ギンリョウソウ
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#1 [向日葵]
こんにちわ向日葵です(。・ω・。)
良かったら見てください

感想板はこちら↓
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荒らし、中傷はご遠慮願います

⏰:08/06/03 21:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#2 [向日葵]
「お嬢様、次の連休はどこにお出かけしますか?」

「やはり花の都、パリなどはいかがですか?」

「もうすぐ涼しくなりますし、ここは1つ暑い所はどうでしょう」

「じゃあ、ハワイなんて素敵じゃありません?」

勝手に騒ぎだすメイド達。
そんな彼女達に静かに微笑みかけ、着替えを手伝おうとする手を制するは、この館の主の娘だ。

「いいえ。私はどこにも行きませんわ……」

彼女の名は野々垣 椿(ノノガキ ツバキ)。

⏰:08/06/03 21:08 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#3 [向日葵]
椿は17歳になる高校生だ。
ファッションデザイナーとして世界的に有名な椿の父は、男手1つで椿を育てた。
父は常に椿の意見を尊重し、椿もそんな父が喜んでくれるならと父の為に最善の道を選ぶ。

そんな野々垣家にも、決まりがあった。

“17歳になれば、婚約者を見つけること”

「椿、そんな相手いるの?」

幼なじみで親友の美嘉が、学校へ行く車の中で聞いてきた。

⏰:08/06/03 21:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#4 [向日葵]
椿は微笑みながらも少し困ったのかうつ向いた。

「いると……言いますか……。立候補して下さった方がいて……」

と言いながらその人物を思い出す。

初めてあったのは椿の誕生日パーティーだった。
元々体が弱い彼女は、パーティーに疲れ、隅の方の椅子に座っていたのだった。
父は心配しながらも、来てくれた客に挨拶をしなければと椿をおいて人混みに紛れていった。

それを見送り、うつ向いてからため息をそっと吐く。

⏰:08/06/03 21:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#5 [向日葵]
[君が椿お嬢さん?]

爽やかな声だった。

ゆっくりと顔をあげれば、同い年か1つ上くらいの男性がにこりと笑って椿を見下ろしている。

青っぽい黒髪が印象的で、椿はぼんやりとしながらも立ち上がり1つ礼をした。

[初めまして。僕は葵 要(アオイ カナメ)って言います]

[野々垣 椿です。本日は足を運んで頂きありがとうございます……]

葵 要と名乗る男性はにこにこしながら椿に握手を求める。

⏰:08/06/03 21:26 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#6 [向日葵]
差し出された手を遠慮しがちに出せば、しっかりと手を掴まれる。
父以外の男性に手を握られるのに慣れていない椿は困りながら顔を赤らめた。

[良ければお話でもどうでしょう。君とは1度ゆっくりと話してみたいと思ったんだ]

そこで彼はどこで聞いたのか、自分が婚約者になりたいと名乗りでたのだ。

父も彼を気に入っている様子で、椿も、ならばと彼を婚約者としようと考えていたのだ。

「でも……」と椿は思う。

⏰:08/06/03 21:32 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#7 [向日葵]
「美嘉ちゃん……ギンリョウソウって……ご存知ですか……?」

椿の話の続きを待っていた美嘉は眉を寄せた。

「ギンリョウソウ?初めて聞いたよ」

パーティーの後の事だった。

たまたま葵 要が携帯で話している所に居あわせた椿は話を聞いてはいけないと踵(キビス)をかえそうとした。

[まるでギンリョウソウのような女の子だったよ]

葵 要は確かにそう言った。
耳慣れないその単語に、椿は思わず足を止めた。

⏰:08/06/03 21:37 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#8 [向日葵]
ギンリョウソウ……?

その単語を調べたくて、辞書を開いた。

意味は<山奥の陰にしか咲かない半透明の白い花>などの意味か書かれていた。

あまり良くない意味だというのは分かった。
しかし分からない。
そんな少女を何故彼は婚約者として名乗りをあげたのだろうか……。

それとも……何か別の意味が……?




――――――――――
―ギンリョウソウ―
――――――――――

⏰:08/06/03 21:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#9 [向日葵]
[第1話]


椿が通う学校はお嬢様が行くような学校ではない。

美嘉と一緒の一般の学校だ。
これは椿の希望で、父も快く許してくれた。
むしろ美嘉がいてくれた方がありがたいと喜んでくれたのだった。

「あ、美嘉、椿。おはよう」

教室に入って、にっこり笑いながら挨拶したのは友人の神田 越(カンダ エツ)だ。優しくいつも前向きな女の子だ。

「おはようございます……」

椿も微笑みかえす。

⏰:08/06/03 21:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#10 [向日葵]
しかし椿の頭の中は、葵 要の事でいっぱいだった。

葵 要。
彼はデザイナー界の期待の新人なのだ。

椿と同い年にも関わらず既に社長業を勤め、彼のデザインした服はパリコレなんかにも出される有名ブランドとなっている。

その名もAKAと言うらしい。

自分の名前がアオイ、だから逆のアカでブランド名をつけたらしい。

容姿も爽やかで、人なつっこい笑顔が人を寄せ付ける。

⏰:08/06/03 21:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#11 [向日葵]
そんな女性にも困らなさそうな彼が、「ギンリョウソウ」と称している自分を好んだのか、椿はやっぱり分からないでいた。

しかし、椿には薄々気づいている事もあったのだ。

――――――――……

「ただいま戻りました」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

迎えてくれるメイドや執事達に会釈して、椿は自室へと向かった。
ベッドに腰掛け、深呼吸をする。

なんだか熱っぽい気がしますね……。

⏰:08/06/03 22:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#12 [向日葵]
体のだるさを感じていると、ドアを誰かがノックした。
返事をすると、ノックした人物が入ってきた。

「あ、父様……。イタリアから帰ってらしたんですか……。お帰りなさいませ」

「たたいま椿。すまないがまた出かけなければならないのだ。その前に顔を見ておきたくてな」

柔らかく笑いながら、父は椿の髪を撫でる。

椿はいつも自分を大事にしてくれる父が大好きだった。

「それと、もうじき要君がくるらしいから、仲良くするんだよ」

⏰:08/06/03 22:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#13 [向日葵]
そう言われて、椿は静かに微笑んで頷いた。
そんな椿に、父は少し困った顔をした。

「椿、本当に要君が婚約者でいいのか?椿は私が彼を気に入ってるからそれでも良いと思ってるんじゃないのか?いいか椿。一生一緒にいる人は、自分の心で決めなきゃならないよ?」

真剣な顔で心配して言ってくれる父に、やはり椿は微笑んだ。

「大丈夫ですよ……父様……」

「失礼します」

凛とした声が椿の部屋に響いた。

⏰:08/06/03 22:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#14 [向日葵]
>>8

×などか書かれていた
○などが書かれていた

⏰:08/06/03 22:21 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#15 [向日葵]
↑も間違いました

×などの意味か書かれて
○などの意味が書かれて

⏰:08/06/03 22:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#16 [向日葵]
>>12

×たたいま
○ただいま

しょっぱなから間違いだらけですいません

⏰:08/06/03 22:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#17 [向日葵]
入口を見れば、スーツ姿の要がいた。
要はにこっと笑うと部屋の扉を閉め、こちらに歩いてくる。

父はそんな要に向き直り笑いかける。

「やあ要君。久しぶりだね。フランスはどうだった?」

「行く度に勉強させられますよ。僕はまだまだ未熟ですね」

「そうかい。向上心があって実にいい。では、邪魔者は退散しようかな」

そう言って、要を信じきっているのか、父は2人を残して出て行ってしまった。父が出て行く際に一礼して見送った要は椿に向き直る。

⏰:08/06/05 23:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#18 [向日葵]
笑いかけられた椿はベッドから立ち上がり要に頭を下げた。

「お仕事ご苦労さまです、葵さま」

「葵さまだなんてよそよそしい。要と呼んでくれて構わないんだよ」

挨拶とでも言うように、要は椿の頬に軽くキスをした。
戸惑いながらも微笑む椿。

「まだ、旦那さまではないので……」

「でもなるのは決まってるんだ。別にいいじゃないか」

⏰:08/06/05 23:53 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#19 [向日葵]
そう言われても、なかなか呼べない椿だ。
やはり微笑むしか出来ない椿の額に、要は手を当てる。

「君、熱がある?」

「……さあ。分かりません。平熱は高い方なので……」

「でも休んだ方がいいね。メイドさんを呼んでこよう」

スタスタと歩き、彼は部屋を出ていった。
その姿を見ながら椿はふと思った。

恋人が体調を崩したなら、まず自分自身がそばにいるものじゃないのだろうかと。

⏰:08/06/05 23:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#20 [向日葵]
しかしすぐに、いいや、と首をふる。
心配なら尚更誰かに言って医者を呼ぶのが先か……と思い直す。

残念ながら椿は付き合った事がない。
なので当然ながら、彼女は恋人同士はどのように接するものかなんて言うのは分からないのだ。

仕方なく、寝巻きに着替える。
するとまた扉をノックされた。
入ってきたのはメイドと要だ。

「椿さま、担当医を呼びましょうか?」

「いえ、寝れば治ります。なので佐々木さんも葵さまも、うつらない内にお帰りなさいませ……」

⏰:08/06/06 00:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#21 [向日葵]
ちなみに佐々木とはメイドの名前である。

「君がそう言うなら言う事を聞こう。明日また来させてもらうよ。ではね」

爽やかな笑みを浮かべ、あっさりと要は帰ってしまった。
そんな要にメイドである佐々木は戸惑い、椿を見るが、何も気にしてないように優しく佐々木に言った。

「佐々木さんも、ね……」

「では、またお時間になりましたら、夕食とお薬を運ばせて頂きます」

メイドは頭を下げてから、出ていく際に部屋の明かりを消した。

⏰:08/06/06 00:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#22 [向日葵]
ベッドに身を沈め、天井を見つめながら椿は1人考える。

こんな、お荷物の自分を婚約者扱いしてくれるのは嬉しい。
優しくだってしてくれるし、こうやって顔も見に来てくれる。
でも彼は心配してるような言葉を椿に向けながらも、その言葉に込もっている気持ちは空っぽのような気がしてならない。

彼の目的は……?

椿は思い当たっている事がある。
だがそれが本当なのかどうか、彼女にはまだ分からないのだった。

―――――――――……

⏰:08/06/06 00:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#23 [向日葵]
「椿、今日椿ん家寄っていい?」

学校で掃除をしている時、美嘉が言った。
椿は箒で床を掃く手を止めて、頷く。

「ハイ。ちょうど今、綺麗な薔薇が咲いているので、是非美嘉ちゃんに見てもらいたいです……」

「本当?椿ん家はいつも綺麗にしてるからなー。椿ん家の庭すっごい好き!」

無邪気に笑う美嘉を見て、どこかホッとする椿。
こんな風に、美嘉はいつも椿に優しさと元気をくれる。
椿は自分にはもったいないとさえ感じる。

⏰:08/06/06 00:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#24 [向日葵]
だから美嘉が何かで悲しんだりしたら、自分が元気を与える事が出来ればいいなと考える。

「あ、越」

美嘉が越を呼び止める。

「今日椿ん家行くんだけど行かない?」

越は一瞬パッと表情を明るくさせるが、しばらく考えてから「あ!」と声をあげた。

「ごめん!今日はお米の特売あるから帰る!」

と言うなりカバンを掴んで、猛スピードで教室から出て行ってしまった。
その姿を見てから、椿と美嘉は顔を合わせる。

⏰:08/06/07 20:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#25 [向日葵]
「越ちゃんも大変ですね……」

「ある意味あの子が母親代わりみたいなとこあるからね」

最近彼女の家に変化があったのか、忙しく動き回るもか楽しそうに毎日を過ごしている。
そんな越に、椿は拍手したい気分だった。

自分は恵まれていると思えば尚更に……。

「じゃそろそろ行こっか」

・・・・・・・・・・・・・・・・

いつも通り、まっすぐ自宅へ帰る。
扉を開ければやはり大勢のメイド達が椿だけでなく美嘉にも挨拶をする。

⏰:08/06/07 20:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#26 [向日葵]
それも昔から知ってるので、美嘉はカラカラ笑って「たっだいまー」と気軽に返事をする。

「お嬢様」

1人のメイドが椿を呼ぶ。

「要さまが来てらっしゃいます。お仕事を持ち込んでらっしゃいますので、お嬢様の挨拶はそれを済んでからの方がいいかと思われたんですが、ご本人はいつでも……とおっしゃってました」

今日も来たのかと椿はぼんやり思った。
しかし仕事をしているなら別に早く挨拶に行かなくてもいいだろう。
こちらだって、美嘉がいるのだし。

⏰:08/06/07 20:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#27 [向日葵]
「わかりました……。ありがとうございます」

しばらくの間は庭にいようと思い、自室に美嘉とカバンを置きに行ってからまた外へと出た。

きちんと切り揃えられている植え込みや、青々とした芝生はいつみても美嘉に「すごい」と言わせるのであった。

「こちらです」

薔薇が咲いている場所に美嘉を案内する。

たどり着いた場所には、様々な形、色をした薔薇が無数に咲いていた。

その周りを、2人は歩く。

⏰:08/06/07 20:23 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#28 [向日葵]
「婚約者、本当にいたんだ。なんか信じられないや。いい人?」

「ええ、もちろんです。だって私なんかの婚約者になって下さるんですもの」

心底そう思ってるらしく、椿は笑顔で美嘉にそう告げる。
しかし美嘉は、椿をじっと見つめると、蔦が絡まったアーチの下で足を止めた。

「椿……美嘉は椿みたいな令嬢のしきたりとかは分からないけど、椿が嫌なら嫌って言っていいと思うよ。」

椿は首を傾げてから、小さく頷きほのかに微笑む。

⏰:08/06/07 23:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#29 [向日葵]
嫌だなんて思ってない。

美嘉や父のように心配してくれる人がいるのは、どれだけ有難い事かと彼女は思う。
要も悪い人ではない。
もしかしたら今日来たのだって昨日熱を出したから心配してくれたのかもしれないのだ。

そう感じれば、嫌だなんて失礼な事を言う筈がないのだ。

美嘉はまだ気にしたように椿を見るが、彼女は微笑み続けているのでそれ以上は何も言わなかった。

ただ、そんな彼女だからこそ、ひそかにしらない所で、その小さな胸を痛めているのではないかと思えば、美嘉は悲しくなったのだった。

⏰:08/06/08 00:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#30 [向日葵]
庭を歩き回り、疲れただろうと美嘉に言い、椿は休憩を取るため部屋へと戻ってきた。

メイドがお茶を運ぶと言ったが、自分ですると言い、今から取りにいく。
出来る事はなるべくしておきたいのだ。

椿1人では重たいティーセットを持てないと思い、美嘉もついてくる。

「あ、セイロンだ。美嘉これ好きなんだー」

「そうだと思って用意してもらったんです」

ほのぼのと会話しながら部屋へ戻る途中、ある部屋の扉が少しだけ開いていたのに気づく。

⏰:08/06/08 00:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#31 [向日葵]
たぶん要が仕事に使っている部屋だ。

そういえば要が来ているのを忘れていた。
仕事だとは言え、帰って来てからだいぶ時間が経ってしまった。
あまり遅い挨拶は失礼に値する。

そう思った椿は自分の紅茶を要に譲ろうとその部屋に歩みよった。

美嘉が持つと言ってくれたので手が空いた椿はノックしようとする。

その時、部屋の中から会話が聞こえた。

「ねぇ要さん。ここの椿嬢だっけ?……が、好きって本当?」

⏰:08/06/08 00:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#32 [向日葵]
女性の声だった。

プライベートな話は聞いてはいけないだろうと、椿は踵(キビス)をかえそうとするが、片手でトレイを持った美嘉が腕を掴んで立ち去るのを防いだ。

どうやら美嘉は、婚約者が椿にふさわしいかを見極めたいらしい。

しばらくの沈黙の後、要のクスリと笑う声が聞こえた。

「好き?そんなの思った事すらないさ」

美嘉は目を見開いた。
気にしたように椿を見るが、まるで他人事のように無表情で要の声に耳を傾けていた。

⏰:08/06/08 00:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#33 [向日葵]
そんな2人が外にいるだなんて知らず、要は続ける。

「彼女の会社は古くからの有名な会社でね。結婚して合併すれば、その肩書きのおかげで僕の会社が更に世界に轟くと思っただけだよ」

「そんな事で結婚するの?」

「お互いにとって別に悪い事じゃないと思うからいいんじゃない?」

そう言った途端、耳障りな音が要の耳まで聞こえた。
そして勢いよく扉が開いたと思えば、そこには美嘉と椿がいたのだった。

⏰:08/06/08 00:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#34 [向日葵]
さっきの音は、美嘉がトレイを床に叩きつけた為ティーセットが割れてしまったのだ。

割った本人は、要の言葉に怒りを隠せず睨みつけていた。
要は机にもたれながら服の新作デザインでも考えていたのか、ノートとペンを持っている。

そのすぐそばには、専属モデルか、またはそれ以上の関係かもしれない綺麗な女性が彼の首に腕を絡ませていた。


「アンタ……何様なのよ……っ!」

ちっ、聞かれたか、と要は眉をひそめる。が、直ぐに開き直ったようにまた話出した。

⏰:08/06/08 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#35 [向日葵]
「椿。君はむしろ僕に感謝してくれないかな。君のような病弱は跡継ぎが産めないかもしれない。つまり結婚してくれる相手なんていないと思うんだ。そこで僕が名乗り出た。もちろん目当ては君ではないけれどね」

最後まで言った途端、美嘉が要の横っ面を力一杯ひっぱたいた。
乾いた音が部屋に響く。

その時戸口にさっきの音は何事かと、そっとメイドがやって来た。

椿は何もないとにこやかに答え、何かメイドに頼んで下がらせた。
そして美嘉と要に目を移す。

⏰:08/06/08 00:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#36 [向日葵]
美嘉はあまりの怒りに目に涙をためていた。

「何が感謝よ!アンタみたいな最低人間より椿を想ってくれる人なんてたくさんいるわよ!」

「最低人間?心外だな。ちゃんと彼女達の事も考えての行動じゃないか」

「何を考えてるって言うのよ……っ。考えてるのは全部ビジネスの事ばっかりじゃないっ!」

「美嘉ちゃんいいんです」

息を荒げて振り返った美嘉は、メイドから何か受け取る椿をみつめた。

椿は渡された袋のような物を持って、美嘉の隣を通りすぎ、要に近付いた。

⏰:08/06/08 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#37 [向日葵]
そして袋を要に差し出す。

「顔、冷やして下さい……」

氷のうらしい。

要は少し戸惑いながらそれを受け取り、頬を冷やした。

「来て頂いたのにご挨拶が遅れました。お仕事ご苦労様でした。今から友人を送ってきます……」

美嘉の手を優しく握り、導くようにして引っ張って行く。
部屋を後にしても、美嘉はグスグス鼻をすすって泣いていた。

⏰:08/06/08 00:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#38 [向日葵]
門前まで来たが、未だ美嘉は泣きやまない。
そんな彼女を、椿は目を細めて見つめる。

「美嘉ちゃん……泣かないで下さい……」

「だ……、て、アイツ……ヒドす……ぎ……」

「いいえ、要さんは正しいです。こんな体が弱い私を、引き取ってくれる人なんて、きっといないって思ってますたから……」

だから、美嘉が泣くような、傷ついた思いはしていない。大丈夫だと告げるのに、美嘉は首を強く横に振り、納得しなかった。

そんな美嘉の態度が嬉しくて、自分より背が高い美嘉の頭を優しく撫でる。

⏰:08/06/08 00:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#39 [向日葵]
「ありがとうございます……美嘉ちゃん……」

・・・・・・・・・・・・・・・・

再び屋敷へ戻ってくると、さっきのモデルさんとすれ違う。
高いヒールを高らかにならして歩いて行く姿は美しく、やはりそういう仕事をしているのだと実感した。

自室へ戻って間もなく、ノックもせずに要が入って来た。

「お仕事お疲れ様です」

椿は一礼する。

「何のつもり?」

顔を上げた時、要は眉を寄せてこちらの考えを探るような目をしていた。

⏰:08/06/08 00:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#40 [向日葵]
「本当に納得してるの?それとも納得したフリして社長に僕の目的をひそかにバラすとか?」

挑戦的な言葉も、椿は静かに微笑んで受け流す。

「私は、納得しています。葵さまがどんなつもりであっても、父が喜んでくれるなら、私は何だっていいんです……。ですからバラされるなんて心配は無用です……」

これは椿の本音だった。
そして彼女は前から気づいていたのだ。

要が自分に対して何の感情も持っていない事を。

知っていながら、椿は父の為だけに婚約者を承諾したのだ。

⏰:08/06/08 00:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#41 [向日葵]
つまり自分も彼になんの感情も無かったのだ。
だから彼を一方的に怒る事なんて出来ないのだった。

「私は、父と、葵さまのサポートをするだけです……」

要は更に眉を寄せた。

ヒドイ事をやってるし言ってる自覚はある。

所詮自分達のような者は政略結婚が主だ。
もともと情なんてものは無い。

だからと言って、彼女はあまりに諦めが良すぎではないだろうか。

⏰:08/06/08 01:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#42 [向日葵]
そんなんだから、余計疑いたくもなるのだ。

「椿、君の目的は?」

「目的……ですか……?」

椿はキョトンとする。

「社長の為の他に、何かあるんじゃないのか?」

しかし椿は穏やかに微笑んでゆっくり首を横に振り否定する。

「何も、ありません」

要は戸惑った。
彼女が眩しく感じたからだ。
一点の曇りもなく、ただ父の為だけと純粋に言い張る椿を真っ直ぐに見れない気がした。

⏰:08/06/08 01:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#43 [向日葵]
※訂正

>>38

×思ってますたから
○思ってましたから

⏰:08/06/10 23:30 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#44 [向日葵]
しかし、と要は頭を切り替える。

椿がの事はよく分からない。だからこそ、常に用心しなければならないと思う事にする。

「君の事はとりあえず保留でいいや。でもね、あまり僕達がよそよそしいのもいけないしね。だから君には僕を好きになってもらうよ」

椿は首をまた傾げる。
そして何故好きにならなきゃいけない必要があるのかが分からないでいた。

好きになっても、要は自分を好く訳でもないのに。

そんな椿の思いが分かったのか、要は言う。

⏰:08/06/10 23:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#45 [向日葵]
「好きになってもらわないと、なんだか好きになれそうにないんだよね、君。だから君から好きになって欲しいんだよ」

にっこり笑って、酷い事を言う。
まるで椿に何を言っても平気だと馬鹿にしてるようにも見えた。

しかし椿は、何も動じていないかのように微笑んだままだった、が、その微笑みは要への抵抗のようでもあったのだ。

椿はまだ、要の要求に首を縦に振っていないからだ。

それには彼も気づいている。

⏰:08/06/10 23:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#46 [向日葵]
椿にだって、気持ちはあるのだ。
あまりに理不尽な事には、簡単にイエスと言いたくはない。

「ま……、好きになってもらえるよう毎日君の顔を見に来るよ。そしたら段々好きかもって思うかもね」

「そうですね……」

椿の返事は、要にとって「やれるものならやってみろ」と聞こえた気がした。

だから余計意地になる。
絶対好きにさせてみせると。

そう決意を固めて、椿の部屋をあとにした。

⏰:08/06/10 23:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#47 [向日葵]
1人残された椿は要がいなくなると同時に笑顔を消していた。

何も思ってないフリをするのは、この顔が一番。
だが今は1人だ。
あんな言葉を言われて傷ついてない訳がない。

[好きになれそうにないから]

自分がどれだけ魅力がないのか、つきつけられた気がした。
ましてや、将来共に過ごすであろう婚約者に……。

大きな窓から、空高くのぼっている月を見つめた。

何を言われても、要の前で動じてはいけない。
全ては父の為。
そう思い望んで、承諾した事だ。

⏰:08/06/10 23:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#48 [向日葵]
だから……文句を言ってはいけない。
言える立場じゃない。

携帯の着信音が鳴りだした。
美嘉からだった。

通話ボタンを押す。

<もしもし椿?あれから大丈夫だった?美嘉頭に血が上ってて冷静になってなかっ……。……椿?>

椿は静かに涙を流していた。

こんな自分でも、心配してけれる誰かはいる。
大丈夫。不安になる事なんてない。

そう思うのに、突き刺ささった言葉のトゲは、思ったよりも痛かったのだった。

⏰:08/06/10 23:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#49 [向日葵]
※訂正

>>48

×心配してけれる
○心配してくれる

⏰:08/06/10 23:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#50 [向日葵]
[第2話]





今日は体育大会だった。
しかし椿は体の事もあり、1日見学。

友達である美嘉や越の華麗な活躍に感嘆し、一方で上昇する気温にぐったりとしたダルさを感じている。

「椿水分ちゃんと取りなよ」

リレーで一仕事終えた美嘉と越が心配そうに椿を覗き込む。
椿はなんとか微笑み、大丈夫だと意思表示する。

⏰:08/06/11 00:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#51 [向日葵]
>>44

×椿がの事
○椿の事

間違いだらけですいません

⏰:08/06/11 08:13 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#52 [向日葵]
「次は応援合戦だから着替えなきゃね」

「その前に自販機行かない?美嘉喉かわいたー!」

「うん。椿は?」

越の問いに椿は待っていると答える。
2人が自販機がある場所へと向かって行くのを見てから、他学年の競技に目を向けた。

皆暑そうに、それでも楽しそうにはしゃいでいる。
自分の体さえ丈夫なら、お祭好きの美嘉と共に勝った事に喜んだり、負けた事に悔やんだり出来るのに……。

そよ風が、彼女の背中の真ん中辺りまである漆黒の髪を切なげに揺らす。

⏰:08/06/15 01:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#53 [向日葵]
そんな椿が儚げな少女に見え、周りの男子がため息をつきたくなるように感じながら見つめているだなんて事は、彼女は知らない。

「野々垣さん」

2人の男子が、話しかけてくる。

「体弱いのに日の下にいて大丈夫?」

「ハイ。日傘もさしてますし、平気です……」

「なんなら一緒に日陰に行かない?」

「え……あの、いいです……」

日傘をギュッと握り、少し引くように体をずらすと、1人の手が細く白い椿の腕を掴んだ。

⏰:08/06/15 01:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#54 [向日葵]
息をのみ、かすかに震える。
しかし男子2人はそんな事おかまいなしに椿を連れて行こうとする。

「野々垣さん細すぎ!やっぱり行こうよ」

「わ、私、友達を待ってますんで……っ」

「まぁいいじゃん。トイレに行ったとか思うって」

嫌……っ!

ギュッと目を瞑った時だった。
後ろから肩を抱かれ、引き寄せられる。

「嫌がってるって分かんない?」

この声は……と、チラリとだけ視線を後ろに向ける。

⏰:08/06/15 01:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#55 [向日葵]
「これ、僕のだから」

サングラスを取り、目だけで相手を威嚇する。
男子2人は、うっ……、とだけ唸って黙って去って行った。
と同時に椿も抱えられていた腕から解放された。

後ろを振り向けば、そこにはやはりと言うか、椿のよく知っている人物が立っている。

「葵さま……。今日はイタリアの筈じゃ……」

「それが延期になったんでね。でも酷いな椿。こんな行事があるなら教えてほしかったよ」

にっこり笑って言っているが、本心は何を思っているか分からない。

⏰:08/06/15 01:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#56 [向日葵]
今だって助けてくれたが、それは自分が有利になる為の作戦であると椿は思っている。
しかし、嫌な顔はしてはいけないのだと頭を素早く切り替え、にこりと微笑む。

「暑い場所はお嫌いと耳にはさみましたんで……」

「嫌いだねー」

着ているスーツは本当に暑そうだ。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、ボタンを2、3個外す。
とても同学年とは思えない大人っぽさが彼から漂う。

「でも君の体操服姿が見れるだなんて貴重じゃないか」

⏰:08/06/15 01:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#57 [向日葵]
貴重って何が貴重なんだろうとか思ったが椿は微笑みだけで要の言葉を受け止めていた。

「……葵さま」

「あのさ椿、前にも言ったけどいい加減“要”って言ってくれないかな?」

「はぁ……。でも、これで慣れていますんで……」

そしてこれは彼女自身の軽い反発でもあった。

簡単に好きになんかなるまい、と。

「ふーん。でもあんまりよそよそしいと僕が困るんだから。君だって、大切なお父さまを悲しませたりはしたくないでしょ?」

⏰:08/06/15 01:39 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#58 [向日葵]
その言葉にピクリと体を震わせ、椿は深々と要に頭を下げた。

「申し訳……ありませんでした……。努力いたしますんで……」

「うん。それでいいんだよ」

椿は短パンをギュッと握る。そして唇を軽く噛んで静かに深呼吸して微笑んでから顔を上げた。

「葵さま……、助けていただきありがとうございました。……でもここは一般の方が入っては駄目なのです。申し訳ありませんが、保護者席の方へ移動して下さい……」

⏰:08/06/15 01:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#59 [向日葵]
「別に気にしなくてもいいじゃないか。それに屋根もない。日陰が……。そうだ。椿、それ、貸して」

指差したのは椿が持っていた日傘だ。
これにはさすがに椿は笑顔を消し、えっ……、と戸惑う。

「でも、あの……」

「言う事が聞けないの?」

威圧的な低い声と、冷たい目で椿を脅す。

ぐっと泣きそうになるのを堪えて、椿は日傘を差し出した。
満足そうに要は受け取る。

⏰:08/06/15 01:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#60 [向日葵]
「君は何か競技に出るの?」

強い日差しにくらりとめまいを感じた気がした。
要の声が遠くから言ってるように聞こえる。

「何も……出ません……」

それでも椿は笑顔でいる。

「ふーん。つまんないね。周りの人も、君自身も」

それだけ言って、要は立ち去る。
そんな要に頭を下げて椿は見送った。
しかし頭を上げる事はなかなか出来なかった。
風がまた、彼女の髪の毛を揺らす。

⏰:08/06/15 01:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#61 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「椿ーただいまーっ。あれ?日傘は?」

美嘉の声に、椅子に座ってうつ向いていた椿は顔を上げながらホッとする。
自然と顔が綻ぶ。

「……壊れたので、違うのを取りに行ってもらってます……」

「え、大丈夫?」

「椿、これかぶってな」

越が1枚の大きめのタオルを椿の頭に被せた。
優しい洗剤の香りが椿の鼻をかすめる。

「ちょっとは涼しいでしょ?」

⏰:08/06/15 01:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#62 [向日葵]
にっこり笑いながら椿の顔を覗き込む越。
そんな越に、心からの微笑みを向ける。
ささくれだった椿の心が、癒されていく瞬間だった。

*******************

笑うしかしないな。と要は思っていた。

椿から教えられた保護者席に彼は立っている。
椿から取り上げた日傘をさして。

彼女の考えや思いがまったく分からない。
あれだけ酷い事を言っても泣きもせず、ただずっと笑っているのだ。

⏰:08/06/15 02:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#63 [向日葵]
何故なんだろう。
要の頭は先ほどからそればかり考えていた。

言い返せばいいのに……。

そう思うなら酷い事を言わなくていいだなんて彼は思いつかないでいる。

別に嫌いな訳じゃない。

客観的に見ても他の令嬢みたいに高飛車でもないし、控え目な所だって可愛いとは思う。

けれど酷い事を言っていじめたくなる。
言い返して欲しいと思うのに、やっぱり椿は笑っているしかしないのだった。

⏰:08/06/15 02:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#64 [向日葵]
今日初めて彼女を抱き締めた。
驚く程の細さだった。
モデルをいつも相手にしているし、彼女達だって体のラインを気にしているから細く見えるし実際に細い。

でも椿はそれ以上だった。
触れた所はすぐに骨が当たる。
柔らかい感触はもちろんあるが、とにかく細かったのだ。
きっと彼女の病弱な体のせいだろう。

そう思えば体の事を悪く言ってしまっただろうかと気になる。
誰よりも病弱な事を気にしているのは彼女だろう。
なのに酷な事を言った。

⏰:08/06/17 00:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#65 [向日葵]
でも……、と要は考え直す。

何を言われてもヘラヘラしている彼女だ。
さほど気にしてもいないだろう。

そう思ってしまえば、要の頭から“悪かった”などと言う言葉は消えていくのだった。

*****************

昼近くになれば気温もあがり日差しもきつくなりはじめてきた。

なんとか倒れずにいれるのは風が少なからず吹いてくれているからだろうと椿は思う。

⏰:08/06/17 00:21 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#66 [向日葵]
だが彼女の体調は少しずつ崩れていってるのもまた事実だ。
周りの生徒が熱気に顔を赤くしているのに対し、椿の顔は青白くさえ見える。

「椿、大丈夫?さっきから水飲んでないみたいだけど」

心配そうに美嘉が覗き込む。
笑顔で答える事すら、そろそろ難しくなってきた。

「日傘まだかなー」

越のタオルではさすがに限度があった。
日にさらされたタオルは段々と熱を含む。

「大丈夫です……。……それより応援合戦そろそろですね……頑張って下さい」

⏰:08/06/17 00:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#67 [向日葵]
そう言うと、美嘉と越は頷いて、離れた場所で円陣を組み始める。

気合いの入った掛け声を耳にしながら椿はうつむく。

暑い……。

タオルをパタパタ揺らして熱を逃がすも上手くいかない。
水を飲めばいいのだけれど飲む元気もわかない。

こんな事では駄目だ。
椿は自分を奮い起こす。

じゃなきゃ美嘉にまで言われてしまう。

[つまんないね]

⏰:08/06/17 00:32 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#68 [向日葵]
ホラ、顔をあげて……。
しっかり前を向かなきゃ……。

言い聞かすも、体は言うことを聞いてくれない。
それでも椿は必死に顔を上げる。

周りの景色がスローモーションのようにゆっくり動いているように感じた。
目を何度こすってもそれは変わらない。

それでも、椅子にちゃんと座り、倒れる事なく背筋を伸ばして前を向けているならいいんだと思い、スローモーションの世界をそのままに、強さを増す日差しに堪えた。

そうしている間に、応援合戦は終わった。

⏰:08/06/22 23:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#69 [向日葵]
「つ、ばきー!次お昼休みだって!教室行こっか!」

美嘉が爽やかに汗を流して椿に微笑みかける。
しかし椿にはその笑顔さえぐにゃぐにゃにしか見えていなかった。
それでも微笑み返し、頷いて立ち上がる。

人混みの中から、越が「委員会の仕事あるから」と叫び、先に行ってしまった。

「午後からも楽しみだねっ」

「そうですね……」

やっと日陰に入れる。
椿はホッした。

⏰:08/06/22 23:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#70 [向日葵]
しかしホッとしたのもつかの間。
次の瞬間、椿の体がぐらりと傾いた。

「椿!?」

美嘉の驚いた声をはっきりと聞きながらも、椿には答える元気がもうなかった。
そして徐々に、意識は遠のいていくのだった。

********************

昼休みだと聞いた要はどこかで昼食をとろうと歩き出したところだった。

すると背後からやけにザワついた声が広がるのを耳にした。

⏰:08/06/22 23:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#71 [向日葵]
何かあったのかと振り向けば、遠く離れた所で人だかりが出来ていた。

「要さま、昼食の方はどちらで」

従者が要に問う。

「ちょっとここで待ってて。何があったか興味あるから」

野次馬精神で要はその場所へと向かう。

「……ばきっ!」

聞いた事がある声だ。
と思えば先日自分をひっぱたいてくれた奴じゃないか。
要は眉を寄せる。

⏰:08/06/22 23:55 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#72 [向日葵]
「椿っ!」

「椿……?」

要が呟く。
やがて見えたのは、担架に乗せられてぐったりとしている椿の姿だった。

思わず目を見開く。
椿について行こうとする美嘉に駆け寄り、その腕を掴んだ。

「アンタ……!」

「椿はどうしたんだ?」

美嘉は要をキッと睨んで腕を振りほどく。

「アンタなんかに関係な……、ちょっと……なんでアンタがそれ持ってるの……」

⏰:08/06/22 23:59 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#73 [向日葵]
美嘉が見つけたのは要が椿からぶんどった日傘だ。
今はたたんで彼が左手に持っている。

「だって椿は壊れたって……」

「……え?」

自分が取った事を言わなかったのかと要は驚く。
全てを察した美嘉は歯を食い縛って要の胸ぐらを掴んだ。

「なんなのアンタ!椿イジメてそんなに楽しいの!?なんでこんな事するのよ!!」

まさか彼女はこの暑い中、誰にも何も言わず堪え続けていたのか?

そう思えば要の頭は混乱した。

どうしてそこまでして……?

⏰:08/06/23 00:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#74 [向日葵]
「椿がいつも笑ってるから何とも思わない鈍感な子とでも思ってるつもり……?ふざけないで!」

胸ぐらを話すついでに美嘉要の胸を叩いた。
突然の衝撃に、要は後ろへ少し下がりながらむせこんだ。

「椿はね、誰も困らせたくないから笑うの。自分のせいで、周りを困らせて大変な思いさせてると思ってるからなんでもないフリをするの!」

要はハッとする。

彼女の、椿の、微笑む理由……。

「なんでアンタなんかが、婚約者なのよ……」

それだけ言って、美嘉は椿の元へと駆け出した。

⏰:08/06/23 00:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#75 [向日葵]
要はその場で立ちすくむ。

椿は要に、本気で笑いかけていたかと考える。
その完璧な笑顔の仮面に惑わされ、自分がどれだけ彼女を苦しめたかとうろたえる。

その仮面の下に、どれだけの辛さを隠していたのだろう。

いや、こんな事気にしなくてもいい。
自分の目的は彼女ではない。彼女の会社だ。
だから……どうでもいい……。

そう思うのに、要の視線は、たった今美嘉が向かった方へと向いていている。

⏰:08/06/23 00:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#76 [向日葵]
椿と自分は似ているのかもしれない。

要も沢山のものを見て見ぬフリをした。
慕ってくる者の裏にある思惑や沢山の恨みの念。
自分の中にある、孤独な感情……。
全ては世界にのし上がる為と捨ててきて、利用した。

椿はそんな自分に似ている。
しかし彼女の場合はもっと綺麗な感情で、そこには“自分の為”だなんて勝手な思いはなく、“人の為”に全てを見て見ぬフリをしている。

きっと、要の事もそうなのだろう……。

⏰:08/06/23 00:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#77 [向日葵]
自分を押し殺して、“人の為”に何もかもを捨てるのは、どれだけの勇気や思いがあるだろう……。

要はため息をついた。

ダメだな……椿の事を考えたら気になって仕方ないじゃないか……。

要は歩き出した。

*******************

ヒヤリとした何かが額に当てられたのを感じ、椿は目をゆっくりと開けた。

「美嘉……ちゃん……」

「良かった……気がついた?」

⏰:08/06/23 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#78 [向日葵]
小さく頷く。

そうか、自分は倒れたのかと思えば、嫌な気持ちでいっぱいになった。
掛け布団から自分の細く白い手を出し見つめる。

頼りない体……。いっそのこと無くなってしまえばいいのに……。
これくらいの暑さにも堪えれないなんて情けなすぎる。

「保健の先生がここでご飯食べていいって言ってるの。食べれる?」

「はい……。ありがとうございます……」

微かな力に頼って体を起こす。
どうやら今は職員も昼休みなので保健室には美嘉と椿しかいないらしい。

⏰:08/06/23 00:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#79 [向日葵]
「あのね椿……、美嘉の前では無理しなくていいんだから。もちろん越の前だってさ……。なんの為の友達だと思ってんの?」

美嘉は軽く頬を膨らませる。
そんな美嘉に椿はそっと笑った。

その気遣いが嬉しい。
だから美嘉達には何も言う事は出来ない。しない。
そう言う人がいるから頑張れる自分がいる。
例えつまらないと言われようと……くじけない。

「ありがとうございます……」

それだけ言うと、美嘉は満足そうに歯を見せて笑った。

⏰:08/06/23 00:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#80 [向日葵]
※訂正

>>74

×美嘉要
○美嘉は要

⏰:08/06/23 00:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#81 [向日葵]
美嘉が持ってきたお弁当を受け取り、食べようとした時だった。

勢いよく保健室の扉が開いた。

驚いた2人はその方を見る。
そこに立っていたのは、要だった。

要は椿の姿を見つけると、土足厳禁だと言うのに靴のまま近づいてくる。

敵対心もあらわに、椿の前に立ちはだかる。

「何よ。まだなんかある訳?」

「心配しなくても君にじゃないよ。僕は椿と話がしたいんだ」

⏰:08/06/26 00:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#82 [向日葵]
椿が微かに体をぴくりと動かせたのを美嘉は視界の隅で認めた。
だから尚更ここをのく訳にはいかないと要を睨みつける。

「これ以上椿をいじめないで……。病人にまで手を出す気?」

「僕はそこまで鬼じゃない」

「どうだか……」

らちがあかないと思ったのか、要は美嘉の後ろにいる椿を見る。
要に見つめらるた椿はハッとする。

「椿、僕と話をしてくれるね?」

⏰:08/06/26 00:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#83 [向日葵]
「ちょっとアンタね……っ」

「美嘉ちゃん」

美嘉は振り返り椿を見る。
彼女は、未だ白い顔をしているにも関わらず、にっこりと完璧に微笑んでいた。

「大丈夫ですから、少し外で待っていてもらえますか?」

美嘉は少し躊躇った。
いくら椿の願いと言えど要が椿をいじめないと言うことはない。
それでも、椿の言う事に従ったのは、椿の事が大切が故だった。

渋々保健室から出て行く。

美嘉が出て行ったと同時に、要はまた近づいた。

「……君は馬鹿か」

⏰:08/06/26 00:27 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#84 [向日葵]
いきなりの暴言に、椿の笑顔はなくなり、驚いた顔が要の目にうつる。

「どうして倒れるまでこの炎天下にいる……。日陰に隠れることくらい出来ただろうっ!それに日傘の事だって、僕がぶん取ったと言えばいいじゃないか!」

椿は瞬きを繰り返した後、また静かに微笑んだ。

「葵さまは悪くないですよ……」

「……!別に……そう言う事を言ってるんじゃない……」

「私は葵さまのおっしゃる通り、つまらない奴なのです……」

⏰:08/06/26 00:31 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#85 [向日葵]
要が再び彼女をみれぱ、椿は窓の外をまぶしそうに見ていた。

「つまらないと、承知だからこそ、何か証明したかったんです。せめてこれぐらいの暑さや日光に堪える事の出来る体ならば、つまらないながら何か出来るんではないかって……」

彼女は自分の手元に視線を落とす。
うつ向くので、綺麗な黒い髪の毛が彼女の顔を隠す。要からは見えない。
椿の顔は悔しさで歪んでいた。

「日傘なんて……無くても元気な人は元気ですもの……」

⏰:08/06/26 00:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#86 [向日葵]
椿が泣いているのではと思った要は、彼女の両肩を持って強制的に顔を上げさせた。

突然の事に椿は驚いていたが、泣いてはいなかった。
要はそれに何故かホッとする。

「ごめんなさい……愚痴になってしまいましたね……」

椿は薄く笑う。
しかし要は、こんな時にまで笑って欲しくなかった。
……こんな時?
彼女が倒れたというだけだ……。
自分はそれを、気にしているのか?

⏰:08/06/30 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#87 [向日葵]
そんな事を思いながら、口を開く。

「笑うな」

吐息のように、椿は「え……」と言った。

「笑いたくない時は笑わなくていい。無理に笑えなんて言わないから。悲しかったら悲しい顔をしてもいいんだ。怒りたかったら、怒ればいいんだ……」

父や美嘉意外にそう言った人は要が初めてだ。
しかし彼は父達とはまた違う立場の人で、尚且つ彼自身を好きになるように仕向けようとしている。

なのに、上辺だけの筈なのに、どうしてそんな真剣な言葉を伝えてくるのだろう。

⏰:08/06/30 00:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#88 [向日葵]
椿は戸惑う。

どうすればいいのか分からない。
そうか、分からないから、この人の前では今まで笑って済ませていたんだ。

彼の巧みな言葉に惑わされてはいけない。

要が自分の事を心配するのは、あくまで利用する為なのだから。

そう胸に刻んだ椿は一度瞬きしてから、やはり微笑んだ。

「悲しい事も、怒る事も、私はありません。幸せなんです。だから笑うのです」

「――っ!だから、そういうんじゃ……っ!」

肩を掴んでいた手に力が入る。

⏰:08/06/30 00:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#89 [向日葵]
痛いのか怖いのか、椿はビクリと体を震わせ、顔を少し歪ませる。

要はそれに気づき、パッと肩から手を離し、そっぽを向く。

気まずい空気が2人の間を漂う。
要は深呼吸して、頭を片手でかき乱した。

「君が笑おうが泣こうが関係無いんだけどな……。でも、笑っているばかりで君の人生が成立するなら、それは間違ってる気がするよ」

「間違ってる……ですか……?」

「笑うだけの君で、本当に社長やさっきの友達は満足なのかな」

⏰:08/06/30 00:40 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#90 [向日葵]
「それは……」

「君は、何もかもに素直に従って、満足?」

椿から、笑顔が消える。

本当に、この人の、要の考えている事が分からない。
だから微笑んでいたいのに、簡単に笑顔を無くさせる。

抵抗しても、仕方ない事を何故させる……?

「要さまは……そんな私でも、満足なのでしょう……?」

要と目が合う。
目を合わせたのは、初めてな気がした。

⏰:08/06/30 00:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#91 [向日葵]
やがて、目に険しさを含ませると、彼は立ち上がった。

「ああそうだった。君が素直に従ってくれれば万々歳だ。忘れていたよ。これからもそうしてくれるとありがたいねっ」

やけくそに言うと、彼は出て行った。
半ば唖然としながら彼が出て行くのを椿は見ていた。

何を怒る事があるのだろう。本当の事な筈なのに……。

……まさか、励まそうとした……?
……そんな訳ない。
だから分かっているでしょう?何度も言ってるじゃない……。

彼が自分を心配する筈がないと……。

⏰:08/06/30 00:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#92 [向日葵]
******************

廊下を突き進みながら要は胸の奥にたまったモヤモヤにイライラしていた。

自分は彼女をどうしたいか分からなくなっている。
椿が言うように素直に従ってくれていれば彼としては満足なのだ。

それなのに要は、自分の前では無理に笑わないで欲しいと思ってしまったのだ。

いつの間にか出ていた真剣な言葉は、出れば出る程どうにか椿に届いてくれと願っていた。

しかし、彼女との壁はあまりに高く、理解してくれる気配すら感じなかった。

そしてその事にも、要は苛立っているのだ。

⏰:08/06/30 00:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#93 [向日葵]
自分が言って始めた事だ。
分かってる。

心を貰うのなんて簡単な事。巧みに並べた単語を繋げて口にすればいい。
ただそれだけだ。
だが、椿にそれは通用しないのだ。

嘘の言葉を、いつしか本当の言葉として引き出してしまう雰囲気を椿は持っている。

「……くそ……」

椿の心を乱すつもりが、自分が乱されているみたいで、当分要のイライラはおさまる気配はないようだ。

*******************

午後の部が始まる。

⏰:08/06/30 00:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#94 [向日葵]
日差しは少しマシになったものの、湿気や気温はマシにはならない。

まだフラフラしているので、美嘉が日陰にいなさいと怒っていたが、椿はサラリと流して今席にいた。

「椿さま」

背後から声がした。
振り向けば、要の従者がいる。

皆が何事かと従者を見るので、気をつかった椿は人があまりいない所へと移動した。

「えと、どうかなさいましたか……?」

「要さまから贈り物でございます」

⏰:08/06/30 01:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#95 [向日葵]
差し出されたのは、黒い日傘で、上品にレースがついてある綺麗な物だった。

「え、でも……」

「伝言もあります」

「伝言?」

「「すまなかった」とだけ、言っておりました」

椿は目を見開いた。

どうして謝るの……?

「要さまは、今から1週間程イギリスへ向かわれます。何かお伝えする事はありますか?」

渡された日傘に目を落とす。
これだって、要の作戦かもしれない。

⏰:08/06/30 01:07 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#96 [向日葵]
けれど、直接伝えてこない不器用な言葉や、ただ返せばいい日傘を買ってきて返す心遣いに、なんとなく胸が温かくなる。

「お気をつけて、とだけ、お伝え願えますか……?」

「かしこまりました」

それだけ言うと、従者は素早く身を翻し行ってしまった。

椿は、貰った日傘を差してみた。
日光に透けたレースを見ると、その柄は小さいけれど椿の形をしていた。

これは作戦?
……それとも。

⏰:08/06/30 01:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#97 [向日葵]
>>94

×今席にいた
○今席にいる

⏰:08/06/30 01:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#98 [向日葵]
携帯変えましたが、向日葵です

⏰:08/07/07 00:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#99 [向日葵]
「椿ー!そんなとこで何やってんのー?」

「あ……いえっ、今戻りますっ」

そう言って椿は美嘉の元へと駆け出した。

椿柄のレースが入った、日傘をさして……。

⏰:08/07/10 21:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#100 [向日葵]
[第3話]

今日は生憎の雨。
どうやら台風が近づいて来ているらしい。
そんなジメジメした空気なのに、椿は広い書庫で探し物をしていた。

体育祭も終わり、今日は代休だ。
ゆっくり休めばいいものの、椿には気になる事があった。

それは、友人である越の家族、“柴”と名乗る男性の事だ。

体育祭で見た彼は、走る為に邪魔なのか、少し長い髪の毛を1つにまとめていた。


それでも椿には見た事がある顔だった。

余計な事だとは分かっている。
でも越に確かめて欲しかったのだった。
もしその人が、自分が知っている人ならば、何の為に越の元にいるのかと……。

⏰:08/07/10 21:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#101 [向日葵]
アルバムをさっきから探して写真とにらめっこするも、彼は写真が嫌いなのか写っているものが見つからない。

「んー……」

越を混乱させたくはないし、これは椿が勝手にやっている事だ。

もう諦めようか……。

椿はそう思い、立ち上がる。

「家宅捜査でもやっているのか?」

振り返れば、要がそこらに散乱しているアルバムを踏まないようにしてこちらに来ている。

「葵さま……。いらっしゃいませ」

椿は深々とお辞儀をしてから「あれ?」と思った。

⏰:08/07/10 21:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#102 [向日葵]
「今日は都内で会合とお聞きしたのですが……」

「何だか知らないけどどこかの重役が予定入ったから中止になったらしいよ。まったく、勝手もいい所だよね」

「で」と要は続ける。

「この騒ぎは何?探し物?」

「あ、ハイ……。友人に柴さまと言う方がいらっしゃいまして、気になる事があったんです……」

それを聞き終えると、要は眉を寄せて難しい顔をした。
椿は首を軽く傾げて、どうしたのかと思う。

「……気になる?」

「あ、ハイ……」

⏰:08/07/10 21:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#103 [向日葵]
「何気になるって」

要は椿に詰め寄る。
椿は目をまんまるくさせてから瞬きを何度か繰り返す。

「え、特には……意味は……」

「婚約者がいると言うのに堂々と浮気する気なの?君は誰のものか分かっているのか?」

そこまで言われ、椿は何故要の機嫌が悪いのかが分かった。
慌てて弁解する。

「そういう事ではありません……っ。恋愛感情って事ではなく、どこかで見た事があるから気になるって意味です」

要は椿をジーッと見つめる。
前のめりに見つめてくるので、徐々に椿の体がのけ反っていく。

「本当に?」

「は、はい……本当です……」

⏰:08/07/10 22:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#104 [向日葵]
「なんだか……返事が曖昧だ……」

それは要のせいだろう。

「そんな事は……」

「無い」と言いかけると、少しずらした足に、散らかしていたアルバムが当たる。
と同時に、のけ反っていた椿の体が更にのけ反った。

「キャッ……!」

「あぶ……っ」

ドスンと大きな音を立てて倒れる。
椿は目をギュッと瞑り、衝撃が来るのを待った。
しかし、いつまでたっても衝撃どころか、痛みすらこない。

⏰:08/07/10 22:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#105 [向日葵]
そっと目を開けると、まず天井が見え、そして……。

「ちょっと、大丈夫……?」

要の顔が間近にあった。

そして気づけば、自分の頭が床にぶつけないように、要の大きな掌がかばっていた。

しかし……。
先ほどといい今といい……。
さっきから要と近くで見つめあいすぎではないだろうかと椿は思った。
しかもこの格好だ。
椿の白い頬が赤く染まる。

「ちょ、ちょっと……!こんなお約束な格好になっただけで赤くならないでよ……っ!」

珍しく慌てて要は椿の腕を引っ張って起こす。

⏰:08/07/10 22:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#106 [向日葵]
2人して座り、気まずい雰囲気になる。

要はポリポリと頭をかく。

「椿ってさ……恋とかした事ないの?」

「そういうの、あまり分からなくて……。憧れの人ならいましたけど……」

「ふーん。どんな奴?」

椿は散らばっていた中にあるアルバムを1つ手にした。
パラパラとページをめくり、ある写真を指差す。

「こちらの方です。早乙女聖史さんと言う方で、小さい頃から仲良くしてもらってるんです……」

要は写真を覗き込む。

⏰:08/07/14 00:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#107 [向日葵]
写っているのは、柔らかな雰囲気をまとった10歳くらいの少年が、まだ3歳ほどの小さな椿を抱き締めて微笑んでいるものだった。

「兄のようになついていましたわ……。この頃は、聖史さまが忙しくて、会ってはいませんが……」

憧れと言うわりに、どこかうっっりしてその写真を見る椿に、要はムッとした。

「好きなの?」

また同じ事を言う要に椿は首を傾げる。

「明らかに、憧れって思ってない顔してるよ、椿」

それを言われ、椿の頬はまた赤くなった。
要はさらにムッとする。

⏰:08/07/14 00:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#108 [向日葵]
「つまんない……。僕は一旦帰るよ」

「あ、じゃあお見送りを……」

「いい。他の奴にうっとりしてる君に見送られたくなんかないねっ」

ズカズカと進んで行き、乱暴にドアを閉めた。
椿は片目を瞑ってそれをやり過ごす。

そして椿はまた写真に目を落とした。

本当に憧れだ。
物腰が柔らかく、優しく、頭の機転がいい聖史は、椿の良き兄的存在。
久しぶりに会いたいな、などと思えば、こんな自分の浮わついた心が要を不機嫌にさせたのかと少し落ち込む。

⏰:08/07/14 00:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#109 [向日葵]
自分は、要を怒らせてばかりだ。

それなのに、要は自分を気遣う一面を見せてくれたりもする。

体育祭の事は例え要の作戦だとしても、さっきのような突然の事態に作戦として素早く助ける事はきっと出来ない。

そんな所が、少しずつ椿の要に対する警戒心を解きつつあるのであった。

――――――――……

おかしい。
と要は帰っている車の中で思っていた。

前にせよ今にせよ、何故か椿にドンドンハマっているのでは?と感じる自分がいる。

⏰:08/07/14 00:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#110 [向日葵]
心を開いてくれない彼女にイライラしたり、自分以外の誰かをときめいた目線で見ていれば妬きもちを妬いたり……。

好きに慣れそうにないと思ったのに、彼女の何が自分を惹き付けるのだろうか……。

「大久保」

年若い運転手の従者に声をかける。

「ハイ」

「お前は椿嬢をどう思う?」

「椿さまですか……」

「客観的に見て彼女は可愛い部類なのか?」

モデルを見慣れている彼にはあと1歩椿のどの部分が可愛いのかを見抜けていない。

⏰:08/07/14 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#111 [向日葵]
「私は可愛いらしいと思いますよ。儚げで綺麗で……まるで桜のようじゃありませんか」

「フッ……桜か……。僕はギンリョウソウだと思うけどね……」

「ギンリョウソウ……ですか……?」

どうやら従者はギンリョウソウを知らないらしい。
それならそれでいいと、要は腕を組んで目を瞑る。

白く、ひかえめな存在である椿。
彼女こそ、ひっそりと小さく咲くギンリョウソウと称するにあった少女だ。

ただ、ギンリョウソウなどと名前も知られていたい花に例えるのはきっと失礼だろうと要は分かっていた。
それでも、従者が言うような桜などのポピュラーな名前の花は、彼には思いつかないのであった

⏰:08/07/14 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#112 [向日葵]
「要さま。一旦帰ると申しますが、帰ってからはもう外には行かない方がいいかと思われます」

「なんで?」

「天気がこれから雷雨になりますし、風も強まるみたいです。何かあっては大変ですから」

「んー……」

ん?
そう言えば、今日野々垣社長はあの屋敷にはいないのではなかったか?
確か店舗の視察で、先週から関西の方へ行っているとか……。

椿は……大丈夫なのだろうか……。

ハッとして首を振る。

⏰:08/07/14 00:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#113 [向日葵]
>>107

誤]うっっり
正]うっとり

⏰:08/07/14 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#114 [向日葵]
>>110
誤]好きに慣れそう
正]好きになれそう

間違いばかりですいません

⏰:08/07/14 01:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#115 [向日葵]
>>111

誤]知られていたい
正]知られていない

本当にすいません

⏰:08/07/14 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#116 [向日葵]
どうして椿の心配をしなくちゃならないんだ。
しかも彼女には、他の心配してくれる人が沢山いる。
自分が心配する必要なんてないのだ。

地面に大きな水たまりが出来はじめる。
要を乗せた車は、その水たまりに勢いよくタイヤを沈ませ、酷くならない内に、家へと帰って行った。

―――――――……

「お嬢様、今よろしいですか?」

アルバムをまた元の位置に戻し、自分の部屋に戻ったばかりだった椿は、自らドアを開ける。

立っていたのは、メイドの中でもよく自分を世話してくれる佐々木だった。

⏰:08/07/15 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#117 [向日葵]
「どうかなさいました……?」

「それが、旦那さまがこの天気のせいで今日は帰れないとおっしゃってるそうです」

「まぁ……」

椿は窓に目をやる。
さっきよりも雨は勢いを増し、ザーッと耳障りな音が響いている。

「大丈夫でしょうか……」

「椿さまには心配しないようにと伝言を預かっています。ですから大丈夫ですよ」

佐々木はにこりと笑う。
それにつられて、椿も微笑んだ。

「そうですね……。無事に帰ってくるよう待っていましょう……」

⏰:08/07/15 01:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#118 [向日葵]
父だけが私の望みだ、と椿は思う。

母が亡くなってから、まだ幼い椿を必死になって育て、愛してくれたのは父だ。
他の使用人達も、自分の事をよく見てくれたけれど、やはり1番は父だ。

父さえ無事でいてくれるなら、他に何もいらないのだ……。

雨足は強くなる。
多分警報くらいは出ているだろう。

「え?本当に?」

部屋の外から、微かに声が聞こえた。
椿と佐々木はその方へ向く。
廊下の向こうから、メイド2人が現れ、椿に気づくと慌てて頭を下げた。

⏰:08/07/17 23:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#119 [向日葵]
「どうかなさったんですか?」

「ええ実は……」

「や、やめて下さい!」

止めたのは、最近入ってきた新人のメイドだ。
椿とそんなに年は変わらなく、いつかじっくり話してみたいなと椿は思っていた。

そのメイドの様子が、おかしかった。

「何かあったのなら、教えて下さい」

心配そうな椿を見て、若いメイドはうつ向きくちごもる。
代わりに、彼女を指導していた少し年上のメイドが口を開く。

「この子、大久保さんと言うんですが……、大久保さんの実家が、山近くにありまして、どうやらこの雨で、実家近くで土砂崩れがあったそうです」

⏰:08/07/17 23:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#120 [向日葵]
「まぁ!大変!」

佐々木が声を上げる。

椿は窓の外を見る。
さっきまで激しく降っていた雨は、今度は少しおさまったようだった。
こくりと頷いて、大久保に歩み寄った。

「雨が今はマシになっています。大久保さんの実家はどちらですか?」

「車で、1時間程の……」

「今すぐお帰りになって下さい。このままじゃ、更に天気は悪くなります。そして佐々木さん、皆さんに、今日はもう帰るようにお伝えして下さい」

「お嬢様……っ!?」

⏰:08/07/17 23:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#121 [向日葵]
椿は佐々木の動揺を無視して、1番使いたくない言葉を吐き出す。

「これは命令です。早く、今の内にお帰りになって下さい」

椿の強い眼差しに、佐々木はもう何も言わなかった。
この言葉を使った彼女が折れる事は無い事を知っているからだ。

―――――――……

30分後。
幸い雨はまだマシなままだった。
使用人達はやはり実家が心配だったのか、次々に帰って行った。

「本当に、大丈夫ですか……?」

最後に出ていく佐々木が、椿を心配そうに見つめる。

⏰:08/07/17 23:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#122 [向日葵]
椿はにこりと笑って1つ頷く。

佐々木はまだ躊躇いながらも、ドアを閉め、野々垣邸を後にした。

残された椿はため息を小さくする。

どうか、大久保さんも、佐々木さんも、皆の家族が無事でありますように……。

椿は静まりかえった屋敷の音を聞いていた。
今は雨の音だけだ……。

彼女は慣れていたのだ。
小さい頃から、こんな事は何度もあった。
きっとこんな雨は明日になればやむだろう。
そうすればまた明日皆に会える。
自分が、この1日を越えればいいだけなのだ……。

⏰:08/07/18 00:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#123 [向日葵]
*******************

要は家で本を読んでいた。

椿の家にまた行こうと思っていたがこの雨だ。
行ける訳がない。
となれば今日1日暇だ。

その時、要の部屋のドアがノックされた。
適当に要が返事をすると、執事が現れた。

「要さま、野々垣家のメイドの方がいらっしゃってます。佐々木さまとおっしゃる方です」

「佐々木……?」

名前を何度も頭の中で繰り返し、ようやく「あぁ……」と思い出す。

確か椿のお付きメイドみたいなので、20代後半くらいの……。

⏰:08/07/18 00:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#124 [向日葵]
「通してもいいよ」

しばらくして、佐々木が戸口に現れた。

「失礼します、要さま」

「いいよ。どうしたの?」

「無礼を承知でお願いを申し上げます……。お嬢様の……椿さまのそばに、いて欲しいんです……」

要は首を傾げる。

どうして自分が?
そばにいるのなら他の使用人や、この佐々木だって、いればいいじゃないか、と思う。

「そばに、と言っても、この雨なんだけど」

「ではせめて、お電話をしてはもらえないでしょうか……?」

⏰:08/07/18 00:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#125 [向日葵]
「何故する必要が?」

佐々木は悲しい顔をした。
少し目を伏せながら、また口を開く。

「私達使用人は、今日は帰るように命令されました」

命令?あの椿が?
さらに首を傾げたくなったー

「何で?」

「この天候だからです。家に何かあれば大変だからって、この時期にはよくるんですか」

⏰:08/07/18 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#126 [向日葵]
>>125

誤]よくるん
正]よくある

⏰:08/07/22 00:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#127 [向日葵]
あ、間違った

誤]よくるんですか
正]よくあるんですが

すいません

⏰:08/07/22 00:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#128 [向日葵]
「でも急に何故……」

「新人メイドの大久保さんと言う方の実家の近くで、土砂崩れがあったそうです」

「大久保?」

「なんですか要さま」

たまたま部屋の前を通りすぎた、要の運転手である大久保は足を止めた。

「お前兄弟いるのか?」

「いいえ」

「なぁんだ。いいよ、行って」

なんで呼ばれたのか分からない運転手大久保は首を傾げながらも素直にその場を去って行った。

⏰:08/07/22 00:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#129 [向日葵]
「つまり、今椿はあの屋敷に1人ってこと?」

「ハイ……」

「でも昔からよくある事なんだろ?じゃあ椿は慣れっこじゃないのか?」

佐々木はお腹の前辺りで指を組み合わせてうつ向くと、悲しそうに微笑んでゆっくりと首を横に振った。

「あの方は、決して寂しくても寂しいと言いません。辛くても辛いと言いません。誰よりも自分を呪っている方ですから……」

「呪い……?」

要の脳裏に、儚げに笑う椿の姿が一瞬浮かんだ。
佐々木は腕時計をちらりと見てから、口を開いた。

「自分のせいで、お母さま、つまり、奥さまが亡くなったと思っているからです」

⏰:08/07/22 00:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#130 [向日葵]
要は軽く目を見開いた。

「どうして……」

「これ以上は私から言えません。いえ、言いません……。続きは是非、椿さまの口からお聞きになって下さいませ……」

それから佐々木は「失礼します」と言って要の部屋を後にした。

1人部屋にとり残された要は、読みかけの本を手に取り、またすぐに机に置いた。
窓の外はまだ昼を過ぎたところだと言うのに暗く、電気をつけるほどだ。

こんな暗い中、あの広い屋敷に、しかもたった1人で椿がいるのかと思うと、さっきの脳裏に浮かんだ儚げな微笑みが、寂しげに思うのだった。

⏰:08/07/22 00:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#131 [向日葵]
*****************

突然ピカッっ光ったと思えば、しばらくして轟音が遠くの方で鳴り響く。

「光ってから何秒数えれば距離が分かるんでしたっけ……」

自室の窓辺に、雷を恐る事もせず椿は外を眺めていた。

先程から、使用人達から無事に家についたと連絡があり、椿はホッと胸を撫で下ろしていた。

そこで椿はてるてる坊主でも作ろうかと思いつき、ティッシュ箱とペンを用意した。

明日がカラリと晴れますようにと、願いを込めて。

すると広い屋敷に電話の音が響きだす。

⏰:08/07/22 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#132 [向日葵]
父だろうかと胸踊らせ、椿は急ぎ足で電話がある所へと向かった。

「ハイ、野々垣でございます」

{あのさ君、携帯の電源くらいいれといてくんない?}

「え……要さま……?」

椿は驚きに少し声を上げる。

{何度も電話したのに出ないんだから……}

「すいません……」

⏰:08/07/22 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#133 [向日葵]
戸惑う椿の耳に、要のため息が聞こえた。

{……別に謝って欲しい訳じゃないんだ……}

なんだか慎重な様子の要に、椿は首を少し傾げた。
どうかしたのだろうかと口を開きかけた時、要が口を開いた。

{今、君は1人なのか?}

「え……あ、ハイ……。皆さんおうちへ帰られましたんで……。あの、それが何か……?」

{……寂しくは、ないか……}

「え……」

どうしてそんな事を聞くかわからなかった。
椿がどうなろうと知らないと言いそうなのが要だ。

⏰:08/07/24 00:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#134 [向日葵]
なのにどうして自分の事を、しかも心の底から心配してる風に聞くのだろうか……。

……でも。

「寂しくなんてないです……。雨の音はわりと好きなので……」

{なんでっ……!}

と要が声を荒らげた時、ブツッと声が途切れ、さっきまでついていた電気までもがプツリと切れてしまった。

どうやら雷が落ちたらしい。

しばらく受話器を見つめて、椿は受話器を置いた。

要は、何を言いたかったのだろうと考える。

⏰:08/07/24 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#135 [向日葵]
何が、「なんで」だったのだろう。自分は何か間違えた事を言っただろうか。

自分の部屋に戻り、ドアを閉めた途端物凄い音で雷が鳴った。
これには椿も驚く。

「キャ……ッ」

耳元を手で塞いで、ドアによりかかるようにしてしゃがむ。

瞑っていた目をゆっくりと開ければ、薄暗い部屋が広がっていた。

急に心臓がドクリと跳ねるのが分かった。

今日の限って、こんなにも広い部屋が怖く感じてしまうのだろう……。

⏰:08/07/24 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#136 [向日葵]
[寂しくは、ないか]

「……寂しい……か……ですか……」

ずっと、見て見ぬフリをしていた。
雨の音しか響かないこの屋敷は不気味で、少しの物音ですら過剰に反応してしまう。

「あ……」

動けない……。

しっかりして、と、微かに震えてしまう手で足を叩く。
赤ん坊みたいにハイハイするような形で、なんとか自分の大きなベッドまで辿り着いた。

ベッドに這い上がり、薄いシーツを頭から体に巻きつける。

⏰:08/07/24 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#137 [向日葵]
恐怖と自分の間に、薄いシーツが挟んだおかげで、少しだけ怖くなくなった。
そんな事を思いながら、ぼんやりと窓の外を見る。

相変わらず雷も雨も止まない。

そういえば1度、台風の目に入った事があって、驚く程静かだったのを覚えている。
まるで世界で自分1人しかいないんじゃないかと思った。

その時の事を思えば、まだ音が聞こえてる方がマシなのかもしれない。

シーツを握りしめて、椿はこてんとベッドに横たわった。
静かに目を閉じれば、自然と夢の世界へと旅立っていった。

――――――――……

ピチャ……と音が聞こえた気がした。
うっすらと目を開けた椿は、寝ていたのかと、まだ眠い目を擦る。

⏰:08/07/24 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#138 [向日葵]
窓がガタガタ揺れる。
風も出てきたらしい。

先程より空は暗くなり、それと同時に椿の部屋も暗さが増した。

蝋燭か、懐中電灯は無かっただろうか、とシーツを巻いたまま床に降りようとした時だった。

キュッ……と、何かが擦れる音がした。

椿はハッとして、床に降りる足を止める。
そういえば、自分は水が滴る音のようなもので目が覚めたのだ。
でも水気があるのは窓だけで、しかもその窓はしっかりと閉めてあるから雨水がこちらへ漏れてくる事はまず無いのだ。

「じゃあ……?」と思った時、またキュッ……と音がした。

⏰:08/07/24 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#139 [向日葵]
椿は息をのむ。

「な……何……?」

キュッ……という音は、段々と近づいてくる……。
ベッドの上で、椿は後退り、枕元に辿り着く。

その間にも、音は止まず、大きくなっていく。

全神経を集中させて、ドアを見つめる。
するとキュッ……という音は、椿の部屋の前で消えた。

いや消えたのではない……。

椿の部屋の前で止まったのだ……。

「どうして……」

⏰:08/07/24 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#140 [向日葵]
>>135

誤]今日の限って、こんなにも
正]今日に限って、何故こんなにも

⏰:08/07/24 11:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#141 [向日葵]
ガタガタ震えだす体をシーツと一緒に巻き付けるようにして自分の腕で抱く。

ギュッと目を瞑り、うつむく。

ゆっくりとドアが開けられた時、椿の恐怖はピークに達した。

「――っ!」

息を吸い込んで、音にならない悲鳴を上げる。

「何をやっているんだ君は……」

この声は……。と椿は固く閉ざしていた目をゆっくりと開く。
うつむいていた体も同じように起こして、暗さが増した室内を見渡し、ドアの方に目をこらした。

「まったく……呼び鈴を鳴らしても出てこないし……携帯に連絡してもやっぱり出ないし……」

⏰:08/07/27 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#142 [向日葵]
キュッと音を鳴らしながら要は椿の部屋へ入ってくる。
その音と共に水の滴る音も聞こえる。

微かな光のおかげで、椿の近くまで来た要の姿が見えた。
その姿はびしょ濡れになっていた。

驚いて要に見いる椿の視線に要は気づく。

「ちょっとした手違いで濡れただけだよ……。気にしなくてもこんな事で風邪をひく程、僕の体は柔じゃないから」

手違いでそんなに濡れる訳が無い。
もしかして、急いで駆けつけてくれたのだろうか……。
……まさか、そんな訳……。

⏰:08/07/27 02:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#143 [向日葵]
「あの……何か拭くものをご用意しますね……」

「いいよ。すぐ乾く」

「でも……」

「言ったでしょ?そんな柔じゃないって」

言いながらドスンとベッドに腰を下ろす。
そして椿をじっと見つめる。

「そんなの巻いて……やっばり寂しかったんじゃないか」

ドキリとして、椿は口ごもり、顔を赤らめる。
暗くて良かった。

「寂しくは……ないですわ……。少し寒い気がしたので……」

暗くなければ、こんな強がり言えない。

⏰:08/07/27 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#144 [向日葵]
しかし要は何もかもお見通しだと言うようにクスリと笑った。

「寒いのなら頭から被る必要はないと思うよ?いい加減素直に恐かったと言ったらどう?」

確かに恐かったけれど、いつもはそんな風には思わなかった。
要が「寂しいか?」等と訊くから、隠し通していた形のないものがはっきりとしてしまったみたいで……。

だが結局、椿は寂しかったのは事実なのだ。
それが恐怖を呼び、今に至った。
それでも椿は言った。

「……大丈夫です……」

椿がそう言った後、沈黙が少しの間2人を包んだ。
聞こえるのは、雨と、風と、風に揺れる窓の音だけ……。

⏰:08/07/27 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#145 [向日葵]
そして要がため息をついた。

「何なんだ……君は……」

「え……」

ぐいっと腕を引っ張られ、間近で要と見つめあう形になった。
微かな明かりで見える要の顔は、機嫌が悪いと言うよりは怒っているように見えた。

「僕は君の婚約者なんだ。君が誰にどんな強がりを言おうとそれは勝手だ。だけど、こんな時くらい弱みを僕に見せる事すらしてくれないのかっ!」

椿は目を見開く。

もう要は自分の気持ちに気づいていた。

可愛いとか可愛くないとかどうでもいい。

⏰:08/07/27 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#146 [向日葵]
他人の為なら、何もかも諦めてしまいそうなこの少女を守るのは自分しかいないと感じている。

何が……好きになれそうにないだ……。
痛々しくて、驚く程健気な椿に、徐々に惹かれていたくせに……。

認めたくなかったのは、「好きになれそうにない」と言った彼自身の言葉に意地になっていたからだ。
でも……もう隠す必要はない。
隠そうとしても、椿のする事なす事に、こうして首を突っ込んでしまうのだから……。

「君の本音は僕だけが聞く。他の誰にも打ち明ける事が出来ないのなら、僕だけは君の為に耳を傾ける」

⏰:08/07/27 02:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#147 [向日葵]
椿の華奢な両肩を、腕を引っ張った力より優しく柔らかく掴む。

「だから、無理して笑うな。これは命令だ。君が使用人達に、無理矢理言うことを聞かそうと、この“命令”と言う言葉を使うなら、僕だって無理矢理にでも聞いてもらう」

椿は未だ驚いたように要を見る。

そんな椿の頭には疑問しか浮かばなかった。

どうして?
要は、自分の利益の為に婚約者を名乗っているだけなのに……。
どうしてそんな事が言えてしまうのだろう……。
しかも、そんな真剣に……。

「……しい……」

そして自分もどうしてしまったのだろう。
呟くように、椿が言葉を紡ぐ。

⏰:08/07/27 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#148 [向日葵]
「何……?」

「……い…………」

「はっきり言え!」

少し椿の肩を揺らす。
その肩が、小さく震えだす。

「怒らない。迷惑だなんて思わない……。だから言うんだ」

椿の呼吸が乱れだすのを、要は耳で感じていた。
それでも、言わせなきゃならない。
こうでもしないと、彼女の本音はずっと閉じこもってしまったままで、代わりに嘘の笑顔と言葉が出てくるのがクセになってしまう。

「さ……寂しい……です……っ」

吐息のように、でもはっきりと、彼女の声が聞こえた。
窓からの明かりが、椿の頬を流れる滴を、幻想的に光らせる。

⏰:08/07/27 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#149 [向日葵]
「ずっと……寂しかったんです……。でも私はこんな体で、小さな頃から皆さんに迷惑かけてて……」

溢れ出す涙と共に、何年も閉じ込めていただろう椿の心の言葉がポロポロとこぼれていく。
それん要は黙って受け止めていた。

「せめてワガママだけは言わないで……いい子でいようと……思ってました……。寂しいなんて言っては、また皆さんを困らせるって……こんな日はずっと……朝が来るのが待ち遠しかった……」

「うん……」

「私はこんな事でしか皆さんの為にする事は出来ないんです…………。だから……だか……」

⏰:08/07/27 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#150 [向日葵]
椿は両手で顔を覆って静かに泣く。

それを見ながら要は、過去椿に言った酷い言葉の数々を思い出し、自己嫌悪に陥っていた。

彼女は、要の言葉のトゲを刺したまま過ごしていたのだろうか……。

ぎこちなく手を伸ばし、椿の頭にかかっているシーツを取る。
そして改めて体に巻き付けてやる。

「そんなに自分を責めなくていい……。そんな事をしなくても、皆君が好きだよ……」

椿は首をゆっくり横に振った。
「そんな訳がない」とでも言いたいのだろうか……。

⏰:08/07/27 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#151 [向日葵]
「その証拠に、君のとこのメイドさんが、君のそばにいてやってくれと僕の所へ来たよ」

まだ濡れている目で、椿は要を見る。
要は椿の頬に流れた涙を拭うようにして、そっと触れた。
涙で濡れた頬は、少し冷たい。

「皆君を大事にしてくれる。だから、迷惑だなんて、思わなくていいんだ……」

椿はまた顔を歪めて両手で覆った。

そんな椿を、ふわりと空気を抱くかのように要は包みこんだ。

少しだけ、椿の体がハッと硬直する。

「君は、いらない存在なんかじゃないから……」

⏰:08/07/29 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#152 [向日葵]
優しく包みこまれ、優しい言葉を向けられたら、椿はまた一段と泣いた。

心のどこかでは、簡単に許してはいけない、この人に弱い自分を見せてはいけないと思っているのに、温かい腕からは逃げる事は出来ず、逆にすがりついてしまう。

せめて今だけは、要の気持ちを信じたいと感じる椿は、そう思う反面でこれが本当の要のような気もしていたのだった。

「明日になるまで……ずっとそばにいるよ……」

次から次へと流れてくる涙を止めようとは思わなかった。
要なら、受け止めてくれるように思った。

この寂しかった日々も。
この形容しがたい温かな嬉しさも……。

⏰:08/07/29 01:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#153 [向日葵]
[第4話]

「え、風邪ですか……っ」

爽やかな朝。
朝食を取っていた椿の耳に驚く出来事が入ってきた。

「ハイ。どうやら高熱をお出しになったみたいで……」

それを告げているのはいつも椿の面倒を見てくれている佐々木だ。

「大変……」

実は要が風邪で寝込んでいるという。
原因は2日程前の雨が原因と見られる。

椿は私のせいだと落ち込む。

⏰:08/07/29 01:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#154 [向日葵]
それに昨日も雨が降って、嵐程でもないのに要はまた来た。
もしかしてその時から体が辛かったのではないかと思えば、更に落ち込んだ。

膝に敷いていたナプキンをのけて、椿は立ち上がる。

「今日、学校の帰りにお見舞いへ行って参ります。帰りは遅くなると思います」

「かしこまりました」

―――――――…………

「椿椿椿ぃー!今日帰り、アイスでも食べて帰らない!?」

学校が終わる前、美嘉が無邪気に椿に笑いかける。

「あ、えと、ごめんなさい……。今日、要さまのお見舞いに行こうと思っているんです……」

⏰:08/07/29 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#155 [向日葵]
要の名前が出れば、美嘉の顔が険しくなった。
彼女にとって要は椿を苦しめる最低な奴としか認識されていないのだ。

「ほっとけばいいじゃんっ。忘れたの椿。アイツのせいで椿1回倒れたのよ?」

そう言われてしまっては椿も苦笑いするしかない。

でもあの嵐の日、自分がそう仕向けたとは言え、1人ぼっちになった自分を支えてくれたのは要だ。

要がいなければ、今こんなに心が軽くなってはいないだろう。

「それでも……行きます……。今日は、私が率先して行くと言ったので……」

⏰:08/07/29 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#156 [向日葵]
そう言えば、美嘉はため息をついた。
1度決めた椿を止めるのを無理と知っているから諦めの意味もこもっていただろう。

「風邪って言う口実でなんかされそるになったらすぐ報せなさい」

「何か……ですか……?」

「いい!?椿」

美嘉はズズイッと椿に顔を近づけた。
椿はパチパチと瞬きを繰り返し美嘉の話を聞く。

「風邪をひいたらなんでも言うことを聞いてくれるって勘違いする奴がいるの。それを利用して無理難題押しつけてくるんだからね!」

⏰:08/07/29 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#157 [向日葵]
椿は美嘉が言っている事が分からないながら、とりあえず相づちを打つ。

「アイツはその見本品よ……」

今にも口から火を吐きそうな恐ろしい顔をしながら、妙に力を入れて言う美嘉に、椿はやっぱり苦笑いを浮かべるしかなかった。

―――――――――…………

要の屋敷は椿の屋敷より大きい。

デザイン職なだけあって家もデザインされた作りになっている。

例えば玄関なんて床は透明ガラスで出来ていてその下にある空色の床が見えていたり、階段は木で出来ているが色はとてもポップで、段になっている所のみ赤、青、黄色で構成されている

⏰:08/07/29 01:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#158 [向日葵]
男でも女でも楽しめそうなこの空間に、椿は感嘆のため息をもらした。

「いらっしゃいませ、椿さま」

年若い従者が椿を迎える。

「こんにちわ。お忙しい所、押し掛けた形になって申し訳ありません」

「いえ、要さまもお喜びになることでしょう。案内させて頂きます」

柔らかく微笑んだ従者と椿は、要の部屋まで歩き始める。

歩きながら、ふと従者の方を見ると、その人の耳には小さな赤いピアスがされていた。

椿の家では使用人達はアクセサリー類のは禁止されているので、物珍しそうにじっと見つめる。

⏰:08/07/29 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#159 [向日葵]
その視線に気づいた従者は、椿ににこりと微笑む。

「これですか?要さまが似合いそうだからとプレゼントしてくださったんです。それと、私が要さまの友人のようになるようにと言う証でもあるようなのです」

柔らかい雰囲気をまとった彼にそのピアスをする事によって、その柔らかさが良い意味で少し無くなる。

「えと……お名前をお聞きしてもよろしいですか……?」

「もちろんです。大久保と申します」

そう言われれば、この頃入ったあのメイドを思い浮かべた。

「あの大久保さん……兄弟はいらっしゃいますか?」

⏰:08/07/29 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#160 [向日葵]
そう言うと、大久保はクスクス笑った。

「要さまにも言われましたよ。どうやら同姓の方が、椿さまのお屋敷にもいらっしゃるようで……」

「ハイ……そうなんです……」

「後から聞いた話ですが、その方大変だったそうですね……。でも、それを聞いて、要さまが「兄弟がいるのか」と尋ねた理由が分かったんです。私の事を心配して下さったようです」

と、大久保は足を止めた。

「椿さま。要さまは優しいお方です。たまに意地悪をおっしゃったりするかもですが……彼にとっては愛情の裏返しでもあるのですよ」

⏰:08/07/29 02:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#161 [向日葵]
椿は静かに微笑む。

もしかしたらそうなのかもしれない……。
ただ彼は、伝える事に関してはとても下手で、たどたどしい。
それでも、気持ちは入っているのかもしれない……。

「あぁ、申し訳ありません!ベラベラと……。では、こちらが要さまのお部屋でございます」

カチャリとドアを開け、中へ誘導する。

開くと同時に、要の声が聞こえた。

「大久保……?喉が乾いた……。水をくれないか?」

大久保は口に人差し指を当てて、水差しを椿に渡した。
どうやら驚かせたいらしい。
そして静かに部屋を出ていく。

⏰:08/07/29 02:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#162 [向日葵]
一方、水差しを渡された椿は、どうしゃうか悩みながらも、要が喉が渇いていると言う事で、要が寝るベッドまで行った。

要はぐったりと横たわっていて、片腕で目元を隠している。

「要さま、お水です……」

「ああ、ありが……。って!なんで君がここにいるんだ!?」

「あ、あの、風邪をひいたと聞きましたので……」

大きくため息を吐いた要は、とりあえず喉を潤す為水を一気飲みする。
近くにあった小さなテーブルにコップを置いて、ダルそうに起き上がる。

「寝てて下さい……っ。お体を休めませんと……」

「いいよ……。そんな柔じゃない……」

⏰:08/07/29 02:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#163 [向日葵]
>>156

誤]なんかされそるに
正]なんかされそうに

⏰:08/07/29 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#164 [向日葵]
柔じゃないなんて嘘だと椿は思った。現にこうして体を壊しているのだから。

「それより君、やっと僕の名前を呼ぶようになったね」

「え……っ。あ……これはっ、なんと言いますか……大久保さんの言葉が移ってしまって……」

何の不思議もなく、要の事も呼んでいたので、椿は真っ赤になった。

「ごめんなさい……馴れ馴れしくしてしまって……っ」

「何言ってんの。僕はいつも呼ぶように言ってたじゃないか。頑なに呼ばなかったのは椿の方でしょ」

皮肉な言葉は混ざっているけれど、要は嬉しそうに笑う。
本当に嬉しそうに笑う。

⏰:08/08/01 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#165 [向日葵]
だから椿は嬉しかった。
つられて椿も微笑む。
要の前で、何も考えず、無理せず笑うのは、初めてじゃないだろうか。

「それより、早く帰りな。僕の風邪が君の移っては、社長の怒りを買っちゃうかもしれないしね」

体のダルさなんて平気だと言うように振る舞う要だが、こういう時の体の辛さを椿はよく知っている為、要が無理していると分かった。

椿は要の言葉に首を振る。
要はボスッとベッドに突っ伏す。
そして大きくため息を吐いた。

「まあ……君は思ったより頑固だからね……。そういうならいてもいいけど……」

とか言いながら、素直に帰らなかった椿に嬉しいと感じている要は、ニヤけそうになる口元を枕で隠した。

⏰:08/08/01 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#166 [向日葵]
「じゃあ僕が寝つくまで帰るな。この願いならきいてくれる?」

「ハイ、もちろんです……」

要は横向きになって、少し熱い手を椿に差しのべる。
椿はそれをじっと見て、要を見た。

「手、握ってよ……」

「え……」

「お願い、きいてよ」

椿はしばらく戸惑い、ゆっくりと手を伸ばす。
そして指先だけキュッと掴む。

すると要は目を閉じて微笑む。

「君の手、冷たいね……」

⏰:08/08/01 01:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#167 [向日葵]
「い、いつもは……もっと熱い筈なんですが……」

クスリと要が笑う。
椿は胸が高鳴るのを感じていた。

ただ、手を握っただけだ。
それなのに胸の中で疼くこの感情が何か分からない。
でもなんだか苦しくて、切なくて、しまいには泣きたくなるような感覚に、椿は困惑した。

「……でも今日は、冷たくて良かった……。おかげで……」

と言いながら、要は自分の額に椿の手を当てた。

「気持ちいい……」

「あ……っ」

⏰:08/08/01 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#168 [向日葵]
椿は赤くなるしか出来なかった。

すると急に要から寝息が聞こえた。
やっばり体に限界があったらしい。

要が寝つくまで……。そういう約束だったが、握られた手は寝ても尚放す気配がないし、それに椿自身、今要から離れたくないと思った。

だから彼の眠った顔を見る。

苦しそうに寝ておらず、ちゃんと規則正しく寝息をたてている彼は、忘れていたが同い年の男の子だった。

その言動、その態度。
全てが彼を大人びて見させる。

⏰:08/08/01 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#169 [向日葵]
しかし彼はこうなるしかなかったのだろう。
じゃなきゃこの若さで世界へのし上がり、世界中を飛び回り、鬼のような仕事の量をこなせる訳がない。

椿の胸が、チクリと痛む。
そして大久保の言葉を思い出す。

――本当は、優しい人……。

椿は自分の立場を改めて考えた。
ただ黙って、嫁ぐ日を待っているだけの自分。
そんな自分でも、要はもらってやろうと言ってくれた。
その時は、きっと愛など無いと思っていた。

始めの方だってそうだった。
今はどうか分からない。

⏰:08/08/01 01:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#170 [向日葵]
だが以前よりは親しみを持ってくれてるのではないかなと感じる時はある。

もし、要と最初の頃のまま結婚していたとしても、椿は徐々に要に心許せるような気がした。

そう思うのも、子供が不安がるように手を握ってとすがり、握った瞬間安心して眠る要の本質的なものが段々と見えてきたからかもしれなかった。

―――――――――…………

ドアをノックする音が聞こえた。

ハッとした椿は、要のベッドに突っ伏すようにして自分の手を枕にして寝ていたらしい。

ドアの方を向き、進もうとすれば、手が誰かに引っ張られた。

要だ。

⏰:08/08/01 01:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#171 [向日葵]
寝てるのに手をしっかりと握って放さない。
かと言って離れているドアに向かって大きな声で返事をしてしまっては要が起きるのではと心配した椿は要とドアを交互に見ながら焦る。

するとありがたい事に向こうからドアが開いてくれた。

入ってきたのは大久保だ。

「あ、大久保さん……すいません、出られなくて」

そばまでやって来た大久保は状況を把握して椿ににっこり笑いかける。

「気にしないで下さい。水差しに水を足しに来ただけですから。しかし、熟睡してますねぇ」

⏰:08/08/04 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#172 [向日葵]
まるでそれが珍しいかのように、大久保は要の顔を覗き込む。
そして心配そうな椿を見る。

「汗もよくかいてましたから、直に熱も下がるでしょう。椿さまも無理をなさらずお帰りになってもよろしいのですよ」

もう心配ない。

椿もなんとなく分かっている。
それでも、頼りなく、それでいてしっかりと握られている手を見れば、もう少しいた方がいいいような、いたいような……。

「まだ、あと少し、いてもよろしいですか……」

椿の言葉に、大久保は笑みを深くする。

「お帰りの際は、声をおかけになって下さいね。お送りいたします」

⏰:08/08/04 01:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#173 [向日葵]
そう言うと、大久保は部屋を出て行った。

再び要に視線を戻した椿は、首に少し流れている汗をタオルで拭いてやる。
すると寝巻きのシャツの隙間から、綺麗な鎖骨が見える。

ドキリとした椿は首にタオルをおいたまま赤くなってま固まる。

そういえば、自分はこの人に抱き締められたではないか。

あの時は、溢れ出した気持ちで一杯いっぱいになっていたから、そんなに意識はしなかったけれど、体を完璧要に預けていた。

そうした自分の行動に、恥ずかしさを隠せなかった。

「……ん……っ」

⏰:08/08/04 01:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#174 [向日葵]
要の声に、椿は我に返った。

首に置いてあったままの手を慌ててのける。

すると要がうっすらと目を開けた。

「何椿……。殺す気……?」

「ち、違っ……!汗を拭いていただけです!ごめんなさい……っ!」

「分かってるよ……からかっただけ……」

クスクス笑う要は、少し元気になったように思う。
ホッとして、椿も頬を緩める。
それを要が眩しそうに見ると、ゆっくりと椿の髪の毛をひとふさ取る。

⏰:08/08/04 02:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#175 [向日葵]
そしてそれに口づける……。

「か……要さま……?」

先ほどから赤くなってばかりの椿は、次は自分が熱を出して倒れるんじゃないかと心配になった。
そして要はそんな椿を見て、またクスリと笑う。

髪から手を放すと、今度は椿の頬に触れる。
椿はピクリとする。

「今日、来てくれて……ありがとう……。嬉しかった……」

力なくいい終えると、要は手をパタリと落として、また眠りについた。

嬉しかった……?
私が来て……?

⏰:08/08/04 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#176 [向日葵]
椿はなんとも言えない顔で、寝ている要を見つめる。

「要……さま……」

私は、あなたの心の中にいるのですか……?
でも何故?
あなたが言ったのに。

好きになれそうにないって……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ぼんやりと要のそばに座ったままだった椿は、ふと時計を見た。

もう8時。
そろそろ帰って、しっかりと要を休ませた方がいいだろうと思った椿は、腰を上げた。

すると要がまた唸る。

⏰:08/08/04 02:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#177 [向日葵]
また熱が上がり出したのかと心配になった椿は要の額に手を当てようとした。
その時、要の呟きが聞こえた。

「ゆ……いこ……」

「え……」

ユイコ?

額に触れようとしていた手を、静かに引っ込める。

ユイコじゃない。
要さま、私は、椿です……っ。

そう思いながら椿は口唇を噛んだ。

するとタイミング良く、要が目を開く。

「椿……?帰るのか……?」

⏰:08/08/04 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#178 [向日葵]
今の要から見る椿はぼんやりとしか見えない。
しかし、椿から送られてくる雰囲気に異変を感じた。

「椿……どうしたんだ……?」

椿は何も言わず、頭を下げると、足早に要の部屋を出て行った。

ドアを閉める瞬間、彼がもう1度椿の名を呼ぶのが聞こえたが、それを遮るかのように椿はドアを閉めた。

…………危ない……。
もう少しで本気にしてしまいそうだった。

彼の心に、自分がいる訳がない。
最近の優しさだって、彼の本質的なものであっても、恋から生じる気持ちではないだろう。

⏰:08/08/04 02:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#179 [向日葵]
それに彼はこの世界でのし上がる為に色々なものを捨て、色々なものを利用する人だ。

好きな人がいても、その気持ちを捨てざるを得ない事があっただろう。
それがもしかしたら、彼が呟いた「ユイコ」なのかもしれない。

未だ忘れられず、彼の心にいるのは椿ではないのだ。

この頃、優しくされてばかりだから、勘違いを起こしそうになった。
反省しなくちゃ……。

そう思ってても、胸に突き抜けた痛みは、簡単に病むことはなかった。

ズキズキズキズキ……。
要を思えば思うほど、何故かその痛みは大きくなるのであった。

⏰:08/08/04 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#180 [向日葵]
――――――――……

それから、椿は要を避けはじめた。

要もちょうど仕事が重なったのか、椿宅には来ない日が続いた。

それでも、1日1回は必ずメールや電話が来た。
でも椿は、電話には出なかった。
電話に出ないと次はメールが来て、必ず文面に「なんで電話にでないの?」と不機嫌な文が綴られていた。

椿はその事には触れず、「今日もお疲れさまでした。ゆっくり休んで下さい」としか送らなかった。

許そうとしていた、椿の要に対する心の領域侵入は、また椿によって拒まれ始めた。

⏰:08/08/04 02:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#181 [向日葵]
あれから1週間が経とうとしていた。

要にはこの1週間、やっばり会わなかった。
聞くところによると、現在フランスで開かれる小さなファッションショーの為に服のデザインをあれこれ考えているらしい。

どこか胸が重い椿は、うつむきながら玄関に入る。

「ただいま帰り……」

「椿」

穏やかな声だった。
ハッとして顔を上げた椿は、目を見開く。

「聖史……さま……」

そう呼ばれる人物は、穏やかな笑みを口元にたたえたまま椿に近づく。

⏰:08/08/05 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#182 [向日葵]
すらりした身長に細身の体格。
スーツが体にそって、よく似合う。

目は細めだが、それがまた彼の色気を醸し出している。
黒い長めの髪はサラサラだ。

聖史は椿に手を伸ばし、優しく頭を撫でた。

「久しぶりだね。元気だった?」

久しぶりの聖史に、椿はじわじわと嬉しさが込み上げ、胸が重い事を吹き飛ばし、笑顔になる。

「ハイ……っ!聖史さまも、お元気そうで……っ!」

「うん。久しぶりの休暇で、こちらに帰って来たんだ」

⏰:08/08/05 02:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#183 [向日葵]
「いつまでいられるんですか?」

「そうだね……。多分2週間ほど」

「じゃあ、沢山お話が出来ますね……っ!」

満面の笑みの椿を、聖史はふわりと抱き締めた。
驚く椿。
でも突き放す事は出来なかった。
特に他意はなく、親愛の意味で抱き締められてるのならば、突き放すなんて失礼な事はしてはいけないと思ったからだ。

「何してんの」

冷ややかな声が、玄関ホールに響いた。

⏰:08/08/05 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#184 [向日葵]
びくりと震え、振り向くと、そこに立っているのは、紛れもなく要だった。

要の目は、椿から、彼女を抱き締めている聖史に向けられた。

「君は誰かな。椿は僕のなんだけど。なに勝手に抱き締めてくれちゃってんの?」

「君は確か……葵 要君……?って事は椿、婚約者候補って、まさか彼の事?」

いつまでも放さない聖史にしびれを切らした要はズカズカと歩みより、力づくで椿を放させた。

そして今度は要がギュッと抱き締める。

そうされるだけで、椿は聖史に抱き締められた時よりも胸が高鳴っているのを知らないフリした。

⏰:08/08/05 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#185 [向日葵]
「“候補”なんかじゃない!僕はれっきとした“婚約者”だ!」

それだけ言うと、要は椿を引っ張って外へ連れ出そうとした。
が、椿がそれを拒む。

「か、要さま……っ。待ってください……っ!」

「待たない。君はどうも意識が薄いらしいから思いしらすべきだと思うね。だから僕の言う事を聞いてもらう」

「で……でも……っ」

「椿は誰のものなのか分かってるのか!」

そう言われても、例え要のものであっても、要は椿のものにはならないじゃないか。

⏰:08/08/05 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#186 [向日葵]
―――――ユイコ

知らない名を……椿じゃない名を、呼んだくせに……っ。

悔しい思いとは裏腹に、椿は脱力した。

言う事を聞かなければ。
最初からそう決めていたではないか。
何も感じないフリをしよう。
ただ笑顔でいよう。
そうすれば、何も辛い事なんてない……。

「……要さまの、ものです……」

静かに笑う椿を見て、要は目を見開く。
まただ……と。
また彼女は、自分に嘘をついていると……。

⏰:08/08/05 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#187 [向日葵]
「笑うな……」

「え?」

椿は笑顔を崩さない。
それにじれったさを感じた要は怒鳴る。

「どうして笑うんだ!無理に笑うなと言った僕の言葉を君はもう忘れたのか!僕の言葉は、君にとってそんな薄っぺらいものなのか!?」

ビクリと怯える椿を、後ろから聖史が引き寄せる。

「椿、彼は本当に婚約者なの?」

「さっきそう言った筈だ」

「それにしては、随分色々と強引だ。要くん。君は本当に椿が好きで婚約者を立候補したのか……」

「やめてください聖史さま……っ」

⏰:08/08/09 22:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#188 [向日葵]
椿が聖史の言葉を遮る。

本当の事を突き詰めても答えは分かっている。
要が自分との結婚を望むのは、利益があるからだ。

そんなの分かってる……。
分かってるのに……今、本人の口からそれを聞くのが嫌だった。

「私は幸せです……。要さまはとてもお優しい……。だから、そんな風に言うのは……やめてください……」

「……説得力ないよ椿。今の君は幸せそうになんか見えない」

「――――っ!」

「それはそちらの考えだろう?椿は幸せだと言ってるんだ」

⏰:08/08/09 22:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#189 [向日葵]
聖史が触れているのが嫌な要は、聖史を睨みながら椿の手をとる。

強引だと言われたので引っ張って椿を自分の所へ持ってきたいが、今は出来ずにいた。
何より聖史に何もかも分かった風に口をきかれるのが、要の癇に障る。

だが、聖史も負けてはいない。

「要くん、君は椿の性格を何1つ分かっちゃいないよ。椿は君の暇つぶしの道具じゃない。もっと大切にしてくれ」

「なんだと……っ!」

「聖史さま……っ」

「椿、まだ正式に婚約発表はしていないのだろ?なら……僕も立候補していいかな?」

⏰:08/08/09 22:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#190 [向日葵]
これには椿も要も驚く。

「椿、僕はね、幼い頃から君が大好きだったんだ……。なのにその君が、婚約したと聞いて胸が潰れそうだったよ。……けど」

聖史は要を睨む。
それも静かに怒りを含んだ目つきで。

「相手がこんな人なら、僕は納得しないよ」

「納得しようがしまいが僕が椿の婚約者だ。今更出てきても遅い」

「そうかな?見たところ椿の心は揺れ動いてるみたいだし……まだはっきりとしないなら、僕にだってチャンスはあると思うよ」

聖史は余裕なのか、微笑みを浮かべる。
それが挑発しているように見えて、要はこめかみの青筋を更に1つ増やした。

⏰:08/08/09 22:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#191 [向日葵]
そして行き場のない怒りは、椿へぶつけられた。

「椿、君もなんで否定しないの?そんなに僕じゃ不満って事かっ!?」

いきなり怒鳴りつけられた椿は驚き、目を見開いた。

「ふ、不満なんて……感じた事は……っ!」

あるけれど言うべきことではないし、今言っては火に油だ。
椿はそれ以上何を言っていいか分からず、口を閉じた。

「君は……僕じゃなくてもいいのか……?」

眉を寄せて、泣きそうな顔をする要に、椿は戸惑う。

⏰:08/08/09 22:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#192 [向日葵]
「要さま……」

「僕は……君が……」

言いかけて、要は口を閉ざす。

そして聖史を睨みつける。

本人にしか言いたくない事を、コイツの前で言う必要はないと思ったようだ。

「言っておくけど、売られたケンカは倍額で買う。こちらだってプライドがあるからね。でも、椿の事は、フェアで戦おうとは思わない。もともと椿は僕のものなのだから」

「プライドがあるのにフェアで戦わないなんておかしいよ」

「どうせフェアで無くなるのは分かってる。それとも何かい?君は椿の事を反則を犯してまで欲しいとは思わないのか?」

⏰:08/08/09 22:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#193 [向日葵]
これには、冷静を装っていた聖史もムカッときたのだろう。
眉を寄せて、怒りを露にする。

「そこまで言われると、心外だな。いいだろう。フェアに戦わないと言った言葉を後悔するといい」

フッと笑うと、要は踵をかえして玄関ホールを去って行った。

「あ……」と思った椿は、追いかけようとする。
が、聖史に腕を引かれた。

「追いかけてどうするの?あんな人だよ?椿が気を遣う必要なんてないよ」

「……放して……くださいませ……」

しばらく腕を掴んでいた聖史は、ゆるりと椿の腕を放した。

⏰:08/08/09 23:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#194 [向日葵]
そして椿は要を追った。

要は門までまっすぐ続く道を歩いている。

「か、要さま……っ!」

どうして追ってるか分からない。
ただ足が進むままに、椿は要の元まで走る。

「要さま……っ!」

さっきより少し大きな声で要を呼ぶと、要は足を止めてこちらを見た。

「……何……?」

少し冷たい要の言葉が、椿の胸に突き刺さる。
切なげに彼を見れば、彼も椿を見る目が切なく変化した。

⏰:08/08/10 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#195 [向日葵]
「私……私……」

「……椿は、さっきの人が好き?」

「え……?ち、違っ……!」

すると要がふわりと椿を抱き締める。
空気を抱くように抱き締められてると、その力は段々と強くなり、細い椿の体は少し痛みを感じた。

けれど椿は戸惑う事なく、要を受け入れていた。

「例えそうでも、争う事をやめろなんて言わないで。僕は戦う。そして完璧に君を僕のものにする」

「要……さま……」

⏰:08/08/10 00:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#196 [向日葵]
要は椿を放すと、近くで見つめる。
椿は胸が高鳴る。

「僕は…………。なんでもない……。とにかく僕は勝つつもりだから」

椿はどちらを応援するなんて考えていない。
ただ少し、ほんの少し、揺れ動いている自分の心が、聖史を好きになったらどうしようと思っている。

……でも、その方がいいのかもしれないとも思っている。

―――――ユイコ……。

切なげな声で、呼ばれたその名……。
まだ頭から離れない……。

⏰:08/08/10 00:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#197 [向日葵]
「……じゃあ、また明日……」

椿はゆっくりと頷く。

しかしそう言いながらも、要は動こうとしない。
どうしてだろうと要を見つめれば、要もじっと椿を見つめていた。

そしてゆっくりとこちらに身を乗り出し、椿の頬に唇を寄せた。

そうして踵をかえして、要はまた歩き出した。

椿はその後ろ姿を見つめながら、さっき唇が触れた場所にそっと触れる。

好きになっても、仕方ないのに…………。

⏰:08/08/10 00:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#198 [向日葵]
[第5話]

「おはよう椿」

朝食にと、部屋へ来た椿に、聖史は笑いかけた。

一方椿は、そこに聖史がいると知らなかったので、出かけた欠伸を止めた。

「お、おはようございま……。聖史さま、如何なさったんですか?」

「今日は僕が君を学校まで送ろうと思って」

昨日から椿を争う戦いは始まっているのだ。
どうやら聖史は先制攻撃を仕掛けてきたらしい。

しかし、椿の頭は要の事で一杯だった。

それはきっと、遠慮がちに触れた彼の唇のせいだろう。

⏰:08/08/10 01:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#199 [向日葵]
「椿、早く座りなよ」

「あ、ハイ……」

席に座り、椿は聖史と一緒に朝食を取り始めた。

―――――――――…………

「椿っ!聖史兄ちゃん帰って来たって!?」

学校に着くと、美嘉が椿に言った。

「ハイ、昨日から……」

「ひっさしぶりじゃぁん!美嘉も会いたい!!今日会いに行っちゃダメ!?」

「いいえ、いいですよ」

「聖史さんって?」

聖史を知らない越はまったく話についていけない。

⏰:08/08/10 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#200 [向日葵]
なので美嘉が越の方を向いて説明しだす。

「椿のお兄ちゃんみたいなので、財閥の跡取りなんだけど、めちゃくちゃ優しくていい人なんだ!美嘉にも優しくしてくれて、まさに理想の旦那さまって感じ!」

“旦那さま”というワードに、椿は密かにビクリとしていた。

今日も要はきっと来るだろう。

昨日の、あの要の悲しそうな顔……。
あんな顔にさせたのは自分だ。
……けれど、椿にはあの「ユイコ」という呟きがどうしても気になり、要に悪い事をしたと思う一方、要を責めている自分がどこかにいた。

「そういえば椿、アイツこの頃大人しく感じるけど、何もされてない!?」

⏰:08/08/10 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#201 [向日葵]
そう言われて、ポンと昨日頬にキスされたのを思い出した椿は、ほのかに顔を桃色に変えた。

それにショックを受けた美嘉は、逆に青い顔をした。

「ア、アイツ……っ!美嘉の椿にぃぃぃっ!!」

「ち、違います……っ!えと、そんな、美嘉ちゃんが思ってるような事は……っ」

「じゃあ、どうしたの?」

今度は越が訊いてきた。

椿は昨日触れられた場所に指先を触れながら、更に顔を赤くさせた。

「ほ……頬に……キ、キ、キスをされまして……」

⏰:08/08/10 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#202 [向日葵]
「越……美嘉保健室行って来る……」

「え?なんで」

「消毒液……」

「何考えてんの美嘉……」

とりあえず美嘉を止める越を見つつ、椿は帰ってからの事を考えていた。

一触即発なあの2人だ。
椿はどちらかと言えば要の機嫌が損なわないかが不安だった。

聖史はどこか冷静な部分があるが、要は血がのぼってしまえば殴りそうな気がするからだ。

でも……。

殴るほど、自分の事で怒るだろうか?とも椿は思った。

⏰:08/08/12 00:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#203 [向日葵]
――――――……

椿宅に来た要は、学校から帰って来たら横から婚約者を立候補するという非常識な奴と認識している聖史よりも早く椿を迎えようと思っていた。

―――が。

来てそうそう見たのは、その非常識な奴だった。

「やぁ要くん。こんなに早く来ても椿はいないよ」

言外で「ばーか」とでも言われてる気がした要は不機嫌に目を半目にする。

そして椿の部屋へ足を進める。

「待ってよ。少し話をしない?君が椿をどう思っているかちゃんと知りたい」

⏰:08/08/12 00:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#204 [向日葵]
「聖史さんとやら。僕は話す事なんかないよ。椿についてどう思ってるかだって?僕の態度を見れば一目瞭然じゃないか」

「まぁそう言わず。ライバルの事を知るのは大切だと思うよ?弱点を見つけれるかもしれないじゃないか」

そんなの椿に決まっているだろうと思った要だが、これ以上怒っていれば子供だとまたもや馬鹿にされそうなので、聖史と共に応接間へと行った。

足を組んでデカイ態度で座る要に対し、聖史は静かに腰を下ろし、上品に足を組む。

身についたものだろうが、要はそんな動作すら気にくわない。

「さて……要くんは椿の何に惹かれたのかな?」

⏰:08/08/12 00:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#205 [向日葵]
「黙秘権」

「嫌われてるなぁ……」

困ったように聖史はクスリと笑う。

「じゃあ質問を変えよう。君も気づいているだろうけれど、椿が自分自身すら騙して無理をしている理由を知っているかい?」

それを知らない要は聖史をジッと見つめる。
そういえば、自分の家に来た椿のところのメイドが言っていた。

――自分を呪っている。
……と。

「椿のお母さん、つまり奥さまが亡くなっているのは知っているよね?奥さまは椿と同じように、体が弱いお方だったんだ」

⏰:08/08/12 00:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#206 [向日葵]
控えめだが、性格、外見には恵まれていて、言い寄る男は多かったと言う。

しかし椿の母は、今の椿の父に一目惚れをし、2人は結ばれたのだと言う。
そして間に生まれたのが椿だった。

が、椿を産むと、椿の母の命が危ないと言われていた。
椿の父の必死の反対に、椿の母は首を横に振るのみ。

絶対産む。例え自分の命とひきかえにしても。

それが口癖だったらしい。

そして椿を産んで間もなく、椿の母は息を引き取ったのだと言う。

⏰:08/08/12 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#207 [向日葵]
要はありそうな話だと思いながらも、耳を傾け続ける。

「椿はやがて、自分が生まれたせいで奥さまが亡くなったと思ってね……」

それに追い討ちをかけるように、椿が成長する度、使用人達は口をそろえて言った。

[奥さまそっくりですね。奥さまがいたらさぞ喜ばれる事でしょう]

椿は、母と似ているのが嬉しかった反面、皆の母の対する親しみの思いが深いのを感じとっていた。

そんな、皆にとって大切な母を、自分が生まれた事によって死なせてしまった。

⏰:08/08/12 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#208 [向日葵]
――殺シタノハ、私ダ……。

要は目を見開いた。
聖史は話を続ける。

「それから椿は奥さまの話をしてとよく旦那さまにねだっていたらしいよ。奥さまの身代わりを自分がしよう。そうしたら、使用人達の心を満たせると思ったんだろうね……。そんな事抜きでも、椿は大切に思われているのに……」

必死にいい子になり、皆に迷惑をかけない自分になろう。
皆の幸せを1番に願える自分になろう。

かつて母が、そうだったように……。

要は片手で目を覆い、うつむく。

⏰:08/08/12 00:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#209 [向日葵]
何を……考えているんだ椿……。

「そんな椿だからこそ、ちゃんと彼女の裏の感情を分かってくれる人間じゃないと認めない。なのに、君はどうだ、要くん」

要は歯ぎしりしそうな程歯を噛み合わせた。

「自分の欲求や、不満で椿を振り回してはいないかい?」

うるさい……。

「椿を本当に、思いやってはくれてるかい?」

うるさい……。
うるさい……っ!

⏰:08/08/12 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#210 [向日葵]
どうしてお前にそんな事言われなくちゃならないっ!
どうしてお前から椿の事を聞かなくちゃならないっ!

要は机に置いてあったアイスコーヒーが入っているグラスを握りしめる。
そしてそれは、カシャンと音と共に砕ける。
中の液体と氷が、高そうな絨毯を汚していく。

「…………椿は、君と結婚するのを望んでいるのかな……?」

その言葉に、頭のどこかで派手な音を聞いた要は、近くにあった花瓶を思いきり聖史に向かって投げた。

―――――――――…………

何も知らない椿は、いつも通りの時間に美嘉と共に帰って来た。

⏰:08/08/12 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#211 [向日葵]
部屋に行こうと廊下を歩いていると、聖史が姿を見せた。

「あーっ!聖史兄ちゃんっ!ひっさしぶりーっ!……って、どうしたの腕!」

聖史は上着を脱ぎ、カッターの袖を捲っていた。
その腕には、包帯が巻かれていた。

「あぁ、美嘉じゃないか。大きくなったねー」

「美嘉の事なんか今どうでもいいよっ!それより腕ぇっ!」

「大した事ないよ。大丈夫。椿も、心配しなくていいからね」

美嘉の後ろで、椿は顔を青くして言葉を無くしていた。

⏰:08/08/12 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#212 [向日葵]
「カバンを置いておいで。僕は美嘉と喋っているから」

椿はぎこちなく頷き、部屋へと足を進めた。

一瞬要と一戦交えてしまったのかとひやりてしたが、要の姿は無いので違うのだと安心しながら椿は部屋のドアを開けた。

「おかえり……」

「え?」

ベッド近くの窓辺に、要が立っていた。

「要さま……っ。いらっしゃいませっ。どうなさったんですか?こんな所で……」

「僕がどこにいたって不自然じゃいだろう?結婚すれば僕は君の部屋にいる可能性だってある」

⏰:08/08/12 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#213 [向日葵]
口元に微笑みをたたえているのに、目はひどく冷たく、雰囲気は奇妙なものだった。
近づきたくても、なんとかく近づけずにいた椿だが、ふと要の手に目をやると驚いた。

「か……要さま……っ!て……て、手が……っ!!ち……血……っ!」

「あぁこれ?もう乾いているよ」

椿は近づいていって、その手をそっと取る。
乾いていると言えど、おびただしい程の血と傷が、要の手についている。

なのに何故本人は痛がりもせず、平然といるのだろう……。

まさか……と椿は思った。

⏰:08/08/12 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#214 [向日葵]
要は聖史の逆鱗にでも触れてしまったのだろうか?
それで……聖史に……?
そういえば、聖史も怪我していた。

「要さま……聖史さまと何かありましたか……?怪我をなさっているだなんて……」

要は何も言わず、ただ椿を無表情でじっと見ていた。
それがなんだか怖くて、椿は徐々に後退りしていた。

とりあえず、今は事情を訊くより、要の手当てだと思った椿は、黙ったまま部屋を出ようとする。

が、椿の腕を、要が掴んだ。
しかも、怪我している方で。

「……要さま……?」

「そんなに、アイツがいい……?」

⏰:08/08/12 01:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#215 [向日葵]
「え……?」

何の事だろうと思った椿は、急に強く押された。

倒れたのは、幸いベッドの上だった。
起き上がろうとした椿の上に、要が覆い被さる。

ただならぬ空気に、椿は固まった。

「僕よりアイツがいいの?本当はアイツが婚約者の方が良かったって?」

「か、要さま……っ!?」

「僕が奴から勝つのを許せないのかよっ!」

ドンッと、椿の顔の横に拳を降り下ろす。
椿は怖くて、ただ体を固まらせていた。

⏰:08/08/12 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#216 [向日葵]
すると要は苦しそうな、悲しそうな顔をした。

「…………なのに……」

「要……さま……」

「君が……好きなのに……っ」

椿は目を見開く。

今……なんて……?

「それでも、それでもダメなのか……っ!」

苦しそうに目を瞑る要をどうすればいいか分からない椿は、ソッと彼に触れようとした。

すると目を開いた彼の目つきが鋭く変わり、椿の両手を顔の横で押しとらえた。

⏰:08/08/12 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#217 [向日葵]
身動きがとれなくなった椿の頭は更にパニックを起こす。
どうしようと、敵う筈もないが、固定された手を動かそうとする。

すると、要の唇が、白い椿の首筋を辿る。

ビクリと体を震わす椿。

「か、要……さま……っ?や、やめて下さ……っ。要さま……っ!」

片手を解放されたかと思えば、ブラウスの裾から手を入れられる。
意外と冷たい要の手に、椿の体はまたビクリと跳ねる。

「や……いやぁ……っ!!おねが……要さまっ!やめて、下さいっ……!!」

⏰:08/08/12 01:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#218 [向日葵]
何をされるか分からない椿は、涙を流して要に許しを請う。
すると、要の手は速度を緩め、ピタリと止まった。

服から手を抜くと、両腕を椿の背中に回し、抱き寄せる。

「どうして、君の事を、アイツから聞かなくちゃならない……」

やっぱり苦しそうに呟く要の顔は見えない。

私の事……?

「聞くなら……」

ようやく体を少し離してくれる。けれど、まだ腕の中にいる。
要の指先が、椿の唇をなぞる。

「君の口から聞きたかった……」

⏰:08/08/12 01:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#219 [向日葵]
先程までの奇妙な空気を、要はもうまとってはいなかった。
変わって彼から感じとれるのは、椿をいとおしむような空気。

好きと言ったのは……本当……?

そう思っている内に、ぎこちなく、控えめに、要の唇が椿の唇に触れた。

何が起きたか一瞬分からなかった椿だが、状況を把握すると、恥ずかしさに目を開けていられなくなって、ギュッと目を瞑った。

要の唇が離れる。
そしてまた足りないとでも言うように口づける。
今度はさっきよりも、少し強引に感じる。

なかなか離れないので、僅かに動かせる手で、震えながら要の袖を握る。

⏰:08/08/12 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#220 [向日葵]
それに気づいた要は、唇を離す。

上手く息が出来ない椿は、息を切らせながら、涙を流した。

その涙に我に返ったようにハッとした要は、優しく椿を包む。

「ゴメン……ゴメン椿……」

謝られれば、切なくなった椿は更に涙を静かに流した。

「何……してるの?」

体を起こして、ドアの方を見れば、美嘉が目を見開いて戸口に立っていた。

「アンタ……椿に何してるの……?何してるのよぉっ!!」

美嘉は駆け寄って要を力一杯突き飛ばした。

⏰:08/08/12 01:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#221 [向日葵]
>>212

誤]ひやりて
正]ひやりと

⏰:08/08/12 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#222 [向日葵]
>>213

誤]なんとかく
正]なんとなく

⏰:08/08/12 01:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#223 [向日葵]
要がベッドから落ち、転んでいる隙に、美嘉は椿に駆け寄り抱き締める。

「虐めるのに飽きたら今度は体の要求!?アンタ最低だよっ!」

要はしりもちついたまま口を閉ざしている。
うつむいてるのと、ベッドと床の高さがあるのとで、その表情は分からない。

「み、美嘉ちゃ……違うんです……っ。要さまは何も……」

「椿、庇う必要なんてないのっ!さっき聞いたけど、聖史兄ちゃんも婚約者に立候補してるんでしょ!?なら、コイツなんか、候補から外せばいいんだっ!」

口が止まらない美嘉はよほど頭にきているらしい。
椿の言葉を遮り、要を責める。

⏰:08/08/15 00:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#224 [向日葵]
「確かに……」

要はゆらりと立ち上がる。

その時、椿は見た。

あの怪我した手から、また血が滴り落ちているのを。

要に近づこうとしたが、抱きかかえている美嘉の腕がそれを止めた。

「その方が、椿は幸せかもね……」

前髪の隙間から、寂しげな要の目が見える。
今にも、泣き出してしまいそうなくらい、悲しそうに椿を見つめ、自嘲する。

「要さま……っ」

「今日は、帰るよ……椿」

⏰:08/08/15 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#225 [向日葵]
よろよろと、要は椿の部屋を出て行った。
ドアの閉まる音が、広い部屋に響き渡る。
そしてその音が、更に椿を切なくさせ、涙がまた流れ始めた。

「椿、大丈夫……?恐かったね……」

優しく抱き締め、頭を撫でる美嘉。

恐かった訳じゃない。
いや、確かに恐かったが、「止めて」と言えば、要は簡単に止めてくれた。

椿の事を、上辺だけで、何かの作戦で「好き」と言ったならば、強引にでも求められていただろう。

それなのに……。

「ゴメン……」

⏰:08/08/15 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#226 [向日葵]
自分がしてしまった事を、ひどく後悔したように謝った。

椿の何を聞いたかは知らない。
でも、直接本人から聞きたいと言った要。
それは椿の感じている事全てを聞きたかったのだろう。

他者の思いではなく、他でもない椿の思い。

そうする事で、要は椿の事を少しでも分かろうとしたのかも知れない。

[好きなのに……]

なんて……なんて苦しそうな告白だっただろう。
なんて……胸が締めつけられるキスだっただろう。

初めて経験する、胸の痛みに戸惑いながら、要の悲しそうな顔が、焼きついて離れない。

⏰:08/08/15 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#227 [向日葵]
だから余計に涙が出てくる。

要さま……っ。

椿は心の中で、強く要を呼んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「傷の手当てはしなくていいのかい?」

帰ろうとしていた要を、聖史が呼び止める。

「君程、柔じゃないんだ。こんな傷、水で洗い流せばすぐに治る」

「ガラスは厄介だよ。ちゃんと医者に見てもらった方がいい」

聖史はにこにこ笑う。
何故彼がここまで上機嫌か、要は薄々気づいていた。

⏰:08/08/15 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#228 [向日葵]
「予定通り、事が進んで満足そうだね」

「そうでもないよ。君に理性が少しでもあった事が惜しい。あのまま椿を襲い、それを美嘉が見ていたら更に良かったのに」

「……君は、本当に椿が好きなのか……?好きな女の子に、そんな事されるよう仕向けるなんて、神経疑うね」

傷さえなければ、聖史をしたたか殴ってやりたいとさえ思う。
柔じゃないと言ったが、先程からズキズキ痛むし、熱も持ってきた。

「要くんが言ったんだよ?フェアで戦わないと。傷ついた椿を僕が慰めれば椿の心は僕に傾く」

それでもかんなやり方は許せない。
そして聖史の作戦にまんまとひっかかってしまった自分がもっと許せない。

⏰:08/08/15 01:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#229 [向日葵]
>>228

誤]かんな
正]こんな

⏰:08/08/15 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#230 [向日葵]
要は唇をかむ。

椿を傷つけるよう仕向けた聖史はムカつく。
でも実際傷つけてしまったのは要なのだ。
人の事、どうこう言える立場じゃない。

「帰る前に傷の手当てしようか?」

「結構だ」

靴を高らかに鳴らしながら、足早に要は椿宅を出ていった。

その背中を見送りって、しばらくすると、美嘉がこちらへ歩いてきた。

「あれ?美嘉も帰るのかい?」

「“も”って事は、アイツ本当に帰ったんだ……」

⏰:08/08/15 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#231 [向日葵]
怒っているが、どこか複雑な表情の美嘉を聖史が覗き込む。

「どうしたの?」

「椿が無理をしてものを言うのを聖史兄ちゃんは知ってるよね」

聖史は頷く。

昔から手がかからない、聞き分けのいい子だったと思い出す。

「椿がね、ずっと繰り返すの。要さまは悪くない、要さまを責めないで下さいって、泣きながら……」

長い付き合いの美嘉は分かる。
それは、偽って庇う言葉ではなくて、心から叫んでいるものだった。

だから、要に対する怒りが、半分減ってしまった美嘉は、複雑だった。

⏰:08/08/15 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#232 [向日葵]
悪いのは要なのに、責めるなと椿が、あの椿がそれも心から言ってしまっては、怒るにも怒れないではないか……。

「美嘉は、アイツの最低最悪な部分しか見た事ないからさ、まだ許す事は出来ないし、応援も出来ない。でも、美嘉が知らないアイツを椿が見てるなら、もしかしたら椿の為に色々してくれたんじゃないかと思うと、少し、許せる気もする……」

「あっ!」と思い出したように声を上げて、聖史に向き直る。

「でもでも、美嘉は聖史兄ちゃん派だからっ!聖史兄ちゃんファイトだよっ!」

拳を作り、エールを送る美嘉に笑いかけ、聖史は頭を撫でた。

⏰:08/08/15 01:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#233 [向日葵]
「ありがとう。美嘉の期待に答えれるよう、僕も頑張るよ」

美嘉は満面の笑みを浮かべ、帰って行こうとして、また聖史の方へ振り返る。

「そうだ。あのね、椿今1人になりたいみたいだから、そっとしといてあげてね」

「うん。分かったよ」

そして美嘉はまた歩き出して、帰って行った。

「さてと……」

そう行って聖史は歩き出した。

向かったのは、椿の部屋だ。

ドアの前に立ち、そっとドアに触れる。

⏰:08/08/15 01:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#234 [向日葵]
「椿……」

優しく名を呼ぶ。
返事はない。

もう1度呼ぶも、また返事はなかった。

しばらく考えて、ドアノブに触れる。
開けようとした時、椿のか細い声が聞こえた。

「開けないで下さい……」

「……どうして?椿」

「今は……少し、1人になりたくて……」

しかし聖史はドアを開ける。
ベッドで膝を抱くようにしながらうつむいている椿の元まで行って、抱き締める。

⏰:08/08/15 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#235 [向日葵]
「椿は……何も悪くない……」

椿は何も言わなかった。
それでも聖史は黙って抱き締め、あやすように頭を撫でた。

しばらくそうしていると、椿がやんわりとだが、聖史の腕を拒否した。
うつむいている彼女の表情は、やっばり分からない。

しかし聖史は、本当に今は1人になりたいんだと悟ると、最後に椿の頭をひと撫でし、部屋を出て行った。

椿の不安はただ1つ。

要がもう姿を現さないのではないかと言う事だった。

[その方が……椿は幸せかもね]

⏰:08/08/15 01:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#236 [向日葵]
もう、自分は用なしだと言っているような言葉。

勝つと言ったのに……諦めてしまったのではないだろうか。

それが嫌だと思ってしまうのはどうしてだろう。

心が無くてもいい。
どうでもいいと言いながら、椿を助けて、叱ってくれる要がいてくれるなら、それだけでいい。
誰も癒す事が出来ない寂しさを、癒してくれた要にいてほしい。

それは、甘えなのだろうか……。

「要さま……っ」

お願いだから諦めないでと、椿は願う。

あの嵐の日、ここで見た空より、今日の空は暗くて、寂しげだった。

⏰:08/08/15 02:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#237 [向日葵]
――――――――…………

リダイヤルで、何度かけても要は出なかった。
メールで前の事は気にしなくていいと言っても、返信は無かった。

メイドの佐々木に要の状況を訊けば、また服作りに忙しいらしいと聞いた。

邪魔はしてはいけないと思いながらも、1日1回はかけてしまう。
まるで前の要のようだ。

繋がらなければ、なんて役に立たない文明の利器だろうか……。

「つーばきっ」

窓から外を眺めていれば、越が後ろから覗き込んできた。

⏰:08/08/15 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#238 [向日葵]
>>230

誤]見送りって
正]見送って

⏰:08/08/15 02:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#239 [向日葵]
ハッとして、携帯を慌てて閉じ、越に向き直る。

「ハ、ハイ。なんでしょう?」

「なんかぼんやりしてるから、どうしたのかなぁって思って」

「……ごめんなさい、今日はいい天気だなと思ってただけですから」

と椿は微笑む。

そこで椿は「あれ?」と思った。

笑顔が、上手く作れていない気がする。
ちらりと窓に視線を向けて、自分の顔を確かめてみる。

窓に映る自分は、いつも通り、ちゃんと笑えている。

⏰:08/08/18 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#240 [向日葵]
…………なのに、どうして……?

これは、本当に自分の顔?
窓に映る完璧な微笑みをたたえている自分の顔が、気持ち悪く感じる。

私の……私の本当の顔は、表情は、……気持ちは……どれ……?

視界が揺らぐ。
まるで蜃気楼のように。

そう思うと、冷たい床が近づいた。
視界はすでに闇の包まれた。
そして意識すら遠退く。

「きゃあっ!椿っ!」

越が悲鳴を上げる。

「大丈夫だ」と言いたいのに、口が思うように動いてくれない。

⏰:08/08/18 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#241 [向日葵]
[笑うな]

誰かの声が聞こえた気がした。

不思議な人。

他の誰も、父や美嘉だって、笑わせないよう強制した事はない。
なのに何故貴方だけは……。

椿はこの声が誰のものか知っているような気がした。
でも知らない気もした。

どうしてこの人に振り回されているのだろうと、自分自身不思議で仕方ない椿だ。

動じないフリは、椿の得意技だったのに、彼は容易く打ち砕く。

暗闇の中、椿の口が動く。
しかし、音にはならない。

⏰:08/08/18 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#242 [向日葵]
もどかしい。
声が届くなら、どうかお願い。
あの人へ……。

椿は息を吸い込む。

要さま。

音にはならなくても、耳の奥では聞こえていた。
その不思議な空間から抜け出したくて、闇の中、目をこらして光を探す。

そして小さな光を見つける。

遠くの方に。

椿はそちらへ歩いて行く。

「――……きっ!」

誰かが、呼んでる。

行かなきゃ……心配かけてはいけない。

⏰:08/08/18 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#243 [向日葵]
―――――――…………

瞼を開けようとした椿は、急な光の眩しさになかなか開くことは出来なかった。
ようやく慣れてきたと思い、うっすら開きながら誰かの声を聞く。

「椿、目が覚めた?」

意識をはっきりさせようと、声の主の分析をする。

誰か分かったと、椿の瞼が開ききるのとは同時だった。

「……聖史、さま……」

聖史は安堵の表情を浮かべ、優しく微笑むと、優しく椿の頭を撫でた。

ここは椿の部屋のベッドの上。
なかなか目を覚まさないら椿はどうやら家に運ばれたらしい。

⏰:08/08/18 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#244 [向日葵]
ゆっくりと上体を起こす。

「良かった。この頃顔色悪かったから心配したんだ」

「ごめんなさい……迷惑をおかけしました……」

目を伏せると、聖史は大事そうに椿を包んだ。

「迷惑だなんて思わない。もっと僕を頼ってくれたらいいんだ」

「…………ごめんなさい」

「謝らなくていいから」

「そうじゃない」と椿は思う。
自分を起こしてくれたのは、要だと思っていたのだ。
しかし、目を覚ましてそこにいたのは聖史。

⏰:08/08/18 01:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#245 [向日葵]
こんなに心配してくれているのに、聖史だったのかとがっかりしてしまった自分がいたから、「ごめんなさい」なのだ。

自分には、誰かを選ぶ権利なんてないのに……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

椿の部屋の前に、2つの影があった。
2つの影は、少し開かれたドアから、椿の部屋の中をじっと見ていた。

「今……行かなくてもいいの?」

美嘉は訊いた。

「やっぱり、アンタにとって椿は、ビジネスの道具?」

⏰:08/08/18 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#246 [向日葵]
包帯を巻いた手で、要はギュッ握り拳を作る。
無表情ながら、寂しげな雰囲気を漂わせる彼に、美嘉は少し戸惑う。

「み、美嘉の思い違いなら訂正するなり、椿の部屋に入るなりしなさいよっ!」

要は黙ったまま部屋の中を見る。

今更ながら、椿は自分に好意を向けてくれるのか心配になっていた。
自分勝手な要だ。
優しく包みこむような存在の方が、彼女にとっていいのかもしれない。

勝ちたい。
勝ちたいけれど、それを椿は望んでいるのだろうか……。

⏰:08/08/18 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#247 [向日葵]
「君がどう思おうと自由だよ。ただ……今は椿の元に行かない」

「どうして?」

「倒れた椿を混乱させたくないから」

そう言うと要は踵をかえす。

「ま、待って……っ!」

美嘉の呼びかけに、要は歩く速度を緩め、停止する。

「椿、この頃元気ないの。……分からないけど、もしかして、アンタに会いたがってる気がする……っ!」

要は美嘉に背中を向けたまま無言でいる。
美嘉の頭が混乱していた。

⏰:08/08/18 01:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#248 [向日葵]
最低な奴を、何故自分は庇おうとしているのか。
だって椿が真剣に要を心配してるから……。
でも、今見せてる、今にも泣き出してしまいそうな要が、本当の要じゃなかったら?
でも、椿の願いは叶えてやりたいから……。

要はゆっくりと歩き出した。

「そんなのある訳ない」

きっぱりと、冷たくも感じるその言葉に、美嘉は更に言う事は出来なかった。
黙って、要が小さくなり、家から出ていくのを見ていた。

「あ……美嘉ちゃん……?」

美嘉はバッと部屋の方へ顔を向ける。

⏰:08/08/18 01:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#249 [向日葵]
「いらっしゃったんですね……気づかなくてごめんなさい」

「あ、いいのいいのっ!美嘉もちょっと喋ってたから」

「喋る?」

「ヤバッ……」と小さく言って、両手で口を塞ぐ。
椿はまさかと思う。

「要さまが、いらっしゃったんですか……?」

美嘉はバツが悪そうな顔をして、こくりと頷く。
倒れた椿が、要を追いかけるのではないかと一瞬不安がよぎる。

しかし彼女は、要が行ってしまっただろう方を静かに見つめているだけだった。

⏰:08/08/18 01:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#250 [向日葵]
「あ、あの……追いかけないの?」

思わず訊いてしまう。
椿は小さく頷く。

「きっと……大丈夫だと分かったから、お仕事に戻られたのでしょう」

彼の、心からの告白に感じたあの言葉。

本当は、本心じゃなかったのでは?と思わなくもない。
こうやって、顔も見ずに帰ってしまうくらいなのだから……。

「そういえばアイツ、手、怪我してたね」

「え……っ」

あの時の怪我、まだ治ってないのかと椿は心配する。

⏰:08/08/18 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#251 [向日葵]
椿は「でも……」と小さく左右に首を振る。

心配する人は、他にいるかもしれない。

そう、例えば、彼が寝言で呟いた、あの名の人。

“ユイコ”

思えばあの日から、歯車が狂い始めた気がする。
寄り添った心は再び離れた。
そんな気がする。

彼は寄り添ったつもりなんかないかもしれない。

でも椿は、少なくともその時、彼に心を許す準備は出来ていたのだった。

⏰:08/08/18 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#252 [向日葵]
>>240

誤]闇の包まれた
正]闇に包まれた

⏰:08/08/18 02:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#253 [向日葵]
>>243

誤]目を覚まさないら
正]目を覚まさない

⏰:08/08/18 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#254 [向日葵]
[第6話]

聖史の帰る日が段々と迫ってきた。
もし帰る時に、ついて来て欲しい等と言われたらどうしようと戸惑っていると、聖史は思いもよらぬ事を言った。
それは、長袖じゃないと寒いなと感じた朝の事だった。

「やっぱり再来週に帰る事にしたんだ」

「え?どうしてですか?」

「そりゃ椿ともっと一緒にいたいからだよ」

ストレートにそう言われては、顔を赤くするしかなかった。
その一方で気になる事があった。

要の事だ。

⏰:08/08/20 01:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#255 [向日葵]
何の連絡もないまま1週間がたった。
相変わらず連絡はない。
何度携帯を見て、ため息をついたことか。
あの倒れた時、やっぱり追いかければ良かったと、今更ながら椿は後悔していた。

「――き。椿、聞いてる?」

ぼんやりとしていた椿は聖史の声にハッとして顔を上げた。

「ごめんなさい……っ。なんでしょうか……?」

「もしかして、要くんが気になる?」

「い……いえ、あの……」

返事に困っている椿を、聖史はふわりと包みこんだ。

⏰:08/08/20 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#256 [向日葵]
「僕が、椿の心に入る隙間はもうないのかな……?」

聖史は優しい人だ。
入る隙間がないなんて言っては悲しむだろう。
それは隙間がないことなのだろうかと、椿は心の中で首を傾げた。

第一、椿は好きと言う感情がいまいち分からないでいた。

傷つけたくない人と、どうしても気になってしまう人は、どう違うのだろうか。

椿が答えないでいると、聖史はゆるりと腕をほどいて微笑む。

「ごめん。困らせるつもりじゃなかったんだ。それにしても、最近僕は椿にくっつきすぎだね。今日は帰るよ」

⏰:08/08/20 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#257 [向日葵]
額に触れるか触れないかのキスを落とし、聖史は颯爽と去って行った。

顔を赤くしながらも、聖史が帰った事に少しホッとしている自分に嫌気がさした。

―――――――――…………

「3針……ねぇ……」

自宅のベッドの上で、包帯を巻いた掌をヒラヒラさせながら要は呟いた。

今は痛み止めを飲んでいるから痛みはない。

こんなのじゃ仕事は出来ないと、しばらくの休暇を取ると言って部屋に引きこもったのは4日前の事。

⏰:08/08/20 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#258 [向日葵]
さすがに暇になってきた。

仕事をしたいが、肝心の利き手がこうでははかどる事もなく、結局ベッドの上で寝そべっている。

読書でもしようかと半身を起こした要は、読みかけの本の隣に置いてある携帯に目をやった。

「……はぁ……」

毎日のように、椿から電話やメールが来ていた。
だが自分は返せないでいた。
すると2日ほど前からピタリと来なくなった。

愛想をつかされたかと心配になり、何度返信ボタンを押したか。
しかし文を作成しているうちに指は止まる。

今更何を言ったらいいのかが分からない。

⏰:08/08/20 02:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#259 [向日葵]
押し倒すわ、強引に唇を奪うわ、泣かすわ……。
考えてみれば最悪な事しかしていないではないかと頭を抱える。

それでも、気持ちは伝えた。
ただ椿から何の返事も返ってこない。

毎日のメールからは、前の事ならきにするなという文や、今日どんな出来事があったのかが書かれていた。

今すぐ返事をしてくれないのは、要自身が言った最初の言葉や、突然の兄的存在が現れたせいだろうと考える。

最初の言葉は、これからの自分の誠実な接し方で帳消しにすると意気込んでも、あの聖史がやはり邪魔だと要はイラついた。

⏰:08/08/20 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#260 [向日葵]
苦々しいため息をはいた後、ドアをノックされた。

「要さま」

大久保だった。

「なんだ」

「お客様が来ていますが、お通ししてもよろしいですか?」

「もしかして」と、微かな期待が胸をよぎる。

「誰だ」

「早乙女 聖史さ……」

「通すな追い返せ」

大久保が最後まで言う前に要は言った。

なんで奴が来るんだ。

⏰:08/08/20 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#261 [向日葵]
大久保は部屋から出ていかない。
戸口で誰かと喋っている。

「あの、要さま。ならばドア越しに話さないかと、早乙女さまがおっしゃってます」

要は大久保に聞こえないように舌打ちした。

きっと要と喋るまで帰る気がないのだろう。
なら早く喋って早く帰ってもらった方が無駄な抵抗を続けるよりマシだ。

「分かった。大久保、下がっていいよ」

大久保は一礼すると、ドアを開けたまま去って行った。

要はドア近くの椅子に移動する。

⏰:08/08/20 02:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#262 [向日葵]
「久しぶりだね」

「君には2度会いたくなかったけどね」

「手の調子はどう?」

「言っただろ。柔じゃない。これくらい痛くも痒くもないね」

微かに笑い声が聞こえる。

なんだか馬鹿にされている気がした要は、青筋をこめかみに浮かべながらさっさと帰ってもらおうと用件を訊く。

「僕も暇じゃないんだ。何の用かな」

「それは失礼。確かめたい事があってね」

「雑談はいい。要点だけ言ってくれ」

⏰:08/08/20 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#263 [向日葵]
「作戦なのかな?」

要はドアの方を向いて眉間にシワを寄せる。

「何が?」

「そうやって、拗ねてるみたいに頑なに椿に会わないのは、彼女の気をひく作戦なのかって訊いてるんだよ」

「拗ねてるだと……?」

事の元凶の奴が、こちらの心情も知らずに馬鹿にして……。

要は立ち上がるとドアに近づき、聖史がいるだろう場所を思いきり拳で叩く。

「君には吐き気がするほどイラつくよ。拗ねてるだと?ふざけた事を言われたものだ。君に僕や椿の何が分かるんだっ!」

⏰:08/08/20 02:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#264 [向日葵]
言い終えてすぐに、反対側からもドンッ!と叩かれた。

「君のせいで……椿は僕に集中してくれない……。僕もそんなに気長じゃないんでね。作戦なら見事だねと、賛辞を贈りにきたんだよ」

冷静な口調だが、要と同じくらい彼もイラついているのだと分かった。
だからわざと要をイラつかせたのだろう。

「フェアに戦わないと言った筈だ。椿が僕で頭がいっぱいなら、僕は万々歳だね」

「なら僕にも考えがある。椿を今度帰る時に、泣き叫んでも連れて行くよ」

それを聞いた要は、戸口に出て聖史の姿を見つける。
聖史はドアに背を預けるようにして腕を組んでいた。

⏰:08/08/20 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#265 [向日葵]
「焦らなくても、君が姿を見せればそんな事はしないよ。僕も鬼じゃない。椿が嫌がるのを無理矢理……って言うのは好まない」

「今……僕が悩んでるって分かってて言ってるのか……っ」

どんな状況になろうと、自分が有利に立とうとしむける聖史。
そんな聖史に、要は歯噛みしながら睨みつける。

「フェアには戦わないんだろ?」
ニヤリと笑って、聖史は去って行った。

椿に会いに行かねば。
いや、会いたいんだ。

でも、どんな顔で、椿の前にいけばいいかが、要には分からなくなっていた。

⏰:08/08/20 02:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#266 [向日葵]
―――――――…………

「3針……ですか……」

聖史がいなくなったので、最近なかなか聞けなかった要の様子をメイドの佐々木に訊いて、椿は驚いていた。

「はい。どうもガラスで掌をお怪我されたそうで、痛みと熱があったので担当医に診てもらったところ、3針縫ったらしいです」

たしか要が怪我をしたのは右手。

私生活にも困っているのではないのだろうか……。
でも……。

「ありがとうございました。では……」

「え?椿さま……?」

⏰:08/08/20 02:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#267 [向日葵]
佐々木は少し驚きながら椿を呼び止める。
椿は首を傾げ、佐々木を見る。

「あの……お見舞いに行かれたりしないのですか……?」

「どうしてですか?」

「椿さまは……要さまにご好意があるのではと思いまして……」

椿は佐々木を見つめたまま固まった。
佐々木は続ける。

「こんな事言っては失礼なことを承知で言わせて頂きます……。聖史さまはとてもいい方です。お優しいですし、椿さまを大事にしてくれるでしょう。……ですが……。椿さまは、要さまと一緒の方が、椿さまらしくいるような気がします……」

⏰:08/08/20 02:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#268 [向日葵]
椿は今までの要との時間を思い出していた。

不器用で、でもどこか優しくて……。
弱い部分の自分を怒らないと言ってくれた人……。

「佐々木さん……。好きという感情は、私にはまだ分かりません。傷つけたくない人と、どうしても気になってしまう人はどう違うのでしょう……」

聖史は傷つけたくない人。
要はどうしても気になってしまう人。

どちらも大切な人。
でも椿には、どちらがより大切かなんて決めることは出来なかった。

「佐々木にも……分かりません……」

⏰:08/08/20 02:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#269 [向日葵]
佐々木は椿の両手をソッと握る。

「ですが、傷つけたくない人より、気になる人の方が、心が惹かれている気がします。気になるのは、もっとその人を知りたいから気になるのではないでしょうか……」

「もっと……?」と小さく呟く椿に、佐々木は優しく、まるで母のように微笑む。

「椿さまがもっと知りたいと思っている方を、お選び下さいませ。佐々木は、どちらの方になっても、椿さまがお幸せなら嬉しいですわ……」

椿は佐々木に心からの笑みを向ける。
佐々木だけは、この屋敷の中で、、唯一椿の理解者なのだ。

⏰:08/08/20 02:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#270 [向日葵]
「ありがとうございます……佐々木さん……」

・・・・・・・・・・・・・・・・

部屋に帰った椿は佐々木に言われた事を色々と考えていた。

ふと顔を上げると、何かがピカピカ光っている。
携帯のランプだった。

手に取り、開くと、不在着信の知らせが表示されていた。
誰だと思い、ボタンを押す。

「え……っ」

驚くのも無理はないだろう。
その電話をかけて来た相手は、もう諦めかけていた要だったのだから。

「要……さま……?」

⏰:08/08/20 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#271 [向日葵]
どうして?なんて疑問が浮かび上がる前に、椿はリダイヤルを押していた。

耳の奥で、呼び出し音と鼓動が合唱している。

出て……。
出て……お願い……。

―――――しかし。

椿の願いは届かなかった。
いつまでも鳴り響く呼び出し音に、椿は絶望した。

でも冷静に考えれば、電話で話したところで、何を話せば分からないでいた。
「元気ですか?」なんて、怪我をしてる人に訊ける訳もない。
「大丈夫ですか?」と訊けば、きっと強がるだろう。

⏰:08/08/22 00:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#272 [向日葵]
部屋に敷かれている、ふわふわの絨毯の上に、椿はペタリと座り込む。

[気になる人は、その人をもっと知りたいのでは……?]

もっと……知りたい……。

確かに要の事はもっとよく知りたい。
彼の言葉はほとんどが最初と矛盾していて、はっきり言ってどれが本当か分からなくなってきている。

態度だって、優しくしてくれたと思ったら、今みたいに突き放したり……。

それに、訊きたい事も沢山……。

陽射しが、温かく椿を包む。

⏰:08/08/22 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#273 [向日葵]
その温かな光を受ける事で、最近の疲れを癒そうとした。
そこで彼女は首を傾げたくなった。

……疲れ?
何も疲れてなんて……。

[要さまといる方が……]

そんな佐々木の言葉を思い出す。
聖史といる事が、椿にとって疲れる事なのだろうか。

あんなに優しい人を……。
そんな事思っちゃいけない。
いいや、思う資格なんて、ないのに……。

――――――――…………

美嘉はドキドキしていた。

やっぱりこんなのしなくていいのでは……?

⏰:08/08/22 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#274 [向日葵]
けれど、椿の笑顔がいつにも増して辛そうなのだ。
どうしたか訊いてもきっと本人は教えてくれない。
聖史は椿にはとっても優しいから、悲しませるような事はしないだろう。

なら、原因はただ1人だった。

先程、彼の従者だと言う人に部屋を案内してもらってから、美嘉は部屋の前でつっ立ったまま入ろうか悩みっぱなしだった。

「いいの……私だけが椿の理解者なんだから……」

呪文のように呟いて、息を吸い込んだ美嘉は、少し乱暴にドアをノックした。

中から返事が聞こえた。
勢いよくドアを開ける。

⏰:08/08/22 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#275 [向日葵]
要は美嘉を見ると、明らかに嫌そうな顔をする。
美嘉だって出来れば要と顔を合わせたくないが、今日はなんとしても言ってやりたい事が盛り沢山あった。

「ちょっと、アンタ仕事休んでるの?サボリ?」

「見て分かんない?け・が、してるんだよ」

ソファーに座っていた要は、立ち上がりバルコニーに続くガラス戸に歩いて行く。
ガチャりと開けた所で、美嘉に訊く。

「何か用なの?」

椿の部屋より広いんじゃないかと呆然としながら見ていた庶民の美嘉は、要の声にハッとした。

⏰:08/08/22 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#276 [向日葵]
もう冷たいだろう風を、スーツのズボンにカッターを着て、緩めたネクタイをしているだけの寒々しい恰好をしている要は、平然と受けていた。

まるで黄昏たいように、遠くを眺めて。

「えと……最近アンタ、椿にあってないの?」

「君には関係ないだろう」

「あるよ。椿は美嘉の大切な友達なの。中途半端にあの子の事接しないでほしいの」

「君はどちらの味方なんだ?君は僕が嫌いなんだろう?あの聖史さんとやらと椿がくっつけばいいとか思ってるんじゃないのか?」

冷ややかな笑みを、美嘉に向ける。
あまりの冷たさに、美嘉はゾクリとした。

⏰:08/08/22 01:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#277 [向日葵]
けど負けてはいられない。
美嘉を動かすのは椿を守るという使命感だけ。

「聖史兄ちゃんはいい人だけど、椿が望んでないなら意味がない。椿には心から好きな人とくっついて欲しい」

「だから僕に何をしろと?」

「椿に会ってあげて欲しいの」

「……話がまるで分からないよ。明確に説明してくれないか」

「だからぁ!椿はアンタが好きだと思うの!最近元気がないのは、きっとアンタに会いたがってるんだと思うから……。だってそうでしょ?聖史兄ちゃんが好きならいつもそばにいるのに元気ないなんておかしいじゃないっ」

⏰:08/08/22 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#278 [向日葵]
そんな事責められたってと要はため息をつく。

椿が自分を好きという図式が要の中で作る事が出来なかった。
彼女が元気ないというのは多分自分を怒らせてしまった後ろめたさと怪我の事が気になっている程度だろうと考える。

「……会わない」

「ちょっとアンタ……」

「いや、会えないんだ……」

美嘉は眉を寄せる。

「どういう事……?」

要はバルコニーに出る。
手すりに両手をついて、剪定されて綺麗な庭の木々を見つめる。

⏰:08/08/22 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#279 [向日葵]
「君も見ただろう。僕は椿にあんな事をした奴だ。僕は欲しいものはとことん貪欲でね。でも、そんな自分の欲を抑えれなかったからあんな事態を招いたんだ」

震える椿。
涙を流し、許しを請う姿はどれだけ胸を締めつけるものだったろうか。
聖史なんかに負けたくない。
椿が欲しい。

そうまでして、手にいれようとしたが、許せない。

そして……。

「少し……自分が恐いとも思った。この先、椿を壊してしまったら、どうしようとか……」

あの白い肌を、細い体を、自分が潰してしまったら……。
そう思えば、余計椿に会いづらくなっていた。

⏰:08/08/22 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#280 [向日葵]
こちらは真剣に悩んでると言うのに、驚くほどあっけらかんに美嘉は言った。

「なぁんだ。アンタも年相応な考え持ってんじゃん」

「は……?」

「誰だって好きな人の全ては欲しいし、貪欲にだってなるでしょうよ。潰してしまうかもとかマイナスな思考じゃなくってさ、どれだけ好きか分かってもらおうってプラスの思考で考えなさいよ」

要はぽかんとしていた。
どうしてあっさりと物事をそんな風に考えるのか、要には分からなかった。

すると美嘉はカラリと笑った。

「アンタ頭良いくせに意外にあったま悪いんだね!なんかちょっと親近感湧くわ」

⏰:08/08/22 01:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#281 [向日葵]
「はぁ……」

「でもっ!」

美嘉は要に指を突きつける。
ビクリとしながら要は複雑な顔をして美嘉を見る。

「アンタの事、認めた訳じゃないんだからっ!」

それだけ言うと、満足そうに美嘉は出て行った。

「だから……なんなんだ……」

半ば唖然として要は呟く。
するとクスクスと笑っている声が聞こえた。

「大久保……いるなら入ってこい……」

ドアの陰から、大久保が姿を見せる。
おかしそうに笑いながら。

⏰:08/08/22 01:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#282 [向日葵]
そして持っていた紅茶のセットが乗っているトレーをテーブルの上に置く。

どうやらお茶を持って来たが、入ろうとして話が聞こえ、立ち聞きされていたらしい。

「随分と明るいお嬢さんで。椿さまのお友達だというのがなんだか分かります」

「そうかい……。僕は眩しいくらいだよ」

これは決して悪口ではない。
寧ろ要はそんな美嘉が羨ましくさえ思う。
そして椿も、美嘉と同じくらい眩しい。

2人とも、あまり素直で、純粋すぎる。
自分には持っていないものだった。

⏰:08/08/22 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#283 [向日葵]
「そろそろ、けじめをつけなくてはならないのでは?」

意味深に微笑みながら、大久保は言った。

「……まあね……。」

―――――――――…………

ガヤガヤと、帰る学生で校舎内はうるさい。

椿は廊下掃除をしながら、今日も1日終わったとホッとしていた。と同時に、もうすぐ中間テストだと言う事実に少しばかり気が滅入っていた。

勉強は嫌いじゃない。
だがいい加減な点数を取ってしまえば野々垣家の恥だと椿は思っている。

⏰:08/08/22 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#284 [向日葵]
父は成績なんて気にしなくていいと言うが、普通の学校に行かせてくれたワガママをきいてもらったと思っている椿は、成績だけは優秀でいようと心に決めていた。

もたろん父は、その事だって気にしちゃいない。

「椿ー!」

遠くから越が駆けて来た。

「ハイ。なんでしょうか?」

「今日、放課後遊ばない?珍しく桜が部活無いから、家の手伝いしてくれるって言うの。美嘉も誘ってさ!」

桜とは、彼女の妹だ。
それならばと、椿は頷く。

「掃除は?もう終わり?」

「あとゴミを取れば……」

⏰:08/08/22 02:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#285 [向日葵]
「じゃあ教室で待ってるねっ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

掃除を全て終えた椿は、教室に戻ってきた。

「椿っ!美嘉ね、椿に行って欲しいとこがあるんだ!」

入るなり、美嘉が椿に言う。
行って欲しいところ?と椿は首を傾げて瞬きを繰り返す。

「美嘉と越は先回りして待ってるから、10分ぐらいしたら車に乗って!行き先は運転手さんが知ってるからー!」

「え……、美嘉ちゃ……」

美嘉はまるで逃げるように越を引っ張って行ってしまった。

⏰:08/08/22 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#286 [向日葵]
ポツリと残された椿は困り果てる。
何かびっくりさせたい事でもあるんだろうか?

仕方ないので、10分教室で過ごした椿は美嘉の指示通り、校門まで行き、いつもの迎えの車に乗り込む。

「あ、あの、尾崎さん。一体どこへ……?」

椿は運転手に訊く。

「申し訳ありませんお嬢様。美嘉さまに言わないよう言われておりますので……」

椿は背もたれにもたれ、過ぎ行く街並みを見る。

一体どこへ連れて行かれるのだろうと不安になりながら。

⏰:08/08/22 02:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#287 [向日葵]
しかししばらくして、椿は気づいた。

1度しか通っていないがこの景色は知っている。
混乱し始めた椿は運転手に話しかける。

「え……!?あの、尾崎さ……。行く場所って……っ!」

「あと少しですので、もうしばらくお待ちください」

そうは言っても、不自然に心臓が鳴り出す。

だってこの道は……っ。

安全に車は停止する。
運転手は後部座席のドアを開ける。
促されるままに、椿はゆっくり足を地につける。

⏰:08/08/22 02:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#288 [向日葵]
「なんで……ここに?」

そう、目の前にあるとても大きな、そしてデザインされている屋敷は、どう見たって要宅だった。

「美嘉さまがどうしてもとおっしゃるので。ではいってらっしゃいませ……」

深々お辞儀をする運転手に、帰ると言えなくなった椿は、足を進めるも戸惑うように何回も振り返った。

そして呼び鈴を鳴らせば、見知った従者が出てきた。

「椿さまっ!如何なされたんですか?」

「こ、こんにちわ大久保さん……。えと、私もよく分からなくて……」

⏰:08/08/22 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#289 [向日葵]
>>282

誤]あまり素直で
正]あまりに素直で

⏰:08/08/22 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#290 [向日葵]
「どうしましょう……要さまは、今留守してまして……」

戸惑っている椿と同じくらい大久保も戸惑っている。

「え、そうなんですか?」

「ハイ。ユイコさまとお食事に行かれるそうで、私は着いて来なくていいと言われ、屋敷に残ったのですが」

椿の心臓が一際大きく鳴る。

―――――ユイコ……。

「じ、じゃあ私は……帰ります」

椿は徐々に後ずさる。
胸の奥が、鋭い痛みに襲われる。

⏰:08/08/23 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#291 [向日葵]
後ろ手にドアノブを持つと、反対側から回されたので、椿は手を放し、その方へ振り向いた。

「……椿?」

ドアを開けた人物が言う。
椿は驚いて目を見開く。

「要……さま……」

2人はお互い驚き固まる。
そんな要の後ろから、小柄な女の子が顔を出した。
椿はその女の子に気づく。

「椿……?」

可愛らしい声を出したその子を、椿はユイコだと直感で思った。
思ったと同時に、いても立ってもいられなくなって、屋敷を飛び出した。

⏰:08/08/23 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#292 [向日葵]
[第7話]

呆然としていた要はハッとして振り返る。

「ユイコ。ちょっと待っとけ!」

「あ、ハイ……」

椿を追いかける要に、返事が届いたかは分からない。
ユイコは大久保を振り返る。

「あの方が椿さまですか?」

「ハイそうです」

「あの方が……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

広く長い屋敷から門までの道なりを走り抜けるなど無駄な事だった。

⏰:08/08/23 02:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#293 [向日葵]
そしてそれは体を気遣い、普段運動をしない椿なら尚更辛いものだった。

諦めて椿は歩く。

「あの方が……ユイコさま……」
ふわふわと綺麗な栗色の髪で、可愛らしい人だった。
要と並べばいいカップルに見える。

それがなんだか嫌で、椿は逃げ出した。
せっかく美嘉が作ってくれた機会だと言うのにと、椿は落ち込んだ。

じわりと滲む涙を手の甲で拭い、足を進める。
すると後ろから腕を引かれた。
息をのみ、目を向ければ、息を切らした要がいた。

⏰:08/08/23 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#294 [向日葵]
「待ってよ……」

椿は目を伏せて口を閉じる。

「大体なんで君がここに?」

「美嘉ちゃんが……連れて来て下さったんです。ご挨拶をしようと思っただけですので、もう帰ります」

再び歩き出そうとする椿を、要は慌てて止めた。

「待ってって!なら会ったんだからさ、少しくらい話をしようよ」

「駄目です……っ、そんなの……」

貴方には大切な人がいるのに。
私は邪魔する事は出来ない……。

⏰:08/08/23 02:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#295 [向日葵]
「駄目?駄目ってなんで?」

よく分からないと言った風に要は困った顔をした。
椿は下唇を少し噛む。
そしてやんわりと要が掴む腕を要の手からはずした。

「私は、今…、いえ、要さまのそばにいる事は許されないのです」

「え?椿?」

「…………どうかあの方と、お幸せに」

苦しそうにそう告げ、椿は歩き出す。
これで終わった。
全て終わった。
椿は聖史を選ぶのみしか、道はなくなったのだ。

…………と、本人は思っていあ。

⏰:08/08/23 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#296 [向日葵]
「待ってーっ!!」

今度は両肩を掴まれて向き合うように体を回される。

「なんか誤解してない!?何お幸せにって!」

何が誤解なのか、椿にも分からなかった。
だって要と一緒にいたのは……

「思ってらっしゃる方なんですよね……?」

要はしばらくフリーズしていた。何の事かさっぱりなので、今頭の中で、物事を整理している最中らしい。

「……え?唯子の事……?」

椿はうつむいて、小さく頷く。

「な、ばっ……!あれは妹だよ!」

これには椿も目をまんまるくした。

⏰:08/08/23 02:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#297 [向日葵]
そしてすぐに悲しそうな顔をする。

「いいんです。要さまが婚約を解消すると言うなら私は了承しますし……」

「違っ、あの……っ。……あー!もういい!ちょっと来て!」

腕を強く掴まれ、引っ張られる。
抵抗なんてなんのそので、要は椿をズルズルと容赦なく屋敷へ連れて行った。

また屋敷に入ると、玄関ホールには大久保と唯子がいた。
何かを察知した大久保は、意味深に微笑みを椿に向ける。

「改めまして、要さまおかえりなさいませ。そして椿さま、いらっしゃいませ」

⏰:08/08/23 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#298 [向日葵]
椿は頭の中を上手く整理出来ず、大久保の言葉にも反応出来ずにいた。

そして要は少し怒ったように声を上げる。

「聞いてよ!椿が唯子が僕の想い人だと言って本当の事を理解しないんだ!」

一瞬玄関ホールがシンと静まる。と、誰かが吹き出した息の音を合図に、玄関ホールに笑い声が谺(コダマ)する。
唯子もクスクス笑い、要だけが「ホラ見ろ」と言わんばかりに椿を見る。

「椿さま、それは禁忌ですよ。いくらなんでもそれはございません」

「え、あの、ですが……」

チラリと唯子を見ると、視線に気づいた唯子はフワリと柔らかく微笑んで履いていたスカートをひと摘まみすると、昔の姫君のようにお辞儀した。

⏰:08/08/23 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#299 [向日葵]
「はじめまして椿さま。唯子と申します。お兄様とは2つ離れた兄妹でございます。お目にかかれて光栄でございます」

嘘を言っているのだろうか。
でも、要の顔も、大久保の微笑みも、唯子の挨拶も、嘘だとは思えなかった。

そして自分の勘違いだと気づけば、椿は消えてしまいたい程、恥ずかしくなっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ごゆっくりと……」

パタリとドアを閉められれば、部屋に要と2人っきりになってしまった。

テーブルに置かれている紅茶は湯気が出ている。

⏰:08/08/23 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#300 [向日葵]
そんな紅茶のように、椿も湯気が出そうな程まだ真っ赤になっていた。

テーブルを挟んで目の前に座っている要は呆れていれため息をはいた。

「まったく……しょうもない……」

「ごめんなさい……」

謝るしかない椿。
自分が情けなすぎて、顔すら上げる事が出来ない。

[椿さまの事は、兄からお聞きしていますわ。早くお会いしたかったのですっ]

花のように笑う唯子は本当にそう思ってくれてるらしかった。

⏰:08/08/23 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#301 [向日葵]
>>292

誤]道なり
正]道のり

>>300

誤]呆れていれ
正]呆れている

⏰:08/08/24 11:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#302 [向日葵]
それなのに自分は……と何度も思い返す度、椿の顔の火照りはしばらくやみそうになかった。

「まぁいいけどさ……」

「ごめんなさい……」

さっきから何度も消えてしまいそうな声で謝る椿がさすがに可哀想だと思ってきた要は、密かにため息混じりの微笑みを浮かべると窓に歩みより、開ける。

爽やかな風が吹いてくるのに気づいた椿は、少しだけ顔を上げる。
風で、目の前にある紅茶の香りが漂ってくる。

「しかし、君の友達もおせっかいだね。僕の事が気に入らないくせに君とくっつけようとする」

⏰:08/08/24 12:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#303 [向日葵]
完全に顔を上げ、要を見ると、要は窓の外を眺めていた。
そんな要が夕焼けで綺麗に見えたれば、胸がドキリとした椿は、別の意味で顔を火照らす。

「で、そのお節介な友人に連れてこられた君は、僕に何か用事でもあったの?」

「え……」

言われてみれば、要に会おうなどと考えていなかった椿だ。
急に連れて来られたから、美嘉の気持ちに答えねばと入って来たが、ちゃんとした理由はあまりなかった。

訊きたかった唯子の事は分かったし、だからと言って前言ってくれた言葉は本当なのか訊く勇気は今の椿には無かった。

⏰:08/08/24 12:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#304 [向日葵]
ぼんやりとしながら目線を徐々に下へやれば、要の手に巻いてる包帯を見つけた。
そこに視線を釘付けていると、要が気づいた。

「あぁ……これ?これが心配だったの?」

「え、あの、えと……」

「なら心配いらないよ。傷もだいぶんよくなってるしね。見たい?」

椿はいきおいよく首を振る。
そんな椿に要はクスリと笑う。

「冗談」

笑ってくれれば、椿も緊張がほぐれていった。

「さて……そろそろ暗くなる。君を送るよ」

⏰:08/08/24 12:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#305 [向日葵]
椿は呟くように「え……」と言った。
椿の方に歩みより、立たせる為に手を差し出す。

「さ、行こう」

要の怪我はマシになっている。
怪我のせいでたまっていた仕事は多いだろう。
それを済まさなければならないのなら椿も早く帰った方がいい。

頭では椿も分かっている事だった。
でも、なかなかその手を取る事は出来ず、ただ手をジッと見つめているだけ。

そんな椿に、要は不思議そうな顔をする。

「椿……?」

⏰:08/08/24 12:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#306 [向日葵]
「あ、ハイ……」

手をゆっくりと要の手に重ねようとする。

早く帰らなければ、要に迷惑がかかってしまう。

しかし、椿はあと数センチという所でキュッと拳を作り、手を降ろしてしまった。
そして悲しげに要を見る。

「もう……会ってはくれないのですか……?」

「椿……?」

椿はずっとそんな気がしてならなかった。
送ると言った要はあまりに惜しみなくて、あっさりとしていた。
まるでばっさりと縁を切ってしまうかのように。
そう思えば、椿はなんだか悲しかった。

⏰:08/08/24 12:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#307 [向日葵]
「私が……いらなくなりましたか……?」

要に会った瞬間、胸が甘く疼き、その奥にある分からない気持ちが浮き出す。

ずっと……会いたかった。

分かったけれど、もう遅いのだろうか。

「いらない?そんな訳ないだろ!君は……っ。……僕の言葉……忘れたのか?」

少し顔を赤らめて、椿から視線を外す要。
その態度に、椿のもう1つの疑問は無くなった。

「じゃあ、この頃姿をお見せになってくれなかったのは……?」

⏰:08/08/24 12:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#308 [向日葵]
黙り込んだ要は、椿の隣に腰かける。
やがて、ゆっくりと話し出した。

「この前の事、本当に申し訳なかった。反省してる。君からの電話やメールも無視してすまなかった」

「私は……気にしてませんでしたわ」

要はちゃんと謝ってくれたし、その後乱暴な行動とは違い、優しく抱き締めてくれた。

「僕はずっと気にしてたよ。それにね椿、僕は椿が嫌でなんじゃない。僕が嫌で仕方なかった」

「どうしてですか?」

「苛立ちにも似た気持ちを君にぶつけたから」

⏰:08/08/24 12:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#309 [向日葵]
要は自分の膝に肘をつき、頬杖をついた。
絨毯をぼんやりと眺めていると、苦いため息をはいた。

「君も身をもって実感しただろ。僕はこんな奴だ。今度は歯止めすらきかなくなるかもしれない。それが恐いなら、あの聖史さんとやらを選べばいい」

椿は目を見開く。
それは、要はこの争いから手を引くということなのだろうか。
唯子の正体が分からなかった時感じた痛みより、更に鋭い痛みが胸を貫く。

「あの人は僕と違って優しいし、君も幼い頃からの知り合いなのだろう?なら尚更いいじゃないか」

要のあの告白は本当の気持ちなのに、諦める?

⏰:08/08/24 12:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#310 [向日葵]
じゃあやっぱり椿がいらない?

それならば、やっぱり、あの言葉は嘘?

椿は突然立ち上がる。
そしてドアの方へと歩いて行った。
それに驚いた要は椿を呼び止める。

「椿、どうかした?」

しかし椿は答えなかった。

ドアノブに手をかけ、開けようとした時、要が後ろからドアに手をつき、出ていくのを阻止した。

「椿、何か言ってくれないと分かんないよ」

椿は要に背を向けたまま黙り込む。
痺れを切らした要は、肩を持ち、自分の方へ向かせる。

「椿!何か言ったらど……」

要はハッと気づいた。
うつむいてる椿から、絨毯にかけて滴が落ちている。

⏰:08/08/24 12:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#311 [向日葵]
椿は声を殺して泣いていた。

頭が混乱していた。
本当だと言ったのに何故諦めてしまうのか。
どうして聖史を選べと言うのか。

「椿、どうしたんだ?」

「わ……たしは……聖史さまを好きだたと思った事は……、いち……ど……も、ありません……」

要は恐くなんかない。
確かに押し倒された時や、要の手を素肌に感じた時は、何をされるか分からない恐怖でいっぱいだった。

けれど、勝つと言って頬に柔らかく触れた唇や、少し強引に押しつけられた唇は、嫌ではなかった。

⏰:08/08/24 12:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#312 [向日葵]
そう思えば、椿は徐々に理解していた。

会いたいと思う気持ちも、諦めて欲しくないと思う気持ちも、要が好きだから心が叫ぶのだと。

だから要が聖史を選べと言った時、胸が張り裂けそうなぐらい痛かったのだ。

「それでも要さまが……選べとおっしゃるならば……わたしは……」

「椿……」

包帯を巻いた手で、椿の頬に触れる。
椿はその手に自分の手を重ねて、まだ潤む目で要を見つめる。
要は、見たことがないような穏やかな微笑みを浮かべる。

⏰:08/08/24 13:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#313 [向日葵]
「椿が僕に勝って欲しいと思ってくれてるなら、僕は手を引かないよ。いいの?椿」

椿はまた沢山涙を流してこくりと頷いた。

そんな椿を、要は優しく抱き締める。

「ありがとう……。これでまた明日から、仕事に力が入るよ」

聖史のようなしっかりとした腕ではなく、覚えのある腕に抱かれて椿はホッとした。

2人はしばらくそのまま抱き合っていた。

―――――――――…………

家に帰ってきた椿は、ほっこりとした気持ちで玄関のドアを開けた。

⏰:08/08/24 13:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#314 [向日葵]
[明日からまた仕事だけど、ちゃんと電話に出るしメールも返すから。椿も僕が連絡した時はちゃんと返してね]

帰り際に要が言った言葉だ。
こう言った後、また要は椿を抱き締めた。
お見送りと玄関ホールにやって来た大久保と唯子の前で。

唯子は「またお話して下さいね」と笑い、まるで姉にするみたいに抱きついてきた。

その時、椿は気づいた。
自分と同じくらい細い唯子の体。

門まで一緒に来てくれたら要にそれを言ってみれば、どうやら唯子は心臓が弱いのだと言う。
今まで唯子を見かけなかったのは、入院していたかららしい。

⏰:08/08/24 13:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#315 [向日葵]
[だから僕は君が放っておけないのかもね]

と笑う要に、椿も笑った。
要はどうやら妹が可愛くて仕方ないらしい。

[そういえば、唯子の事知ってるような感じがしたんだけど、どうして?]

それは訊かれるとは思ってなかったので、椿は顔を赤らめながら事情を話した。
すると要は意地悪そうに笑った。

[へぇー……妬きもち妬いてたんだ]

やっぱり顔を赤くする椿に、要は頭を撫でる。

[また唯子とも遊んでやってよ。じゃあね、おやすみ]

⏰:08/08/24 13:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#316 [向日葵]
自分の部屋についた椿は、着替え始める。

膝ぐらいまである花柄のチュニックを着た途端、後ろから誰かに抱き締められた。
驚いた椿は声が出せず、固まってしまう。
するとクスクスと笑い声が聞こえた。

「ゴメンネ。驚かしちゃった?」

「聖史さま……」

「でも着替え中にこんな事するのは、男として最低だね。向こう向いてるから、早く下を履いた方がいい」

そこで気づけば、下着は見えていないが、チュニックを来ただけの椿は白い足が出たままだった。
急いでジーパンを履く。

⏰:08/08/24 13:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#317 [向日葵]
「着替えました」

聖史は振り向き、にっこり笑う。
椿のベッドに腰かけると、手招きして自分の隣をポンポンと叩く。

座れと言いたいらしい。
素直に椿は座る。

「今日は遅かったんだね」

「あ、ハイ……えと、ちょっと用事がありまして」

「そう。なんか良いことがあったのかな?」

「え?」

「表情が柔らかくなってる」

そう言われて、椿は自分の顔の両手を添える。

⏰:08/08/25 00:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#318 [向日葵]
そんな事自分では分からないから、もしそうならば、今日要に会えたからだろう。
そう感じる自分に少し恥ずかしくなって、椿は頬を桃色に染める。

その一方で、聖史がは自分がまとっている柔和な空気をふと消す。
椿はそれにまだ気づいていない。

「椿をそこまで喜ばすなんて、きっとすごい人なんだろうね」

「ハイ。本当にすごいと言うか、優しい方で……。……え?」

椿はおかしいと感じる。

だって聖史には、“誰か”と会っただなんて一言も言ってない。

⏰:08/08/25 00:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#319 [向日葵]
聖史の方を見るのを何故か躊躇う。
そろりと徐々に首を回していく。心臓が不規則に跳ねるのは何故だろう。

そしてようやく聖史の方を見れば、微笑んでいた。
無機質な目をして。
その笑顔に、椿は背中がゾクリとした。

―――コワイ。

そう思いさえした。

要に襲われそうになった時の不安のような恐怖とはまた違う。
ただ恐いのだ。

「あ、あの……」

「何?」

⏰:08/08/25 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#320 [向日葵]
「お、同じクラスの、神田越さんと言う方がいまして、その人のお家にお、お邪魔、してまして……」

椿は咄嗟に嘘をつく。
けれど聖史にはそれが嘘だと分かっているだろう。
なのに聖史は「へぇ……」と椿の嘘に何故か付き合い、話の先を促す。

まるで、追い詰める事を楽しんでいるかのように……。

だから椿は余計に恐くなる。
気づけば膝の上に置いていた手が、小刻みに震えている。
それを抑えるように、もう片方の手を重ねる。

「越さんのお家は4人兄妹でして、すごく、仲が良いんです……。う、羨ましいくらい……に」

⏰:08/08/25 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#321 [向日葵]
いつの間にか、少し空いていた椿と聖史の間を埋めるように聖史は椿に接近していた。

「そう。その越さんのお家で何をしてきたの?」

「4才の妹さんがいるんですが……妹さんと遊んだり、していました……」

「どんな?」

「い、色塗りや、お人形で……」

「そうか……。それは是非会ってみたいね。僕は子供が好きだし、椿みたいに色塗りや人形でその子と遊んでみたいよ。明日会えないかな?」

「え、越さんは忙しいので、たまにしか、遊べなくて……」

⏰:08/08/25 01:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#322 [向日葵]
言い訳のようになってしまっている。
いや実際越が忙しいのは事実なのだが、今この状況では、椿の苦しい言い逃れのようだ。

「ねぇ椿、何故嘘をつくの?」

耳元で低く囁く聖史に、ビクリと肩が震える。

今から、攻撃が始まる……。

椿はそう予感した。

「う、嘘では……」

「残念ながら君が要くんの家に行った事は知ってるんだよ」

「……っどうして……!」

「なんだ、やっばりそうだったのか」

⏰:08/08/25 01:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#323 [向日葵]
「え……」と椿は呟く。
そして頭を思いきり叩かれたように、重みを感じる衝撃を受ける。

聖史は要の家に椿が行ったと言う確かな証拠がなかったが、予想はしていた。
そして椿自身に真実を吐かした。
つまりカマかけていたのだ。

「それでその嬉しそうな様子かぁ……。僕は完全に出遅れてしまったのかなぁ……?」

喉の奥でクククと笑い出す聖史。

椿の頭に、「この人は誰?」と言う疑問が浮かんでは消える。
あの優しい聖史は?

逃げたい衝動にかられる。
しかし足に力を入れたくても入らない。

⏰:08/08/25 01:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#324 [向日葵]
「椿、はっきり言ってよ。僕はもう君達の間に入る余地はないのかい?」

口の端を上げただけの奇妙な笑い方。
でも椿は言わなければならない。
自分は選ぶ権利などないと思ったが要がそばにいてくれれば嬉しいと思ってしまうから……。

毅然として、背筋をしっかり伸ばす。
はっきり言わなければ、それこそ聖史に失礼だと椿は思った。

「ごめんなさい聖史さま……。聖史さまは素敵な方ですし、私には勿体無いと思う程です。……ですが私は……」

そこまで言うと、きつく抱き締められる。

⏰:08/08/26 01:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#325 [向日葵]
あまりのきつさに、椿の細い体は耐えられず、苦しさを感じる。

「せ……じさ……」

「やっぱり言わせない。僕が負けだなんて認めたくない。椿は僕と幸せになるべきなんだ!」

聖史は椿に強く口づける。
驚いた椿はすぐさま抵抗するが、片腕は椿の腰を捕らえ、もう片方は椿の後頭部に添えられ離れないようにされる。

要の時感じた恐怖をまた感じ出す。それも、あの時以上の恐怖を。
手加減してないからだ。

それでも椿は胸を押し返し、離れようと頑張る。
胸を叩いて止めてくれと意思表示する。

⏰:08/08/26 01:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#326 [向日葵]
助けて……っ!
要さま…………っ。

要の事を強く心の中で、呼んだ時、ようやく椿の唇は解放された。

「椿、僕とキスしちゃったね……。これを要くんはどう思うかな」

ドクリと頭の中で鼓動を聞いた気がした。
動揺し、固まっている椿を見て満足気に微笑んだ聖史はいつもな聖史に戻っていた。

「椿の事、ふしだらだと思って嫌うかもね」

椿は目を大きく見開く。
その瞳の奥で、要が冷たく自分を見下ろす姿が見える。

⏰:08/08/26 01:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#327 [向日葵]
ベッドから降り、椿と視線を合わすように片膝をついた聖史は、さらりと椿の髪の毛をよけながら頬に触れる。

「でも僕なら椿をそんな風になら思わない。もしそうされたなら、要くんの温もりがないくらい椿を愛してあげる」

立ち上がり、ドアの方へ向かっていく。

「どちらが寛大か、椿、よく考えるんだね。じゃ、また明日……」

やけにドアが閉まる音が部屋に響いた気がした。
椿の体は、おさえきれない震えに襲われていた。

ベッドから、ズルズルと床に落ち、座り込む。

⏰:08/08/26 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#328 [向日葵]
今さっきの事が、本当に起こった事なのかまだ信じられずにいる。

どうして聖史があんな事をしたのかも分からない。

ただ恐くて、嫌で仕方なかった。

[ふしだらだって……]

その言葉が、頭の中を響き渡る。

要が自分をふしだらだと思う。
それは、嫌われるという事だろう。
諦めないで欲しいと言い、嫉妬までしたくせに、他の男性に唇を許してしまったのだ。

また椿の瞳の奥で、要が出現する。

⏰:08/08/26 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#329 [向日葵]
「君は僕に嘘をついた。これがどういう事か分かる?」

違う、あれは望んでした事じゃない。

「逃げる事だって出来たんじゃないの?」

……足に力が入らなくて……。

「望んでないとか言ってさ、本当は望んでたんじゃないの?逃げる気すら無かったんじゃないの?」

そんな事ない……っ!

「僕はそんないやらしい女性は嫌いだよ。悪いけど、僕はこの争いから手を引くよ」

待って下さい……!
お願いいかないで!!

⏰:08/08/26 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#330 [向日葵]
ガタン!と窓が風に揺れる音で、椿は我に返る。

そして唇にそっと指先を触れ、その手を拳の形にし、手の甲でぐいぐい拭く。
聖史の唇の感触全て無くなるよう、唇が摩擦で熱く痛くなるまで擦る。

要に嫌われたくない。
せっかく勝つと言ってくれたのに、こんな事で自分自身惑わされたくない。

それなのに……。

まだ震えが止まらない体を、自分の腕でしっかりと抱き、椿はうずくまる。

そして助けてと、心の中で必死に叫んだ。
助けてほしいのは、父でも美嘉でも誰でもない。

ただ、要に……。

⏰:08/08/26 01:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#331 [向日葵]
[第8話]

「椿さま、椿さまっ」

ハッと目を覚ました椿は、額にじっとりと汗を滲ませていた。
目の前には、心配そうにこちらを覗き込むメイドの佐々木がいた。

「佐々木さ……」

「大丈夫ですか?とても苦しそうなお顔をされていましたし、いつもの時間になっても朝食に来ませんもので……」

ゆっくりと体を起こした椿は顔が真っ青だった。
昨日の今日で、気分はすぐれない。
夢を見れば要が出てきて、椿はいくら追いかけても、遠くにいる要に追いつく事は出来なかった。

⏰:08/08/26 01:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#332 [向日葵]
走り疲れて息を切らして座り込む。すると世界が闇に包まれ、その闇が椿にまとわりつく。
その闇を振り払おうとするが、闇は段々と椿を覆っていく。
そして闇にのまれていくと感じた時、声が聞こえる。

「要くんに嫌われちゃうね」

聖史の声だった。

「今日は、学校休まれますか……?」

どこが悪いのか分からないが、とりあえず背中をさする佐々木は椿に問う。

しかし椿は首を振った。

「いえ、行きます。ご心配かけてすいません」

⏰:08/08/27 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#333 [向日葵]
佐々木はまだ不安そうな顔をしながらも、椿が着替えると言うので部屋を出て行った。

椿は制服を取るも、体にあまり力が入らなかった。
重いため息をついて、ベッドから降りる。

その時、テーブルに置いていた携帯が震えだす。
突然の派手な音に、びくりとした。

手を伸ばして、携帯を開けば、知らない番号だった。
とりあえず出てみる。

「……もしもし」

{おはよう}

⏰:08/08/27 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#334 [向日葵]
椿は胸が高鳴った。
それと同時に、胸の中がほっこりと安心感に包まれる。

「おはようございます……要さま……」

{なんだか眠そうだね。起きたて?}

意地悪そうでも、どこか優しい要の言葉は、今さっきの悪夢を忘れさせてくれそうだった。

「少し、寝坊してしまいまして……」

{珍しいね……。昨日眠れなかったの?}

その言葉に、椿は息を詰める。
悪夢が走馬灯のように椿の脳裏を駆け抜ける。

⏰:08/08/27 01:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#335 [向日葵]
追いつかない要。
闇に包まれる椿。
楽しそうに笑う聖史。

[要くんに嫌われちゃうね]

一点を見つめる椿の目は、何を写しているか分からない。
携帯を持ったまま固まり、立ち尽くす。

携帯の向こうの要は、いっこうに喋らない椿を不思議に感じ、呼びかける。

{椿?}

椿は要の声など耳に入っていないようだった。
要もそれが分かったのか、今度は強めに呼んでみる。

{椿っ!}

⏰:08/08/27 01:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#336 [向日葵]
ようやく椿は我に返る。

{どうかした?}

嫌われる。
その言葉が頭から離れない。
恐くなった椿は、無意識に電源ボタンを押していた。

―――――――…………

要の耳に、電子音が鳴り響く。

無言でいきなり切られた要は半ば唖然としていた。

要は受話器を置く。
椿の携帯に表示されなかったのは、要が自宅の電話機からかけていたからだ。
携帯の充電をしておくのを忘れたのだ。
流れで登録しとけと言うつもりが、いきなりの無言切り。

⏰:08/08/27 01:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#337 [向日葵]
自分は何か傷つける事を言ったかと首を傾げる。

コンコンとノックされると、大久保が入ってきて、朝の紅茶を運んできた。

「大久保、今日午後何か予定はあったかな?」

「午後は12時から3時までデザイン画に合わせた装飾品デザインの会議が都内の川島ビル15階の会議室でありますが……。それが何か?」

「そう。それならちょうどいい時間になるだろう。分かった。……それより大久保」

「ハイ」

要は不満そうな顔をして、紅茶のカップを大久保にずいっと渡す。

⏰:08/08/27 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#338 [向日葵]
「今日はセイロンティーが飲みたい」

「え、要さま昨日アールグレイが飲みたいと言ったじゃありませんか」

大久保の困った顔も無視で、要は無言でカップを押しつける。
大久保はわざと大きなため息をついて、苦笑いしながら言う。

「椿さまにはそんな意地悪しちゃいけませんよ?」

「してないよ」

してると思いながらも、大久保はフフフと笑って、紅茶をいれ直しに部屋を出て行った。
もっとも、要の意地悪や憎まれ口は、愛情の裏返しだと言うのも、彼はちゃんと分かっているのだ。

⏰:08/08/27 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#339 [向日葵]
――――――――…………

車で学校へ向かっている椿は、ため息をついていた。

「……8回目」

隣に乗っていた美嘉が呟く。

「へ……?」

「ため息の回数。……ねえ、昨日アイツに会った?」

「あ、ハイ。そういえば、昨日はありがとうございました美嘉ちゃん。」

美嘉は照れ臭そうに頬をポリポリとかく。

「そ、それより、会ったなら、どうしてそんなに元気がないのよ」

⏰:08/08/27 02:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#340 [向日葵]
椿はうつむく。

こんな弱気ではいけない。
きっと、これは聖史の作戦だと感じている。

そう思えば、昨日の聖史の奇妙な雰囲気を思い出して、椿は身震いした。

「椿?どうかした?寒い?」

「い、いえ……」

[要くんの温もりがないくらい椿を愛してあげる]

まるでどこかの国の暴君。
思い通りにしようとする。
あんなに優しかった聖史なのに……。

そこで椿はハッとする。

⏰:08/08/27 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#341 [向日葵]
もしかして、要を3針も縫う怪我をさせたのは……聖史なのか……?と。

椿は人間が分からなくなりだしていた。
自分にビジネス目的で近づいた人は、今じゃ優しいフィアンセに。
優しい兄的存在の人は近づくのさえ躊躇いそうになる恐ろしい人に。

――――母なら……。
椿は思う。
母なら、どんな人でも受け入れたのだろうか……。

それが相手の個性だと、何もかも大きな心を持って受け入れたのだろうか……。

自分は、母に、ならなきゃならないのに。
その義務があるのに……。

⏰:08/08/27 02:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#342 [向日葵]
「はぁ……」

「9回目っ」

椿は慌てて口を塞いだ。

学校について、下駄箱まで歩いて行く。
すると越がいた。

「越!おっはよー!」

美嘉が元気よく挨拶する。
彼女は椿たちの存在に気づくと静かに笑った。

「おはよう」

いつもと違う越の雰囲気に、椿と美嘉は顔を見合わす。
全然、いつもの彼女らしい元気がないのだ。

「越、どうかした?」

⏰:08/08/29 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#343 [向日葵]
越はどこかぼんやりした表示で首を傾げる。

「何が?」

「いや何がって……」

「何もないよ。早く行こう」

彼女の足取りを見ていれば、若干足元がフラついていた。
心配になりながら、椿と美嘉は越がうっかり柱で頭を打たないかと後ろから見守る。

「大丈夫……でしょうか、越ちゃん……」

「ど―――して美嘉の周りってこんな子達ばっかなのぉっ!?」

椿が目をまん丸くする。

「こんな……?」

⏰:08/08/29 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#344 [向日葵]
美嘉は椿を指差し、目をつり上げる。

「椿みたいな困ってても何も言わない子っ!」

「え、私は別に困っては……」

「じゃあ9回のため息は何よっ!美嘉は友達じゃないのぉっ!?」

美嘉はもどかしかった。
友達の筈の自分は何も頼られず、ただ見ておくだけだなんて。
困っている友人を助ける事が出来ない自分は、どうでもいい存在なのかとさえ思う。

「美嘉ちゃん……」

だから椿は、美嘉がそれだけ傷ついているのを初めて知った。

「ごめんなさい、ちゃんと、話ますので……」

⏰:08/08/29 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#345 [向日葵]
教室にカバンを置いて、椿達は屋上へ向かう事にした。
越に行くか聞いたが、やはり彼女はぼんやりしながら断った。
元気がない、と言うよりは、どこか物思いにふけっていると言う風に思うなくもないが……。

屋上で吹く風は冷たい。
椿は持ってきていたカーディガンを羽織った。

「そこらに座ろっか」

手すりに背を預け、2人してまだ白っぽい空を眺める。

「で、アイツの事で悩んでるの?」

少し当たっているが、また違う。
悩みの大半は聖史だ。

⏰:08/08/29 01:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#346 [向日葵]
だが美嘉は聖史になついている。
そんな彼女に、こんな事を告げていいのか迷ったが、それすら教えないと、美嘉はまた悲しむだろう。

だから椿は思い切って言う事にした。
昨日聖史とあった出来事、全て。

聖史が聖史じゃなくなってしまった事、無理矢理キスされた事、どこか脅かすような言葉を言われた事……。

美嘉はあの聖史がそんな事をするのが信じられないのか、目を大きく見開いて口を小さくパクパク動かしていた。

「な、何それっ、どういう事っ!?おかしいじゃない!聖史兄ちゃんがそんな事するなんて……っ」

⏰:08/08/29 01:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#347 [向日葵]
「私も頭が混乱してしばらくは上手く整理出来ませんでした……」

「でも椿……やっぱり椿ってアイツが好きだったんだ」

“アイツ”が誰なのかすぐには言葉を変換出来なかった椿は、やっと意味を解した時、首から上が真っ赤になった。

「き、気づいたのは最近で……、と言うか昨日で……っ、きっと美嘉ちゃんが会わせるようセッティングしていませんでしたら、まだ気づく事はなかったと思いました……」

椿は両手を頬に添え、顔の体温を冷たい自分の掌で冷まそうとする。

「こんな気持ち、初めてで……自分自身どうすればいいのか分からないんですけど……」

⏰:08/08/29 01:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#348 [向日葵]
美嘉はおかしそうに笑い出した。

「アンタ達2人とも、頭良いのに変な所頭悪いよね」

アハハハと笑う美嘉の笑い声が心地よく感じる。
そう感じるのは、胸をくすぐるこのこそばい感情のせいだろうか……。

「椿のやりたいようにやりなよ。それが1番良いと、美嘉は思うよ。椿が感じてる“お母さんの責任”は、もう捨ててもいいと思うよ」

「それは……出来ません……」

椿はそれだけは拒否した。
簡単に投げ出しては、皆許してくれない。
生まれてきた自分を、受け入れてくれない……。

⏰:08/08/29 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#349 [向日葵]
>>326

誤]いつもな聖史
正]いつもの聖史

>>345
誤]思うなくも
正]思わなくも

⏰:08/08/31 02:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#350 [向日葵]
要がそんな事ないと言ってくれた事がある。
しかし椿の心の中がすぐに全て切り替わるのかと言ったらそうではない。

「そういえば、越どうしたんだろうね」

美嘉が呟くと、頭の中が越の事で切り替わる。
どこかフワフワしている彼女が心配になる。
落ち込んでいるのかと思ったがそうでもなさそうだ。

「元気になるまで待ちましょう」

「そうだねー」

「あ、あの、美嘉ちゃん。どうして要さまに会わせてくれたんですか?あんなに反対してらしたのに……」

⏰:08/08/31 02:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#351 [向日葵]
美嘉は「んー」と唸るとニヤリと笑う。

「アイツが年相応に見えたからかな。なんか親近感湧いて」

そういえば、忘れがちになってしまうが、要は自分と同い年なのだ。
姿や容姿、身についた動作や考え方は、もう大人のように感じる。

「頭の堅い、ただのビジネス目的の最低な奴だと思ったよ。でも椿をどう思ってるか聞いたらさ、17歳の男子の意見だったんだ」

それが椿に言った事とほぼ一緒だと言うことは、椿は知らない。

「しっかし……」

美嘉は歯の隙間からシシシシと笑う。
椿は何がおかしいのかと言葉の続きを待つ。

⏰:08/08/31 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#352 [向日葵]
美嘉はニヤニヤと緩む口元を両手で隠す。

「椿、アイツ椿にメロメロみたいよね」

「な……」

要が自分にメロメロな筈はない。

そう思っても、昨日抱き締められた時の体温や力加減を思い出せばうつむいて顔を隠すので精一杯だった。

「椿も実は、アイツにメロメロ?」

明らかにからかっている美嘉の口調に、耳まで真っ赤にする。

「み、美嘉ちゃん……っ!」

⏰:08/08/31 02:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#353 [向日葵]
「いいじゃんメロメロならメロメロでー。楽しいねー。美嘉も早く彼氏が欲しいよ」

カラリと笑う彼女のその口調は、本当にそう思っているかは分からなかったけれど、もし彼女に好きな人が出来たと言うのなら、自分は何がなんでも協力しようと椿は決意した。

決意した途端、携帯が震える。
スカートのポケットから携帯を出せば、メールが2件届いていた。

椿は携帯を落としそうになるのを必死にこらえた。
2通のうち1通は聖史からだったのだ。

<今日も行くよ。君に会うまでずっと待ってる。だから逃げようなんて、思わないよね?>

⏰:08/08/31 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#354 [向日葵]
脅迫文ともとれる内容に、椿はさっきとは逆に顔を青くさせた。

逃げられない。
聖史の作った迷路から抜け出せるのだろうか……。

「椿?やっぱりここ寒い?」

大丈夫と告げようとして、顔を上げた時予鈴が鳴った。
立ち上がり、携帯をスカートのポケットにしまう。

そして美嘉と2人で教室に小走りで戻って行った。

――――――――…………

掃除をする前に、美嘉が越も連れて3人で出かけようと言った。

⏰:08/08/31 02:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#355 [向日葵]
少しは気が紛れる。

今日帰ったら何が起こるか分からない。
もしまたあんな事をされてしまったら、自分の精神状態がおかしくなってしまうのではないかと恐く思う。

ため息をついて胸の中を空にしても重い気分は一向に晴れはしない。

「ねえ、なんか高そうな車止まってない?」

「本当だ、外車?」

窓の外を眺める女の子達が口々に言う。

それを耳にしながら椿は自分のところの車だろうと思い、しばらく考えてから首を少し傾げた。

⏰:08/08/31 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#356 [向日葵]
まだ迎えの車が来るには早い。
なら誰の車だろう。

「赤ってやっぱ目立つねー」

椿の迎えの車は黒だ。

聖史かと考えるが、頭の隅では違うように感じる自分がいる。

もしかしてと女の子達と同じように窓の外を見れば、丁度その車から人が降りてくるとこだった。

「大久保さん……?」

両目が2.0の椿だが、遠くにいる人物をあと1歩確かめる事は出来ない。
しかしその姿は要の従者である大久保にそっくりだった。

大久保にそっくりな人物は後部座席のドアを開ける。
するとまた見た事がある人が。

⏰:08/08/31 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#357 [向日葵]
「あれ?アイツじゃん」

椿と同じく視力が良い美嘉が後ろからニョキリと顔を出して言う。
「美嘉ちゃんもそう思われますか?」

「スーツ着てるしねぇ。アイツ私服ないのかって感じだよね」

要と思われる人物はふと上を見上げる。
こちらに気づいたのかと一瞬ドキリとするが、すぐに顔を戻して校舎へ入ってくる。

「もしかして椿をデートに誘いに来たとか?」

「いえ、今日は何も予定はありませんし……」

「へー。じゃあ何だろうね」

⏰:08/09/01 01:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#358 [向日葵]
とりあえず掃除も終わったので、椿は教室に戻る。
放課後になれば越も少し元気を取り戻していていつもの彼女らしかった。

教室にまだいる他の友達に挨拶をして出ようとドアに手をかけようとした時、先にドアが開けられた。
反射的に手を引っ込めた椿は目の前にいる人物に驚く。

「か、要さま……っ!」

「ここが君の教室かぁ。質素だねー。ここら辺なんかひびが入っちゃってるじゃないか」

見知らぬ来客に、教室に残っている何人かのクラスメイトがこちらに視線を注ぐ。
それを背中でひしひしと感じている椿はただどうしようと思う。

⏰:08/09/01 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#359 [向日葵]
「椿、こちらは?」

要を初めて見る越が後ろの方から問いかける。

椿は恥ずかしくて黙っている。
しかし要はそんなのお構いなしに椿の頬に手を添えたと思うと、そのまま抱き寄せる。

「はじめまして。僕は椿のフィアンセです」

しばしの沈黙が流れた後、越が「あぁ、あの……」と言って納得してからすぐ他のクラスメイトが大声を出して驚いた。

「椿ちゃんフィアンセとかいたのー?」

「そんなの漫画とかの中だけだと思ってたよーっ!」

「やっぱり惹かれあったとか?」

「ちょっと待って……。あ!この人、ブランドのAKAの人じゃん!」

⏰:08/09/01 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#360 [向日葵]
するとまた教室は絶叫に包まれる。
少人数しかいないのに一体どこから声が出るんだろうと、椿は疑問に思う。

「あのブランド可愛いよねー!リーズナブルだし!」

「私もネックレス持ってるよー」

このままじゃ混乱を招かない、と言うかもう混乱気味だが、椿は要から離れて要を押す。

「なに椿?」

「と、とりあえず外へ出てくださいませっ!」

美嘉達が出てくる前にドアを閉め、要の手を引いて人気のない場所まで行く。
周りに人がいないか再度確かめ、ふうと一息つく椿に対し、要はどこか楽しそうだった。

⏰:08/09/01 02:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#361 [向日葵]
「女の子が騒ぐって面白いよね。しかも僕のブランドを知ってるなんて、いい子達ばかりだ」

「そ、それより要さま、どうしてここへ?」

「君の様子がおかしいと思ってね。電話より直接話した方がいいと思ったんだ」

微笑みを向けながらも、真剣な目で見つめるものだから、どこか気まずくなって椿はうつむく。

「ってか、メールで知らせたけど」

それに椿は驚き、また顔を上げた。

「見なかったの?まぁ学校だし、見にくいかなとは思ったけど」

⏰:08/09/01 02:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#362 [向日葵]
椿はそういえば2件メールがきていた事を思い出す。
携帯を開けば聖史の事を思い出しそうでずっとほったらかしにしていた。

そしてまた聖史の事を思い出せば、椿はうなだれていった。
その様子を見て、要は困った顔をする。

「えっと……来ない方が良かった?じゃあ今日は帰るよ」

「……っ!待ってくださいっ!!」

去って行こうとした要の腕に飛びつくように椿は要をひき止めた。
急な椿の行動に要は驚く。
そして椿も自分がした事に気づけばすぐにパッと離れた。

⏰:08/09/01 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#363 [向日葵]
恥ずかしくてそっぽを向く椿に、要は嬉しくて椿の頭を撫でる。

「珍しいね、ひき止めてくれるだなんて。そんなに会いたかったとか?」

「いえ、あの……っ」

「本当に……?」

髪の毛をよけて、要の手が頬に触れる。
触れられるだけで疼く甘い衝撃は要にだけしか起こらない現象だ。

しかしふとフラッシュバックのように昨日の出来事が目の中で見えれば、パシリと要の手をはたいていた。
動揺しながら恐怖に高鳴る胸を押さえて椿は少し後ずさる。

⏰:08/09/01 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#364 [向日葵]
「……どうかした?」

椿の態度に少し気分を害してそうな顔をする要に椿は焦る。

どうかしてる。
要と聖史が被るだなんて。
それによって要が傷つくだなんて、そんなのダメだ。

「か、要さまの手が、冷たくて……びっくりしたんです」

眉を寄せて、要は頬に自分の手をつけてみる。

「あ、本当だ。気づかなかった。でも君にはいいんじゃない?平均体温高いんだし」

笑ってくれた要はどうやら椿の嘘を信じたようだ。
少しホッとする。
あの出来事は絶対要に知られてはいけない。

⏰:08/09/01 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#365 [向日葵]
もうこれ以上、自分は誰も傷つけてはいけない……。

「あ、でさ、今日来たのは他でもないんだ。椿の様子だけじゃなくって、僕も用事があったんだ」

「あ、ハイ、なんでしょう?」

「ここで言う訳にはいかないからな。とりあえず家に来てくれる?」

要は少し歩き出してから振り向く。
椿はどうしたのかと首を傾げる。

「手くらいは、繋いでも平気?」

また離されるのが嫌なのか、わざわざ訊いてくる。
それも、遠慮がちに笑って。
そんな風に、少しずつ心の中を見せてくれるから、椿は要から目が離せなくなる。

⏰:08/09/02 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#366 [向日葵]
返事代わりに椿はおずおずと手に触れる。
控えめに手を握れば、要が代わりにギュッと握り返してくる。
自分より大きな掌や、長い指に、椿はドキドキした。

要の冷たい手が、心地よく感じる程、体温が上昇しているのにも気づく。

「椿が過ごしている学校の中を1度見て見たかったんだ」

少し顔を上げれば、まるで自分の母校に帰って来たかのように要は辺りを見渡していた。

「で、でも、要さまにはやっぱり質素に見えてしまうんでは……」

「確かにね。でも、アットホームな感じでいいじゃないか」

⏰:08/09/02 01:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#367 [向日葵]
温かい笑顔にホッとする。

要にはそうやって笑っていて欲しい。

椿は心からそう思った。

――――――――…………

「椿さまは何をお飲みになりますか?」

要宅に着いて、部屋に案内されると大久保が訊いてきた。

「仕入れたばかりの紅茶の葉があるだろう。それを出せ」

「それは要さまが飲みたいものでしょう?椿さまのお好みを訊きませんと」

まるで友人のように接する2人に、自然と笑みが溢れる。

⏰:08/09/02 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#368 [向日葵]
まるで自分とメイドの佐々木のようだと思う。
彼女は椿にとって母親のようでもあり姉のようでもある。

「私はじゃあキャンブリックティーをお願いします」

「かしこまりました」

大久保はお茶を淹れに部屋を出ていった。
そして改めて要の部屋の中を見れば、色々な資料の山で一杯だった。

「あ、あの……本当にお忙しくなかったのでしょうか?」

「忙しくないと言ったら嘘になるけど今日の用事は全て済ませたから」

要はスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩める。
そんな姿にもドキドキする自分がなんだか信じられなくて、椿は要が脱ぎ捨てた上着を拾って上着をかける場所にかける。

⏰:08/09/02 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#369 [向日葵]
その姿を、ソファーに座っている要がジッと見つめる。

「そうしてると、本当に奥さんになったみたいだね」

「え……」

椿は動揺してその場で硬直してしまう。

「そろそろ婚約を正式にしない?それとも、まだ君は迷ってる部分がある?」

椿は答えられずにいた。
要はそれを想定していたのか、ポケットから小さな箱を出す。

「あげる。開けてみて」

椿は指先を使って開けてみた。
開けてみて彼女は驚く。

⏰:08/09/02 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#370 [向日葵]
中には小さな椿がついた指輪が入っていたからだ。

椿は要を見る。
彼は穏やかに微笑むと、その指輪を手に取った。

「つけさせてくれる?」

椿はもちろんと思った。
思った一方で、つけて帰った時の自分を想像しているもう1人の自分がいた。

帰ったら聖史がいる。

要と聖史は正式にはまだ戦っている最中なのだ。
これをつけて帰った時、椿は自分が何をされるのかと恐ろしくなった。
そして要に何を話すのかも、不安になった。

⏰:08/09/02 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#371 [向日葵]
沢山の事を思えば思う程、椿は要の訊ねに首を縦に振る事は出来なかった。

「椿……?嫌なの?」

椿はうつむいた。

要は長いため息を吐く。

「僕の自惚れじゃなかったら、君は少しでも僕に好意を抱いてくれてるんだろ?聖史さんとやらよりも僕を選んでくれるのだろう?」

これには、椿は力強く頷いた。

「じゃあ何がダメなの?」

それはあなたを傷つけてしまうかましれないから。
私が何をされるか分からない恐怖に包まれるから。

⏰:08/09/02 02:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#372 [向日葵]
「……ごめん、なさい……」

「分からない。君は僕に諦めないでほしいと言ったんだ!なのに何故婚約が出来ない!……もしかして、まだ僕の気持ちを疑ってる?」

「ちが……」

「じゃあなんで……っ!」

肩を掴み、椿を揺する。
椿はされるがままになりながら泣きそうになっていた。
聖史にされた事を告げても、要はそばにいてくれるだろうか。
夢のように、去って行ってしまわないだろうか……。

「失礼します」

お茶を持ってきた大久保が部屋に入ってくると、要は部屋を出ていった。

⏰:08/09/02 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#373 [向日葵]
部屋の隅で、椿は震える。
大久保はテーブルにお茶を乗せたトレーを置くと、椿に歩み寄り優しく語りかける。

「何かありましたか?」

椿は大久保を見る。
大久保は優しく椿を見つめる。
堪えきれなくなって、椿は涙を流し始めた。

「き、昨日、聖史さんに、無理矢理キスされました……。怖くてすごく嫌なのに、離してくれなくて……」

椿は昨日あった事を全て大久保に話した。
大久保は何も言わず、ただ黙って椿の話に耳を傾けた。

「こんな事、要さまに知られるのが恐いんです……っ。嫌われたらって……っ。こんな事する人だとは思わなかったって、ショックを与えたくないんです……」

⏰:08/09/02 02:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#374 [向日葵]
顔を覆って泣く椿を、大久保は淑女のようにソファーにエスコートする。

「だから、要さまには告げないのですね……」

「ハイ……言えませんこんな事……」

大久保は上着からハンカチを出し、椿の手に握らせた。
それに気づいた椿は、遠慮がちにハンカチで涙を拭く。

「私が口出しするのもなんですが、要さまは椿さまの事を嫌いになんかなりませんよ。大丈夫です」

口元をハンカチで押さえ、まだ潤む目で大久保を見る。
屈んで目線を合わせてくれている大久保は優しく微笑む。

⏰:08/09/03 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#375 [向日葵]
「それでも、椿さまにまだ告げる勇気がないのであれば、私はもちろん喋りません。椿さまも、勇気が出たら要さまにお話してあげてください」

最後にニコリと微笑むと、大久保はふとドアの方を気にした。

「要さまの機嫌が治ったみたいですね。こちらに向かってきます。では、私はこれで……」

ドアから出た彼は、丁度外で出くわしただろう要に一礼して行ってしまう。
代わりに要が部屋に入って来た。

椿の涙を見た要は、幾分気まずそうだった。

「送るよ。だから今日は帰ろう……」

⏰:08/09/03 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#376 [向日葵]
「で、でもお茶をせっかく運んで頂いたのに」

「帰ってきたら僕が飲むよ」

椿は少し落ち着きを取り戻す。
いつまでも泣いていたら要を困らすと思ったからだ。

黙って帰る準備をすすめる。

車を門前にまわしてくれた要は、その場で別れると思いきや一緒に乗ってきた。

どうしたのかと思ったが、彼は何も言わず、そして椿も何も言えず、車内は沈黙に包まれた。

しばらくして、椿の家が見えると要が言った。

「久しぶりに君の家にあがりたいんだけどいいかな?」

「あ、ハイ。どうぞ……」

⏰:08/09/03 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#377 [向日葵]
玄関ホールに入る前、ドア前で椿が一旦立ち止まる。

足が……動いてくれない……。

「どうかした?」

要の声にハッとして、苦笑いを返すと、手に力を入れてドアを握る。

高鳴る心臓は、嫌な予感を表すものか。

それとも……。

⏰:08/09/03 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#378 [向日葵]
[第9話]

玄関ホールに来て間もなく、メイドの佐々木がやってきた。

「おかえりなさいませ椿さま、そしていらっしゃいませ要さま」

「やぁ。久しぶり」

「お怪我の具合は大丈夫ですか?」

「だいぶ良くなったよ。そろそろ抜糸だ」

そんな他愛もない会話を聞きながら、椿は辺りに神経をとがらせた。
いつどこから、聖史が出てくるのかと……。

すると思い出したように佐々木が言った。

「椿さま、聖史さまを見かけませんでした?辺りを散歩してくると言って、帰られた姿を見ないのですが」

⏰:08/09/03 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#379 [向日葵]
それを聞いて椿は少しホッとした。
今ここにいないだけマシだ。
現れでもしたら、それこそ要と火花を撒き散らすかもしれない。
その心配もあった。

でも、いると言う事には変わりないのか……。

「か、要さま。夕飯を一緒に食べませんか……っ?」

要は少し驚いた顔をした。

聖史と会うまで、少しの間でも要といたい。
椿は純粋にそう思った。

「いいけど……じゃあどこか食べに行く?」

「いえ、ここで」

「分かった。じゃあ着替えておいで」

⏰:08/09/03 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#380 [向日葵]
安堵の笑みを浮かべ、椿は自室へと早歩きで行ってしまった。

「ねぇ」

要は近くにいる佐々木に問いかける。

「椿様子が変だけどいつから?昨日?」

「いえ、今朝からです。青い顔をして起床なさいましたから」

「うーん……。また風邪かなぁ……」

要が最早心配しているだなんて知らない椿は少し気分が明るくなり、いそいそと着替えをする。

脱いだ制服を綺麗にハンガーでかけ、出ていこうとした時、後ろから何かに引っ張られた。

⏰:08/09/03 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#381 [向日葵]
悲鳴をあげそうになった口を、何かに塞がれる。

「僕だよ椿」

耳元で囁かれれば、違う意味で椿はぞくりとした。

「聖史……さま……」

聖史は後ろから椿を抱き締め、椿の髪に頬擦りすると満足そうに微笑む。

「早く会いたかった。驚かせようと思ったんだ。あ、心配しなくても着替えは見てないからね」

「離して……下さい……」

椿がそう呟くと、椿を抱き締めていた片手がほどけ、その手の指先で頬に触れる。

⏰:08/09/03 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#382 [向日葵]
「どうして?いいじゃない少しくらい」

「今から、夕飯で……その、お客様も一緒で……っ」

「もしかして要くん?」

密かに苛立った声音。
椿は小刻みに震えだす。
まだ離されていないのに、その場から逃げ出そうとする。
当たり前に、聖史はそれを阻止し、椿を自分の方へ向ける。

「そうなんだね。……まったく椿、どうして僕の言う事を分かってくれないのかな……」

穏やかに笑ってるのに、その言葉は椿に恐怖をもたらすだけだった。
どうにか逃げようとまた試みた時、聖史の唇が椿の唇に重なる。

⏰:08/09/03 02:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#383 [向日葵]
椿は目を見開く。

聖史はしばらく重ねていると、椿を解放した。

「要くんがいるなら、僕も挨拶しないとね」

にっこり笑ってそう言う。

椿はショックで聞いているのかいないのか分からない。
しかし聖史が先に出て行くと、唇が痛くなるまで手で擦った。

・・・・・・・・・・・・・・・

パタンと音がしたので要はその方を見る。
が、要はあからさまに嫌そうな顔をした。

「こんばんわ要くん。久しぶりだね」

「久しぶりだろうが何だろうが、君に会うつもりは更々無かったよ」

⏰:08/09/03 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#384 [向日葵]
不機嫌を露にした要を涼しい顔で流すと、聖史は続けた。

「今から夕飯らしいね。僕も一緒にいいかな?」

「やだ」

「椿の許可がおりていても?」

それには要はグッと押し黙る。

彼女はもう聖史の事を兄のようにしか見ていないのかもしれない。
それに実はもう椿は聖史に答えを告げたのかもしれないと思えば、要は少し胸を張れる気分になった。

本当の事は、何も知らないまま……。

「……なら、いいよ」

聖史はにやりと笑う。
すると静かにまたドアを閉める音が聞こえた。

⏰:08/09/03 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#385 [向日葵]
どこか元気のなさそうな椿が姿を現した。

「椿、聖史さんとやらも一緒に夕飯食べるんだってね」

「え……っ!」

椿はとても驚く。
それを要は怪訝に思った。

自分から許可しておいて、何故そんな反応を見せるのかと。
しかし然程気にはしなかった。

それよりも……。

「椿、なんだか唇が赤くない?」

これには更に椿は動揺した。
口を押さえ、うつむいてしまう。

⏰:08/09/03 02:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#386 [向日葵]
「あ、荒れて……いまして……」

「そうなの?この時期リップクリームはかかせないよ?」

そんな会話をしているそばで、聖史が密かにニヤリと笑っている事を、2人は知らなかった。

食事の間へ行った3人は、それぞれ席に座る。
しばらくすれば料理が運ばれてきて、ナイフとフォークを持つ。

椿は食べる気が起きなかった。
あまり動く事のない椿の手を見て、やはりおかしいと要が声をかける。

「……椿、どうした?」

椿はびくりとすると、ナイフを落としてしまった。

⏰:08/09/03 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#387 [向日葵]
ナイフは床を滑っていくと、聖史の足元へと行ってしまった。

慌てて椅子からおり、身を屈める。

「僕が取ってあげよう」

聖史がそれにならう。

「いえ、いいんで……」

「僕のキスがそんなに嫌だった?」

耳元で聖史が囁く。
椿は青い顔をして素早く立ち上がった。
と思うと、部屋を出ていってしまった。

「椿、どうしたんだ?」

テーブルで四角になっていた為見えなかった要は、椿が落としたナイフを静かにテーブルに置く聖史に問う。

⏰:08/09/03 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#388 [向日葵]
聖史は静かに微笑む。

「さぁ、ただ聞いただけなのにね……」

要は首を傾げる。

「僕のキスがそんなに嫌だった?ってね……」

要は目を見開くと、テーブルを叩くようにして立ち上がった。
聖史はやはり静かに微笑むだけだ。

「お前……っ!」

「前のは刺激が強すぎたからと思って、今日は優しくしたつもりなんだけどなぁ……」

自分の唇をなぞりながら、聖史は楽しそうに呟く。
その聖史を殴りつけるよりも、要は椿の元へ急いだ。

⏰:08/09/03 03:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#389 [向日葵]
>>387

誤]四角
正]死角

⏰:08/09/03 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#390 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・

椿は庭の阿舎(アズマヤ)にいた。
柱に寄りかかるようにしてしゃがみ込んでいる。

膝を抱え、その膝に顔を埋めるようにして、荒くなる息を沈めようと頑張っていた。

椿は限界だった。
足枷をつけられて自由を奪われているような気持ちでいた。

好きでもない人と何度も唇を重ね、好きな人には傷つける態度で接するしか出来ない自分にも苛立っていた。

いっその事……消えてしまいたい……。

どう頑張ったって自分は母のようになれないのだと思ってしまえばそれも許せない事実だった。

⏰:08/09/04 02:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#391 [向日葵]
誰の傷を癒す事も出来ない。
傷つけてしまうだけの自分。
足を引っ張ってしまうだけの自分。

こんな役立たずな自分なんて、要に好きでいてもらう資格はない……。

顔をあげて、袖でもう1度口を拭く。

赤くなろうが、痛くなろうがどうでもいい。

ただあの瞬間の出来事、感触。
全てを無かった事にしてしまいたい……っ。

椿はひたすら口を拭く。
しかしその手は止められた。
手首を掴む手に、椿はビクリと肩を震わして小さく「ひ……っ」と悲鳴を漏らす。

⏰:08/09/04 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#392 [向日葵]
「僕だよ椿」

要の声だった。
もう暗くなってしまった庭園には、彼の姿はあまり見えないけれど、柔らかな声音は彼のものだった。

それでも、椿の震えは治まらない。

「ご……めなさ……。ただ、寒い……だけです……」

寒さなんて感じない。
いや、感じれない。
椿の頭の中は、もう破裂寸前だった。
そんな椿の前に、要は片膝をつく。

彼女の姿は、彼女が要の姿を見えないように見えないが、何かに怯えているのだけは、掴んでいる華奢な手首から伝わってきた。

⏰:08/09/04 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#393 [向日葵]
「ちゃんと呼吸出来てる?なんか息が荒いよ?」

「大丈……夫……です……」

「落ち着いて。大丈夫、僕はここにいるから。椿、落ち着くんだ」

促されるように、椿は落ち着こうとする。
何回も深呼吸して、荒い息を穏やかにしようとする。
要は手首から手を移動させ、椿の指先を包むようにして握る。

指先は、驚く程冷たくなっていた。

椿が段々落ち着いてきたらしい。
耳だけで聞く彼女の息遣いがゆっくりになった。

手を握っていない方の手で、そっと彼女の肩に触れれば、また大きくビクリと震えた。

⏰:08/09/04 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#394 [向日葵]
彼女が何に怯えているのかは要には分からない。

だがとりあえず、聖史から聞いた事を話す。

「あの人から聞いたよ。椿……君、あの人とキスしたんだってね」

椿は息を吸って止まる。
夢の中の要が目の奥に映し出される。
我慢出来なくて、椿は声を押し殺して涙を流す。

「椿……」

「違うんです……っ、私、すご、く嫌で、逃げたくても逃げれなくて……っ」

望んだんじゃない。
好きな訳でもない。

⏰:08/09/04 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#395 [向日葵]
いやらしい女だなんて思わないで。
嫌いにならないで。

「私はしたくてしたんじゃないんですっ!私はそんな事したくなかったっ!そんな……要さまを裏切るような事……っ」

椿は声を荒げて要に訴える。
それに要は驚いた。
椿の本気の否定。
どんな言葉を受けても、笑顔で堪え、全て受け入れていたあの椿が、自分の過ちを全て否定した。

思いをどうにか聞き入れて欲しくて、声をあげてしまった椿はもう声を押し殺して泣く事が出来なくなった。

嗚咽を漏らし、鼻をすする。

そんな椿の両手を、優しく、しかし強く、要は握りしめ、自分の胸元に持っていく。

⏰:08/09/04 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#396 [向日葵]
「椿、大丈夫だよ……。僕は君を責めたりしない」

椿がこちらを見つめるのが分かる。
多分そこにあるだろうと微かな光に見える椿の目をまっすぐ見つめ、要は続ける。

「僕はちゃんと分かってるから。君がそういう子じゃないって知ってるから。……だから、幻滅なんてしない。嫌いになんか、ならないよ」

要は握っている椿の手に力が入るのを感じた。
椿は目をギュッと瞑ってうつむいた。

「信じれない?それじゃ言うよ。僕は君が好きだ」

椿の手が、ピクリと固まる。
彼女は少し身じろぎする。

⏰:08/09/04 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#397 [向日葵]
「椿が好きだよ。信じてくれないなら信じてくれるまで何度でも言う。好きだから、嫌いになんかならないから。ずっと、そばにいるから……」

椿の中に棲んでいた悪夢の塊が、次々に流れ去っていく。

嘘なんて感じない彼の言葉に、椿は自分から要の胸に飛び込む。

急にやって来た重みに、一瞬ぐらついたが、すぐにその細い体を自分の腕で包む。

椿は腕だけで、彼が自分を好きなのが分かった気がした。
だから椿も伝えたかった。

だから思いきりその胸にしがみついた。





どれくらい時間が経っただろう。

⏰:08/09/04 02:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#398 [向日葵]
寒さをようやく感じる余裕の出来た椿の肩には、要の上着がかかっている。

2人は座りながら天高く昇っていく三日月を見上げていた。
手は、強く握られたまま……。

「そうだ。君の友達を今から呼ぶ事は出来ないかな?」

唐突に要が言った。
要は椿にかけている上着の内ポケットから携帯を取り出し時間を確認する。

「8時……、かぁ。別に来れない時間でもないし」

「どうして呼ぶのですか?」

「君を僕の代わりに守ってもらう為」

⏰:08/09/04 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#399 [向日葵]
「え……」と呟く椿の頬に、要は触れる。
すると椿は小さくびくりとしてしまって、申し訳なさそうにうつむく。

「まだ恐い?」

「……すいません」

「いいよ。それだけ君が嫌がってたって事さ」

要は自分の携帯を椿に差し出す。

椿はそれを黙って受け取る。

「今からあの人に勝利を告げにいく。1人で僕のそばにいるのは心細いだろうから、友達に君のそばにいてもらう。その方がきっといいよ」

⏰:08/09/04 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#400 [向日葵]
「電話しろと、言う事でしょうか」

「正解」

椿は携帯を開き、美嘉の家の電話番号を押す。
押してから携帯を耳に当てて呼び出し音を聞きながら、なんとなく要の方を見た。

要は椿の視線に気づくと、柔らかく微笑む。
月明かりに照らされた彼の顔はいつもより素敵に見えた。
だから椿はドキドキ高鳴る胸を抑えねばならなかった。

しばらくして、美嘉が電話に出る。
訳を話せば「すぐ行く!」となんだか張り切っていた。

「自転車でとばして10分ぐらいで着いてみせると意気込んでました」

⏰:08/09/04 03:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#401 [向日葵]
「面白いよね君の友達」

要はクスクス笑いながら立ち上がり、椿を立たせた。

「椿が僕を選んでくれて良かった。自惚れてないと信じていいんだよね?」

椿は決意をかためたように神妙に頷く。
だから要も微笑む。
握っている手をしっかりと握り直す。

「良かった」

握っている手を持ち上げ、 淑女にするようなキスをする。

要の唇を感じれば、椿は息が出来なくなりそうだった。

「リハビリ。徐々に慣れていこうね」

⏰:08/09/04 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#402 [向日葵]
椿を気遣うその目に椿はうっとりとしていた。

母のようになれない。
誰かを傷つけるしかない自分。

そんな自分でも、要は好きだと言ってくれる事が嬉しい。
震えてしまうのは要のせいじゃない。
正直まだ恐い部分はある。

それでも、要が触れていけばいく程、その恐怖心が消えていくような気がした。

キキーッと派手な音が乾いた空気に響く。
どうやら美嘉が到着したらしい。

「行っておいで。玄関前で待っててあげるから」

⏰:08/09/04 03:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#403 [向日葵]
要に背中を押されて促されるようにして椿は足を進める。
その途中で何度も要の方を振り返る。
彼はいつになく穏やかに微笑んで椿を見つめている。

門までくれば、自転車に跨がった美嘉がいた。

「やっほー椿っ!」

椿は何も言わず美嘉に抱きついた。

「え?椿、どうしたよっ」

椿はただ抱きつきたかった。
よく考えれば、今からあんな事をされたとはいえ、聖史の求婚を断り、傷つけてしまうのだ。

けれどこのむずむすとする幸せをどうする事も出来ず、美嘉にだきつく事で鎮めようとする。

⏰:08/09/05 02:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#404 [向日葵]
「美嘉ちゃん。私……要さまが大好きみたいです……」

しばらくぼんやりとしていた美嘉は、椿を抱き締め返す。

「ノロケならまた後で聞いてあげる。そりゃ耳がタコになっちゃうくらいにねっ。でも椿、良かったね……」

もしかすると美嘉は父よりも椿が幸せになる事を望んでいたのかもしれないと思えば、激励の言葉に胸が切なくなる。

「はい……」

「ま、とりあえず行こう。大好きな要さまが待ってんでしょ」

美嘉はニカッと笑うと自転車を隅に止めて椿と手を繋いで歩き出す。
玄関前には言った通り要が待っていた。

そして要を見れば、浮わついた心を封印して、椿は覚悟を決める。

⏰:08/09/05 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#405 [向日葵]
要が開けるドアは、運命の扉のような重いものに感じた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「話って何か」

応接間にいた聖史は自分のノート型パソコンで仕事をしていた。

要が聖史のそばに進み出る。

「椿は僕を選んだ。君が用意した作戦は失敗だ。僕は椿をそう簡単に見放したりはしない」

聖史のキーボードを打つ手がピタリと止まる。
ため息をついて、していた眼鏡を外すと彼は立ち上がって要と向き合う。

「椿が言った事が全て正しいと?そんなの嘘かもしれないじゃないか」

余裕なのか、なんなのか、聖史は微笑む。
そう言われて要がどんな反応をするか椿は心配だった。

⏰:08/09/05 02:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#406 [向日葵]
「そんな訳ない」

きっぱりとした口調で要が言った。

「椿は嘘をつくような子じゃない。君はおかしい。好きな子を犠牲にしてまで自分のものにするなんて間違えてる」

聖史は歩いてドア近くまで歩く。
そして手を振り上げたと思うと、近くにあった花瓶を手で払い落とす。
耳障りな音が、応接間に響く。

美嘉はそんな聖史を初めて見るので、驚きを隠せないでいた。

「君には本当に腹が立つよ……」

品定めのように、割れた花瓶の破片を広いあげる。

⏰:08/09/05 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#407 [向日葵]
そしてまたこちらへ歩み寄る。

「君さえいなかったら……椿は僕のものなのに……っ!」

破片が握られた手を、要に降り下ろす。
それは要の胸めがけて真っ直ぐに下ろされていく。

椿が咄嗟に出ていく。
要の前に躍り出た細い椿の腕に、破片が突き刺さる。

「いやぁっ!椿っ!」

美嘉が叫ぶ。

椿の白い服が、段々と赤くなっていく。
絨毯の上に、聖史はポトリと破片を落とした。
要は痛さでよろめく椿を支える。

「全部……全部要くんのせいだ!!君のせいで椿が……っ!」

⏰:08/09/05 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#408 [向日葵]
素早く聖史のそばに進み出た美嘉が、力一杯聖史の横っ面をグーで殴る。

女の子と言えど、突然の攻撃に驚いた聖史は尻餅をついた。

「最低っ!見損なったよ聖史兄ちゃんっ!なんで全部人のせいにしてるの!?何よ要くんのせいって!」

要はグーで殴る女の子を初めて見たので呆気にとられていた。
とりあえず椿の傷の治療をと、メイドの佐々木を呼ぶ。

ただならぬ空気と、椿の負傷に驚いた彼女は、すぐに椿を連れて出て行った。

それを見送った要は、再び部屋の中を見る。

⏰:08/09/05 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#409 [向日葵]
「椿を手に入れる為なら何をしてもいいの?椿が嫌がっても、傷ついても、それでも自分のものに出来たら満足だって言うの!?バッカじゃない!?椿の幸せの事なんてひとっつも考えてないじゃないっ!!」

普通ここで自分が怒る筈なのにと、要は冷静に今の状況を分析していた。

聖史はうつむいたまま動かない。
それでも容赦なく美嘉は攻撃する。

「椿が幸せになれない相手なんて美嘉は絶対許さないっ!椿の事考えない相手なんてふさわしくないっ!聖史兄ちゃんはふさわしくないっ!」

聖史の手がピクリと動いたかと思うと、ギュッと絨毯を握る。

⏰:08/09/05 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#410 [向日葵]
>>405

誤]話って何か
正]話って何かな?

⏰:08/09/05 02:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#411 [向日葵]
「君達に僕の気持ちが分かる筈ない……。いつの間にか婚約して、その相手の要くんこそ椿の事を考えてなさそうだった。どんなに大事に椿を扱っても、常に彼女の心は別の方へ向いていた……」

聖史はギリッと歯噛みする。

「大事に扱っても無駄なら、力づくでと思ったんだ……。それなら手に入るんじゃないかって……」

聖史はふらりと立ち上がる。
ドアの方へ向かう彼の顔を見た要は、眉を寄せた。

彼が泣いていたからだ。

「僕はもう……帰るよ……」

パタンと虚しくドアが閉まる。

⏰:08/09/05 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#412 [向日葵]
椿を思うあまり、狂気の沙汰となった彼は、もしかしたら随分前から心がズタズタに壊れてしまっていたのかもしれない。

彼が壊した、この花瓶のように……。

「……で、君は何を泣いているんだ」

美嘉が肩を震わせて泣いていた。
要に言われて、袖で乱暴に顔を拭う。

「色んな思いが交差してぐちゃぐちゃになったらなんか出てきたのっ!」

「単純だね君は」

「素直って言ってよ!椿にゾッコンなアンタなんかに言われたくないわっ!」

⏰:08/09/05 02:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#413 [向日葵]
要は咳き込む。

ゾッコンて……。

「それにまだ、アンタの事は完璧に認めた訳じゃないんだからねっ!聖史兄ちゃんに言った言葉は自分も含まれていると思いなさいっ!」

そう言われて、椿を思えば、椿の様子が気になった。
自分を庇って負った怪我。
彼は責任を感じていた。
そんな彼に気づいた美嘉は言った。

「早く行きなさいよ。私はここの片付けをしておくから」

「……ありがとう……」

そう告げた直後、ドアをノックされた。

⏰:08/09/05 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#414 [向日葵]
入って来たのは見た事ないメイドだった。
一礼すると背筋を伸ばして話し出す。

「椿お嬢様の事なのですが、担当医が只今いらっしゃって治療中でございます」

「怪我の具合は?」

要が問う。

「あまり大きな傷ではありませんが、深く切れておりまして、縫わなきゃならないと言っております」

要は苦しそうにため息を吐いた。
自分の不注意で椿に怪我をさせてしまった。
しかも彼女は女の子だ。
たとえ見えない場所と言えど、傷跡が残らないといいが……。

⏰:08/09/06 02:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#415 [向日葵]
結局美嘉と何人かのメイド達とで一緒に部屋の片付けを済ませた要は、帰ると言う美嘉を見送る為、門前まで来た。

自転車に鍵を入れながら美嘉は言う。

「椿怪我してんだから変な事しないでよ」

「あのね、君は何を勘違いしてるか知らないけど僕はそこまで理性の無い人間ではないから」

「君じゃない」

美嘉は自転車に股がる。

「美嘉は美嘉って言うの」

きょとんとしていた要は、やがて美嘉が自分の事を少し認めてくれたのに気づく。

「僕は要」

⏰:08/09/06 02:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#416 [向日葵]
美嘉はニカッと笑うと自転車をこぎだし、後ろを振り向いて要に手を振る。

「じゃ、椿よろしく頼むよーっ!」

夜だと言う事を忘れて美嘉は元気に叫ぶ。
そして猛スピードで帰って行った。

そんな彼女の後ろ姿を楽しそうに微笑みながら要は見送る。

椿といい美嘉といい、相手の事を思いやれるいい子だと素直に思った。

――――――――…………

まるで要状態。

3針縫った傷は痛くはないが見ればフッと意識がとびそうになる。

⏰:08/09/06 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#417 [向日葵]
包帯を巻いてあまり動かさないようにと言われた椿は腕をあまり振らずに歩き、自分の部屋へ向かう。

そういうば美嘉や要は帰ってしまったのだろうか?
そして聖史は、どうなったのだろうか……。

椿は少々重い気分を抱えながら部屋のドアを開けた。

「おかえり」

椿のベッドに要が座っていた。

「要さま……」

「傷は?痛い?」

「痛み止めを飲みましたんで、今は大丈夫です……」

⏰:08/09/06 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#418 [向日葵]
「そう……」

椿は無意識に要の隣に座る。
それに気づいた要は微笑んで、椿の手を柔らかく包み込む。

椿はそれに気づくと要の方を向くが、すぐにうつむいてしまう。
そしてそのまだ慣れない甘い空気に堪えれず、要に訊く。

「聖史さまは……どうなさりましたか……?」

「君の友人……じゃなかった、美嘉が激怒して、こてんぱんにされた後に帰ってしまったよ」

「こてん……ぱん……」

椿はある事に気づく。

「要さま、美嘉ちゃんの名前……」

⏰:08/09/06 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#419 [向日葵]
「うん。読んでもいいって」

その意味が分かった椿は、嬉しそうに笑う。
その笑顔を眩しそうに、でも愛おしそうに要は見つめる。

「ねぇ椿、今度こそいい?」

「え?」

要はポケットから何かを取り出す。
それは数時間前に差し出された、椿がついた婚約指輪だった。

椿は少し戸惑いながらも、恥ずかしそうに小さくコクリと頷く。
要は箱から指輪を取り出して、椿の左手を取る。

細い指に、小さな銀色の椿が光る。
サイズがぴったりなのに驚く。
要はいつ知ったのだろう。

⏰:08/09/06 02:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#420 [向日葵]
それが不思議に思うから、要をじっと見る。

「ん?何?」

「私、サイズ言いましたでしょうか……?」

「佐々木さんに教えてもらったんだよ。君がいつも身につけている装飾品を作っている会社のリストを貰ってね」

それこそいつの間にしたのだろうと思う。
しかしそれよりも、指にはまった未来を約束する銀の輪の方に気がいってしまう。

「僕のは普通なんだ。でも指輪の裏には君と僕のイニシャルが掘ってある」

見せてくれた要は指輪を自分ではめてしまう。

⏰:08/09/06 02:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#421 [向日葵]
でもそれで良かった。

「はめて」と言われても、椿はきっと恥ずかしくて出来なかっただろう。

そして気づけば、また椿がどうしたらいいか分からない雰囲気になってしまった。

顔にかかる艶がある長く黒い髪の毛を、要はそっとよける。
うつむいていた椿の顔が少し現れる。
椿はこわごわと視線を上げる。
すると要は笑う。

「なに緊張してるのさ」

「い、いえ……」

徐々に要が近づくのを視界の隅で捕らえる。

⏰:08/09/06 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#422 [向日葵]
どうすればこの空気に溶け込む事が出来るのか分からず、体を硬直させる。
目をギュッとすれば、耳と感触しか頼りがない。

要の大きな掌が、耳元から頬を温かく包み込む。
体の力が、どうしてか少し安心したので少しずつ抜けていく。

「やっぱりまだ触れると恐い?」

心配そうな要の声に、目をゆっくり開けると、彼の方を見る。

心底心配する彼に、胸の中に温かさが広がっていく。

「え、えっと……。今はただ、恥ずかしいだけなんです……」

正直に告げれば、要はアハハと笑った。

⏰:08/09/06 03:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#423 [向日葵]
「本っ当可愛らしいな君は」

そんな事を言うから恥ずかしくなる。
そんなのを言うなら要だって……。

「素敵……」

「へ?」

うっとりしていた椿はしばらく固まって、やがて真っ赤になりながら口を抑えると要から離れる。

心の中で言うつもりだった言葉が表に出てしまった。
これは最高に恥ずかしい。

要も椿がそんな事を言うだなんて思わないから、椿の顔を包み込んだままのところで手が固まり、ぽけっとしていた。

⏰:08/09/06 03:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#424 [向日葵]
椿は顔を両手で隠して座ったままベッドに突っ伏す。

「ご、ごめんなさいっ……!言うつもりなんて全くなくって、でも言った事は本当でして、いえ、そうじゃなくって、えと……っ」

しどろもどろ。錯乱状態。
今の椿はそんな感じだ。

とりあえず椿が何度も忙しなく謝り続けていると、要は吹き出し、声を上げて笑い出した。

「面白すぎっ!」

立ち上がり、椿の前まで行くと、床に膝をついて椿の頭を撫でる。
「顔を上げなよ」

「む、無理です……っ」

⏰:08/09/06 03:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#425 [向日葵]
「椿……」

優しく名前を呼べば、椿はゆっくりと顔を要に向ける。顔は未だ隠しているが、指の隙間を微かに見えるぐらいに開いて見ている。

なめらかな黒い髪の毛から少し覗いている耳と頬は、これまでにないくらい真っ赤だ。

「真っ赤な顔でも上げてよ。椿の顔見たいからさ」

椿は身を起こして、ちょこんとベッドに座り直す。

「椿の顔、椿色だ」

楽しそうに要が笑うから、椿は両手で頬に手を添え熱を確かめながらも笑った。

要は椿と目線を合わせる。

⏰:08/09/07 02:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#426 [向日葵]
目が合えば、やっぱり照れくさくて2人して笑ってしまう。

そこで初めて、要は椿が自分に対して心からの笑顔を向けてくれたと嬉しくなった。

そして必ず幸せにしてみせると、心に誓う。

⏰:08/09/07 03:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#427 [向日葵]
[第10話]

新幹線に乗った椿、美嘉、要の3人は少し前に起こった出来事を何回も思い出しながらぼんやりとしていた。

「すごかったなぁ……アレ」

美嘉が呟く。
それに椿がこくこくと頷く。

「あんな事、ドラマしかやらないと思ってた」

椿はまたこくこくと頷く。

―――――――――…………

それは4日程前から話は遡る。

[別荘へ行かないか?]

いつものように椿宅へ来た要は、抜糸してだいぶ治った手で椿と手を繋ぎ、庭を散歩していた。

⏰:08/09/07 03:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#428 [向日葵]
椿の腕は、抜糸までもう暫くはかかるが、だいぶ良くなっている。

[別荘ですか?]

[と言っても君の別荘だけどね。僕のはほとんど外国にあるし、前に社長にいつでも使ってくれと言われてたのを思い出したんだ]

椿も両手で足りる程しか行った事はない。
行ってみたいと単純に思うが……。

2人きりだろうか……。

[美嘉でも誘ったらどうかな?この前の1件では、色々と世話になったし]

この前の1件とは、聖史の事だ。
風のたよりに聞けば、彼はドイツの方へ行ったらしい。

⏰:08/09/07 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#429 [向日葵]
もう会う事はないのだろうか……。
それでも今は、距離を置きたいから、ホッとしているのは確かだ。

[で、行く?]

[ハイ、美嘉ちゃんも一緒なら行きます]

[“なら”って何?……椿、僕が君を襲うとでも思ってるの?]

[えぇっ……!?]

要と2人きりは気まずい。
だがそれは恋人同士の空気に慣れてない椿がただ困るだけで、こんな態度では要が気分を害してしまうのではないかと心配していたからだ。

しかし美嘉が来てくれるのならばその空気は幾分か無くなり、自分もいつもみたいに振る舞えるだろうと考えていただけだ。

⏰:08/09/07 03:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#430 [向日葵]
[私はそんないやらしい考えは……っ]

[いやらしいって、まるで僕がそうみたいじゃないかっ!]

些細なケンカは嫌いだ。
だから椿は余計に混乱する。

[そんな事思った事はないです……っ!要さまは素敵な紳士だと思い……]

ここまで言って、自分が恥ずかしい事を言っている事に気づいた椿は顔を背けて顔を赤らめる。

それには要もなんとなく黙ってしまい、恥ずかしい居心地の悪さを2人して感じる羽目になった。

[……とにかく……]

しばらくして、要が咳払いを軽くすると口を開いた。

⏰:08/09/07 03:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#431 [向日葵]
[行くならば、しっかり用意をしておいてくれ]

そうして美嘉に言えば、2つ返事で行くと言った。
美嘉は越も連れて行こうと言う。

それには椿も賛成だった。

近頃の彼女は、前よりもぼんやりし何より悲しそうだった。
どうやら原因は彼女の大切な人である柴にあるらしかった。

心配した椿と美嘉は、誘ってみると、越も行くと行った。

ここから今日の話になる。

駅についてコンビニでお菓子でも買おうと言っていると、例の彼が越を迎えに来てあっという間に連れ去ってしまったのだ。

⏰:08/09/07 03:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#432 [向日葵]
3人は驚きのあまりそこでしばらく立ち尽くす。
やがて動けるようになっても夢ごごちのようにフワフワしていた。

――――――――…………

「しかし彼女に彼氏がいたんだね」

買った水を飲みながら要が言う。
椿は首を傾げる。

「まだ恋人って訳ではないらしいのです。大切な人とは思ってるらしいですが……」

「まるでアンタ達みたいね」

ポテトチップスの袋をパーティー開けしながら美嘉が言う。

⏰:08/09/07 03:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#433 [向日葵]
「失礼な。僕たちは恋人だし、恋人同士以上に婚約者だ」

要は椿の肩を引き寄せ、前に贈ったお互いの指にはまった指輪を見せる。

「椿、迷惑なら今のうちに断りな」

「まだ言うか君は」

でも椿は美嘉のその言葉が、前と違って本気ではなく、茶化しているだけだと思えば嬉しくて密かに笑う。

窓の外を見れば、過ぎ行く景色が心を躍らせた。
いい天気だし別荘の周りは自然に溢れている。

きっといい思い出になるだろう。

⏰:08/09/07 03:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#434 [向日葵]
―――――――――…………

ついた別荘は2階建ての大きな建物だった。

中は木目調で、自然の暖かさがある造りになっている。

「ねえねえ椿、湖に行こうよ!キラキラ綺麗だよ!」

少し離れた所にあるのだ。

「行っておいで。僕は少し寝るよ」

と要は2階へ続く階段へ行く。
どうやら休みを貰う為、切り詰めて仕事をし疲れているらしかった。

「何かありましたら、電話してくださいね」

手を振りながら要は2階へと姿を消して行った。

⏰:08/09/07 03:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#435 [向日葵]
椿は美嘉と共に湖の近くまで歩いて行く。
周りに紅葉ももうすぐ終わる木が沢山あり、枯れ葉の茶色ささえ、なんだか愛おしく思える。

「椿、昔よくやったよね、これ」

一輪の花を、美嘉がブチリと雑に引っこ抜く。

「花占いですね」

「ちょっとやってみない?」

「でも何について占うんです?」

「私がやりたいのはまた違う花占いなの」

そう言って美嘉は花びらを1枚1枚今度は丁寧に取る。

⏰:08/09/14 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#436 [向日葵]
花びらが無くなった花はポイッと可哀想なくらい簡単に捨てられる。

「この頃読んだ漫画であったの。その名も子宝占い」

「子宝占い?」

「まぁ見ててよ」

美嘉は花びら全部を片方の手に乗せ握る。
そして手の甲を上へ向けて指をゆっくりと開く。
何枚か、草びれた花びらが草の上へ落ちていく。

掌をまた上へ向ければ、花びらが2枚ついていた。

「これが、美嘉が将来産む子供の数。2枚だから、美嘉は2人っ」

⏰:08/09/14 02:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#437 [向日葵]
「へぇー……」

美嘉はまたその辺から花を引っこ抜いて椿に差し出す。

「はい椿も」

「あ、はい……」

美嘉と同じようにして、椿は掌を開く。
花びらがまた落ち、掌を見て、椿と美嘉は驚く。

「あ、あれ……?」

美嘉は少しうろたえる。

椿の掌には、花びらは1枚もついていなかったのだ。

椿は掌を見たまま固まる。

「だ、大丈夫!たかが漫画に書いてたネタだし、本当に当たる訳じゃないよっ!」

⏰:08/09/14 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#438 [向日葵]
椿は「そうですね」と弱々しく微笑む。

“たかが漫画に書いてた占い”

そう思っていても、自分の弱い体を考えれば、その占いが実は当たっているのではないかと椿は不安だった。

子供は出来ない?
それとも、椿が会えなくなる……?

しかし、美嘉も悪気があったのではないし、楽しませようとさせてくれだと分かるから、気にしないようにする。

せっかく久々の、平和な日常なのだから……。

―――――――――…………

⏰:08/09/14 02:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#439 [向日葵]
しばらく散歩をした椿と美嘉は、そろそろ帰ろうかと別荘へ帰ってきた。

美嘉はお茶でもしようとお湯を沸かす。
椿は「ならば」と要を起こしに2階へと向かう。

要の部屋前へ来て、寝ているとはいえノックもせずに入るのは失礼だと思い、静かにノックをする。

「要さま……?失礼します……」

そろりとドアを開ければ、爽やかな風が入る。
入って直ぐのベッドには要はいない。

少し歩けば、窓の近くにある椅子に、片足をあげてそれに頬杖するように要が寝ていた。

⏰:08/09/14 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#440 [向日葵]
開け放した窓から入る風が、要の髪と膝に置いている読みかけの本をペラペラとめくる。

ギシギシ軋む床のせいで、要が起きないようにゆっくり近づいた椿は、要を覗き込む。

じっと見つめれば見つめる程、吸い込まれるように椿の顔が近づく。
その時、僅かに笑うように息が漏れる音が聞こえた。

「……そんなに近くで見なくてもいいよ」

「え……?」

目をパチリと開けた要と目が合う。
潤んだ彼の瞳に自分が映っているとぼんやりと思った椿を、笑みを含んだ要の目が見つめ返す。

⏰:08/09/14 02:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#441 [向日葵]
「君はときどき大胆だね。首に君の髪が当たってこそばいんだけど?」

まだなんだかぼんやりしている椿は目線を下にする。
ボタンを何個か外し、ネクタイを緩めたそのカッターから綺麗な鎖骨と首筋が見える。

それが目に入れば、椿は今自分がどれ程近くにいるかが分かり、飛びのく。

「あっ!ご、ごめんなさ……っ!私っ……」

動揺しすぎて足がからまる。
椿は思いきり床に倒れた。

「ちょ、大丈夫?」

要は椿を抱き起こす。
腕にある怪我を気にしながら優しく。

⏰:08/09/14 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#442 [向日葵]
「あの、私、お茶するので起こしに来ただけなんですっ」

顔を真っ赤にして言うものだから、要は笑う。

「分かってるよ。椿がそんな邪な気持ち持ってない事くらい。……ん?なんか手に草がついてるけど?」

要は椿の草がついてる手を持ち上げ、指でつまみ上げる。
ほんの小さな草が掌についていた。

「あぁ……多分美嘉ちゃんと子宝占いをした時」

「子宝占い?」

椿の言葉を遮り、要が声をあげる。

⏰:08/09/14 02:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#443 [向日葵]
椿はハッと気づいて両手で口を隠す。

「ちがっ、違うんですっ!えと、美嘉ちゃんが、あの……っ!」

こんな密着した状態の時にこんな話は恥ずかしすぎる。
そう思った椿は急いで離れようとする。
すると要が椿の耳元に唇を近づけ、触れるか触れないかの位置で囁く。

「椿……少し気が早いんじゃない……?」

椿の顔は更に赤くなる。
もう涙目だ。

「違うんです……っ!だから……っ!」

「ねぇ何の音ー?」

⏰:08/09/14 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#444 [向日葵]
ノックも無しに美嘉が入ってくる。

咄嗟に離れる事が出来なかった2人はそのまま美嘉の方を見る。
美嘉も2人を見る。

しばらくそのまま固まる。

しかし徐々に美嘉の顔は険しくなっていく。

それもその筈。
今の状態はどう見ても要が椿を襲おうとしているように見えるのだから。

椿は涙目で顔を真っ赤にして要を押し返そうと彼の胸辺りに手を当てているし、彼は彼で椿を抱え、顔を近づけている。
その顔が状況が状況なだけに色っぽくもいやらしく美嘉には見えるのものだから美嘉の顔に険しさが増す。

⏰:08/09/14 02:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#445 [向日葵]
「あ……んた……ねぇ……」

「美嘉、違う。いや、違わないんだけど違う」

要は椿をパッと離し手を突き出して否定をする。
が、そんなのが美嘉に通用する訳もなく、美嘉は目をこれでもかという程つり上げて要を睨む。

「この……万年発情男――――っ!!」

椿は咄嗟にサッと避ける。
美嘉は要に飛びかかり髪を引っ張る。
要が「痛い」と連呼し許しを請うが、「問答無用」と美嘉は要を痛めつける。

その隙に椿は部屋を出ていく。
廊下に出て、要と美嘉の喧騒を聞きながら肺が空になるまで息を吐いた。

⏰:08/09/14 02:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#446 [向日葵]
>>444

誤]見えるのものだから
正]見えるものだから

⏰:08/09/14 03:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#447 [向日葵]
ドキドキ高鳴る胸がうるさい。
早く静かになってくれと願う。

下におりれば、お茶の用意が大方済んでいた。
あとはお茶うけを用意するぐらいだろうと、食器棚に置いてある高そうな大皿を出して、持ってきていたクッキーやらを並べる。

紅茶が冷めてはいけないと、ティーコーゼをかけ、2人を待つ。

そういえば着いたら連絡して下さいと、佐々木に言われたのを思い出して、椿は携帯を鞄から出す。

電話に出た佐々木は「楽しんで下さいね」と優しく言うと、電話を切った。
椿も携帯を閉じる。

そして気づく。

⏰:08/09/17 00:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#448 [向日葵]
「どうしたんでしょう……」

2人が一向におりてこない。

もしや大喧嘩になっているのではないかと再び上へ向かう椿。

部屋の前まで来て、ノックしようとすると、中から声が聞こえてきた。

「そんなの自分で訊きなさいよ」

美嘉の声だ。
ノックしようとした手を引っ込めて、思わず立ち聞きしてしまう。

「訊いたら気づいてしまう。僕は気づかれないようにしたい」

「それでも本人が1番と思うのがいいじゃない」

「そういうのは人の気持ちがまず1番だろ」

⏰:08/09/17 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#449 [向日葵]
何の話なのだろう……。

立ち聞きしては失礼だと今気づき、椿はまたノックしようとする。

「椿には絶対バレないようにしてくれよ。大事な事なんだから」

ドアに触れようとする寸前で椿の手は止まる。

バレてはいけない……?私に……?

すると呼び鈴が鳴った。

ビクリとした椿は、今来たかのようにノックをする。

「は、入ります」

ドアを開ければ、要と美嘉はそこにいた。

⏰:08/09/17 00:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#450 [向日葵]
今の話を聞いてしまったせいか、「何?」と訊ねる美嘉の声の調子や、椿を見て口元に笑みをたたえる要が、なんだか白々しく見えてしまう。

そんな自分が嫌だから、椿は笑顔で2人に話かける。

「お茶、冷めてしまいますから……。早く下へ行きましょう」

「あ、そうだった!」

美嘉は慌てて下へと向かう。
その美嘉を、要が呼び止める。

「美嘉」

「心配しなくても分かってんよ」

美嘉は下へと走っていった。

⏰:08/09/17 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#451 [向日葵]
「……どうか、されたんですか?」

もしかしたら聞けるかもしれない。

期待をこめて、椿は訊いてみる。
しかし要は笑みを浮かべる。

「ちょっとね」

ただそれだけ。
言うと要は下へと向かう。

1人残された椿は、自分には話してくれない要に悲しくなり、肩を落とす。

「美嘉ちゃんには……おっしゃってたのに……」

そう呟いてから、また呼び鈴が鳴った。

⏰:08/09/17 00:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#452 [向日葵]
ハッとした椿は小さく首を横に振って、気を取り直す。

下へ向かい、玄関へと向かう。

「ハイ……。あ……っ!」

「こんにちわ。椿さま」

そこにいたのは、要の従者である大久保だった。
いつもの優しげな笑みを浮かべ、椿に深々お辞儀をする。

「どうなさったんですか?」

「要さまに忘れ物を届けに参りました」

「そうですか……。あ、どうぞ中へ」

「失礼します」と言った大久保は中へと入っていく。

⏰:08/09/17 00:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#453 [向日葵]
「大久保さん、忘れ物とは……?」

「お仕事用の携帯電話と、あとは……ちょっとしたアドバイスを」

意味深に微笑む。
友のように接する事を許されてる彼は、要にとって本当に良き理解者なのだろう。

椿はハッと思い出す。

「大久保さん、この間はありがとうございました」

「この間……?……あぁ、いえ。解決なさいましたか?」

椿は少し顔を赤らめて柔らかく微笑むと、小さく頷いた。
大久保もにっこり笑う。

⏰:08/09/17 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#454 [向日葵]
そして思い出したようにクスクス笑い出す。

「だからですね……」

「え?」

「解決なさったのは、椿さまが悩んでいらっしゃった夜ですよね?」

「その通りですが、それが……何か……?」

大久保はまたクスクス笑い出す。
椿はそのそばで首を傾ける。

「すいません。要さまがあまりに分かりやすい態度だったもので」

「要さま?」

「帰って来た要さまは、それは穏やかな表情をしておりまして、椿さまの事をお訊きしましたら、嬉しそうに微笑んでご婚約の事をお話して下さいました」

⏰:08/09/17 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#455 [向日葵]
「あ……」

椿はまた赤くなりうつむく。
椿の手にある指輪の小さな輝きに目を細めながら、大久保は言う。

「要さまを、お願い致しします。椿さま」

その言葉に、責任感を感じた椿は神妙に頷く。

「何をお願いなんだ?」

要が姿を見せる。
大久保は楽しそうに笑う。

「内緒です。僕と椿さまの。ね?」

同意を求められ、慌てて頷く椿に、要は眉を寄せて不機嫌になる。

⏰:08/09/17 01:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#456 [向日葵]
ツカツカ歩いていくと、椿の腕を引っ張り、自分の腕で包む。

その姿に大久保はまた笑う。

「誰も取りはしませんよ要さま」

「取りはしなくてもお気に入りするだろう」

「大事な婚約者さまをそんな玩具扱いされてはなりませんよ」

一方的に要だけが火花を散らす。
しばらくそうして、3人はリビングへと向かった。

お茶を4人で飲んだ後、ふぅと満足のため息をついた美嘉は椿に言った。

「今度は2人で散歩に行ってきたら?後片付けは美嘉がやっとくからさ」

⏰:08/09/19 02:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#457 [向日葵]
「でも……」

「そうか、椿、行こう」

立ち上がった要は椿の腕を楽しそうに引く。
立ち上がるしかない椿は手を繋がれて要に導かれるままに進んでいく。

「あ、あの、要さま……っ、美嘉ちゃんに片付けを押し付けるのはっ」

「本人がいいって言ってるんだ。今は婚約者との時間を楽しみたい」

笑顔でそう言われてはもう何も言えない。

繋いでる手から胸の内へとキュウッとした苦しさが起こる。

⏰:08/09/19 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#458 [向日葵]
美嘉と行った湖とは逆の、林の中へと進んで行った。
歩を進める度、葉がパキパキと割れる。

上を見上げればぽっかり空いた木と木の間から青空が見える。

「いい所だよね、ここ。僕は気に入ったよ」

「私も好きです。一番四季を感じれる場所ですから……」

「そう……。ところで、さっき大久保と何を話してたの?」

椿は瞬きを繰り返す。
要が真っ直ぐに見つめてくる。

要をよろしくと言われ、自分は迷いも何もなく頷いた。
今思えば、躊躇いもなくそうした自分が気恥ずかしかった。

⏰:08/09/19 02:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#459 [向日葵]
椿は唇を少し噛んで赤くなりながらうつむく。
そんな椿に痺れを切らした要は繋いでる手をぐいっと引っ張って顔を近づける。

「言えないの?僕に隠し事するんだ?君は」

明らかに苛立っている。
もしかして散歩に出たのはこうして問い詰める為だったのだろうか?
大久保や美嘉が止めないから要は問い詰め放題だ。

しかし椿は表情にこそ出さなかったがムッとした。

要だって人の事は言えない。

「か……要さまこそ……教えて下さいません……」

ギリギリ聞こえるくらいの小さな声で椿は反抗する。

⏰:08/09/19 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#460 [向日葵]
その言葉に要は怪訝な表情をする。

「僕は何も隠しちゃいないよ」

「……み、美嘉ちゃんと何か話してたじゃないですか……」

「あぁ……。あれ?…………。いいじゃないか。君には関係ない」

関係ない。
そう突き放されて、椿の胸の鋭い痛みが走る。

しかしおかしいと椿は思う。
椿が関係ないのなら何故椿は聞いちゃいけない?

やっぱり隠しているではないか。
そう思うから、更に反発心はつのるばかり。

⏰:08/09/19 02:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#461 [向日葵]
「なら……私と大久保さんの話も、要さまには関係がありません……」

要は眉間に寄せていたシワを更に深くし、目元を険しくさせる。

「なんだそれ……。僕は将来君の夫になるんだ!妻の事を全て知る権利があるっ!」

屁理屈にしか聞こえない。

これには椿もさすがに眉を寄せる。

「夫婦になるのでしたら、平等であるべきだと思います……っ」

「亭主関白と言う言葉が日本古来からあるのを知ってるだろ。それなら平等ではなく、妻は控えめであるべきだ」

⏰:08/09/19 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#462 [向日葵]
ますます気にいらなくて、椿は怒りながらも悲しそうな目をする。

「要さまは……なんで私と結婚するのですか……」

「え……?」

要は驚く。
椿は繋いでいる手をスルリと離すと、少しずつ後ずさる。

「要さまは私に我慢しなくていいといいました。なのに控えめでいろと……要さまがする事なす事何か気になっても我慢しろと、そういう妻になれとおっしゃるのですか……」

要は苦しげな目をすると、その目を瞑り、深呼吸をする。

「椿……僕はそういうつもりじゃない……。とりあえず冷静に……」

⏰:08/09/19 02:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#463 [向日葵]
「私はどうすればいいんですか……。我慢するなと言われたり我慢しろと言われたり……っ。要さまにとって私が何か、今は分かりません……」

その言葉に、要は表情を消す。
椿はハッとする。
言い過ぎだったと気づく。

「……分かった。勝手にしろ……」

要はそう言うと椿の横を通り過ぎて行った。
椿はどうしてか頭がくらくらする感覚に襲われる。

どうしてこうなるの……?
何を言ってるの私は……。

椿は自分を責める。
その場に座り込んで、長く、苦いため息を吐く。

⏰:08/09/19 02:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#464 [向日葵]
恥ずかしがってないで言えば良かった。
そうしたらこんな喧嘩にならずに済んだのに……。

椿は振り向く。
要の姿はもうない。
今帰るのは気まずいから、もう少し外にいようと椿は決める。

そういえばと思い出した事がある。
この道をもう少し進めば、確か公園がある。

そこで時間を潰せばいい。

椿は林を更に奥へ進んで行った。

――――――――…………

乱暴にドアが閉められる。

⏰:08/09/19 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#465 [向日葵]
それに気づいた大久保はリビングから出てくる。
そしてキョトンとした。

「随分お早いですね。それに椿さまは……」

「知らない。そこら辺歩いてるんじゃない?」

「そんな適当な……」

リビングのソファにドカリと座り、足を組んで目を瞑る。

苛立ちを早く抑えて、椿の元へ行ってやらないと。
じゃないと彼女はずっと自分を責めたままだ。
独占欲にかられるせいで彼女にひどい言葉を吐かさせてしまった。

[要さまにとって私が何か、分かりません……]

⏰:08/09/19 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#466 [向日葵]
>>456

誤]お気に入りするだろ
正]お気に入りにするだろ

⏰:08/09/19 02:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#467 [向日葵]
>>460

誤]椿の胸の
正]椿の胸に

⏰:08/09/19 02:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#468 [向日葵]
「要さま、あまり自分中心な物言いをしてはなりませんよ。椿さまが戸惑ってしまわれます」

「……っなら!椿と秘密なんて作るなっ!」

大久保は困った顔をすると、ため息をついた。

「喧嘩の原因はそれなのですね」

「…………」

「とは言え、私にも責任はあるようですので、要さまにその秘密をお教えします」

大久保は椿と話していた事を洗いざらい話す。
椿の返事を聞いた要は愛おしさでいっぱいになったが、同時に首を傾げた。

⏰:08/09/21 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#469 [向日葵]
「それを何故隠すんだ?」

「私が内緒と言ったのでそれを守って下さったのでは?」

それにしては様子がおかしかったような……。

考えていると外が騒がしいのに気づく。
見れば雨が降り始めていた。
空は暗い灰色になり、雨足は段々と強さが増す。

要は血の気がザッと引くのが分かった。
椿がまだ帰ってこないからだ。

要は立ち上がる。
大久保も立ち上がるが、要に制された。

「大久保は美嘉とここにいて。椿が帰ってきても僕を探しに来ないよう引き止めて」

⏰:08/09/21 01:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#470 [向日葵]
「かしこまりました」

「あれ要?椿はどこ?」

ひょいとリビングに顔を出しに来た美嘉が要に訊く。
余計な心配をかけたくないし、今は全てを説明してる暇がない。

「湖を少し眺めたいから1人にしてくれって言われたんだ。急いで迎えに行ってくる」

「えぇっ!?大丈夫なの椿……っ!」

まったくだ。

要は玄関へと駆ける。

―――――――――…………

ぽつりと鼻先に何かが当たったので、雨か?と疑問に感じる前に雨足が増してきた。

⏰:08/09/21 02:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#471 [向日葵]
公園についてブランコに乗っていた椿はそのまま頭を冷やすかのように雨を全身に受ける。

早く帰りたい。

そう思うのに足が進んでくれないのはどうしてだろう……。

⏰:08/09/21 02:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#472 [向日葵]
ひとまずアンカーします

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:08/09/21 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#473 [向日葵]
[第11話]

椿はずっと思っていた。

実は不安だと言う事。

こんな自分を求めて、好きだとまで言ってくれた要。

が、しかし、自分はそんな彼に見合う人かが分からない。
自分は何も持っていない。
もっているとしたら、ただただ要が好きだと言う気持ちだけ。

それでも、触れられればどうしていいか分からず、彼が求める対応すら出来ない。

そんな何も出来ない自分が、彼に全てを預けてもいいのだろうか……。

いつかこんな自分を、彼はいらないと、捨ててしまわないだろうか……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さすがにこのままではいけないと思った椿は立ち上がり、元来た道を戻って行く。

⏰:08/09/21 02:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#474 [向日葵]
いや、戻って行ったつもりだったが、ここがどこなのかが分からない。

この場所の別荘は1番好きだが、来た事はあまりない。
前に来たのは5年程前だったか……。

他の別荘にだって行くし、椿の体、学校の事もあり、彼女は外へ出かける事が少ない。

この公園に来たのもほとんど手探り状態だったし、道しるべとしての印をつけるものも何も無かった。
なんとか帰れるだろうと思った自分が甘かった。
木だらけの林では、目印の物は、何1つとして無い。

それでも帰らねばと、椿は足を進める、

⏰:08/09/21 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#475 [向日葵]
>>474

誤]進める、
正]進める。

⏰:08/09/21 02:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#476 [向日葵]
携帯と思って開いて見るも圏外。
使い物にならない。

秋も終わりの冷たい雨は、椿の体温をどんどん奪っていく。

――――――――…………

「椿……」

さっきの場所へと戻って来た要は、その場に椿がいない事に落胆する。

だとすれば本当に湖に?
しかしここからでは湖は遠い。
なら林の中へ?

どちらにしろ動かなければならない事に変わりはない。

イチかバチかで、林の中へと進んで行く。

⏰:08/09/21 02:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#477 [向日葵]
林の中に道はない。
道なき道を進む足取りは迷いを含む。

椿はどちらへ向かっただろうか……。

ハッとして携帯を取り出す。
要のいる場所はちゃんと電波がある。
リダイヤルで椿の電話にかける。が、肝心の椿の方に電波がないらしく、アナウンスが流れる。

文明の利器はこういう時に役立つものじゃないのかと苛立つ。

雨足は霧雨から本格的な粒へと変わってくる。
さっきまで色づいて見えていた山は、灰色に見える。

地面から生えている草木に足を少しひっかけながらも要は進む。

⏰:08/09/27 02:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#478 [向日葵]
「椿ー!!」

叫んでみるも、エコーのように辺りに反響する自分の声と、雨の音しか聞こえない。
椿の返事らしきものは聞こえない。

遠くの方へ行ったのだろうか?
それともわざと返事をしない?

どちらにせよ、椿を見つけるのは難しいらしい。

――――――――…………

「ん……?」

振り向くが、自分が来た道しか目に入らない。
目をこらしても無駄に終わる。

椿は首を傾げる。

⏰:08/09/27 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#479 [向日葵]
今、要の声が聞こえた気がした。……空耳か。

しかしここはどこなのだろうと椿は意味もなく空を見上げる。
さっき要と来た時のようなホッとする青空は見えない。
広がるのは、濃い灰色だ。

視線を戻し、フゥとため息をつく。
ついた瞬間妙な機械音が鳴り響く。
周りが雨の音以外何もないからよく聞こえる。
驚いた椿はびくりとし、その音が自分のスカートのポケットから鳴っている事に気づいた。

「あ、電池が……」

鳴っていたのは携帯。
どうやら電池が切れたらしい。
これでは電波がたった時に連絡する術がない。

⏰:08/09/27 02:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#480 [向日葵]
急がなければと思いながら椿はブルッと震える。
寒いのだ。

両腕を抱くようにしてさする。
だが濡れてるので結局は同じだったりする。

キュッと唇を結び、また椿は歩き出す。

すると前方に何かが見えてきた。
濡れて邪魔な前髪を避けてよく見れば、美嘉ときた湖ではないか。

「で、出れた……っ」

湖のほとりまでやって来た椿は安堵感に包まれてその場にペタリと座り込む。

「良かったぁ……」

⏰:08/09/27 02:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#481 [向日葵]
雨に濡れる事なんて気にしない。
もう髪の毛から全身にかけてびしょ濡れなのだから。
ふと手に注目した椿は左手に光る指輪を見る。

婚約した証、将来を約束した証。

私はそれだけの価値がある?

気づけば指輪に軽く泥がついている。
指輪を外して、泥をはらう。

大事な大事な椿の形をした指輪。
そういえば、要は自分をギンリョウソウのようだと称していた。

あれはどういう意味なのだろう。

⏰:08/09/29 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#482 [向日葵]
ゴウッと風が吹く。
木々を揺らし、辺りを不気味な雰囲気にする。

恐くなりながら立ち上がった椿は、寒さを感じくしゃみをする。

その時だった。

「あぁ……っ!」

くしゃみをした時、手が滑って持っていた指輪を落としてしまった。
その後また強い風が吹く。
目を瞑り、それに耐えて辺りを見渡す。

…………指輪がない……。

椿は血の気が引くのを感じた。
不自然に息が荒くなり、膝をついて草をかきわける。

⏰:08/09/29 00:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#483 [向日葵]
しかしかきわけても、見えるは土のみ。
銀の輪は見当たらない。

椿は泣きそうになる。
もう1度落とした辺りを探す。

けれど指輪らしい感触も、姿形もない。

椿の焦りは更につのる。
ハッとして、目の前の湖を見る。

もしかして……落ちてしまった……?

そう考えるよりも、体が先に動いて、湖の中へと飛び込む。
冷たさを感じないくらいに冷たいが、今はそうも言ってられなかった。
何より今は指輪を見つけなければ。

⏰:08/09/29 01:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#484 [向日葵]
冷たさを感じないくらい冷たい。天気のせいで湖は波立っているし、見えたもんじゃない。

それでも手探りで探す。

もし見つからなかったら嫌われるかもしれない。
どうしてそんな大事な物を無くせるのかと。
今度こそ自分の前からいなくなってしまうのではないだろうか。

聖史がまだいた頃、何日も会ってくれなかった時の事を思い出す。
そしてやっと会えた日の事も思い出す。

どれだけ……嬉しかっただろうか……。

そう思えば、探す力が強まる。

⏰:08/09/29 01:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#485 [向日葵]
「もう少しあっちも……」

そう思い、足を進めた。

世界が急に、水の中になる。
突然の事に椿は驚き、体の空気を一気に吐き出してしまう。

深みにはまってしまったらしい。浅瀬とは違い足がつかない。
椿は焦って水面に手を伸ばす。
どうにか水面に出れても、服が重くて泳げない。

ゾクリとした。
自分はもしやこのまま……。
考えたくないから、なんとか浮き沈みしながらも息を吸い込む。
しかし限度がある。
酸素が足りない。

力も段々と出なくなってきた。

指輪も見つけれず、要にも謝れないままだ。

⏰:08/09/29 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#486 [向日葵]
全てを中途半端なままで、終わる。

要さま……。

「――――……きっ!」

水の中で目を開ける。

要さま?

そう思ってるうちに、自分の体に誰かの腕が巻きつくのが見え、そのままどこかに連れて行かれる。

しばらくすると、水面に顔が出た。
足りないと言わんばかりに息を吸い込み、急な酸素吸入は体に良くなかったらしく咳き込む。

「椿……っ」

そばにいるのは、要だった。
周りをゆっくり見れば、さっきまでいた浅瀬に戻っていた。

⏰:08/09/29 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#487 [向日葵]
「要さま……」

抱き締めたままの椿を、要は更にきつく抱き締めた。
力が出ないけれど、その腕に寄りかかり、安心する。

「良かった……早く見つけれて……」

苦しそうに言う要に、椿は心底申し訳ないと思った。
もしあのまま椿にもしもの事があったなら、1番苦しむのは要だっただろう。

「ってか、君は何をしてたんだ。危ないだろ、こんな天気にこんな場所で」

そこで椿はハッとして、要の腕から離れようとするが、要がそれを許さなかった。

⏰:08/09/29 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#488 [向日葵]
「なに、どうかした?」

椿の胸が不自然に高鳴る。
要に目を向ければ、真剣な顔で椿を見返してくる。
だから椿は言葉が出てこなかった。

嫌われるかもしれない。
そう思えば思うほど口も動かなくなってきて、小さくパクパクと動かす事しか出来ない。

「椿?」

要が名を呼ぶと、椿の目から涙が溢れる。

「本当に、どうしたの……?」

要は困り果て、椿を抱き締めるしか出来ない。
椿は彼の胸に顔を埋め、覚悟を決めて口を開く。

⏰:08/10/05 00:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#489 [向日葵]
「指輪……」

「指輪?」

「指輪……落とし……」

それを聞いて、要は椿をゆっくりと離してから手をじっと見る。
確かに、今朝まで椿の左手にあった銀色のものが無くなっている。
要は手を無表情で見つめる。
その顔が、怒りだと受け取った椿は、草の上に両手をつき、頭を下げる。

「ごめんなさいっ……!無くすつもりなんてなくって……、もしかしたら湖の中に落としてしまったかもって思ってさっき……っ。ごめんなさいっ!あんな大切なもの、無くしてしまって……ごめんなさい……っ」

⏰:08/10/05 00:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#490 [向日葵]
要は長いこと黙っていた。
その間、雨と風と、椿は椿自身の鼓動が聞こえた。
そして微かに、要のため息が聞こえた。

「それだけ、なんだね……」

「ごめんなさい」

「本当に腹が立つよ」

一際大きく、椿の胸が高鳴る。
草の上についてる手が震え出す。

「ごめ……なさ……」

謝罪の言葉を口にしようとすると、腕を引かれて要の方へ乗り出す形になった。
要を見れば、目に怒りがこもっていた。

⏰:08/10/05 00:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#491 [向日葵]
「僕がなんで怒ってるか分かる?」

「指輪を……無くしたから……」

「違う。君が僕をまだちゃんと理解してないからだ」

椿は分からなくて首を少し傾げる。
すると要の表情がほんの少し和らいだ。
彼の手が、冷えてしまった椿の頬を包む。

「僕が大事なのは指輪でもなんでもない。君なんだ。なのに君は、命を落としてしまったかもしれない事をしたんだ」

椿は目を見開く。

「こんな事、二度としないでくれ。僕はさっき、本当に心臓が止まってしまうほど焦ったんだからね」

⏰:08/10/05 00:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#492 [向日葵]
椿は再びポロポロと涙を流す。

要は頬を緩め、親指で彼女の涙を拭ってやる。

「要さま……私でいいんですか……?」

「え?」

「私は……母のようにもなれず、要さまからもらった指輪を無くしてしまうような者です。ですが要さまは、私に沢山いろんなものを下さいます。しかし私は要さまに何1つ返せるものがありません。そんな私で……本当にいいのですか……っ?」

要は最初驚いたように椿を見ていたが、やがて穏やかに微笑むと、椿の髪をかき上げるようにして髪の奥まで指を滑らせ、そのまま引き寄せる。

⏰:08/10/05 00:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#493 [向日葵]
「椿がそばに、ずっと笑ってそばにいて、僕を好きでいてくれるだけで充分だよ。他に必要なものなんて、何もないんだ……」

それだけ。ただそれだけでいい。
それを聞いて、椿は涙を更に流す。
要の胸元のシャツを握り締めて、しがみつくようにして泣いた。
要はそんな彼女を愛おしそうに抱き締め、なだめるように頭を撫でる。

それなら何もない私にも出来ると椿は思った。
そう思った瞬間、自分がどうしようもなく要が好きだとまた自覚したら、あまい感情が涙となって溢れてきた。

「そろそろ別荘に帰ろう。風邪をひいてしまうよ」

⏰:08/10/05 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#494 [向日葵]
「あ、はい……、いた……っ」

どうしたのかと要が椿を見れば、治りかけていた傷が開いたのか、椿の服の腕の部分にうっすらと血が滲んでいた。

それを見て、要は下唇を噛む。

自分のせいだ……。

椿をふわりと抱き上げ、出来るだけ急ぎ足で別荘へと向かった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ちょっと何事!?」

2人の姿を見るなり、美嘉は驚いた。
しかし事情を聞くよりも2人に拭くものと着替えをと、美嘉と大久保は戸惑いながらタオルを持ってきた。

⏰:08/10/07 00:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#495 [向日葵]
「私、お風呂用意してくるね」

「では私は暖炉を準備して参ります」

椿の別荘には薪で暖める古い暖炉があった。
その準備が整う間、しっかりと水気を取る。

手を使うのを少し難しそうにしている椿を見かねた要は代わりに椿の体を拭いてやる。

「椿、大丈夫?」

「あ、あの、自分で出来ます」

「たまには甘えていいんだよ。お風呂が出来たら君が先に入るといい。あがったら僕が腕の治療をしてあげるから」

こくりと頷いた椿は、ハッとして自分の手を見つめる。

⏰:08/10/07 00:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#496 [向日葵]
無くしてしまった。
要は怒らなかったし、嫌いにもならなかった。
むしろ椿が1番大切だとまで言ってくれた。

だけど椿は、初めて好きになった人からの贈り物で、やっと気持ちを重ねた時に貰ったものだから、大切に大切にしておきたかった。

要はああ言ってくれたけれど、椿の心は、あと少し晴れなかった。

その様子に気づいた要は、頭を拭いてやってるついでに椿の目線をグイッと自分の方へ向かせた。

「気にしなくてもいい。気持ちを込めて、また指輪を君に送るから。今は自分の体を心配してくれ」

⏰:08/10/07 00:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#497 [向日葵]
ふわりと椿の瞼にキスを落とす。

椿は恥ずかしそうに口をキュッと結ぶと、素直にゆっくりと頷いた。

「要さま、椿さま、どうぞお部屋へ」

椿を先に部屋に通した大久保は、要を振り返る。

「下手に隠し事をなさいますと、こういう事が起こってしまうと反省いたしましたか?」

大久保の目は真剣だった。
彼は要の友人のような存在。
それは要が決めた事だ。

だから大久保は、さっきまで何が起きていたかを大体予想し、要の心配をすると共に叱っている。

⏰:08/10/07 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#498 [向日葵]
もう少し、椿を大切にするようにと。

「……あぁ。もうこりごりだ……」

それを聞いて、大久保はにこりと笑い、要も部屋へと通した。

――――――――…………

その晩、やはりというか、椿が熱を出してしまった。
つきっきりで看病したいと、美嘉に部屋を交代してもらい、要は椿が寝ているベッドの近くに椅子を持ってきて座った。

顔がほのかに紅潮している。
さっき熱を計れば39度近かった。
暑くはないだろうか。

「…………さ……い」

⏰:08/10/07 00:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#499 [向日葵]
潤み、うつろに開いた目で椿は要を見つめる。

聞き取りにくいし、椿もしゃべるのがキツイだろうと要は少し椿の方へと乗り出す。

「ん?何?」

「ごめん……な……さい。せっかくの、旅行なのに……こんな……」

「椿のせいじゃないよ。大丈夫だから。言ったでしょ?今は自分の体を心配してって」

優しく髪を撫でれば、心地よいのか椿の目はとろんとする。
疲れてるだろうから眠たいのかもしれない。
要は椿の手を怪我に響かないように慎重に握る。

⏰:08/10/07 00:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#500 [向日葵]
「僕はずっとここにいるから、安心して眠るといいよ」

「で……も……」

もう少し乗り出して、椿の額にキスを落とす。

「いいから……」

安心させるように微笑めば、椿はゆっくりと目を瞑った。
しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきたので、要はそこでようやくホッとした。

この頃失態続きだな……。

椅子の背もたれにもたれながらため息をつく。

大久保に怒られてしまうのも無理はない。

⏰:08/10/07 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#501 [向日葵]
うなされないか注意深く椿を見た要は、するりと彼女の手を離し部屋を出ていく。

階段を降りた所で、お風呂上がりの美嘉に会った。

「あれ、看病は?」

「用事があるからちょっと外へ出かけてくるよ」

「ちょっと待って。椿なんか元気なさそうだった。……なんで?」

要は眉を寄せる。
言ってしまえば、自分に対する美嘉の信用がまた薄れる。
あんな目に合わせたから、もう2度と椿に近づくなと言われてもおかしくはないだろう。

しかし彼女は椿の友達。
知る権利はある。

⏰:08/10/13 00:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#502 [向日葵]
「僕の一方的な嫉妬で彼女を傷つけた。それに椿は秘密にしていた事も気づきだしてる。詰め寄られて焦って、気持ちが少しすれ違った……」

怒られる。
そう思いながらも美嘉の顔を見ていたが、彼女は表情1つ変えず話を聞いて頷いていた。
あまりに普通すぎて、要は何か裏でもあるのかと勘ぐってしまう。

「分かった。教えてくれてありがとう」

行こうとするから、思わず要は美嘉を呼び止める。

「ぼ、僕を、怒らないのか……?」

「は?怒られたいの?アンタマゾ?」

⏰:08/10/13 00:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#503 [向日葵]
「や、あの……えぇ……?」

美嘉は要をじっと見る。
まるでこちらが間違ってるいるように感じるから、要は困ったように頭をかく。

「椿を傷つけて、怒るかと……」

「あのね……美嘉は本来そんなに怒りっぽくないの。怒らせるのはアンタが椿にヒドイ事するから」

それ以外にも怒ってる気がした要だが、今は黙っておこうと口をキュッと結ぶ。

「椿と要は婚約を交わした、言わば夫婦みたいなものなの。相手に嫉妬して喧嘩するなんてきっと当たり前よ。それを美嘉がとやかく言っても仕方のない事じゃない」

⏰:08/10/13 00:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#504 [向日葵]
感想板が新しくなりました
よければいらして下さいヾ(≧∀≦)ノシ

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3992/

⏰:08/10/13 10:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#505 [向日葵]
それだけあっさりと言うと、美嘉はリビングへと消えていった。
美嘉のそんな気持ちに感謝し、要は外へと出た。

数時間前の雨もなんのその。
雲間からは三日月が冴えざえと辺りを照らし、雨が降ったあとの冷たい空気は気持ち良く感じる。
穏やかな風に身を任せていれば、揺れる草がしゃらしゃらと音を奏でているのが聞こえる。

そんな空気をしばらく楽しんだ要は歩き出す。

彼が向かうのは湖だ。
そこへ、椿が落としたと言う指輪を探しにいく。

あれじゃないと、彼女は納得しないように思った。
だから探し出す。
もしかしたら湖のほとりにでも落ちているかもしれないからだ。

⏰:08/10/15 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#506 [向日葵]
湖につけば、水面に映し出された月が綺麗でぼんやりと眺めたくなるが、それが目的ではないと、持っていた携帯のライトで足元を探してみる。

こんな風に、光をあてれば光って見つかりそうなのだが……。

「やっぱり無いか……?」

呟いた次の瞬間、少し強めの風が吹いた。
寒さとその強さに目を瞑った要は、再び目を開けた時驚く。

数メートル離れた所に、誰かがいる。
青白い肌、闇にも似た黒く長い髪。
口元には微笑みをたたえている。それは、要がよく知る人物だ。

「椿……?」

⏰:08/10/15 01:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#507 [向日葵]
呟きは再び吹いた風にかき消される。
ゆっくりと立ち上がった彼は、彼女をじっと見つめる。

「何をやっているんだ君は!熱があるのに、ちゃんと寝てなきゃ……っ」

最後まで言う前に言葉を切る。
それは月が雲から完全に出て、彼女を鮮やかに照らしたからだ。
改めて彼女を見た要はまた驚く。

椿……じゃない……。

とてもよく似ている。
髪や顔、その肌の白さまで。
しかし、椿はもっとおっとりした空気をまとっている。
今、彼の目線の先にいる人物は、どちらかと言えば凛としていた。

じゃあ彼女は一体誰なんだ?

⏰:08/10/15 01:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#508 [向日葵]
眉を寄せ、彼女をじっと見ていると、彼女はゆっくりと指を要の方へ差す。
自分を差された要はうろたえるが、彼女は一層微笑みを浮かべると、口を開く。

「あっちよ……」

あっち?
更に要はいぶかしむ。
すると、背後が急に光った気がした。
急いで振り返るも、さっき感じた光はもう無かった。
が、ある1点がほのかに光っている気がする。

月のせい?

そう思いながらも近づく。
そこには、銀色の小さな輪があった。
それこそが、椿に贈った婚約指輪だった。

「……!あった……っ」

⏰:08/10/15 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#509 [向日葵]
軽くついてる泥を丁寧に払い、大切にポケットにしまう。
そして振り返る。

まだ、彼女はいた。

さっきよりは近づいている。
普通の音量で話してもなんとか届くくらいの距離。
相変わらず彼女は微笑んでいる。

2人の間を、柔らかく冷たい風がすり抜ける。

この人を、自分は知っている。
さっきは驚いていたせいもあって思い出せなかったが、よくよく考えれば、1度、写真で見た事があった。

吹き終わると、要は口を開いた。

「椿の……お母様ですね……」

⏰:08/10/15 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#510 [向日葵]
彼女はにこりと笑ってから頷いた。

(初めまして、要さん)

椿の母はもういない。
そこにいるのは魂。
つまりは幽霊。
それなのに動揺する事もなく話しているのは、怖く感じないからだろう。
だから要は普通に会話する。

「こちらこそ、初めまして。改めまして、葵 要と申します」

(椿がとてもお世話になっています。今も……)

椿の母は別荘がある方へ目をやる。

(あんな、臆病な子になってしまったのは、私のせいです。私がもっと、体が丈夫でしたら、あんな心配や重荷を背負わずのびのびと生きれたでしょうに……)

⏰:08/10/15 01:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#511 [向日葵]
「あなたのせいでは……。それに椿は、あなたの事を本当に尊敬しています」

(要さんは優しいのね……。あの子が好きになる筈だわ……)

要は少し照れてから、まっすぐ彼女を見つめる。

どうしても、確かめたい事があったのだ。

「僕が、椿と結婚する事を許して頂けますか?」

椿は自分は要と結婚してもいいのかと問うてきた。
要は構わなかった。
椿がそばにいてくれるのならと。
ならば自分は?

最初は不純な動機で交わした約束。
そのまま気持ちを重ねて婚約したが、自分こそ、椿と結婚してもいいのかと思い始めた。

⏰:08/10/15 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#512 [向日葵]
あまりに、自分は勝手すぎたかもしれなかった。

椿の母は、微笑んでいるが真剣な顔つきになる。
そしてゆっくり口を開く。

(駄目よ)

要はズキンと胸を痛める。
しかしここで引き下がる訳にはいかない。
どう考えても自分は椿とは離れたくないからだ。

「認めて頂けないなら……認めて頂けるよう成長します」

その答えを聞いた彼女は微笑みを深くして要に近づいてくる。
近づけば更に彼女の姿が分かった。

幽霊の筈なのに、触れられそうだ。

⏰:08/10/16 21:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#513 [向日葵]
(冗談よ)

彼女は片目を瞑ってみせる。
要は何が何だか分からなくて間抜けな顔になってしまった。
そんな彼の表情を面白そうに笑ってから椿の母は更にもう1歩要に近づく。

(椿が求めている相手を私が否定する訳ないじゃないですか。……いいえ、椿には要が必要です。だからそばにいてあげて下さい)

微笑んでいても、母が椿を思う気持ちはひしひしと伝わってくる。
要は神妙に頷き、頭を深々と下げる。

「大切にします」

少し間をおき、楽しそうに「フフ」と笑う声が聞こえた。
要が頭を上げた時には、そこには椿の母の姿はなく、彼ただ1人になっていた。

⏰:08/10/16 21:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#514 [向日葵]
――――――――…………

別荘に帰れば、リビングに美嘉と大久保がテレビを見ていた。

それを一目見てから要は階段を上がる。
ゆっくりと椿の部屋に入れば、ベッドの上で椿は体を起こしていた。

「椿っ」

「あ……要さま……」

「まだ寝てなきゃ駄目だろ」

肩を掴んで寝かせようとする要の手に自分の手を重ねて椿は拒否する。

「あの、それが……熱は下がったみたいで……」

⏰:08/10/16 21:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#515 [向日葵]
強がりを言ってるのかと疑った要は椿の額に手を当てる。
本当に熱が下がっている。
その理由はさっき会った椿の母のおかげなのでは?と思ってしまう。

そう思えばさっきは貴重な体験をしたなと思った。

「椿、君のお母様は綺麗だね……」

ベッドに腰かけた要は呟くように言った。
椿は少し首を傾げるも、不思議そうな顔はしなかった。

「さっき、会ったんだ……」

そこで椿は驚いた顔をする。

「わ、私も……っ」

⏰:08/10/16 21:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#516 [向日葵]
「え?」

「夢かどうかわからなかったんですが、ひんやりした母の手が私のおでこに触れたら熱がひいていったのです」

すると椿の目から、涙が溢れはじめる。
ポロポロと落ちる涙を気にする事なく、椿は柔らかく微笑む。
その顔が、彼女の母にそっくりだと愛おしいそうに要は目を細める。

「お母様……」

要は椿の肩を抱き寄せる。

「僕も、お会い出来て嬉しかった。僕達を認めて下さるとおっしゃってくれたよ」

「そうですか……」

⏰:08/10/16 22:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#517 [向日葵]
要に身を任せる椿に愛おしさが増す。
気がつけば、彼の手は椿の濡れた頬に触れていた。
導かれるように椿は顔を上げる。

静まりかえって聞こえる音は、どちらの鼓動だろう。

そんな事をぼんやり考えながら、ゆっくりと顔を近づけ、唇を寄せる。
柔らかく触れれば、椿は少し体を硬直させるも抵抗はしなかった。

離れて間近で見る彼女の顔はみるみる赤くなっていく。
そんな椿に、つい自分までもが赤くなった要は、顔を隠す為に椿をギュッと抱き締めた。

彼女の髪から香る匂いが、またドキドキさせる。

⏰:08/10/24 00:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#518 [向日葵]
「……もう怖くなくなった?」

「え……」

「あの人の1件があったからさ……」

聖史の事だ。
椿には辛い記憶。
嫌がる彼女の唇を2度も無理矢理に奪い、要自身も椿に酷い事をした。

そう思えば、照れ隠しに自分から言ったものの、歯をぐっとくいしばる。

「恐くは……ないです。でも……恥ずかしいです……。だから……」

椿は離れると要の少し苦しそうな顔を見てフワリと笑う。

⏰:08/10/24 00:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#519 [向日葵]
「そんな顔しないで下さい。私分かった事があるのです。恥ずかしいのは、きっと、要さまへの気持ちを触れられる度再確認して、くすぐったくなるからですわ」

まっすぐに見つめて、優しげな目が凛とするから、要はハッとして、そして微笑む。

母親と、同じ顔をする。

「ならね、もう1度、くすぐったい思いしてくれるかな……?」

両手で椿の頬を包んだ要は、また彼女の唇に触れる。

自分も、椿への気持ちを再確認するように……。

⏰:08/10/24 00:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#520 [向日葵]
[第12話]

今日は見事な晴天だと思いながら、美嘉はバルコニーへ出て背伸びをする。

寒い空気は寝起きの体には丁度良い。
体の中からリフレッシュするようだ。

「おはようございます」

背伸びの格好のまま後ろを振り返れば、もう完璧に着替えた要の従者がいた。

名前はなんだったか……。

目元のほくろが少しいやらしいなと思うが、本人はとてもいい人なのであまり気にしない。

「おはようございまっす。いい天気っすねぇ!」

⏰:08/10/24 00:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#521 [向日葵]
従者はニコニコして頷く。

「お体を冷やしますから、そろそろ入ってはいかがですか?」

美嘉は一瞬キョトンとするとアハハハと笑い出した。
すると今度は従者の方がキョトンとした。

「美嘉を気遣うなんて無駄ですよ。美嘉この17年間風邪引いた数なんて片手で足りちゃうんですから」

それにそうやって気遣うのは椿や越、家族の他にはいた事がない。自分がボーイッシュな性格と外見をもちあわせているのは理解してるし、女扱いされたいだなんて願望さえ持った事はなかった。

だから従者の一言はとても珍しいものだった。

⏰:08/10/24 00:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#522 [向日葵]
「でも朝ごはんの用意しなくちゃですし、中に入りますよっ」

軽い足どりで中に入れば、外よりかは幾分暖かい。
しかし寒いのは嫌いではないので後で散歩にでも出掛けようかと考える。

するて肩に暖かさが宿る。
フワリとした感触は毛糸で編まれた美嘉のカーディガンだった。
さっき外へ出るまではおっていたが、朝早くの空気を楽しみたくてソファーにかけておいたのだ。

それを従者がかぶせてくれた。

「私もお手伝いさせて頂きます」

にこりと笑うその顔は、大人の男性を感じさせるものだった。

⏰:08/10/24 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#523 [向日葵]
―――――――――…………

「クリスマスを一緒に過ごせない?」

起きてしばらくしてから要が椿に話をした。
どうやら彼が隠したかったのはこの事らしかった。

恋人(婚約者)となって初めて過ごすクリスマスなのに、要は仕事で年始まで海外へまた行かなければならなかった。

その事実を知れば、椿が悲しんでしまうのではないかと思った要はもう少ししてから話すつもりだったらしい。

「それをどうして美嘉ちゃんにまで口止めなさってたのですか?」

美嘉が知る必要もないだろうに。

⏰:08/10/24 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#524 [向日葵]
*アンカー*

>>472

*感想板*

>>504

⏰:08/10/24 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#525 [向日葵]
>>522

誤]するて
正]すると

⏰:08/10/24 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#526 [向日葵]
「彼女にクリスマスはどうするのか言われて、ありのまま話したんだ。話し終わってからもし君の耳に届いたら駄目だと思ってね」

なるほど、と椿は相づちをうつ。
と同時に、そこまで自分を想ってくれる要が嬉しかった。

そろそろ自分も下へ降りて、朝食の準備をと、椿はドアに歩み寄る。
しかし、それは要によって遮られる。

「待って」

椿の前に立ち、ドアを背にして通せんぼする。
危うく要にぶつかりそうになった椿は慌てて距離をとる。
要を見上げれば、意地悪くニヤリと笑っている。

⏰:08/10/30 15:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#527 [向日葵]
少し不安になり、困ったように眉根を寄せる。

「僕の隠し事は話した。さて、君の隠し事は、一体何なのかな?」

あ、と椿は目を見開く。
指を組み合わせて落ち着きなく少し体を揺らす。

「そ、その、えと……昨日言ったような話だったんです」

「昨日?何を話したっけ?」

「えと、要さまが好きと再確認してしまうと、こそばゆくなるとか」

「あぁ、それが大久保とどう……?」

まったく結びつく気配がないので要は宙を見て考える。

⏰:08/10/30 15:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#528 [向日葵]
椿はその時の会話を話す。
やがて要は「あぁ」と言い、おかしそうに笑う。

「君の恥ずかしがる度合いが分からないよ」

椿が赤くなってうつむけば、要は彼女の腕を引き腕の中に閉じ込める。

「そんなだから、君を手放す事が出来ないんだろうけどね」

穏やかな口調に椿は胸が高鳴る。要を見上げれば、口調と同じくらい穏やかな笑みを向けていた。
自然に顔が近づいてくる……。

「ラブラブ中にごめんねーっと」

要がおさえていた筈のドアをいとも簡単に美嘉が開く。

⏰:08/10/30 16:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#529 [向日葵]
おさえていた要は弾かれ椿と共に転ぶ。
幸い椿は要が咄嗟に庇ったので体が痛くなる事は無かった。

「君はノックも出来ないのか……」

「ノックしただけじゃ無視しそうな雰囲気だったから。当たってるんじゃない?万年発情男くん」

にっこり笑う美嘉をムスリとしながら睨みつける。
彼女が言ってる事をあながち否定出来ないからだ。

美嘉は椿だけに手を貸して立たせてやる。

「ご飯出来たよ。降りてらっしゃいな」

―――――――――…………

運動部的な見た目や性格だから料理ももっとすごいものだと勝手な想像をしていた要や大久保は朝食を見て驚く。

⏰:08/10/30 16:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#530 [向日葵]
トーストにスクランブルエッグ、控えめにあるベーコン、ちぎったレタスのサラダには綺麗に三日月型に切ったトマトがそえられ、寒い体を温める野菜スープまでもがある。極めつけはフルーツが入ったゼリー。
これは昨日夜に作ったのだとか。

「僕、黒こげになった料理しか出てこないか、もっと雑なものが出てくると思った」

美嘉をじっと見ながら言う。
昨日の夕食は大久保が作ったもので、美嘉は手伝いしかしていなく、その実力を見る事は無かった。

「あのね、美嘉はこう見えて料理が好きなの。学校のお弁当だって毎日自分で作ってるんだから」

⏰:08/10/30 16:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#531 [向日葵]
この時、要や大久保が購買で勇ましくもパンを勝ち取る姿しかイメージ出来なかったのは言うまでもない。

要は飛び級なのでそんなシーンは滅多に見ないが、たまにどこかの学校の前を通り過ぎる時、パン屋らしい車の前で生徒が争うように血眼でパンを買っていたのを見た事がある。

なので美嘉にはそのイメージしかなかった。

「君にも女の子らしいとこがあったんだね」

「アンタ美嘉をなんだと思ってたの」

「野生児」

「野菜スープぶっかけられたい?」

⏰:08/10/30 16:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#532 [向日葵]
本当にぶっかけるつもりなのか、おたまと野菜スープが入った小さな鍋を持ってじりじり寄ってくるものだから、椿と大久保は慌てて止めなくてはならなかった。

そんな事がありながらも、4人で楽しく朝食を食べ、一息ついた。

―――――――――…………

1時間程すると、要と椿が散歩へ出ていった。
幸せそうな2人の背中を見送りながら美嘉はホッとする。

「美嘉さま」

振り返れば、要の従者が立っていた。

「美嘉さまも散歩はしなくてよろしいのですか?」

⏰:08/10/30 16:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#533 [向日葵]
「美嘉は掃除でもしてますよ」

「なら、それは私がいたします」

「あなたこそ、ちょっとは休めばどうですか?働き詰めはよくないと思いますけど」

「いえそんな。私はいいのです」

「じゃあ美嘉もいいです」

そんな言い合いをして数分。
ラチがあかないと美嘉は黙る。
同じ事を思ったのか、従者も黙った。

しばらくして、美嘉が両手をパンと合わせる。

「じゃあ2人で散歩しましょう」

「えぇっ!?」

⏰:08/10/30 16:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#534 [向日葵]
うろたえる大久保をよそに、美嘉はさっさと用意を始めていく。

「たまにはアイツの事なんか忘れて、のんびり過ごす事も大切だと思いますよ。ホラッ!」

美嘉は強引に大久保の手を引く。
大久保は抵抗する間もなく、外へと連れていかれてしまった。

――――――――…………

どこへ行くかなどは決めず、のんびりと林の中を歩く。
暖かく柔らかな日差しが心地よく感じる。
美嘉は落ち葉を踏み、パキパキと鳴るその感触を楽しんでいた。

「美嘉さまは、いつから椿さまとお友達で?」

⏰:08/11/16 01:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#535 [向日葵]
「ずーっと昔からです。たまたまいた近所の公園にいて、それから。あんな大きな家に住んでるのにわざわざ外へ出るなんて、変わってる子ですよね」

大久保は静かに微笑む。
大久保より数歩先を歩いていた美嘉は、片足を軸にくるりと回って大久保の方を向く。

「大久保さんは?いつからアイツのとこへ?」

「父が要さまのお父様の従者をしてまして、私も父に連れられて、要さまとは幼い頃から交流がありましたので」

「従者って言うよりは、親しげですよね、あなた」

「それは……大変光栄にございます」

⏰:08/11/16 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#536 [向日葵]
本当に嬉しそうに笑うものだから、美嘉もつられて笑顔になる。

そして再び歩き出す。

「そういえば、アイツの両親って……」

「お2人共、海外で暮らしてらっしゃいます。ご多忙な為、要さまとお会いするのは3年に1度ほどなのです」

「それは、小さい頃から?」

「はい」

じゃあ、要の自己中心的な所は、小さい頃つもりつもった両親に対する寂しさからくるものなのだろうか。
と美嘉は首を傾げる。
そして思う。

そういう人だから、椿の事を理解してくれたのかもしれない、と。

⏰:08/11/16 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#537 [向日葵]
しかし過度な愛情表現は如何なものか……。
それも仕方のないこと?

どちらにしても第三者である美嘉はなんとも言えなかった。
いや、椿が困っていたらそれなりに止める事も出来るが、最近の椿はまんざらでもない様子なので、美嘉も言うに言えなかったりする。

だから子供っぽくも、2人の邪魔をしてみたり。

「そういえば美嘉さま、ギンリョウソウと言うのをご存知ですか?」

「ギンリョウソウ?」

どこかで聞いた事があると思えば、まだ椿の婚約が決まりたての頃、椿から訊かれたものだった。

⏰:08/11/16 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#538 [向日葵]
分からないから一瞬で忘れた美嘉は特に気にした事もなかった。

「それが、何か?」

「要さまが、椿さまをそのように表現してらしたので」

「で、何かは分かりましたか?」

「植物である事は分かりました。……ただ」

大久保の表情が少しくもる。
美嘉はじっと彼の顔を見つめる。

「……あまり、いい印象を受けないものでして……」

美嘉は明らかに苛立った顔をした。

⏰:08/11/16 01:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#539 [向日葵]
どういう事だ。
仮にも要は婚約者だ。
その婚約者が、どうして椿をそんな風に称すのか。

「あ、でも、要さまにも何かお考えがあるのかも……。今のは聞かなかった事にして下さい」

椿は“ギンリョウソウ”を知っているのだろうか……。

「……椿は不幸にはなりませんか?それを、保証出来なければ、美嘉は納得しません」

大久保は一瞬驚いた顔をした後、いつもの彼らしく優しく笑う。

「主人だからという贔屓目を抜いたとしても、要さまは椿さまを大切になさって下さると思います」

大久保は美嘉に並ぶ。
美嘉はまだ不安げな顔で大久保を見ていた。

⏰:08/11/16 02:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#540 [向日葵]
「私は今まで、あんなに穏やかに笑う要さまを1人を除いては見た事がありません」

「1人?」

「ご兄妹であります唯子さまでございます」

美嘉は頷く。

「要さまは、いつも孤独に戦ってらしたように思います。ご存知かとは思いますが、要さまは有名ブランドのデザイナーであります。そして、要さまのお父上であります旦那さまも、デザイナーなのです」

美嘉はまた頷く。
大久保のいつもの柔らかな表情は消え、固く厳しいものになっていた。

⏰:08/11/16 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#541 [向日葵]
「有名ブランドを背負うデザイナーの息子……。それがどれだけ要さまの背中にのしかかった事でしょう……」

父の地位へ上り詰める事は容易くなく、評価が重なり、それはまた彼を押し潰してしまいそうだった。
そんな要を近くで見守り続けたのは、従者である大久保だった。

しかし、自分の無力さを、大久保は呪っていた。

見守るのは、いつも要の寂しげな後ろ姿だった。

「あの方に、何が出来るか考えました。考えた末に見つけた答えは、見守る事だけだったのです」

あぁ……自分は何も出来ないのかと、ただただ失望した。

⏰:08/11/16 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#542 [向日葵]
そんなある日、要は言った。

強い眼差しは今でも鮮明に覚えている。

[大久保、お前だけは僕と対等な関係でいろ。なんでも言い合える、友のような存在でいろ]

黙って見守り続けていた事は無駄ではなかったのだ。
ビジネスを続ける上で、自分に寄り添い、支えてくれた大久保は、要にとって唯一、心を許せる相手だったのだ。

「それからは、主従関係は抜けませんが、心の中では対等なお付き合いをさせて頂いてます」

そんな彼が、変わり始めた。

それは1人の少女との出会いだった。

⏰:08/11/16 02:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#543 [向日葵]
「びっくりしたのは大雨の日ですよ。急に野々垣邸へ車を飛ばせと言うのですから」

美嘉はそういえばと思い出す。
いつだったか、椿が要のお見舞いへ行くと言っていた。

もしやそれが何か関係あるのか?

「着いて早々、傘もささずに遠い玄関まで走っていくものですから、私も思わず唖然としてしまい、要さまを追いかける事も忘れてしまってました」

苦笑しながら話す彼の目元に柔らかさが戻りだす。

「しばらくして、戻ってきた要さまのお顔が変わっていました。どこか、決意をなさったお顔をされてましたので」

⏰:08/11/16 02:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#544 [向日葵]
そこでかっ!と美嘉はパチンとパズルがはまった感覚になった。

要がようやく椿になけなしの誠意を見せたのは!

少々失礼な事を思うが、彼女にとって今そんな事はどうでも良かった。

「でも、アイツなんで椿を好きになったんだろう」

そんな事つきとめても仕方ない事は分かる。
理由は分からないけれど何故か惹かれ合うものがあるのだろうと、ぼんやりだか理解しているからだ。

それでも、椿をビジネスの道具としてしか考えていなかった要が何故と疑問だった。

⏰:08/11/16 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#545 [向日葵]
自分が知らない内に二人は絆を深めていってた事に驚いた。

あの椿が、要に襲われかけた後、本心からの願いを言った時、美嘉は椿の気持ちに気づいてしまったし、その後要を訪ねれば、彼の気持ちにも気づいてしまった。

そして二人は相思相愛と悟った。

「美嘉は……嫌な奴かもしれない……」

ボソリと美嘉が呟くと同時に、風が吹き、木々が揺れる。

「美嘉さま……?」

「椿が幸せなら嬉しい。だってあんな子だもの、誰よりも幸せになってほしい……」

それなのに……。

⏰:08/11/26 23:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#546 [向日葵]
胸の中に、気持ち悪く残るこの感情は、何……。

いつも、椿の近くにいるのは自分だった。
それが、いつの間にか彼女の隣には、彼女をいとおしそうに見つめ、大切に思っている人が現れた。

いづれはそうなるだろうと思っていたし、要が前ほど嫌いだから拒絶している訳でもない。
あの二人が、楽しそうに笑ってくれていれば、ほっとするし、顔がほころぶ。

「寂しい……」

「美嘉さま……?」

それでいい筈なのに、どこかおいてきぼりされた気分なのはどうしてなんだろう……。

⏰:08/11/26 23:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#547 [向日葵]
「美嘉は、だめだめですね。友達の幸せ一杯な姿を見て、寂しく感じるだなんて……」

美嘉の顔が歪む。
嫌悪感でいっぱいになる。
そんな美嘉を、大久保は変わらない微笑みで見つめる。
近づいていき、美嘉の手をそっと取る。

温かい大久保の手に、少し安心した気分になる。

「寂しく感じるくらい、椿さまを大切になさっている美嘉さまは、とても素敵な方だと思います」

伏せていた目を、ゆっくりあげる。
自分は背が高いが、大久保は自分より更に高い。
目線を上にしなければならないのが、少し新鮮に感じる

⏰:08/11/26 23:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#548 [向日葵]
要ですら、美嘉より背が低い。
椿はもっと低い。
だから、自分より背が高い人から見下ろされ、こんな風に微笑まれれば、自分を守ってくれる気がすると、美嘉は思った。

「あと、要さまが椿さまを好きな理由ですが……」

我に返った美嘉は、どこかぼんやりした頭を必死に起こす。

さっきのふんわりした気分は一体なんなんだと思いながら、要の椿に対する気持ちを聞く方に興味がいってしまったので、疑問は彼方へ消えてしまう。

「椿さまを、どうしても放っておけない自分がいたらしいです。あまりに痛々しくいじらしい椿さまのお姿は、要さまの胸を締めつけ、頭では仕事の為だと思っていても、本当の心の声には負けてしまったみたいですね」

⏰:08/11/26 23:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#549 [向日葵]
美嘉にはそんな経験はない。

何せ幼い頃からボーイッシュな性格は自覚していたし、見た目も椿のような儚さや、女の子らしい柔らかさのようなものは持ち合わせていないと思っていた。

だから恋する事は諦めていた。

いくら偉そうに恋愛話をしたって、所詮は一般論である事は分かっていた。

自分もそんな風に、心の素直な声に抗えず、従ってしまう程の運命の相手に出会う事が出来るのだろうか。

と思いながら、ちらりと大久保を見る。

大久保は、美嘉を女の子扱いした。

⏰:08/11/26 23:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#550 [向日葵]
それが珍しい。
大抵は、そんな扱いしてもらえない。
だからか、不思議な気持ちになってしまう。

名前、なんだっけ……。
未だに思い出せない。
彼は自分を名前で呼んでくれるのに。

「あなたは、そんな相手がいた事がありますか?」

何気なく訊いてみる。
深い意味はない……つもりだと、美嘉は自分でもわからなくなっていた。

大久保は人差し指を唇にあてる。

「内緒です」

⏰:08/11/26 23:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#551 [向日葵]
優しい筈なのに、どこか意地悪な雰囲気を漂わすから思わずドキリとしてしまう。

そんな事を思っていると、ガサガサと木の葉を踏む音が聞こえた。

「あれ?美嘉と大久保じゃないか」

現れたのは、仲良く手を繋いで散歩していた要と椿だった。要はしばらく二人と少し下の場所を交互に見て、ニヤリと微笑む。

「もしかして、邪魔だった?」

なんの事か分からない当の二人は顔を見合わせてからまた要に目を向け、首を傾ける。
要の言った事が分かった椿は目を輝かせながら二人を見つめていた。

⏰:08/12/11 00:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#552 [向日葵]
分からない二人に、要はまた口を開く。

「さっきから、ずいぶん親しげに手を繋いでるじゃないか」

二人はノロノロと自分の手を見る。
美嘉の手は優しく大久保に包まれているし、大久保の手は大きな手で美嘉の手を柔らかく握っている。
さっき要が見ていたのは、二人の手らしかった。

二人同時にパッと手を引っ込める。

「すいませんっ。私とした事が……とんだご無礼を……」

「あ、あなたは何も悪くは……。美嘉が、弱音吐いたからであって……」

⏰:08/12/11 00:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#553 [向日葵]
ほのぼのと二人の間に温かい空気が流れる。
美嘉は顔が熱いのか、手を団扇がわりに軽く振っている。
そんな美嘉を見るのが初めてな椿は、静かに微笑む。

「皆様お揃いになりましたし、お茶にでもいたしましょうか」

大久保はいつも通りに戻っている。
要は大久保に何か話ながら椿たちの少し前を歩く。
その後ろからは椿と美嘉が並んで歩く。

「楽しかったですか?大久保さんとのお散歩は」

微笑みながら訊いてくる椿に口を尖らせてみせて美嘉は「あっ」と声を小さくてあげて気づく。

⏰:08/12/11 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#554 [向日葵]
×小さくて
○小さく

⏰:08/12/21 23:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#555 [向日葵]
「そっか、あの人大久保さんって言うのか」

「あれ?言ってませんでしたっけ?」

「いや、聞いてたけど忘れてた」

口の中で、何度も繰り返し、ふと前にいる今覚えたての従者を見る。
要と何やら話してはいるが、内容は聞こえない。

「あの人は、何でも受け止めてくれるから、容赦なく甘えちゃいそうで怖いね」

大久保を見つめながら呟く。
そんな美嘉に、椿は静かに微笑む。

「それでも、美嘉ちゃんが甘えたかったら、甘えるのもいいかと思いますよ」

⏰:08/12/21 23:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#556 [向日葵]
美嘉は椿をまた睨むように見る。
椿はそんな視線を送られるとは思ってなかったので目をパチパチさせて、きょとんとする。

「なによ……なによなによなによ!ちょっと経験積んだからって上から目線でぇーっ!」

「えっ!?いえ、あの、そんなつもりは……っ!」

別に今、自分の中にくすぶる気持ちをどうこうするとは美嘉は思っていない。
その気持ちも、まだはっきりとどういうものかは分からない。
ただ、弱音も何もかも包んで、女の子扱いをしてくれる大久保に、少しだけ近づいて、もう少しだけ彼について知りたい、そう思っただけだ。

⏰:08/12/21 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#557 [向日葵]
美嘉の気持ちが発展していくのは、まだ先の話のようだ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「美嘉が気に入ったの?」

少し前を歩く要と大久保は、後ろに歩く椿と美嘉の会話は聞こえないが、さっきから美嘉が騒いでいるのに気がつきながら話している。

要の質問に、大久保は少し首を傾げる。

「何故です?」

「仕事至上主義のお前が、のんびり手を繋いで散歩だなんて珍しいじゃないか」

「折角のお誘いを拒否する訳にはいかないと思ったからですよ」

⏰:08/12/22 00:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#558 [向日葵]
そう言いながらも、ふと握った彼女の手を思い出す。

握ってあげなければ、駄目だと何故か思った。
女の子だという自覚があまりない彼女は、ちゃんと女の子で、友人思いで。
だからこそ、自分を犠牲にする事すら惜しまない気がした。

潰れてしまう前に、助けなければと。

大久保もまた胸の中の気持ちが未だ理解出来ないでいる。

どうやらこの二人の話は、延長してしまうらしい。

⏰:08/12/22 00:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#559 [向日葵]
[第13話]

要がデザイナーが集まるという催し物に旅立ってから一週間が経つ。
連絡は時折とってるし、声が聞ければ嬉しいが、やっぱりそばにいなければ寂しさは埋めれないのだと椿はため息をつく日々をおくっている。

そんな中、珍しい人が訪ねに来た。

「こんにちわ、椿さま」

「唯子さま……!」

唯子は要の妹だ。
心臓を患っている彼女は、長い間海外にて治療を受け、今はほぼ回復しているので帰国している。

前と変わらぬ柔らかな笑顔は、要とはあまり似てないような気がする。

⏰:08/12/22 00:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#560 [向日葵]
「どうなさいましたか?」

「椿さまに会いたくなりまして、来てしまいました」

椿はとりあえず応接間に唯子を案内した。
今にも倒れてしまいそうな儚さを醸し出す彼女をひやひやしながら椿は見守る。
それは自分も同じだという事は、椿は分かっていない。

「お兄さまがいなくて、お寂しいでしょうけれど、元気をお出し下さいね……」

年下に励まされ、ありがたいような、少し恥ずかしいような気がした。

「大丈夫ですよ。要さまをお支えするのが、私の役目ですから」

⏰:08/12/22 00:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#561 [向日葵]
唯子は微笑んで、先程出された紅茶に口をつける。

本当は元気はあまりない。
仕事とは言え次に会うのは来年だ。
あと三週間ちかくある。
寂しくないと言えば嘘になる。
でもあまり元気がなくては、唯子のように心配されるから、出来るだけいつも通りいようと心がける。

「そういえば……クリスマスはどうなさるんですか?」

淡い茶色の目をこちらに向け、唯子が椿に訊ねる。

「まだ何も……。でも、友人と過ごすかもしれません」

「もしよろしければ、その後にでも、葵家のパーティーにいらっしゃいませんか?」

⏰:08/12/22 00:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#562 [向日葵]
キラキラした目で唯子は言う。

「なんでしたらお泊まりなさいません?私、椿さまとたくさん、たっくさんお話をしたいんですっ」

無邪気に笑う唯子に、椿は胸が温かくなる。
椿は一人っ子なので、兄弟はいない。
だからか、唯子が妹のように可愛く思える。
今も、まるで自分が姉になったような気持ちで唯子を見つめている。

「はい、喜んで……」

それからしばらく話していると、戸口に唯子の従者が現れた。
どうやら今から検診へ行くようだ。
回復したと言っても、まだ油断は出来ないらしい。

⏰:08/12/22 00:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#563 [向日葵]
唯子を見送りながら、椿は要を思った。

永遠に会えなくなる訳じゃない。年が明ければ会える。
いつまでも寂しがっていてはいけない。
何度も繰り返して、何度も落ち込む。

いつの間に、こんなに好きになっていたのだろう……。

――――――――…………

描きかけの山積み資料。
生地確認の為の書類。
アクセサリーの手配先が書いてある紙切れ。

その中に埋もれている要はもう何日も寝ていない。
寝不足と疲労で段々とストレスがたまってきた彼はさっきから人差し指で机を苛立たし気に叩いている。

「要さま、少し横になってはいかがですか?」

⏰:09/01/10 00:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#564 [向日葵]
心配そうな顔をして要の顔を覗き込む大久保は、机から少し離れているソファー近くのテーブルに紅茶を置く。

それをちらりと見ながら要はため息をつく。

「今寝たら明日まで目が覚めない気がする……」

「パーティー前に体調を崩しては事ですよ。2時間程経ちましたら私が起こしますから、休んでください」

要は机に突っ伏して頭をかき回す。

「……。紅茶は飽きた。緑茶をいれてくれ……」

どうやら休むつもりになったらしい。
大久保はホッとしたように微笑むと、一礼してから部屋を出て行った。

⏰:09/01/10 00:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#565 [向日葵]
要はガバリと起きた勢いのまま椅子の背もたれに深くもたれる。
深呼吸して目を閉じれば今までの疲れが一気に押し寄せてきたかのように体が重く感じる。

ゆっくり目を開けて、机に置いてある携帯を開く。

--受信メール-
<from 椿>

お声を聞きましたら、とてもお疲れのように感じました。
無理をなさってはいませんか?

栄養があるものをお食べになって、少しでも元気になって下さいね。

-end-

一昨日届いた、椿からのメール。

⏰:09/01/10 00:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#566 [向日葵]
携帯をパキンと閉じて、彼女を思い出す。

もう一週間も会ってない。
すぐ会えないだけあって、離れてしまえばこんなに恋しくなるのかと、要はまたため息をつく。
そろそろ椿欠乏症だ……。

少しでも力を入れたら折れそうな体を抱き締めたい。
照れながらも微笑んでくれる可愛らしい椿が見たい。
受話器越しじゃない彼女の声が聞きたい。

「会いたいって言ってくれれば、すっ飛んで行くのに……」

「思考まですっ飛んでいかないよう早く横になって下さいね」

緑茶を持ってきた大久保がにっこり笑って部屋に入ってきた。

⏰:09/01/10 00:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#567 [向日葵]
「お前も妻を持てば分かるよ。どれほど離れているのが歯がゆいか」

「はいはい。早く飲んで下さいませね。要さまが寝るまで私は見張っておきますから」

聞いちゃいないなと思いながら、要は緑茶をすする。
久々の日本の味は、香りだけでも安らげる。
そのせいか、瞼が自然に下がりそうになる。
全部飲んで、重たい足取りでベッドへ行き、ダイブする。

「ちゃんと布団をかぶって下さい」

丁寧に要の体にふかふかの布団をかぶせる。
要は「んー……」と言いながら枕に顔を埋める。

⏰:09/01/10 00:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#568 [向日葵]
「大久保……」

「何です?」

「椿に会いたい……」

大久保はクスリと笑う。

どうやら主人の疲れを取ってくれるのは、愛すべき椿だけらしい。

「あっという間に、会えますよ」

と言う頃には、要は寝息を立てて深い眠りについてしまった。

―――――――――…………

「どこもかしこもイルミネーションイルミネーション……イルミネーション!!」

⏰:09/01/10 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#569 [向日葵]
駅前で美嘉は騒いでいた。

クリスマスが近い今日この頃。
街はクリスマスの雰囲気を漂わせ、大きなツリーや色とりどりのライトが設置され綺麗に光っていた。

しかし、このワクワクするようなソワソワするような空気を皆が好むのかと言ったらそう言う訳ではないのだ。

「日本は仏教なんでしょー!?じゃあクリスマスなんてしなくていいじゃん!なんでわざわざ独り身が辛い目にあうような事すんのさぁ!」

近くにいた越と椿に美嘉は訴える。
が、二人とも恋人がいるので訴え甲斐がない。

⏰:09/01/10 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#570 [向日葵]
だから美嘉そのどうしようもない怒りをわめき散らす事で解消しようとしている。

「で、でも美嘉、私クリスマス柴とどこか出かけるとか予定ないよ。だから一緒に買い物でもしようよ」

「わ、私もです、美嘉ちゃん……」

焦ってフォローするも、美嘉の機嫌は治らず、とりあえずどこかファーストフード店に入る事にした。

「なによなによ……どうせ二人ともいずれは美嘉より恋人を選ぶんでしょ……」

ジュースを頼んでから席についた。
美嘉は完全に気分が落ちていた。

⏰:09/01/10 00:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#571 [向日葵]
*アンカー*
>>472

*感想板*
>>504

⏰:09/01/10 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#572 [向日葵]
もう越と椿は苦笑いするしかない。

「体育祭とかならあんなに元気な美嘉のくせにぃ……」

「それとこれとは違うーっ」

ふと考えて、椿は口にしてみた。

「美嘉ちゃん。要さまのお宅でクリスマスパーティーをやるそうですが、一緒に行きませんか?」

「へ?アイツ海外にいんのに?」

「妹さんでいらっしゃいます唯子さまが、お誘いしてくださいまして……。もちろん、要さまは、いらっしゃいませんけれど……」

ふと見せた寂しげな椿の笑顔に、美嘉はなんとも言えず、拗ねて曲げていた背筋をしゃんと伸ばした。

⏰:09/01/19 00:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#573 [向日葵]
そして、しまったとバツが悪そうに頭をポリポリとかく。
ただでさえ、最近の椿は元気ないのに、自分が支えなくてはと思っていたのに、と。

「パーティーは夜?」

「はい」

美嘉が乗り気になったのを感じとった椿は顔を綻ばせる。

「じゃあそれまで、二人には美嘉の相手してもらおっかなー」

ようやく機嫌がなおったと、椿たちは笑う。
笑ったところで、椿の携帯が震えた。
美嘉たちに断った椿は、トイレ近くの静かな場所へ移動した。

ディスプレイを見て、椿は心を躍らせる。

なにせ2日ぶりだから。
声を咳払いして整え、深呼吸してから通話ボタンを押す。

⏰:09/01/19 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#574 [向日葵]
「も、もしもし」

{久しぶりだね。元気だった?}

自然と口が笑みを作る。
携帯を握る手に、少し力が入ってしまうのを椿は自覚していなかった。

「はい」

{そういえば、電話に出るの少し時間あったけど、電話しても大丈夫だった?}

「大丈夫です」

{まさか浮気中とかじゃないよね?}

意地悪な質問。
そんな事、椿がする訳がないのに。

⏰:09/01/19 00:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#575 [向日葵]
椿は半ば意地になる。

「してませんっ」

予想通りの返事に満足したのか、要はクスクス笑っている。
椿はそんな意地悪な質問をする要すら恋しく思う。

そういえば、なんだか元気そうだ。

「……要さまこそ、今はお時間大丈夫なんですか?」

{ああ。ちょっと仕事が一段落したからね。それはそうと、気にならない?}

「何がですか?」

{この二日間、僕が連絡しなかった訳}

⏰:09/01/19 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#576 [向日葵]
「え?お忙しかったから……では……?」

少し間をおいて、また要がクスクス笑っているのが聞こえた。
どうして笑われているのか、椿には分からない。

「要さま?」

{なるほど。僕をちゃんと信じてくれてるんだね}

「は……はあ……?」

{浮気してるんじゃないかとか心配じゃないの?}

またその話かと、椿は少し眉を寄せる。

「魅力的な方がいるなら……私は……」

拗ね気味に言ってみる。

⏰:09/01/19 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#577 [向日葵]
しかしそんな事を言われて困ったのは要の方だった。

{いない!いないから、婚約解消とか言わないでよねっ!}

あまりの焦りっぷりに、今度は椿が笑い出す。

しばらくして、要はため息をついた。

{本当……僕は君が大好きみたいだよ}

そんな事を言われてしまっては、胸が苦しくなる。
苦しくなるせいで、心にしまっておかなければならない椿のわがままな気持ちが、言葉となって出てしまう。

「……会いたい」

⏰:09/01/19 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#578 [向日葵]
自分が何を言ったか認識するまで、椿はぼんやりしていた。

{……椿?}

そして要の呼びかけにハッとして、ようやく自分が何を言ったか分かってしまえば、混乱してしまった。

「あ、いえ、あのっ、何もないですっ。か、要さまもお体にお気をつけてっ。では……っ!」

要の返事も待たずに、椿は電話を切ってしまった。
携帯を両手で握りしめ、額にあてる。

何を言ってるんだ……。
叶いもしない願いを言って、要を困らせてどうするつもりだ。

椿は自分が恥ずかしくなった。

⏰:09/01/19 01:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#579 [向日葵]
要がすごい人で、忙しくて大変な事は誰よりも知っているのに。
あんな、馬鹿な事を言ってしまうなんて。

きっと、要はあきれている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

要は瞬きを繰り返していた。

あの椿が……会いたいと言った……。
言ってくれた……。

今、要がどれほど面白い顔をしてるか分からないのだろうなと、書類整理をしている大久保は要を見ながら笑いそうになっていた。

「要さま、何かありましたか?」

笑いをこらえる為に、声をかける。

⏰:09/01/19 01:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#580 [向日葵]
「椿が……会いたいって……言うんだ」

「それはそれは……。会わねばなりませんねぇ……」

かと言って、この多忙スケジュールだ。
要が動ける訳がない。

「そうだね」

しかしニヤリと笑った要は、どこか余裕そうだった。

―――――――――…………

時が経つのは早いもので、あっという間にクリスマスイブになった。
天気予報はホワイトクリスマスになるだろうとロマンチックなクリスマスである事を告げていた。

⏰:09/01/19 01:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#581 [向日葵]
しかしそんな事とはうらはらに、椿はクリスマス前より気分が落ち込んでいた。

何故なら最近要と連絡がとれていないからだから。
しかし抜かりがない彼は椿が気にしないようにと「しばらく忙しいから連絡出来ない」と一報いれてきた。

いれてくれたが、椿は逆にそれを気にしていた。

前に子供っぽいわがままを言ってしまったから、要がうんざりしているんではないかと。

要の気持ちはちゃんと分かっているから、婚約解消なんて大袈裟な事はしないだろうけど、もしかしたら少しだけ気持ちが離れてしまったかもと思ってしまう。

⏰:09/01/19 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#582 [向日葵]
「お嬢様」

ノックと共に、メイドの佐々木が椿に呼び掛けた。
ハッとして、椿はすぐに返事を返した。

「待ち合わせの時間になります。早くお車にお乗りくださいませ」

壁にある時計を見れば、美嘉たちと待ち合わせる時間が迫っていた。
慌ててコートを羽織り、部屋を出ていく。
出て行こうとして、見送りをと後ろについてきている佐々木を振り返る。

「私、いつもと変わりませんか?」

「はい。大丈夫ですよ」

⏰:09/01/29 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#583 [向日葵]
なら良かった。
顔に出てしまえば二人が心配してしまう。

ここ数週間、元気がない自分を励まそうとしてくれてたのは知っているから、椿はこれ以上迷惑はかけられないと、佐々木にわざわざ訊ねたのだ。

次に会うとき、要はどんな顔をして自分と会ってくれるのか。
椿は楽しみでもあり、怖くもあった。

――――――――…………

「さすがクリスマス……。どこもかしこも混みすぎねー」

美嘉は入ったデパートの中を見て言った。
友達、親子、恋人、夫婦、家族。様々な年齢層の人たちがごった返している。

⏰:09/01/29 02:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#584 [向日葵]
「他に行くとこなんかいっぱいあるだろうに……」

早くも美嘉の心は荒みつつあった。

「で、でも、やっぱり街が華やかなのは、何て言うか、テンションが上がるよね!」

急いで越がフォローに入る。
外は段々と曇ってきて、天気予報通りホワイトクリスマスになりそうだった。
そのせいか、今年のクリスマスは、例年よりも皆浮き足立ってる。

「まったくたまったもんじゃないわねっ!」

⏰:09/01/30 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#585 [向日葵]
とりあえず買い物をしに向かう。

雑貨屋さんなどはやっぱり人が多くて、選びたくてもゆっくり選ぶ事が出来ない。

要はどんな物が好きだろう……。

ふとそんな事を思えば、要の事が頭から離れたくなくなった。

我が儘を言って、きっとあきられた。
それがショックで仕方がない。

それでも……。

写真たてを何気に持っていた椿の手に、滴がぽたりと落ちる。

我が儘を言ってしまう程、会いたい。
溢れ出す気持ちが、コントロールする事が出来ない。

⏰:09/01/30 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#586 [向日葵]
あきれられてももう何でもいい。
何か、要と繋がる為にしたい。

そう思った椿は、メールをしようと携帯を開いた。
と、同時に、携帯が鳴り出す。
驚いた椿は思わず手から携帯を落としそうになってしまった。

ちゃんと持って、安堵のため息を吐いてからディスプレイを見て、椿は息が詰まりそうだった。

「も……っ、もしもし」

{椿、今君どこにいるの?}

要だった。

いても立ってもいられず、美嘉たちに慌てて事情を言った椿は、美嘉たちの返事もそこそこに走り出す。

⏰:09/01/30 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#587 [向日葵]
白い白い、綿のような雪が舞いはじめていた。
いつも以上に息は白く、寒い空気が喉を刺激する。
咳き込みそうになるのもお構いなしに、椿は走る。

「今、駅前のデパートで、今から、帰ります……っ」

{急がなくても、僕も移動中だよ。だから椿、無理して走ったら体に触る……}

「いいんです……っ!」

息を弾ませて喋る椿に、受話器の向こうで要はハッとした。

「体なんて、気にしてる場合じゃないのです……っ」

そんな椿をいとおしく思い、要はそっと笑う。

⏰:09/01/30 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#588 [向日葵]
{分かった……。僕も出来るだけ早く行くよ}

そう言って、電話を切った。

椿は自分の足を出来るだけ早く動かす。

早く、早くと……。

―――――――――…………

自分の家に帰ってきた椿は、門の鉄格子を握って息を整える。

鉄格子は冷たい筈だが、最早そんな感覚すらないぐらい椿の手の方が冷たくなっていた。

心臓がうるさい。
走ったせいでもあるが、それ以上に会えると言う喜びが大きい。

ちゃんとじっとしていないと、周りから怪しまれるのに、そわそわして、そこらを行ったり来たりしてしまう。

⏰:09/01/30 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#589 [向日葵]
椿は要に会った時の事を考える。

まずは、おかえりなさいと言おう。
それから寒いから家に入ってもらって、ゆっくりと話をしようー
もしかしたら要宅でやるパーティーに要も行けるかもしれない。
そしたらもっといっぱい一緒にいれるかもしれない。

と、携帯が鳴った。

「も、もしもし椿です」

{分かってるよ}

笑ってる彼の声が近くに感じる。
もうすぐ会えると分かってるせいだろうか。

「今、どの……」

「どのあたりですか」と訊ねようとした時、椿は何かに包まれた。

「君のそばだよ」

⏰:09/01/30 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#590 [向日葵]
右から受話器ごしの要の声。
そして左からは……。

後ろから抱き締められてるから、腕だけしか分からない。
それでも、ちゃんとここにいると実感できるが、夢のようだとも感じる。

思わず携帯を落としてしまう。

「要……さま……」

ゆっくりと振り返れば、大好きな人がそこにいて、柔らかく微笑んでいた。

「ただいま。寒いね今日は」

少しだけしか、会っていなかったかのような会話。
だからか余計に苦しくて、椿は要に抱きつく。

⏰:09/01/30 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#591 [向日葵]
さっき考えてた事なんて、まったく意味がなかった。

ただ彼を感じたくて、無我夢中で彼の胸に頬を寄せ、腕にありったけの力を込める。

「嬉しいな。こんな歓迎の仕方をされるだなんて」

椿は何も言わない。

「椿、顔をよく見せてよ」

椿は首を横に振った。
要はおかしそうに笑った。

「泣いてるのが恥ずかしい?」

言われて、彼女の肩がピクリと反応する。
要は椿の頬に手を触れて、上を向かす。

⏰:09/01/30 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#592 [向日葵]
上を向いた椿の瞳と頬は濡れ、顔は寒さと泣いてる為によるもので淡く赤くなっていた。

要が目を細めて笑みを深くすると、椿の目から更に涙が流れた。
それは止まる事を知らない。
瞬きをする度、彼女の目から、またいくつも滴が流れる。
要はそれを指で拭う。

「かな……め……さま……」

「会いたがってくれて嬉しい。僕も、会いたかったから」

その言葉に、寄せていた眉を少し緩めた椿の表情は、彼が意外な事を言ったとでも言うようだった。

「あきれて……ないのですか……?」

「あきれる?どうして」

⏰:09/01/30 01:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#593 [向日葵]
>>589

×ゆっくり話をしようー
○ゆっくり話をしよう。

⏰:09/01/30 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#594 [向日葵]
「あ……あんな、わがままを言ってしまったから……」

「わがまま?」

要はまだ分からないのか眉を寄せる。
椿は恥ずかしくて、ほんの少しだけ要から距離をおく。

「あ……会いたいって……言ってしまったこと……」

あまりに恥ずかしくて、椿は顔を両手で隠した。
一方、要はなんだか信じられない気持ちで椿を見つめていた。

椿がそこまで自分を想ってくれているのが、どこか夢のようだからだ。
それでも、すぐにそんな彼女にいとおしさを感じて、柔らかく微笑む。

⏰:09/02/05 01:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#595 [向日葵]
「そんな可愛いわがままなら、もっと言ってよ」

椿は少しだけ顔をあげる。

「なんでも言ってよ。誰にも言えない君の本音や弱音は、僕が全部受け止めたいんだ」

離れて分かった事が、椿も要もたくさんあった。
離れなきゃわからないなんて、まだまだ未熟かもしれない。
だからこそ、誓わなきゃいけない事がある。お互い、共に成長していく為に。

「君が僕を支えてくれて、そばにいてくれるなら、僕も支えて君を守るよ。何もかもから」

「要……さま……」

椿は目を見開く。

⏰:09/02/05 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#596 [向日葵]
「それにね、嬉しいんだ。椿がそうやって僕を想ってくれる事が。少なくとも、僕だけがって訳じゃないってことでしょ?」

また椿の顔が一段と赤くなる。
要はうつむこうとした椿の顔を包んで、上を向かす。

「会いたいって言えたなら、言えるよね?」

「え……?」

「僕が好きって」

「え……ええっ!?」

すごく驚いた椿の顔を初めて見た要は、おかしそうに笑う。
そんな要をよそに、いきなり「告白してみろ」と言われた椿は、ただうろたえるばかり。

⏰:09/02/05 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#597 [向日葵]
後ずさろうとする椿を逃がさないように、要は椿の背中に腕をまわす。
幸いこんなにも寒いし、クリスマスというイベントのおかげもあって、人通りがないのが救いだ。

てなければ椿は今の状態ですでにうろたえていただろう。

「ほら、早く」

真っ赤な椿に、要は意地悪な顔つきで笑う。

「は……はい……っ!」

胸の前でギュッと手を握り合わせて、少しの緊張に小刻みに震える。
深呼吸を何度も繰り返して、目をギュッと瞑る。

「……お、お慕い、して……います……」

⏰:09/02/05 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#598 [向日葵]
しばらくの間の後、要が椿の方に頭を置いた。
ギュッと瞑っていた目をそろりと片目ずつ開けた椿は、要を見る。

「要さま……」

名前を呼べば、要は頭を小刻みに震えさせた。
そして段々と、クククと笑い出す。

「お慕い……。そうだよね、丁寧な物言いする君が、好きだとか愛してるだなんて言わないんだよね……」

何がツボだったかはわからないが、要は大声で笑うのを抑えるかのように喉の奥でずっと笑う。
椿は精一杯の気持ちを精一杯伝えて笑われているのに、まったく嫌な気分はしなかった。

⏰:09/02/05 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#599 [向日葵]
穏やかに要をみつめる。
そして改めて思う。

この人を好きになって、本当に良かった。

椿の視線に気づき、ひとしきり笑い終えた要は微笑む。
また椿の顔を手のひらで包んで、顔を近づければ、何をされるか分かった椿は視線を泳がせながら戸惑う。

「人はいないし、大丈夫だよ?」

「は……はい……」

要の行動を制御するのはおそらく無理なのだろうと思った椿は素直に返事する。

うつむきがちな椿は、また目をギュッと瞑る。
顔が近づく気配を感じれば、体が緊張でまた固まる。

⏰:09/02/05 01:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#600 [向日葵]
久しぶりの優しいキスは、ホワイトクリスマスをよりロマンチックにするものだった。

―――――――――…………

「そういえば、もういいの?」

椿がいなくなってしばらくして、越と美嘉は一緒に帰っていた。

「何が?」

越の問いに、美嘉は首を傾げる。

「あんなに前は反対してたじゃない。椿と婚約者さんのこと」

美嘉は肩をすくめ、ため息を吐く。
息はとても白い。
息と同じくらい白い雪が、地面に積もって、先程からさくさくと音を奏でる。

⏰:09/02/05 01:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#601 [向日葵]
「いいのよ。結局美嘉も、アイツを上部だけで判断してた未熟者だもの」

彼は最初、最低な理由で椿に近づき、たくさん傷つけた。
でも彼を知っていけばいく程、椿に対する想いや、彼の辛く重い過去を理解出来た。

「何より、椿が幸せで、あんなに居ても立ってもいられないぐらいアイツが好きなら、美嘉はそれでいいよ」

美嘉の言葉に、越は柔らかく微笑む。

T字路で、バイバイと言い合った美嘉と越は、別々に道を進んだ。

何歩か進むと、後ろから肩を叩かれた。

⏰:09/02/05 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#602 [向日葵]
「あっ!」

「お久しぶりです」

立っていたのは、要の従者、大久保だった。
小さな紙袋を片手に持っている。

「どうしたんですか?」

「近くに今日のパーティーの買い出しを。皆さん手が離せないものですから、私が」

にっこり笑って、大久保は美嘉と歩き出す。
もしかしたら、さっきの会話は聞かれた?

一度、彼に弱音というか、本音を語ってしまったとは言え、なんだか気恥ずかしかった。

⏰:09/02/05 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#603 [向日葵]
「美嘉さまがお友達で、椿さまはきっと嬉しいんでしょうね」

目を細めて優しく笑う。

やっぱり聞かれてた……。

しかし、からかってる訳じゃなく、心から思ってるみたいだったから、美嘉は普通に照れてしまう。

「パ、パーティーですよね!美嘉も手伝いますっ!」

突然、美嘉は要の家へと走り出す。

「み、美嘉さま!?」

大久保も走り出す。

美嘉は走りながら手を顔に当てる。
どうしてこんなに熱い?

⏰:09/02/05 02:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#604 [向日葵]
パニックを起こして、更に早く走るから、大久保は驚きながらも必死に美嘉を追わなければならないはめになった。

ロマンチックなホワイトクリスマス。
クリスマスと言う特別なイベントに、何かを期待したりするのも、悪くないかもしれない。

⏰:09/02/05 02:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#605 [向日葵]
[第14話]

話は翌年の6月になる。

要と椿の誕生日も終わり、はれて二人は18歳になった。
が、二人には誕生日よりもビックイベントが待っていた。

「椿、やっぱり結婚式はジューンブライドがいいよね。梅雨だけど毎日雨って訳じゃないから、僕はいいと思うんだけど」

「けっこんしき……?」

要と椿はいつものように椿の家の庭を散歩していた。
紫外線はよくないからと要に言われた椿は、日傘を要と相合い傘のようにしてさしている。

「まさか、忘れてた?」

⏰:09/02/05 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#606 [向日葵]
忘れていたと言うよりは抜けていた。

「やっぱり盛大にしたいなー。心配しなくても、椿のドレスやアクセサリーは、僕がデザインするからね」

「ジ、ジューンブライドって……っ。あと何週間しかないですよ!?」

只今5月半ば。

「6月中にすればいいんだよ。大安の日をちゃんと選んでね。式場でなんかしなくても、僕の家を使えばいいしね。堅苦しい式は望んでないからね」

いきなり心の準備そこそこに言われた椿は、頭がごちゃごちゃになりそうだった。

⏰:09/02/05 02:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#607 [向日葵]
「だから椿、これから忙しくなるよ」

にっこり笑った要は、とても楽しそうで、嬉しそうだった。

―――――――――……

そしてここからが6月の話。
今は6月始め。式は月末の27日に決まった。

5月に要がにっこり言ったとおり、椿は毎日忙しく過ごしていた。
今でも目が回りそうな程……。

そんな椿が今やっているのは、披露宴での衣装選びだった。

要が何十着も用意するから、椿はより似合うものをとさっきから着せ替え人形のように着たり脱いだりを繰り返している。

⏰:09/02/05 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#608 [向日葵]
「椿さまは淡いお色がお似合いですね」

「お肌が白いですものね」

「ピンク色か……オレンジ色でもいいですわね」

口々に、着替えを手伝うメイドが言う。
それに若干引きつりながらの笑顔を返して、椿はそっとため息を吐いた。

要との結婚に不満がある訳ではない。
ただここまで次々と準備をしていくと、疲れてなんだか気が滅入ってくる。

結婚式なんて、しなくていいんじゃないかと思ってしまうくらい……。

⏰:09/02/15 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#609 [向日葵]
そう思ってしまって、椿は急いで首を横に振り、マイナス思考を振り払う。

「あ、あの……」

次のドレスを用意しようとするメイド達に、椿は声をかける。

「要さまに、ご用があるので、行ってもよろしいでしょうか?」

「はい。いってらっしゃいませ。ではその間にお茶を用意して参ります」

今度はちゃんと笑顔を返してから、椿は部屋を後にした。

要は別室で仕事と並行させながら式の準備をしていた。
服は既に決まったらしく、椿のドレスが決まる間に、飾りつけの指示や、来客リストを作っているらしい。

⏰:09/02/15 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#610 [向日葵]
要がいる部屋にたどり着き、ノックをすれば、中から返事が帰ってきた。

「失礼します」

「ん?ああ、椿か。どうかした?」

仕事用の椅子ではなく、机に座って、何かの資料を見ていた要は、椿に気づくと彼女の元まで足を運ぶ。

「え、ええと……、要さまは、何色がお好きでしょうか……。ドレスが多すぎて、決まらないんです……」

そんな事、自分でさっさと決めろと言われてしまうだろうか?

言ってしまってから、椿は不安になった。

⏰:09/02/15 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#611 [向日葵]
「そうなの?じゃあ、僕も一緒に選ぼうか?」

ただでさえ忙しい要に、そんな事までさせてしまうのが悪い気がしてきた椿は首を横に振った。

「い、いえ、いいんです……」

何故か落ち込んだように首をうなだれる椿に困惑した要は、長く綺麗な椿の黒髪を避けて、髪とは対照的な白い頬にそっと触れる。

温かな手に、ゆっくりと顔を上げた椿を、心配そうに覗き込む。

「疲れてない?ここのところ、ずっと忙しくしてたから、ロクに休んでないんじゃないの?」

「……大丈夫です。ちょっと、戸惑ってるだけで、疲れては……」

⏰:09/02/15 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#612 [向日葵]
「疲れたなら疲れたって言って。椿が倒れる方が、僕は嫌なんだからね」

頭を優しく撫でられる。
それだけで、疲れた心が癒される。ふんわりと温かくなる。

「本当に、大丈夫です。要さまのお姿を見て、元気になりました」

不意の椿の言葉に、要は少し顔を赤くした。
照れ隠しのように、撫でていた手に力をいれて、椿の髪を乱す。

――――――――…………

ある日の午後。
式準備で忙しい要宅に、二つの影があった。

「で、美嘉たちが?」

美嘉と越だ。
大久保が、要に頼まれて呼んだのだ。

⏰:09/02/15 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#613 [向日葵]
「椿が、ドレス選びに一人で困ってるのは分かりましたけど、私達が選んじゃってもいいんですか?」

大久保の説明を聞いていた越が、質問した。

「はい。友達なら、見る目は確かだと、要さまもおっしゃっていましたから。なにより、慣れない事を、椿さま一人でなさっているので、少しでも安らげるようにという意図もおありだと思います」

ならわざわざジューンブライドにこだわるなよ、と美嘉は思ってしまったが、要が意外とロマンチックだと言う面白さの方が勝ってしまって口を閉ざした。

それにここで愚痴っているより早く椿の元へ行ってあげた方がいいと思った。

⏰:09/02/15 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#614 [向日葵]
「じゃあ大久保さん、案内お願いします」

「かしこまりました」

一礼して、大久保は歩き出した。



ちょうどドレスを着た時、部屋のドアをノックされた。
と思ったら、返事をする間もなく美嘉が部屋へ入ってきた。

「美嘉ちゃんっ!越ちゃんっ!」

「やっほー椿っ!来たよっ!」

「椿キレイ!」

少し肩を出した淡いグリーンのドレスを着ている椿は、美嘉や越にとって別世界の人に見えた。

⏰:09/02/15 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#615 [向日葵]
しかし、美嘉はもう一つの変化に気づいていた。
椿に近づき、声を落として問う。

「椿……なんか痩せてない?」

椿は目を見開く。

休日以外、毎日会ってるから小さな変化に気づかなかったが、肌を少し露出し、体のラインが分かるドレスは、その小さな変化を表すものだった。

キュッと唇をしめた椿は、ゆっくりと口を開く。

「最近、食欲があまりなくて……。でも、調子が悪い訳ではないので……っ」

じっと椿を見つめるが、彼女は柔らかく微笑むだけ。
諦めた美嘉は、数あるドレスの山に目を向けた。

⏰:09/02/22 12:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#616 [向日葵]
「さ、選びましょうかねっ」

そうやってなんともないフリをすれば、椿はホッとしたように息を吐いた。

美嘉が諦めたのは椿を困らせたくない為じゃない。
もちろん心配は心配だ。
この頃は、体の調子もよく、あまり気にせず過ごしていたが、本来はか弱い椿なのだ。
ただでさえ細い椿がまた細くなったとなれば、やはり気になってしまう。

だが、どうやったって、椿が自分の事を素直に話す相手は、もうただ一人だけなのだ。

…………という訳で。

「かぁなめぇーっ!」

⏰:09/02/22 12:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#617 [向日葵]
ノックもせず、大久保が教えてくれた要の作業部屋に、美嘉は乗り込む。

本人が駄目なら本人以上に椿の性格を分かっている要に直談判。
行動派の美嘉はそう考えた。

なんの前触れなしに乗り込んできた美嘉に、要は慣れたのか「ああ君か」と呟き、また資料に目をとおす。

「ちょっとちょっと!紙なんか読んでる場合じゃないの!」

「椿の事なら分かんないよ」

先に訊きたい事の答えを言われた美嘉は、要に向けて歩いていた足をぴたりと止めた。

「え、そうなの?」

⏰:09/02/22 12:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#618 [向日葵]
紙を机に置いた要は、ため息をついた。

「当たり前だろ。分かってるなら何かしてる」

「じゃあ、なんで何もしないの」

「美嘉も知ってるだろ?彼女は大丈夫だと言えば頑なにその意思を貫く。僕にだって出来ない事はあるんだ」

意気込んで来た美嘉は、すっかりその気合いを削がれてしまったので、お構い無しに要の机に腰かける。

「アンタなら何か知ってると思ったんだけどなぁ……」

要は瞬きを数回する。

⏰:09/02/22 12:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#619 [向日葵]
「君の方が分かるだろ?僕はそういうのも込めて君達を呼んだんだよ?」

今度は美嘉が瞬きを数回した。

なんだ、お互いがお互いそう思っていたのか。

最初は絶対こんな奴認めるかと思っていたが、いつの間にか椿の事に関しては頼りにしてる自分に、美嘉は少しおかしくてクスクス笑った。

「要、頼むから、あの子大切にしてやってね……」

間があって、静かだが、力強い返事が返ってきた。

「もちろん」

――――――――…………

⏰:09/02/22 12:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#620 [向日葵]
美嘉たちは夕飯の為に帰って行った。
椿は用意された部屋のソファに身を深く沈めて全身の力を抜いた。

疲れた……。

ただそうしか思えない。
先程、夕飯を済ませたが、今日もあまり食べれなかった。
部屋に来る前、要に心配されたが、曖昧に返して逃げるように部屋に帰って来たのだ。

このままじゃ、要に心配かけっぱなしになってしまう。
しっかりしなきゃと思うのに、今は力が入らなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ふわりと、心地よい感覚に意識がいく。

いつの間にか寝てしまったのか。

⏰:09/02/22 12:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#621 [向日葵]
意識は現実に戻るも、まだ目は眠いから閉じたままだ。
そうしていると、柔らかな所に体を置かれた。

誰かに抱き上げられていたのだと気づく。
薄手の布団を丁寧にかぶせられ、顔にかかった綺麗な髪をそっとよける。そして撫でられる。
目を開ければ、頭が濡れている要がいた。

「あ、ごめん、起こした?」

「い、いえ……」

寝ていては落ち着かないので、ゆっくりと体を起こす。
要はベッドに腰をおろす。

「熟睡してたね。やっぱり疲れがきてるんじゃ……」

⏰:09/02/22 12:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#622 [向日葵]
「い、いえ、そんな……」

「食事もあまりとってないし」

「もともと少食なので……」

ちゃんと、目を見れない椿はうつ向く。
要が体を動かしたと思えば、椿の肩に手を置く。そのまま勢いよく椿をまた布団に沈めた。

「……っ!」

要が覆い被さるようにするので、椿の心臓が高鳴る。
顔に、まだ拭ききれていない要の髪から、雫が落ちてくるが、それを気にしていられる余裕は椿にはなかった。

鋭い目つきで見つめられれば、固まり、ただ要を見つめるしか出来なかった。

⏰:09/02/22 12:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#623 [向日葵]
「僕の目は節穴じゃない。君の調子の悪さなんてお見通しなんだ。いつか君から言ってくれると待っていたんだ」

だって……。

「そうやって、支えあって、夫婦になるんだろ?なのに、僕は未だ一方通行な気分だよ」

だって……言ってしまったら……。

「……でも、君にも譲れないものがあるだろうから、しつこい干渉は、避けるよ」

少し悲しそうに眉を寄せた要は、椿からすっと離れた。
椿は急いで体を起こす。

「ちが……っ、要さま!」

呼ぶと同時に、部屋の扉は閉められた。

⏰:09/02/22 12:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#624 [向日葵]
重く響く音に、椿の胸は痛んだ。

違う……。
言わなかったのは、前のような無理をしてるんじゃなく……。
ただ…………。

今、そう思ってるような事すら言えなかったと言うことは、結局前と同じようなものなのだろうか。

椿はどうしていいかわからなくて、掛布団を握り締めた。

―――――――…………

「要ぇーっ!!」

「またか……」と要は頭をガクンと落とす。
式の事がだいぶ決まり、要は一段落してるとこだった。

⏰:09/02/22 13:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#625 [向日葵]
感想板です(。・ω・。)
よければ

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3992/f

⏰:09/02/22 13:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#626 [向日葵]
「君はノックというものを知らないの?」

「美嘉は別にアンタを敬う気なんかないもの」

そういう問題か?と半ば呆れながら要は頬杖をつく。
要が座っていたソファの向かい側に美嘉も座る。

「椿の様子が更に変になってる。アンタまたなんかやらかしたの?」

「椿の事意外に用事はないのか君は」

「アンタに用事って何よ」

そう言われては、要も見つからないので「まぁそうか」と息を吐く。

⏰:09/03/08 17:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#627 [向日葵]
「椿を問い詰めたんだよ。疲れているんだろ、何故隠すんだとね」

そこまで言うと、美嘉が渋い顔をして見てきたので、要もなんだと目で応じる。

「まさかその時にいやらしぃー事してやいないでしょうね」

「どういう流れでそんな事をしなくちゃならない……」

「アンタの事だから変なスイッチ入ったんじゃないかと思って。なんて言うの、ホラ、怒りに任せて的なね」

休ますようにと押し倒しはしたが、あの時にそういう他意はなかったので、要はふと浮かんだ光景をすぐに消した。

⏰:09/03/08 17:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#628 [向日葵]
「あるはずない。僕はそんな獣じゃないから」

どうだか、と美嘉は背もたれに体を預ける。

「で、椿はなんて言ったの?」

「何も言わなかった。だからそれからは僕も何も問い詰めちゃいない」

「そう……」

美嘉もなんらかの形で問い詰めようとしたのだろうか。
それが敵わなかったから要ならと来たのかもしれない。
敵視していた美嘉が自分を頼りにしてくれているのが、こんな時だが要は嬉しくもあった。

「で、今椿は?」

「ドレスでいい感じのが見つかって、今は休んでる」

⏰:09/03/08 17:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#629 [向日葵]
なら、と要は席を立った。

あれからあまり話せていないし、今度は感情的にならず、冷静に話そう。
そうした方が、椿もゆっくりと話し出すかもしれない。

そう思って、扉に近づこうとした時、ノックをする音が聞こえた。

椿かもと自ら扉を開けた要だが、目の前にいたのはメイドだった。いきなり開いた扉に驚き、目を見開いている。

「ああ……、何か?」

「あ、ハイ!」

ぼんやりしていたメイドは要の声を聞くと急いで来た理由を話し出した。

「椿さまが、倒れてしまいました……っ!」

⏰:09/03/08 17:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#630 [向日葵]
――――――――…………

体が重い……。
鉛のようだってこの事を言うんだろうなと、暗闇の中で椿は思った。

―僕は一方通行な気分だよ

ああ……また要さまを怒らせた……。

一方通行だなんて、そんな事ないのに……。
私はただ……。

意識が朦朧としている中で、椿は必死に手を伸ばす。
何かを掴もうと。
しかし当然掴める筈もなく、手は空をかく。

なのに、ふと手に暖かさが宿った。

とても安心する。
これは……?

⏰:09/03/08 17:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#631 [向日葵]
そう思った時、闇の中に小さな光が見えた。

――――――――…………

光が戻れば、ここが何かが分かった。
ふかふかのベッドの上。
手を握っているのは……。

「椿……」

その声に、椿はゆっくりと目を開く。

「要さま……」

周りを見ると、美嘉と何人かのメイドがいた。

「良かった……」

ホッとしたように、要は何度も優しく頭を撫でる。
それが心地よくて、椿は目を細める。

⏰:09/03/08 17:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#632 [向日葵]
「では、私どもは何か飲み物を持って参ります」

「あ、美嘉も手伝います」

そう言ってメイドと美嘉は出て行った。
部屋を静けさが包む。
要も椿も、お互いの顔を見つめあったままだ。
何から話そうか、お互いがお互い悩んでいた。

「……。……式は、もうちょっと先にする?」

「え…………」

急な要の言葉に、椿は驚いた。
要は前から考えていたらしく、淡々と話し出す。

「思えば、僕が勝手に決めて進めていた。君の意見なんか聞いてなかった。その勝手で君がこんな状態になってしまったなら、式はまた今度に……」

と、話の途中なのに、椿は布団を頭まですっぽりとかぶった。
その行動に、要は目を丸くさせる。

「つ、椿?」

⏰:09/03/08 17:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#633 [向日葵]
布団に手をかければ、椿は指に力を入れ、布団を剥ごうとする事を拒む。

「嫌です……」

「うん嫌でしょ?だから先のばしに」

「違います……」

要は首を傾げた。

「式が嫌なんじゃないんです。私は……先伸ばしになるのが嫌だったんです」

「え……」

椿の聞きとりにくい声が、更に難しくなる。
声は小さくなり、そして微かに震えている気さえした。

⏰:09/03/08 18:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#634 [向日葵]
「私だって……楽しみにしてたんです……」

最初はこの忙しさにかまけている中での結婚は、本当に幸せなのか分からなかった。
でも、いつも要が隣にいてくれるなら、きっと大丈夫だと思えた。

そうしたら段々と楽しみになれた、式を挙げる日を待つのさえもどかしい程に。

なのに自分の体が弱いせいで、式を伸ばす事になれば、きっと自分は落胆すると思った。

だから椿は、ずっと体の不調を隠していたのだ。

それでも、要が伸ばすと言うなら……。

⏰:09/03/08 18:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#635 [向日葵]
「……いいえ、なんでもありません、私は、要さまの言う事に従い……」

要が椿がかぶっている布団を力づくで剥いだ。
椿が驚いている隙に、要は椿を抱き寄せた。
力が強くて、苦しいけれど、それ以上に心臓がうるさくて、椿は混乱した。

「そう思ってくれる事、すごく嬉しいよ」

要の声は、本当に嬉しそうだ。
椿は少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。

力が緩められたかと思うと、要は体を離し、椿を見つめた。

「でもね、式を挙げるより、僕は椿の事の方が大切なんだ。だから無茶はして欲しくない。分かってくれる?」

⏰:09/03/08 18:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#636 [向日葵]
柔らかな表情に、椿は安心する。
ぼんやりとしながら、こくりと頷く。


頬に手を触れられれば、その体温が心地いい。

「式は伸ばさない。君の希望だからね。尊重するし、本当は僕だって伸ばしたくはないんだ」

照れながら笑う要を見て、椿もようやく笑う事が出来た。

椿の唇に、要の唇が重なる。
優しいけれど、とても熱く、絶対に、要の一方通行じゃない。

それは自分が一番分かる。

だってこんなにも、胸の奥が温かいのだから。

⏰:09/03/08 18:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#637 [向日葵]
――――――――
――――――――――………

―生涯愛しぬく事を誓いますか?

―はい、誓います

―では誓いの口づけを

唇が重なる。
すると歓声が上がって、クラッカーの音が鳴り響いた。

堅苦しい式にはしないという要の言う通り、式は要宅で行われていた。

白い二人の衣装に、クラッカーの中身が絡みつく。
でも二人は幸せそうに笑っている。

椿のウェディングドレス姿は、皆が息をのむ程美しく、要でさえ椿を見るなり見とれ、美嘉が蹴りをいれてやらないと我に返らなかった。

⏰:09/03/08 18:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#638 [向日葵]
「椿ぃーっ!おめでとーう!!」

美嘉が抱きつき、越が写真を撮る。

「ありがとうございます。美嘉ちゃん、越ちゃん、それから……柴さんも」

越の近くにいる、灰色の瞳の青年。
写真でしか見た事がない彼は、越の隣で微笑んでいた。

「招いてくれて、ありがとう」

「と言うか、無理言ってゴメンネ椿」

実は柴は来る予定が無かったのだたが、越が柴がどうしても来たいと言ってると言うのを聞いて、椿は快くそれを受け入れ、柴も招待した。

⏰:09/03/08 18:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#639 [向日葵]
「ねぇ越、俺たちもこんな風にしようよ」

「き、気が早いから!」

ほのぼのするやりとりに微笑んでいると、要が椿に耳打ちをする。

「彼って、前彼女をさらった……」

「ええ、大切な方ですわ」

なるほど、と、要は椿の手を引く。
中庭に出れば、温かな光が二人に降り注ぐ。

中は皆が楽しく会話して、うるさい程だが、中庭は静かなものだった。

「疲れてない?」

「平気です。とても楽しいです」

⏰:09/03/08 18:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#640 [向日葵]
そう、と要は微笑む。

式は延期する事なく、決めていた日どおりに行われた。
椿の体には、少し負担があったが、要が常に気にかけていた為、前のように倒れる事はなかった。

「後で、お父様に手紙を読む時、泣かないか心配です」

「泣いたって構わないよ。寂しいのは仕方ないからね」

少し歩いて、庭にある椅子に椿を座らせた。
隣に要が座らないのかと、椿は要を見上げた。

要はタキシードの内ポケットから何かを取りだそうとしていた。
そして出したものは、四角い紙だ。

⏰:09/03/08 18:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#641 [向日葵]
椿はそれを不思議そうに見つめる。

「それは……?」

「手紙だよ」

「要さまも手紙を読まれるのですか?」

「違う。これは……椿へだよ」

椿は目を見開く。
要は微笑んで、封筒から二枚程、便箋を出す。

「椿が手紙を読む時、泣く心配をしてるなら、今泣いてもらうよ。そうしたら、少しは泣かずに済むでしょ?」

歯を見せて笑う要が眩しい。
椿は要が手紙を読むのを黙って待った。

そして要がゆっくりと読み出す。

⏰:09/03/15 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#642 [向日葵]
こんな手紙を書くのは照れます。
読むのはもっと照れます。

でも、伝えたい事があるから、手紙にしました。
沢山あるから、きっと言葉ではつまってしまうと思ったからです。

椿、僕は今日この日、君と結婚出来る事がとても嬉しいです。

初めて君と会った時、君を利用しようとしていた最低な僕を好きになってくれてありがとう。

あの時、椿に言った最低な言葉や、最低な態度は、本当に反省しています。

ごめんなさい。

⏰:09/03/15 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#643 [向日葵]
僕はいつしか、椿を守りたいと思うようになり、そして好きになりました。大好きになりました。

出会ってくれて、ありがとう。

君は、お母さまの事があって、自分の事が嫌だと思ってるかもしれない。
もしかしたら、生まれてこない方が良かったんじゃないかって、思った事もあるんじゃないかな……。

でもね、椿。
僕は、君が生まれてきてくれて良かった。
僕と出会ってくれて良かった。
僕を選んでくれて良かった。

ありがとう。
この運命に感謝します。

⏰:09/03/15 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#644 [向日葵]
椿、ギンリョウソウって知ってますか?

僕が、君と会った時、椿はその植物みたいな印象を受けました。

目立たなく、暗い場所にひっそりといる……そんな風に。

でも今は違います。
ギンリョウソウは、確かに光の届かない暗い場所に小さく咲いていますが、その白い花は鬱蒼とした闇に映え、心を和ませてくれる。

椿は僕にとってそんな存在です。

かけがえのない、たった一人の大切な人。

⏰:09/03/15 02:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#645 [向日葵]
僕は、君が知ってる通りこんな奴だから、これからの長い時間、君に迷惑をかけると思う。
それでも、支えてくれたら嬉しい。

僕も、君を命にかえても守るよ。

だから一生、そばで笑っていて下さい。

椿、好きです。大好きです。
いや…………





心から、愛しています。

妻・葵 椿へ
夫・葵 要より

⏰:09/03/15 02:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#646 [向日葵]
読み終えた要は、丁寧に便箋を折り、また封筒にしまった。

膝を折り、椿と同じくらいの目線にしてから、椿の手をとり、その手紙を渡す。

「椿、幸せになろうね。世界一、幸せにするね」

柔らかく微笑みながら、要は言った。

固まっていた椿は、突然顔を歪ませて、手紙を顔に押しつけて泣き出した。
嗚咽が漏れてしまうほどに……。

「は……っ、はい、……はいっ……!」

何度も返事をする椿を、要は抱き寄せる。

⏰:09/03/15 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#647 [向日葵]
日差しが温かくて、余計に涙が流れる。

私も愛してます。

まだ恥ずかしくて、口にする事は出来なかったが、椿は強く思った。

「なーかしたー、なーかしたー」

聞き慣れない声に、二人は顔をあげる。

「折角の結婚式に、何を泣かせているんだい」

意地悪そうな笑みをたたえた男性と、隣でにこにこ笑っている女性がこちらへ向かってくる。

その二人を見た途端、要は驚いて立ち上がった。

⏰:09/03/15 02:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#648 [向日葵]
「父さんっ!母さんっ!」

それを聞いて、椿は要よりも驚き、急いで止まらぬ涙を抑え、立ち上がった。

「いやぁ、なんとか間に合った間に合った」

飄々と、憎たらしささえ感じる要の父は若く、そしておしゃれだった。
母もまた綺麗だ。

要の父は、要の前までくると、要より背が高く、ニヤリと笑いながら要の頭をペシペシと叩く。

「さすが俺のせがれ。粋な事すんじゃねえかよ。意外とお前ってポエマーだな」

からかう父の言葉に顔を赤らめる要。
何かを言い返したいが、何を言おうか迷っている内に父は椿を見た。

⏰:09/03/15 02:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#649 [向日葵]
目が会った椿は急いで頭を下げる。

要の父は、さっきの意地悪な雰囲気を消し、優しげな目をして椿を見た。

「君が椿さんだね。頭をお上げになって下さい」

そろりと椿は顔を上げ、要の父を見た。

「ご挨拶いたしませんで、すみませんでした」

「いえいえ。あなたの事は要からよく聞いていました。とーってもあなたに惚れ込んでるみたいで、コイツからのメールを読む度、滲み出る笑いをこらえる事は出来ませんでした」

要をいじめるみたいな口調だが、そこに愛情を感じた椿は微笑む。

⏰:09/03/15 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#650 [向日葵]
「これからは、俺、いやいや、私達共々、仲良くしましょうね」

「はい、よろしくお願いします」

ジューンブライドという、結婚式の魔法。
幸せになれると椿は思った。

空を見上げれば、梅雨時なのに空は青く、天にいる母も祝福してくれてる気がした。

そして思う。

きっと母も、幸せな花嫁だったのだろうと……。

⏰:09/03/15 03:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#651 [向日葵]
[第15話]

高校も卒業し、椿は要宅に住む事になった。

家を出る時はやっぱり寂しかった。
何せ18年間この家にいたのだから。

要は好きな時に帰る事を許してくれた。
でも椿は、出来るだけ要のそばで仕事を手伝いたいと思ってるので、あまり帰らないようにしようと心を決めていた。

そんな日々も慣れてきた、1年後の事だった。

「椿、こんな事言っていいかわかんないけど……太った?」

思わず持ちかけていたカップを、ショックで落としそうになる。

⏰:09/03/15 03:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#652 [向日葵]
今日は授業がないからと、美嘉が遊びに来て、今は仲良くお茶していた。

「え…………、ええっ!?本当ですか……っ!?」

「まあ椿はそれでやっと標準だけどね。前と比べて、すこーしふっくらしたかなってくらいよ。気にする事ないって!」

言ったのは美嘉なのに、美嘉は気にしないかのようにお茶を飲む。

「でも椿、綺麗になったよねなんか。やっぱりエステとか行くから?」

「僕がいるからに決まってるじゃないか」

二人がいる部屋に、要が入ってきた。

⏰:09/03/15 03:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#653 [向日葵]
少し伸びた前髪をかきあげた要は、背伸びをしてこちらへ歩いてくる。

「アンタと椿の美貌がどう関係あんのよ」

テーブルの上にあるクッキーをひょいとつまみ、口に入れた要は、椿の隣に腰かける。

「そりゃ僕が愛情をそそいでるから」

「やっぱりアンタって馬鹿なんだね」

真顔で言い合う。
相変わらずのやりとりに、椿はクスクスと笑い声をあげる。

「だいたいアンタが言うといやらしく聞こえる」

⏰:09/03/15 03:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#654 [向日葵]
「まあ君の想像に任すよ」

「否定無しだと生々しいからやめて」

椿はまた笑う。

「お仕事は終わりましたか?」

椿も手伝っていたが、美嘉が来たので許しをもらって抜けさせてもらった。

「うん。一段落したよ。だから来たの」

「そろそろ美嘉も帰るよ。邪魔しちゃいけないだろうし」

かばんを持った美嘉は立ち上がった。
見送る為、二人は玄関まで美嘉と一緒に行く。

⏰:09/03/15 03:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#655 [向日葵]
「じゃあね椿、またメールするよ。あんまり要の好き勝手させちゃ駄目だかんねっ」

「み、美嘉ちゃん……っ」

顔を赤くする椿に、美嘉はニヒッと笑って帰って行った。

ドアが閉まると同時に、椿は「うっ」と唸って胸元を押さえた。

異変に気づいた要が、椿の顔を覗き込む。

「椿?どうした?」

「あ……。いえ、なんでも」

「そう?」

⏰:09/03/15 03:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#656 [向日葵]
良ければ感想お願いします(●´∀`●)

*感想板*

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⏰:09/03/15 03:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#657 [向日葵]
要は歩いて行ってしまった。
椿はその後ろ姿を見ながら気持ち悪い部分を自分でさする。

さすっても、気分の悪さは優れない。
近頃、体が丈夫になった気がして、はしゃぎすぎていたのが負担になっていたのだろうか。

「よ、お姫さん」

後ろから声がするので、椿は振り返る。
そこには、赤茶色した髪の毛を後ろで結った、白衣を着た女の人がいた。

「明智先生」

「明智(あけち)」と呼ばれるその人物は椿ににこって笑いかける。

⏰:09/03/21 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#658 [向日葵]
本名、明智 英美(ひでみ)は、葵家の専属医師だ。

要宅には仕事部屋があり、週に何回か来る事になっている。
もちろん、別の場所にある病院の医師でもあり、かなり優秀らしい。

「ん?んん?」

明智は椿の顔をじろじろ見る。
見られている椿は落ち着かず、困惑する。

「お姫さん、なんか雰囲気が違うね」

今日は美嘉も明智もなんなのだろうと、椿は首をひねる。

「もしかして……」

明智が呟く。

⏰:09/03/21 02:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#659 [向日葵]
「先生……?」

「お姫さん、王子さま呼んで、ちょっと外の私の病院まで来て」

深刻な雰囲気に、椿は不安を隠せなかった。

――――――――――…………

「へ……?」

椿と要は診察室の中で口を揃えて呟き、目をまんまるくさせた。

「だからね、もう一回言うよ。お姫さんのお腹に、もう一つ命が宿ってる」

つまりは。

「こ、子供っ!?」

要が声をあげる。
椿も目を見開き、口を笑みの形にした。

⏰:09/03/21 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#660 [向日葵]
「やったね椿いっ!!」

要は椿に抱きついた。
二人の間に幸せムードが漂う。

―――が、明智の表情はやはり優れなかった。

「先生……?」

椿がゆっくりと呼ぶ。

「二人とも、よく聞いてね。子供が出来た事は喜ばしい事だ、だけどね……お姫さんの体が……」

「え……」

話はこうだった。

椿の体は、前に比べれば驚く程よくなっていた。
だが、もともと体力がなく、出産に耐えれるかどうかがわからない状態に今あった。

⏰:09/03/21 03:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#661 [向日葵]
椿の体を考えるならば、授かった命をあきらめてしまうか、それとも、産むか……。

「あたしからは何も言えない。お姫さんの命も、授かった命も大切だ。だから、二人にはよく考えてほしい。あたしからは、以上だ……」

重い空気が、診察室を覆いつくす。
要は頭が混乱しそうになっていた。しかし椿は、お腹を柔らかく手のひらで包み、シャンと背筋を伸ばしたままだった。

――――――――…………

「産みます」

今は帰りの車の中だ。
静かに、けれどはっきりと、椿はそう言った。

⏰:09/03/21 03:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#662 [向日葵]
要は眉を寄せて椿を見る。

「椿……。でも……もう少し、考えないか……?」

「私は、命にかえてもこの子を産みます。要さまに、会わせてあげたいんです」

「……」

要は何も言わなかった。

要にだって決めれる訳がない。
どちらも大切な命。
簡単にどちらかを切り捨てるだなんて非情な事は出来ない。

だからと言って、無責任に産めとも言えなかった。

どっちつかずな自分の気持ちに、要は吐き気がしそうだった。

⏰:09/03/21 03:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#663 [向日葵]
家に着いて、椿が家に入ろうとすると、要が椿の腕を引いた。

そのまま手を握って、ゆっくりと庭を歩き出した。

綺麗に剪定された植え込みからは、いい香りがする。
色とりどりの花壇の前で止まり、要は深呼吸した。

「マイナスに、考えちゃいけないよね」

椿は要を見る。
要も椿を見つめて、ぎこちなく微笑んだ。

「体力が無ければ、つければいい。だからさ、こうやって、毎日散歩しようか、椿」

その答えを聞いて、椿は嬉しそうに笑った。

⏰:09/03/21 03:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#664 [向日葵]
「はいっ……」

「しかし、どっちだろうね」

椿のお腹に触れようとして、要は躊躇う。
どうしたのかと、椿は要を見ると、要が照れ臭そうに笑う。

「面白いよね。ここに小さな宝物がいるかと思うと、壊れないか心配で、触るのさえ怖いよ」

要の言葉に、椿は笑う。
そして要の手をとると、優しく自分のお腹へと当てた。
その上から、椿は自分の手を重ねる。

「大丈夫です。触れれば触れる程、この子が喜びますよ」

椿がいとおしそうに、お腹を見つめる。
その姿が、また要はいとおしくて、椿を柔らかく抱き締める。

⏰:09/03/21 03:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#665 [向日葵]
でも、やはりどこかぎこちないその腕に、椿はクスリと静かに笑った。
椿は安心して要に身を預ける。
春の日差しに当たっているように、椿の心はほっこりと幸せに満ちていた。

しかし要は、やはりどこか迷っているように、腕の中にいる二つの命を大事に包んだ。

―――――――――…………

「わーっ!ホントにいっ!」

越宅に遊びに来た椿は、越に赤ちゃんの事を言った。

越はキラキラと、椿のお腹を見る。

「なにがあ?」

⏰:09/03/21 03:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#666 [向日葵]
越の妹、苺が、越の膝に乗りながら聞く。

「椿ちゃんのお腹に、赤ちゃんがいれのよ」

「ほあーっ!いちご、あかちゃんだっこするー」

「はい。いっぱいしてあげてください」

苺は満面の笑みで頷くと、兄の空に呼ばれ、出て行った。
しかし入れ替わりに、越の恋人である柴が入ってきた。

越には慣れた事なのか、柴が入ってきても特に気にはしなかった。

「で、どうかしたの?」

⏰:09/03/21 03:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#667 [向日葵]
「え?」

「相談があったから、うちに来たんでしょ?」

椿は急にシュンとする。
うつむいて、言いにくそうにする。

「実は……」

赤ちゃんについて、椿は越に話した。
話を聞いていくうちに、越の顔はだんだんと深刻になった。

「……そう。で、要くんはなんて?」

「一緒に頑張ろうと言って下さいました」

越は自分の事のようにホッと胸を撫で下ろす。

⏰:09/03/21 03:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#668 [向日葵]
「でも……。私が迷い始めてしまいました」

「え……」

椿は数日前、こんな会話を聞いた。

――――――――
―――――――――――

「大久保、僕は怖くて仕方ない」

椿が要の仕事部屋の前を通った時だった。
つい声がしたので、そこで足を止めてしまった。

「もし、椿も、子供も、僕は失う事になったら僕はどうしたらいいと思う?」

椿は目を見開いた。

⏰:09/03/29 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#669 [向日葵]
「要さま、弱気はいけません」

「分かってる。でも、不安がつきまとうのは仕方ないだろ……。僕は……それ程強い人間じゃない……っ」

表情は見えなくても、その苦しそうな声に、椿は顔を歪ませた。

もしかして、このままこの子を諦めた方が、要の為でもある……?

椿はお腹に手を触れた。

でも撫でる度、いとおしさが溢れてくれば、そんな事考えたくもなかった。

大切な、大切な一つの命。

そんな簡単に、手放せる訳がなかった。

⏰:09/03/29 03:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#670 [向日葵]
椿はお腹を抱えるようにしてその場に座り込み、涙を流した。

自分は、どうすればいい……?
どうすれば要も、この子も、傷つけないですむ?

ああ……要は、ずっとこんな風に悩んでいたに違いない。
なのに自分は、自分の事しか考えてなかった。
要の気持ちなんて、これっぽっちも……考えてなかった。

――――――
――――――――――

「そう思ったら、何が一番正しい選択か、分からなくなっちゃったんです……っ」

思い出して、椿はまた涙を流した。

⏰:09/03/29 03:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#671 [向日葵]
そんな椿を、越はただ頭を撫でてやるしか出来なかった。

――――――――………………

ひとしきり泣いた椿は、照れ臭そうに謝ってから帰って行った。

椿を乗せた車を、越はみつめ、悩んでいた。

「難しいね……」

隣にいた柴が呟く。

「俺だって、そんな時、どうしたらいいか分かんないや……」

そう呟く柴の手を、越はキュッと握る。

「……うん。……そうだね」

きっと、最後まで、悩み続けるだろうなと、越は思った。

⏰:09/03/29 03:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#672 [向日葵]
それでも、悩みぬいた先に、何かいい答えが待っていると信じている。

だから椿もそうであって欲しいと、越は車が行ってしまった方をしばらく見つめていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

車に揺られながら、椿は体の疲れを感じ、目を瞑る。

そういえば、最近ちゃんと寝てない気がすると思いながら、段々と意識が遠のいていく。

気がつけば、いつの間にか要宅ではなく、実家にいた。
でも、自分の体は動かない。
かと思えば、誰かの力によって、動き出した。

そして薄々気づきつつあった。

⏰:09/03/29 03:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#673 [向日葵]
これは、母のお腹の中だ。

見慣れたドアから、若い父が出てきた。

「お願いだから、安静にしていてくれ。それでなくても君の体は……」

困っている父に対し、心地よい母の声が耳に届く。

「あらあら、そんな事ではこの子に笑われてしまいますよ」

「笑われたっていい。未だ、私はどうしたらいいか迷ってる情けない男なのだから」

母の手が、父の手に重なる。

「大丈夫です。例え私がダメでも、この子はちゃんと生まれてきてくれますわ。私の分も、強く……。ね、椿……」

⏰:09/03/29 03:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#674 [向日葵]
お腹をさする母。
しかし椿は頭を撫でられている気がした。

だからか、強く思う。

私は、絶対に生きる。
そう強く思う。

「この子は今の事、きっと全部見えてますよ。だからきっと、あなたを悲しますような事しませんわ」

まるで全て分かってるかのように母は言った。
そして次の瞬間、柔らかな温かい光に包まれた。
と思えば、淡い黄色い空間に椿はたたずんでいた。

「ね……椿」

声がして、驚いて椿は振り返れば、優しい笑顔を浮かべた母が立っていた。

⏰:09/03/29 03:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#675 [向日葵]
「母さま……っ!」

思わず走り、椿は母の元へ。
走った勢いのまま、母に抱きつく。

「あらあら駄目よ。この子がびっくりしちゃう」

フフフと笑いながら、母は椿のお腹を、さっき撫でていたように優しい手つきで撫でる。

その感触が、あまりにもリアルで、椿は夢かどうかわからなくなった。
試しに頬を軽くつねってみるが、やっぱり痛いか痛くないか分からなかった。

「母さま……。私、私どうすればいいかわからないです……っ」

母が目の前にいるせいか、急に甘えたくなって、椿は弱音を吐き出す。

⏰:09/03/29 03:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#676 [向日葵]
「もう嫌です……っ。答えが見つからない……っ」

「落ち着いて椿……。大丈夫だから」

母は微笑み、椿の頬を両手で包む。

温かい。
本当にこれは夢……?

「この子は元気ねぇ。早くあなたたちに会いたがってる」

お腹を見つめながら母は呟く。

「私もおばあちゃんかしら?フフ、嬉しい、孫が見れるだなんて」

「で……でも……」

私は……。

⏰:09/03/29 03:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#677 [向日葵]
「あら不安?じゃあ母さまがおまじないをかけてあげる」

そういうと、母は椿のおでこにキスをおとし、また椿のお腹に手をあてると、目をゆっくりと閉じる。

するとしばらくして、お腹がほかほかと温かくなってきた。
何故か、自分の中の命を強く感じれる。それと同時に、体に力がみなぎる気がした。

「これで平気よ」

そういうと、また辺りが光で包まれ出した。

「か、母さま……っ」

「私は、いつまでもあなたたちを見守っているから」

⏰:09/03/29 03:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#678 [向日葵]
―――――――――…………

「椿さま、到着いたしました」

椿は目をゆっくりと開けた。

「お疲れのようで。お部屋でゆっくりなさってください」

椿は車を降りた。
降りて、要宅を見つめる。

疲れてはいなかった。
むしろ体は軽く、そしてお腹は温かいままだった。

あれは、やはり夢じゃない?
母がつかの間の魔法を使ったのだろうか。

それでも、椿は決意をした。
もう、絶対に迷わない。

足を進め、家の中へと入っていく。
真っ直ぐ向かった先は、要の仕事部屋だった。

⏰:09/03/29 03:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#679 [向日葵]
ドアをノックする。
出てきたのは、要本人だった。

「椿……。どうしたの?」

いつもより、凛とした表情の椿に、要は首を傾げる。

「今、お時間よろしいですか?」

「あ……うん」

ソファに二人して座る。
要は戸惑いながら椿を見る。

「要さま。私……やっぱり産みたいです」

「…………。うん。分かってるよ」

「いえ、要さまは私とこの子を疑ってます」

⏰:09/03/29 03:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#680 [向日葵]
「疑ってる?」

要は何がなんだか分からなくなってきて混乱しだす。
でも椿は、冗談を言ってる訳でも、茶化している訳でもなさそうだった。

「私と、この子が、助かる訳ないとお思いなのでは?」

言われて、要は眉を寄せる。

「私は……確かに弱いかもしれない。でも、要さまが思っているより強い人間です。もちろん……この子だって」

要は目を伏せる。
ゆっくりと息を吐き、椿を見る。

「その通りかもしれない。……だって僕は、こんなにも恐れてるから。君や、この子が……全てが、なくなってしまうかと思うと……気が狂いそうだよ」

⏰:09/03/29 03:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#681 [向日葵]
椿はクスリと笑う。

「要さま、お父さまになられるんですよ。お父さまが不安がってましたら、この子まで、不安になって余計に会えないですよ」

さらりとそんな事を言うから、要は驚いて椿を見る。
でも椿は、いとおしそうにお腹を撫でる。
まるで、褒める時、頭を撫でるみたいに……。

「この子は、今きっと、全て見ています。だから、要さまが悲しむような事はしません。もちろん、私だって……」

椿は要の手をとり、優しく包む。

「私を信じて下さい。大丈夫です。私は分かります。必ず、要さまを笑顔にします」

⏰:09/03/29 04:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#682 [向日葵]
母は、父との約束を守れなかった。
命にかえてもだなんて、冗談だっただろう。
誰よりも、父に笑顔になって欲しいと願っていただろう。

だからこそ、椿に願いをたくしたのかもしれない。

母は、椿を産んで亡くなった。
要はだからこそ、椿を心配した。

それが分かるから、椿は言いたかった。

私は母ではない。
私だ、と。

運命は、必ずしも同じじゃないから。
だから私は、必ず要の元へ戻ってくる。
椿はそう言いたかったのだ。

⏰:09/03/29 04:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#683 [向日葵]
その意味を感じとったのか、要は全身の力を抜く。
かと思えば、涙がぽたりと一粒落ちる。

椿の言葉で、不安の鎖が取れたのだろう。

要だって、椿と同じくらい、いや、それ以上に悩んだ。
それは、椿も、椿の中に宿る命も、大切が故に。

要は椿とおでこを合わせて微笑む。

「うん。必ず、笑顔になる。それで、この子が誇れるような父親になるよ」

その言葉に、椿も涙を流した。

「……はい」

⏰:09/03/29 04:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#684 [向日葵]
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#685 [向日葵]
二人は産まれてくる事を楽しみに待った。

要が仕事が休みの時は、散歩に出掛けたし、椿は産まれてくる赤ちゃんの為に手編みで帽子や靴下を作る。

小さな小さなその靴下が出来れば、そっと手に取り、微笑む。

ある日、要が訊いた。
ちょうど、5ヶ月を向かえる頃。

「椿。そういえば、性別ってもう分かるはずだよね?きいてないの?」

赤ちゃん用の玩具を見ていた椿は、こくりと頷いた。

「楽しみは、とっておくタイプですから。要さまは、気になりますか?」

⏰:09/04/03 02:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#686 [向日葵]
すっかり、母親の顔になっている椿を、要は眩しそうに目を細め、見つめた。

ゆっくりとした動作で、椿を抱き締める。

「いや、僕も楽しみにしておくよ」

毎日が幸せだった。
まるで、温かい光に包まれているように。

これは、母の力?

椿はそう思わずにはいられなかった。

そして、いよいよ、臨月になった。

初出産の椿より、何故か要の方が落ち着きがなかった。

⏰:09/04/03 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#687 [向日葵]
「椿、何か変だと思ったらすぐに言うんだよ?ああそれと、明智にはちゃんと色々頼んでるから心配はいらないからね。それと……」

「要さま」

クスクスと笑っている椿は、大きくなったお腹を優しく撫でながら要の手を取る。

「そんなにすぐには産まれませんから。とりあえず座りましょう」

手を引かれる要は、少々情けなくなっていた。

自分がこういう落ち着いた態度でいなくちゃいけないのに、取り乱してばかりだ。

「この子に笑われちゃいますよ」

⏰:09/04/03 02:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#688 [向日葵]
複雑な顔をする要に、また椿は笑う。

「いよいよ、会えますね。どんなに、待ち望んでいたか……」

椿がお腹を撫でるのにならって、要も撫でる。

「ん……男の子のような気がする」

「そうですか」

「椿はどっちがいい?」

「どちらでも」

「欲がないなあ」

「元気に産まれてくれたら、それだけでいいんです」

「そうだね」と呟いて、要は椿の肩を抱き寄せると、頬にキスをする。

⏰:09/04/03 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#689 [向日葵]
「どちらにしても、可愛い僕らの子供だよ。世界一、いや宇宙一可愛いに違いない」

「はい……」

それからまた、数日間、何事もなく過ごした。
要は、とにかく椿に安静にするようにと、椿にあまり仕事を手伝わせなかった。

その間、椿は、花壇の世話をしたりするのだった。

「もうすぐで、この花の蕾が開きそうですわね」

椿についているメイドが言う。

⏰:09/04/03 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#690 [向日葵]
淡いピンク色の花。
椿が前に種を植え、育ててきたのだ。
それに、じょうろで水をやる。

「花が開く瞬間が見れたらいいんですけど……。……っ?」

椿はお腹をおさえる。

確かに今、チクンと痛みがあった。
気のせいかと思えば、またチクンとくる。
それは段々と時間差がなくなり、痛みは、次第に増していく。

「椿さま……?椿さま!大丈夫ですかっ!?」

椿は顔をしかめる。

ああ、あなた、産まれてくるのね。

⏰:09/04/03 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#691 [向日葵]
――――――――――…………

分娩室に椿が入って、30分が経った。

椅子に座っても落ち着いていられない要は、先ほどから立ったり座ったりを繰り返していた。

そこに、椿の父が、病院へ来た。
要は一礼する。

「椿は?」

「まだです。30分ほど前に入ったままです」

「そうか……」

父も落ち着かず、近くの窓から外を眺めたり、壁によっかかったりする。

⏰:09/04/03 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#692 [向日葵]
「椿は……」

「……え」

「とても、軽く産まれてきてね。なんグラムかは忘れてしまったけど、私は毎日心配だったよ」

要は黙って話を聞く。

「それでも、生きようと、力強く泣く姿に、私は涙が溢れたよ。命というのは、本当に素晴らしいものだと思えた」

「……そうですね」

要も、今は分かる。

自分が父親になるんだと思えば、椿の父のように、ああなんて素晴らしいと思った。

「椿は、体が危ないそうだね」

⏰:09/04/03 02:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#693 [向日葵]
やはり、体の事は、安心出来ないと明智に言われた。

それでも今日まで、二人は光を信じて過ごしてきた。

「でも、私は、椿は大丈夫な気がするよ」

椿の父は、いとおしそうに、分娩室のドアを見る。
その中の椿を見守るように。
もしかすると、妻に重ねているのかもしれない。

要も、ドアを見つめる。

頑張れ……。

それしか言えないけど、要は思った。

―――――――
――――――――――

⏰:09/04/03 03:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#694 [向日葵]
――――――どれくらい、時間が経っただろう。

時計を見るのも、落ち着きなく動くのも疲れてしまった要は、ただただ椅子に座り、祈るように手を組み合わせて、額に押しつけていた。

目を、ふと閉じた時だった。

(…………ま)

「要は目を開ける」

何故か要は、真っ暗な空間にいた。
でもその空間の四方八方には、星のようにチカチカと小さな光が瞬いていた。

どうなってる?
疲れて寝てしまったのか?

⏰:09/04/03 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#695 [向日葵]
(と……ま……)

また聞こえた。
可愛らしい声だ。

温かい、黄色い光が、要の腕に宿る。
触ってみれば、ふかふかとしていた。
それはまるで、羽毛のよう。

(父さま……やっと、会えた……)

その声は、その黄色い光から聞こえてきた。

「……君は……」

言いかけた時だった。
突然、大きな泣き声が聞こえてきた。

要はハッとした。
すると、そこは元の病院だった。

⏰:09/04/03 03:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#696 [向日葵]
腕の中に、もう光はなかった。

ガチャと開けられると、白い布にくるまれたものを、看護婦が抱いて歩いてくる。

近づくにつれ、泣き声は大きくなっていった。

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

要は顔を覗き込む。

小さな小さな口を、目一杯開けて、その子は泣いていた。

ああ……僕たちの光だ……。

「あの、看護婦さん、娘は……」

父に言われ、要はハッとした。

⏰:09/04/03 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#697 [向日葵]
「椿……っ!!」

要は分娩室に入ろうとしたが、明智に止められた。

「落ち着きな。アンタお父さんだろ。ちゃんと姫の事話すから」

明智は淡々と語り出した。

――――――――
――――――――――――

ギンリョウソウ。

今思えば、もう少しマシな植物があっただろうに。

苦笑しながら、要はある所へ向かっていた。

それは、小さな挙式場。

⏰:09/04/03 03:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#698 [向日葵]
「とうさま?」

小さな手で、愛娘が要の人差し指を引っ張る。

「いまからどこにいくの?」

「母さまのお友達の結婚式だよ。さっき言っただろ?希望」

希望(のぞみ)。
愛娘につけた名前だ。
要が絶対に希望がいいと言って、回りの意見もきかずにつけたのだ。

「ふうん?」

何度説明しても分からない希望に笑いかけて、頭を撫でてやる。

黒く、綺麗な髪は、椿にそっくりだ。

⏰:09/04/03 03:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#699 [向日葵]
「あ、要!こっちこっち!」

式場に着けば、美嘉が手招きする。

「あ、希望っ!大きくなったねーっ。いくつになったの?」

「よーんっ」

短い指で、必死に数を表す。

そう、もうあれから4年も経つのだ。
要ももう少しすれば24歳になる。

「とうさまー。かあさまはー」

「……きっと来るよ」

要は空を見上げた。
今日はいい天気だ。

⏰:09/04/03 03:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#700 [向日葵]
自分達の挙式も、そういえば天気が良かった。
そして椿は、今まで見た中で、思わず見とれてしまうほど、綺麗だった。

「あーっ!」

希望が指をさす。
その方を見て、要は微笑む。

「椿」

「かあさまーっ!」

「要さま、希望、美嘉ちゃん」

椿は、ゆっくりした足取りでこちらへ向かってくる。
希望は待ちきれないのか、走って椿を迎えに行く。

「お待たせしました」

⏰:09/04/03 03:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#701 [向日葵]
――――――――
―――――――――――

「椿は……っ!」

希望が誕生した日、要は明智の様子から、最悪の事態が起きたと思った。

あまりに、明智が話さないから、苛立つ。

「早く喋れっ!」

「わーった。わーったからあまり騒ぐな」

フゥとため息をついて、明智は口を開いた。

⏰:09/04/03 03:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#702 [向日葵]
「お姫はな……」

ドクンと、鼓動が不規則になる。
音が出るほど、唾を飲み込むのに力が入る。

「……。びっくりするぐらい元気だよ」

思わずこけそうになるのを要は必死に耐えた。

「いっやーあれだけ心配してた体力もなんのその。母の底力?すごいねー」

感慨深げに頷くから、要は歯を食い縛る。

「だったら……深刻な雰囲気醸し出すなあーっ!!」

迷惑なほど、病院に要の叫びが響き渡った。

⏰:09/04/03 03:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#703 [向日葵]
―――――――
――――――――――

「越と柴くんもやっと結婚かー」
チャペルに向かいながら、美嘉が言った。

「結婚しても、とりあえずはあの家にいるんだってー」

「柴くんが我慢させられるんじゃ……」

同じ男として、要が柴に同情する。

「今までそんなんだから慣れたって」

その言葉に、三人は笑う。
唯一、希望だけが首を傾げていた。

「そういえば椿、どうして遅れたの?」

⏰:09/04/03 03:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#704 [向日葵]
椿が遅れた理由を、美嘉は知らない。
椿は少し照れ臭そうに笑う。

「検診です」

「え、具合悪いの!?」

「いえ……赤ちゃんです」

一瞬、美嘉は固まり、跳び跳ねるようにして驚いた。

「え、ええーっ!!うっそーっ!!」

「もうすぐ3ヶ月だっけ」

「はい」

望まなかった婚約。
そしていつの間にか求めあって結婚。

人生も、運命も、どうなるかなんて分からない。
だから、楽しい。

⏰:09/04/03 03:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#705 [向日葵]
友がいて、愛する子供がいて、大切な人がいて……。

こんなに幸せな事はない。

「ねえ椿、そういえば、ずっと前に、ギンリョウソウって何?って訊いたよね。わかったの?」

椿はとびきりの笑顔で頷いた。

「心を照らしてくれる、大切な存在の事ですわ」











*Fin*

⏰:09/04/03 03:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#706 [向日葵]
上の続きは気にしないでください


*ギンリョウソウ*END

⏰:09/04/03 03:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#707 [向日葵]
*アンカー*

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-710

*感想板*
>>684

良ければ一言お願いします(●´∀`●)

⏰:09/04/03 03:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#708 [乃愛]
あげこの話めっちゃ好きです

⏰:09/05/04 21:39 📱:F01A 🆔:☆☆☆


#709 [ひな]
あげ(*´`*)

⏰:10/01/10 11:52 📱:N905i 🆔:☆☆☆


#710 [我輩は匿名である]
失礼します。
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700

⏰:10/01/10 13:08 📱:S001 🆔:☆☆☆


#711 [我輩は匿名である]
>>401-450

⏰:10/01/10 18:55 📱:S001 🆔:☆☆☆


#712 [我輩は匿名である]
あげる

⏰:10/01/24 14:54 📱:N905i 🆔:☆☆☆


#713 [我輩は匿名である]
>>700-750

⏰:10/04/08 15:49 📱:SH06A3 🆔:☆☆☆


#714 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800

⏰:10/06/11 23:42 📱:SH06A3 🆔:☆☆☆


#715 []
o(^-^)oo(^-^)o

⏰:12/04/11 12:22 📱:SH01B 🆔:☆☆☆


#716 [我輩は匿名である]
これすきー!!

⏰:12/05/14 14:53 📱:Android 🆔:☆☆☆


#717 [匿名]
あげる

⏰:12/12/28 15:09 📱:KYL21 🆔:☆☆☆


#718 [&◆JJNmA2e1As]
完〜👩‍✈️👨‍🚒👩‍🚒👨‍🎨👩‍💼👨‍💼

⏰:22/09/30 18:45 📱:Android 🆔:☆☆☆


#719 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/10/01 21:54 📱:Android 🆔:☆☆☆


#720 [○○&◆.x/9qDRof2]
【銀ーsilverー】

 見上げた空にはたくさんの星が輝いていた。その日僕は空に輝く星達に誓ったんだ。


「星の色だ」

 夜、独りきりで誰もいない空き地のベンチに座っていると、いきなり誰かが話し掛けてきた。驚いて俯いていた顔を上げると目の前にはその声の主。だが、そこに立つ少女を見て更に驚いた。こんな暗い夜でもはっきりと分かるくらい顔が腫れている。

⏰:22/10/02 19:35 📱:Android 🆔:☆☆☆


#721 [○○&◆.x/9qDRof2]
そしてよく見ると服から僅かに見える手足にも痣(あざ)のようなものがあり、少女は裸足でそこに立っていた。

「あなた、いきなり何ですか?」

自分から発せられたその言葉に我ながら、あぁ冷徹だなぁと思った。見ず知らずの他人の事を気に掛ける程ぼくは優しくないんだ。

「星の色だから綺麗だなぁと思って」

そういって少女は僕の“星色”の髪にそっと触れた。

「それはどうも」
「.......隣座ってもいい?」

「どうぞご自由に」

ぼくがそう言うと少女はその細い腰をそっとベンチに下ろした。

.......長い沈黙。
しばらくして少女が口を開いた。

⏰:22/10/02 19:36 📱:Android 🆔:☆☆☆


#722 [○○&◆.x/9qDRof2]
「わたしの、このナリ、気にならないの?」
「いえ別に」
「そう.......どうしてここにいるの?」

「アナタには関係ない事でしょう」
「.......そうだね」

彼女にはそう言ったけれど、本当はぼくにも何故自分がここにいるのかわからなかった。ここ最近、毎日のように気付いたらこの場所に来ているんだ。そして何をするでもなく、ただ黙って長い時間ベンチに座り続けている。たまに星を眺めたりして。だが、今日はいつもとは少し違う。ひとりの少女がぼくの隣に座ってあれやこれや話し掛けてくる。邪険に扱っているように思われているだろうけど、決して不快ではなかった。

時折、少女が見せるふんわりとした笑顔が、腫れているのにも関わらず、不覚にも可愛らしく見えたんだ。

「.......わたし、もう行かないと。帰りを待つ人がいるの」

 どのくらいの時間が経っただろう。少女の話にただ相槌を打つだけだったぼくは、その言葉にもまた相槌を打った。

「僕もそろそろ帰ろう」

少女が居なくなり、静まり返った空き地にはぼくの声が寂しく響いた。翌日、ぼくはまたひとり、いつもの空き地のベンチに座っていた。しばらくして昨日の少女がこちらにやってくるのが見えた。

「また来ちゃった。今日もいると思ったんだ」

今日はちゃんと靴を履いているようだ。少女の顔は昨日と比べて随分と腫れがひいていた。ぼくの隣に座った少女はまた昨日と同じように色々話し掛けてきた。くだらない話ばかりだったけど、何故かぼくを退屈させなかった。そんな日々が続き、少女と過ごす夜が当たり前の事になっていた。

⏰:22/10/02 19:36 📱:Android 🆔:☆☆☆


#723 [○○&◆.x/9qDRof2]
黒猫の棲むところ
最新 最初 全 🆕
#1 [イリア]


 黒猫の棲むところ


 クロネコノ スムトコロ


>>2
⏰:09/03/22 12:11 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#2 [イリア]

>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750
>>751-800
>>801-850
>>851-900
>>901-950
>>951-1000

⏰:22/10/02 22:34 📱:Android 🆔:☆☆☆


#724 [○○&◆.x/9qDRof2]
 感想などお待ちしてます(゚∀゚)★
⏰:09/03/22 12:12 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#3 [イリア]

『―…雨よ、猫』

あの人の声が、響く。

『雨は好きよ
 雨の音は嫌いだけど』

懐かしい、これは…夢?

『貴方に声をあげる
 生きていくための、声を』
⏰:09/03/22 12:14 📱:W61P

⏰:22/10/02 22:35 📱:Android 🆔:☆☆☆


#725 [○○&◆.x/9qDRof2]
🆔:☆☆☆

#4 [イリア]



第一話: opening


⏰:09/03/22 12:14 📱:W61P 🆔

⏰:22/10/02 22:35 📱:Android 🆔:☆☆☆


#726 [○○&◆.x/9qDRof2]
#5 [イリア]


――…………?


目を開けた。
知らない景色。

空が見える
雨でも降りそうな曇天…

⏰:22/10/02 22:36 📱:Android 🆔:☆☆☆


#727 [○○&◆.x/9qDRof2]
6 [イリア]

「…ん?」

何で空が…

―…ガバッッ!!

体を起こすと、
あちこちに痛みが走った。
⏰:09/03/22 12:16 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#7 [イリア]

「痛ったぁ…
てか、どこよここ…
って、キャッッ?!!」

ふと体を見ると、
私の体は血まみれ。

⏰:22/10/02 22:37 📱:Android 🆔:☆☆☆


#728 [○○&◆.x/9qDRof2]
8 [イリア]

「え?え?何?
何でこんなに血が…」


でも、


「体は痛いけど…
それにしちゃ血ですぎ…
これ私の血じゃなくない?」
⏰:09/03/22 12:18 📱:W61P

⏰:22/10/02 22:37 📱:Android 🆔:☆☆☆


#729 [○○&◆.x/9qDRof2]
9 [イリア]

あ、そっかー
これ違う人の血だ!
良かった良かった…なんて

「思えるはずないし!
誰の血だよー気持ち悪っ」

そう言いながら、試しに
左腕の血を拭う。
傷はなかった。
⏰:09/03/22 12:18 📱:W61P 🆔

⏰:22/10/02 22:37 📱:Android 🆔:☆☆☆


#730 [○○&◆.x/9qDRof2]
#10 [イリア]

「何なの本当…
てか、ここどこだよー」

見渡す限りの木、木、木。
林か森か、そのあたりだろう。
林と森の違いなんて
分かんないけど。
⏰:09/03/22 12:18 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#11 [イリア]

空を仰ぐ。
さっきは気づかなかったけど
上のほうに崖が見えた。

「あそこから落ちたのかなぁ?
…まさかね、なら死んでるか」

周りには誰もいないので、
もちろん独り言。

⏰:22/10/02 22:38 📱:Android 🆔:☆☆☆


#731 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:09/03/22 12:19 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#12 [イリア]

「とにかく帰ろ…」

私は立ち上がった。
⏰:09/03/22 12:19 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#13 [イリア]

あ、ものすごく紹介遅れました。

私の名前は七衣(ナナイ)。
漢数字の七に、衣(コロモ)。
⏰:09/03/22 12:20 📱:W61P 🆔

⏰:22/10/02 22:38 📱:Android 🆔:☆☆☆


#732 [○○&◆.x/9qDRof2]
14 [イリア]

「ふ…ん――ッ!!」

立ち上がり体を伸ばす。
うん、痛いし血は生臭いけど
まぁ歩けるくらいには健康。
⏰:09/03/22 12:21 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#15 [イリア]

「てか臭いんだけど…
誰の血か知んないけどさ…」

そう言いながら川を探す。
こんだけ深そうな森(林?)なら
川の一本や二本
流れてそうなところ。

⏰:22/10/02 22:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#733 [○○&◆.x/9qDRof2]
早く、洗い流したい。
⏰:09/03/22 12:22 📱:W61P 🆔:☆☆☆

⏰:22/10/02 22:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#734 [○○&◆.x/9qDRof2]
#16 [イリア]

少し歩くと川があった。
曇天で光のない場所でも、
その水が透明だと分かる。

「ラッキー!
綺麗な水はっけーん!」

私は水に近づくと、
ボロボロの衣服を捲(メク)りながら
体から血を洗い流す。
⏰:09/03/22 12:22 📱:W61P 🆔:

⏰:22/10/02 22:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#735 [○○&◆.x/9qDRof2]
17 [イリア]

流石に全裸は嫌なので
胸などは洗えなかったが、
見えるところは大分綺麗になった。
⏰:09/03/22 12:23 📱:W61P 🆔

⏰:22/10/02 22:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#736 [○○&◆.x/9qDRof2]
18 [イリア]

「もうそろそろいいかな…
ほんじゃ行くかぁ」

誰かに言った訳じゃないけど、
まぁ気持ちを高めるために声を出す。
私は川を逆流するように歩き始めた。
⏰:09/03/22 12:23 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#19 [イリア]

何分か歩くと、川から流れる水の色に
少し赤が混じっていた。

血かなー
今日は何か、血にご縁が…
⏰:09/03/22 12:24 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#20 [イリア]

「―…て、何で冷静なの私!」

一人突っ込みを入れると走り出した。
体は痛かったが、川の赤色からして
川上に傷を持った人がいるのだろう。
⏰:09/03/22 12:24 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#21 [イリア]

「ハァッ…ハァッ…誰かいますかー?」

―…


返事はない。
⏰:09/03/22 12:24 📱:W61P

⏰:22/10/02 22:40 📱:Android 🆔:☆☆☆


#737 [○○&◆.x/9qDRof2]

#588 [隠謀(2/2)◆vzApYZDoz6]
そう言って白衣の男はくぐもったように笑い、側にあったテーブルのマグカップを手に取った。
薄く湯気が立ち上る中身を一口啜り、再び口を開く。

「死人に口なしと言うだろう?」

「………」

自分の手のひらに視線を落とす。
既に血の通わないそれは青白く澱んでおり、軽く握ると冷ややかな感触が返ってきた。
手のひらを自身の胸に当てる。
柔らく弾力があり、それなりの大きさもあるが、しかし心臓の鼓動は微塵も感じてはくれなかった。

「……ふん」

「ま、働きには期待しているよ。その為に君達を直したのだから」

そう言いながら、白衣の男が顎先で部屋の中央を指す。
そこにはベッドが二つ。即ち自分が今いるベッドと、その隣。
自分が着ている物と同じような、簡素な白い患者衣を着た男が、先刻までの自分と同じように眠っている。

その横顔を眺めながら、私は無意識のうちに冷たい手を伸ばした。
男の頬に指先が触れる。と同時に男の眉間に皺が寄り、頬に僅かな力が入る。
驚いて反射的に手を引いた私と、その様子を無表情に眺めていた白衣の男の見守る中、もう一人の屍が目を覚まそうとしていた。

⏰:22/10/03 16:44 📱:Android 🆔:☆☆☆


#738 [○○&◆.x/9qDRof2]
・ 。
 💖∴。 
  ☆  ・゚💕。
  ✨❤ ☆  
  ・ ゚💗。・゚💝。
 ☆。·*・。
    💛゚・。 🌸・。
 💖 ✨☆。💗✨
  ・゚💕✨°
     💖 ゚・。 ♡ 。
       ゚✨ 💝 。

⏰:22/10/03 16:44 📱:Android 🆔:☆☆☆


#739 [○○&◆.x/9qDRof2]
#13 [[世界の真実]ふむ(1/2)◆s8/1o/v/Vc]
目が覚めた。
僅かに身震いするような肌寒さに瞼を開ければ、覚醒しきっていない頭で考える。
どうやら俺は寝てしまったらしい。
今は何時だろうか…。
カーテンが閉められていない窓から見える外は、既に日が没しており真っ暗な闇の世界を作り出していた。
室内も電気が就いておらず薄暗かった。
枕元の電子時計が緑色の字を発色させて12:37の文字を象っている。

⏰:22/10/03 16:53 📱:Android 🆔:☆☆☆


#740 [○○&◆.x/9qDRof2]
「夜中か…」

寝過ぎたと後悔しつつも、のろのろと起き上がれば室内を明るくしようと電灯の電源に手を伸ばす。
カチリ…、と短い音を立ててスイッチが入れ代わった。
しかし、電灯は光らない。
部屋は不気味な薄暗さを保っていた。

⏰:22/10/03 16:53 📱:Android 🆔:☆☆☆


#741 [○○&◆.x/9qDRof2]
「んだよ…電球切れてんのか?」

愚痴を零せば少しだけ苛々が込み上げてくる。
テレビに近付くとおもむろに手を伸ばし電源を入れる。
テレビは依然として真っ黒を画面に映し出している。

「何だよ…停電かよ…」

小さく舌打ちすれば一人納得し、暗いままの室内のベッドに腰を下ろした。
携帯を取り出すと無造作に開く。
僅かな携帯の眩しさに目を細めれば、待受画面には12:39の文字。
そして電話が一件来ていた。
それを確認しようと中身を開いた瞬間であった。
一瞬砂嵐になったかと思った矢先、画面は真っ黒になって電源が落ちた。

⏰:22/10/03 16:53 📱:Android 🆔:☆☆☆


#742 [○○&◆.x/9qDRof2]
#16 [[世界の真実]ふむ(2/3)◆s8/1o/v/Vc]
「おいおい冗談じゃねぇぞ!」

俺は慌てて電源を押し戻す。
しかし、いつまで押し続けていても一向に電源は戻らなかった。
電池はしっかりと三本補充されていたのを見たから、電池切れではないだろう。
念のため、充電器に差し込んだが反応はなかった。
そういえば停電だったな…。
思い出せば諦めたように携帯を投げ出して、ベッドに倒れ込む。
静かな時間が流れて、妙な違和感を抱いた。
嫌な予感のような、違和感を。
不意に横を見れば電子時計が発色していた。

「…ん?」

⏰:22/10/03 16:54 📱:Android 🆔:☆☆☆


#743 [○○&◆.x/9qDRof2]
はて、気のせいだろうか。
電子時計の示す文字の光が弱々しくなってきているような…。
ぼんやりとそんな事を考えていたら、突然糸が切れたかのように電子時計の文字が消えた。

「…!?」

それを見ると俺は目を丸くした。
さっきからどうもおかしい。
違和感の原因がわかったのである。
無音なのだ。
静かすぎる、車の音すら聞こえない不気味な程無音の世界。
俺は立ち上がり窓を全開に開けた。
⏰:08/03/03 03:23 📱:SH905i 🆔:☆☆☆

#17 [[世界の真実]ふむ(3/3)◆s8/1o/v/Vc]
「何だよ…これ」

声が震えていた。
目の前に広がった光景は、真の闇。
停電の規模ではなく、人を失った不気味に佇む建物たちがひっそりと列を連ねていた。
照らし出すのは淡く朧な月明かりのみであった。

「誰も…いないのか?」

その時、後ろのベッドの片隅から声が聞こえた。
ベッドに寝転ぶ時はいつも掛けているラジオが、作動した様子だった。
俺はゆっくりと振り返る。
不気味なまで薄暗い室内に無機質なラジオの声が響いた。
途切れ途切れに数秒流れた後、ラジオは完全にその機能を失った。
俺は聞き取り難いラジオの内容に言葉を失った。
愕然と立ち尽くす俺に、先程ラジオは言った。

《現在…ょ…には…緊急…避難勧告が…されて…大変…危険…すので…ただちに…》

喋る物を無くした世界は、無音の世界へと続く不気味な静けさに包まれていった…。

⏰:22/10/03 16:54 📱:Android 🆔:☆☆☆


#744 [○○&◆.x/9qDRof2]
#126 [[手紙(1/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]

⏰:22/10/03 17:02 📱:Android 🆔:☆☆☆


#745 [○○&◆.x/9qDRof2]
👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋
👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋

⏰:22/10/03 17:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#746 [○○&◆.x/9qDRof2]
🌸・ 。
 🌸∴。 *
  ✨・゚*。🌸・
 💖 ・ 🌸 ✨
     °*.* 💖
   ・ ゚*。・゚✿。
  🌸 🌸 ・✨°*.
   。·*・。゚ *.。🌸。 ✿
    * 。・゚*.。
     * 💖 ゚・✨🌸 * 。
      ・゚ 。🌸

⏰:22/10/03 17:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#747 [○○&◆.x/9qDRof2]
・ 。
❤∴。 
゚ ・。❤
   ❤・💜
   ゚💜。 💜 。
゚✨ 💙゚・。✨
  💙。💙✨
    ✨゚・。💙 ✨
    ・゚💚。・
  💚✨💚·
     💛・💛
    💛 。゚✨
       ・ ・。💛

⏰:22/10/03 17:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#748 [○○&◆.x/9qDRof2]
・ 。
 ⭐∴。 
  🌟゚・。
゚💫。
   ✨🌟 💫  
   ・゚⭐。・
    ⭐✨。·
  ⭐・。🌟・。✨🌟
    ✨🌟
     ・゚💫✨°
   🌟 ゚・。 💫 。
     ゚⭐。゚✨ 🌟

⏰:22/10/03 17:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#749 [○○&◆.x/9qDRof2]
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 / ̄ ̄\
< ´・    \
 | 3   丶
< 、・    \
 \__/∪ _ ∪)
      U U

⏰:22/10/03 17:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#750 [○○&◆.x/9qDRof2]
💟😘(っ'-')╮=͟͟͞͞♡💕好き♡😳💕💟

⏰:22/10/03 17:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#751 [○○&◆.x/9qDRof2]
      ∩_∩
いいね✨ (๑ŐωŐ๑) ✨いいね
💖+。⌒Y⌒∪⌒∪⌒Y⌒。+💖

⏰:22/10/03 17:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#752 [○○&◆.x/9qDRof2]
|∧▸◂∧""
| *¯ ³¯)ちゅ✨
|⊂ノ

⏰:22/10/03 17:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#753 [○○&◆.x/9qDRof2]
◇。+。◇。+。◇。+。◇。+。◇。
◇。+。◇。+。◇。+。◇。+。◇。

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#754 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#755 [○○&◆.x/9qDRof2]
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🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ

⏰:22/10/03 17:28 📱:Android 🆔:☆☆☆


#756 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#757 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#758 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#759 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#760 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#761 [○○&◆.x/9qDRof2]
○○❤️@🐈👑 𝓟𝓢推し❦

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#762 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#763 [○○&◆.x/9qDRof2]
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 | ( ^o^)ノ  おやすみー
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  \|⌒⌒⌒⌒|

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#764 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう寝るお
バタンキュー

〃∩ ∧_∧ 
⊂⌒つ〃-ω-)つ

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#765 [○○&◆.x/9qDRof2]
   ∧∧ おやすみ・・・
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#766 [○○&◆.x/9qDRof2]
ネヨウ
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#767 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#768 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#769 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#770 [○○&◆.x/9qDRof2]
🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ
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#771 [○○&◆.x/9qDRof2]
🆙🆒🆕🆓⏏️▶️⏩🆗🆖🔠🔡🔤ℹ️🔣❎Ⓜ️🌀💤🎦📶🈁✳️💹🈯️✅♻️⚜️🔱🏁🏴🏳♾️⚛️〽️⚠️🚩🏴‍☠️🏳️‍🌈🇺🇳🇦🇫🇦🇽🇦🇱💛🧡❤️

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#772 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#773 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#774 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#775 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#776 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#777 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#778 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#779 [○○&◆.x/9qDRof2]
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 | ( ^o^)ノ  おやすみー
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#780 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう寝るお
バタンキュー

〃∩ ∧_∧ 
⊂⌒つ〃-ω-)つ

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#781 [○○&◆.x/9qDRof2]
   ∧∧ おやすみ・・・
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#782 [○○&◆.x/9qDRof2]
ネヨウ
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#783 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#784 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#785 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#787 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#788 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#789 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#790 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#791 [○○&◆.x/9qDRof2]
○○❤️@🐈👑 𝓟𝓢推し❦

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#792 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#793 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#794 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#795 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#796 [○○&◆.x/9qDRof2]
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 | ( ^o^)ノ  おやすみー
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#797 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう寝るお
バタンキュー

〃∩ ∧_∧ 
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⏰:22/10/03 17:35 📱:Android 🆔:☆☆☆


#798 [○○&◆.x/9qDRof2]
   ∧∧ おやすみ・・・
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#799 [○○&◆.x/9qDRof2]
ネヨウ
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#800 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#801 [○○&◆.x/9qDRof2]
   ∧∧ おやすみ・・・
  (*・ω・)
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#802 [○○&◆.x/9qDRof2]
#26 [雪(1/2)◆vzApYZDoz6]
昨日からずっと雪が降っている。そのおかげで外はなかなかの積雪量だ。

別に冬に雪が降るのは当たり前だが、基本的に雪が殆んど降らないこの地方で、雪が積もるのは珍しい。
住んでいるマンションから眼下を見下ろせば、近所の子供達がその珍しい積雪の上で大いにはしゃぎまわっている。
その子供達に混じって、俺の姉も遊んでいた。

⏰:22/10/03 18:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#803 [○○&◆.x/9qDRof2]
「おい姉貴、遊んでないで手伝えよ!」

窓から身を乗り出して、子供達と雪合戦をしている姉に叫ぶ。
なんとも平和な光景だ。

「いつでもできる部屋の大掃除と、希にみる豪雪の元で思い切り遊ぶ事、どっちが大事!?」

姉が叫び返してきた。
ハタチを超えているというのに、そんなに雪遊びに夢中になれるものなのか。

なんとも平和な光景だ。

⏰:22/10/03 18:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#804 [○○&◆.x/9qDRof2]
「うるせぇ!いいから戻ってこい!」
「今日のお前は冷たい!そう、雪のように!」

こりゃ駄目だ、完全に雪に洗脳されてる。雪のように冷たいってなんだよそれ。
窓から身を引っ込めて、室内に視線を戻した。
乱雑に置かれた雑巾に掃除機、紐で縛られた雑誌類。
俺のすぐ横には漫画がいくつか置いてある。
そう言えば、タンスの奥から見付けて読んでたんだっけ。俺もサボってんじゃん。
外からは子供達のはしゃぐ声が聞こえてくる。
俺は漫画を纏めて、立ち上がった。

⏰:22/10/03 18:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#805 [○○&◆.x/9qDRof2]
外はまだ雪が降っていた。
積雪に沢山つけられた足跡。出来るだけ足跡のない綺麗な場所を選んで歩き、足跡を残していく。
姉はまだはしゃいでいた。
こっそり後ろから近付いて、雪玉を当てる。
姉は驚いて振り返り、続いてあどけなく笑って手招きする。
その誘いに乗って、俺も本格的に雪合戦に参加した。


なんとも平和な光景だ。

⏰:22/10/03 18:13 📱:Android 🆔:☆☆☆


#806 [○○&◆.x/9qDRof2]
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⏰:22/10/03 18:14 📱:Android 🆔:☆☆☆


#807 [○○&◆.x/9qDRof2]
私の体を、夏のぬるい雨が打つ。
心の中も同じく晴れていない。闇が、私の心に突き刺さる。

まぁこれは比喩なんだけど。

どうせならもっと明るいものに刺されたい。

⏰:22/10/03 19:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#808 [○○&◆.x/9qDRof2]
上を向く気力が出ない。
向いてもどうせ雨雲だけ。
傘が無くても雨宿りしようとは思わなかった。
でも光化学スモッグに侵されたこの街の雨は、体にチクチクと突き刺ささってすごく痛い。

まぁ比喩なんだけど。

⏰:22/10/03 19:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#809 [○○&◆.x/9qDRof2]
どうせならもっと優しい雨に刺されたい。

そう思って、とりあえず街から離れるためにバスに乗り込む。
以外と乗車してる人は多い。って今雨降ってたんだっけ。
バスの中でもずぶ濡れの私に視線が痛く突き刺さる。
まぁ比喩なんだけど。

⏰:22/10/03 19:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#810 [○○&◆.x/9qDRof2]
どうせならもっと柔らかい視線に刺されたい。

バスの中はうつ向いてやりすごした。
着いた先は駅。視線を避けるようにうつ向いたまま、さっさと特急電車に乗り込んだ。
尖った視線はもう慣れた。
街から離れる程に人は減る。でもその分、馴れ馴れしい人が増える。
あまり話し掛けてほしくなかったから、ここでもうつ向いて歩いていった。着いた場所は田舎町の、ある1軒の家。久しぶりに来た気がする。そこで初めて顔を上げて、家を見上げる。

⏰:22/10/03 19:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#811 [○○&◆.x/9qDRof2]
いつの間にか雨はあがっていた。
あれ?上を向いただけなのに視界が明るくなった気がする。突き刺さるものは柔らかい。

これも比喩?

ううん、違う。明るくて、優しくて、柔らかいものを感じる。

後ろを振り返ると、眩しさに目が眩んだ。
田舎の山々の上に広がる入道雲。その更に上で輝く太陽。
太陽の光を受けた蒸気が、虹となって山々に掛かっていた。

あー、そっか。暗かったのも、怖かったのも、尖ってたのも、私が下を向いていたせいなんだ。

だって、そうでしょう?
いつでもそこにある空が、こんなにも。

⏰:22/10/03 19:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#812 [○○&◆.x/9qDRof2]
後ろの家の戸が開き、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「あらあんた…帰ってくるなら電話の1本ぐらい入れたらいいのに。なんかあったのかい?」

「別に。何となくだよ」

本当はふられちゃったからなんだけど。ホームシックになって何が悪い。

でも、思ったより早くに私の心の雨はあがった。
もう大丈夫。

⏰:22/10/03 19:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#813 [○○&◆.x/9qDRof2]
だって、そうでしょう?
そこにいつでもある空が、こんなにも――



こんなにも、おっきいんだから。

⏰:22/10/03 19:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#814 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#815 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30
>>30-60

⏰:22/10/03 19:28 📱:Android 🆔:☆☆☆


#816 [○○&◆.x/9qDRof2]
母が悲しんだのは俺が逮捕されたからではなく、父が死んだからだ、とだけ告げ、伯母は帰っていった。そして俺は決意した。今度は他人の為ではなく、自分の為に.......と。

fin

⏰:22/10/03 21:50 📱:Android 🆔:☆☆☆


#817 [○○&◆.x/9qDRof2]
 __________
 | ( ^o^)ノ  おやすみー
 |\⌒⌒⌒ \
  \|⌒⌒⌒⌒|

⏰:22/10/03 21:50 📱:Android 🆔:☆☆☆


#818 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう寝るお
バタンキュー

〃∩ ∧_∧ 
⊂⌒つ〃-ω-)つ

⏰:22/10/03 21:51 📱:Android 🆔:☆☆☆


#819 [○○&◆.x/9qDRof2]
   ∧∧ おやすみ・・・
  (*・ω・)
  _| ⊃/(___
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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#820 [○○&◆.x/9qDRof2]
ネヨウ
   ∧_∧___
  /(*゜−゜) /\
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#821 [○○&◆.x/9qDRof2]
🌹 ゚🥀 ゜゚ 🌹£+:。.。:+£🌹 ゚🥀 ゜゚ £+:。.。
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#822 [○○&◆.x/9qDRof2]
👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋
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⏰:22/10/03 21:51 📱:Android 🆔:☆☆☆


#823 [○○&◆.x/9qDRof2]
🌸・ 。
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#824 [○○&◆.x/9qDRof2]
🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ
🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ🥺ྀིʚ🥺ɞ

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#825 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#826 [○○&◆.x/9qDRof2]
○○❤️@🐈👑 𝓟𝓢推し❦

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#827 [○○&◆.x/9qDRof2]
玉砕覚悟。
なんと良い響きだろうか。
数多の咆哮(ほうこう)と足音が混沌とする世界で、我の前にある蝋燭(ろうそく)の灯が静かに揺らめいて壁を怪しく照らした。

⏰:22/10/03 21:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#828 [○○&◆.x/9qDRof2]
壁の向こうには既に火が放たれているのだろうか。
ゆらゆらと茜色に染まっている障子が目に映れば、そんなことが頭を過ぎった。
傍らにある白紙に包まれた小刀に手を掛ける。

⏰:22/10/03 21:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#829 [○○&◆.x/9qDRof2]
鋭い刃は灯の僅かな揺らめきを吸い込んで、時折鈍い輝きを放っていた。
外にはどれくらいの従者が生き残って闘っておるのかのう…。小さく息を吐くように漏らせば白装束を整える。

⏰:22/10/03 21:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#830 [○○&◆.x/9qDRof2]
玉砕覚悟…
なんと良い響きだろうか。
生命尽きるまで、この身が果てるまで奮闘する姿は…鬼人が如くの気迫を漂わすであろうな。
最期まで敵にひれ伏さぬ生き様は、さぞかし天晴れであろうな。

⏰:22/10/03 21:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#831 [○○&◆.x/9qDRof2]
さて、そろそろ…
我も逝くかね。
小刀を腹部に当てれば、躊躇うことなく深々と自らの腹に突き立てた。
鋭(するど)い痛みが全身に広がるように襲う。

⏰:22/10/03 21:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#832 [○○&◆.x/9qDRof2]
じわりと脂汗が額に滲んだ。仰向けに倒れそうになるも、巻き込まれた白装束がそれを許さない。紅い鮮血が白装束を染めた。玉砕覚悟で最期まで闘うなぞ、なんと浅ましいことよ…

⏰:22/10/03 21:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#833 [○○&◆.x/9qDRof2]
荒い呼吸のまま、力を振り絞り小刀を横へ薙(な)ぐ。尖った刃が肉を引き裂き鮮血を流れ出させる。

⏰:22/10/03 21:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#834 [○○&◆.x/9qDRof2]
我は敵の手に掛かって無惨に死ぬるくらいなら…自らの手でこの生命を絶とうぞ…。口元に笑みを含みながら、燃え往く寺の中で男はゆっくりと絶命した。

⏰:22/10/03 21:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#835 [○○&◆.x/9qDRof2]
天の邪鬼
鬱蒼(うっそう)と生い茂る森を歩いていた。
真の闇に包まれた、夜の森であった。
月明かりすら、ない。

⏰:22/10/03 21:59 📱:Android 🆔:☆☆☆


#836 [○○&◆.x/9qDRof2]
冷たい夜風が駆け抜ければ、木々たちが不気味な音を立てて森自体が一つの生き物のように怪しく蠢(うごめ)いた。

⏰:22/10/03 22:00 📱:Android 🆔:☆☆☆


#837 [○○&◆.x/9qDRof2]
そんな中を歩く一人の男がいた。
凛とした表情に灯る鋭い眼光はしっかりと正面を見据えていた。
手には明かりらしきものはなかった。
真の闇だというのに、明かりなしで進んでいるのである。

⏰:22/10/03 22:00 📱:Android 🆔:☆☆☆


#838 [○○&◆.x/9qDRof2]
悠然(ゆうぜん)と進むその歩調には、まるで昼間に見晴らしの良い道を歩いているかのようにさえ感じさせる。
男の口元には、絶える事なく微笑が含まれていた。

⏰:22/10/03 22:00 📱:Android 🆔:☆☆☆


#839 [○○&◆.x/9qDRof2]
男は今日の昼間、興味深い話を聞いた。
どうやら、この森には妖怪らしからぬモノがいるらしい。
それを初めて見たのは、この近くに住む老人だという。

⏰:22/10/03 22:00 📱:Android 🆔:☆☆☆


#840 [○○&◆.x/9qDRof2]
老人は山菜採りが趣味で、よく山に登っていた。
農民であるために、なかなか早くは仕事が終わらず、大体山に登るのは日が没してからの方が多かった。
その日もいつものように鎌を片手に籠を背負い、熊などに備えて知り合いから譲り受けた太刀を腰に携(たずさ)えた。

⏰:22/10/03 22:01 📱:Android 🆔:☆☆☆


#841 [○○&◆.x/9qDRof2]
出掛けるに当たって、今日はどの山に行こうかと考える。同じ山ばかりではその山の山菜を取り付くしてしまうし、何より楽しみが薄れる。そこで老人は考えついた。

⏰:22/10/03 22:01 📱:Android 🆔:☆☆☆


#842 [○○&◆.x/9qDRof2]
ちと遠いが、あの山なら良い山菜がよく採れるじゃろうて…
多少山を登らなければならないが、以前に山菜が山ほどなっている場所を見つけたのであった。そうと決まれば早速そこに向かった。

⏰:22/10/03 22:01 📱:Android 🆔:☆☆☆


#843 [○○&◆.x/9qDRof2]
草木を掻き分けて森を進む。今年齢七十七を迎える老人には厳しいものがあった。しかし、それが山菜のためとなると、それすら楽しみに変わる。手の鎌を頼りに歩を進めていった。山の中腹辺りまで来ただろうか。もうそろそろ目的地が見えてくると心躍(おど)らされた時、頭上から声が下りてきた。

⏰:22/10/03 22:01 📱:Android 🆔:☆☆☆


#844 [○○&◆.x/9qDRof2]
「ここを通りたいか…」

低い男のような声であった。はて、誰ぞおるのか。
老人は小さく呟くと頭上を見上げた。しかし暗い木々が不気味に風に靡(なび)いてるだけで、人の姿は見当たらない。空耳かえ…。

⏰:22/10/03 22:02 📱:Android 🆔:☆☆☆


#845 [○○&◆.x/9qDRof2]
老人は正面に顔を戻すと、溜め息を一つ吐いて再び歩を進める。するとどうしたことか、また同じ声がする。これはもはや空耳ではない。老人は急に恐ろしくなった。夜に森なんぞに入ったもんじゃから鬼に出くわしたのやも知れん…。

⏰:22/10/03 22:02 📱:Android 🆔:☆☆☆


#846 [○○&◆.x/9qDRof2]
もしくは夜道で良く見えなんだから、道を反れて鬼の巣窟に迷い込んでしまったか…。老人は山に入ったことを後悔した。これでは山菜採りどころではない。

⏰:22/10/03 22:02 📱:Android 🆔:☆☆☆


#847 [○○&◆.x/9qDRof2]
引き返そうとすると、また声が問う。ここを通りたいか…。進もうとすれば、またまた声が問う。これは答えねば帰して貰えぬやも知れぬ。そう考えた老人は震える声で答えた。

通りたい。

声はすぐに返ってきた。

通らせない。

⏰:22/10/03 22:02 📱:Android 🆔:☆☆☆


#848 [○○&◆.x/9qDRof2]
老人は絶望に打ちひしがれて尚も問う。俺を帰らしてはくれぬのか。帰らして欲しいのか。帰りたいとも。
帰らしてやらぬ。老人はそこで不思議に思った。ある考えを思い付いた老人は声の主に再び問いた。

⏰:22/10/03 22:02 📱:Android 🆔:☆☆☆


#849 [○○&◆.x/9qDRof2]
この先には何があるのか。
何があると思う。山菜じゃ。何もない。老人は確信した。ここぞとばかりに最後の質問をする。

やはり帰してくれぬのかのぅ。
帰して欲しいか。

⏰:22/10/03 22:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#850 [○○&◆.x/9qDRof2]
声の主が答えるとしばらくの沈黙の後、老人が返す。

いや、帰りとうない。
ならば帰れ。

あっさり承諾を得た老人は足早に山を下りていった。

.......そういう話であった。

⏰:22/10/03 22:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#851 [○○&◆.x/9qDRof2]
さて。男はどのくらい歩いたのであろうか。山の中腹に差し掛かった辺りであった。不意に頭上から声が降り注がれた。

「ここを通りたいか…」

男は落ち着いた口調で答えた。

通りたくない。

⏰:22/10/03 22:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#852 [○○&◆.x/9qDRof2]
声の主の答えが返ってくる。

ならば通れ。

声の主が言い終えるとすぐに男は問い掛ける。

俺を喰らうか。
喰らって欲しいのか。
喰らって欲しいさ。
喰らわぬ。

⏰:22/10/03 22:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#853 [○○&◆.x/9qDRof2]
男は会話を楽しんでいるようにさえ伺えた。
口元に微笑を浮かべつつ、男はゆっくりと最後の質問のために口を開く。

 俺の.......使い魔にならぬか。

 男は依然として微笑を含めたまま、静かに次の言葉を待った。

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#854 [○○&◆.x/9qDRof2]
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 | ( ^o^)ノ  おやすみー
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#855 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう寝るお
バタンキュー

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#872 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう寝るお
バタンキュー

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#873 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#874 [○○&◆.x/9qDRof2]
ネヨウ
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#880 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#882 [○○&◆.x/9qDRof2]
○○❤️@🐈👑 𝓟𝓢推し❦

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#883 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#884 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう寝るお
バタンキュー

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#885 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#888 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#889 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#890 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#891 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#892 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう寝るお
バタンキュー

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#893 [○○&◆.x/9qDRof2]
   ∧∧ おやすみ・・・
  (*・ω・)
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⏰:22/10/03 22:32 📱:Android 🆔:☆☆☆


#894 [○○&◆.x/9qDRof2]
ネヨウ
   ∧_∧___
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⏰:22/10/03 22:32 📱:Android 🆔:☆☆☆


#895 [○○&◆.x/9qDRof2]
|∧▸◂∧""
| *¯ ³¯)ちゅ✨
|⊂ノ

⏰:22/10/03 22:32 📱:Android 🆔:☆☆☆


#896 [○○&◆.x/9qDRof2]
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#897 [○○&◆.x/9qDRof2]
○○❤️@🐈👑 𝓟𝓢推し❦

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#898 [○○&◆.x/9qDRof2]
🌹 ゚🥀 ゜゚ 🌹£+:。.。:+£🌹 ゚🥀 ゜゚ £+:。.。
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#899 [○○&◆.x/9qDRof2]
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⏰:22/10/03 22:32 📱:Android 🆔:☆☆☆


#900 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30

⏰:22/10/03 22:33 📱:Android 🆔:☆☆☆


#901 [○○&◆.x/9qDRof2]
黒猫の棲むところ
最新 最初 全 🆕
#1 [イリア]

⏰:22/10/04 03:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#902 [○○&◆.x/9qDRof2]
黒猫の棲むところ


 クロネコノ スムトコロ


>>2

⏰:22/10/04 03:22 📱:Android 🆔:☆☆☆


#903 [○○&◆.x/9qDRof2]
#2 [イリア]

>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750
>>751-800
>>801-850
>>851-900
>>901-950

⏰:22/10/04 03:22 📱:Android 🆔:☆☆☆


#904 [○○&◆.x/9qDRof2]
#2 [イリア]

>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750
>>751

⏰:22/10/04 03:29 📱:Android 🆔:☆☆☆


#905 [○○&◆.x/9qDRof2]
#35 [イリア]

「…大丈夫かな、猫さん…」

少しでも寒くないように
猫を覆(オオ)うよう抱きしめる。

「…早く元気になってね」
⏰:09/03/22 15:16 📱:W61P

⏰:22/10/04 03:29 📱:Android 🆔:☆☆☆


#906 [○○&◆.x/9qDRof2]
#36 [イリア]



ザ―…


本格的に降り出した雨が
私の心を軽やかにした。

⏰:22/10/04 03:29 📱:Android 🆔:☆☆☆


#907 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:09/03/22 15:17 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#37 [イリア]

「…♪ラララ…♪」

唄を歌う。
懐かしい唄。
⏰:09/03/22 15:18 📱:W61P

⏰:22/10/04 03:30 📱:Android 🆔:☆☆☆


#908 [○○&◆.x/9qDRof2]
🆔:☆☆☆

#38 [イリア]



 その揺りかごが風に揺れて
 私は大きくなった

 私は風にさらわれて
 もうあなたは見えない―…

⏰:22/10/04 03:30 📱:Android 🆔:☆☆☆


#909 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:09/03/22 15:18 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#39 [イリア]


「懐かしいなあー…イタッ!」

⏰:22/10/04 03:30 📱:Android 🆔:☆☆☆


#910 [○○&◆.x/9qDRof2]
―……?

一瞬、頭に痛みが走る。
何か、何か…

私は―……?
⏰:09/03/22 15:19 📱:W61P

⏰:22/10/04 03:30 📱:Android 🆔:☆☆☆


#911 [○○&◆.x/9qDRof2]
40 [イリア]



ビクッ


猫が腕の中で跳ねた。
ハッとする。

「…あ…起きた…?
こんにちはー…こんばんは?」
⏰:09/03/22 15:20 📱:W61P

⏰:22/10/04 03:31 📱:Android 🆔:☆☆☆


#912 [○○&◆.x/9qDRof2]
🆔:☆☆☆

#41 [イリア]

さっきの変な感じに
少し焦りながらも
私は目覚めた猫に話しかける。

⏰:22/10/04 03:31 📱:Android 🆔:☆☆☆


#913 [○○&◆.x/9qDRof2]
「…あ」

猫は私の腕から飛び出し、
洞穴の向こう側で私を見据えた。
⏰:09/03/22 15:20 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#42 [イリア]


「…何よー
そんなに威嚇(イカク)しなくても…
私は一応、
あんたを助けたのにさーって
まぁ猫に言っても仕方ないか…」

⏰:22/10/04 03:31 📱:Android 🆔:☆☆☆


#914 [○○&◆.x/9qDRof2]
独り言。


そろそろ誰かと
会話がしたい頃だけど
生憎(アイニク)そんな相手はいない。

あ、でも猫に言ってるから
ふたりごと?
⏰:09/03/22 15:21 📱:W61P

⏰:22/10/04 03:31 📱:Android 🆔:☆☆☆


#915 [○○&◆.x/9qDRof2]
#43 [イリア]



ザ―…


「雨だねー…」

一応、少し遠くで私を威嚇する
黒猫さんに話しかけてみる。
⏰:09/03/22 15:23 📱:W61P 🆔

⏰:22/10/04 03:32 📱:Android 🆔:☆☆☆


#916 [○○&◆.x/9qDRof2]
#44 [イリア]



「私、雨は好きなんだ。
雨の音は嫌いだけど。」


⏰:09/03/22 15:23 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#45 [イリア]



ピクッ


猫の私を見る瞳(メ)が変わる。

⏰:22/10/04 03:32 📱:Android 🆔:☆☆☆


#917 [○○&◆.x/9qDRof2]
何も映さなかった漆黒の瞳に、
私が映った。
⏰:09/03/22 15:24 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#46 [イリア]

少し私を見つめたあと、
ゆっくりと一歩
猫は私のほうに足を進めた。

⏰:22/10/04 03:32 📱:Android 🆔:☆☆☆


#918 [○○&◆.x/9qDRof2]
「どうしたの…?」


その時


⏰:09/03/22 15:24 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#47 [イリア]



ピカッ


「キャッ!」

雷が光った。
すぐに大きな音がする。

「…びっくりしたぁ…
落ちたよね、近そうだな…」
⏰:09/03/22 15:25 📱:W61P 🆔

⏰:22/10/04 03:32 📱:Android 🆔:☆☆☆


#919 [○○&◆.x/9qDRof2]
#48 [イリア]

すると猫は私からまた体を遠ざけ、
タッ と洞穴の外に駆け出す。


「…え?ちょっ!危ないよ!
雨降ってるから!雷も落ちたし!
戻りなよーッ!!」


すぐに猫の姿は視界から消え、
私の声だけ虚(ムナ)しく響いた。


数時間経っただろうか。

雨は上がり、
空は元の曇天に戻った。

⏰:22/10/04 03:33 📱:Android 🆔:☆☆☆


#920 [○○&◆.x/9qDRof2]
1

黒猫の詩


「リア、お前の瞳は本当に綺麗だね」

 ご主人様はいつも笑いながらわたしにそう言う。まるで口癖のように。


“ブルーの瞳が綺麗だ”と。

わたしはご主人様にそう言われるのが嬉しかった。


笑いながら、頭を撫でて貰うのが好きだった。ご主人様の手は、温かくて、大きくて。撫でて貰うと、なんだかとても安心するの。


わたしは。真っ黒な毛、真っ青な瞳が特徴のごく普通の黒猫。ご主人様に助けてもらう前は、その辺の道端で歩いている普通の野良猫だった。


「リア、ご飯だよ」


 そしていま、わたしの目の前に餌の入った皿を置いてくれたのが.......わたしの大好きな、大好きなご主人様。


名前は確か.......セツナ。

あまり覚えてないけど、ご主人様のお友達が「セツナ」と呼んでいた。




そしてご主人様の髪の毛はとても綺麗な蜂蜜色。

ふわふわ柔らかくて。
私はご主人様の髪の毛が大好きなんだ。

⏰:22/10/04 03:37 📱:Android 🆔:☆☆☆


#921 [○○&◆.x/9qDRof2]
その涙がポタリと床に落ちて滲む。

…これが、ご主人様の流した涙……。



私はぐいっと涙を拭い、ドアへ手を掛けた。

⏰:22/10/04 03:38 📱:Android 🆔:☆☆☆


#922 [○○&◆.x/9qDRof2]
泣いてる暇なんてない。今はとりあえずこの家から出よ

⏰:22/10/04 03:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#923 [○○&◆.x/9qDRof2]
38 [あんず]
 
“この家から出る”

そう決心し、私はドアを引いた。


ドアを引き、狭い隙間から外を覗く。




…………あ、やばい。

一瞬で私はそう思い、
静かに上を見上げた。

 
⏰:09/08/20 23:29 📱:W61K 🆔:s2zljno.

#39 [あんず]
 




大好きなご主人様の甘い香りが鼻を掠める。


そして視界いっぱいに広がるご主人様の、柔らかいふわふわな蜂蜜色

⏰:22/10/04 03:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#924 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:09/08/20 23:34 📱:W61K 🆔:s2zljno.

#40 [あんず]
 




「……………っ!!」

驚き過ぎて声が出なかったのか、私は口をパクパクしながらご主人様を見上げる。


ご主人様は目を見開く。



まさかこんな所で
ご主人様と鉢合わせになるなんて―――。

⏰:22/10/04 03:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#925 [○○&◆.x/9qDRof2]
黒猫の棲むところ
最新 最初 全 🆕
#1 [イリア]


 黒猫の棲むところ


 クロネコノ スムトコロ

⏰:22/10/04 03:41 📱:Android 🆔:☆☆☆


#926 [○○&◆.x/9qDRof2]
2 [イリア]

>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750
>>751-800
>>801-850
>>851-900
>>901-950

⏰:22/10/04 03:42 📱:Android 🆔:☆☆☆


#927 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>951-100

⏰:22/10/04 03:42 📱:Android 🆔:☆☆☆


#928 [○○&◆.x/9qDRof2]
#3 [イリア]

『―…雨よ、猫』

あの人の声が、響く。

『雨は好きよ
 雨の音は嫌いだけど』

懐かしい、これは…夢?

『貴方に声をあげる
 生きていくための、声を』

⏰:22/10/04 03:42 📱:Android 🆔:☆☆☆


#929 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:09/03/22 12:14 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#4 [イリア]



第一話: opening


⏰:09/03/22 12:14 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#5 [イリア]


――…………?


目を開けた。
知らない景色。

空が見える
雨でも降りそうな曇天…
⏰:09/03/22 12:15 📱:W61P 🆔:☆☆☆

#6 [イリア]

「…ん?」

何で空が…

―…ガバッッ!!

体を起こすと、
あちこちに痛みが

⏰:22/10/04 03:45 📱:Android 🆔:☆☆☆


#930 [○○&◆.x/9qDRof2]
すると、赤黒いものが
川と地面ギリギリのところ見えた。


「―…?何あれ…」

⏰:22/10/04 03:45 📱:Android 🆔:☆☆☆


#931 [○○&◆.x/9qDRof2]
ゆっくり近づこうとすると、
それが川に流されかける。

⏰:22/10/04 03:45 📱:Android 🆔:☆☆☆


#932 [○○&◆.x/9qDRof2]
🆔:☆☆☆

#24 [イリア]


「あ!待って!」


私はそれに走って近づき、
両手で抱き上げ

⏰:22/10/04 03:46 📱:Android 🆔:☆☆☆


#933 [○○&◆.x/9qDRof2]
#25 [イリア]



「猫……?」


最初は人形かなんかだと思ったが、
抱き上げてみるとそれは
確かに熱をもった…生きた猫だった。

⏰:22/10/04 03:46 📱:Android 🆔:☆☆☆


#934 [○○&◆.x/9qDRof2]
#26 [イリア]

「すっごいぐったりしてる…
傷だらけだし…この子の血が
流れてきてたのか…」

私は猫の体を水で少しずつ洗う。

⏰:22/10/04 03:46 📱:Android 🆔:☆☆☆


#935 [○○&◆.x/9qDRof2]
1

黒猫の詩


「リア、お前の瞳は本当に綺麗だね」

 ご主人様はいつも笑いながらわたしにそう言う。まるで口癖のように。


“ブルーの瞳が綺麗だ”と。

わたしはご主人様にそう言われるのが嬉しかった。


笑いながら、頭を撫でて貰うのが好きだった。ご主人様の手は、温かくて、大きくて。撫でて貰うと、なんだかとても安心するの。

⏰:22/10/04 03:47 📱:Android 🆔:☆☆☆


#936 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは。真っ黒な毛、真っ青な瞳が特徴のごく普通の黒猫。ご主人様に助けてもらう前は、その辺の道端で歩いている普通の野良猫だった。


「リア、ご飯だよ」


 そしていま、わたしの目の前に餌の入った皿を置いてくれたのが.......わたしの大好きな、大好きなご主人様。


名前は確か.......セツナ。

あまり覚えてないけど、ご主人様のお友達が「セツナ」と呼んでいた。




そしてご主人様の髪の毛はとても綺麗な蜂蜜色。

ふわふわ柔らかくて。
私はご主人様の髪の毛が大好きなんだ。
 
⏰:09/08/11 15:34 📱:W61K 🆔:qGBM5BGk

#9 [あんず]
 




――ご主人様と出会ったのは去年の冬。


凄く寒くて、まだ小さかった私は草むらで凍えていた。



そんな所を、ご主人様が見つけてくれた。
…助けてく

⏰:22/10/04 03:50 📱:Android 🆔:☆☆☆


#937 [○○&◆.x/9qDRof2]
いつものように聞こえる鳥の鳴き声。
この街の朝が来た。


私は重たい身体を起こし、漆黒の長い髪を手で掻きあげた。

⏰:22/10/04 03:51 📱:Android 🆔:☆☆☆


#938 [○○&◆.x/9qDRof2]
………………え?

⏰:22/10/04 03:51 📱:Android 🆔:☆☆☆


#939 [○○&◆.x/9qDRof2]
長い髪……?
  手で掻きあげた…?

⏰:22/10/04 03:51 📱:Android 🆔:☆☆☆


#940 [○○&◆.x/9qDRof2]
よく考えたら、
いつもは大きいベッドが凄く小さい………。


…………もしかして!!

⏰:22/10/04 03:52 📱:Android 🆔:☆☆☆


#941 [○○&◆.x/9qDRof2]
#30 [あんず]

私はベッドから降り、
洗面所の鏡に向かって足を走らせる。



心の中は、
喜びで溢れてた。

⏰:22/10/04 03:52 📱:Android 🆔:☆☆☆


#942 [○○&◆.x/9qDRof2]
#31 [あんず]
いつもはご主人様に開けて貰わないと入れないドアも、全て自分で開けて進む。


……気持ちいい。



そして私は洗面所のドアを開け、鏡に向かった。

⏰:22/10/04 03:52 📱:Android 🆔:☆☆☆


#943 [○○&◆.x/9qDRof2]
#32 [あんず]
 
鏡に映るのは、黒い髪で青い瞳の“女の人。”


あ、私女なんだ、とその時初めて気付いた。


私は感激して、その場から動けずにいた。


―私、人間になれた!!

⏰:22/10/04 03:53 📱:Android 🆔:☆☆☆


#944 [○○&◆.x/9qDRof2]
#33 [あんず]
 
―――――神様、本当にありがとうございます!!


私、ご主人様のために
精一杯頑張ります。

⏰:22/10/04 03:53 📱:Android 🆔:☆☆☆


#945 [○○&◆.x/9qDRof2]
#34 [あんず]
 
…さて、早速ご主人様に会いに行かなきゃ…。


そう思い、私は鏡から目を反らした。


………でも、
よく考えたらこの姿でご主人様に会いに行ってもご主人様が驚くだけ…。



この姿では、ご主人様に会いに行けない……。

⏰:22/10/04 03:54 📱:Android 🆔:☆☆☆


#946 [○○&◆.x/9qDRof2]
#35 [あんず]
 
どうしよう……!!



私はパニックになり、おろおろとその場を歩く。



ご主人様に会えない。

⏰:22/10/04 03:54 📱:Android 🆔:☆☆☆


#947 [○○&◆.x/9qDRof2]
#36 [あんず]
 
私はなんて
馬鹿なんだろう。

ご主人様は気付くわけないのに。
わかるわけないのに。

悔しさで胸がいっぱいになる。


悔しさと混乱からか、私の瞳にはじわり、と涙が浮かんだ。

⏰:22/10/04 03:54 📱:Android 🆔:☆☆☆


#948 [○○&◆.x/9qDRof2]
#37 [あんず]
 

その涙がポタリと床に落ちて滲む。

…これが、ご主人様の流した涙……。



私はぐいっと涙を拭い、ドアへ手を掛けた。


泣いてる暇なんてない。今はとりあえずこの家から出

⏰:22/10/04 03:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#949 [○○&◆.x/9qDRof2]
#38 [あんず]
 
“この家から出る”

そう決心し、私はドアを引いた。


ドアを引き、狭い隙間から外を覗く。




…………あ、やばい。

一瞬で私はそう思い、
静かに上を見上げた。

⏰:22/10/04 03:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#950 [○○&◆.x/9qDRof2]
#39 [あんず]
 
大好きなご主人様の甘い香りが鼻を掠める。


そして視界いっぱいに広がるご主人様の、柔らかいふわふわな蜂蜜色の髪。



「…君は………?」



不思議そうな顔をした
ご主人様が、ドア越しの目の前に立ってい

⏰:22/10/04 03:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#951 [○○&◆.x/9qDRof2]
「……………っ!!」

驚き過ぎて声が出なかったのか、私は口をパクパクしながらご主人様を見上げる。


ご主人様は目を見開く。



まさかこんな所で
ご主人様と鉢合わせになるなんて―――。

⏰:22/10/04 03:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#952 [○○&◆.x/9qDRof2]
「お母さぁぁん!人拾ったぁぁ!!」

「え、ちょ、アンタそんな犬拾ったみたいなテンションで!」

優雅に紅茶をすすっていたお母さんは私の叫びにびっくりした。

私はずぶ濡れの彼を家にいれて、タオルを貸してやった。

「ハイ。拭いて。風邪ひいちゃうから。」

私の言葉なんか聞いてないのか、綺麗な茶色い髪から滴る雫もそのままに、彼はぼんやりしていた。

お母さんが風呂を沸かしてあげると言って、風呂場へ向かった後、私は彼を拭いてあげる。

⏰:22/10/04 03:57 📱:Android 🆔:☆☆☆


#953 [○○&◆.x/9qDRof2]
そこで私はハッとする。

伸びている髪の毛の隙間から覗いた瞳は、グレーだった。

外人……さん……?
もしかして日本語通じないとかかな……。

「わ……ワットユアネーム?」

カタコトな英語で話かければ少し反応したのか、こちらを見た。

「分かるから……日本語。」

ぽつりとだけど、確かにそう言った。

「良かった!あ、私は神田 越(カンダ エツ)。この家の長女。貴方は?」

⏰:22/10/04 03:58 📱:Android 🆔:☆☆☆


#954 [○○&◆.x/9qDRof2]
#5 [向日葵]
さっきまで私に向けていた魅力的な瞳を僅かにそらして、またポツリと呟いた。

「勝手に……呼べばいい……」

何でだろう。

でも何故か分かる事は、彼はとても傷ついてるように見えると言う事。

何故そんな悲しい目をしているんだろう……。

「どうして……うちの前にいたの?」

「……疲れた。どこにも行く場所なくて、さまよって……休んでただけ……。」

⏰:22/10/04 03:58 📱:Android 🆔:☆☆☆


#955 [○○&◆.x/9qDRof2]
#6 [向日葵]
行く場所がない?
つまり家出って事なのかな。

そう思いながら、今日初めてあった人をあれこれ詮索するのはよくないと思い、私は何も聞かなかった。

「じゃあ……とりあえず貴方は柴(シバ)ね。犬みたいにうちの前にいたから!」

特に反応する訳でなく、柴は黙ったまま私に拭かれた。

―――――――……

「行くとこないっていうなら、まぁいてもいいよ。」

お母さんは寛大すぎる程寛大で、お母さんだけど男気溢れる人だ。

⏰:22/10/04 03:58 📱:Android 🆔:☆☆☆


#956 [○○&◆.x/9qDRof2]
柴がお風呂に入ってる間、さっき彼から聞いた事をお母さんに言ったところ、さっきのような返事が帰ってきた。

「今更家族が1人増えようが5人増えようがどうでもいいよ」

「5人て……。そうなったら大家族だよお母さん」

「あぁ!おねーちゃん!」

後ろから声がするので振り向いてみれば、三女で4歳の苺(イチゴ)と、長男で10歳の空(ソラ)がそこにいた。

苺はトテトテと走ってきて私の足に抱きついた。

⏰:22/10/04 03:59 📱:Android 🆔:☆☆☆


#957 [○○&◆.x/9qDRof2]
#8 [向日葵]
「おかえりなさぁい!あのね、いちご今日おうたおぼえたんだよー!」

「そうなんだぁ。またお姉ちゃんに聞かせてね。」

苺は「うん!」と元気よく言って、お母さんの膝によじ上った。

「越姉!俺今日野球でホームラン打ったよ!」

「空はさすがだねー!この調子で頑張りなよ!」

空はニカッと笑う。
それにつられて私も笑うと、玄関の方から叫び声が聞こえた。

「うわぁぁ!!」

⏰:22/10/04 03:59 📱:Android 🆔:☆☆☆


#958 [○○&◆.x/9qDRof2]
「あ、さくらおねえちゃんだ!」

桜とは、次女で14歳。
おそらく部活から帰って来たのだろう。

それはいい。

多分……柴がいたな。

玄関へつけば、風呂上がりで、さっきと変わらず頭びちょびちょの柴と、見知らぬ柴に驚いた桜がいた。

「え!?ちょ、お姉ちゃんこの人誰!?」

「柴。ちょっと柴。ちゃんと頭拭かなきゃダメでしょうが。」

すると柴は頭にタオルを乗っけて、私に頭を差し出してきた。
⏰:08/03/18 01:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆

#10 [向日葵]
拭けと言ってるらしい。

桜の叫びにかけつけた苺と空も、驚いていた。

「わ!誰!?」

「いちごのおにいちゃん?」

いっぺんに説明しなくちゃならないようだった。

⏰:22/10/04 04:00 📱:Android 🆔:☆☆☆


#959 [○○&◆.x/9qDRof2]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

小さな苺もいると言う事で、分かりやすく丁寧に話した所、最初こそ驚いたものの、皆次第に納得していった。

「分かったよお姉ちゃん」

「俺も」

「いちごもー!」

⏰:22/10/04 04:00 📱:Android 🆔:☆☆☆


#960 [○○&◆.x/9qDRof2]
色んな人にぶつかりながら

「…ってぇ!オイ、気を付けろ!」



それでも私はただただ、
走り続けた。


突然私を襲った何かから、


過酷な現実から

必死に逃げるように…。

⏰:22/10/04 04:07 📱:Android 🆔:☆☆☆


#961 [○○&◆.x/9qDRof2]
#92 [.]
.

そうやって走り続けているうちに

突然、自分の足が止まった。


……いや、

動かなくなった。



みるみるうちに

ぐにゃぐにゃと曲がっていく視界…


周りの喧騒も遠くなっていき…


やがてひんやりとした静寂に包まれた頃、


真っ暗な闇が、


私を襲った………――――――

⏰:22/10/04 04:07 📱:Android 🆔:☆☆☆


#962 [○○&◆.x/9qDRof2]
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

光があるから闇が生まれ、
闇があるから光が輝く。

人の人生も同じ。

光ばかりでなく、闇が存在する。
人が光のある幸せを、忘れないように。

そして闇ばかりが続いたとしても、
必ずいつか光が射すようになっている。
人が、希望を捨てないように。

2つはいつも表と裏、背中合わせで、
どちらが欠けてもいけない。

きっと神様は
人が幸せを忘れないように、
この世界に闇を作ったんだよ。

⏰:22/10/04 04:08 📱:Android 🆔:☆☆☆


#963 [○○&◆.x/9qDRof2]
.
きっとこの真っ暗な闇にもいつか…

"うそつき"

明るい一筋の光が差して

"うそつき"

あなたを照らしてくれる時が来る。

"うそつき"

だから……祈るのよ。

神は必ず私達を見ている。



―――…嘘つき。

神様ってやつがほんとに居るなら、

この手で殺してやるよ。

⏰:22/10/04 04:08 📱:Android 🆔:☆☆☆


#964 [○○&◆.x/9qDRof2]
―――ザーッ…

手を洗いながら便所の鏡をふと見上げる。

頬が少しこけて、目の下には真っ黒なクマ……

まるで絵に書いたようなやつれた顔がこちらを見つめていた。

⏰:22/10/04 04:09 📱:Android 🆔:☆☆☆


#965 [○○&◆.x/9qDRof2]
最近ろくに寝てないからな…。

毎年"あの日"が近付くと
イヤな夢ばかり見てしまって眠れない日が続く。

まるでオレに忘れる事を許さないかのように。

⏰:22/10/04 04:09 📱:Android 🆔:☆☆☆


#966 [○○&◆.x/9qDRof2]
あれこれ考えてぼーっとしていると



"ゆうき……"




ふと耳元でオレを呼ぶ声がして、胸がドクリと跳び跳ねる。

ばっと振り返るが、…やはりそこには誰も居ない。

そう、居るはずなんてないのに、
今更何を期待しているのか…。

⏰:22/10/04 04:10 📱:Android 🆔:☆☆☆


#967 [○○&◆.x/9qDRof2]
オレはどうやら相当、キているらしい。

⏰:22/10/04 04:10 📱:Android 🆔:☆☆☆


#968 [○○&◆.x/9qDRof2]
1

黒猫の詩


「リア、お前の瞳は本当に綺麗だね」

 ご主人様はいつも笑いながらわたしにそう言う。まるで口癖のように。


“ブルーの瞳が綺麗だ”と。

わたしはご主人様にそう言われるのが嬉しかった。


笑いながら、頭を撫でて貰うのが好きだった。ご主人様の手は、温かくて、大きくて。撫でて貰うと、なんだかとても安心するの。

⏰:22/10/04 04:11 📱:Android 🆔:☆☆☆


#969 [○○&◆.x/9qDRof2]
わたしは。真っ黒な毛、真っ青な瞳が特徴のごく普通の黒猫。ご主人様に助けてもらう前は、その辺の道端で歩いている普通の野良猫だった。


「リア、ご飯だよ」


 そしていま、わたしの目の前に餌の入った皿を置いてくれたのが.......わたしの大好きな、大好きなご主人様。

⏰:22/10/04 04:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#970 [○○&◆.x/9qDRof2]
名前は確か.......セツナ。

あまり覚えてないけど、ご主人様のお友達が「セツナ」と呼んでいた。




そしてご主人様の髪の毛はとても綺麗な蜂蜜色。

ふわふわ柔らかくて。
私はご主人様の髪の毛が大好きなんだ。

⏰:22/10/04 04:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#971 [○○&◆.x/9qDRof2]
――ご主人様と出会ったのは去年の冬。


凄く寒くて、まだ小さかった私は草むらで凍えていた。



そんな所を、ご主人様が見つけてくれた。
…助けてくれたんだ。

⏰:22/10/04 04:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#972 [○○&◆.x/9qDRof2]
何も言わずに私の上に積もった雪を払い、コートに包んで温めてくれた。


優しく微笑みながら、
頭を撫でてくれた。



あの日、ご主人様は私を助けてくれた。

⏰:22/10/04 04:13 📱:Android 🆔:☆☆☆


#973 [○○&◆.x/9qDRof2]
ご主人様は野良猫の私を拾ってくれたんだ。



優しくて、かっこよくて、面白いご主人様。


私はすぐにご主人様が大好きになった。

⏰:22/10/04 04:13 📱:Android 🆔:☆☆☆


#974 [○○&◆.x/9qDRof2]
大好きなご主人様には、いつも笑顔でいて欲しい

ずっと笑ってて欲しい。


ご主人様は
私に幸せをくれた。

だからご主人様も幸せでいてほしい。



猫ながらも、ご主人様の幸せを願っていたんだ。

⏰:22/10/04 04:13 📱:Android 🆔:☆☆☆


#975 [○○&◆.x/9qDRof2]
でも…でも……


私は見てしまったんだ。

⏰:22/10/04 04:14 📱:Android 🆔:☆☆☆


#976 [○○&◆.x/9qDRof2]
ご主人様が、
ベッドに座りながら俯いているのを。


そのご主人様の手には、綺麗な女の人の写真があるのを。




そしてその写真に、水滴がぽたりぽたりと落ちているのを。

⏰:22/10/04 04:14 📱:Android 🆔:☆☆☆


#977 [○○&◆.x/9qDRof2]
それがご主人様の“涙”だってことに気づくのに時間はかからなかった。



ご主人様が泣いている。

いつも笑顔でいてほしい、大好きなご主人様が泣いている。


なんで?なんで?
……………なんで…。

⏰:22/10/04 04:15 📱:Android 🆔:☆☆☆


#978 [○○&◆.x/9qDRof2]
私はただご主人様の膝に乗り、涙を舐め取ることしか出来なかった。


そんなことしか出来ない自分がふがいなくて、やるせない。



でもご主人様は私の頭を撫でて、「くすぐったいよ」と笑ったんだ。

⏰:22/10/04 04:15 📱:Android 🆔:☆☆☆


#979 [○○&◆.x/9qDRof2]
その笑顔はとても無理してるように見えた。
だって…ご主人様の頬には、今でも涙が伝っている。


無理して笑ってくれるのは、私を心配させないため?

⏰:22/10/04 04:15 📱:Android 🆔:☆☆☆


#980 [○○&◆.x/9qDRof2]
ご主人様…、ご主人様はどうしてそんなに優しいんですか?
 
もうご主人様を
泣かせたくない……。




――――私がご主人様を支えたい。

⏰:22/10/04 04:16 📱:Android 🆔:☆☆☆


#981 [○○&◆.x/9qDRof2]
その想いが一気に強くなり、私の小さな心はぎゅっと締め付けられた。



でも…
ご主人様を支えるには、どうしたらいい…? 

⏰:22/10/04 04:16 📱:Android 🆔:☆☆☆


#982 [○○&◆.x/9qDRof2]
あぁ、どうして自分は
猫なんだろう。


私は猫だから、ご主人様と話すことも、慰めることも出来ない。


自分は凄く無力で、何も出来ない。

⏰:22/10/04 04:16 📱:Android 🆔:☆☆☆


#983 [○○&◆.x/9qDRof2]
ご主人様と話したい。
ご主人様を慰めたい。
ご主人様と笑いたい。


…………私も、ご主人様みたいになりたい。

ご主人様と同じ、
“人間”になりたい!!

⏰:22/10/04 04:17 📱:Android 🆔:☆☆☆


#984 [○○&◆.x/9qDRof2]
その時、ブルーの瞳が一層に輝いた。



人間になれば、私でも出来ることがあるかもしれない…!!


1つの閃きで、リアの気持ちは一気に高まった。

⏰:22/10/04 04:17 📱:Android 🆔:☆☆☆


#985 [○○&◆.x/9qDRof2]
ご主人様、もう少し待ってて下さい。
私絶対、絶対に人間になって、ご主人様に会いに行きます。


その想いを込めて、私は1つ「みゃー」と鳴いた

⏰:22/10/04 04:17 📱:Android 🆔:☆☆☆


#986 [○○&◆.x/9qDRof2]
するとご主人様は少し微笑みながら「リアの鳴き声は可愛らしいね。」と私の頭を撫でた。



その笑顔を見て、少し安心しながら私はご主人様の部屋を後にした。

⏰:22/10/04 04:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#987 [○○&◆.x/9qDRof2]
パチパチ、と音を立てながら燃える炎。
そんな炎、暖炉の目の前で私は体を丸めた。


窓に映るお月様におやすみなさい、と告げて。
神様に祈りを捧げるかのように空を見つめて。

⏰:22/10/04 04:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#988 [○○&◆.x/9qDRof2]
――――神様、

どうか、どうか私を
 人間にして下さい――

⏰:22/10/04 04:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#989 [○○&◆.x/9qDRof2]
いつものように聞こえる鳥の鳴き声。
この街の朝が来た。


私は重たい身体を起こし、漆黒の長い髪を手で掻きあげた。



………………え?

⏰:22/10/04 04:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#990 [○○&◆.x/9qDRof2]
長い髪……?
  手で掻きあげた…?

⏰:22/10/04 04:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#991 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30
>>30-60
>>60-90
>>90-120
>>120-150

⏰:22/10/04 04:20 📱:Android 🆔:☆☆☆


#992 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>150-180
>>180-210
>>210-240
>>240-270
>>270-300

⏰:22/10/04 04:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#993 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>300-330
>>330-360
>>360-390
>>390-420
>>420-450

⏰:22/10/04 04:22 📱:Android 🆔:☆☆☆


#994 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>450-480
>>480-510
>>510-540
>>540-570
>>570-600

⏰:22/10/04 04:23 📱:Android 🆔:☆☆☆


#995 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>570-600
>>600-630
>>630-660
>>660-690
>>690-720

⏰:22/10/04 04:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#996 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>720-750
>>750-780
>>1-20
>>20-40
>>40-60

⏰:22/10/04 04:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#997 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>60-80
>>80-100
>>100-120
>>120-140
>>140-160

⏰:22/10/04 04:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#998 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>160-180
>>180-200
>>200-220
>>220-240
>>240-260

⏰:22/10/04 04:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#999 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>260-280
>>280-300
>>300-320
>>320-340
>>340-360

⏰:22/10/04 04:28 📱:Android 🆔:☆☆☆


#1000 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>360-380
>>380-400
>>400-420
>>420-440
>>440-460
>>460-480
>>480-500

⏰:22/10/04 04:30 📱:Android 🆔:☆☆☆


#1001 [我輩は匿名である]
このスレッドは 1000 を超えました。
もう書けないので新しいスレッドを建ててください。

⏰:22/10/04 04:30 📱: 🆔:Thread}


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