ギンリョウソウ
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#260 [向日葵]
苦々しいため息をはいた後、ドアをノックされた。

「要さま」

大久保だった。

「なんだ」

「お客様が来ていますが、お通ししてもよろしいですか?」

「もしかして」と、微かな期待が胸をよぎる。

「誰だ」

「早乙女 聖史さ……」

「通すな追い返せ」

大久保が最後まで言う前に要は言った。

なんで奴が来るんだ。

⏰:08/08/20 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#261 [向日葵]
大久保は部屋から出ていかない。
戸口で誰かと喋っている。

「あの、要さま。ならばドア越しに話さないかと、早乙女さまがおっしゃってます」

要は大久保に聞こえないように舌打ちした。

きっと要と喋るまで帰る気がないのだろう。
なら早く喋って早く帰ってもらった方が無駄な抵抗を続けるよりマシだ。

「分かった。大久保、下がっていいよ」

大久保は一礼すると、ドアを開けたまま去って行った。

要はドア近くの椅子に移動する。

⏰:08/08/20 02:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#262 [向日葵]
「久しぶりだね」

「君には2度会いたくなかったけどね」

「手の調子はどう?」

「言っただろ。柔じゃない。これくらい痛くも痒くもないね」

微かに笑い声が聞こえる。

なんだか馬鹿にされている気がした要は、青筋をこめかみに浮かべながらさっさと帰ってもらおうと用件を訊く。

「僕も暇じゃないんだ。何の用かな」

「それは失礼。確かめたい事があってね」

「雑談はいい。要点だけ言ってくれ」

⏰:08/08/20 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#263 [向日葵]
「作戦なのかな?」

要はドアの方を向いて眉間にシワを寄せる。

「何が?」

「そうやって、拗ねてるみたいに頑なに椿に会わないのは、彼女の気をひく作戦なのかって訊いてるんだよ」

「拗ねてるだと……?」

事の元凶の奴が、こちらの心情も知らずに馬鹿にして……。

要は立ち上がるとドアに近づき、聖史がいるだろう場所を思いきり拳で叩く。

「君には吐き気がするほどイラつくよ。拗ねてるだと?ふざけた事を言われたものだ。君に僕や椿の何が分かるんだっ!」

⏰:08/08/20 02:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#264 [向日葵]
言い終えてすぐに、反対側からもドンッ!と叩かれた。

「君のせいで……椿は僕に集中してくれない……。僕もそんなに気長じゃないんでね。作戦なら見事だねと、賛辞を贈りにきたんだよ」

冷静な口調だが、要と同じくらい彼もイラついているのだと分かった。
だからわざと要をイラつかせたのだろう。

「フェアに戦わないと言った筈だ。椿が僕で頭がいっぱいなら、僕は万々歳だね」

「なら僕にも考えがある。椿を今度帰る時に、泣き叫んでも連れて行くよ」

それを聞いた要は、戸口に出て聖史の姿を見つける。
聖史はドアに背を預けるようにして腕を組んでいた。

⏰:08/08/20 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#265 [向日葵]
「焦らなくても、君が姿を見せればそんな事はしないよ。僕も鬼じゃない。椿が嫌がるのを無理矢理……って言うのは好まない」

「今……僕が悩んでるって分かってて言ってるのか……っ」

どんな状況になろうと、自分が有利に立とうとしむける聖史。
そんな聖史に、要は歯噛みしながら睨みつける。

「フェアには戦わないんだろ?」
ニヤリと笑って、聖史は去って行った。

椿に会いに行かねば。
いや、会いたいんだ。

でも、どんな顔で、椿の前にいけばいいかが、要には分からなくなっていた。

⏰:08/08/20 02:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#266 [向日葵]
―――――――…………

「3針……ですか……」

聖史がいなくなったので、最近なかなか聞けなかった要の様子をメイドの佐々木に訊いて、椿は驚いていた。

「はい。どうもガラスで掌をお怪我されたそうで、痛みと熱があったので担当医に診てもらったところ、3針縫ったらしいです」

たしか要が怪我をしたのは右手。

私生活にも困っているのではないのだろうか……。
でも……。

「ありがとうございました。では……」

「え?椿さま……?」

⏰:08/08/20 02:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#267 [向日葵]
佐々木は少し驚きながら椿を呼び止める。
椿は首を傾げ、佐々木を見る。

「あの……お見舞いに行かれたりしないのですか……?」

「どうしてですか?」

「椿さまは……要さまにご好意があるのではと思いまして……」

椿は佐々木を見つめたまま固まった。
佐々木は続ける。

「こんな事言っては失礼なことを承知で言わせて頂きます……。聖史さまはとてもいい方です。お優しいですし、椿さまを大事にしてくれるでしょう。……ですが……。椿さまは、要さまと一緒の方が、椿さまらしくいるような気がします……」

⏰:08/08/20 02:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#268 [向日葵]
椿は今までの要との時間を思い出していた。

不器用で、でもどこか優しくて……。
弱い部分の自分を怒らないと言ってくれた人……。

「佐々木さん……。好きという感情は、私にはまだ分かりません。傷つけたくない人と、どうしても気になってしまう人はどう違うのでしょう……」

聖史は傷つけたくない人。
要はどうしても気になってしまう人。

どちらも大切な人。
でも椿には、どちらがより大切かなんて決めることは出来なかった。

「佐々木にも……分かりません……」

⏰:08/08/20 02:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#269 [向日葵]
佐々木は椿の両手をソッと握る。

「ですが、傷つけたくない人より、気になる人の方が、心が惹かれている気がします。気になるのは、もっとその人を知りたいから気になるのではないでしょうか……」

「もっと……?」と小さく呟く椿に、佐々木は優しく、まるで母のように微笑む。

「椿さまがもっと知りたいと思っている方を、お選び下さいませ。佐々木は、どちらの方になっても、椿さまがお幸せなら嬉しいですわ……」

椿は佐々木に心からの笑みを向ける。
佐々木だけは、この屋敷の中で、、唯一椿の理解者なのだ。

⏰:08/08/20 02:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#270 [向日葵]
「ありがとうございます……佐々木さん……」

・・・・・・・・・・・・・・・・

部屋に帰った椿は佐々木に言われた事を色々と考えていた。

ふと顔を上げると、何かがピカピカ光っている。
携帯のランプだった。

手に取り、開くと、不在着信の知らせが表示されていた。
誰だと思い、ボタンを押す。

「え……っ」

驚くのも無理はないだろう。
その電話をかけて来た相手は、もう諦めかけていた要だったのだから。

「要……さま……?」

⏰:08/08/20 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#271 [向日葵]
どうして?なんて疑問が浮かび上がる前に、椿はリダイヤルを押していた。

耳の奥で、呼び出し音と鼓動が合唱している。

出て……。
出て……お願い……。

―――――しかし。

椿の願いは届かなかった。
いつまでも鳴り響く呼び出し音に、椿は絶望した。

でも冷静に考えれば、電話で話したところで、何を話せば分からないでいた。
「元気ですか?」なんて、怪我をしてる人に訊ける訳もない。
「大丈夫ですか?」と訊けば、きっと強がるだろう。

⏰:08/08/22 00:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#272 [向日葵]
部屋に敷かれている、ふわふわの絨毯の上に、椿はペタリと座り込む。

[気になる人は、その人をもっと知りたいのでは……?]

もっと……知りたい……。

確かに要の事はもっとよく知りたい。
彼の言葉はほとんどが最初と矛盾していて、はっきり言ってどれが本当か分からなくなってきている。

態度だって、優しくしてくれたと思ったら、今みたいに突き放したり……。

それに、訊きたい事も沢山……。

陽射しが、温かく椿を包む。

⏰:08/08/22 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#273 [向日葵]
その温かな光を受ける事で、最近の疲れを癒そうとした。
そこで彼女は首を傾げたくなった。

……疲れ?
何も疲れてなんて……。

[要さまといる方が……]

そんな佐々木の言葉を思い出す。
聖史といる事が、椿にとって疲れる事なのだろうか。

あんなに優しい人を……。
そんな事思っちゃいけない。
いいや、思う資格なんて、ないのに……。

――――――――…………

美嘉はドキドキしていた。

やっぱりこんなのしなくていいのでは……?

⏰:08/08/22 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#274 [向日葵]
けれど、椿の笑顔がいつにも増して辛そうなのだ。
どうしたか訊いてもきっと本人は教えてくれない。
聖史は椿にはとっても優しいから、悲しませるような事はしないだろう。

なら、原因はただ1人だった。

先程、彼の従者だと言う人に部屋を案内してもらってから、美嘉は部屋の前でつっ立ったまま入ろうか悩みっぱなしだった。

「いいの……私だけが椿の理解者なんだから……」

呪文のように呟いて、息を吸い込んだ美嘉は、少し乱暴にドアをノックした。

中から返事が聞こえた。
勢いよくドアを開ける。

⏰:08/08/22 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#275 [向日葵]
要は美嘉を見ると、明らかに嫌そうな顔をする。
美嘉だって出来れば要と顔を合わせたくないが、今日はなんとしても言ってやりたい事が盛り沢山あった。

「ちょっと、アンタ仕事休んでるの?サボリ?」

「見て分かんない?け・が、してるんだよ」

ソファーに座っていた要は、立ち上がりバルコニーに続くガラス戸に歩いて行く。
ガチャりと開けた所で、美嘉に訊く。

「何か用なの?」

椿の部屋より広いんじゃないかと呆然としながら見ていた庶民の美嘉は、要の声にハッとした。

⏰:08/08/22 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#276 [向日葵]
もう冷たいだろう風を、スーツのズボンにカッターを着て、緩めたネクタイをしているだけの寒々しい恰好をしている要は、平然と受けていた。

まるで黄昏たいように、遠くを眺めて。

「えと……最近アンタ、椿にあってないの?」

「君には関係ないだろう」

「あるよ。椿は美嘉の大切な友達なの。中途半端にあの子の事接しないでほしいの」

「君はどちらの味方なんだ?君は僕が嫌いなんだろう?あの聖史さんとやらと椿がくっつけばいいとか思ってるんじゃないのか?」

冷ややかな笑みを、美嘉に向ける。
あまりの冷たさに、美嘉はゾクリとした。

⏰:08/08/22 01:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#277 [向日葵]
けど負けてはいられない。
美嘉を動かすのは椿を守るという使命感だけ。

「聖史兄ちゃんはいい人だけど、椿が望んでないなら意味がない。椿には心から好きな人とくっついて欲しい」

「だから僕に何をしろと?」

「椿に会ってあげて欲しいの」

「……話がまるで分からないよ。明確に説明してくれないか」

「だからぁ!椿はアンタが好きだと思うの!最近元気がないのは、きっとアンタに会いたがってるんだと思うから……。だってそうでしょ?聖史兄ちゃんが好きならいつもそばにいるのに元気ないなんておかしいじゃないっ」

⏰:08/08/22 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#278 [向日葵]
そんな事責められたってと要はため息をつく。

椿が自分を好きという図式が要の中で作る事が出来なかった。
彼女が元気ないというのは多分自分を怒らせてしまった後ろめたさと怪我の事が気になっている程度だろうと考える。

「……会わない」

「ちょっとアンタ……」

「いや、会えないんだ……」

美嘉は眉を寄せる。

「どういう事……?」

要はバルコニーに出る。
手すりに両手をついて、剪定されて綺麗な庭の木々を見つめる。

⏰:08/08/22 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#279 [向日葵]
「君も見ただろう。僕は椿にあんな事をした奴だ。僕は欲しいものはとことん貪欲でね。でも、そんな自分の欲を抑えれなかったからあんな事態を招いたんだ」

震える椿。
涙を流し、許しを請う姿はどれだけ胸を締めつけるものだったろうか。
聖史なんかに負けたくない。
椿が欲しい。

そうまでして、手にいれようとしたが、許せない。

そして……。

「少し……自分が恐いとも思った。この先、椿を壊してしまったら、どうしようとか……」

あの白い肌を、細い体を、自分が潰してしまったら……。
そう思えば、余計椿に会いづらくなっていた。

⏰:08/08/22 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#280 [向日葵]
こちらは真剣に悩んでると言うのに、驚くほどあっけらかんに美嘉は言った。

「なぁんだ。アンタも年相応な考え持ってんじゃん」

「は……?」

「誰だって好きな人の全ては欲しいし、貪欲にだってなるでしょうよ。潰してしまうかもとかマイナスな思考じゃなくってさ、どれだけ好きか分かってもらおうってプラスの思考で考えなさいよ」

要はぽかんとしていた。
どうしてあっさりと物事をそんな風に考えるのか、要には分からなかった。

すると美嘉はカラリと笑った。

「アンタ頭良いくせに意外にあったま悪いんだね!なんかちょっと親近感湧くわ」

⏰:08/08/22 01:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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