ギンリョウソウ
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#240 [向日葵]
…………なのに、どうして……?

これは、本当に自分の顔?
窓に映る完璧な微笑みをたたえている自分の顔が、気持ち悪く感じる。

私の……私の本当の顔は、表情は、……気持ちは……どれ……?

視界が揺らぐ。
まるで蜃気楼のように。

そう思うと、冷たい床が近づいた。
視界はすでに闇の包まれた。
そして意識すら遠退く。

「きゃあっ!椿っ!」

越が悲鳴を上げる。

「大丈夫だ」と言いたいのに、口が思うように動いてくれない。

⏰:08/08/18 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#241 [向日葵]
[笑うな]

誰かの声が聞こえた気がした。

不思議な人。

他の誰も、父や美嘉だって、笑わせないよう強制した事はない。
なのに何故貴方だけは……。

椿はこの声が誰のものか知っているような気がした。
でも知らない気もした。

どうしてこの人に振り回されているのだろうと、自分自身不思議で仕方ない椿だ。

動じないフリは、椿の得意技だったのに、彼は容易く打ち砕く。

暗闇の中、椿の口が動く。
しかし、音にはならない。

⏰:08/08/18 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#242 [向日葵]
もどかしい。
声が届くなら、どうかお願い。
あの人へ……。

椿は息を吸い込む。

要さま。

音にはならなくても、耳の奥では聞こえていた。
その不思議な空間から抜け出したくて、闇の中、目をこらして光を探す。

そして小さな光を見つける。

遠くの方に。

椿はそちらへ歩いて行く。

「――……きっ!」

誰かが、呼んでる。

行かなきゃ……心配かけてはいけない。

⏰:08/08/18 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#243 [向日葵]
―――――――…………

瞼を開けようとした椿は、急な光の眩しさになかなか開くことは出来なかった。
ようやく慣れてきたと思い、うっすら開きながら誰かの声を聞く。

「椿、目が覚めた?」

意識をはっきりさせようと、声の主の分析をする。

誰か分かったと、椿の瞼が開ききるのとは同時だった。

「……聖史、さま……」

聖史は安堵の表情を浮かべ、優しく微笑むと、優しく椿の頭を撫でた。

ここは椿の部屋のベッドの上。
なかなか目を覚まさないら椿はどうやら家に運ばれたらしい。

⏰:08/08/18 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#244 [向日葵]
ゆっくりと上体を起こす。

「良かった。この頃顔色悪かったから心配したんだ」

「ごめんなさい……迷惑をおかけしました……」

目を伏せると、聖史は大事そうに椿を包んだ。

「迷惑だなんて思わない。もっと僕を頼ってくれたらいいんだ」

「…………ごめんなさい」

「謝らなくていいから」

「そうじゃない」と椿は思う。
自分を起こしてくれたのは、要だと思っていたのだ。
しかし、目を覚ましてそこにいたのは聖史。

⏰:08/08/18 01:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#245 [向日葵]
こんなに心配してくれているのに、聖史だったのかとがっかりしてしまった自分がいたから、「ごめんなさい」なのだ。

自分には、誰かを選ぶ権利なんてないのに……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

椿の部屋の前に、2つの影があった。
2つの影は、少し開かれたドアから、椿の部屋の中をじっと見ていた。

「今……行かなくてもいいの?」

美嘉は訊いた。

「やっぱり、アンタにとって椿は、ビジネスの道具?」

⏰:08/08/18 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#246 [向日葵]
包帯を巻いた手で、要はギュッ握り拳を作る。
無表情ながら、寂しげな雰囲気を漂わせる彼に、美嘉は少し戸惑う。

「み、美嘉の思い違いなら訂正するなり、椿の部屋に入るなりしなさいよっ!」

要は黙ったまま部屋の中を見る。

今更ながら、椿は自分に好意を向けてくれるのか心配になっていた。
自分勝手な要だ。
優しく包みこむような存在の方が、彼女にとっていいのかもしれない。

勝ちたい。
勝ちたいけれど、それを椿は望んでいるのだろうか……。

⏰:08/08/18 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#247 [向日葵]
「君がどう思おうと自由だよ。ただ……今は椿の元に行かない」

「どうして?」

「倒れた椿を混乱させたくないから」

そう言うと要は踵をかえす。

「ま、待って……っ!」

美嘉の呼びかけに、要は歩く速度を緩め、停止する。

「椿、この頃元気ないの。……分からないけど、もしかして、アンタに会いたがってる気がする……っ!」

要は美嘉に背中を向けたまま無言でいる。
美嘉の頭が混乱していた。

⏰:08/08/18 01:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#248 [向日葵]
最低な奴を、何故自分は庇おうとしているのか。
だって椿が真剣に要を心配してるから……。
でも、今見せてる、今にも泣き出してしまいそうな要が、本当の要じゃなかったら?
でも、椿の願いは叶えてやりたいから……。

要はゆっくりと歩き出した。

「そんなのある訳ない」

きっぱりと、冷たくも感じるその言葉に、美嘉は更に言う事は出来なかった。
黙って、要が小さくなり、家から出ていくのを見ていた。

「あ……美嘉ちゃん……?」

美嘉はバッと部屋の方へ顔を向ける。

⏰:08/08/18 01:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#249 [向日葵]
「いらっしゃったんですね……気づかなくてごめんなさい」

「あ、いいのいいのっ!美嘉もちょっと喋ってたから」

「喋る?」

「ヤバッ……」と小さく言って、両手で口を塞ぐ。
椿はまさかと思う。

「要さまが、いらっしゃったんですか……?」

美嘉はバツが悪そうな顔をして、こくりと頷く。
倒れた椿が、要を追いかけるのではないかと一瞬不安がよぎる。

しかし彼女は、要が行ってしまっただろう方を静かに見つめているだけだった。

⏰:08/08/18 01:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#250 [向日葵]
「あ、あの……追いかけないの?」

思わず訊いてしまう。
椿は小さく頷く。

「きっと……大丈夫だと分かったから、お仕事に戻られたのでしょう」

彼の、心からの告白に感じたあの言葉。

本当は、本心じゃなかったのでは?と思わなくもない。
こうやって、顔も見ずに帰ってしまうくらいなのだから……。

「そういえばアイツ、手、怪我してたね」

「え……っ」

あの時の怪我、まだ治ってないのかと椿は心配する。

⏰:08/08/18 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#251 [向日葵]
椿は「でも……」と小さく左右に首を振る。

心配する人は、他にいるかもしれない。

そう、例えば、彼が寝言で呟いた、あの名の人。

“ユイコ”

思えばあの日から、歯車が狂い始めた気がする。
寄り添った心は再び離れた。
そんな気がする。

彼は寄り添ったつもりなんかないかもしれない。

でも椿は、少なくともその時、彼に心を許す準備は出来ていたのだった。

⏰:08/08/18 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#252 [向日葵]
>>240

誤]闇の包まれた
正]闇に包まれた

⏰:08/08/18 02:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#253 [向日葵]
>>243

誤]目を覚まさないら
正]目を覚まさない

⏰:08/08/18 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#254 [向日葵]
[第6話]

聖史の帰る日が段々と迫ってきた。
もし帰る時に、ついて来て欲しい等と言われたらどうしようと戸惑っていると、聖史は思いもよらぬ事を言った。
それは、長袖じゃないと寒いなと感じた朝の事だった。

「やっぱり再来週に帰る事にしたんだ」

「え?どうしてですか?」

「そりゃ椿ともっと一緒にいたいからだよ」

ストレートにそう言われては、顔を赤くするしかなかった。
その一方で気になる事があった。

要の事だ。

⏰:08/08/20 01:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#255 [向日葵]
何の連絡もないまま1週間がたった。
相変わらず連絡はない。
何度携帯を見て、ため息をついたことか。
あの倒れた時、やっぱり追いかければ良かったと、今更ながら椿は後悔していた。

「――き。椿、聞いてる?」

ぼんやりとしていた椿は聖史の声にハッとして顔を上げた。

「ごめんなさい……っ。なんでしょうか……?」

「もしかして、要くんが気になる?」

「い……いえ、あの……」

返事に困っている椿を、聖史はふわりと包みこんだ。

⏰:08/08/20 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#256 [向日葵]
「僕が、椿の心に入る隙間はもうないのかな……?」

聖史は優しい人だ。
入る隙間がないなんて言っては悲しむだろう。
それは隙間がないことなのだろうかと、椿は心の中で首を傾げた。

第一、椿は好きと言う感情がいまいち分からないでいた。

傷つけたくない人と、どうしても気になってしまう人は、どう違うのだろうか。

椿が答えないでいると、聖史はゆるりと腕をほどいて微笑む。

「ごめん。困らせるつもりじゃなかったんだ。それにしても、最近僕は椿にくっつきすぎだね。今日は帰るよ」

⏰:08/08/20 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#257 [向日葵]
額に触れるか触れないかのキスを落とし、聖史は颯爽と去って行った。

顔を赤くしながらも、聖史が帰った事に少しホッとしている自分に嫌気がさした。

―――――――――…………

「3針……ねぇ……」

自宅のベッドの上で、包帯を巻いた掌をヒラヒラさせながら要は呟いた。

今は痛み止めを飲んでいるから痛みはない。

こんなのじゃ仕事は出来ないと、しばらくの休暇を取ると言って部屋に引きこもったのは4日前の事。

⏰:08/08/20 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#258 [向日葵]
さすがに暇になってきた。

仕事をしたいが、肝心の利き手がこうでははかどる事もなく、結局ベッドの上で寝そべっている。

読書でもしようかと半身を起こした要は、読みかけの本の隣に置いてある携帯に目をやった。

「……はぁ……」

毎日のように、椿から電話やメールが来ていた。
だが自分は返せないでいた。
すると2日ほど前からピタリと来なくなった。

愛想をつかされたかと心配になり、何度返信ボタンを押したか。
しかし文を作成しているうちに指は止まる。

今更何を言ったらいいのかが分からない。

⏰:08/08/20 02:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#259 [向日葵]
押し倒すわ、強引に唇を奪うわ、泣かすわ……。
考えてみれば最悪な事しかしていないではないかと頭を抱える。

それでも、気持ちは伝えた。
ただ椿から何の返事も返ってこない。

毎日のメールからは、前の事ならきにするなという文や、今日どんな出来事があったのかが書かれていた。

今すぐ返事をしてくれないのは、要自身が言った最初の言葉や、突然の兄的存在が現れたせいだろうと考える。

最初の言葉は、これからの自分の誠実な接し方で帳消しにすると意気込んでも、あの聖史がやはり邪魔だと要はイラついた。

⏰:08/08/20 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#260 [向日葵]
苦々しいため息をはいた後、ドアをノックされた。

「要さま」

大久保だった。

「なんだ」

「お客様が来ていますが、お通ししてもよろしいですか?」

「もしかして」と、微かな期待が胸をよぎる。

「誰だ」

「早乙女 聖史さ……」

「通すな追い返せ」

大久保が最後まで言う前に要は言った。

なんで奴が来るんだ。

⏰:08/08/20 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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