ギンリョウソウ
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#451 [向日葵]
「……どうか、されたんですか?」
もしかしたら聞けるかもしれない。
期待をこめて、椿は訊いてみる。
しかし要は笑みを浮かべる。
「ちょっとね」
ただそれだけ。
言うと要は下へと向かう。
1人残された椿は、自分には話してくれない要に悲しくなり、肩を落とす。
「美嘉ちゃんには……おっしゃってたのに……」
そう呟いてから、また呼び鈴が鳴った。
:08/09/17 00:49
:SO906i
:☆☆☆
#452 [向日葵]
ハッとした椿は小さく首を横に振って、気を取り直す。
下へ向かい、玄関へと向かう。
「ハイ……。あ……っ!」
「こんにちわ。椿さま」
そこにいたのは、要の従者である大久保だった。
いつもの優しげな笑みを浮かべ、椿に深々お辞儀をする。
「どうなさったんですか?」
「要さまに忘れ物を届けに参りました」
「そうですか……。あ、どうぞ中へ」
「失礼します」と言った大久保は中へと入っていく。
:08/09/17 00:54
:SO906i
:☆☆☆
#453 [向日葵]
「大久保さん、忘れ物とは……?」
「お仕事用の携帯電話と、あとは……ちょっとしたアドバイスを」
意味深に微笑む。
友のように接する事を許されてる彼は、要にとって本当に良き理解者なのだろう。
椿はハッと思い出す。
「大久保さん、この間はありがとうございました」
「この間……?……あぁ、いえ。解決なさいましたか?」
椿は少し顔を赤らめて柔らかく微笑むと、小さく頷いた。
大久保もにっこり笑う。
:08/09/17 00:57
:SO906i
:☆☆☆
#454 [向日葵]
そして思い出したようにクスクス笑い出す。
「だからですね……」
「え?」
「解決なさったのは、椿さまが悩んでいらっしゃった夜ですよね?」
「その通りですが、それが……何か……?」
大久保はまたクスクス笑い出す。
椿はそのそばで首を傾ける。
「すいません。要さまがあまりに分かりやすい態度だったもので」
「要さま?」
「帰って来た要さまは、それは穏やかな表情をしておりまして、椿さまの事をお訊きしましたら、嬉しそうに微笑んでご婚約の事をお話して下さいました」
:08/09/17 01:03
:SO906i
:☆☆☆
#455 [向日葵]
「あ……」
椿はまた赤くなりうつむく。
椿の手にある指輪の小さな輝きに目を細めながら、大久保は言う。
「要さまを、お願い致しします。椿さま」
その言葉に、責任感を感じた椿は神妙に頷く。
「何をお願いなんだ?」
要が姿を見せる。
大久保は楽しそうに笑う。
「内緒です。僕と椿さまの。ね?」
同意を求められ、慌てて頷く椿に、要は眉を寄せて不機嫌になる。
:08/09/17 01:07
:SO906i
:☆☆☆
#456 [向日葵]
ツカツカ歩いていくと、椿の腕を引っ張り、自分の腕で包む。
その姿に大久保はまた笑う。
「誰も取りはしませんよ要さま」
「取りはしなくてもお気に入りするだろう」
「大事な婚約者さまをそんな玩具扱いされてはなりませんよ」
一方的に要だけが火花を散らす。
しばらくそうして、3人はリビングへと向かった。
お茶を4人で飲んだ後、ふぅと満足のため息をついた美嘉は椿に言った。
「今度は2人で散歩に行ってきたら?後片付けは美嘉がやっとくからさ」
:08/09/19 02:04
:SO906i
:☆☆☆
#457 [向日葵]
「でも……」
「そうか、椿、行こう」
立ち上がった要は椿の腕を楽しそうに引く。
立ち上がるしかない椿は手を繋がれて要に導かれるままに進んでいく。
「あ、あの、要さま……っ、美嘉ちゃんに片付けを押し付けるのはっ」
「本人がいいって言ってるんだ。今は婚約者との時間を楽しみたい」
笑顔でそう言われてはもう何も言えない。
繋いでる手から胸の内へとキュウッとした苦しさが起こる。
:08/09/19 02:10
:SO906i
:☆☆☆
#458 [向日葵]
美嘉と行った湖とは逆の、林の中へと進んで行った。
歩を進める度、葉がパキパキと割れる。
上を見上げればぽっかり空いた木と木の間から青空が見える。
「いい所だよね、ここ。僕は気に入ったよ」
「私も好きです。一番四季を感じれる場所ですから……」
「そう……。ところで、さっき大久保と何を話してたの?」
椿は瞬きを繰り返す。
要が真っ直ぐに見つめてくる。
要をよろしくと言われ、自分は迷いも何もなく頷いた。
今思えば、躊躇いもなくそうした自分が気恥ずかしかった。
:08/09/19 02:15
:SO906i
:☆☆☆
#459 [向日葵]
椿は唇を少し噛んで赤くなりながらうつむく。
そんな椿に痺れを切らした要は繋いでる手をぐいっと引っ張って顔を近づける。
「言えないの?僕に隠し事するんだ?君は」
明らかに苛立っている。
もしかして散歩に出たのはこうして問い詰める為だったのだろうか?
大久保や美嘉が止めないから要は問い詰め放題だ。
しかし椿は表情にこそ出さなかったがムッとした。
要だって人の事は言えない。
「か……要さまこそ……教えて下さいません……」
ギリギリ聞こえるくらいの小さな声で椿は反抗する。
:08/09/19 02:20
:SO906i
:☆☆☆
#460 [向日葵]
その言葉に要は怪訝な表情をする。
「僕は何も隠しちゃいないよ」
「……み、美嘉ちゃんと何か話してたじゃないですか……」
「あぁ……。あれ?…………。いいじゃないか。君には関係ない」
関係ない。
そう突き放されて、椿の胸の鋭い痛みが走る。
しかしおかしいと椿は思う。
椿が関係ないのなら何故椿は聞いちゃいけない?
やっぱり隠しているではないか。
そう思うから、更に反発心はつのるばかり。
:08/09/19 02:24
:SO906i
:☆☆☆
#461 [向日葵]
「なら……私と大久保さんの話も、要さまには関係がありません……」
要は眉間に寄せていたシワを更に深くし、目元を険しくさせる。
「なんだそれ……。僕は将来君の夫になるんだ!妻の事を全て知る権利があるっ!」
屁理屈にしか聞こえない。
これには椿もさすがに眉を寄せる。
「夫婦になるのでしたら、平等であるべきだと思います……っ」
「亭主関白と言う言葉が日本古来からあるのを知ってるだろ。それなら平等ではなく、妻は控えめであるべきだ」
:08/09/19 02:31
:SO906i
:☆☆☆
#462 [向日葵]
ますます気にいらなくて、椿は怒りながらも悲しそうな目をする。
「要さまは……なんで私と結婚するのですか……」
「え……?」
要は驚く。
椿は繋いでいる手をスルリと離すと、少しずつ後ずさる。
「要さまは私に我慢しなくていいといいました。なのに控えめでいろと……要さまがする事なす事何か気になっても我慢しろと、そういう妻になれとおっしゃるのですか……」
要は苦しげな目をすると、その目を瞑り、深呼吸をする。
「椿……僕はそういうつもりじゃない……。とりあえず冷静に……」
:08/09/19 02:35
:SO906i
:☆☆☆
#463 [向日葵]
「私はどうすればいいんですか……。我慢するなと言われたり我慢しろと言われたり……っ。要さまにとって私が何か、今は分かりません……」
その言葉に、要は表情を消す。
椿はハッとする。
言い過ぎだったと気づく。
「……分かった。勝手にしろ……」
要はそう言うと椿の横を通り過ぎて行った。
椿はどうしてか頭がくらくらする感覚に襲われる。
どうしてこうなるの……?
何を言ってるの私は……。
椿は自分を責める。
その場に座り込んで、長く、苦いため息を吐く。
:08/09/19 02:40
:SO906i
:☆☆☆
#464 [向日葵]
恥ずかしがってないで言えば良かった。
そうしたらこんな喧嘩にならずに済んだのに……。
椿は振り向く。
要の姿はもうない。
今帰るのは気まずいから、もう少し外にいようと椿は決める。
そういえばと思い出した事がある。
この道をもう少し進めば、確か公園がある。
そこで時間を潰せばいい。
椿は林を更に奥へ進んで行った。
――――――――…………
乱暴にドアが閉められる。
:08/09/19 02:43
:SO906i
:☆☆☆
#465 [向日葵]
それに気づいた大久保はリビングから出てくる。
そしてキョトンとした。
「随分お早いですね。それに椿さまは……」
「知らない。そこら辺歩いてるんじゃない?」
「そんな適当な……」
リビングのソファにドカリと座り、足を組んで目を瞑る。
苛立ちを早く抑えて、椿の元へ行ってやらないと。
じゃないと彼女はずっと自分を責めたままだ。
独占欲にかられるせいで彼女にひどい言葉を吐かさせてしまった。
[要さまにとって私が何か、分かりません……]
:08/09/19 02:48
:SO906i
:☆☆☆
#466 [向日葵]
>>456誤]お気に入りするだろ
正]お気に入りにするだろ
:08/09/19 02:50
:SO906i
:☆☆☆
#467 [向日葵]
:08/09/19 02:54
:SO906i
:☆☆☆
#468 [向日葵]
「要さま、あまり自分中心な物言いをしてはなりませんよ。椿さまが戸惑ってしまわれます」
「……っなら!椿と秘密なんて作るなっ!」
大久保は困った顔をすると、ため息をついた。
「喧嘩の原因はそれなのですね」
「…………」
「とは言え、私にも責任はあるようですので、要さまにその秘密をお教えします」
大久保は椿と話していた事を洗いざらい話す。
椿の返事を聞いた要は愛おしさでいっぱいになったが、同時に首を傾げた。
:08/09/21 01:53
:SO906i
:☆☆☆
#469 [向日葵]
「それを何故隠すんだ?」
「私が内緒と言ったのでそれを守って下さったのでは?」
それにしては様子がおかしかったような……。
考えていると外が騒がしいのに気づく。
見れば雨が降り始めていた。
空は暗い灰色になり、雨足は段々と強さが増す。
要は血の気がザッと引くのが分かった。
椿がまだ帰ってこないからだ。
要は立ち上がる。
大久保も立ち上がるが、要に制された。
「大久保は美嘉とここにいて。椿が帰ってきても僕を探しに来ないよう引き止めて」
:08/09/21 01:58
:SO906i
:☆☆☆
#470 [向日葵]
「かしこまりました」
「あれ要?椿はどこ?」
ひょいとリビングに顔を出しに来た美嘉が要に訊く。
余計な心配をかけたくないし、今は全てを説明してる暇がない。
「湖を少し眺めたいから1人にしてくれって言われたんだ。急いで迎えに行ってくる」
「えぇっ!?大丈夫なの椿……っ!」
まったくだ。
要は玄関へと駆ける。
―――――――――…………
ぽつりと鼻先に何かが当たったので、雨か?と疑問に感じる前に雨足が増してきた。
:08/09/21 02:03
:SO906i
:☆☆☆
#471 [向日葵]
公園についてブランコに乗っていた椿はそのまま頭を冷やすかのように雨を全身に受ける。
早く帰りたい。
そう思うのに足が進んでくれないのはどうしてだろう……。
:08/09/21 02:05
:SO906i
:☆☆☆
#472 [向日葵]
:08/09/21 02:06
:SO906i
:☆☆☆
#473 [向日葵]
[第11話]
椿はずっと思っていた。
実は不安だと言う事。
こんな自分を求めて、好きだとまで言ってくれた要。
が、しかし、自分はそんな彼に見合う人かが分からない。
自分は何も持っていない。
もっているとしたら、ただただ要が好きだと言う気持ちだけ。
それでも、触れられればどうしていいか分からず、彼が求める対応すら出来ない。
そんな何も出来ない自分が、彼に全てを預けてもいいのだろうか……。
いつかこんな自分を、彼はいらないと、捨ててしまわないだろうか……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さすがにこのままではいけないと思った椿は立ち上がり、元来た道を戻って行く。
:08/09/21 02:13
:SO906i
:☆☆☆
#474 [向日葵]
いや、戻って行ったつもりだったが、ここがどこなのかが分からない。
この場所の別荘は1番好きだが、来た事はあまりない。
前に来たのは5年程前だったか……。
他の別荘にだって行くし、椿の体、学校の事もあり、彼女は外へ出かける事が少ない。
この公園に来たのもほとんど手探り状態だったし、道しるべとしての印をつけるものも何も無かった。
なんとか帰れるだろうと思った自分が甘かった。
木だらけの林では、目印の物は、何1つとして無い。
それでも帰らねばと、椿は足を進める、
:08/09/21 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#475 [向日葵]
:08/09/21 02:19
:SO906i
:☆☆☆
#476 [向日葵]
携帯と思って開いて見るも圏外。
使い物にならない。
秋も終わりの冷たい雨は、椿の体温をどんどん奪っていく。
――――――――…………
「椿……」
さっきの場所へと戻って来た要は、その場に椿がいない事に落胆する。
だとすれば本当に湖に?
しかしここからでは湖は遠い。
なら林の中へ?
どちらにしろ動かなければならない事に変わりはない。
イチかバチかで、林の中へと進んで行く。
:08/09/21 02:24
:SO906i
:☆☆☆
#477 [向日葵]
林の中に道はない。
道なき道を進む足取りは迷いを含む。
椿はどちらへ向かっただろうか……。
ハッとして携帯を取り出す。
要のいる場所はちゃんと電波がある。
リダイヤルで椿の電話にかける。が、肝心の椿の方に電波がないらしく、アナウンスが流れる。
文明の利器はこういう時に役立つものじゃないのかと苛立つ。
雨足は霧雨から本格的な粒へと変わってくる。
さっきまで色づいて見えていた山は、灰色に見える。
地面から生えている草木に足を少しひっかけながらも要は進む。
:08/09/27 02:25
:SO906i
:☆☆☆
#478 [向日葵]
「椿ー!!」
叫んでみるも、エコーのように辺りに反響する自分の声と、雨の音しか聞こえない。
椿の返事らしきものは聞こえない。
遠くの方へ行ったのだろうか?
それともわざと返事をしない?
どちらにせよ、椿を見つけるのは難しいらしい。
――――――――…………
「ん……?」
振り向くが、自分が来た道しか目に入らない。
目をこらしても無駄に終わる。
椿は首を傾げる。
:08/09/27 02:29
:SO906i
:☆☆☆
#479 [向日葵]
今、要の声が聞こえた気がした。……空耳か。
しかしここはどこなのだろうと椿は意味もなく空を見上げる。
さっき要と来た時のようなホッとする青空は見えない。
広がるのは、濃い灰色だ。
視線を戻し、フゥとため息をつく。
ついた瞬間妙な機械音が鳴り響く。
周りが雨の音以外何もないからよく聞こえる。
驚いた椿はびくりとし、その音が自分のスカートのポケットから鳴っている事に気づいた。
「あ、電池が……」
鳴っていたのは携帯。
どうやら電池が切れたらしい。
これでは電波がたった時に連絡する術がない。
:08/09/27 02:35
:SO906i
:☆☆☆
#480 [向日葵]
急がなければと思いながら椿はブルッと震える。
寒いのだ。
両腕を抱くようにしてさする。
だが濡れてるので結局は同じだったりする。
キュッと唇を結び、また椿は歩き出す。
すると前方に何かが見えてきた。
濡れて邪魔な前髪を避けてよく見れば、美嘉ときた湖ではないか。
「で、出れた……っ」
湖のほとりまでやって来た椿は安堵感に包まれてその場にペタリと座り込む。
「良かったぁ……」
:08/09/27 02:40
:SO906i
:☆☆☆
#481 [向日葵]
雨に濡れる事なんて気にしない。
もう髪の毛から全身にかけてびしょ濡れなのだから。
ふと手に注目した椿は左手に光る指輪を見る。
婚約した証、将来を約束した証。
私はそれだけの価値がある?
気づけば指輪に軽く泥がついている。
指輪を外して、泥をはらう。
大事な大事な椿の形をした指輪。
そういえば、要は自分をギンリョウソウのようだと称していた。
あれはどういう意味なのだろう。
:08/09/29 00:46
:SO906i
:☆☆☆
#482 [向日葵]
ゴウッと風が吹く。
木々を揺らし、辺りを不気味な雰囲気にする。
恐くなりながら立ち上がった椿は、寒さを感じくしゃみをする。
その時だった。
「あぁ……っ!」
くしゃみをした時、手が滑って持っていた指輪を落としてしまった。
その後また強い風が吹く。
目を瞑り、それに耐えて辺りを見渡す。
…………指輪がない……。
椿は血の気が引くのを感じた。
不自然に息が荒くなり、膝をついて草をかきわける。
:08/09/29 00:54
:SO906i
:☆☆☆
#483 [向日葵]
しかしかきわけても、見えるは土のみ。
銀の輪は見当たらない。
椿は泣きそうになる。
もう1度落とした辺りを探す。
けれど指輪らしい感触も、姿形もない。
椿の焦りは更につのる。
ハッとして、目の前の湖を見る。
もしかして……落ちてしまった……?
そう考えるよりも、体が先に動いて、湖の中へと飛び込む。
冷たさを感じないくらいに冷たいが、今はそうも言ってられなかった。
何より今は指輪を見つけなければ。
:08/09/29 01:06
:SO906i
:☆☆☆
#484 [向日葵]
冷たさを感じないくらい冷たい。天気のせいで湖は波立っているし、見えたもんじゃない。
それでも手探りで探す。
もし見つからなかったら嫌われるかもしれない。
どうしてそんな大事な物を無くせるのかと。
今度こそ自分の前からいなくなってしまうのではないだろうか。
聖史がまだいた頃、何日も会ってくれなかった時の事を思い出す。
そしてやっと会えた日の事も思い出す。
どれだけ……嬉しかっただろうか……。
そう思えば、探す力が強まる。
:08/09/29 01:17
:SO906i
:☆☆☆
#485 [向日葵]
「もう少しあっちも……」
そう思い、足を進めた。
世界が急に、水の中になる。
突然の事に椿は驚き、体の空気を一気に吐き出してしまう。
深みにはまってしまったらしい。浅瀬とは違い足がつかない。
椿は焦って水面に手を伸ばす。
どうにか水面に出れても、服が重くて泳げない。
ゾクリとした。
自分はもしやこのまま……。
考えたくないから、なんとか浮き沈みしながらも息を吸い込む。
しかし限度がある。
酸素が足りない。
力も段々と出なくなってきた。
指輪も見つけれず、要にも謝れないままだ。
:08/09/29 01:22
:SO906i
:☆☆☆
#486 [向日葵]
全てを中途半端なままで、終わる。
要さま……。
「――――……きっ!」
水の中で目を開ける。
要さま?
そう思ってるうちに、自分の体に誰かの腕が巻きつくのが見え、そのままどこかに連れて行かれる。
しばらくすると、水面に顔が出た。
足りないと言わんばかりに息を吸い込み、急な酸素吸入は体に良くなかったらしく咳き込む。
「椿……っ」
そばにいるのは、要だった。
周りをゆっくり見れば、さっきまでいた浅瀬に戻っていた。
:08/09/29 01:26
:SO906i
:☆☆☆
#487 [向日葵]
「要さま……」
抱き締めたままの椿を、要は更にきつく抱き締めた。
力が出ないけれど、その腕に寄りかかり、安心する。
「良かった……早く見つけれて……」
苦しそうに言う要に、椿は心底申し訳ないと思った。
もしあのまま椿にもしもの事があったなら、1番苦しむのは要だっただろう。
「ってか、君は何をしてたんだ。危ないだろ、こんな天気にこんな場所で」
そこで椿はハッとして、要の腕から離れようとするが、要がそれを許さなかった。
:08/09/29 01:30
:SO906i
:☆☆☆
#488 [向日葵]
「なに、どうかした?」
椿の胸が不自然に高鳴る。
要に目を向ければ、真剣な顔で椿を見返してくる。
だから椿は言葉が出てこなかった。
嫌われるかもしれない。
そう思えば思うほど口も動かなくなってきて、小さくパクパクと動かす事しか出来ない。
「椿?」
要が名を呼ぶと、椿の目から涙が溢れる。
「本当に、どうしたの……?」
要は困り果て、椿を抱き締めるしか出来ない。
椿は彼の胸に顔を埋め、覚悟を決めて口を開く。
:08/10/05 00:10
:SO906i
:☆☆☆
#489 [向日葵]
「指輪……」
「指輪?」
「指輪……落とし……」
それを聞いて、要は椿をゆっくりと離してから手をじっと見る。
確かに、今朝まで椿の左手にあった銀色のものが無くなっている。
要は手を無表情で見つめる。
その顔が、怒りだと受け取った椿は、草の上に両手をつき、頭を下げる。
「ごめんなさいっ……!無くすつもりなんてなくって……、もしかしたら湖の中に落としてしまったかもって思ってさっき……っ。ごめんなさいっ!あんな大切なもの、無くしてしまって……ごめんなさい……っ」
:08/10/05 00:14
:SO906i
:☆☆☆
#490 [向日葵]
要は長いこと黙っていた。
その間、雨と風と、椿は椿自身の鼓動が聞こえた。
そして微かに、要のため息が聞こえた。
「それだけ、なんだね……」
「ごめんなさい」
「本当に腹が立つよ」
一際大きく、椿の胸が高鳴る。
草の上についてる手が震え出す。
「ごめ……なさ……」
謝罪の言葉を口にしようとすると、腕を引かれて要の方へ乗り出す形になった。
要を見れば、目に怒りがこもっていた。
:08/10/05 00:19
:SO906i
:☆☆☆
#491 [向日葵]
「僕がなんで怒ってるか分かる?」
「指輪を……無くしたから……」
「違う。君が僕をまだちゃんと理解してないからだ」
椿は分からなくて首を少し傾げる。
すると要の表情がほんの少し和らいだ。
彼の手が、冷えてしまった椿の頬を包む。
「僕が大事なのは指輪でもなんでもない。君なんだ。なのに君は、命を落としてしまったかもしれない事をしたんだ」
椿は目を見開く。
「こんな事、二度としないでくれ。僕はさっき、本当に心臓が止まってしまうほど焦ったんだからね」
:08/10/05 00:26
:SO906i
:☆☆☆
#492 [向日葵]
椿は再びポロポロと涙を流す。
要は頬を緩め、親指で彼女の涙を拭ってやる。
「要さま……私でいいんですか……?」
「え?」
「私は……母のようにもなれず、要さまからもらった指輪を無くしてしまうような者です。ですが要さまは、私に沢山いろんなものを下さいます。しかし私は要さまに何1つ返せるものがありません。そんな私で……本当にいいのですか……っ?」
要は最初驚いたように椿を見ていたが、やがて穏やかに微笑むと、椿の髪をかき上げるようにして髪の奥まで指を滑らせ、そのまま引き寄せる。
:08/10/05 00:32
:SO906i
:☆☆☆
#493 [向日葵]
「椿がそばに、ずっと笑ってそばにいて、僕を好きでいてくれるだけで充分だよ。他に必要なものなんて、何もないんだ……」
それだけ。ただそれだけでいい。
それを聞いて、椿は涙を更に流す。
要の胸元のシャツを握り締めて、しがみつくようにして泣いた。
要はそんな彼女を愛おしそうに抱き締め、なだめるように頭を撫でる。
それなら何もない私にも出来ると椿は思った。
そう思った瞬間、自分がどうしようもなく要が好きだとまた自覚したら、あまい感情が涙となって溢れてきた。
「そろそろ別荘に帰ろう。風邪をひいてしまうよ」
:08/10/05 00:38
:SO906i
:☆☆☆
#494 [向日葵]
「あ、はい……、いた……っ」
どうしたのかと要が椿を見れば、治りかけていた傷が開いたのか、椿の服の腕の部分にうっすらと血が滲んでいた。
それを見て、要は下唇を噛む。
自分のせいだ……。
椿をふわりと抱き上げ、出来るだけ急ぎ足で別荘へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ちょっと何事!?」
2人の姿を見るなり、美嘉は驚いた。
しかし事情を聞くよりも2人に拭くものと着替えをと、美嘉と大久保は戸惑いながらタオルを持ってきた。
:08/10/07 00:12
:SO906i
:☆☆☆
#495 [向日葵]
「私、お風呂用意してくるね」
「では私は暖炉を準備して参ります」
椿の別荘には薪で暖める古い暖炉があった。
その準備が整う間、しっかりと水気を取る。
手を使うのを少し難しそうにしている椿を見かねた要は代わりに椿の体を拭いてやる。
「椿、大丈夫?」
「あ、あの、自分で出来ます」
「たまには甘えていいんだよ。お風呂が出来たら君が先に入るといい。あがったら僕が腕の治療をしてあげるから」
こくりと頷いた椿は、ハッとして自分の手を見つめる。
:08/10/07 00:17
:SO906i
:☆☆☆
#496 [向日葵]
無くしてしまった。
要は怒らなかったし、嫌いにもならなかった。
むしろ椿が1番大切だとまで言ってくれた。
だけど椿は、初めて好きになった人からの贈り物で、やっと気持ちを重ねた時に貰ったものだから、大切に大切にしておきたかった。
要はああ言ってくれたけれど、椿の心は、あと少し晴れなかった。
その様子に気づいた要は、頭を拭いてやってるついでに椿の目線をグイッと自分の方へ向かせた。
「気にしなくてもいい。気持ちを込めて、また指輪を君に送るから。今は自分の体を心配してくれ」
:08/10/07 00:21
:SO906i
:☆☆☆
#497 [向日葵]
ふわりと椿の瞼にキスを落とす。
椿は恥ずかしそうに口をキュッと結ぶと、素直にゆっくりと頷いた。
「要さま、椿さま、どうぞお部屋へ」
椿を先に部屋に通した大久保は、要を振り返る。
「下手に隠し事をなさいますと、こういう事が起こってしまうと反省いたしましたか?」
大久保の目は真剣だった。
彼は要の友人のような存在。
それは要が決めた事だ。
だから大久保は、さっきまで何が起きていたかを大体予想し、要の心配をすると共に叱っている。
:08/10/07 00:27
:SO906i
:☆☆☆
#498 [向日葵]
もう少し、椿を大切にするようにと。
「……あぁ。もうこりごりだ……」
それを聞いて、大久保はにこりと笑い、要も部屋へと通した。
――――――――…………
その晩、やはりというか、椿が熱を出してしまった。
つきっきりで看病したいと、美嘉に部屋を交代してもらい、要は椿が寝ているベッドの近くに椅子を持ってきて座った。
顔がほのかに紅潮している。
さっき熱を計れば39度近かった。
暑くはないだろうか。
「…………さ……い」
:08/10/07 00:32
:SO906i
:☆☆☆
#499 [向日葵]
潤み、うつろに開いた目で椿は要を見つめる。
聞き取りにくいし、椿もしゃべるのがキツイだろうと要は少し椿の方へと乗り出す。
「ん?何?」
「ごめん……な……さい。せっかくの、旅行なのに……こんな……」
「椿のせいじゃないよ。大丈夫だから。言ったでしょ?今は自分の体を心配してって」
優しく髪を撫でれば、心地よいのか椿の目はとろんとする。
疲れてるだろうから眠たいのかもしれない。
要は椿の手を怪我に響かないように慎重に握る。
:08/10/07 00:37
:SO906i
:☆☆☆
#500 [向日葵]
「僕はずっとここにいるから、安心して眠るといいよ」
「で……も……」
もう少し乗り出して、椿の額にキスを落とす。
「いいから……」
安心させるように微笑めば、椿はゆっくりと目を瞑った。
しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきたので、要はそこでようやくホッとした。
この頃失態続きだな……。
椅子の背もたれにもたれながらため息をつく。
大久保に怒られてしまうのも無理はない。
:08/10/07 00:48
:SO906i
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