ギンリョウソウ
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#60 [向日葵]
「君は何か競技に出るの?」

強い日差しにくらりとめまいを感じた気がした。
要の声が遠くから言ってるように聞こえる。

「何も……出ません……」

それでも椿は笑顔でいる。

「ふーん。つまんないね。周りの人も、君自身も」

それだけ言って、要は立ち去る。
そんな要に頭を下げて椿は見送った。
しかし頭を上げる事はなかなか出来なかった。
風がまた、彼女の髪の毛を揺らす。

⏰:08/06/15 01:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#61 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「椿ーただいまーっ。あれ?日傘は?」

美嘉の声に、椅子に座ってうつ向いていた椿は顔を上げながらホッとする。
自然と顔が綻ぶ。

「……壊れたので、違うのを取りに行ってもらってます……」

「え、大丈夫?」

「椿、これかぶってな」

越が1枚の大きめのタオルを椿の頭に被せた。
優しい洗剤の香りが椿の鼻をかすめる。

「ちょっとは涼しいでしょ?」

⏰:08/06/15 01:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#62 [向日葵]
にっこり笑いながら椿の顔を覗き込む越。
そんな越に、心からの微笑みを向ける。
ささくれだった椿の心が、癒されていく瞬間だった。

*******************

笑うしかしないな。と要は思っていた。

椿から教えられた保護者席に彼は立っている。
椿から取り上げた日傘をさして。

彼女の考えや思いがまったく分からない。
あれだけ酷い事を言っても泣きもせず、ただずっと笑っているのだ。

⏰:08/06/15 02:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#63 [向日葵]
何故なんだろう。
要の頭は先ほどからそればかり考えていた。

言い返せばいいのに……。

そう思うなら酷い事を言わなくていいだなんて彼は思いつかないでいる。

別に嫌いな訳じゃない。

客観的に見ても他の令嬢みたいに高飛車でもないし、控え目な所だって可愛いとは思う。

けれど酷い事を言っていじめたくなる。
言い返して欲しいと思うのに、やっぱり椿は笑っているしかしないのだった。

⏰:08/06/15 02:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#64 [向日葵]
今日初めて彼女を抱き締めた。
驚く程の細さだった。
モデルをいつも相手にしているし、彼女達だって体のラインを気にしているから細く見えるし実際に細い。

でも椿はそれ以上だった。
触れた所はすぐに骨が当たる。
柔らかい感触はもちろんあるが、とにかく細かったのだ。
きっと彼女の病弱な体のせいだろう。

そう思えば体の事を悪く言ってしまっただろうかと気になる。
誰よりも病弱な事を気にしているのは彼女だろう。
なのに酷な事を言った。

⏰:08/06/17 00:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#65 [向日葵]
でも……、と要は考え直す。

何を言われてもヘラヘラしている彼女だ。
さほど気にしてもいないだろう。

そう思ってしまえば、要の頭から“悪かった”などと言う言葉は消えていくのだった。

*****************

昼近くになれば気温もあがり日差しもきつくなりはじめてきた。

なんとか倒れずにいれるのは風が少なからず吹いてくれているからだろうと椿は思う。

⏰:08/06/17 00:21 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#66 [向日葵]
だが彼女の体調は少しずつ崩れていってるのもまた事実だ。
周りの生徒が熱気に顔を赤くしているのに対し、椿の顔は青白くさえ見える。

「椿、大丈夫?さっきから水飲んでないみたいだけど」

心配そうに美嘉が覗き込む。
笑顔で答える事すら、そろそろ難しくなってきた。

「日傘まだかなー」

越のタオルではさすがに限度があった。
日にさらされたタオルは段々と熱を含む。

「大丈夫です……。……それより応援合戦そろそろですね……頑張って下さい」

⏰:08/06/17 00:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#67 [向日葵]
そう言うと、美嘉と越は頷いて、離れた場所で円陣を組み始める。

気合いの入った掛け声を耳にしながら椿はうつむく。

暑い……。

タオルをパタパタ揺らして熱を逃がすも上手くいかない。
水を飲めばいいのだけれど飲む元気もわかない。

こんな事では駄目だ。
椿は自分を奮い起こす。

じゃなきゃ美嘉にまで言われてしまう。

[つまんないね]

⏰:08/06/17 00:32 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#68 [向日葵]
ホラ、顔をあげて……。
しっかり前を向かなきゃ……。

言い聞かすも、体は言うことを聞いてくれない。
それでも椿は必死に顔を上げる。

周りの景色がスローモーションのようにゆっくり動いているように感じた。
目を何度こすってもそれは変わらない。

それでも、椅子にちゃんと座り、倒れる事なく背筋を伸ばして前を向けているならいいんだと思い、スローモーションの世界をそのままに、強さを増す日差しに堪えた。

そうしている間に、応援合戦は終わった。

⏰:08/06/22 23:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#69 [向日葵]
「つ、ばきー!次お昼休みだって!教室行こっか!」

美嘉が爽やかに汗を流して椿に微笑みかける。
しかし椿にはその笑顔さえぐにゃぐにゃにしか見えていなかった。
それでも微笑み返し、頷いて立ち上がる。

人混みの中から、越が「委員会の仕事あるから」と叫び、先に行ってしまった。

「午後からも楽しみだねっ」

「そうですね……」

やっと日陰に入れる。
椿はホッした。

⏰:08/06/22 23:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#70 [向日葵]
しかしホッとしたのもつかの間。
次の瞬間、椿の体がぐらりと傾いた。

「椿!?」

美嘉の驚いた声をはっきりと聞きながらも、椿には答える元気がもうなかった。
そして徐々に、意識は遠のいていくのだった。

********************

昼休みだと聞いた要はどこかで昼食をとろうと歩き出したところだった。

すると背後からやけにザワついた声が広がるのを耳にした。

⏰:08/06/22 23:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#71 [向日葵]
何かあったのかと振り向けば、遠く離れた所で人だかりが出来ていた。

「要さま、昼食の方はどちらで」

従者が要に問う。

「ちょっとここで待ってて。何があったか興味あるから」

野次馬精神で要はその場所へと向かう。

「……ばきっ!」

聞いた事がある声だ。
と思えば先日自分をひっぱたいてくれた奴じゃないか。
要は眉を寄せる。

⏰:08/06/22 23:55 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#72 [向日葵]
「椿っ!」

「椿……?」

要が呟く。
やがて見えたのは、担架に乗せられてぐったりとしている椿の姿だった。

思わず目を見開く。
椿について行こうとする美嘉に駆け寄り、その腕を掴んだ。

「アンタ……!」

「椿はどうしたんだ?」

美嘉は要をキッと睨んで腕を振りほどく。

「アンタなんかに関係な……、ちょっと……なんでアンタがそれ持ってるの……」

⏰:08/06/22 23:59 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#73 [向日葵]
美嘉が見つけたのは要が椿からぶんどった日傘だ。
今はたたんで彼が左手に持っている。

「だって椿は壊れたって……」

「……え?」

自分が取った事を言わなかったのかと要は驚く。
全てを察した美嘉は歯を食い縛って要の胸ぐらを掴んだ。

「なんなのアンタ!椿イジメてそんなに楽しいの!?なんでこんな事するのよ!!」

まさか彼女はこの暑い中、誰にも何も言わず堪え続けていたのか?

そう思えば要の頭は混乱した。

どうしてそこまでして……?

⏰:08/06/23 00:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#74 [向日葵]
「椿がいつも笑ってるから何とも思わない鈍感な子とでも思ってるつもり……?ふざけないで!」

胸ぐらを話すついでに美嘉要の胸を叩いた。
突然の衝撃に、要は後ろへ少し下がりながらむせこんだ。

「椿はね、誰も困らせたくないから笑うの。自分のせいで、周りを困らせて大変な思いさせてると思ってるからなんでもないフリをするの!」

要はハッとする。

彼女の、椿の、微笑む理由……。

「なんでアンタなんかが、婚約者なのよ……」

それだけ言って、美嘉は椿の元へと駆け出した。

⏰:08/06/23 00:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#75 [向日葵]
要はその場で立ちすくむ。

椿は要に、本気で笑いかけていたかと考える。
その完璧な笑顔の仮面に惑わされ、自分がどれだけ彼女を苦しめたかとうろたえる。

その仮面の下に、どれだけの辛さを隠していたのだろう。

いや、こんな事気にしなくてもいい。
自分の目的は彼女ではない。彼女の会社だ。
だから……どうでもいい……。

そう思うのに、要の視線は、たった今美嘉が向かった方へと向いていている。

⏰:08/06/23 00:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#76 [向日葵]
椿と自分は似ているのかもしれない。

要も沢山のものを見て見ぬフリをした。
慕ってくる者の裏にある思惑や沢山の恨みの念。
自分の中にある、孤独な感情……。
全ては世界にのし上がる為と捨ててきて、利用した。

椿はそんな自分に似ている。
しかし彼女の場合はもっと綺麗な感情で、そこには“自分の為”だなんて勝手な思いはなく、“人の為”に全てを見て見ぬフリをしている。

きっと、要の事もそうなのだろう……。

⏰:08/06/23 00:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#77 [向日葵]
自分を押し殺して、“人の為”に何もかもを捨てるのは、どれだけの勇気や思いがあるだろう……。

要はため息をついた。

ダメだな……椿の事を考えたら気になって仕方ないじゃないか……。

要は歩き出した。

*******************

ヒヤリとした何かが額に当てられたのを感じ、椿は目をゆっくりと開けた。

「美嘉……ちゃん……」

「良かった……気がついた?」

⏰:08/06/23 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#78 [向日葵]
小さく頷く。

そうか、自分は倒れたのかと思えば、嫌な気持ちでいっぱいになった。
掛け布団から自分の細く白い手を出し見つめる。

頼りない体……。いっそのこと無くなってしまえばいいのに……。
これくらいの暑さにも堪えれないなんて情けなすぎる。

「保健の先生がここでご飯食べていいって言ってるの。食べれる?」

「はい……。ありがとうございます……」

微かな力に頼って体を起こす。
どうやら今は職員も昼休みなので保健室には美嘉と椿しかいないらしい。

⏰:08/06/23 00:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#79 [向日葵]
「あのね椿……、美嘉の前では無理しなくていいんだから。もちろん越の前だってさ……。なんの為の友達だと思ってんの?」

美嘉は軽く頬を膨らませる。
そんな美嘉に椿はそっと笑った。

その気遣いが嬉しい。
だから美嘉達には何も言う事は出来ない。しない。
そう言う人がいるから頑張れる自分がいる。
例えつまらないと言われようと……くじけない。

「ありがとうございます……」

それだけ言うと、美嘉は満足そうに歯を見せて笑った。

⏰:08/06/23 00:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#80 [向日葵]
※訂正

>>74

×美嘉要
○美嘉は要

⏰:08/06/23 00:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#81 [向日葵]
美嘉が持ってきたお弁当を受け取り、食べようとした時だった。

勢いよく保健室の扉が開いた。

驚いた2人はその方を見る。
そこに立っていたのは、要だった。

要は椿の姿を見つけると、土足厳禁だと言うのに靴のまま近づいてくる。

敵対心もあらわに、椿の前に立ちはだかる。

「何よ。まだなんかある訳?」

「心配しなくても君にじゃないよ。僕は椿と話がしたいんだ」

⏰:08/06/26 00:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#82 [向日葵]
椿が微かに体をぴくりと動かせたのを美嘉は視界の隅で認めた。
だから尚更ここをのく訳にはいかないと要を睨みつける。

「これ以上椿をいじめないで……。病人にまで手を出す気?」

「僕はそこまで鬼じゃない」

「どうだか……」

らちがあかないと思ったのか、要は美嘉の後ろにいる椿を見る。
要に見つめらるた椿はハッとする。

「椿、僕と話をしてくれるね?」

⏰:08/06/26 00:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#83 [向日葵]
「ちょっとアンタね……っ」

「美嘉ちゃん」

美嘉は振り返り椿を見る。
彼女は、未だ白い顔をしているにも関わらず、にっこりと完璧に微笑んでいた。

「大丈夫ですから、少し外で待っていてもらえますか?」

美嘉は少し躊躇った。
いくら椿の願いと言えど要が椿をいじめないと言うことはない。
それでも、椿の言う事に従ったのは、椿の事が大切が故だった。

渋々保健室から出て行く。

美嘉が出て行ったと同時に、要はまた近づいた。

「……君は馬鹿か」

⏰:08/06/26 00:27 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#84 [向日葵]
いきなりの暴言に、椿の笑顔はなくなり、驚いた顔が要の目にうつる。

「どうして倒れるまでこの炎天下にいる……。日陰に隠れることくらい出来ただろうっ!それに日傘の事だって、僕がぶん取ったと言えばいいじゃないか!」

椿は瞬きを繰り返した後、また静かに微笑んだ。

「葵さまは悪くないですよ……」

「……!別に……そう言う事を言ってるんじゃない……」

「私は葵さまのおっしゃる通り、つまらない奴なのです……」

⏰:08/06/26 00:31 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#85 [向日葵]
要が再び彼女をみれぱ、椿は窓の外をまぶしそうに見ていた。

「つまらないと、承知だからこそ、何か証明したかったんです。せめてこれぐらいの暑さや日光に堪える事の出来る体ならば、つまらないながら何か出来るんではないかって……」

彼女は自分の手元に視線を落とす。
うつ向くので、綺麗な黒い髪の毛が彼女の顔を隠す。要からは見えない。
椿の顔は悔しさで歪んでいた。

「日傘なんて……無くても元気な人は元気ですもの……」

⏰:08/06/26 00:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#86 [向日葵]
椿が泣いているのではと思った要は、彼女の両肩を持って強制的に顔を上げさせた。

突然の事に椿は驚いていたが、泣いてはいなかった。
要はそれに何故かホッとする。

「ごめんなさい……愚痴になってしまいましたね……」

椿は薄く笑う。
しかし要は、こんな時にまで笑って欲しくなかった。
……こんな時?
彼女が倒れたというだけだ……。
自分はそれを、気にしているのか?

⏰:08/06/30 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#87 [向日葵]
そんな事を思いながら、口を開く。

「笑うな」

吐息のように、椿は「え……」と言った。

「笑いたくない時は笑わなくていい。無理に笑えなんて言わないから。悲しかったら悲しい顔をしてもいいんだ。怒りたかったら、怒ればいいんだ……」

父や美嘉意外にそう言った人は要が初めてだ。
しかし彼は父達とはまた違う立場の人で、尚且つ彼自身を好きになるように仕向けようとしている。

なのに、上辺だけの筈なのに、どうしてそんな真剣な言葉を伝えてくるのだろう。

⏰:08/06/30 00:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#88 [向日葵]
椿は戸惑う。

どうすればいいのか分からない。
そうか、分からないから、この人の前では今まで笑って済ませていたんだ。

彼の巧みな言葉に惑わされてはいけない。

要が自分の事を心配するのは、あくまで利用する為なのだから。

そう胸に刻んだ椿は一度瞬きしてから、やはり微笑んだ。

「悲しい事も、怒る事も、私はありません。幸せなんです。だから笑うのです」

「――っ!だから、そういうんじゃ……っ!」

肩を掴んでいた手に力が入る。

⏰:08/06/30 00:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#89 [向日葵]
痛いのか怖いのか、椿はビクリと体を震わせ、顔を少し歪ませる。

要はそれに気づき、パッと肩から手を離し、そっぽを向く。

気まずい空気が2人の間を漂う。
要は深呼吸して、頭を片手でかき乱した。

「君が笑おうが泣こうが関係無いんだけどな……。でも、笑っているばかりで君の人生が成立するなら、それは間違ってる気がするよ」

「間違ってる……ですか……?」

「笑うだけの君で、本当に社長やさっきの友達は満足なのかな」

⏰:08/06/30 00:40 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#90 [向日葵]
「それは……」

「君は、何もかもに素直に従って、満足?」

椿から、笑顔が消える。

本当に、この人の、要の考えている事が分からない。
だから微笑んでいたいのに、簡単に笑顔を無くさせる。

抵抗しても、仕方ない事を何故させる……?

「要さまは……そんな私でも、満足なのでしょう……?」

要と目が合う。
目を合わせたのは、初めてな気がした。

⏰:08/06/30 00:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


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