ギンリョウソウ
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#201 [向日葵]
そう言われて、ポンと昨日頬にキスされたのを思い出した椿は、ほのかに顔を桃色に変えた。
それにショックを受けた美嘉は、逆に青い顔をした。
「ア、アイツ……っ!美嘉の椿にぃぃぃっ!!」
「ち、違います……っ!えと、そんな、美嘉ちゃんが思ってるような事は……っ」
「じゃあ、どうしたの?」
今度は越が訊いてきた。
椿は昨日触れられた場所に指先を触れながら、更に顔を赤くさせた。
「ほ……頬に……キ、キ、キスをされまして……」
:08/08/10 01:20
:SO906i
:☆☆☆
#202 [向日葵]
「越……美嘉保健室行って来る……」
「え?なんで」
「消毒液……」
「何考えてんの美嘉……」
とりあえず美嘉を止める越を見つつ、椿は帰ってからの事を考えていた。
一触即発なあの2人だ。
椿はどちらかと言えば要の機嫌が損なわないかが不安だった。
聖史はどこか冷静な部分があるが、要は血がのぼってしまえば殴りそうな気がするからだ。
でも……。
殴るほど、自分の事で怒るだろうか?とも椿は思った。
:08/08/12 00:11
:SO906i
:☆☆☆
#203 [向日葵]
――――――……
椿宅に来た要は、学校から帰って来たら横から婚約者を立候補するという非常識な奴と認識している聖史よりも早く椿を迎えようと思っていた。
―――が。
来てそうそう見たのは、その非常識な奴だった。
「やぁ要くん。こんなに早く来ても椿はいないよ」
言外で「ばーか」とでも言われてる気がした要は不機嫌に目を半目にする。
そして椿の部屋へ足を進める。
「待ってよ。少し話をしない?君が椿をどう思っているかちゃんと知りたい」
:08/08/12 00:17
:SO906i
:☆☆☆
#204 [向日葵]
「聖史さんとやら。僕は話す事なんかないよ。椿についてどう思ってるかだって?僕の態度を見れば一目瞭然じゃないか」
「まぁそう言わず。ライバルの事を知るのは大切だと思うよ?弱点を見つけれるかもしれないじゃないか」
そんなの椿に決まっているだろうと思った要だが、これ以上怒っていれば子供だとまたもや馬鹿にされそうなので、聖史と共に応接間へと行った。
足を組んでデカイ態度で座る要に対し、聖史は静かに腰を下ろし、上品に足を組む。
身についたものだろうが、要はそんな動作すら気にくわない。
「さて……要くんは椿の何に惹かれたのかな?」
:08/08/12 00:23
:SO906i
:☆☆☆
#205 [向日葵]
「黙秘権」
「嫌われてるなぁ……」
困ったように聖史はクスリと笑う。
「じゃあ質問を変えよう。君も気づいているだろうけれど、椿が自分自身すら騙して無理をしている理由を知っているかい?」
それを知らない要は聖史をジッと見つめる。
そういえば、自分の家に来た椿のところのメイドが言っていた。
――自分を呪っている。
……と。
「椿のお母さん、つまり奥さまが亡くなっているのは知っているよね?奥さまは椿と同じように、体が弱いお方だったんだ」
:08/08/12 00:28
:SO906i
:☆☆☆
#206 [向日葵]
控えめだが、性格、外見には恵まれていて、言い寄る男は多かったと言う。
しかし椿の母は、今の椿の父に一目惚れをし、2人は結ばれたのだと言う。
そして間に生まれたのが椿だった。
が、椿を産むと、椿の母の命が危ないと言われていた。
椿の父の必死の反対に、椿の母は首を横に振るのみ。
絶対産む。例え自分の命とひきかえにしても。
それが口癖だったらしい。
そして椿を産んで間もなく、椿の母は息を引き取ったのだと言う。
:08/08/12 00:33
:SO906i
:☆☆☆
#207 [向日葵]
要はありそうな話だと思いながらも、耳を傾け続ける。
「椿はやがて、自分が生まれたせいで奥さまが亡くなったと思ってね……」
それに追い討ちをかけるように、椿が成長する度、使用人達は口をそろえて言った。
[奥さまそっくりですね。奥さまがいたらさぞ喜ばれる事でしょう]
椿は、母と似ているのが嬉しかった反面、皆の母の対する親しみの思いが深いのを感じとっていた。
そんな、皆にとって大切な母を、自分が生まれた事によって死なせてしまった。
:08/08/12 00:38
:SO906i
:☆☆☆
#208 [向日葵]
――殺シタノハ、私ダ……。
要は目を見開いた。
聖史は話を続ける。
「それから椿は奥さまの話をしてとよく旦那さまにねだっていたらしいよ。奥さまの身代わりを自分がしよう。そうしたら、使用人達の心を満たせると思ったんだろうね……。そんな事抜きでも、椿は大切に思われているのに……」
必死にいい子になり、皆に迷惑をかけない自分になろう。
皆の幸せを1番に願える自分になろう。
かつて母が、そうだったように……。
要は片手で目を覆い、うつむく。
:08/08/12 00:43
:SO906i
:☆☆☆
#209 [向日葵]
何を……考えているんだ椿……。
「そんな椿だからこそ、ちゃんと彼女の裏の感情を分かってくれる人間じゃないと認めない。なのに、君はどうだ、要くん」
要は歯ぎしりしそうな程歯を噛み合わせた。
「自分の欲求や、不満で椿を振り回してはいないかい?」
うるさい……。
「椿を本当に、思いやってはくれてるかい?」
うるさい……。
うるさい……っ!
:08/08/12 00:47
:SO906i
:☆☆☆
#210 [向日葵]
どうしてお前にそんな事言われなくちゃならないっ!
どうしてお前から椿の事を聞かなくちゃならないっ!
要は机に置いてあったアイスコーヒーが入っているグラスを握りしめる。
そしてそれは、カシャンと音と共に砕ける。
中の液体と氷が、高そうな絨毯を汚していく。
「…………椿は、君と結婚するのを望んでいるのかな……?」
その言葉に、頭のどこかで派手な音を聞いた要は、近くにあった花瓶を思いきり聖史に向かって投げた。
―――――――――…………
何も知らない椿は、いつも通りの時間に美嘉と共に帰って来た。
:08/08/12 00:53
:SO906i
:☆☆☆
#211 [向日葵]
部屋に行こうと廊下を歩いていると、聖史が姿を見せた。
「あーっ!聖史兄ちゃんっ!ひっさしぶりーっ!……って、どうしたの腕!」
聖史は上着を脱ぎ、カッターの袖を捲っていた。
その腕には、包帯が巻かれていた。
「あぁ、美嘉じゃないか。大きくなったねー」
「美嘉の事なんか今どうでもいいよっ!それより腕ぇっ!」
「大した事ないよ。大丈夫。椿も、心配しなくていいからね」
美嘉の後ろで、椿は顔を青くして言葉を無くしていた。
:08/08/12 01:03
:SO906i
:☆☆☆
#212 [向日葵]
「カバンを置いておいで。僕は美嘉と喋っているから」
椿はぎこちなく頷き、部屋へと足を進めた。
一瞬要と一戦交えてしまったのかとひやりてしたが、要の姿は無いので違うのだと安心しながら椿は部屋のドアを開けた。
「おかえり……」
「え?」
ベッド近くの窓辺に、要が立っていた。
「要さま……っ。いらっしゃいませっ。どうなさったんですか?こんな所で……」
「僕がどこにいたって不自然じゃいだろう?結婚すれば僕は君の部屋にいる可能性だってある」
:08/08/12 01:08
:SO906i
:☆☆☆
#213 [向日葵]
口元に微笑みをたたえているのに、目はひどく冷たく、雰囲気は奇妙なものだった。
近づきたくても、なんとかく近づけずにいた椿だが、ふと要の手に目をやると驚いた。
「か……要さま……っ!て……て、手が……っ!!ち……血……っ!」
「あぁこれ?もう乾いているよ」
椿は近づいていって、その手をそっと取る。
乾いていると言えど、おびただしい程の血と傷が、要の手についている。
なのに何故本人は痛がりもせず、平然といるのだろう……。
まさか……と椿は思った。
:08/08/12 01:13
:SO906i
:☆☆☆
#214 [向日葵]
要は聖史の逆鱗にでも触れてしまったのだろうか?
それで……聖史に……?
そういえば、聖史も怪我していた。
「要さま……聖史さまと何かありましたか……?怪我をなさっているだなんて……」
要は何も言わず、ただ椿を無表情でじっと見ていた。
それがなんだか怖くて、椿は徐々に後退りしていた。
とりあえず、今は事情を訊くより、要の手当てだと思った椿は、黙ったまま部屋を出ようとする。
が、椿の腕を、要が掴んだ。
しかも、怪我している方で。
「……要さま……?」
「そんなに、アイツがいい……?」
:08/08/12 01:19
:SO906i
:☆☆☆
#215 [向日葵]
「え……?」
何の事だろうと思った椿は、急に強く押された。
倒れたのは、幸いベッドの上だった。
起き上がろうとした椿の上に、要が覆い被さる。
ただならぬ空気に、椿は固まった。
「僕よりアイツがいいの?本当はアイツが婚約者の方が良かったって?」
「か、要さま……っ!?」
「僕が奴から勝つのを許せないのかよっ!」
ドンッと、椿の顔の横に拳を降り下ろす。
椿は怖くて、ただ体を固まらせていた。
:08/08/12 01:23
:SO906i
:☆☆☆
#216 [向日葵]
すると要は苦しそうな、悲しそうな顔をした。
「…………なのに……」
「要……さま……」
「君が……好きなのに……っ」
椿は目を見開く。
今……なんて……?
「それでも、それでもダメなのか……っ!」
苦しそうに目を瞑る要をどうすればいいか分からない椿は、ソッと彼に触れようとした。
すると目を開いた彼の目つきが鋭く変わり、椿の両手を顔の横で押しとらえた。
:08/08/12 01:27
:SO906i
:☆☆☆
#217 [向日葵]
身動きがとれなくなった椿の頭は更にパニックを起こす。
どうしようと、敵う筈もないが、固定された手を動かそうとする。
すると、要の唇が、白い椿の首筋を辿る。
ビクリと体を震わす椿。
「か、要……さま……っ?や、やめて下さ……っ。要さま……っ!」
片手を解放されたかと思えば、ブラウスの裾から手を入れられる。
意外と冷たい要の手に、椿の体はまたビクリと跳ねる。
「や……いやぁ……っ!!おねが……要さまっ!やめて、下さいっ……!!」
:08/08/12 01:32
:SO906i
:☆☆☆
#218 [向日葵]
何をされるか分からない椿は、涙を流して要に許しを請う。
すると、要の手は速度を緩め、ピタリと止まった。
服から手を抜くと、両腕を椿の背中に回し、抱き寄せる。
「どうして、君の事を、アイツから聞かなくちゃならない……」
やっぱり苦しそうに呟く要の顔は見えない。
私の事……?
「聞くなら……」
ようやく体を少し離してくれる。けれど、まだ腕の中にいる。
要の指先が、椿の唇をなぞる。
「君の口から聞きたかった……」
:08/08/12 01:38
:SO906i
:☆☆☆
#219 [向日葵]
先程までの奇妙な空気を、要はもうまとってはいなかった。
変わって彼から感じとれるのは、椿をいとおしむような空気。
好きと言ったのは……本当……?
そう思っている内に、ぎこちなく、控えめに、要の唇が椿の唇に触れた。
何が起きたか一瞬分からなかった椿だが、状況を把握すると、恥ずかしさに目を開けていられなくなって、ギュッと目を瞑った。
要の唇が離れる。
そしてまた足りないとでも言うように口づける。
今度はさっきよりも、少し強引に感じる。
なかなか離れないので、僅かに動かせる手で、震えながら要の袖を握る。
:08/08/12 01:43
:SO906i
:☆☆☆
#220 [向日葵]
それに気づいた要は、唇を離す。
上手く息が出来ない椿は、息を切らせながら、涙を流した。
その涙に我に返ったようにハッとした要は、優しく椿を包む。
「ゴメン……ゴメン椿……」
謝られれば、切なくなった椿は更に涙を静かに流した。
「何……してるの?」
体を起こして、ドアの方を見れば、美嘉が目を見開いて戸口に立っていた。
「アンタ……椿に何してるの……?何してるのよぉっ!!」
美嘉は駆け寄って要を力一杯突き飛ばした。
:08/08/12 01:48
:SO906i
:☆☆☆
#221 [向日葵]
:08/08/12 01:56
:SO906i
:☆☆☆
#222 [向日葵]
:08/08/12 01:58
:SO906i
:☆☆☆
#223 [向日葵]
要がベッドから落ち、転んでいる隙に、美嘉は椿に駆け寄り抱き締める。
「虐めるのに飽きたら今度は体の要求!?アンタ最低だよっ!」
要はしりもちついたまま口を閉ざしている。
うつむいてるのと、ベッドと床の高さがあるのとで、その表情は分からない。
「み、美嘉ちゃ……違うんです……っ。要さまは何も……」
「椿、庇う必要なんてないのっ!さっき聞いたけど、聖史兄ちゃんも婚約者に立候補してるんでしょ!?なら、コイツなんか、候補から外せばいいんだっ!」
口が止まらない美嘉はよほど頭にきているらしい。
椿の言葉を遮り、要を責める。
:08/08/15 00:59
:SO906i
:☆☆☆
#224 [向日葵]
「確かに……」
要はゆらりと立ち上がる。
その時、椿は見た。
あの怪我した手から、また血が滴り落ちているのを。
要に近づこうとしたが、抱きかかえている美嘉の腕がそれを止めた。
「その方が、椿は幸せかもね……」
前髪の隙間から、寂しげな要の目が見える。
今にも、泣き出してしまいそうなくらい、悲しそうに椿を見つめ、自嘲する。
「要さま……っ」
「今日は、帰るよ……椿」
:08/08/15 01:03
:SO906i
:☆☆☆
#225 [向日葵]
よろよろと、要は椿の部屋を出て行った。
ドアの閉まる音が、広い部屋に響き渡る。
そしてその音が、更に椿を切なくさせ、涙がまた流れ始めた。
「椿、大丈夫……?恐かったね……」
優しく抱き締め、頭を撫でる美嘉。
恐かった訳じゃない。
いや、確かに恐かったが、「止めて」と言えば、要は簡単に止めてくれた。
椿の事を、上辺だけで、何かの作戦で「好き」と言ったならば、強引にでも求められていただろう。
それなのに……。
「ゴメン……」
:08/08/15 01:08
:SO906i
:☆☆☆
#226 [向日葵]
自分がしてしまった事を、ひどく後悔したように謝った。
椿の何を聞いたかは知らない。
でも、直接本人から聞きたいと言った要。
それは椿の感じている事全てを聞きたかったのだろう。
他者の思いではなく、他でもない椿の思い。
そうする事で、要は椿の事を少しでも分かろうとしたのかも知れない。
[好きなのに……]
なんて……なんて苦しそうな告白だっただろう。
なんて……胸が締めつけられるキスだっただろう。
初めて経験する、胸の痛みに戸惑いながら、要の悲しそうな顔が、焼きついて離れない。
:08/08/15 01:13
:SO906i
:☆☆☆
#227 [向日葵]
だから余計に涙が出てくる。
要さま……っ。
椿は心の中で、強く要を呼んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「傷の手当てはしなくていいのかい?」
帰ろうとしていた要を、聖史が呼び止める。
「君程、柔じゃないんだ。こんな傷、水で洗い流せばすぐに治る」
「ガラスは厄介だよ。ちゃんと医者に見てもらった方がいい」
聖史はにこにこ笑う。
何故彼がここまで上機嫌か、要は薄々気づいていた。
:08/08/15 01:18
:SO906i
:☆☆☆
#228 [向日葵]
「予定通り、事が進んで満足そうだね」
「そうでもないよ。君に理性が少しでもあった事が惜しい。あのまま椿を襲い、それを美嘉が見ていたら更に良かったのに」
「……君は、本当に椿が好きなのか……?好きな女の子に、そんな事されるよう仕向けるなんて、神経疑うね」
傷さえなければ、聖史をしたたか殴ってやりたいとさえ思う。
柔じゃないと言ったが、先程からズキズキ痛むし、熱も持ってきた。
「要くんが言ったんだよ?フェアで戦わないと。傷ついた椿を僕が慰めれば椿の心は僕に傾く」
それでもかんなやり方は許せない。
そして聖史の作戦にまんまとひっかかってしまった自分がもっと許せない。
:08/08/15 01:24
:SO906i
:☆☆☆
#229 [向日葵]
:08/08/15 01:26
:SO906i
:☆☆☆
#230 [向日葵]
要は唇をかむ。
椿を傷つけるよう仕向けた聖史はムカつく。
でも実際傷つけてしまったのは要なのだ。
人の事、どうこう言える立場じゃない。
「帰る前に傷の手当てしようか?」
「結構だ」
靴を高らかに鳴らしながら、足早に要は椿宅を出ていった。
その背中を見送りって、しばらくすると、美嘉がこちらへ歩いてきた。
「あれ?美嘉も帰るのかい?」
「“も”って事は、アイツ本当に帰ったんだ……」
:08/08/15 01:30
:SO906i
:☆☆☆
#231 [向日葵]
怒っているが、どこか複雑な表情の美嘉を聖史が覗き込む。
「どうしたの?」
「椿が無理をしてものを言うのを聖史兄ちゃんは知ってるよね」
聖史は頷く。
昔から手がかからない、聞き分けのいい子だったと思い出す。
「椿がね、ずっと繰り返すの。要さまは悪くない、要さまを責めないで下さいって、泣きながら……」
長い付き合いの美嘉は分かる。
それは、偽って庇う言葉ではなくて、心から叫んでいるものだった。
だから、要に対する怒りが、半分減ってしまった美嘉は、複雑だった。
:08/08/15 01:35
:SO906i
:☆☆☆
#232 [向日葵]
悪いのは要なのに、責めるなと椿が、あの椿がそれも心から言ってしまっては、怒るにも怒れないではないか……。
「美嘉は、アイツの最低最悪な部分しか見た事ないからさ、まだ許す事は出来ないし、応援も出来ない。でも、美嘉が知らないアイツを椿が見てるなら、もしかしたら椿の為に色々してくれたんじゃないかと思うと、少し、許せる気もする……」
「あっ!」と思い出したように声を上げて、聖史に向き直る。
「でもでも、美嘉は聖史兄ちゃん派だからっ!聖史兄ちゃんファイトだよっ!」
拳を作り、エールを送る美嘉に笑いかけ、聖史は頭を撫でた。
:08/08/15 01:40
:SO906i
:☆☆☆
#233 [向日葵]
「ありがとう。美嘉の期待に答えれるよう、僕も頑張るよ」
美嘉は満面の笑みを浮かべ、帰って行こうとして、また聖史の方へ振り返る。
「そうだ。あのね、椿今1人になりたいみたいだから、そっとしといてあげてね」
「うん。分かったよ」
そして美嘉はまた歩き出して、帰って行った。
「さてと……」
そう行って聖史は歩き出した。
向かったのは、椿の部屋だ。
ドアの前に立ち、そっとドアに触れる。
:08/08/15 01:45
:SO906i
:☆☆☆
#234 [向日葵]
「椿……」
優しく名を呼ぶ。
返事はない。
もう1度呼ぶも、また返事はなかった。
しばらく考えて、ドアノブに触れる。
開けようとした時、椿のか細い声が聞こえた。
「開けないで下さい……」
「……どうして?椿」
「今は……少し、1人になりたくて……」
しかし聖史はドアを開ける。
ベッドで膝を抱くようにしながらうつむいている椿の元まで行って、抱き締める。
:08/08/15 01:49
:SO906i
:☆☆☆
#235 [向日葵]
「椿は……何も悪くない……」
椿は何も言わなかった。
それでも聖史は黙って抱き締め、あやすように頭を撫でた。
しばらくそうしていると、椿がやんわりとだが、聖史の腕を拒否した。
うつむいている彼女の表情は、やっばり分からない。
しかし聖史は、本当に今は1人になりたいんだと悟ると、最後に椿の頭をひと撫でし、部屋を出て行った。
椿の不安はただ1つ。
要がもう姿を現さないのではないかと言う事だった。
[その方が……椿は幸せかもね]
:08/08/15 01:55
:SO906i
:☆☆☆
#236 [向日葵]
もう、自分は用なしだと言っているような言葉。
勝つと言ったのに……諦めてしまったのではないだろうか。
それが嫌だと思ってしまうのはどうしてだろう。
心が無くてもいい。
どうでもいいと言いながら、椿を助けて、叱ってくれる要がいてくれるなら、それだけでいい。
誰も癒す事が出来ない寂しさを、癒してくれた要にいてほしい。
それは、甘えなのだろうか……。
「要さま……っ」
お願いだから諦めないでと、椿は願う。
あの嵐の日、ここで見た空より、今日の空は暗くて、寂しげだった。
:08/08/15 02:02
:SO906i
:☆☆☆
#237 [向日葵]
――――――――…………
リダイヤルで、何度かけても要は出なかった。
メールで前の事は気にしなくていいと言っても、返信は無かった。
メイドの佐々木に要の状況を訊けば、また服作りに忙しいらしいと聞いた。
邪魔はしてはいけないと思いながらも、1日1回はかけてしまう。
まるで前の要のようだ。
繋がらなければ、なんて役に立たない文明の利器だろうか……。
「つーばきっ」
窓から外を眺めていれば、越が後ろから覗き込んできた。
:08/08/15 02:07
:SO906i
:☆☆☆
#238 [向日葵]
:08/08/15 02:19
:SO906i
:☆☆☆
#239 [向日葵]
ハッとして、携帯を慌てて閉じ、越に向き直る。
「ハ、ハイ。なんでしょう?」
「なんかぼんやりしてるから、どうしたのかなぁって思って」
「……ごめんなさい、今日はいい天気だなと思ってただけですから」
と椿は微笑む。
そこで椿は「あれ?」と思った。
笑顔が、上手く作れていない気がする。
ちらりと窓に視線を向けて、自分の顔を確かめてみる。
窓に映る自分は、いつも通り、ちゃんと笑えている。
:08/08/18 00:56
:SO906i
:☆☆☆
#240 [向日葵]
…………なのに、どうして……?
これは、本当に自分の顔?
窓に映る完璧な微笑みをたたえている自分の顔が、気持ち悪く感じる。
私の……私の本当の顔は、表情は、……気持ちは……どれ……?
視界が揺らぐ。
まるで蜃気楼のように。
そう思うと、冷たい床が近づいた。
視界はすでに闇の包まれた。
そして意識すら遠退く。
「きゃあっ!椿っ!」
越が悲鳴を上げる。
「大丈夫だ」と言いたいのに、口が思うように動いてくれない。
:08/08/18 01:04
:SO906i
:☆☆☆
#241 [向日葵]
[笑うな]
誰かの声が聞こえた気がした。
不思議な人。
他の誰も、父や美嘉だって、笑わせないよう強制した事はない。
なのに何故貴方だけは……。
椿はこの声が誰のものか知っているような気がした。
でも知らない気もした。
どうしてこの人に振り回されているのだろうと、自分自身不思議で仕方ない椿だ。
動じないフリは、椿の得意技だったのに、彼は容易く打ち砕く。
暗闇の中、椿の口が動く。
しかし、音にはならない。
:08/08/18 01:09
:SO906i
:☆☆☆
#242 [向日葵]
もどかしい。
声が届くなら、どうかお願い。
あの人へ……。
椿は息を吸い込む。
要さま。
音にはならなくても、耳の奥では聞こえていた。
その不思議な空間から抜け出したくて、闇の中、目をこらして光を探す。
そして小さな光を見つける。
遠くの方に。
椿はそちらへ歩いて行く。
「――……きっ!」
誰かが、呼んでる。
行かなきゃ……心配かけてはいけない。
:08/08/18 01:14
:SO906i
:☆☆☆
#243 [向日葵]
―――――――…………
瞼を開けようとした椿は、急な光の眩しさになかなか開くことは出来なかった。
ようやく慣れてきたと思い、うっすら開きながら誰かの声を聞く。
「椿、目が覚めた?」
意識をはっきりさせようと、声の主の分析をする。
誰か分かったと、椿の瞼が開ききるのとは同時だった。
「……聖史、さま……」
聖史は安堵の表情を浮かべ、優しく微笑むと、優しく椿の頭を撫でた。
ここは椿の部屋のベッドの上。
なかなか目を覚まさないら椿はどうやら家に運ばれたらしい。
:08/08/18 01:20
:SO906i
:☆☆☆
#244 [向日葵]
ゆっくりと上体を起こす。
「良かった。この頃顔色悪かったから心配したんだ」
「ごめんなさい……迷惑をおかけしました……」
目を伏せると、聖史は大事そうに椿を包んだ。
「迷惑だなんて思わない。もっと僕を頼ってくれたらいいんだ」
「…………ごめんなさい」
「謝らなくていいから」
「そうじゃない」と椿は思う。
自分を起こしてくれたのは、要だと思っていたのだ。
しかし、目を覚ましてそこにいたのは聖史。
:08/08/18 01:24
:SO906i
:☆☆☆
#245 [向日葵]
こんなに心配してくれているのに、聖史だったのかとがっかりしてしまった自分がいたから、「ごめんなさい」なのだ。
自分には、誰かを選ぶ権利なんてないのに……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
椿の部屋の前に、2つの影があった。
2つの影は、少し開かれたドアから、椿の部屋の中をじっと見ていた。
「今……行かなくてもいいの?」
美嘉は訊いた。
「やっぱり、アンタにとって椿は、ビジネスの道具?」
:08/08/18 01:28
:SO906i
:☆☆☆
#246 [向日葵]
包帯を巻いた手で、要はギュッ握り拳を作る。
無表情ながら、寂しげな雰囲気を漂わせる彼に、美嘉は少し戸惑う。
「み、美嘉の思い違いなら訂正するなり、椿の部屋に入るなりしなさいよっ!」
要は黙ったまま部屋の中を見る。
今更ながら、椿は自分に好意を向けてくれるのか心配になっていた。
自分勝手な要だ。
優しく包みこむような存在の方が、彼女にとっていいのかもしれない。
勝ちたい。
勝ちたいけれど、それを椿は望んでいるのだろうか……。
:08/08/18 01:34
:SO906i
:☆☆☆
#247 [向日葵]
「君がどう思おうと自由だよ。ただ……今は椿の元に行かない」
「どうして?」
「倒れた椿を混乱させたくないから」
そう言うと要は踵をかえす。
「ま、待って……っ!」
美嘉の呼びかけに、要は歩く速度を緩め、停止する。
「椿、この頃元気ないの。……分からないけど、もしかして、アンタに会いたがってる気がする……っ!」
要は美嘉に背中を向けたまま無言でいる。
美嘉の頭が混乱していた。
:08/08/18 01:38
:SO906i
:☆☆☆
#248 [向日葵]
最低な奴を、何故自分は庇おうとしているのか。
だって椿が真剣に要を心配してるから……。
でも、今見せてる、今にも泣き出してしまいそうな要が、本当の要じゃなかったら?
でも、椿の願いは叶えてやりたいから……。
要はゆっくりと歩き出した。
「そんなのある訳ない」
きっぱりと、冷たくも感じるその言葉に、美嘉は更に言う事は出来なかった。
黙って、要が小さくなり、家から出ていくのを見ていた。
「あ……美嘉ちゃん……?」
美嘉はバッと部屋の方へ顔を向ける。
:08/08/18 01:42
:SO906i
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#249 [向日葵]
「いらっしゃったんですね……気づかなくてごめんなさい」
「あ、いいのいいのっ!美嘉もちょっと喋ってたから」
「喋る?」
「ヤバッ……」と小さく言って、両手で口を塞ぐ。
椿はまさかと思う。
「要さまが、いらっしゃったんですか……?」
美嘉はバツが悪そうな顔をして、こくりと頷く。
倒れた椿が、要を追いかけるのではないかと一瞬不安がよぎる。
しかし彼女は、要が行ってしまっただろう方を静かに見つめているだけだった。
:08/08/18 01:46
:SO906i
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#250 [向日葵]
「あ、あの……追いかけないの?」
思わず訊いてしまう。
椿は小さく頷く。
「きっと……大丈夫だと分かったから、お仕事に戻られたのでしょう」
彼の、心からの告白に感じたあの言葉。
本当は、本心じゃなかったのでは?と思わなくもない。
こうやって、顔も見ずに帰ってしまうくらいなのだから……。
「そういえばアイツ、手、怪我してたね」
「え……っ」
あの時の怪我、まだ治ってないのかと椿は心配する。
:08/08/18 01:50
:SO906i
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