ギンリョウソウ
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#551 [向日葵]
優しい筈なのに、どこか意地悪な雰囲気を漂わすから思わずドキリとしてしまう。

そんな事を思っていると、ガサガサと木の葉を踏む音が聞こえた。

「あれ?美嘉と大久保じゃないか」

現れたのは、仲良く手を繋いで散歩していた要と椿だった。要はしばらく二人と少し下の場所を交互に見て、ニヤリと微笑む。

「もしかして、邪魔だった?」

なんの事か分からない当の二人は顔を見合わせてからまた要に目を向け、首を傾ける。
要の言った事が分かった椿は目を輝かせながら二人を見つめていた。

⏰:08/12/11 00:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#552 [向日葵]
分からない二人に、要はまた口を開く。

「さっきから、ずいぶん親しげに手を繋いでるじゃないか」

二人はノロノロと自分の手を見る。
美嘉の手は優しく大久保に包まれているし、大久保の手は大きな手で美嘉の手を柔らかく握っている。
さっき要が見ていたのは、二人の手らしかった。

二人同時にパッと手を引っ込める。

「すいませんっ。私とした事が……とんだご無礼を……」

「あ、あなたは何も悪くは……。美嘉が、弱音吐いたからであって……」

⏰:08/12/11 00:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#553 [向日葵]
ほのぼのと二人の間に温かい空気が流れる。
美嘉は顔が熱いのか、手を団扇がわりに軽く振っている。
そんな美嘉を見るのが初めてな椿は、静かに微笑む。

「皆様お揃いになりましたし、お茶にでもいたしましょうか」

大久保はいつも通りに戻っている。
要は大久保に何か話ながら椿たちの少し前を歩く。
その後ろからは椿と美嘉が並んで歩く。

「楽しかったですか?大久保さんとのお散歩は」

微笑みながら訊いてくる椿に口を尖らせてみせて美嘉は「あっ」と声を小さくてあげて気づく。

⏰:08/12/11 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#554 [向日葵]
×小さくて
○小さく

⏰:08/12/21 23:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#555 [向日葵]
「そっか、あの人大久保さんって言うのか」

「あれ?言ってませんでしたっけ?」

「いや、聞いてたけど忘れてた」

口の中で、何度も繰り返し、ふと前にいる今覚えたての従者を見る。
要と何やら話してはいるが、内容は聞こえない。

「あの人は、何でも受け止めてくれるから、容赦なく甘えちゃいそうで怖いね」

大久保を見つめながら呟く。
そんな美嘉に、椿は静かに微笑む。

「それでも、美嘉ちゃんが甘えたかったら、甘えるのもいいかと思いますよ」

⏰:08/12/21 23:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#556 [向日葵]
美嘉は椿をまた睨むように見る。
椿はそんな視線を送られるとは思ってなかったので目をパチパチさせて、きょとんとする。

「なによ……なによなによなによ!ちょっと経験積んだからって上から目線でぇーっ!」

「えっ!?いえ、あの、そんなつもりは……っ!」

別に今、自分の中にくすぶる気持ちをどうこうするとは美嘉は思っていない。
その気持ちも、まだはっきりとどういうものかは分からない。
ただ、弱音も何もかも包んで、女の子扱いをしてくれる大久保に、少しだけ近づいて、もう少しだけ彼について知りたい、そう思っただけだ。

⏰:08/12/21 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#557 [向日葵]
美嘉の気持ちが発展していくのは、まだ先の話のようだ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「美嘉が気に入ったの?」

少し前を歩く要と大久保は、後ろに歩く椿と美嘉の会話は聞こえないが、さっきから美嘉が騒いでいるのに気がつきながら話している。

要の質問に、大久保は少し首を傾げる。

「何故です?」

「仕事至上主義のお前が、のんびり手を繋いで散歩だなんて珍しいじゃないか」

「折角のお誘いを拒否する訳にはいかないと思ったからですよ」

⏰:08/12/22 00:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#558 [向日葵]
そう言いながらも、ふと握った彼女の手を思い出す。

握ってあげなければ、駄目だと何故か思った。
女の子だという自覚があまりない彼女は、ちゃんと女の子で、友人思いで。
だからこそ、自分を犠牲にする事すら惜しまない気がした。

潰れてしまう前に、助けなければと。

大久保もまた胸の中の気持ちが未だ理解出来ないでいる。

どうやらこの二人の話は、延長してしまうらしい。

⏰:08/12/22 00:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#559 [向日葵]
[第13話]

要がデザイナーが集まるという催し物に旅立ってから一週間が経つ。
連絡は時折とってるし、声が聞ければ嬉しいが、やっぱりそばにいなければ寂しさは埋めれないのだと椿はため息をつく日々をおくっている。

そんな中、珍しい人が訪ねに来た。

「こんにちわ、椿さま」

「唯子さま……!」

唯子は要の妹だ。
心臓を患っている彼女は、長い間海外にて治療を受け、今はほぼ回復しているので帰国している。

前と変わらぬ柔らかな笑顔は、要とはあまり似てないような気がする。

⏰:08/12/22 00:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#560 [向日葵]
「どうなさいましたか?」

「椿さまに会いたくなりまして、来てしまいました」

椿はとりあえず応接間に唯子を案内した。
今にも倒れてしまいそうな儚さを醸し出す彼女をひやひやしながら椿は見守る。
それは自分も同じだという事は、椿は分かっていない。

「お兄さまがいなくて、お寂しいでしょうけれど、元気をお出し下さいね……」

年下に励まされ、ありがたいような、少し恥ずかしいような気がした。

「大丈夫ですよ。要さまをお支えするのが、私の役目ですから」

⏰:08/12/22 00:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#561 [向日葵]
唯子は微笑んで、先程出された紅茶に口をつける。

本当は元気はあまりない。
仕事とは言え次に会うのは来年だ。
あと三週間ちかくある。
寂しくないと言えば嘘になる。
でもあまり元気がなくては、唯子のように心配されるから、出来るだけいつも通りいようと心がける。

「そういえば……クリスマスはどうなさるんですか?」

淡い茶色の目をこちらに向け、唯子が椿に訊ねる。

「まだ何も……。でも、友人と過ごすかもしれません」

「もしよろしければ、その後にでも、葵家のパーティーにいらっしゃいませんか?」

⏰:08/12/22 00:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#562 [向日葵]
キラキラした目で唯子は言う。

「なんでしたらお泊まりなさいません?私、椿さまとたくさん、たっくさんお話をしたいんですっ」

無邪気に笑う唯子に、椿は胸が温かくなる。
椿は一人っ子なので、兄弟はいない。
だからか、唯子が妹のように可愛く思える。
今も、まるで自分が姉になったような気持ちで唯子を見つめている。

「はい、喜んで……」

それからしばらく話していると、戸口に唯子の従者が現れた。
どうやら今から検診へ行くようだ。
回復したと言っても、まだ油断は出来ないらしい。

⏰:08/12/22 00:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#563 [向日葵]
唯子を見送りながら、椿は要を思った。

永遠に会えなくなる訳じゃない。年が明ければ会える。
いつまでも寂しがっていてはいけない。
何度も繰り返して、何度も落ち込む。

いつの間に、こんなに好きになっていたのだろう……。

――――――――…………

描きかけの山積み資料。
生地確認の為の書類。
アクセサリーの手配先が書いてある紙切れ。

その中に埋もれている要はもう何日も寝ていない。
寝不足と疲労で段々とストレスがたまってきた彼はさっきから人差し指で机を苛立たし気に叩いている。

「要さま、少し横になってはいかがですか?」

⏰:09/01/10 00:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#564 [向日葵]
心配そうな顔をして要の顔を覗き込む大久保は、机から少し離れているソファー近くのテーブルに紅茶を置く。

それをちらりと見ながら要はため息をつく。

「今寝たら明日まで目が覚めない気がする……」

「パーティー前に体調を崩しては事ですよ。2時間程経ちましたら私が起こしますから、休んでください」

要は机に突っ伏して頭をかき回す。

「……。紅茶は飽きた。緑茶をいれてくれ……」

どうやら休むつもりになったらしい。
大久保はホッとしたように微笑むと、一礼してから部屋を出て行った。

⏰:09/01/10 00:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#565 [向日葵]
要はガバリと起きた勢いのまま椅子の背もたれに深くもたれる。
深呼吸して目を閉じれば今までの疲れが一気に押し寄せてきたかのように体が重く感じる。

ゆっくり目を開けて、机に置いてある携帯を開く。

--受信メール-
<from 椿>

お声を聞きましたら、とてもお疲れのように感じました。
無理をなさってはいませんか?

栄養があるものをお食べになって、少しでも元気になって下さいね。

-end-

一昨日届いた、椿からのメール。

⏰:09/01/10 00:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#566 [向日葵]
携帯をパキンと閉じて、彼女を思い出す。

もう一週間も会ってない。
すぐ会えないだけあって、離れてしまえばこんなに恋しくなるのかと、要はまたため息をつく。
そろそろ椿欠乏症だ……。

少しでも力を入れたら折れそうな体を抱き締めたい。
照れながらも微笑んでくれる可愛らしい椿が見たい。
受話器越しじゃない彼女の声が聞きたい。

「会いたいって言ってくれれば、すっ飛んで行くのに……」

「思考まですっ飛んでいかないよう早く横になって下さいね」

緑茶を持ってきた大久保がにっこり笑って部屋に入ってきた。

⏰:09/01/10 00:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#567 [向日葵]
「お前も妻を持てば分かるよ。どれほど離れているのが歯がゆいか」

「はいはい。早く飲んで下さいませね。要さまが寝るまで私は見張っておきますから」

聞いちゃいないなと思いながら、要は緑茶をすする。
久々の日本の味は、香りだけでも安らげる。
そのせいか、瞼が自然に下がりそうになる。
全部飲んで、重たい足取りでベッドへ行き、ダイブする。

「ちゃんと布団をかぶって下さい」

丁寧に要の体にふかふかの布団をかぶせる。
要は「んー……」と言いながら枕に顔を埋める。

⏰:09/01/10 00:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#568 [向日葵]
「大久保……」

「何です?」

「椿に会いたい……」

大久保はクスリと笑う。

どうやら主人の疲れを取ってくれるのは、愛すべき椿だけらしい。

「あっという間に、会えますよ」

と言う頃には、要は寝息を立てて深い眠りについてしまった。

―――――――――…………

「どこもかしこもイルミネーションイルミネーション……イルミネーション!!」

⏰:09/01/10 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#569 [向日葵]
駅前で美嘉は騒いでいた。

クリスマスが近い今日この頃。
街はクリスマスの雰囲気を漂わせ、大きなツリーや色とりどりのライトが設置され綺麗に光っていた。

しかし、このワクワクするようなソワソワするような空気を皆が好むのかと言ったらそう言う訳ではないのだ。

「日本は仏教なんでしょー!?じゃあクリスマスなんてしなくていいじゃん!なんでわざわざ独り身が辛い目にあうような事すんのさぁ!」

近くにいた越と椿に美嘉は訴える。
が、二人とも恋人がいるので訴え甲斐がない。

⏰:09/01/10 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#570 [向日葵]
だから美嘉そのどうしようもない怒りをわめき散らす事で解消しようとしている。

「で、でも美嘉、私クリスマス柴とどこか出かけるとか予定ないよ。だから一緒に買い物でもしようよ」

「わ、私もです、美嘉ちゃん……」

焦ってフォローするも、美嘉の機嫌は治らず、とりあえずどこかファーストフード店に入る事にした。

「なによなによ……どうせ二人ともいずれは美嘉より恋人を選ぶんでしょ……」

ジュースを頼んでから席についた。
美嘉は完全に気分が落ちていた。

⏰:09/01/10 00:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#571 [向日葵]
*アンカー*
>>472

*感想板*
>>504

⏰:09/01/10 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#572 [向日葵]
もう越と椿は苦笑いするしかない。

「体育祭とかならあんなに元気な美嘉のくせにぃ……」

「それとこれとは違うーっ」

ふと考えて、椿は口にしてみた。

「美嘉ちゃん。要さまのお宅でクリスマスパーティーをやるそうですが、一緒に行きませんか?」

「へ?アイツ海外にいんのに?」

「妹さんでいらっしゃいます唯子さまが、お誘いしてくださいまして……。もちろん、要さまは、いらっしゃいませんけれど……」

ふと見せた寂しげな椿の笑顔に、美嘉はなんとも言えず、拗ねて曲げていた背筋をしゃんと伸ばした。

⏰:09/01/19 00:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#573 [向日葵]
そして、しまったとバツが悪そうに頭をポリポリとかく。
ただでさえ、最近の椿は元気ないのに、自分が支えなくてはと思っていたのに、と。

「パーティーは夜?」

「はい」

美嘉が乗り気になったのを感じとった椿は顔を綻ばせる。

「じゃあそれまで、二人には美嘉の相手してもらおっかなー」

ようやく機嫌がなおったと、椿たちは笑う。
笑ったところで、椿の携帯が震えた。
美嘉たちに断った椿は、トイレ近くの静かな場所へ移動した。

ディスプレイを見て、椿は心を躍らせる。

なにせ2日ぶりだから。
声を咳払いして整え、深呼吸してから通話ボタンを押す。

⏰:09/01/19 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#574 [向日葵]
「も、もしもし」

{久しぶりだね。元気だった?}

自然と口が笑みを作る。
携帯を握る手に、少し力が入ってしまうのを椿は自覚していなかった。

「はい」

{そういえば、電話に出るの少し時間あったけど、電話しても大丈夫だった?}

「大丈夫です」

{まさか浮気中とかじゃないよね?}

意地悪な質問。
そんな事、椿がする訳がないのに。

⏰:09/01/19 00:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#575 [向日葵]
椿は半ば意地になる。

「してませんっ」

予想通りの返事に満足したのか、要はクスクス笑っている。
椿はそんな意地悪な質問をする要すら恋しく思う。

そういえば、なんだか元気そうだ。

「……要さまこそ、今はお時間大丈夫なんですか?」

{ああ。ちょっと仕事が一段落したからね。それはそうと、気にならない?}

「何がですか?」

{この二日間、僕が連絡しなかった訳}

⏰:09/01/19 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#576 [向日葵]
「え?お忙しかったから……では……?」

少し間をおいて、また要がクスクス笑っているのが聞こえた。
どうして笑われているのか、椿には分からない。

「要さま?」

{なるほど。僕をちゃんと信じてくれてるんだね}

「は……はあ……?」

{浮気してるんじゃないかとか心配じゃないの?}

またその話かと、椿は少し眉を寄せる。

「魅力的な方がいるなら……私は……」

拗ね気味に言ってみる。

⏰:09/01/19 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#577 [向日葵]
しかしそんな事を言われて困ったのは要の方だった。

{いない!いないから、婚約解消とか言わないでよねっ!}

あまりの焦りっぷりに、今度は椿が笑い出す。

しばらくして、要はため息をついた。

{本当……僕は君が大好きみたいだよ}

そんな事を言われてしまっては、胸が苦しくなる。
苦しくなるせいで、心にしまっておかなければならない椿のわがままな気持ちが、言葉となって出てしまう。

「……会いたい」

⏰:09/01/19 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#578 [向日葵]
自分が何を言ったか認識するまで、椿はぼんやりしていた。

{……椿?}

そして要の呼びかけにハッとして、ようやく自分が何を言ったか分かってしまえば、混乱してしまった。

「あ、いえ、あのっ、何もないですっ。か、要さまもお体にお気をつけてっ。では……っ!」

要の返事も待たずに、椿は電話を切ってしまった。
携帯を両手で握りしめ、額にあてる。

何を言ってるんだ……。
叶いもしない願いを言って、要を困らせてどうするつもりだ。

椿は自分が恥ずかしくなった。

⏰:09/01/19 01:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#579 [向日葵]
要がすごい人で、忙しくて大変な事は誰よりも知っているのに。
あんな、馬鹿な事を言ってしまうなんて。

きっと、要はあきれている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

要は瞬きを繰り返していた。

あの椿が……会いたいと言った……。
言ってくれた……。

今、要がどれほど面白い顔をしてるか分からないのだろうなと、書類整理をしている大久保は要を見ながら笑いそうになっていた。

「要さま、何かありましたか?」

笑いをこらえる為に、声をかける。

⏰:09/01/19 01:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#580 [向日葵]
「椿が……会いたいって……言うんだ」

「それはそれは……。会わねばなりませんねぇ……」

かと言って、この多忙スケジュールだ。
要が動ける訳がない。

「そうだね」

しかしニヤリと笑った要は、どこか余裕そうだった。

―――――――――…………

時が経つのは早いもので、あっという間にクリスマスイブになった。
天気予報はホワイトクリスマスになるだろうとロマンチックなクリスマスである事を告げていた。

⏰:09/01/19 01:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#581 [向日葵]
しかしそんな事とはうらはらに、椿はクリスマス前より気分が落ち込んでいた。

何故なら最近要と連絡がとれていないからだから。
しかし抜かりがない彼は椿が気にしないようにと「しばらく忙しいから連絡出来ない」と一報いれてきた。

いれてくれたが、椿は逆にそれを気にしていた。

前に子供っぽいわがままを言ってしまったから、要がうんざりしているんではないかと。

要の気持ちはちゃんと分かっているから、婚約解消なんて大袈裟な事はしないだろうけど、もしかしたら少しだけ気持ちが離れてしまったかもと思ってしまう。

⏰:09/01/19 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#582 [向日葵]
「お嬢様」

ノックと共に、メイドの佐々木が椿に呼び掛けた。
ハッとして、椿はすぐに返事を返した。

「待ち合わせの時間になります。早くお車にお乗りくださいませ」

壁にある時計を見れば、美嘉たちと待ち合わせる時間が迫っていた。
慌ててコートを羽織り、部屋を出ていく。
出て行こうとして、見送りをと後ろについてきている佐々木を振り返る。

「私、いつもと変わりませんか?」

「はい。大丈夫ですよ」

⏰:09/01/29 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#583 [向日葵]
なら良かった。
顔に出てしまえば二人が心配してしまう。

ここ数週間、元気がない自分を励まそうとしてくれてたのは知っているから、椿はこれ以上迷惑はかけられないと、佐々木にわざわざ訊ねたのだ。

次に会うとき、要はどんな顔をして自分と会ってくれるのか。
椿は楽しみでもあり、怖くもあった。

――――――――…………

「さすがクリスマス……。どこもかしこも混みすぎねー」

美嘉は入ったデパートの中を見て言った。
友達、親子、恋人、夫婦、家族。様々な年齢層の人たちがごった返している。

⏰:09/01/29 02:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#584 [向日葵]
「他に行くとこなんかいっぱいあるだろうに……」

早くも美嘉の心は荒みつつあった。

「で、でも、やっぱり街が華やかなのは、何て言うか、テンションが上がるよね!」

急いで越がフォローに入る。
外は段々と曇ってきて、天気予報通りホワイトクリスマスになりそうだった。
そのせいか、今年のクリスマスは、例年よりも皆浮き足立ってる。

「まったくたまったもんじゃないわねっ!」

⏰:09/01/30 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#585 [向日葵]
とりあえず買い物をしに向かう。

雑貨屋さんなどはやっぱり人が多くて、選びたくてもゆっくり選ぶ事が出来ない。

要はどんな物が好きだろう……。

ふとそんな事を思えば、要の事が頭から離れたくなくなった。

我が儘を言って、きっとあきられた。
それがショックで仕方がない。

それでも……。

写真たてを何気に持っていた椿の手に、滴がぽたりと落ちる。

我が儘を言ってしまう程、会いたい。
溢れ出す気持ちが、コントロールする事が出来ない。

⏰:09/01/30 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#586 [向日葵]
あきれられてももう何でもいい。
何か、要と繋がる為にしたい。

そう思った椿は、メールをしようと携帯を開いた。
と、同時に、携帯が鳴り出す。
驚いた椿は思わず手から携帯を落としそうになってしまった。

ちゃんと持って、安堵のため息を吐いてからディスプレイを見て、椿は息が詰まりそうだった。

「も……っ、もしもし」

{椿、今君どこにいるの?}

要だった。

いても立ってもいられず、美嘉たちに慌てて事情を言った椿は、美嘉たちの返事もそこそこに走り出す。

⏰:09/01/30 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#587 [向日葵]
白い白い、綿のような雪が舞いはじめていた。
いつも以上に息は白く、寒い空気が喉を刺激する。
咳き込みそうになるのもお構いなしに、椿は走る。

「今、駅前のデパートで、今から、帰ります……っ」

{急がなくても、僕も移動中だよ。だから椿、無理して走ったら体に触る……}

「いいんです……っ!」

息を弾ませて喋る椿に、受話器の向こうで要はハッとした。

「体なんて、気にしてる場合じゃないのです……っ」

そんな椿をいとおしく思い、要はそっと笑う。

⏰:09/01/30 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#588 [向日葵]
{分かった……。僕も出来るだけ早く行くよ}

そう言って、電話を切った。

椿は自分の足を出来るだけ早く動かす。

早く、早くと……。

―――――――――…………

自分の家に帰ってきた椿は、門の鉄格子を握って息を整える。

鉄格子は冷たい筈だが、最早そんな感覚すらないぐらい椿の手の方が冷たくなっていた。

心臓がうるさい。
走ったせいでもあるが、それ以上に会えると言う喜びが大きい。

ちゃんとじっとしていないと、周りから怪しまれるのに、そわそわして、そこらを行ったり来たりしてしまう。

⏰:09/01/30 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#589 [向日葵]
椿は要に会った時の事を考える。

まずは、おかえりなさいと言おう。
それから寒いから家に入ってもらって、ゆっくりと話をしようー
もしかしたら要宅でやるパーティーに要も行けるかもしれない。
そしたらもっといっぱい一緒にいれるかもしれない。

と、携帯が鳴った。

「も、もしもし椿です」

{分かってるよ}

笑ってる彼の声が近くに感じる。
もうすぐ会えると分かってるせいだろうか。

「今、どの……」

「どのあたりですか」と訊ねようとした時、椿は何かに包まれた。

「君のそばだよ」

⏰:09/01/30 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#590 [向日葵]
右から受話器ごしの要の声。
そして左からは……。

後ろから抱き締められてるから、腕だけしか分からない。
それでも、ちゃんとここにいると実感できるが、夢のようだとも感じる。

思わず携帯を落としてしまう。

「要……さま……」

ゆっくりと振り返れば、大好きな人がそこにいて、柔らかく微笑んでいた。

「ただいま。寒いね今日は」

少しだけしか、会っていなかったかのような会話。
だからか余計に苦しくて、椿は要に抱きつく。

⏰:09/01/30 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#591 [向日葵]
さっき考えてた事なんて、まったく意味がなかった。

ただ彼を感じたくて、無我夢中で彼の胸に頬を寄せ、腕にありったけの力を込める。

「嬉しいな。こんな歓迎の仕方をされるだなんて」

椿は何も言わない。

「椿、顔をよく見せてよ」

椿は首を横に振った。
要はおかしそうに笑った。

「泣いてるのが恥ずかしい?」

言われて、彼女の肩がピクリと反応する。
要は椿の頬に手を触れて、上を向かす。

⏰:09/01/30 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#592 [向日葵]
上を向いた椿の瞳と頬は濡れ、顔は寒さと泣いてる為によるもので淡く赤くなっていた。

要が目を細めて笑みを深くすると、椿の目から更に涙が流れた。
それは止まる事を知らない。
瞬きをする度、彼女の目から、またいくつも滴が流れる。
要はそれを指で拭う。

「かな……め……さま……」

「会いたがってくれて嬉しい。僕も、会いたかったから」

その言葉に、寄せていた眉を少し緩めた椿の表情は、彼が意外な事を言ったとでも言うようだった。

「あきれて……ないのですか……?」

「あきれる?どうして」

⏰:09/01/30 01:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#593 [向日葵]
>>589

×ゆっくり話をしようー
○ゆっくり話をしよう。

⏰:09/01/30 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#594 [向日葵]
「あ……あんな、わがままを言ってしまったから……」

「わがまま?」

要はまだ分からないのか眉を寄せる。
椿は恥ずかしくて、ほんの少しだけ要から距離をおく。

「あ……会いたいって……言ってしまったこと……」

あまりに恥ずかしくて、椿は顔を両手で隠した。
一方、要はなんだか信じられない気持ちで椿を見つめていた。

椿がそこまで自分を想ってくれているのが、どこか夢のようだからだ。
それでも、すぐにそんな彼女にいとおしさを感じて、柔らかく微笑む。

⏰:09/02/05 01:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#595 [向日葵]
「そんな可愛いわがままなら、もっと言ってよ」

椿は少しだけ顔をあげる。

「なんでも言ってよ。誰にも言えない君の本音や弱音は、僕が全部受け止めたいんだ」

離れて分かった事が、椿も要もたくさんあった。
離れなきゃわからないなんて、まだまだ未熟かもしれない。
だからこそ、誓わなきゃいけない事がある。お互い、共に成長していく為に。

「君が僕を支えてくれて、そばにいてくれるなら、僕も支えて君を守るよ。何もかもから」

「要……さま……」

椿は目を見開く。

⏰:09/02/05 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#596 [向日葵]
「それにね、嬉しいんだ。椿がそうやって僕を想ってくれる事が。少なくとも、僕だけがって訳じゃないってことでしょ?」

また椿の顔が一段と赤くなる。
要はうつむこうとした椿の顔を包んで、上を向かす。

「会いたいって言えたなら、言えるよね?」

「え……?」

「僕が好きって」

「え……ええっ!?」

すごく驚いた椿の顔を初めて見た要は、おかしそうに笑う。
そんな要をよそに、いきなり「告白してみろ」と言われた椿は、ただうろたえるばかり。

⏰:09/02/05 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#597 [向日葵]
後ずさろうとする椿を逃がさないように、要は椿の背中に腕をまわす。
幸いこんなにも寒いし、クリスマスというイベントのおかげもあって、人通りがないのが救いだ。

てなければ椿は今の状態ですでにうろたえていただろう。

「ほら、早く」

真っ赤な椿に、要は意地悪な顔つきで笑う。

「は……はい……っ!」

胸の前でギュッと手を握り合わせて、少しの緊張に小刻みに震える。
深呼吸を何度も繰り返して、目をギュッと瞑る。

「……お、お慕い、して……います……」

⏰:09/02/05 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#598 [向日葵]
しばらくの間の後、要が椿の方に頭を置いた。
ギュッと瞑っていた目をそろりと片目ずつ開けた椿は、要を見る。

「要さま……」

名前を呼べば、要は頭を小刻みに震えさせた。
そして段々と、クククと笑い出す。

「お慕い……。そうだよね、丁寧な物言いする君が、好きだとか愛してるだなんて言わないんだよね……」

何がツボだったかはわからないが、要は大声で笑うのを抑えるかのように喉の奥でずっと笑う。
椿は精一杯の気持ちを精一杯伝えて笑われているのに、まったく嫌な気分はしなかった。

⏰:09/02/05 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#599 [向日葵]
穏やかに要をみつめる。
そして改めて思う。

この人を好きになって、本当に良かった。

椿の視線に気づき、ひとしきり笑い終えた要は微笑む。
また椿の顔を手のひらで包んで、顔を近づければ、何をされるか分かった椿は視線を泳がせながら戸惑う。

「人はいないし、大丈夫だよ?」

「は……はい……」

要の行動を制御するのはおそらく無理なのだろうと思った椿は素直に返事する。

うつむきがちな椿は、また目をギュッと瞑る。
顔が近づく気配を感じれば、体が緊張でまた固まる。

⏰:09/02/05 01:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#600 [向日葵]
久しぶりの優しいキスは、ホワイトクリスマスをよりロマンチックにするものだった。

―――――――――…………

「そういえば、もういいの?」

椿がいなくなってしばらくして、越と美嘉は一緒に帰っていた。

「何が?」

越の問いに、美嘉は首を傾げる。

「あんなに前は反対してたじゃない。椿と婚約者さんのこと」

美嘉は肩をすくめ、ため息を吐く。
息はとても白い。
息と同じくらい白い雪が、地面に積もって、先程からさくさくと音を奏でる。

⏰:09/02/05 01:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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