ギンリョウソウ
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#480 [向日葵]
急がなければと思いながら椿はブルッと震える。
寒いのだ。
両腕を抱くようにしてさする。
だが濡れてるので結局は同じだったりする。
キュッと唇を結び、また椿は歩き出す。
すると前方に何かが見えてきた。
濡れて邪魔な前髪を避けてよく見れば、美嘉ときた湖ではないか。
「で、出れた……っ」
湖のほとりまでやって来た椿は安堵感に包まれてその場にペタリと座り込む。
「良かったぁ……」
:08/09/27 02:40
:SO906i
:☆☆☆
#481 [向日葵]
雨に濡れる事なんて気にしない。
もう髪の毛から全身にかけてびしょ濡れなのだから。
ふと手に注目した椿は左手に光る指輪を見る。
婚約した証、将来を約束した証。
私はそれだけの価値がある?
気づけば指輪に軽く泥がついている。
指輪を外して、泥をはらう。
大事な大事な椿の形をした指輪。
そういえば、要は自分をギンリョウソウのようだと称していた。
あれはどういう意味なのだろう。
:08/09/29 00:46
:SO906i
:☆☆☆
#482 [向日葵]
ゴウッと風が吹く。
木々を揺らし、辺りを不気味な雰囲気にする。
恐くなりながら立ち上がった椿は、寒さを感じくしゃみをする。
その時だった。
「あぁ……っ!」
くしゃみをした時、手が滑って持っていた指輪を落としてしまった。
その後また強い風が吹く。
目を瞑り、それに耐えて辺りを見渡す。
…………指輪がない……。
椿は血の気が引くのを感じた。
不自然に息が荒くなり、膝をついて草をかきわける。
:08/09/29 00:54
:SO906i
:☆☆☆
#483 [向日葵]
しかしかきわけても、見えるは土のみ。
銀の輪は見当たらない。
椿は泣きそうになる。
もう1度落とした辺りを探す。
けれど指輪らしい感触も、姿形もない。
椿の焦りは更につのる。
ハッとして、目の前の湖を見る。
もしかして……落ちてしまった……?
そう考えるよりも、体が先に動いて、湖の中へと飛び込む。
冷たさを感じないくらいに冷たいが、今はそうも言ってられなかった。
何より今は指輪を見つけなければ。
:08/09/29 01:06
:SO906i
:☆☆☆
#484 [向日葵]
冷たさを感じないくらい冷たい。天気のせいで湖は波立っているし、見えたもんじゃない。
それでも手探りで探す。
もし見つからなかったら嫌われるかもしれない。
どうしてそんな大事な物を無くせるのかと。
今度こそ自分の前からいなくなってしまうのではないだろうか。
聖史がまだいた頃、何日も会ってくれなかった時の事を思い出す。
そしてやっと会えた日の事も思い出す。
どれだけ……嬉しかっただろうか……。
そう思えば、探す力が強まる。
:08/09/29 01:17
:SO906i
:☆☆☆
#485 [向日葵]
「もう少しあっちも……」
そう思い、足を進めた。
世界が急に、水の中になる。
突然の事に椿は驚き、体の空気を一気に吐き出してしまう。
深みにはまってしまったらしい。浅瀬とは違い足がつかない。
椿は焦って水面に手を伸ばす。
どうにか水面に出れても、服が重くて泳げない。
ゾクリとした。
自分はもしやこのまま……。
考えたくないから、なんとか浮き沈みしながらも息を吸い込む。
しかし限度がある。
酸素が足りない。
力も段々と出なくなってきた。
指輪も見つけれず、要にも謝れないままだ。
:08/09/29 01:22
:SO906i
:☆☆☆
#486 [向日葵]
全てを中途半端なままで、終わる。
要さま……。
「――――……きっ!」
水の中で目を開ける。
要さま?
そう思ってるうちに、自分の体に誰かの腕が巻きつくのが見え、そのままどこかに連れて行かれる。
しばらくすると、水面に顔が出た。
足りないと言わんばかりに息を吸い込み、急な酸素吸入は体に良くなかったらしく咳き込む。
「椿……っ」
そばにいるのは、要だった。
周りをゆっくり見れば、さっきまでいた浅瀬に戻っていた。
:08/09/29 01:26
:SO906i
:☆☆☆
#487 [向日葵]
「要さま……」
抱き締めたままの椿を、要は更にきつく抱き締めた。
力が出ないけれど、その腕に寄りかかり、安心する。
「良かった……早く見つけれて……」
苦しそうに言う要に、椿は心底申し訳ないと思った。
もしあのまま椿にもしもの事があったなら、1番苦しむのは要だっただろう。
「ってか、君は何をしてたんだ。危ないだろ、こんな天気にこんな場所で」
そこで椿はハッとして、要の腕から離れようとするが、要がそれを許さなかった。
:08/09/29 01:30
:SO906i
:☆☆☆
#488 [向日葵]
「なに、どうかした?」
椿の胸が不自然に高鳴る。
要に目を向ければ、真剣な顔で椿を見返してくる。
だから椿は言葉が出てこなかった。
嫌われるかもしれない。
そう思えば思うほど口も動かなくなってきて、小さくパクパクと動かす事しか出来ない。
「椿?」
要が名を呼ぶと、椿の目から涙が溢れる。
「本当に、どうしたの……?」
要は困り果て、椿を抱き締めるしか出来ない。
椿は彼の胸に顔を埋め、覚悟を決めて口を開く。
:08/10/05 00:10
:SO906i
:☆☆☆
#489 [向日葵]
「指輪……」
「指輪?」
「指輪……落とし……」
それを聞いて、要は椿をゆっくりと離してから手をじっと見る。
確かに、今朝まで椿の左手にあった銀色のものが無くなっている。
要は手を無表情で見つめる。
その顔が、怒りだと受け取った椿は、草の上に両手をつき、頭を下げる。
「ごめんなさいっ……!無くすつもりなんてなくって……、もしかしたら湖の中に落としてしまったかもって思ってさっき……っ。ごめんなさいっ!あんな大切なもの、無くしてしまって……ごめんなさい……っ」
:08/10/05 00:14
:SO906i
:☆☆☆
#490 [向日葵]
要は長いこと黙っていた。
その間、雨と風と、椿は椿自身の鼓動が聞こえた。
そして微かに、要のため息が聞こえた。
「それだけ、なんだね……」
「ごめんなさい」
「本当に腹が立つよ」
一際大きく、椿の胸が高鳴る。
草の上についてる手が震え出す。
「ごめ……なさ……」
謝罪の言葉を口にしようとすると、腕を引かれて要の方へ乗り出す形になった。
要を見れば、目に怒りがこもっていた。
:08/10/05 00:19
:SO906i
:☆☆☆
#491 [向日葵]
「僕がなんで怒ってるか分かる?」
「指輪を……無くしたから……」
「違う。君が僕をまだちゃんと理解してないからだ」
椿は分からなくて首を少し傾げる。
すると要の表情がほんの少し和らいだ。
彼の手が、冷えてしまった椿の頬を包む。
「僕が大事なのは指輪でもなんでもない。君なんだ。なのに君は、命を落としてしまったかもしれない事をしたんだ」
椿は目を見開く。
「こんな事、二度としないでくれ。僕はさっき、本当に心臓が止まってしまうほど焦ったんだからね」
:08/10/05 00:26
:SO906i
:☆☆☆
#492 [向日葵]
椿は再びポロポロと涙を流す。
要は頬を緩め、親指で彼女の涙を拭ってやる。
「要さま……私でいいんですか……?」
「え?」
「私は……母のようにもなれず、要さまからもらった指輪を無くしてしまうような者です。ですが要さまは、私に沢山いろんなものを下さいます。しかし私は要さまに何1つ返せるものがありません。そんな私で……本当にいいのですか……っ?」
要は最初驚いたように椿を見ていたが、やがて穏やかに微笑むと、椿の髪をかき上げるようにして髪の奥まで指を滑らせ、そのまま引き寄せる。
:08/10/05 00:32
:SO906i
:☆☆☆
#493 [向日葵]
「椿がそばに、ずっと笑ってそばにいて、僕を好きでいてくれるだけで充分だよ。他に必要なものなんて、何もないんだ……」
それだけ。ただそれだけでいい。
それを聞いて、椿は涙を更に流す。
要の胸元のシャツを握り締めて、しがみつくようにして泣いた。
要はそんな彼女を愛おしそうに抱き締め、なだめるように頭を撫でる。
それなら何もない私にも出来ると椿は思った。
そう思った瞬間、自分がどうしようもなく要が好きだとまた自覚したら、あまい感情が涙となって溢れてきた。
「そろそろ別荘に帰ろう。風邪をひいてしまうよ」
:08/10/05 00:38
:SO906i
:☆☆☆
#494 [向日葵]
「あ、はい……、いた……っ」
どうしたのかと要が椿を見れば、治りかけていた傷が開いたのか、椿の服の腕の部分にうっすらと血が滲んでいた。
それを見て、要は下唇を噛む。
自分のせいだ……。
椿をふわりと抱き上げ、出来るだけ急ぎ足で別荘へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ちょっと何事!?」
2人の姿を見るなり、美嘉は驚いた。
しかし事情を聞くよりも2人に拭くものと着替えをと、美嘉と大久保は戸惑いながらタオルを持ってきた。
:08/10/07 00:12
:SO906i
:☆☆☆
#495 [向日葵]
「私、お風呂用意してくるね」
「では私は暖炉を準備して参ります」
椿の別荘には薪で暖める古い暖炉があった。
その準備が整う間、しっかりと水気を取る。
手を使うのを少し難しそうにしている椿を見かねた要は代わりに椿の体を拭いてやる。
「椿、大丈夫?」
「あ、あの、自分で出来ます」
「たまには甘えていいんだよ。お風呂が出来たら君が先に入るといい。あがったら僕が腕の治療をしてあげるから」
こくりと頷いた椿は、ハッとして自分の手を見つめる。
:08/10/07 00:17
:SO906i
:☆☆☆
#496 [向日葵]
無くしてしまった。
要は怒らなかったし、嫌いにもならなかった。
むしろ椿が1番大切だとまで言ってくれた。
だけど椿は、初めて好きになった人からの贈り物で、やっと気持ちを重ねた時に貰ったものだから、大切に大切にしておきたかった。
要はああ言ってくれたけれど、椿の心は、あと少し晴れなかった。
その様子に気づいた要は、頭を拭いてやってるついでに椿の目線をグイッと自分の方へ向かせた。
「気にしなくてもいい。気持ちを込めて、また指輪を君に送るから。今は自分の体を心配してくれ」
:08/10/07 00:21
:SO906i
:☆☆☆
#497 [向日葵]
ふわりと椿の瞼にキスを落とす。
椿は恥ずかしそうに口をキュッと結ぶと、素直にゆっくりと頷いた。
「要さま、椿さま、どうぞお部屋へ」
椿を先に部屋に通した大久保は、要を振り返る。
「下手に隠し事をなさいますと、こういう事が起こってしまうと反省いたしましたか?」
大久保の目は真剣だった。
彼は要の友人のような存在。
それは要が決めた事だ。
だから大久保は、さっきまで何が起きていたかを大体予想し、要の心配をすると共に叱っている。
:08/10/07 00:27
:SO906i
:☆☆☆
#498 [向日葵]
もう少し、椿を大切にするようにと。
「……あぁ。もうこりごりだ……」
それを聞いて、大久保はにこりと笑い、要も部屋へと通した。
――――――――…………
その晩、やはりというか、椿が熱を出してしまった。
つきっきりで看病したいと、美嘉に部屋を交代してもらい、要は椿が寝ているベッドの近くに椅子を持ってきて座った。
顔がほのかに紅潮している。
さっき熱を計れば39度近かった。
暑くはないだろうか。
「…………さ……い」
:08/10/07 00:32
:SO906i
:☆☆☆
#499 [向日葵]
潤み、うつろに開いた目で椿は要を見つめる。
聞き取りにくいし、椿もしゃべるのがキツイだろうと要は少し椿の方へと乗り出す。
「ん?何?」
「ごめん……な……さい。せっかくの、旅行なのに……こんな……」
「椿のせいじゃないよ。大丈夫だから。言ったでしょ?今は自分の体を心配してって」
優しく髪を撫でれば、心地よいのか椿の目はとろんとする。
疲れてるだろうから眠たいのかもしれない。
要は椿の手を怪我に響かないように慎重に握る。
:08/10/07 00:37
:SO906i
:☆☆☆
#500 [向日葵]
「僕はずっとここにいるから、安心して眠るといいよ」
「で……も……」
もう少し乗り出して、椿の額にキスを落とす。
「いいから……」
安心させるように微笑めば、椿はゆっくりと目を瞑った。
しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきたので、要はそこでようやくホッとした。
この頃失態続きだな……。
椅子の背もたれにもたれながらため息をつく。
大久保に怒られてしまうのも無理はない。
:08/10/07 00:48
:SO906i
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