ギンリョウソウ
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#630 [向日葵]
――――――――…………

体が重い……。
鉛のようだってこの事を言うんだろうなと、暗闇の中で椿は思った。

―僕は一方通行な気分だよ

ああ……また要さまを怒らせた……。

一方通行だなんて、そんな事ないのに……。
私はただ……。

意識が朦朧としている中で、椿は必死に手を伸ばす。
何かを掴もうと。
しかし当然掴める筈もなく、手は空をかく。

なのに、ふと手に暖かさが宿った。

とても安心する。
これは……?

⏰:09/03/08 17:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#631 [向日葵]
そう思った時、闇の中に小さな光が見えた。

――――――――…………

光が戻れば、ここが何かが分かった。
ふかふかのベッドの上。
手を握っているのは……。

「椿……」

その声に、椿はゆっくりと目を開く。

「要さま……」

周りを見ると、美嘉と何人かのメイドがいた。

「良かった……」

ホッとしたように、要は何度も優しく頭を撫でる。
それが心地よくて、椿は目を細める。

⏰:09/03/08 17:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#632 [向日葵]
「では、私どもは何か飲み物を持って参ります」

「あ、美嘉も手伝います」

そう言ってメイドと美嘉は出て行った。
部屋を静けさが包む。
要も椿も、お互いの顔を見つめあったままだ。
何から話そうか、お互いがお互い悩んでいた。

「……。……式は、もうちょっと先にする?」

「え…………」

急な要の言葉に、椿は驚いた。
要は前から考えていたらしく、淡々と話し出す。

「思えば、僕が勝手に決めて進めていた。君の意見なんか聞いてなかった。その勝手で君がこんな状態になってしまったなら、式はまた今度に……」

と、話の途中なのに、椿は布団を頭まですっぽりとかぶった。
その行動に、要は目を丸くさせる。

「つ、椿?」

⏰:09/03/08 17:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#633 [向日葵]
布団に手をかければ、椿は指に力を入れ、布団を剥ごうとする事を拒む。

「嫌です……」

「うん嫌でしょ?だから先のばしに」

「違います……」

要は首を傾げた。

「式が嫌なんじゃないんです。私は……先伸ばしになるのが嫌だったんです」

「え……」

椿の聞きとりにくい声が、更に難しくなる。
声は小さくなり、そして微かに震えている気さえした。

⏰:09/03/08 18:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#634 [向日葵]
「私だって……楽しみにしてたんです……」

最初はこの忙しさにかまけている中での結婚は、本当に幸せなのか分からなかった。
でも、いつも要が隣にいてくれるなら、きっと大丈夫だと思えた。

そうしたら段々と楽しみになれた、式を挙げる日を待つのさえもどかしい程に。

なのに自分の体が弱いせいで、式を伸ばす事になれば、きっと自分は落胆すると思った。

だから椿は、ずっと体の不調を隠していたのだ。

それでも、要が伸ばすと言うなら……。

⏰:09/03/08 18:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#635 [向日葵]
「……いいえ、なんでもありません、私は、要さまの言う事に従い……」

要が椿がかぶっている布団を力づくで剥いだ。
椿が驚いている隙に、要は椿を抱き寄せた。
力が強くて、苦しいけれど、それ以上に心臓がうるさくて、椿は混乱した。

「そう思ってくれる事、すごく嬉しいよ」

要の声は、本当に嬉しそうだ。
椿は少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。

力が緩められたかと思うと、要は体を離し、椿を見つめた。

「でもね、式を挙げるより、僕は椿の事の方が大切なんだ。だから無茶はして欲しくない。分かってくれる?」

⏰:09/03/08 18:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#636 [向日葵]
柔らかな表情に、椿は安心する。
ぼんやりとしながら、こくりと頷く。


頬に手を触れられれば、その体温が心地いい。

「式は伸ばさない。君の希望だからね。尊重するし、本当は僕だって伸ばしたくはないんだ」

照れながら笑う要を見て、椿もようやく笑う事が出来た。

椿の唇に、要の唇が重なる。
優しいけれど、とても熱く、絶対に、要の一方通行じゃない。

それは自分が一番分かる。

だってこんなにも、胸の奥が温かいのだから。

⏰:09/03/08 18:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#637 [向日葵]
――――――――
――――――――――………

―生涯愛しぬく事を誓いますか?

―はい、誓います

―では誓いの口づけを

唇が重なる。
すると歓声が上がって、クラッカーの音が鳴り響いた。

堅苦しい式にはしないという要の言う通り、式は要宅で行われていた。

白い二人の衣装に、クラッカーの中身が絡みつく。
でも二人は幸せそうに笑っている。

椿のウェディングドレス姿は、皆が息をのむ程美しく、要でさえ椿を見るなり見とれ、美嘉が蹴りをいれてやらないと我に返らなかった。

⏰:09/03/08 18:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#638 [向日葵]
「椿ぃーっ!おめでとーう!!」

美嘉が抱きつき、越が写真を撮る。

「ありがとうございます。美嘉ちゃん、越ちゃん、それから……柴さんも」

越の近くにいる、灰色の瞳の青年。
写真でしか見た事がない彼は、越の隣で微笑んでいた。

「招いてくれて、ありがとう」

「と言うか、無理言ってゴメンネ椿」

実は柴は来る予定が無かったのだたが、越が柴がどうしても来たいと言ってると言うのを聞いて、椿は快くそれを受け入れ、柴も招待した。

⏰:09/03/08 18:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#639 [向日葵]
「ねぇ越、俺たちもこんな風にしようよ」

「き、気が早いから!」

ほのぼのするやりとりに微笑んでいると、要が椿に耳打ちをする。

「彼って、前彼女をさらった……」

「ええ、大切な方ですわ」

なるほど、と、要は椿の手を引く。
中庭に出れば、温かな光が二人に降り注ぐ。

中は皆が楽しく会話して、うるさい程だが、中庭は静かなものだった。

「疲れてない?」

「平気です。とても楽しいです」

⏰:09/03/08 18:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#640 [向日葵]
そう、と要は微笑む。

式は延期する事なく、決めていた日どおりに行われた。
椿の体には、少し負担があったが、要が常に気にかけていた為、前のように倒れる事はなかった。

「後で、お父様に手紙を読む時、泣かないか心配です」

「泣いたって構わないよ。寂しいのは仕方ないからね」

少し歩いて、庭にある椅子に椿を座らせた。
隣に要が座らないのかと、椿は要を見上げた。

要はタキシードの内ポケットから何かを取りだそうとしていた。
そして出したものは、四角い紙だ。

⏰:09/03/08 18:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#641 [向日葵]
椿はそれを不思議そうに見つめる。

「それは……?」

「手紙だよ」

「要さまも手紙を読まれるのですか?」

「違う。これは……椿へだよ」

椿は目を見開く。
要は微笑んで、封筒から二枚程、便箋を出す。

「椿が手紙を読む時、泣く心配をしてるなら、今泣いてもらうよ。そうしたら、少しは泣かずに済むでしょ?」

歯を見せて笑う要が眩しい。
椿は要が手紙を読むのを黙って待った。

そして要がゆっくりと読み出す。

⏰:09/03/15 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#642 [向日葵]
こんな手紙を書くのは照れます。
読むのはもっと照れます。

でも、伝えたい事があるから、手紙にしました。
沢山あるから、きっと言葉ではつまってしまうと思ったからです。

椿、僕は今日この日、君と結婚出来る事がとても嬉しいです。

初めて君と会った時、君を利用しようとしていた最低な僕を好きになってくれてありがとう。

あの時、椿に言った最低な言葉や、最低な態度は、本当に反省しています。

ごめんなさい。

⏰:09/03/15 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#643 [向日葵]
僕はいつしか、椿を守りたいと思うようになり、そして好きになりました。大好きになりました。

出会ってくれて、ありがとう。

君は、お母さまの事があって、自分の事が嫌だと思ってるかもしれない。
もしかしたら、生まれてこない方が良かったんじゃないかって、思った事もあるんじゃないかな……。

でもね、椿。
僕は、君が生まれてきてくれて良かった。
僕と出会ってくれて良かった。
僕を選んでくれて良かった。

ありがとう。
この運命に感謝します。

⏰:09/03/15 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#644 [向日葵]
椿、ギンリョウソウって知ってますか?

僕が、君と会った時、椿はその植物みたいな印象を受けました。

目立たなく、暗い場所にひっそりといる……そんな風に。

でも今は違います。
ギンリョウソウは、確かに光の届かない暗い場所に小さく咲いていますが、その白い花は鬱蒼とした闇に映え、心を和ませてくれる。

椿は僕にとってそんな存在です。

かけがえのない、たった一人の大切な人。

⏰:09/03/15 02:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#645 [向日葵]
僕は、君が知ってる通りこんな奴だから、これからの長い時間、君に迷惑をかけると思う。
それでも、支えてくれたら嬉しい。

僕も、君を命にかえても守るよ。

だから一生、そばで笑っていて下さい。

椿、好きです。大好きです。
いや…………





心から、愛しています。

妻・葵 椿へ
夫・葵 要より

⏰:09/03/15 02:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#646 [向日葵]
読み終えた要は、丁寧に便箋を折り、また封筒にしまった。

膝を折り、椿と同じくらいの目線にしてから、椿の手をとり、その手紙を渡す。

「椿、幸せになろうね。世界一、幸せにするね」

柔らかく微笑みながら、要は言った。

固まっていた椿は、突然顔を歪ませて、手紙を顔に押しつけて泣き出した。
嗚咽が漏れてしまうほどに……。

「は……っ、はい、……はいっ……!」

何度も返事をする椿を、要は抱き寄せる。

⏰:09/03/15 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#647 [向日葵]
日差しが温かくて、余計に涙が流れる。

私も愛してます。

まだ恥ずかしくて、口にする事は出来なかったが、椿は強く思った。

「なーかしたー、なーかしたー」

聞き慣れない声に、二人は顔をあげる。

「折角の結婚式に、何を泣かせているんだい」

意地悪そうな笑みをたたえた男性と、隣でにこにこ笑っている女性がこちらへ向かってくる。

その二人を見た途端、要は驚いて立ち上がった。

⏰:09/03/15 02:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#648 [向日葵]
「父さんっ!母さんっ!」

それを聞いて、椿は要よりも驚き、急いで止まらぬ涙を抑え、立ち上がった。

「いやぁ、なんとか間に合った間に合った」

飄々と、憎たらしささえ感じる要の父は若く、そしておしゃれだった。
母もまた綺麗だ。

要の父は、要の前までくると、要より背が高く、ニヤリと笑いながら要の頭をペシペシと叩く。

「さすが俺のせがれ。粋な事すんじゃねえかよ。意外とお前ってポエマーだな」

からかう父の言葉に顔を赤らめる要。
何かを言い返したいが、何を言おうか迷っている内に父は椿を見た。

⏰:09/03/15 02:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#649 [向日葵]
目が会った椿は急いで頭を下げる。

要の父は、さっきの意地悪な雰囲気を消し、優しげな目をして椿を見た。

「君が椿さんだね。頭をお上げになって下さい」

そろりと椿は顔を上げ、要の父を見た。

「ご挨拶いたしませんで、すみませんでした」

「いえいえ。あなたの事は要からよく聞いていました。とーってもあなたに惚れ込んでるみたいで、コイツからのメールを読む度、滲み出る笑いをこらえる事は出来ませんでした」

要をいじめるみたいな口調だが、そこに愛情を感じた椿は微笑む。

⏰:09/03/15 03:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#650 [向日葵]
「これからは、俺、いやいや、私達共々、仲良くしましょうね」

「はい、よろしくお願いします」

ジューンブライドという、結婚式の魔法。
幸せになれると椿は思った。

空を見上げれば、梅雨時なのに空は青く、天にいる母も祝福してくれてる気がした。

そして思う。

きっと母も、幸せな花嫁だったのだろうと……。

⏰:09/03/15 03:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#651 [向日葵]
[第15話]

高校も卒業し、椿は要宅に住む事になった。

家を出る時はやっぱり寂しかった。
何せ18年間この家にいたのだから。

要は好きな時に帰る事を許してくれた。
でも椿は、出来るだけ要のそばで仕事を手伝いたいと思ってるので、あまり帰らないようにしようと心を決めていた。

そんな日々も慣れてきた、1年後の事だった。

「椿、こんな事言っていいかわかんないけど……太った?」

思わず持ちかけていたカップを、ショックで落としそうになる。

⏰:09/03/15 03:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#652 [向日葵]
今日は授業がないからと、美嘉が遊びに来て、今は仲良くお茶していた。

「え…………、ええっ!?本当ですか……っ!?」

「まあ椿はそれでやっと標準だけどね。前と比べて、すこーしふっくらしたかなってくらいよ。気にする事ないって!」

言ったのは美嘉なのに、美嘉は気にしないかのようにお茶を飲む。

「でも椿、綺麗になったよねなんか。やっぱりエステとか行くから?」

「僕がいるからに決まってるじゃないか」

二人がいる部屋に、要が入ってきた。

⏰:09/03/15 03:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#653 [向日葵]
少し伸びた前髪をかきあげた要は、背伸びをしてこちらへ歩いてくる。

「アンタと椿の美貌がどう関係あんのよ」

テーブルの上にあるクッキーをひょいとつまみ、口に入れた要は、椿の隣に腰かける。

「そりゃ僕が愛情をそそいでるから」

「やっぱりアンタって馬鹿なんだね」

真顔で言い合う。
相変わらずのやりとりに、椿はクスクスと笑い声をあげる。

「だいたいアンタが言うといやらしく聞こえる」

⏰:09/03/15 03:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#654 [向日葵]
「まあ君の想像に任すよ」

「否定無しだと生々しいからやめて」

椿はまた笑う。

「お仕事は終わりましたか?」

椿も手伝っていたが、美嘉が来たので許しをもらって抜けさせてもらった。

「うん。一段落したよ。だから来たの」

「そろそろ美嘉も帰るよ。邪魔しちゃいけないだろうし」

かばんを持った美嘉は立ち上がった。
見送る為、二人は玄関まで美嘉と一緒に行く。

⏰:09/03/15 03:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#655 [向日葵]
「じゃあね椿、またメールするよ。あんまり要の好き勝手させちゃ駄目だかんねっ」

「み、美嘉ちゃん……っ」

顔を赤くする椿に、美嘉はニヒッと笑って帰って行った。

ドアが閉まると同時に、椿は「うっ」と唸って胸元を押さえた。

異変に気づいた要が、椿の顔を覗き込む。

「椿?どうした?」

「あ……。いえ、なんでも」

「そう?」

⏰:09/03/15 03:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#656 [向日葵]
良ければ感想お願いします(●´∀`●)

*感想板*

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3992/

⏰:09/03/15 03:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#657 [向日葵]
要は歩いて行ってしまった。
椿はその後ろ姿を見ながら気持ち悪い部分を自分でさする。

さすっても、気分の悪さは優れない。
近頃、体が丈夫になった気がして、はしゃぎすぎていたのが負担になっていたのだろうか。

「よ、お姫さん」

後ろから声がするので、椿は振り返る。
そこには、赤茶色した髪の毛を後ろで結った、白衣を着た女の人がいた。

「明智先生」

「明智(あけち)」と呼ばれるその人物は椿ににこって笑いかける。

⏰:09/03/21 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#658 [向日葵]
本名、明智 英美(ひでみ)は、葵家の専属医師だ。

要宅には仕事部屋があり、週に何回か来る事になっている。
もちろん、別の場所にある病院の医師でもあり、かなり優秀らしい。

「ん?んん?」

明智は椿の顔をじろじろ見る。
見られている椿は落ち着かず、困惑する。

「お姫さん、なんか雰囲気が違うね」

今日は美嘉も明智もなんなのだろうと、椿は首をひねる。

「もしかして……」

明智が呟く。

⏰:09/03/21 02:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#659 [向日葵]
「先生……?」

「お姫さん、王子さま呼んで、ちょっと外の私の病院まで来て」

深刻な雰囲気に、椿は不安を隠せなかった。

――――――――――…………

「へ……?」

椿と要は診察室の中で口を揃えて呟き、目をまんまるくさせた。

「だからね、もう一回言うよ。お姫さんのお腹に、もう一つ命が宿ってる」

つまりは。

「こ、子供っ!?」

要が声をあげる。
椿も目を見開き、口を笑みの形にした。

⏰:09/03/21 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#660 [向日葵]
「やったね椿いっ!!」

要は椿に抱きついた。
二人の間に幸せムードが漂う。

―――が、明智の表情はやはり優れなかった。

「先生……?」

椿がゆっくりと呼ぶ。

「二人とも、よく聞いてね。子供が出来た事は喜ばしい事だ、だけどね……お姫さんの体が……」

「え……」

話はこうだった。

椿の体は、前に比べれば驚く程よくなっていた。
だが、もともと体力がなく、出産に耐えれるかどうかがわからない状態に今あった。

⏰:09/03/21 03:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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