ギンリョウソウ
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#220 [向日葵]
それに気づいた要は、唇を離す。
上手く息が出来ない椿は、息を切らせながら、涙を流した。
その涙に我に返ったようにハッとした要は、優しく椿を包む。
「ゴメン……ゴメン椿……」
謝られれば、切なくなった椿は更に涙を静かに流した。
「何……してるの?」
体を起こして、ドアの方を見れば、美嘉が目を見開いて戸口に立っていた。
「アンタ……椿に何してるの……?何してるのよぉっ!!」
美嘉は駆け寄って要を力一杯突き飛ばした。
:08/08/12 01:48
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:☆☆☆
#221 [向日葵]
:08/08/12 01:56
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#222 [向日葵]
:08/08/12 01:58
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#223 [向日葵]
要がベッドから落ち、転んでいる隙に、美嘉は椿に駆け寄り抱き締める。
「虐めるのに飽きたら今度は体の要求!?アンタ最低だよっ!」
要はしりもちついたまま口を閉ざしている。
うつむいてるのと、ベッドと床の高さがあるのとで、その表情は分からない。
「み、美嘉ちゃ……違うんです……っ。要さまは何も……」
「椿、庇う必要なんてないのっ!さっき聞いたけど、聖史兄ちゃんも婚約者に立候補してるんでしょ!?なら、コイツなんか、候補から外せばいいんだっ!」
口が止まらない美嘉はよほど頭にきているらしい。
椿の言葉を遮り、要を責める。
:08/08/15 00:59
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#224 [向日葵]
「確かに……」
要はゆらりと立ち上がる。
その時、椿は見た。
あの怪我した手から、また血が滴り落ちているのを。
要に近づこうとしたが、抱きかかえている美嘉の腕がそれを止めた。
「その方が、椿は幸せかもね……」
前髪の隙間から、寂しげな要の目が見える。
今にも、泣き出してしまいそうなくらい、悲しそうに椿を見つめ、自嘲する。
「要さま……っ」
「今日は、帰るよ……椿」
:08/08/15 01:03
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#225 [向日葵]
よろよろと、要は椿の部屋を出て行った。
ドアの閉まる音が、広い部屋に響き渡る。
そしてその音が、更に椿を切なくさせ、涙がまた流れ始めた。
「椿、大丈夫……?恐かったね……」
優しく抱き締め、頭を撫でる美嘉。
恐かった訳じゃない。
いや、確かに恐かったが、「止めて」と言えば、要は簡単に止めてくれた。
椿の事を、上辺だけで、何かの作戦で「好き」と言ったならば、強引にでも求められていただろう。
それなのに……。
「ゴメン……」
:08/08/15 01:08
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#226 [向日葵]
自分がしてしまった事を、ひどく後悔したように謝った。
椿の何を聞いたかは知らない。
でも、直接本人から聞きたいと言った要。
それは椿の感じている事全てを聞きたかったのだろう。
他者の思いではなく、他でもない椿の思い。
そうする事で、要は椿の事を少しでも分かろうとしたのかも知れない。
[好きなのに……]
なんて……なんて苦しそうな告白だっただろう。
なんて……胸が締めつけられるキスだっただろう。
初めて経験する、胸の痛みに戸惑いながら、要の悲しそうな顔が、焼きついて離れない。
:08/08/15 01:13
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#227 [向日葵]
だから余計に涙が出てくる。
要さま……っ。
椿は心の中で、強く要を呼んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「傷の手当てはしなくていいのかい?」
帰ろうとしていた要を、聖史が呼び止める。
「君程、柔じゃないんだ。こんな傷、水で洗い流せばすぐに治る」
「ガラスは厄介だよ。ちゃんと医者に見てもらった方がいい」
聖史はにこにこ笑う。
何故彼がここまで上機嫌か、要は薄々気づいていた。
:08/08/15 01:18
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#228 [向日葵]
「予定通り、事が進んで満足そうだね」
「そうでもないよ。君に理性が少しでもあった事が惜しい。あのまま椿を襲い、それを美嘉が見ていたら更に良かったのに」
「……君は、本当に椿が好きなのか……?好きな女の子に、そんな事されるよう仕向けるなんて、神経疑うね」
傷さえなければ、聖史をしたたか殴ってやりたいとさえ思う。
柔じゃないと言ったが、先程からズキズキ痛むし、熱も持ってきた。
「要くんが言ったんだよ?フェアで戦わないと。傷ついた椿を僕が慰めれば椿の心は僕に傾く」
それでもかんなやり方は許せない。
そして聖史の作戦にまんまとひっかかってしまった自分がもっと許せない。
:08/08/15 01:24
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#229 [向日葵]
:08/08/15 01:26
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#230 [向日葵]
要は唇をかむ。
椿を傷つけるよう仕向けた聖史はムカつく。
でも実際傷つけてしまったのは要なのだ。
人の事、どうこう言える立場じゃない。
「帰る前に傷の手当てしようか?」
「結構だ」
靴を高らかに鳴らしながら、足早に要は椿宅を出ていった。
その背中を見送りって、しばらくすると、美嘉がこちらへ歩いてきた。
「あれ?美嘉も帰るのかい?」
「“も”って事は、アイツ本当に帰ったんだ……」
:08/08/15 01:30
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#231 [向日葵]
怒っているが、どこか複雑な表情の美嘉を聖史が覗き込む。
「どうしたの?」
「椿が無理をしてものを言うのを聖史兄ちゃんは知ってるよね」
聖史は頷く。
昔から手がかからない、聞き分けのいい子だったと思い出す。
「椿がね、ずっと繰り返すの。要さまは悪くない、要さまを責めないで下さいって、泣きながら……」
長い付き合いの美嘉は分かる。
それは、偽って庇う言葉ではなくて、心から叫んでいるものだった。
だから、要に対する怒りが、半分減ってしまった美嘉は、複雑だった。
:08/08/15 01:35
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#232 [向日葵]
悪いのは要なのに、責めるなと椿が、あの椿がそれも心から言ってしまっては、怒るにも怒れないではないか……。
「美嘉は、アイツの最低最悪な部分しか見た事ないからさ、まだ許す事は出来ないし、応援も出来ない。でも、美嘉が知らないアイツを椿が見てるなら、もしかしたら椿の為に色々してくれたんじゃないかと思うと、少し、許せる気もする……」
「あっ!」と思い出したように声を上げて、聖史に向き直る。
「でもでも、美嘉は聖史兄ちゃん派だからっ!聖史兄ちゃんファイトだよっ!」
拳を作り、エールを送る美嘉に笑いかけ、聖史は頭を撫でた。
:08/08/15 01:40
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#233 [向日葵]
「ありがとう。美嘉の期待に答えれるよう、僕も頑張るよ」
美嘉は満面の笑みを浮かべ、帰って行こうとして、また聖史の方へ振り返る。
「そうだ。あのね、椿今1人になりたいみたいだから、そっとしといてあげてね」
「うん。分かったよ」
そして美嘉はまた歩き出して、帰って行った。
「さてと……」
そう行って聖史は歩き出した。
向かったのは、椿の部屋だ。
ドアの前に立ち、そっとドアに触れる。
:08/08/15 01:45
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#234 [向日葵]
「椿……」
優しく名を呼ぶ。
返事はない。
もう1度呼ぶも、また返事はなかった。
しばらく考えて、ドアノブに触れる。
開けようとした時、椿のか細い声が聞こえた。
「開けないで下さい……」
「……どうして?椿」
「今は……少し、1人になりたくて……」
しかし聖史はドアを開ける。
ベッドで膝を抱くようにしながらうつむいている椿の元まで行って、抱き締める。
:08/08/15 01:49
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#235 [向日葵]
「椿は……何も悪くない……」
椿は何も言わなかった。
それでも聖史は黙って抱き締め、あやすように頭を撫でた。
しばらくそうしていると、椿がやんわりとだが、聖史の腕を拒否した。
うつむいている彼女の表情は、やっばり分からない。
しかし聖史は、本当に今は1人になりたいんだと悟ると、最後に椿の頭をひと撫でし、部屋を出て行った。
椿の不安はただ1つ。
要がもう姿を現さないのではないかと言う事だった。
[その方が……椿は幸せかもね]
:08/08/15 01:55
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#236 [向日葵]
もう、自分は用なしだと言っているような言葉。
勝つと言ったのに……諦めてしまったのではないだろうか。
それが嫌だと思ってしまうのはどうしてだろう。
心が無くてもいい。
どうでもいいと言いながら、椿を助けて、叱ってくれる要がいてくれるなら、それだけでいい。
誰も癒す事が出来ない寂しさを、癒してくれた要にいてほしい。
それは、甘えなのだろうか……。
「要さま……っ」
お願いだから諦めないでと、椿は願う。
あの嵐の日、ここで見た空より、今日の空は暗くて、寂しげだった。
:08/08/15 02:02
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#237 [向日葵]
――――――――…………
リダイヤルで、何度かけても要は出なかった。
メールで前の事は気にしなくていいと言っても、返信は無かった。
メイドの佐々木に要の状況を訊けば、また服作りに忙しいらしいと聞いた。
邪魔はしてはいけないと思いながらも、1日1回はかけてしまう。
まるで前の要のようだ。
繋がらなければ、なんて役に立たない文明の利器だろうか……。
「つーばきっ」
窓から外を眺めていれば、越が後ろから覗き込んできた。
:08/08/15 02:07
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#238 [向日葵]
:08/08/15 02:19
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:☆☆☆
#239 [向日葵]
ハッとして、携帯を慌てて閉じ、越に向き直る。
「ハ、ハイ。なんでしょう?」
「なんかぼんやりしてるから、どうしたのかなぁって思って」
「……ごめんなさい、今日はいい天気だなと思ってただけですから」
と椿は微笑む。
そこで椿は「あれ?」と思った。
笑顔が、上手く作れていない気がする。
ちらりと窓に視線を向けて、自分の顔を確かめてみる。
窓に映る自分は、いつも通り、ちゃんと笑えている。
:08/08/18 00:56
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#240 [向日葵]
…………なのに、どうして……?
これは、本当に自分の顔?
窓に映る完璧な微笑みをたたえている自分の顔が、気持ち悪く感じる。
私の……私の本当の顔は、表情は、……気持ちは……どれ……?
視界が揺らぐ。
まるで蜃気楼のように。
そう思うと、冷たい床が近づいた。
視界はすでに闇の包まれた。
そして意識すら遠退く。
「きゃあっ!椿っ!」
越が悲鳴を上げる。
「大丈夫だ」と言いたいのに、口が思うように動いてくれない。
:08/08/18 01:04
:SO906i
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