ギンリョウソウ
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#601 [向日葵]
「いいのよ。結局美嘉も、アイツを上部だけで判断してた未熟者だもの」

彼は最初、最低な理由で椿に近づき、たくさん傷つけた。
でも彼を知っていけばいく程、椿に対する想いや、彼の辛く重い過去を理解出来た。

「何より、椿が幸せで、あんなに居ても立ってもいられないぐらいアイツが好きなら、美嘉はそれでいいよ」

美嘉の言葉に、越は柔らかく微笑む。

T字路で、バイバイと言い合った美嘉と越は、別々に道を進んだ。

何歩か進むと、後ろから肩を叩かれた。

⏰:09/02/05 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#602 [向日葵]
「あっ!」

「お久しぶりです」

立っていたのは、要の従者、大久保だった。
小さな紙袋を片手に持っている。

「どうしたんですか?」

「近くに今日のパーティーの買い出しを。皆さん手が離せないものですから、私が」

にっこり笑って、大久保は美嘉と歩き出す。
もしかしたら、さっきの会話は聞かれた?

一度、彼に弱音というか、本音を語ってしまったとは言え、なんだか気恥ずかしかった。

⏰:09/02/05 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#603 [向日葵]
「美嘉さまがお友達で、椿さまはきっと嬉しいんでしょうね」

目を細めて優しく笑う。

やっぱり聞かれてた……。

しかし、からかってる訳じゃなく、心から思ってるみたいだったから、美嘉は普通に照れてしまう。

「パ、パーティーですよね!美嘉も手伝いますっ!」

突然、美嘉は要の家へと走り出す。

「み、美嘉さま!?」

大久保も走り出す。

美嘉は走りながら手を顔に当てる。
どうしてこんなに熱い?

⏰:09/02/05 02:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#604 [向日葵]
パニックを起こして、更に早く走るから、大久保は驚きながらも必死に美嘉を追わなければならないはめになった。

ロマンチックなホワイトクリスマス。
クリスマスと言う特別なイベントに、何かを期待したりするのも、悪くないかもしれない。

⏰:09/02/05 02:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#605 [向日葵]
[第14話]

話は翌年の6月になる。

要と椿の誕生日も終わり、はれて二人は18歳になった。
が、二人には誕生日よりもビックイベントが待っていた。

「椿、やっぱり結婚式はジューンブライドがいいよね。梅雨だけど毎日雨って訳じゃないから、僕はいいと思うんだけど」

「けっこんしき……?」

要と椿はいつものように椿の家の庭を散歩していた。
紫外線はよくないからと要に言われた椿は、日傘を要と相合い傘のようにしてさしている。

「まさか、忘れてた?」

⏰:09/02/05 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#606 [向日葵]
忘れていたと言うよりは抜けていた。

「やっぱり盛大にしたいなー。心配しなくても、椿のドレスやアクセサリーは、僕がデザインするからね」

「ジ、ジューンブライドって……っ。あと何週間しかないですよ!?」

只今5月半ば。

「6月中にすればいいんだよ。大安の日をちゃんと選んでね。式場でなんかしなくても、僕の家を使えばいいしね。堅苦しい式は望んでないからね」

いきなり心の準備そこそこに言われた椿は、頭がごちゃごちゃになりそうだった。

⏰:09/02/05 02:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#607 [向日葵]
「だから椿、これから忙しくなるよ」

にっこり笑った要は、とても楽しそうで、嬉しそうだった。

―――――――――……

そしてここからが6月の話。
今は6月始め。式は月末の27日に決まった。

5月に要がにっこり言ったとおり、椿は毎日忙しく過ごしていた。
今でも目が回りそうな程……。

そんな椿が今やっているのは、披露宴での衣装選びだった。

要が何十着も用意するから、椿はより似合うものをとさっきから着せ替え人形のように着たり脱いだりを繰り返している。

⏰:09/02/05 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#608 [向日葵]
「椿さまは淡いお色がお似合いですね」

「お肌が白いですものね」

「ピンク色か……オレンジ色でもいいですわね」

口々に、着替えを手伝うメイドが言う。
それに若干引きつりながらの笑顔を返して、椿はそっとため息を吐いた。

要との結婚に不満がある訳ではない。
ただここまで次々と準備をしていくと、疲れてなんだか気が滅入ってくる。

結婚式なんて、しなくていいんじゃないかと思ってしまうくらい……。

⏰:09/02/15 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#609 [向日葵]
そう思ってしまって、椿は急いで首を横に振り、マイナス思考を振り払う。

「あ、あの……」

次のドレスを用意しようとするメイド達に、椿は声をかける。

「要さまに、ご用があるので、行ってもよろしいでしょうか?」

「はい。いってらっしゃいませ。ではその間にお茶を用意して参ります」

今度はちゃんと笑顔を返してから、椿は部屋を後にした。

要は別室で仕事と並行させながら式の準備をしていた。
服は既に決まったらしく、椿のドレスが決まる間に、飾りつけの指示や、来客リストを作っているらしい。

⏰:09/02/15 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#610 [向日葵]
要がいる部屋にたどり着き、ノックをすれば、中から返事が帰ってきた。

「失礼します」

「ん?ああ、椿か。どうかした?」

仕事用の椅子ではなく、机に座って、何かの資料を見ていた要は、椿に気づくと彼女の元まで足を運ぶ。

「え、ええと……、要さまは、何色がお好きでしょうか……。ドレスが多すぎて、決まらないんです……」

そんな事、自分でさっさと決めろと言われてしまうだろうか?

言ってしまってから、椿は不安になった。

⏰:09/02/15 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#611 [向日葵]
「そうなの?じゃあ、僕も一緒に選ぼうか?」

ただでさえ忙しい要に、そんな事までさせてしまうのが悪い気がしてきた椿は首を横に振った。

「い、いえ、いいんです……」

何故か落ち込んだように首をうなだれる椿に困惑した要は、長く綺麗な椿の黒髪を避けて、髪とは対照的な白い頬にそっと触れる。

温かな手に、ゆっくりと顔を上げた椿を、心配そうに覗き込む。

「疲れてない?ここのところ、ずっと忙しくしてたから、ロクに休んでないんじゃないの?」

「……大丈夫です。ちょっと、戸惑ってるだけで、疲れては……」

⏰:09/02/15 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#612 [向日葵]
「疲れたなら疲れたって言って。椿が倒れる方が、僕は嫌なんだからね」

頭を優しく撫でられる。
それだけで、疲れた心が癒される。ふんわりと温かくなる。

「本当に、大丈夫です。要さまのお姿を見て、元気になりました」

不意の椿の言葉に、要は少し顔を赤くした。
照れ隠しのように、撫でていた手に力をいれて、椿の髪を乱す。

――――――――…………

ある日の午後。
式準備で忙しい要宅に、二つの影があった。

「で、美嘉たちが?」

美嘉と越だ。
大久保が、要に頼まれて呼んだのだ。

⏰:09/02/15 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#613 [向日葵]
「椿が、ドレス選びに一人で困ってるのは分かりましたけど、私達が選んじゃってもいいんですか?」

大久保の説明を聞いていた越が、質問した。

「はい。友達なら、見る目は確かだと、要さまもおっしゃっていましたから。なにより、慣れない事を、椿さま一人でなさっているので、少しでも安らげるようにという意図もおありだと思います」

ならわざわざジューンブライドにこだわるなよ、と美嘉は思ってしまったが、要が意外とロマンチックだと言う面白さの方が勝ってしまって口を閉ざした。

それにここで愚痴っているより早く椿の元へ行ってあげた方がいいと思った。

⏰:09/02/15 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#614 [向日葵]
「じゃあ大久保さん、案内お願いします」

「かしこまりました」

一礼して、大久保は歩き出した。



ちょうどドレスを着た時、部屋のドアをノックされた。
と思ったら、返事をする間もなく美嘉が部屋へ入ってきた。

「美嘉ちゃんっ!越ちゃんっ!」

「やっほー椿っ!来たよっ!」

「椿キレイ!」

少し肩を出した淡いグリーンのドレスを着ている椿は、美嘉や越にとって別世界の人に見えた。

⏰:09/02/15 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#615 [向日葵]
しかし、美嘉はもう一つの変化に気づいていた。
椿に近づき、声を落として問う。

「椿……なんか痩せてない?」

椿は目を見開く。

休日以外、毎日会ってるから小さな変化に気づかなかったが、肌を少し露出し、体のラインが分かるドレスは、その小さな変化を表すものだった。

キュッと唇をしめた椿は、ゆっくりと口を開く。

「最近、食欲があまりなくて……。でも、調子が悪い訳ではないので……っ」

じっと椿を見つめるが、彼女は柔らかく微笑むだけ。
諦めた美嘉は、数あるドレスの山に目を向けた。

⏰:09/02/22 12:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#616 [向日葵]
「さ、選びましょうかねっ」

そうやってなんともないフリをすれば、椿はホッとしたように息を吐いた。

美嘉が諦めたのは椿を困らせたくない為じゃない。
もちろん心配は心配だ。
この頃は、体の調子もよく、あまり気にせず過ごしていたが、本来はか弱い椿なのだ。
ただでさえ細い椿がまた細くなったとなれば、やはり気になってしまう。

だが、どうやったって、椿が自分の事を素直に話す相手は、もうただ一人だけなのだ。

…………という訳で。

「かぁなめぇーっ!」

⏰:09/02/22 12:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#617 [向日葵]
ノックもせず、大久保が教えてくれた要の作業部屋に、美嘉は乗り込む。

本人が駄目なら本人以上に椿の性格を分かっている要に直談判。
行動派の美嘉はそう考えた。

なんの前触れなしに乗り込んできた美嘉に、要は慣れたのか「ああ君か」と呟き、また資料に目をとおす。

「ちょっとちょっと!紙なんか読んでる場合じゃないの!」

「椿の事なら分かんないよ」

先に訊きたい事の答えを言われた美嘉は、要に向けて歩いていた足をぴたりと止めた。

「え、そうなの?」

⏰:09/02/22 12:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#618 [向日葵]
紙を机に置いた要は、ため息をついた。

「当たり前だろ。分かってるなら何かしてる」

「じゃあ、なんで何もしないの」

「美嘉も知ってるだろ?彼女は大丈夫だと言えば頑なにその意思を貫く。僕にだって出来ない事はあるんだ」

意気込んで来た美嘉は、すっかりその気合いを削がれてしまったので、お構い無しに要の机に腰かける。

「アンタなら何か知ってると思ったんだけどなぁ……」

要は瞬きを数回する。

⏰:09/02/22 12:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#619 [向日葵]
「君の方が分かるだろ?僕はそういうのも込めて君達を呼んだんだよ?」

今度は美嘉が瞬きを数回した。

なんだ、お互いがお互いそう思っていたのか。

最初は絶対こんな奴認めるかと思っていたが、いつの間にか椿の事に関しては頼りにしてる自分に、美嘉は少しおかしくてクスクス笑った。

「要、頼むから、あの子大切にしてやってね……」

間があって、静かだが、力強い返事が返ってきた。

「もちろん」

――――――――…………

⏰:09/02/22 12:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#620 [向日葵]
美嘉たちは夕飯の為に帰って行った。
椿は用意された部屋のソファに身を深く沈めて全身の力を抜いた。

疲れた……。

ただそうしか思えない。
先程、夕飯を済ませたが、今日もあまり食べれなかった。
部屋に来る前、要に心配されたが、曖昧に返して逃げるように部屋に帰って来たのだ。

このままじゃ、要に心配かけっぱなしになってしまう。
しっかりしなきゃと思うのに、今は力が入らなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ふわりと、心地よい感覚に意識がいく。

いつの間にか寝てしまったのか。

⏰:09/02/22 12:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#621 [向日葵]
意識は現実に戻るも、まだ目は眠いから閉じたままだ。
そうしていると、柔らかな所に体を置かれた。

誰かに抱き上げられていたのだと気づく。
薄手の布団を丁寧にかぶせられ、顔にかかった綺麗な髪をそっとよける。そして撫でられる。
目を開ければ、頭が濡れている要がいた。

「あ、ごめん、起こした?」

「い、いえ……」

寝ていては落ち着かないので、ゆっくりと体を起こす。
要はベッドに腰をおろす。

「熟睡してたね。やっぱり疲れがきてるんじゃ……」

⏰:09/02/22 12:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#622 [向日葵]
「い、いえ、そんな……」

「食事もあまりとってないし」

「もともと少食なので……」

ちゃんと、目を見れない椿はうつ向く。
要が体を動かしたと思えば、椿の肩に手を置く。そのまま勢いよく椿をまた布団に沈めた。

「……っ!」

要が覆い被さるようにするので、椿の心臓が高鳴る。
顔に、まだ拭ききれていない要の髪から、雫が落ちてくるが、それを気にしていられる余裕は椿にはなかった。

鋭い目つきで見つめられれば、固まり、ただ要を見つめるしか出来なかった。

⏰:09/02/22 12:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#623 [向日葵]
「僕の目は節穴じゃない。君の調子の悪さなんてお見通しなんだ。いつか君から言ってくれると待っていたんだ」

だって……。

「そうやって、支えあって、夫婦になるんだろ?なのに、僕は未だ一方通行な気分だよ」

だって……言ってしまったら……。

「……でも、君にも譲れないものがあるだろうから、しつこい干渉は、避けるよ」

少し悲しそうに眉を寄せた要は、椿からすっと離れた。
椿は急いで体を起こす。

「ちが……っ、要さま!」

呼ぶと同時に、部屋の扉は閉められた。

⏰:09/02/22 12:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#624 [向日葵]
重く響く音に、椿の胸は痛んだ。

違う……。
言わなかったのは、前のような無理をしてるんじゃなく……。
ただ…………。

今、そう思ってるような事すら言えなかったと言うことは、結局前と同じようなものなのだろうか。

椿はどうしていいかわからなくて、掛布団を握り締めた。

―――――――…………

「要ぇーっ!!」

「またか……」と要は頭をガクンと落とす。
式の事がだいぶ決まり、要は一段落してるとこだった。

⏰:09/02/22 13:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#625 [向日葵]
感想板です(。・ω・。)
よければ

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3992/f

⏰:09/02/22 13:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#626 [向日葵]
「君はノックというものを知らないの?」

「美嘉は別にアンタを敬う気なんかないもの」

そういう問題か?と半ば呆れながら要は頬杖をつく。
要が座っていたソファの向かい側に美嘉も座る。

「椿の様子が更に変になってる。アンタまたなんかやらかしたの?」

「椿の事意外に用事はないのか君は」

「アンタに用事って何よ」

そう言われては、要も見つからないので「まぁそうか」と息を吐く。

⏰:09/03/08 17:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#627 [向日葵]
「椿を問い詰めたんだよ。疲れているんだろ、何故隠すんだとね」

そこまで言うと、美嘉が渋い顔をして見てきたので、要もなんだと目で応じる。

「まさかその時にいやらしぃー事してやいないでしょうね」

「どういう流れでそんな事をしなくちゃならない……」

「アンタの事だから変なスイッチ入ったんじゃないかと思って。なんて言うの、ホラ、怒りに任せて的なね」

休ますようにと押し倒しはしたが、あの時にそういう他意はなかったので、要はふと浮かんだ光景をすぐに消した。

⏰:09/03/08 17:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#628 [向日葵]
「あるはずない。僕はそんな獣じゃないから」

どうだか、と美嘉は背もたれに体を預ける。

「で、椿はなんて言ったの?」

「何も言わなかった。だからそれからは僕も何も問い詰めちゃいない」

「そう……」

美嘉もなんらかの形で問い詰めようとしたのだろうか。
それが敵わなかったから要ならと来たのかもしれない。
敵視していた美嘉が自分を頼りにしてくれているのが、こんな時だが要は嬉しくもあった。

「で、今椿は?」

「ドレスでいい感じのが見つかって、今は休んでる」

⏰:09/03/08 17:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#629 [向日葵]
なら、と要は席を立った。

あれからあまり話せていないし、今度は感情的にならず、冷静に話そう。
そうした方が、椿もゆっくりと話し出すかもしれない。

そう思って、扉に近づこうとした時、ノックをする音が聞こえた。

椿かもと自ら扉を開けた要だが、目の前にいたのはメイドだった。いきなり開いた扉に驚き、目を見開いている。

「ああ……、何か?」

「あ、ハイ!」

ぼんやりしていたメイドは要の声を聞くと急いで来た理由を話し出した。

「椿さまが、倒れてしまいました……っ!」

⏰:09/03/08 17:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#630 [向日葵]
――――――――…………

体が重い……。
鉛のようだってこの事を言うんだろうなと、暗闇の中で椿は思った。

―僕は一方通行な気分だよ

ああ……また要さまを怒らせた……。

一方通行だなんて、そんな事ないのに……。
私はただ……。

意識が朦朧としている中で、椿は必死に手を伸ばす。
何かを掴もうと。
しかし当然掴める筈もなく、手は空をかく。

なのに、ふと手に暖かさが宿った。

とても安心する。
これは……?

⏰:09/03/08 17:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#631 [向日葵]
そう思った時、闇の中に小さな光が見えた。

――――――――…………

光が戻れば、ここが何かが分かった。
ふかふかのベッドの上。
手を握っているのは……。

「椿……」

その声に、椿はゆっくりと目を開く。

「要さま……」

周りを見ると、美嘉と何人かのメイドがいた。

「良かった……」

ホッとしたように、要は何度も優しく頭を撫でる。
それが心地よくて、椿は目を細める。

⏰:09/03/08 17:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#632 [向日葵]
「では、私どもは何か飲み物を持って参ります」

「あ、美嘉も手伝います」

そう言ってメイドと美嘉は出て行った。
部屋を静けさが包む。
要も椿も、お互いの顔を見つめあったままだ。
何から話そうか、お互いがお互い悩んでいた。

「……。……式は、もうちょっと先にする?」

「え…………」

急な要の言葉に、椿は驚いた。
要は前から考えていたらしく、淡々と話し出す。

「思えば、僕が勝手に決めて進めていた。君の意見なんか聞いてなかった。その勝手で君がこんな状態になってしまったなら、式はまた今度に……」

と、話の途中なのに、椿は布団を頭まですっぽりとかぶった。
その行動に、要は目を丸くさせる。

「つ、椿?」

⏰:09/03/08 17:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#633 [向日葵]
布団に手をかければ、椿は指に力を入れ、布団を剥ごうとする事を拒む。

「嫌です……」

「うん嫌でしょ?だから先のばしに」

「違います……」

要は首を傾げた。

「式が嫌なんじゃないんです。私は……先伸ばしになるのが嫌だったんです」

「え……」

椿の聞きとりにくい声が、更に難しくなる。
声は小さくなり、そして微かに震えている気さえした。

⏰:09/03/08 18:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#634 [向日葵]
「私だって……楽しみにしてたんです……」

最初はこの忙しさにかまけている中での結婚は、本当に幸せなのか分からなかった。
でも、いつも要が隣にいてくれるなら、きっと大丈夫だと思えた。

そうしたら段々と楽しみになれた、式を挙げる日を待つのさえもどかしい程に。

なのに自分の体が弱いせいで、式を伸ばす事になれば、きっと自分は落胆すると思った。

だから椿は、ずっと体の不調を隠していたのだ。

それでも、要が伸ばすと言うなら……。

⏰:09/03/08 18:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#635 [向日葵]
「……いいえ、なんでもありません、私は、要さまの言う事に従い……」

要が椿がかぶっている布団を力づくで剥いだ。
椿が驚いている隙に、要は椿を抱き寄せた。
力が強くて、苦しいけれど、それ以上に心臓がうるさくて、椿は混乱した。

「そう思ってくれる事、すごく嬉しいよ」

要の声は、本当に嬉しそうだ。
椿は少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。

力が緩められたかと思うと、要は体を離し、椿を見つめた。

「でもね、式を挙げるより、僕は椿の事の方が大切なんだ。だから無茶はして欲しくない。分かってくれる?」

⏰:09/03/08 18:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#636 [向日葵]
柔らかな表情に、椿は安心する。
ぼんやりとしながら、こくりと頷く。


頬に手を触れられれば、その体温が心地いい。

「式は伸ばさない。君の希望だからね。尊重するし、本当は僕だって伸ばしたくはないんだ」

照れながら笑う要を見て、椿もようやく笑う事が出来た。

椿の唇に、要の唇が重なる。
優しいけれど、とても熱く、絶対に、要の一方通行じゃない。

それは自分が一番分かる。

だってこんなにも、胸の奥が温かいのだから。

⏰:09/03/08 18:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#637 [向日葵]
――――――――
――――――――――………

―生涯愛しぬく事を誓いますか?

―はい、誓います

―では誓いの口づけを

唇が重なる。
すると歓声が上がって、クラッカーの音が鳴り響いた。

堅苦しい式にはしないという要の言う通り、式は要宅で行われていた。

白い二人の衣装に、クラッカーの中身が絡みつく。
でも二人は幸せそうに笑っている。

椿のウェディングドレス姿は、皆が息をのむ程美しく、要でさえ椿を見るなり見とれ、美嘉が蹴りをいれてやらないと我に返らなかった。

⏰:09/03/08 18:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#638 [向日葵]
「椿ぃーっ!おめでとーう!!」

美嘉が抱きつき、越が写真を撮る。

「ありがとうございます。美嘉ちゃん、越ちゃん、それから……柴さんも」

越の近くにいる、灰色の瞳の青年。
写真でしか見た事がない彼は、越の隣で微笑んでいた。

「招いてくれて、ありがとう」

「と言うか、無理言ってゴメンネ椿」

実は柴は来る予定が無かったのだたが、越が柴がどうしても来たいと言ってると言うのを聞いて、椿は快くそれを受け入れ、柴も招待した。

⏰:09/03/08 18:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#639 [向日葵]
「ねぇ越、俺たちもこんな風にしようよ」

「き、気が早いから!」

ほのぼのするやりとりに微笑んでいると、要が椿に耳打ちをする。

「彼って、前彼女をさらった……」

「ええ、大切な方ですわ」

なるほど、と、要は椿の手を引く。
中庭に出れば、温かな光が二人に降り注ぐ。

中は皆が楽しく会話して、うるさい程だが、中庭は静かなものだった。

「疲れてない?」

「平気です。とても楽しいです」

⏰:09/03/08 18:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#640 [向日葵]
そう、と要は微笑む。

式は延期する事なく、決めていた日どおりに行われた。
椿の体には、少し負担があったが、要が常に気にかけていた為、前のように倒れる事はなかった。

「後で、お父様に手紙を読む時、泣かないか心配です」

「泣いたって構わないよ。寂しいのは仕方ないからね」

少し歩いて、庭にある椅子に椿を座らせた。
隣に要が座らないのかと、椿は要を見上げた。

要はタキシードの内ポケットから何かを取りだそうとしていた。
そして出したものは、四角い紙だ。

⏰:09/03/08 18:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#641 [向日葵]
椿はそれを不思議そうに見つめる。

「それは……?」

「手紙だよ」

「要さまも手紙を読まれるのですか?」

「違う。これは……椿へだよ」

椿は目を見開く。
要は微笑んで、封筒から二枚程、便箋を出す。

「椿が手紙を読む時、泣く心配をしてるなら、今泣いてもらうよ。そうしたら、少しは泣かずに済むでしょ?」

歯を見せて笑う要が眩しい。
椿は要が手紙を読むのを黙って待った。

そして要がゆっくりと読み出す。

⏰:09/03/15 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#642 [向日葵]
こんな手紙を書くのは照れます。
読むのはもっと照れます。

でも、伝えたい事があるから、手紙にしました。
沢山あるから、きっと言葉ではつまってしまうと思ったからです。

椿、僕は今日この日、君と結婚出来る事がとても嬉しいです。

初めて君と会った時、君を利用しようとしていた最低な僕を好きになってくれてありがとう。

あの時、椿に言った最低な言葉や、最低な態度は、本当に反省しています。

ごめんなさい。

⏰:09/03/15 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#643 [向日葵]
僕はいつしか、椿を守りたいと思うようになり、そして好きになりました。大好きになりました。

出会ってくれて、ありがとう。

君は、お母さまの事があって、自分の事が嫌だと思ってるかもしれない。
もしかしたら、生まれてこない方が良かったんじゃないかって、思った事もあるんじゃないかな……。

でもね、椿。
僕は、君が生まれてきてくれて良かった。
僕と出会ってくれて良かった。
僕を選んでくれて良かった。

ありがとう。
この運命に感謝します。

⏰:09/03/15 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#644 [向日葵]
椿、ギンリョウソウって知ってますか?

僕が、君と会った時、椿はその植物みたいな印象を受けました。

目立たなく、暗い場所にひっそりといる……そんな風に。

でも今は違います。
ギンリョウソウは、確かに光の届かない暗い場所に小さく咲いていますが、その白い花は鬱蒼とした闇に映え、心を和ませてくれる。

椿は僕にとってそんな存在です。

かけがえのない、たった一人の大切な人。

⏰:09/03/15 02:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#645 [向日葵]
僕は、君が知ってる通りこんな奴だから、これからの長い時間、君に迷惑をかけると思う。
それでも、支えてくれたら嬉しい。

僕も、君を命にかえても守るよ。

だから一生、そばで笑っていて下さい。

椿、好きです。大好きです。
いや…………





心から、愛しています。

妻・葵 椿へ
夫・葵 要より

⏰:09/03/15 02:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#646 [向日葵]
読み終えた要は、丁寧に便箋を折り、また封筒にしまった。

膝を折り、椿と同じくらいの目線にしてから、椿の手をとり、その手紙を渡す。

「椿、幸せになろうね。世界一、幸せにするね」

柔らかく微笑みながら、要は言った。

固まっていた椿は、突然顔を歪ませて、手紙を顔に押しつけて泣き出した。
嗚咽が漏れてしまうほどに……。

「は……っ、はい、……はいっ……!」

何度も返事をする椿を、要は抱き寄せる。

⏰:09/03/15 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#647 [向日葵]
日差しが温かくて、余計に涙が流れる。

私も愛してます。

まだ恥ずかしくて、口にする事は出来なかったが、椿は強く思った。

「なーかしたー、なーかしたー」

聞き慣れない声に、二人は顔をあげる。

「折角の結婚式に、何を泣かせているんだい」

意地悪そうな笑みをたたえた男性と、隣でにこにこ笑っている女性がこちらへ向かってくる。

その二人を見た途端、要は驚いて立ち上がった。

⏰:09/03/15 02:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#648 [向日葵]
「父さんっ!母さんっ!」

それを聞いて、椿は要よりも驚き、急いで止まらぬ涙を抑え、立ち上がった。

「いやぁ、なんとか間に合った間に合った」

飄々と、憎たらしささえ感じる要の父は若く、そしておしゃれだった。
母もまた綺麗だ。

要の父は、要の前までくると、要より背が高く、ニヤリと笑いながら要の頭をペシペシと叩く。

「さすが俺のせがれ。粋な事すんじゃねえかよ。意外とお前ってポエマーだな」

からかう父の言葉に顔を赤らめる要。
何かを言い返したいが、何を言おうか迷っている内に父は椿を見た。

⏰:09/03/15 02:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#649 [向日葵]
目が会った椿は急いで頭を下げる。

要の父は、さっきの意地悪な雰囲気を消し、優しげな目をして椿を見た。

「君が椿さんだね。頭をお上げになって下さい」

そろりと椿は顔を上げ、要の父を見た。

「ご挨拶いたしませんで、すみませんでした」

「いえいえ。あなたの事は要からよく聞いていました。とーってもあなたに惚れ込んでるみたいで、コイツからのメールを読む度、滲み出る笑いをこらえる事は出来ませんでした」

要をいじめるみたいな口調だが、そこに愛情を感じた椿は微笑む。

⏰:09/03/15 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#650 [向日葵]
「これからは、俺、いやいや、私達共々、仲良くしましょうね」

「はい、よろしくお願いします」

ジューンブライドという、結婚式の魔法。
幸せになれると椿は思った。

空を見上げれば、梅雨時なのに空は青く、天にいる母も祝福してくれてる気がした。

そして思う。

きっと母も、幸せな花嫁だったのだろうと……。

⏰:09/03/15 03:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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