・・悪魔なキミ・・
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#580 [みい]
「…なんだ、フクロか。狡い手使いやがって。おい、大丈夫か兄ちゃんよ」
頭が蓮を仰向けにした瞬間、
「いやあっ!」
「…!」
私は蓮のあまりにひどい姿に思わず悲鳴を上げた。
その時、なぜか頭も同じ様に息を飲んだのがわかった。
「矢野さん、どーしたんすか?」
:08/08/10 00:45
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#581 [みい]
…矢野?矢野って、まさか…。
「…俺のダチだ。おい、早くこいつ病院に連れてけ」
手下らしき人ははいっ!と返事をすると、もう力のない蓮をバイクの後部座席に座らせ、走っていった。
「…おい。てめえらをしきってんのはどいつだ」
「…俺だけど?」
頭の質問に淕が私を放し、声を上げる。
:08/08/10 00:46
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#582 [みい]
頭に近付いていく淕。
私は、目を凝らして頭の姿を見た。
いつもはゴムで縛ってある前髪が、今は下ろしてある。
教室での人懐こそうな笑顔なんて全く感じさせない、険しい表情。
そして、私のよく知る調子のよさそうな声の代わりに、低く相手を威嚇するような声色。
全てが普段と真逆だけど…あなたはもしかして…矢野君?
:08/08/10 00:48
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#583 [みい]
「…は?お前…」
淕の姿を目の当たりにした頭は、眉を寄せる。
「あんたのお友達の片割れだけど?」
淕は少し戸惑った様子の頭を見て、楽しそうに笑った。
「ふーん…そっか、そりゃ初耳だな」
頭がそう言い、辺りを見回した瞬間、私と目が合う。
:08/08/10 00:49
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#584 [みい]
「柚ちゃんっ!?」
私の姿を見て、声を上げる頭。
ああ、やっぱしあの矢野君だったんだ。あの、うちのクラスのお調子者の矢野君…。
「なんで、こんなところに…?」
「こっちの台詞だから!銀次、柚ちゃんも病院に…!早く!」
銀次と呼ばれた男の人が、淕から力ずくで私を取り上げた。
「大丈夫すか?」
:08/08/10 00:50
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#585 [みい]
銀次さんの問い掛けに、私は小さく首を縦に振った。
「すぐ着くんで、しっかり捕まってて下さい」
銀次さんは私を蓮のときと同じように後部座席に座らせる。
「矢野君…」
私が矢野君のほうを振り向くと、
「後は任せて。柚ちゃんは蓮の傍にいてあげな。ね?」
:08/08/10 00:50
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#586 [みい]
矢野君はそう言ってウインクをした。
「…うん…!」
私が返事をすると同時に、バイクが走り出す。
蓮…、蓮…!
どうか、どうか無事でいて…
あなたに何かあったら、私は…
私は……
:08/08/10 00:51
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#587 [みい]
…………………………
「…大丈夫っすよ」
「……」
私と銀次さんが病院に着いた時、蓮は既に手術室の中だった。
病院特有の暗い廊下に備わった、長いベンチに二人で腰掛ける。
「こんなに自分のこと思ってくれてる人がいるんすもん、そう簡単には逝けるはずないっす」
銀次さんは私に気を遣ってくれているのか、ひたすら私を励まそうとしてくれている。
:08/08/10 00:52
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#588 [みい]
「私がとろいから…逃げられなくてっ…、それで蓮が…っ」
そう。元はといえば私が逃げ損ねたせいで、蓮は無抵抗を余儀なくされ、殴り続けられたのだ。
「私のっ、私のせいでっ…」
「自分を責めちゃ駄目っす。蓮さんだってそんなこと思ってないすよ」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を両手で覆うと、背中に温かい手の平の感触が生まれた。
:08/08/10 00:53
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#589 [みい]
それはきっと、金色の髪の毛を立たせ、頬に古傷をこさえた銀次さんのものだろう。
「柚さん、疲れてるんすよ。自分起きてるんで、柚さんは寝てて下さい」
何かあったらすぐ起こしますから、と背中を摩られる。
蓮の大事な時だ、寝るものか、と意地になって目に力を入れたが、夕方からの出来事で思った以上に体力を消耗していた私は、いつの間にか眠りに落ちてしまった。
:08/08/10 00:55
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#590 [みい]
……………………………
「…ずさん、ゆずさん」
…誰…?誰かに呼ばれている。私を呼んでいるのは…誰?
「柚さん」
うっすらと目を開けると、見慣れない金色の頭が映る。
「…ぎ、んじさん…?」
ああ、そうだ。昨日、私…。
:08/08/10 00:55
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#591 [みい]
そこまで思い出した途端、はっと頭が冴え渡る。
「蓮!蓮はっ…!?」
「手術自体は夜中に終わったんす。で、さっき麻酔が覚めて…」
縋り付く私に、銀次さんは落ち着いた口調で説明してくれた。
「蓮さん、無事っすよ」
その一言を聞いた瞬間、足の力が一気に抜け、その場にへたりこんでしまう。
:08/08/10 00:57
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#592 [みい]
蓮…無事だった…。
そう心の中で繰り返すだけで、自然と涙がこぼれる。
「柚さん、早く病室行ってあげましょう?」
にこっと笑う銀次さんに涙を拭いて頷くと、私達は蓮の病室へ向かった。
………………………………
「柚稀ちゃん!?」
:08/08/10 00:58
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#593 [みい]
病室までの廊下を急いでいると、向こうから歩いてきた夫婦に声を掛けられる。
「おばさん…、おじ、さん……」
それは蓮の両親だった。
「柚稀ちゃん…恐かったわね、もう大丈夫よ」
おばさんが涙ぐみながら私の頭を撫でる。
「私の…私のせいで、すみません…っ」
:08/08/10 00:59
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#594 [みい]
「いやだ、柚稀ちゃんのせいなんかじゃないわよ!」
「近頃は変な連中が多いからな」
おばさんに続いておじさんが発した言葉に、私は胸が痛んだ。
おじさん…、あなたの、息子なんだよ…?蓮を襲ったのは…。
「もうぴんぴんしちゃって、すっかり元気なのよ」
顔出しに行ってあげて、とおばさんに促され、私達は再び足を動かす速度を速めた。
:08/08/10 01:00
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#595 [みい]
………………………………
「…ここっす」
601号室。看護婦さんの字で「染谷蓮」と書かれたプレートがはめられている。
「じゃあ俺はここで」
「ま、待って…」
踵を返した銀次さんを呼び止めた。なんだか、二人では会いづらい…。
「俺、邪魔じゃないすかね?」
:08/08/10 01:01
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#596 [みい]
困ったように聞く彼に、私は少し罪悪感を覚えた。
「邪魔なんかじゃ…。面倒臭いこと頼んでごめんなさい」
私が謝ると、銀次さんは焦ったようにいやいや、と首を振る。
「…じゃ、入りますよ?」
ドアに手をかける銀次さんの後ろに隠れるようにして、病室に入った。
:08/08/10 01:02
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#597 [みい]
「失礼します」
「…誰?」
個室のベッドの上に…蓮がいる。外を見つめているようで、私達のほうを見ないままだ。
「……れ、ん?」
上擦る声を振り絞って呼びかけると、蓮はゆっくりとこちらを向いた。
「…よお、ばかゆず」
そう言ってニヤつく蓮の姿が、涙でよく見えない。
:08/08/10 01:03
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#598 [みい]
「ふえっ…蓮…?ほんとに蓮…?」「俺以外に誰だっつんだよ」
意地悪な笑顔も、憎まれ口も、ほんのちょっとだけ優しい目も…蓮だ。蓮が、ここにいる。
「…っ、蓮〜っ!」
私は全力で蓮のベッドまで駆け寄ると、思い切り蓮に抱き着いた。
「大声出すな、傷口に響く」
キツイ文句とは裏腹に、蓮は私の頭を優しく撫でてくれる。
:08/08/10 01:04
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#599 [みい]
蓮が、生きてる。生きて、こうして私を抱き留めてくれている。
それを実感するだけで次から次へと涙は溢れ、私の頬を濡らした。
「ところで、そいつ誰?」
蓮にそう聞かれるまで、失礼なことに私はすっかり銀次さんの存在を忘れていた。
銀次さんの前で蓮に抱き着いたことがとても恥ずかしく感じられ、私は咄嗟に蓮から離れる。
:08/08/10 01:04
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#600 [みい]
「銀次さん。私をここまで連れてきてくれて、ずっと一緒にいてくれたの」
銀次さんには感謝の一言に尽きる。彼がいなかったら、きっと私は取り乱して、収拾がつかない状態になっていただろう。
私に紹介されぺこりと頭を下げた銀次さんを、蓮は興味なさそうにふーん、と見遣り、
「こいつが世話になったな。…悪いけど出てけ」
:08/08/10 01:06
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