ギンリョウソウ
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#501 [向日葵]
うなされないか注意深く椿を見た要は、するりと彼女の手を離し部屋を出ていく。

階段を降りた所で、お風呂上がりの美嘉に会った。

「あれ、看病は?」

「用事があるからちょっと外へ出かけてくるよ」

「ちょっと待って。椿なんか元気なさそうだった。……なんで?」

要は眉を寄せる。
言ってしまえば、自分に対する美嘉の信用がまた薄れる。
あんな目に合わせたから、もう2度と椿に近づくなと言われてもおかしくはないだろう。

しかし彼女は椿の友達。
知る権利はある。

⏰:08/10/13 00:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#502 [向日葵]
「僕の一方的な嫉妬で彼女を傷つけた。それに椿は秘密にしていた事も気づきだしてる。詰め寄られて焦って、気持ちが少しすれ違った……」

怒られる。
そう思いながらも美嘉の顔を見ていたが、彼女は表情1つ変えず話を聞いて頷いていた。
あまりに普通すぎて、要は何か裏でもあるのかと勘ぐってしまう。

「分かった。教えてくれてありがとう」

行こうとするから、思わず要は美嘉を呼び止める。

「ぼ、僕を、怒らないのか……?」

「は?怒られたいの?アンタマゾ?」

⏰:08/10/13 00:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#503 [向日葵]
「や、あの……えぇ……?」

美嘉は要をじっと見る。
まるでこちらが間違ってるいるように感じるから、要は困ったように頭をかく。

「椿を傷つけて、怒るかと……」

「あのね……美嘉は本来そんなに怒りっぽくないの。怒らせるのはアンタが椿にヒドイ事するから」

それ以外にも怒ってる気がした要だが、今は黙っておこうと口をキュッと結ぶ。

「椿と要は婚約を交わした、言わば夫婦みたいなものなの。相手に嫉妬して喧嘩するなんてきっと当たり前よ。それを美嘉がとやかく言っても仕方のない事じゃない」

⏰:08/10/13 00:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#504 [向日葵]
感想板が新しくなりました
よければいらして下さいヾ(≧∀≦)ノシ

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3992/

⏰:08/10/13 10:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#505 [向日葵]
それだけあっさりと言うと、美嘉はリビングへと消えていった。
美嘉のそんな気持ちに感謝し、要は外へと出た。

数時間前の雨もなんのその。
雲間からは三日月が冴えざえと辺りを照らし、雨が降ったあとの冷たい空気は気持ち良く感じる。
穏やかな風に身を任せていれば、揺れる草がしゃらしゃらと音を奏でているのが聞こえる。

そんな空気をしばらく楽しんだ要は歩き出す。

彼が向かうのは湖だ。
そこへ、椿が落としたと言う指輪を探しにいく。

あれじゃないと、彼女は納得しないように思った。
だから探し出す。
もしかしたら湖のほとりにでも落ちているかもしれないからだ。

⏰:08/10/15 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#506 [向日葵]
湖につけば、水面に映し出された月が綺麗でぼんやりと眺めたくなるが、それが目的ではないと、持っていた携帯のライトで足元を探してみる。

こんな風に、光をあてれば光って見つかりそうなのだが……。

「やっぱり無いか……?」

呟いた次の瞬間、少し強めの風が吹いた。
寒さとその強さに目を瞑った要は、再び目を開けた時驚く。

数メートル離れた所に、誰かがいる。
青白い肌、闇にも似た黒く長い髪。
口元には微笑みをたたえている。それは、要がよく知る人物だ。

「椿……?」

⏰:08/10/15 01:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#507 [向日葵]
呟きは再び吹いた風にかき消される。
ゆっくりと立ち上がった彼は、彼女をじっと見つめる。

「何をやっているんだ君は!熱があるのに、ちゃんと寝てなきゃ……っ」

最後まで言う前に言葉を切る。
それは月が雲から完全に出て、彼女を鮮やかに照らしたからだ。
改めて彼女を見た要はまた驚く。

椿……じゃない……。

とてもよく似ている。
髪や顔、その肌の白さまで。
しかし、椿はもっとおっとりした空気をまとっている。
今、彼の目線の先にいる人物は、どちらかと言えば凛としていた。

じゃあ彼女は一体誰なんだ?

⏰:08/10/15 01:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#508 [向日葵]
眉を寄せ、彼女をじっと見ていると、彼女はゆっくりと指を要の方へ差す。
自分を差された要はうろたえるが、彼女は一層微笑みを浮かべると、口を開く。

「あっちよ……」

あっち?
更に要はいぶかしむ。
すると、背後が急に光った気がした。
急いで振り返るも、さっき感じた光はもう無かった。
が、ある1点がほのかに光っている気がする。

月のせい?

そう思いながらも近づく。
そこには、銀色の小さな輪があった。
それこそが、椿に贈った婚約指輪だった。

「……!あった……っ」

⏰:08/10/15 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#509 [向日葵]
軽くついてる泥を丁寧に払い、大切にポケットにしまう。
そして振り返る。

まだ、彼女はいた。

さっきよりは近づいている。
普通の音量で話してもなんとか届くくらいの距離。
相変わらず彼女は微笑んでいる。

2人の間を、柔らかく冷たい風がすり抜ける。

この人を、自分は知っている。
さっきは驚いていたせいもあって思い出せなかったが、よくよく考えれば、1度、写真で見た事があった。

吹き終わると、要は口を開いた。

「椿の……お母様ですね……」

⏰:08/10/15 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#510 [向日葵]
彼女はにこりと笑ってから頷いた。

(初めまして、要さん)

椿の母はもういない。
そこにいるのは魂。
つまりは幽霊。
それなのに動揺する事もなく話しているのは、怖く感じないからだろう。
だから要は普通に会話する。

「こちらこそ、初めまして。改めまして、葵 要と申します」

(椿がとてもお世話になっています。今も……)

椿の母は別荘がある方へ目をやる。

(あんな、臆病な子になってしまったのは、私のせいです。私がもっと、体が丈夫でしたら、あんな心配や重荷を背負わずのびのびと生きれたでしょうに……)

⏰:08/10/15 01:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#511 [向日葵]
「あなたのせいでは……。それに椿は、あなたの事を本当に尊敬しています」

(要さんは優しいのね……。あの子が好きになる筈だわ……)

要は少し照れてから、まっすぐ彼女を見つめる。

どうしても、確かめたい事があったのだ。

「僕が、椿と結婚する事を許して頂けますか?」

椿は自分は要と結婚してもいいのかと問うてきた。
要は構わなかった。
椿がそばにいてくれるのならと。
ならば自分は?

最初は不純な動機で交わした約束。
そのまま気持ちを重ねて婚約したが、自分こそ、椿と結婚してもいいのかと思い始めた。

⏰:08/10/15 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#512 [向日葵]
あまりに、自分は勝手すぎたかもしれなかった。

椿の母は、微笑んでいるが真剣な顔つきになる。
そしてゆっくり口を開く。

(駄目よ)

要はズキンと胸を痛める。
しかしここで引き下がる訳にはいかない。
どう考えても自分は椿とは離れたくないからだ。

「認めて頂けないなら……認めて頂けるよう成長します」

その答えを聞いた彼女は微笑みを深くして要に近づいてくる。
近づけば更に彼女の姿が分かった。

幽霊の筈なのに、触れられそうだ。

⏰:08/10/16 21:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#513 [向日葵]
(冗談よ)

彼女は片目を瞑ってみせる。
要は何が何だか分からなくて間抜けな顔になってしまった。
そんな彼の表情を面白そうに笑ってから椿の母は更にもう1歩要に近づく。

(椿が求めている相手を私が否定する訳ないじゃないですか。……いいえ、椿には要が必要です。だからそばにいてあげて下さい)

微笑んでいても、母が椿を思う気持ちはひしひしと伝わってくる。
要は神妙に頷き、頭を深々と下げる。

「大切にします」

少し間をおき、楽しそうに「フフ」と笑う声が聞こえた。
要が頭を上げた時には、そこには椿の母の姿はなく、彼ただ1人になっていた。

⏰:08/10/16 21:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#514 [向日葵]
――――――――…………

別荘に帰れば、リビングに美嘉と大久保がテレビを見ていた。

それを一目見てから要は階段を上がる。
ゆっくりと椿の部屋に入れば、ベッドの上で椿は体を起こしていた。

「椿っ」

「あ……要さま……」

「まだ寝てなきゃ駄目だろ」

肩を掴んで寝かせようとする要の手に自分の手を重ねて椿は拒否する。

「あの、それが……熱は下がったみたいで……」

⏰:08/10/16 21:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#515 [向日葵]
強がりを言ってるのかと疑った要は椿の額に手を当てる。
本当に熱が下がっている。
その理由はさっき会った椿の母のおかげなのでは?と思ってしまう。

そう思えばさっきは貴重な体験をしたなと思った。

「椿、君のお母様は綺麗だね……」

ベッドに腰かけた要は呟くように言った。
椿は少し首を傾げるも、不思議そうな顔はしなかった。

「さっき、会ったんだ……」

そこで椿は驚いた顔をする。

「わ、私も……っ」

⏰:08/10/16 21:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#516 [向日葵]
「え?」

「夢かどうかわからなかったんですが、ひんやりした母の手が私のおでこに触れたら熱がひいていったのです」

すると椿の目から、涙が溢れはじめる。
ポロポロと落ちる涙を気にする事なく、椿は柔らかく微笑む。
その顔が、彼女の母にそっくりだと愛おしいそうに要は目を細める。

「お母様……」

要は椿の肩を抱き寄せる。

「僕も、お会い出来て嬉しかった。僕達を認めて下さるとおっしゃってくれたよ」

「そうですか……」

⏰:08/10/16 22:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#517 [向日葵]
要に身を任せる椿に愛おしさが増す。
気がつけば、彼の手は椿の濡れた頬に触れていた。
導かれるように椿は顔を上げる。

静まりかえって聞こえる音は、どちらの鼓動だろう。

そんな事をぼんやり考えながら、ゆっくりと顔を近づけ、唇を寄せる。
柔らかく触れれば、椿は少し体を硬直させるも抵抗はしなかった。

離れて間近で見る彼女の顔はみるみる赤くなっていく。
そんな椿に、つい自分までもが赤くなった要は、顔を隠す為に椿をギュッと抱き締めた。

彼女の髪から香る匂いが、またドキドキさせる。

⏰:08/10/24 00:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#518 [向日葵]
「……もう怖くなくなった?」

「え……」

「あの人の1件があったからさ……」

聖史の事だ。
椿には辛い記憶。
嫌がる彼女の唇を2度も無理矢理に奪い、要自身も椿に酷い事をした。

そう思えば、照れ隠しに自分から言ったものの、歯をぐっとくいしばる。

「恐くは……ないです。でも……恥ずかしいです……。だから……」

椿は離れると要の少し苦しそうな顔を見てフワリと笑う。

⏰:08/10/24 00:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#519 [向日葵]
「そんな顔しないで下さい。私分かった事があるのです。恥ずかしいのは、きっと、要さまへの気持ちを触れられる度再確認して、くすぐったくなるからですわ」

まっすぐに見つめて、優しげな目が凛とするから、要はハッとして、そして微笑む。

母親と、同じ顔をする。

「ならね、もう1度、くすぐったい思いしてくれるかな……?」

両手で椿の頬を包んだ要は、また彼女の唇に触れる。

自分も、椿への気持ちを再確認するように……。

⏰:08/10/24 00:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#520 [向日葵]
[第12話]

今日は見事な晴天だと思いながら、美嘉はバルコニーへ出て背伸びをする。

寒い空気は寝起きの体には丁度良い。
体の中からリフレッシュするようだ。

「おはようございます」

背伸びの格好のまま後ろを振り返れば、もう完璧に着替えた要の従者がいた。

名前はなんだったか……。

目元のほくろが少しいやらしいなと思うが、本人はとてもいい人なのであまり気にしない。

「おはようございまっす。いい天気っすねぇ!」

⏰:08/10/24 00:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#521 [向日葵]
従者はニコニコして頷く。

「お体を冷やしますから、そろそろ入ってはいかがですか?」

美嘉は一瞬キョトンとするとアハハハと笑い出した。
すると今度は従者の方がキョトンとした。

「美嘉を気遣うなんて無駄ですよ。美嘉この17年間風邪引いた数なんて片手で足りちゃうんですから」

それにそうやって気遣うのは椿や越、家族の他にはいた事がない。自分がボーイッシュな性格と外見をもちあわせているのは理解してるし、女扱いされたいだなんて願望さえ持った事はなかった。

だから従者の一言はとても珍しいものだった。

⏰:08/10/24 00:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#522 [向日葵]
「でも朝ごはんの用意しなくちゃですし、中に入りますよっ」

軽い足どりで中に入れば、外よりかは幾分暖かい。
しかし寒いのは嫌いではないので後で散歩にでも出掛けようかと考える。

するて肩に暖かさが宿る。
フワリとした感触は毛糸で編まれた美嘉のカーディガンだった。
さっき外へ出るまではおっていたが、朝早くの空気を楽しみたくてソファーにかけておいたのだ。

それを従者がかぶせてくれた。

「私もお手伝いさせて頂きます」

にこりと笑うその顔は、大人の男性を感じさせるものだった。

⏰:08/10/24 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#523 [向日葵]
―――――――――…………

「クリスマスを一緒に過ごせない?」

起きてしばらくしてから要が椿に話をした。
どうやら彼が隠したかったのはこの事らしかった。

恋人(婚約者)となって初めて過ごすクリスマスなのに、要は仕事で年始まで海外へまた行かなければならなかった。

その事実を知れば、椿が悲しんでしまうのではないかと思った要はもう少ししてから話すつもりだったらしい。

「それをどうして美嘉ちゃんにまで口止めなさってたのですか?」

美嘉が知る必要もないだろうに。

⏰:08/10/24 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#524 [向日葵]
*アンカー*

>>472

*感想板*

>>504

⏰:08/10/24 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#525 [向日葵]
>>522

誤]するて
正]すると

⏰:08/10/24 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#526 [向日葵]
「彼女にクリスマスはどうするのか言われて、ありのまま話したんだ。話し終わってからもし君の耳に届いたら駄目だと思ってね」

なるほど、と椿は相づちをうつ。
と同時に、そこまで自分を想ってくれる要が嬉しかった。

そろそろ自分も下へ降りて、朝食の準備をと、椿はドアに歩み寄る。
しかし、それは要によって遮られる。

「待って」

椿の前に立ち、ドアを背にして通せんぼする。
危うく要にぶつかりそうになった椿は慌てて距離をとる。
要を見上げれば、意地悪くニヤリと笑っている。

⏰:08/10/30 15:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#527 [向日葵]
少し不安になり、困ったように眉根を寄せる。

「僕の隠し事は話した。さて、君の隠し事は、一体何なのかな?」

あ、と椿は目を見開く。
指を組み合わせて落ち着きなく少し体を揺らす。

「そ、その、えと……昨日言ったような話だったんです」

「昨日?何を話したっけ?」

「えと、要さまが好きと再確認してしまうと、こそばゆくなるとか」

「あぁ、それが大久保とどう……?」

まったく結びつく気配がないので要は宙を見て考える。

⏰:08/10/30 15:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#528 [向日葵]
椿はその時の会話を話す。
やがて要は「あぁ」と言い、おかしそうに笑う。

「君の恥ずかしがる度合いが分からないよ」

椿が赤くなってうつむけば、要は彼女の腕を引き腕の中に閉じ込める。

「そんなだから、君を手放す事が出来ないんだろうけどね」

穏やかな口調に椿は胸が高鳴る。要を見上げれば、口調と同じくらい穏やかな笑みを向けていた。
自然に顔が近づいてくる……。

「ラブラブ中にごめんねーっと」

要がおさえていた筈のドアをいとも簡単に美嘉が開く。

⏰:08/10/30 16:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#529 [向日葵]
おさえていた要は弾かれ椿と共に転ぶ。
幸い椿は要が咄嗟に庇ったので体が痛くなる事は無かった。

「君はノックも出来ないのか……」

「ノックしただけじゃ無視しそうな雰囲気だったから。当たってるんじゃない?万年発情男くん」

にっこり笑う美嘉をムスリとしながら睨みつける。
彼女が言ってる事をあながち否定出来ないからだ。

美嘉は椿だけに手を貸して立たせてやる。

「ご飯出来たよ。降りてらっしゃいな」

―――――――――…………

運動部的な見た目や性格だから料理ももっとすごいものだと勝手な想像をしていた要や大久保は朝食を見て驚く。

⏰:08/10/30 16:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#530 [向日葵]
トーストにスクランブルエッグ、控えめにあるベーコン、ちぎったレタスのサラダには綺麗に三日月型に切ったトマトがそえられ、寒い体を温める野菜スープまでもがある。極めつけはフルーツが入ったゼリー。
これは昨日夜に作ったのだとか。

「僕、黒こげになった料理しか出てこないか、もっと雑なものが出てくると思った」

美嘉をじっと見ながら言う。
昨日の夕食は大久保が作ったもので、美嘉は手伝いしかしていなく、その実力を見る事は無かった。

「あのね、美嘉はこう見えて料理が好きなの。学校のお弁当だって毎日自分で作ってるんだから」

⏰:08/10/30 16:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#531 [向日葵]
この時、要や大久保が購買で勇ましくもパンを勝ち取る姿しかイメージ出来なかったのは言うまでもない。

要は飛び級なのでそんなシーンは滅多に見ないが、たまにどこかの学校の前を通り過ぎる時、パン屋らしい車の前で生徒が争うように血眼でパンを買っていたのを見た事がある。

なので美嘉にはそのイメージしかなかった。

「君にも女の子らしいとこがあったんだね」

「アンタ美嘉をなんだと思ってたの」

「野生児」

「野菜スープぶっかけられたい?」

⏰:08/10/30 16:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#532 [向日葵]
本当にぶっかけるつもりなのか、おたまと野菜スープが入った小さな鍋を持ってじりじり寄ってくるものだから、椿と大久保は慌てて止めなくてはならなかった。

そんな事がありながらも、4人で楽しく朝食を食べ、一息ついた。

―――――――――…………

1時間程すると、要と椿が散歩へ出ていった。
幸せそうな2人の背中を見送りながら美嘉はホッとする。

「美嘉さま」

振り返れば、要の従者が立っていた。

「美嘉さまも散歩はしなくてよろしいのですか?」

⏰:08/10/30 16:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#533 [向日葵]
「美嘉は掃除でもしてますよ」

「なら、それは私がいたします」

「あなたこそ、ちょっとは休めばどうですか?働き詰めはよくないと思いますけど」

「いえそんな。私はいいのです」

「じゃあ美嘉もいいです」

そんな言い合いをして数分。
ラチがあかないと美嘉は黙る。
同じ事を思ったのか、従者も黙った。

しばらくして、美嘉が両手をパンと合わせる。

「じゃあ2人で散歩しましょう」

「えぇっ!?」

⏰:08/10/30 16:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#534 [向日葵]
うろたえる大久保をよそに、美嘉はさっさと用意を始めていく。

「たまにはアイツの事なんか忘れて、のんびり過ごす事も大切だと思いますよ。ホラッ!」

美嘉は強引に大久保の手を引く。
大久保は抵抗する間もなく、外へと連れていかれてしまった。

――――――――…………

どこへ行くかなどは決めず、のんびりと林の中を歩く。
暖かく柔らかな日差しが心地よく感じる。
美嘉は落ち葉を踏み、パキパキと鳴るその感触を楽しんでいた。

「美嘉さまは、いつから椿さまとお友達で?」

⏰:08/11/16 01:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#535 [向日葵]
「ずーっと昔からです。たまたまいた近所の公園にいて、それから。あんな大きな家に住んでるのにわざわざ外へ出るなんて、変わってる子ですよね」

大久保は静かに微笑む。
大久保より数歩先を歩いていた美嘉は、片足を軸にくるりと回って大久保の方を向く。

「大久保さんは?いつからアイツのとこへ?」

「父が要さまのお父様の従者をしてまして、私も父に連れられて、要さまとは幼い頃から交流がありましたので」

「従者って言うよりは、親しげですよね、あなた」

「それは……大変光栄にございます」

⏰:08/11/16 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#536 [向日葵]
本当に嬉しそうに笑うものだから、美嘉もつられて笑顔になる。

そして再び歩き出す。

「そういえば、アイツの両親って……」

「お2人共、海外で暮らしてらっしゃいます。ご多忙な為、要さまとお会いするのは3年に1度ほどなのです」

「それは、小さい頃から?」

「はい」

じゃあ、要の自己中心的な所は、小さい頃つもりつもった両親に対する寂しさからくるものなのだろうか。
と美嘉は首を傾げる。
そして思う。

そういう人だから、椿の事を理解してくれたのかもしれない、と。

⏰:08/11/16 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#537 [向日葵]
しかし過度な愛情表現は如何なものか……。
それも仕方のないこと?

どちらにしても第三者である美嘉はなんとも言えなかった。
いや、椿が困っていたらそれなりに止める事も出来るが、最近の椿はまんざらでもない様子なので、美嘉も言うに言えなかったりする。

だから子供っぽくも、2人の邪魔をしてみたり。

「そういえば美嘉さま、ギンリョウソウと言うのをご存知ですか?」

「ギンリョウソウ?」

どこかで聞いた事があると思えば、まだ椿の婚約が決まりたての頃、椿から訊かれたものだった。

⏰:08/11/16 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#538 [向日葵]
分からないから一瞬で忘れた美嘉は特に気にした事もなかった。

「それが、何か?」

「要さまが、椿さまをそのように表現してらしたので」

「で、何かは分かりましたか?」

「植物である事は分かりました。……ただ」

大久保の表情が少しくもる。
美嘉はじっと彼の顔を見つめる。

「……あまり、いい印象を受けないものでして……」

美嘉は明らかに苛立った顔をした。

⏰:08/11/16 01:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#539 [向日葵]
どういう事だ。
仮にも要は婚約者だ。
その婚約者が、どうして椿をそんな風に称すのか。

「あ、でも、要さまにも何かお考えがあるのかも……。今のは聞かなかった事にして下さい」

椿は“ギンリョウソウ”を知っているのだろうか……。

「……椿は不幸にはなりませんか?それを、保証出来なければ、美嘉は納得しません」

大久保は一瞬驚いた顔をした後、いつもの彼らしく優しく笑う。

「主人だからという贔屓目を抜いたとしても、要さまは椿さまを大切になさって下さると思います」

大久保は美嘉に並ぶ。
美嘉はまだ不安げな顔で大久保を見ていた。

⏰:08/11/16 02:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#540 [向日葵]
「私は今まで、あんなに穏やかに笑う要さまを1人を除いては見た事がありません」

「1人?」

「ご兄妹であります唯子さまでございます」

美嘉は頷く。

「要さまは、いつも孤独に戦ってらしたように思います。ご存知かとは思いますが、要さまは有名ブランドのデザイナーであります。そして、要さまのお父上であります旦那さまも、デザイナーなのです」

美嘉はまた頷く。
大久保のいつもの柔らかな表情は消え、固く厳しいものになっていた。

⏰:08/11/16 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#541 [向日葵]
「有名ブランドを背負うデザイナーの息子……。それがどれだけ要さまの背中にのしかかった事でしょう……」

父の地位へ上り詰める事は容易くなく、評価が重なり、それはまた彼を押し潰してしまいそうだった。
そんな要を近くで見守り続けたのは、従者である大久保だった。

しかし、自分の無力さを、大久保は呪っていた。

見守るのは、いつも要の寂しげな後ろ姿だった。

「あの方に、何が出来るか考えました。考えた末に見つけた答えは、見守る事だけだったのです」

あぁ……自分は何も出来ないのかと、ただただ失望した。

⏰:08/11/16 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#542 [向日葵]
そんなある日、要は言った。

強い眼差しは今でも鮮明に覚えている。

[大久保、お前だけは僕と対等な関係でいろ。なんでも言い合える、友のような存在でいろ]

黙って見守り続けていた事は無駄ではなかったのだ。
ビジネスを続ける上で、自分に寄り添い、支えてくれた大久保は、要にとって唯一、心を許せる相手だったのだ。

「それからは、主従関係は抜けませんが、心の中では対等なお付き合いをさせて頂いてます」

そんな彼が、変わり始めた。

それは1人の少女との出会いだった。

⏰:08/11/16 02:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#543 [向日葵]
「びっくりしたのは大雨の日ですよ。急に野々垣邸へ車を飛ばせと言うのですから」

美嘉はそういえばと思い出す。
いつだったか、椿が要のお見舞いへ行くと言っていた。

もしやそれが何か関係あるのか?

「着いて早々、傘もささずに遠い玄関まで走っていくものですから、私も思わず唖然としてしまい、要さまを追いかける事も忘れてしまってました」

苦笑しながら話す彼の目元に柔らかさが戻りだす。

「しばらくして、戻ってきた要さまのお顔が変わっていました。どこか、決意をなさったお顔をされてましたので」

⏰:08/11/16 02:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#544 [向日葵]
そこでかっ!と美嘉はパチンとパズルがはまった感覚になった。

要がようやく椿になけなしの誠意を見せたのは!

少々失礼な事を思うが、彼女にとって今そんな事はどうでも良かった。

「でも、アイツなんで椿を好きになったんだろう」

そんな事つきとめても仕方ない事は分かる。
理由は分からないけれど何故か惹かれ合うものがあるのだろうと、ぼんやりだか理解しているからだ。

それでも、椿をビジネスの道具としてしか考えていなかった要が何故と疑問だった。

⏰:08/11/16 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#545 [向日葵]
自分が知らない内に二人は絆を深めていってた事に驚いた。

あの椿が、要に襲われかけた後、本心からの願いを言った時、美嘉は椿の気持ちに気づいてしまったし、その後要を訪ねれば、彼の気持ちにも気づいてしまった。

そして二人は相思相愛と悟った。

「美嘉は……嫌な奴かもしれない……」

ボソリと美嘉が呟くと同時に、風が吹き、木々が揺れる。

「美嘉さま……?」

「椿が幸せなら嬉しい。だってあんな子だもの、誰よりも幸せになってほしい……」

それなのに……。

⏰:08/11/26 23:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#546 [向日葵]
胸の中に、気持ち悪く残るこの感情は、何……。

いつも、椿の近くにいるのは自分だった。
それが、いつの間にか彼女の隣には、彼女をいとおしそうに見つめ、大切に思っている人が現れた。

いづれはそうなるだろうと思っていたし、要が前ほど嫌いだから拒絶している訳でもない。
あの二人が、楽しそうに笑ってくれていれば、ほっとするし、顔がほころぶ。

「寂しい……」

「美嘉さま……?」

それでいい筈なのに、どこかおいてきぼりされた気分なのはどうしてなんだろう……。

⏰:08/11/26 23:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#547 [向日葵]
「美嘉は、だめだめですね。友達の幸せ一杯な姿を見て、寂しく感じるだなんて……」

美嘉の顔が歪む。
嫌悪感でいっぱいになる。
そんな美嘉を、大久保は変わらない微笑みで見つめる。
近づいていき、美嘉の手をそっと取る。

温かい大久保の手に、少し安心した気分になる。

「寂しく感じるくらい、椿さまを大切になさっている美嘉さまは、とても素敵な方だと思います」

伏せていた目を、ゆっくりあげる。
自分は背が高いが、大久保は自分より更に高い。
目線を上にしなければならないのが、少し新鮮に感じる

⏰:08/11/26 23:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#548 [向日葵]
要ですら、美嘉より背が低い。
椿はもっと低い。
だから、自分より背が高い人から見下ろされ、こんな風に微笑まれれば、自分を守ってくれる気がすると、美嘉は思った。

「あと、要さまが椿さまを好きな理由ですが……」

我に返った美嘉は、どこかぼんやりした頭を必死に起こす。

さっきのふんわりした気分は一体なんなんだと思いながら、要の椿に対する気持ちを聞く方に興味がいってしまったので、疑問は彼方へ消えてしまう。

「椿さまを、どうしても放っておけない自分がいたらしいです。あまりに痛々しくいじらしい椿さまのお姿は、要さまの胸を締めつけ、頭では仕事の為だと思っていても、本当の心の声には負けてしまったみたいですね」

⏰:08/11/26 23:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#549 [向日葵]
美嘉にはそんな経験はない。

何せ幼い頃からボーイッシュな性格は自覚していたし、見た目も椿のような儚さや、女の子らしい柔らかさのようなものは持ち合わせていないと思っていた。

だから恋する事は諦めていた。

いくら偉そうに恋愛話をしたって、所詮は一般論である事は分かっていた。

自分もそんな風に、心の素直な声に抗えず、従ってしまう程の運命の相手に出会う事が出来るのだろうか。

と思いながら、ちらりと大久保を見る。

大久保は、美嘉を女の子扱いした。

⏰:08/11/26 23:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#550 [向日葵]
それが珍しい。
大抵は、そんな扱いしてもらえない。
だからか、不思議な気持ちになってしまう。

名前、なんだっけ……。
未だに思い出せない。
彼は自分を名前で呼んでくれるのに。

「あなたは、そんな相手がいた事がありますか?」

何気なく訊いてみる。
深い意味はない……つもりだと、美嘉は自分でもわからなくなっていた。

大久保は人差し指を唇にあてる。

「内緒です」

⏰:08/11/26 23:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#551 [向日葵]
優しい筈なのに、どこか意地悪な雰囲気を漂わすから思わずドキリとしてしまう。

そんな事を思っていると、ガサガサと木の葉を踏む音が聞こえた。

「あれ?美嘉と大久保じゃないか」

現れたのは、仲良く手を繋いで散歩していた要と椿だった。要はしばらく二人と少し下の場所を交互に見て、ニヤリと微笑む。

「もしかして、邪魔だった?」

なんの事か分からない当の二人は顔を見合わせてからまた要に目を向け、首を傾ける。
要の言った事が分かった椿は目を輝かせながら二人を見つめていた。

⏰:08/12/11 00:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#552 [向日葵]
分からない二人に、要はまた口を開く。

「さっきから、ずいぶん親しげに手を繋いでるじゃないか」

二人はノロノロと自分の手を見る。
美嘉の手は優しく大久保に包まれているし、大久保の手は大きな手で美嘉の手を柔らかく握っている。
さっき要が見ていたのは、二人の手らしかった。

二人同時にパッと手を引っ込める。

「すいませんっ。私とした事が……とんだご無礼を……」

「あ、あなたは何も悪くは……。美嘉が、弱音吐いたからであって……」

⏰:08/12/11 00:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#553 [向日葵]
ほのぼのと二人の間に温かい空気が流れる。
美嘉は顔が熱いのか、手を団扇がわりに軽く振っている。
そんな美嘉を見るのが初めてな椿は、静かに微笑む。

「皆様お揃いになりましたし、お茶にでもいたしましょうか」

大久保はいつも通りに戻っている。
要は大久保に何か話ながら椿たちの少し前を歩く。
その後ろからは椿と美嘉が並んで歩く。

「楽しかったですか?大久保さんとのお散歩は」

微笑みながら訊いてくる椿に口を尖らせてみせて美嘉は「あっ」と声を小さくてあげて気づく。

⏰:08/12/11 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#554 [向日葵]
×小さくて
○小さく

⏰:08/12/21 23:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#555 [向日葵]
「そっか、あの人大久保さんって言うのか」

「あれ?言ってませんでしたっけ?」

「いや、聞いてたけど忘れてた」

口の中で、何度も繰り返し、ふと前にいる今覚えたての従者を見る。
要と何やら話してはいるが、内容は聞こえない。

「あの人は、何でも受け止めてくれるから、容赦なく甘えちゃいそうで怖いね」

大久保を見つめながら呟く。
そんな美嘉に、椿は静かに微笑む。

「それでも、美嘉ちゃんが甘えたかったら、甘えるのもいいかと思いますよ」

⏰:08/12/21 23:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#556 [向日葵]
美嘉は椿をまた睨むように見る。
椿はそんな視線を送られるとは思ってなかったので目をパチパチさせて、きょとんとする。

「なによ……なによなによなによ!ちょっと経験積んだからって上から目線でぇーっ!」

「えっ!?いえ、あの、そんなつもりは……っ!」

別に今、自分の中にくすぶる気持ちをどうこうするとは美嘉は思っていない。
その気持ちも、まだはっきりとどういうものかは分からない。
ただ、弱音も何もかも包んで、女の子扱いをしてくれる大久保に、少しだけ近づいて、もう少しだけ彼について知りたい、そう思っただけだ。

⏰:08/12/21 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#557 [向日葵]
美嘉の気持ちが発展していくのは、まだ先の話のようだ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「美嘉が気に入ったの?」

少し前を歩く要と大久保は、後ろに歩く椿と美嘉の会話は聞こえないが、さっきから美嘉が騒いでいるのに気がつきながら話している。

要の質問に、大久保は少し首を傾げる。

「何故です?」

「仕事至上主義のお前が、のんびり手を繋いで散歩だなんて珍しいじゃないか」

「折角のお誘いを拒否する訳にはいかないと思ったからですよ」

⏰:08/12/22 00:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#558 [向日葵]
そう言いながらも、ふと握った彼女の手を思い出す。

握ってあげなければ、駄目だと何故か思った。
女の子だという自覚があまりない彼女は、ちゃんと女の子で、友人思いで。
だからこそ、自分を犠牲にする事すら惜しまない気がした。

潰れてしまう前に、助けなければと。

大久保もまた胸の中の気持ちが未だ理解出来ないでいる。

どうやらこの二人の話は、延長してしまうらしい。

⏰:08/12/22 00:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#559 [向日葵]
[第13話]

要がデザイナーが集まるという催し物に旅立ってから一週間が経つ。
連絡は時折とってるし、声が聞ければ嬉しいが、やっぱりそばにいなければ寂しさは埋めれないのだと椿はため息をつく日々をおくっている。

そんな中、珍しい人が訪ねに来た。

「こんにちわ、椿さま」

「唯子さま……!」

唯子は要の妹だ。
心臓を患っている彼女は、長い間海外にて治療を受け、今はほぼ回復しているので帰国している。

前と変わらぬ柔らかな笑顔は、要とはあまり似てないような気がする。

⏰:08/12/22 00:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#560 [向日葵]
「どうなさいましたか?」

「椿さまに会いたくなりまして、来てしまいました」

椿はとりあえず応接間に唯子を案内した。
今にも倒れてしまいそうな儚さを醸し出す彼女をひやひやしながら椿は見守る。
それは自分も同じだという事は、椿は分かっていない。

「お兄さまがいなくて、お寂しいでしょうけれど、元気をお出し下さいね……」

年下に励まされ、ありがたいような、少し恥ずかしいような気がした。

「大丈夫ですよ。要さまをお支えするのが、私の役目ですから」

⏰:08/12/22 00:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#561 [向日葵]
唯子は微笑んで、先程出された紅茶に口をつける。

本当は元気はあまりない。
仕事とは言え次に会うのは来年だ。
あと三週間ちかくある。
寂しくないと言えば嘘になる。
でもあまり元気がなくては、唯子のように心配されるから、出来るだけいつも通りいようと心がける。

「そういえば……クリスマスはどうなさるんですか?」

淡い茶色の目をこちらに向け、唯子が椿に訊ねる。

「まだ何も……。でも、友人と過ごすかもしれません」

「もしよろしければ、その後にでも、葵家のパーティーにいらっしゃいませんか?」

⏰:08/12/22 00:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#562 [向日葵]
キラキラした目で唯子は言う。

「なんでしたらお泊まりなさいません?私、椿さまとたくさん、たっくさんお話をしたいんですっ」

無邪気に笑う唯子に、椿は胸が温かくなる。
椿は一人っ子なので、兄弟はいない。
だからか、唯子が妹のように可愛く思える。
今も、まるで自分が姉になったような気持ちで唯子を見つめている。

「はい、喜んで……」

それからしばらく話していると、戸口に唯子の従者が現れた。
どうやら今から検診へ行くようだ。
回復したと言っても、まだ油断は出来ないらしい。

⏰:08/12/22 00:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#563 [向日葵]
唯子を見送りながら、椿は要を思った。

永遠に会えなくなる訳じゃない。年が明ければ会える。
いつまでも寂しがっていてはいけない。
何度も繰り返して、何度も落ち込む。

いつの間に、こんなに好きになっていたのだろう……。

――――――――…………

描きかけの山積み資料。
生地確認の為の書類。
アクセサリーの手配先が書いてある紙切れ。

その中に埋もれている要はもう何日も寝ていない。
寝不足と疲労で段々とストレスがたまってきた彼はさっきから人差し指で机を苛立たし気に叩いている。

「要さま、少し横になってはいかがですか?」

⏰:09/01/10 00:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#564 [向日葵]
心配そうな顔をして要の顔を覗き込む大久保は、机から少し離れているソファー近くのテーブルに紅茶を置く。

それをちらりと見ながら要はため息をつく。

「今寝たら明日まで目が覚めない気がする……」

「パーティー前に体調を崩しては事ですよ。2時間程経ちましたら私が起こしますから、休んでください」

要は机に突っ伏して頭をかき回す。

「……。紅茶は飽きた。緑茶をいれてくれ……」

どうやら休むつもりになったらしい。
大久保はホッとしたように微笑むと、一礼してから部屋を出て行った。

⏰:09/01/10 00:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#565 [向日葵]
要はガバリと起きた勢いのまま椅子の背もたれに深くもたれる。
深呼吸して目を閉じれば今までの疲れが一気に押し寄せてきたかのように体が重く感じる。

ゆっくり目を開けて、机に置いてある携帯を開く。

--受信メール-
<from 椿>

お声を聞きましたら、とてもお疲れのように感じました。
無理をなさってはいませんか?

栄養があるものをお食べになって、少しでも元気になって下さいね。

-end-

一昨日届いた、椿からのメール。

⏰:09/01/10 00:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#566 [向日葵]
携帯をパキンと閉じて、彼女を思い出す。

もう一週間も会ってない。
すぐ会えないだけあって、離れてしまえばこんなに恋しくなるのかと、要はまたため息をつく。
そろそろ椿欠乏症だ……。

少しでも力を入れたら折れそうな体を抱き締めたい。
照れながらも微笑んでくれる可愛らしい椿が見たい。
受話器越しじゃない彼女の声が聞きたい。

「会いたいって言ってくれれば、すっ飛んで行くのに……」

「思考まですっ飛んでいかないよう早く横になって下さいね」

緑茶を持ってきた大久保がにっこり笑って部屋に入ってきた。

⏰:09/01/10 00:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#567 [向日葵]
「お前も妻を持てば分かるよ。どれほど離れているのが歯がゆいか」

「はいはい。早く飲んで下さいませね。要さまが寝るまで私は見張っておきますから」

聞いちゃいないなと思いながら、要は緑茶をすする。
久々の日本の味は、香りだけでも安らげる。
そのせいか、瞼が自然に下がりそうになる。
全部飲んで、重たい足取りでベッドへ行き、ダイブする。

「ちゃんと布団をかぶって下さい」

丁寧に要の体にふかふかの布団をかぶせる。
要は「んー……」と言いながら枕に顔を埋める。

⏰:09/01/10 00:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#568 [向日葵]
「大久保……」

「何です?」

「椿に会いたい……」

大久保はクスリと笑う。

どうやら主人の疲れを取ってくれるのは、愛すべき椿だけらしい。

「あっという間に、会えますよ」

と言う頃には、要は寝息を立てて深い眠りについてしまった。

―――――――――…………

「どこもかしこもイルミネーションイルミネーション……イルミネーション!!」

⏰:09/01/10 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#569 [向日葵]
駅前で美嘉は騒いでいた。

クリスマスが近い今日この頃。
街はクリスマスの雰囲気を漂わせ、大きなツリーや色とりどりのライトが設置され綺麗に光っていた。

しかし、このワクワクするようなソワソワするような空気を皆が好むのかと言ったらそう言う訳ではないのだ。

「日本は仏教なんでしょー!?じゃあクリスマスなんてしなくていいじゃん!なんでわざわざ独り身が辛い目にあうような事すんのさぁ!」

近くにいた越と椿に美嘉は訴える。
が、二人とも恋人がいるので訴え甲斐がない。

⏰:09/01/10 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#570 [向日葵]
だから美嘉そのどうしようもない怒りをわめき散らす事で解消しようとしている。

「で、でも美嘉、私クリスマス柴とどこか出かけるとか予定ないよ。だから一緒に買い物でもしようよ」

「わ、私もです、美嘉ちゃん……」

焦ってフォローするも、美嘉の機嫌は治らず、とりあえずどこかファーストフード店に入る事にした。

「なによなによ……どうせ二人ともいずれは美嘉より恋人を選ぶんでしょ……」

ジュースを頼んでから席についた。
美嘉は完全に気分が落ちていた。

⏰:09/01/10 00:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#571 [向日葵]
*アンカー*
>>472

*感想板*
>>504

⏰:09/01/10 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#572 [向日葵]
もう越と椿は苦笑いするしかない。

「体育祭とかならあんなに元気な美嘉のくせにぃ……」

「それとこれとは違うーっ」

ふと考えて、椿は口にしてみた。

「美嘉ちゃん。要さまのお宅でクリスマスパーティーをやるそうですが、一緒に行きませんか?」

「へ?アイツ海外にいんのに?」

「妹さんでいらっしゃいます唯子さまが、お誘いしてくださいまして……。もちろん、要さまは、いらっしゃいませんけれど……」

ふと見せた寂しげな椿の笑顔に、美嘉はなんとも言えず、拗ねて曲げていた背筋をしゃんと伸ばした。

⏰:09/01/19 00:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#573 [向日葵]
そして、しまったとバツが悪そうに頭をポリポリとかく。
ただでさえ、最近の椿は元気ないのに、自分が支えなくてはと思っていたのに、と。

「パーティーは夜?」

「はい」

美嘉が乗り気になったのを感じとった椿は顔を綻ばせる。

「じゃあそれまで、二人には美嘉の相手してもらおっかなー」

ようやく機嫌がなおったと、椿たちは笑う。
笑ったところで、椿の携帯が震えた。
美嘉たちに断った椿は、トイレ近くの静かな場所へ移動した。

ディスプレイを見て、椿は心を躍らせる。

なにせ2日ぶりだから。
声を咳払いして整え、深呼吸してから通話ボタンを押す。

⏰:09/01/19 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#574 [向日葵]
「も、もしもし」

{久しぶりだね。元気だった?}

自然と口が笑みを作る。
携帯を握る手に、少し力が入ってしまうのを椿は自覚していなかった。

「はい」

{そういえば、電話に出るの少し時間あったけど、電話しても大丈夫だった?}

「大丈夫です」

{まさか浮気中とかじゃないよね?}

意地悪な質問。
そんな事、椿がする訳がないのに。

⏰:09/01/19 00:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#575 [向日葵]
椿は半ば意地になる。

「してませんっ」

予想通りの返事に満足したのか、要はクスクス笑っている。
椿はそんな意地悪な質問をする要すら恋しく思う。

そういえば、なんだか元気そうだ。

「……要さまこそ、今はお時間大丈夫なんですか?」

{ああ。ちょっと仕事が一段落したからね。それはそうと、気にならない?}

「何がですか?」

{この二日間、僕が連絡しなかった訳}

⏰:09/01/19 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#576 [向日葵]
「え?お忙しかったから……では……?」

少し間をおいて、また要がクスクス笑っているのが聞こえた。
どうして笑われているのか、椿には分からない。

「要さま?」

{なるほど。僕をちゃんと信じてくれてるんだね}

「は……はあ……?」

{浮気してるんじゃないかとか心配じゃないの?}

またその話かと、椿は少し眉を寄せる。

「魅力的な方がいるなら……私は……」

拗ね気味に言ってみる。

⏰:09/01/19 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#577 [向日葵]
しかしそんな事を言われて困ったのは要の方だった。

{いない!いないから、婚約解消とか言わないでよねっ!}

あまりの焦りっぷりに、今度は椿が笑い出す。

しばらくして、要はため息をついた。

{本当……僕は君が大好きみたいだよ}

そんな事を言われてしまっては、胸が苦しくなる。
苦しくなるせいで、心にしまっておかなければならない椿のわがままな気持ちが、言葉となって出てしまう。

「……会いたい」

⏰:09/01/19 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#578 [向日葵]
自分が何を言ったか認識するまで、椿はぼんやりしていた。

{……椿?}

そして要の呼びかけにハッとして、ようやく自分が何を言ったか分かってしまえば、混乱してしまった。

「あ、いえ、あのっ、何もないですっ。か、要さまもお体にお気をつけてっ。では……っ!」

要の返事も待たずに、椿は電話を切ってしまった。
携帯を両手で握りしめ、額にあてる。

何を言ってるんだ……。
叶いもしない願いを言って、要を困らせてどうするつもりだ。

椿は自分が恥ずかしくなった。

⏰:09/01/19 01:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#579 [向日葵]
要がすごい人で、忙しくて大変な事は誰よりも知っているのに。
あんな、馬鹿な事を言ってしまうなんて。

きっと、要はあきれている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

要は瞬きを繰り返していた。

あの椿が……会いたいと言った……。
言ってくれた……。

今、要がどれほど面白い顔をしてるか分からないのだろうなと、書類整理をしている大久保は要を見ながら笑いそうになっていた。

「要さま、何かありましたか?」

笑いをこらえる為に、声をかける。

⏰:09/01/19 01:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#580 [向日葵]
「椿が……会いたいって……言うんだ」

「それはそれは……。会わねばなりませんねぇ……」

かと言って、この多忙スケジュールだ。
要が動ける訳がない。

「そうだね」

しかしニヤリと笑った要は、どこか余裕そうだった。

―――――――――…………

時が経つのは早いもので、あっという間にクリスマスイブになった。
天気予報はホワイトクリスマスになるだろうとロマンチックなクリスマスである事を告げていた。

⏰:09/01/19 01:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#581 [向日葵]
しかしそんな事とはうらはらに、椿はクリスマス前より気分が落ち込んでいた。

何故なら最近要と連絡がとれていないからだから。
しかし抜かりがない彼は椿が気にしないようにと「しばらく忙しいから連絡出来ない」と一報いれてきた。

いれてくれたが、椿は逆にそれを気にしていた。

前に子供っぽいわがままを言ってしまったから、要がうんざりしているんではないかと。

要の気持ちはちゃんと分かっているから、婚約解消なんて大袈裟な事はしないだろうけど、もしかしたら少しだけ気持ちが離れてしまったかもと思ってしまう。

⏰:09/01/19 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#582 [向日葵]
「お嬢様」

ノックと共に、メイドの佐々木が椿に呼び掛けた。
ハッとして、椿はすぐに返事を返した。

「待ち合わせの時間になります。早くお車にお乗りくださいませ」

壁にある時計を見れば、美嘉たちと待ち合わせる時間が迫っていた。
慌ててコートを羽織り、部屋を出ていく。
出て行こうとして、見送りをと後ろについてきている佐々木を振り返る。

「私、いつもと変わりませんか?」

「はい。大丈夫ですよ」

⏰:09/01/29 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#583 [向日葵]
なら良かった。
顔に出てしまえば二人が心配してしまう。

ここ数週間、元気がない自分を励まそうとしてくれてたのは知っているから、椿はこれ以上迷惑はかけられないと、佐々木にわざわざ訊ねたのだ。

次に会うとき、要はどんな顔をして自分と会ってくれるのか。
椿は楽しみでもあり、怖くもあった。

――――――――…………

「さすがクリスマス……。どこもかしこも混みすぎねー」

美嘉は入ったデパートの中を見て言った。
友達、親子、恋人、夫婦、家族。様々な年齢層の人たちがごった返している。

⏰:09/01/29 02:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#584 [向日葵]
「他に行くとこなんかいっぱいあるだろうに……」

早くも美嘉の心は荒みつつあった。

「で、でも、やっぱり街が華やかなのは、何て言うか、テンションが上がるよね!」

急いで越がフォローに入る。
外は段々と曇ってきて、天気予報通りホワイトクリスマスになりそうだった。
そのせいか、今年のクリスマスは、例年よりも皆浮き足立ってる。

「まったくたまったもんじゃないわねっ!」

⏰:09/01/30 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#585 [向日葵]
とりあえず買い物をしに向かう。

雑貨屋さんなどはやっぱり人が多くて、選びたくてもゆっくり選ぶ事が出来ない。

要はどんな物が好きだろう……。

ふとそんな事を思えば、要の事が頭から離れたくなくなった。

我が儘を言って、きっとあきられた。
それがショックで仕方がない。

それでも……。

写真たてを何気に持っていた椿の手に、滴がぽたりと落ちる。

我が儘を言ってしまう程、会いたい。
溢れ出す気持ちが、コントロールする事が出来ない。

⏰:09/01/30 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#586 [向日葵]
あきれられてももう何でもいい。
何か、要と繋がる為にしたい。

そう思った椿は、メールをしようと携帯を開いた。
と、同時に、携帯が鳴り出す。
驚いた椿は思わず手から携帯を落としそうになってしまった。

ちゃんと持って、安堵のため息を吐いてからディスプレイを見て、椿は息が詰まりそうだった。

「も……っ、もしもし」

{椿、今君どこにいるの?}

要だった。

いても立ってもいられず、美嘉たちに慌てて事情を言った椿は、美嘉たちの返事もそこそこに走り出す。

⏰:09/01/30 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#587 [向日葵]
白い白い、綿のような雪が舞いはじめていた。
いつも以上に息は白く、寒い空気が喉を刺激する。
咳き込みそうになるのもお構いなしに、椿は走る。

「今、駅前のデパートで、今から、帰ります……っ」

{急がなくても、僕も移動中だよ。だから椿、無理して走ったら体に触る……}

「いいんです……っ!」

息を弾ませて喋る椿に、受話器の向こうで要はハッとした。

「体なんて、気にしてる場合じゃないのです……っ」

そんな椿をいとおしく思い、要はそっと笑う。

⏰:09/01/30 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#588 [向日葵]
{分かった……。僕も出来るだけ早く行くよ}

そう言って、電話を切った。

椿は自分の足を出来るだけ早く動かす。

早く、早くと……。

―――――――――…………

自分の家に帰ってきた椿は、門の鉄格子を握って息を整える。

鉄格子は冷たい筈だが、最早そんな感覚すらないぐらい椿の手の方が冷たくなっていた。

心臓がうるさい。
走ったせいでもあるが、それ以上に会えると言う喜びが大きい。

ちゃんとじっとしていないと、周りから怪しまれるのに、そわそわして、そこらを行ったり来たりしてしまう。

⏰:09/01/30 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#589 [向日葵]
椿は要に会った時の事を考える。

まずは、おかえりなさいと言おう。
それから寒いから家に入ってもらって、ゆっくりと話をしようー
もしかしたら要宅でやるパーティーに要も行けるかもしれない。
そしたらもっといっぱい一緒にいれるかもしれない。

と、携帯が鳴った。

「も、もしもし椿です」

{分かってるよ}

笑ってる彼の声が近くに感じる。
もうすぐ会えると分かってるせいだろうか。

「今、どの……」

「どのあたりですか」と訊ねようとした時、椿は何かに包まれた。

「君のそばだよ」

⏰:09/01/30 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#590 [向日葵]
右から受話器ごしの要の声。
そして左からは……。

後ろから抱き締められてるから、腕だけしか分からない。
それでも、ちゃんとここにいると実感できるが、夢のようだとも感じる。

思わず携帯を落としてしまう。

「要……さま……」

ゆっくりと振り返れば、大好きな人がそこにいて、柔らかく微笑んでいた。

「ただいま。寒いね今日は」

少しだけしか、会っていなかったかのような会話。
だからか余計に苦しくて、椿は要に抱きつく。

⏰:09/01/30 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#591 [向日葵]
さっき考えてた事なんて、まったく意味がなかった。

ただ彼を感じたくて、無我夢中で彼の胸に頬を寄せ、腕にありったけの力を込める。

「嬉しいな。こんな歓迎の仕方をされるだなんて」

椿は何も言わない。

「椿、顔をよく見せてよ」

椿は首を横に振った。
要はおかしそうに笑った。

「泣いてるのが恥ずかしい?」

言われて、彼女の肩がピクリと反応する。
要は椿の頬に手を触れて、上を向かす。

⏰:09/01/30 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#592 [向日葵]
上を向いた椿の瞳と頬は濡れ、顔は寒さと泣いてる為によるもので淡く赤くなっていた。

要が目を細めて笑みを深くすると、椿の目から更に涙が流れた。
それは止まる事を知らない。
瞬きをする度、彼女の目から、またいくつも滴が流れる。
要はそれを指で拭う。

「かな……め……さま……」

「会いたがってくれて嬉しい。僕も、会いたかったから」

その言葉に、寄せていた眉を少し緩めた椿の表情は、彼が意外な事を言ったとでも言うようだった。

「あきれて……ないのですか……?」

「あきれる?どうして」

⏰:09/01/30 01:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#593 [向日葵]
>>589

×ゆっくり話をしようー
○ゆっくり話をしよう。

⏰:09/01/30 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#594 [向日葵]
「あ……あんな、わがままを言ってしまったから……」

「わがまま?」

要はまだ分からないのか眉を寄せる。
椿は恥ずかしくて、ほんの少しだけ要から距離をおく。

「あ……会いたいって……言ってしまったこと……」

あまりに恥ずかしくて、椿は顔を両手で隠した。
一方、要はなんだか信じられない気持ちで椿を見つめていた。

椿がそこまで自分を想ってくれているのが、どこか夢のようだからだ。
それでも、すぐにそんな彼女にいとおしさを感じて、柔らかく微笑む。

⏰:09/02/05 01:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#595 [向日葵]
「そんな可愛いわがままなら、もっと言ってよ」

椿は少しだけ顔をあげる。

「なんでも言ってよ。誰にも言えない君の本音や弱音は、僕が全部受け止めたいんだ」

離れて分かった事が、椿も要もたくさんあった。
離れなきゃわからないなんて、まだまだ未熟かもしれない。
だからこそ、誓わなきゃいけない事がある。お互い、共に成長していく為に。

「君が僕を支えてくれて、そばにいてくれるなら、僕も支えて君を守るよ。何もかもから」

「要……さま……」

椿は目を見開く。

⏰:09/02/05 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#596 [向日葵]
「それにね、嬉しいんだ。椿がそうやって僕を想ってくれる事が。少なくとも、僕だけがって訳じゃないってことでしょ?」

また椿の顔が一段と赤くなる。
要はうつむこうとした椿の顔を包んで、上を向かす。

「会いたいって言えたなら、言えるよね?」

「え……?」

「僕が好きって」

「え……ええっ!?」

すごく驚いた椿の顔を初めて見た要は、おかしそうに笑う。
そんな要をよそに、いきなり「告白してみろ」と言われた椿は、ただうろたえるばかり。

⏰:09/02/05 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#597 [向日葵]
後ずさろうとする椿を逃がさないように、要は椿の背中に腕をまわす。
幸いこんなにも寒いし、クリスマスというイベントのおかげもあって、人通りがないのが救いだ。

てなければ椿は今の状態ですでにうろたえていただろう。

「ほら、早く」

真っ赤な椿に、要は意地悪な顔つきで笑う。

「は……はい……っ!」

胸の前でギュッと手を握り合わせて、少しの緊張に小刻みに震える。
深呼吸を何度も繰り返して、目をギュッと瞑る。

「……お、お慕い、して……います……」

⏰:09/02/05 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#598 [向日葵]
しばらくの間の後、要が椿の方に頭を置いた。
ギュッと瞑っていた目をそろりと片目ずつ開けた椿は、要を見る。

「要さま……」

名前を呼べば、要は頭を小刻みに震えさせた。
そして段々と、クククと笑い出す。

「お慕い……。そうだよね、丁寧な物言いする君が、好きだとか愛してるだなんて言わないんだよね……」

何がツボだったかはわからないが、要は大声で笑うのを抑えるかのように喉の奥でずっと笑う。
椿は精一杯の気持ちを精一杯伝えて笑われているのに、まったく嫌な気分はしなかった。

⏰:09/02/05 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#599 [向日葵]
穏やかに要をみつめる。
そして改めて思う。

この人を好きになって、本当に良かった。

椿の視線に気づき、ひとしきり笑い終えた要は微笑む。
また椿の顔を手のひらで包んで、顔を近づければ、何をされるか分かった椿は視線を泳がせながら戸惑う。

「人はいないし、大丈夫だよ?」

「は……はい……」

要の行動を制御するのはおそらく無理なのだろうと思った椿は素直に返事する。

うつむきがちな椿は、また目をギュッと瞑る。
顔が近づく気配を感じれば、体が緊張でまた固まる。

⏰:09/02/05 01:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#600 [向日葵]
久しぶりの優しいキスは、ホワイトクリスマスをよりロマンチックにするものだった。

―――――――――…………

「そういえば、もういいの?」

椿がいなくなってしばらくして、越と美嘉は一緒に帰っていた。

「何が?」

越の問いに、美嘉は首を傾げる。

「あんなに前は反対してたじゃない。椿と婚約者さんのこと」

美嘉は肩をすくめ、ため息を吐く。
息はとても白い。
息と同じくらい白い雪が、地面に積もって、先程からさくさくと音を奏でる。

⏰:09/02/05 01:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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