よすが
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#53 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
見たことがあるはずの建物を前にしても、やはりあたしの頭は何の反応も起こさなかった。

「あれ? あそこにいるの、中山先生だよ! ねえ、ユキ!」

あたしがサトルの立っている場所に近づくと、彼はまた走り出した。

「せんせえーーっ! 中山先生! 久しぶりー!」

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⏰:08/04/03 19:54 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#54 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルの走っていく先には、花壇の花に水をやる手を止めてこちらを振り返った人物がいた。
白髪混じりの長い髪を頭の後ろでひっつめて、ベージュのロングスカートをはいたふくよかな女性……中山先生だ。

先生はこちらから走ってくるのがサトルだと気付いたのか、手にしていたホースを地面に置いてあたしたちの方に近づいて来た。
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⏰:08/04/03 23:57 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#55 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「サトルくん……?」

「サトルだよおー! 先生久しぶり! 元気!? ユキも一緒なんだよ、ほら!」

サトルのテンションは最高潮に達してしまったようだった。
身振り手振り全開で、普段から高い声のトーンも一層高くなり、うるさいくらいだ。
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⏰:08/04/03 23:58 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#56 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「中山先生、お久しぶりです」

とあたしがお辞儀すると先生は、驚いた、と言わんばかりにあたしとサトルへ交互に目を向けた。

「サトルくんに、ユキちゃんも……、久しぶりねえ。二人は相変わらず仲良しなのね」

そう言って笑う先生は、昔と変わらず優しい雰囲気をまとっている。
あたしは先生を前にしてなぜか焦ってしまい、普通なら昔の思い出話をしたりするはずなのに、唐突に用件を切り出してしまった。
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⏰:08/04/04 00:06 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#57 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「先生、久しぶりに会っていきなりこんな話するのおかしいんですけど、あたしの昔の話聞かせて欲しいんです」

あたしがそう言い切ると、先生は驚く訳でもなく、あたしの眼をじっと見つめた。
その顔には、悲しみなのか哀(あわ)れみなのか、それとももっと別のものか……あたしには区別が付かない感情が表れている。
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⏰:08/04/04 00:10 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#58 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしも何も言わず、先生の眼をじっと見つめ返す。
ここで拒否されれば、もう過去につながる道は無いかもしれない。
けれどここは、先生の判断に委ねたかった。

永遠にも思えた一瞬の後、先生の口から予想外の言葉が発せられた。

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⏰:08/04/04 02:07 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#59 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「待っていたわ、ユキちゃん」

――え……?

「あなたがいつか来るだろうと思っていたの。ユキちゃんの聞きたいこと……私が話さなきゃいけないと思っていたことと同じはずよ」

――そうか。先生は知っていたんだ。
あたしの知らないあたしの過去を。

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⏰:08/04/04 02:08 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#60 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

遂にこの時が来てしまった。
思っていたよりも随分と早い。ここで昔の自分との対面を迎えてしまうのか?

正直、あたしはまだ完全に腹をくくり切っていなかった。


――待って、本当にいいの?

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⏰:08/04/04 02:09 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#61 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

ああ、また揺らぎ始めた。

揺れる……揺れる心……ほどける決意……あたし……

頭の中で幾つもの感情がぐるぐると巡る。

ふと目線を上げると、先生の優しい眼差しとぶつかった。
あたしを急かすこともなく、ただその優しい瞳で見つめてくれている。
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⏰:08/04/04 02:10 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


#62 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
顔を横に向けると、サトルもあたしを見ていた。
サトルの瞳は先生のそれとは違い、不安、心配、疑問、のようなものが入り混じっているかに見えた。

それぞれの顔はもちろん違うが、その表情にはひとつ共通するものがあった。
それは、あたしへの愛情。

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⏰:08/04/04 02:11 📱:SH903i 🆔:h9h3B4Yg


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