ギンリョウソウ
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#380 [向日葵]
安堵の笑みを浮かべ、椿は自室へと早歩きで行ってしまった。

「ねぇ」

要は近くにいる佐々木に問いかける。

「椿様子が変だけどいつから?昨日?」

「いえ、今朝からです。青い顔をして起床なさいましたから」

「うーん……。また風邪かなぁ……」

要が最早心配しているだなんて知らない椿は少し気分が明るくなり、いそいそと着替えをする。

脱いだ制服を綺麗にハンガーでかけ、出ていこうとした時、後ろから何かに引っ張られた。

⏰:08/09/03 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#381 [向日葵]
悲鳴をあげそうになった口を、何かに塞がれる。

「僕だよ椿」

耳元で囁かれれば、違う意味で椿はぞくりとした。

「聖史……さま……」

聖史は後ろから椿を抱き締め、椿の髪に頬擦りすると満足そうに微笑む。

「早く会いたかった。驚かせようと思ったんだ。あ、心配しなくても着替えは見てないからね」

「離して……下さい……」

椿がそう呟くと、椿を抱き締めていた片手がほどけ、その手の指先で頬に触れる。

⏰:08/09/03 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#382 [向日葵]
「どうして?いいじゃない少しくらい」

「今から、夕飯で……その、お客様も一緒で……っ」

「もしかして要くん?」

密かに苛立った声音。
椿は小刻みに震えだす。
まだ離されていないのに、その場から逃げ出そうとする。
当たり前に、聖史はそれを阻止し、椿を自分の方へ向ける。

「そうなんだね。……まったく椿、どうして僕の言う事を分かってくれないのかな……」

穏やかに笑ってるのに、その言葉は椿に恐怖をもたらすだけだった。
どうにか逃げようとまた試みた時、聖史の唇が椿の唇に重なる。

⏰:08/09/03 02:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#383 [向日葵]
椿は目を見開く。

聖史はしばらく重ねていると、椿を解放した。

「要くんがいるなら、僕も挨拶しないとね」

にっこり笑ってそう言う。

椿はショックで聞いているのかいないのか分からない。
しかし聖史が先に出て行くと、唇が痛くなるまで手で擦った。

・・・・・・・・・・・・・・・

パタンと音がしたので要はその方を見る。
が、要はあからさまに嫌そうな顔をした。

「こんばんわ要くん。久しぶりだね」

「久しぶりだろうが何だろうが、君に会うつもりは更々無かったよ」

⏰:08/09/03 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#384 [向日葵]
不機嫌を露にした要を涼しい顔で流すと、聖史は続けた。

「今から夕飯らしいね。僕も一緒にいいかな?」

「やだ」

「椿の許可がおりていても?」

それには要はグッと押し黙る。

彼女はもう聖史の事を兄のようにしか見ていないのかもしれない。
それに実はもう椿は聖史に答えを告げたのかもしれないと思えば、要は少し胸を張れる気分になった。

本当の事は、何も知らないまま……。

「……なら、いいよ」

聖史はにやりと笑う。
すると静かにまたドアを閉める音が聞こえた。

⏰:08/09/03 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#385 [向日葵]
どこか元気のなさそうな椿が姿を現した。

「椿、聖史さんとやらも一緒に夕飯食べるんだってね」

「え……っ!」

椿はとても驚く。
それを要は怪訝に思った。

自分から許可しておいて、何故そんな反応を見せるのかと。
しかし然程気にはしなかった。

それよりも……。

「椿、なんだか唇が赤くない?」

これには更に椿は動揺した。
口を押さえ、うつむいてしまう。

⏰:08/09/03 02:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#386 [向日葵]
「あ、荒れて……いまして……」

「そうなの?この時期リップクリームはかかせないよ?」

そんな会話をしているそばで、聖史が密かにニヤリと笑っている事を、2人は知らなかった。

食事の間へ行った3人は、それぞれ席に座る。
しばらくすれば料理が運ばれてきて、ナイフとフォークを持つ。

椿は食べる気が起きなかった。
あまり動く事のない椿の手を見て、やはりおかしいと要が声をかける。

「……椿、どうした?」

椿はびくりとすると、ナイフを落としてしまった。

⏰:08/09/03 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#387 [向日葵]
ナイフは床を滑っていくと、聖史の足元へと行ってしまった。

慌てて椅子からおり、身を屈める。

「僕が取ってあげよう」

聖史がそれにならう。

「いえ、いいんで……」

「僕のキスがそんなに嫌だった?」

耳元で聖史が囁く。
椿は青い顔をして素早く立ち上がった。
と思うと、部屋を出ていってしまった。

「椿、どうしたんだ?」

テーブルで四角になっていた為見えなかった要は、椿が落としたナイフを静かにテーブルに置く聖史に問う。

⏰:08/09/03 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#388 [向日葵]
聖史は静かに微笑む。

「さぁ、ただ聞いただけなのにね……」

要は首を傾げる。

「僕のキスがそんなに嫌だった?ってね……」

要は目を見開くと、テーブルを叩くようにして立ち上がった。
聖史はやはり静かに微笑むだけだ。

「お前……っ!」

「前のは刺激が強すぎたからと思って、今日は優しくしたつもりなんだけどなぁ……」

自分の唇をなぞりながら、聖史は楽しそうに呟く。
その聖史を殴りつけるよりも、要は椿の元へ急いだ。

⏰:08/09/03 03:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#389 [向日葵]
>>387

誤]四角
正]死角

⏰:08/09/03 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#390 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・

椿は庭の阿舎(アズマヤ)にいた。
柱に寄りかかるようにしてしゃがみ込んでいる。

膝を抱え、その膝に顔を埋めるようにして、荒くなる息を沈めようと頑張っていた。

椿は限界だった。
足枷をつけられて自由を奪われているような気持ちでいた。

好きでもない人と何度も唇を重ね、好きな人には傷つける態度で接するしか出来ない自分にも苛立っていた。

いっその事……消えてしまいたい……。

どう頑張ったって自分は母のようになれないのだと思ってしまえばそれも許せない事実だった。

⏰:08/09/04 02:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#391 [向日葵]
誰の傷を癒す事も出来ない。
傷つけてしまうだけの自分。
足を引っ張ってしまうだけの自分。

こんな役立たずな自分なんて、要に好きでいてもらう資格はない……。

顔をあげて、袖でもう1度口を拭く。

赤くなろうが、痛くなろうがどうでもいい。

ただあの瞬間の出来事、感触。
全てを無かった事にしてしまいたい……っ。

椿はひたすら口を拭く。
しかしその手は止められた。
手首を掴む手に、椿はビクリと肩を震わして小さく「ひ……っ」と悲鳴を漏らす。

⏰:08/09/04 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#392 [向日葵]
「僕だよ椿」

要の声だった。
もう暗くなってしまった庭園には、彼の姿はあまり見えないけれど、柔らかな声音は彼のものだった。

それでも、椿の震えは治まらない。

「ご……めなさ……。ただ、寒い……だけです……」

寒さなんて感じない。
いや、感じれない。
椿の頭の中は、もう破裂寸前だった。
そんな椿の前に、要は片膝をつく。

彼女の姿は、彼女が要の姿を見えないように見えないが、何かに怯えているのだけは、掴んでいる華奢な手首から伝わってきた。

⏰:08/09/04 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#393 [向日葵]
「ちゃんと呼吸出来てる?なんか息が荒いよ?」

「大丈……夫……です……」

「落ち着いて。大丈夫、僕はここにいるから。椿、落ち着くんだ」

促されるように、椿は落ち着こうとする。
何回も深呼吸して、荒い息を穏やかにしようとする。
要は手首から手を移動させ、椿の指先を包むようにして握る。

指先は、驚く程冷たくなっていた。

椿が段々落ち着いてきたらしい。
耳だけで聞く彼女の息遣いがゆっくりになった。

手を握っていない方の手で、そっと彼女の肩に触れれば、また大きくビクリと震えた。

⏰:08/09/04 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#394 [向日葵]
彼女が何に怯えているのかは要には分からない。

だがとりあえず、聖史から聞いた事を話す。

「あの人から聞いたよ。椿……君、あの人とキスしたんだってね」

椿は息を吸って止まる。
夢の中の要が目の奥に映し出される。
我慢出来なくて、椿は声を押し殺して涙を流す。

「椿……」

「違うんです……っ、私、すご、く嫌で、逃げたくても逃げれなくて……っ」

望んだんじゃない。
好きな訳でもない。

⏰:08/09/04 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#395 [向日葵]
いやらしい女だなんて思わないで。
嫌いにならないで。

「私はしたくてしたんじゃないんですっ!私はそんな事したくなかったっ!そんな……要さまを裏切るような事……っ」

椿は声を荒げて要に訴える。
それに要は驚いた。
椿の本気の否定。
どんな言葉を受けても、笑顔で堪え、全て受け入れていたあの椿が、自分の過ちを全て否定した。

思いをどうにか聞き入れて欲しくて、声をあげてしまった椿はもう声を押し殺して泣く事が出来なくなった。

嗚咽を漏らし、鼻をすする。

そんな椿の両手を、優しく、しかし強く、要は握りしめ、自分の胸元に持っていく。

⏰:08/09/04 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#396 [向日葵]
「椿、大丈夫だよ……。僕は君を責めたりしない」

椿がこちらを見つめるのが分かる。
多分そこにあるだろうと微かな光に見える椿の目をまっすぐ見つめ、要は続ける。

「僕はちゃんと分かってるから。君がそういう子じゃないって知ってるから。……だから、幻滅なんてしない。嫌いになんか、ならないよ」

要は握っている椿の手に力が入るのを感じた。
椿は目をギュッと瞑ってうつむいた。

「信じれない?それじゃ言うよ。僕は君が好きだ」

椿の手が、ピクリと固まる。
彼女は少し身じろぎする。

⏰:08/09/04 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#397 [向日葵]
「椿が好きだよ。信じてくれないなら信じてくれるまで何度でも言う。好きだから、嫌いになんかならないから。ずっと、そばにいるから……」

椿の中に棲んでいた悪夢の塊が、次々に流れ去っていく。

嘘なんて感じない彼の言葉に、椿は自分から要の胸に飛び込む。

急にやって来た重みに、一瞬ぐらついたが、すぐにその細い体を自分の腕で包む。

椿は腕だけで、彼が自分を好きなのが分かった気がした。
だから椿も伝えたかった。

だから思いきりその胸にしがみついた。





どれくらい時間が経っただろう。

⏰:08/09/04 02:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#398 [向日葵]
寒さをようやく感じる余裕の出来た椿の肩には、要の上着がかかっている。

2人は座りながら天高く昇っていく三日月を見上げていた。
手は、強く握られたまま……。

「そうだ。君の友達を今から呼ぶ事は出来ないかな?」

唐突に要が言った。
要は椿にかけている上着の内ポケットから携帯を取り出し時間を確認する。

「8時……、かぁ。別に来れない時間でもないし」

「どうして呼ぶのですか?」

「君を僕の代わりに守ってもらう為」

⏰:08/09/04 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#399 [向日葵]
「え……」と呟く椿の頬に、要は触れる。
すると椿は小さくびくりとしてしまって、申し訳なさそうにうつむく。

「まだ恐い?」

「……すいません」

「いいよ。それだけ君が嫌がってたって事さ」

要は自分の携帯を椿に差し出す。

椿はそれを黙って受け取る。

「今からあの人に勝利を告げにいく。1人で僕のそばにいるのは心細いだろうから、友達に君のそばにいてもらう。その方がきっといいよ」

⏰:08/09/04 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#400 [向日葵]
「電話しろと、言う事でしょうか」

「正解」

椿は携帯を開き、美嘉の家の電話番号を押す。
押してから携帯を耳に当てて呼び出し音を聞きながら、なんとなく要の方を見た。

要は椿の視線に気づくと、柔らかく微笑む。
月明かりに照らされた彼の顔はいつもより素敵に見えた。
だから椿はドキドキ高鳴る胸を抑えねばならなかった。

しばらくして、美嘉が電話に出る。
訳を話せば「すぐ行く!」となんだか張り切っていた。

「自転車でとばして10分ぐらいで着いてみせると意気込んでました」

⏰:08/09/04 03:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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