ギンリョウソウ
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#305 [向日葵]
椿は呟くように「え……」と言った。
椿の方に歩みより、立たせる為に手を差し出す。

「さ、行こう」

要の怪我はマシになっている。
怪我のせいでたまっていた仕事は多いだろう。
それを済まさなければならないのなら椿も早く帰った方がいい。

頭では椿も分かっている事だった。
でも、なかなかその手を取る事は出来ず、ただ手をジッと見つめているだけ。

そんな椿に、要は不思議そうな顔をする。

「椿……?」

⏰:08/08/24 12:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#306 [向日葵]
「あ、ハイ……」

手をゆっくりと要の手に重ねようとする。

早く帰らなければ、要に迷惑がかかってしまう。

しかし、椿はあと数センチという所でキュッと拳を作り、手を降ろしてしまった。
そして悲しげに要を見る。

「もう……会ってはくれないのですか……?」

「椿……?」

椿はずっとそんな気がしてならなかった。
送ると言った要はあまりに惜しみなくて、あっさりとしていた。
まるでばっさりと縁を切ってしまうかのように。
そう思えば、椿はなんだか悲しかった。

⏰:08/08/24 12:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#307 [向日葵]
「私が……いらなくなりましたか……?」

要に会った瞬間、胸が甘く疼き、その奥にある分からない気持ちが浮き出す。

ずっと……会いたかった。

分かったけれど、もう遅いのだろうか。

「いらない?そんな訳ないだろ!君は……っ。……僕の言葉……忘れたのか?」

少し顔を赤らめて、椿から視線を外す要。
その態度に、椿のもう1つの疑問は無くなった。

「じゃあ、この頃姿をお見せになってくれなかったのは……?」

⏰:08/08/24 12:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#308 [向日葵]
黙り込んだ要は、椿の隣に腰かける。
やがて、ゆっくりと話し出した。

「この前の事、本当に申し訳なかった。反省してる。君からの電話やメールも無視してすまなかった」

「私は……気にしてませんでしたわ」

要はちゃんと謝ってくれたし、その後乱暴な行動とは違い、優しく抱き締めてくれた。

「僕はずっと気にしてたよ。それにね椿、僕は椿が嫌でなんじゃない。僕が嫌で仕方なかった」

「どうしてですか?」

「苛立ちにも似た気持ちを君にぶつけたから」

⏰:08/08/24 12:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#309 [向日葵]
要は自分の膝に肘をつき、頬杖をついた。
絨毯をぼんやりと眺めていると、苦いため息をはいた。

「君も身をもって実感しただろ。僕はこんな奴だ。今度は歯止めすらきかなくなるかもしれない。それが恐いなら、あの聖史さんとやらを選べばいい」

椿は目を見開く。
それは、要はこの争いから手を引くということなのだろうか。
唯子の正体が分からなかった時感じた痛みより、更に鋭い痛みが胸を貫く。

「あの人は僕と違って優しいし、君も幼い頃からの知り合いなのだろう?なら尚更いいじゃないか」

要のあの告白は本当の気持ちなのに、諦める?

⏰:08/08/24 12:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#310 [向日葵]
じゃあやっぱり椿がいらない?

それならば、やっぱり、あの言葉は嘘?

椿は突然立ち上がる。
そしてドアの方へと歩いて行った。
それに驚いた要は椿を呼び止める。

「椿、どうかした?」

しかし椿は答えなかった。

ドアノブに手をかけ、開けようとした時、要が後ろからドアに手をつき、出ていくのを阻止した。

「椿、何か言ってくれないと分かんないよ」

椿は要に背を向けたまま黙り込む。
痺れを切らした要は、肩を持ち、自分の方へ向かせる。

「椿!何か言ったらど……」

要はハッと気づいた。
うつむいてる椿から、絨毯にかけて滴が落ちている。

⏰:08/08/24 12:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#311 [向日葵]
椿は声を殺して泣いていた。

頭が混乱していた。
本当だと言ったのに何故諦めてしまうのか。
どうして聖史を選べと言うのか。

「椿、どうしたんだ?」

「わ……たしは……聖史さまを好きだたと思った事は……、いち……ど……も、ありません……」

要は恐くなんかない。
確かに押し倒された時や、要の手を素肌に感じた時は、何をされるか分からない恐怖でいっぱいだった。

けれど、勝つと言って頬に柔らかく触れた唇や、少し強引に押しつけられた唇は、嫌ではなかった。

⏰:08/08/24 12:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#312 [向日葵]
そう思えば、椿は徐々に理解していた。

会いたいと思う気持ちも、諦めて欲しくないと思う気持ちも、要が好きだから心が叫ぶのだと。

だから要が聖史を選べと言った時、胸が張り裂けそうなぐらい痛かったのだ。

「それでも要さまが……選べとおっしゃるならば……わたしは……」

「椿……」

包帯を巻いた手で、椿の頬に触れる。
椿はその手に自分の手を重ねて、まだ潤む目で要を見つめる。
要は、見たことがないような穏やかな微笑みを浮かべる。

⏰:08/08/24 13:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#313 [向日葵]
「椿が僕に勝って欲しいと思ってくれてるなら、僕は手を引かないよ。いいの?椿」

椿はまた沢山涙を流してこくりと頷いた。

そんな椿を、要は優しく抱き締める。

「ありがとう……。これでまた明日から、仕事に力が入るよ」

聖史のようなしっかりとした腕ではなく、覚えのある腕に抱かれて椿はホッとした。

2人はしばらくそのまま抱き合っていた。

―――――――――…………

家に帰ってきた椿は、ほっこりとした気持ちで玄関のドアを開けた。

⏰:08/08/24 13:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#314 [向日葵]
[明日からまた仕事だけど、ちゃんと電話に出るしメールも返すから。椿も僕が連絡した時はちゃんと返してね]

帰り際に要が言った言葉だ。
こう言った後、また要は椿を抱き締めた。
お見送りと玄関ホールにやって来た大久保と唯子の前で。

唯子は「またお話して下さいね」と笑い、まるで姉にするみたいに抱きついてきた。

その時、椿は気づいた。
自分と同じくらい細い唯子の体。

門まで一緒に来てくれたら要にそれを言ってみれば、どうやら唯子は心臓が弱いのだと言う。
今まで唯子を見かけなかったのは、入院していたかららしい。

⏰:08/08/24 13:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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