはベッドにもたれながら、隣に座るハナに顔を向けた。

あたしたちはあの時の約束通り十年間を分かち合うべく、この部屋に来ては自分たちの今までに起きたいろいろな話を教え合った。
サトルが来た時はいつも、彼があたしの笑い話や失敗話を披露してくれるのだけれど、あたしは毎回必ず恥ずかしい思いをさせられる。
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⏰:08/06/12 05:18 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#464 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「もういいよ〜あたしの変な話は……あ、サトルの話にしない?」

あたしは仕返しにサトルの恥ずかしい話をしてやろうとハナにニヤリと笑いかけた。
選択を迫られたハナは、あたしとサトルの顔を見比べながら悩んでいる。
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⏰:08/06/12 05:19 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#465 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うーん……どっちも聞きたい!」

まるでサトルのようなハナの答えに、あたしたちは小さなテーブルを囲んで笑いあう。

「じゃあ僕からね! あのねーユキが高校に入学した時に……」
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⏰:08/06/12 05:19 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#466 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

あたしとサトルがお互いの暴露話を次々と繰り出しあたしたちは小さな部屋の中笑い転げていた。
そんな状態に一区切りついた時、ハナがおずおずと切り出す。

「あのね、昨日思い出したことがあるんだ……あの人が死んだ時のこと考えてたら」

さっきまで笑いが溢れていた空気が急にピン、と張り詰めた。
ハナは特に辛そうにするでもなく、必死に記憶を手繰り寄せているようだ。
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⏰:08/06/12 05:20 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#467 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ハナ、無理しないで」

失った記憶を取り戻すのがどれほど難しいか。あたしはよく知っている。
けれどあたしの心配をよそに、ハナは俯き気味に語り始めた。

「いつだったかはっきり覚えてないけど……多分あの人が死んですぐだと思う。あたし、一度家に帰ったの」
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⏰:08/06/12 05:20 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


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