ギンリョウソウ
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#351 [向日葵]
美嘉は「んー」と唸るとニヤリと笑う。

「アイツが年相応に見えたからかな。なんか親近感湧いて」

そういえば、忘れがちになってしまうが、要は自分と同い年なのだ。
姿や容姿、身についた動作や考え方は、もう大人のように感じる。

「頭の堅い、ただのビジネス目的の最低な奴だと思ったよ。でも椿をどう思ってるか聞いたらさ、17歳の男子の意見だったんだ」

それが椿に言った事とほぼ一緒だと言うことは、椿は知らない。

「しっかし……」

美嘉は歯の隙間からシシシシと笑う。
椿は何がおかしいのかと言葉の続きを待つ。

⏰:08/08/31 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#352 [向日葵]
美嘉はニヤニヤと緩む口元を両手で隠す。

「椿、アイツ椿にメロメロみたいよね」

「な……」

要が自分にメロメロな筈はない。

そう思っても、昨日抱き締められた時の体温や力加減を思い出せばうつむいて顔を隠すので精一杯だった。

「椿も実は、アイツにメロメロ?」

明らかにからかっている美嘉の口調に、耳まで真っ赤にする。

「み、美嘉ちゃん……っ!」

⏰:08/08/31 02:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#353 [向日葵]
「いいじゃんメロメロならメロメロでー。楽しいねー。美嘉も早く彼氏が欲しいよ」

カラリと笑う彼女のその口調は、本当にそう思っているかは分からなかったけれど、もし彼女に好きな人が出来たと言うのなら、自分は何がなんでも協力しようと椿は決意した。

決意した途端、携帯が震える。
スカートのポケットから携帯を出せば、メールが2件届いていた。

椿は携帯を落としそうになるのを必死にこらえた。
2通のうち1通は聖史からだったのだ。

<今日も行くよ。君に会うまでずっと待ってる。だから逃げようなんて、思わないよね?>

⏰:08/08/31 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#354 [向日葵]
脅迫文ともとれる内容に、椿はさっきとは逆に顔を青くさせた。

逃げられない。
聖史の作った迷路から抜け出せるのだろうか……。

「椿?やっぱりここ寒い?」

大丈夫と告げようとして、顔を上げた時予鈴が鳴った。
立ち上がり、携帯をスカートのポケットにしまう。

そして美嘉と2人で教室に小走りで戻って行った。

――――――――…………

掃除をする前に、美嘉が越も連れて3人で出かけようと言った。

⏰:08/08/31 02:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#355 [向日葵]
少しは気が紛れる。

今日帰ったら何が起こるか分からない。
もしまたあんな事をされてしまったら、自分の精神状態がおかしくなってしまうのではないかと恐く思う。

ため息をついて胸の中を空にしても重い気分は一向に晴れはしない。

「ねえ、なんか高そうな車止まってない?」

「本当だ、外車?」

窓の外を眺める女の子達が口々に言う。

それを耳にしながら椿は自分のところの車だろうと思い、しばらく考えてから首を少し傾げた。

⏰:08/08/31 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#356 [向日葵]
まだ迎えの車が来るには早い。
なら誰の車だろう。

「赤ってやっぱ目立つねー」

椿の迎えの車は黒だ。

聖史かと考えるが、頭の隅では違うように感じる自分がいる。

もしかしてと女の子達と同じように窓の外を見れば、丁度その車から人が降りてくるとこだった。

「大久保さん……?」

両目が2.0の椿だが、遠くにいる人物をあと1歩確かめる事は出来ない。
しかしその姿は要の従者である大久保にそっくりだった。

大久保にそっくりな人物は後部座席のドアを開ける。
するとまた見た事がある人が。

⏰:08/08/31 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#357 [向日葵]
「あれ?アイツじゃん」

椿と同じく視力が良い美嘉が後ろからニョキリと顔を出して言う。
「美嘉ちゃんもそう思われますか?」

「スーツ着てるしねぇ。アイツ私服ないのかって感じだよね」

要と思われる人物はふと上を見上げる。
こちらに気づいたのかと一瞬ドキリとするが、すぐに顔を戻して校舎へ入ってくる。

「もしかして椿をデートに誘いに来たとか?」

「いえ、今日は何も予定はありませんし……」

「へー。じゃあ何だろうね」

⏰:08/09/01 01:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#358 [向日葵]
とりあえず掃除も終わったので、椿は教室に戻る。
放課後になれば越も少し元気を取り戻していていつもの彼女らしかった。

教室にまだいる他の友達に挨拶をして出ようとドアに手をかけようとした時、先にドアが開けられた。
反射的に手を引っ込めた椿は目の前にいる人物に驚く。

「か、要さま……っ!」

「ここが君の教室かぁ。質素だねー。ここら辺なんかひびが入っちゃってるじゃないか」

見知らぬ来客に、教室に残っている何人かのクラスメイトがこちらに視線を注ぐ。
それを背中でひしひしと感じている椿はただどうしようと思う。

⏰:08/09/01 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#359 [向日葵]
「椿、こちらは?」

要を初めて見る越が後ろの方から問いかける。

椿は恥ずかしくて黙っている。
しかし要はそんなのお構いなしに椿の頬に手を添えたと思うと、そのまま抱き寄せる。

「はじめまして。僕は椿のフィアンセです」

しばしの沈黙が流れた後、越が「あぁ、あの……」と言って納得してからすぐ他のクラスメイトが大声を出して驚いた。

「椿ちゃんフィアンセとかいたのー?」

「そんなの漫画とかの中だけだと思ってたよーっ!」

「やっぱり惹かれあったとか?」

「ちょっと待って……。あ!この人、ブランドのAKAの人じゃん!」

⏰:08/09/01 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#360 [向日葵]
するとまた教室は絶叫に包まれる。
少人数しかいないのに一体どこから声が出るんだろうと、椿は疑問に思う。

「あのブランド可愛いよねー!リーズナブルだし!」

「私もネックレス持ってるよー」

このままじゃ混乱を招かない、と言うかもう混乱気味だが、椿は要から離れて要を押す。

「なに椿?」

「と、とりあえず外へ出てくださいませっ!」

美嘉達が出てくる前にドアを閉め、要の手を引いて人気のない場所まで行く。
周りに人がいないか再度確かめ、ふうと一息つく椿に対し、要はどこか楽しそうだった。

⏰:08/09/01 02:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#361 [向日葵]
「女の子が騒ぐって面白いよね。しかも僕のブランドを知ってるなんて、いい子達ばかりだ」

「そ、それより要さま、どうしてここへ?」

「君の様子がおかしいと思ってね。電話より直接話した方がいいと思ったんだ」

微笑みを向けながらも、真剣な目で見つめるものだから、どこか気まずくなって椿はうつむく。

「ってか、メールで知らせたけど」

それに椿は驚き、また顔を上げた。

「見なかったの?まぁ学校だし、見にくいかなとは思ったけど」

⏰:08/09/01 02:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#362 [向日葵]
椿はそういえば2件メールがきていた事を思い出す。
携帯を開けば聖史の事を思い出しそうでずっとほったらかしにしていた。

そしてまた聖史の事を思い出せば、椿はうなだれていった。
その様子を見て、要は困った顔をする。

「えっと……来ない方が良かった?じゃあ今日は帰るよ」

「……っ!待ってくださいっ!!」

去って行こうとした要の腕に飛びつくように椿は要をひき止めた。
急な椿の行動に要は驚く。
そして椿も自分がした事に気づけばすぐにパッと離れた。

⏰:08/09/01 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#363 [向日葵]
恥ずかしくてそっぽを向く椿に、要は嬉しくて椿の頭を撫でる。

「珍しいね、ひき止めてくれるだなんて。そんなに会いたかったとか?」

「いえ、あの……っ」

「本当に……?」

髪の毛をよけて、要の手が頬に触れる。
触れられるだけで疼く甘い衝撃は要にだけしか起こらない現象だ。

しかしふとフラッシュバックのように昨日の出来事が目の中で見えれば、パシリと要の手をはたいていた。
動揺しながら恐怖に高鳴る胸を押さえて椿は少し後ずさる。

⏰:08/09/01 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#364 [向日葵]
「……どうかした?」

椿の態度に少し気分を害してそうな顔をする要に椿は焦る。

どうかしてる。
要と聖史が被るだなんて。
それによって要が傷つくだなんて、そんなのダメだ。

「か、要さまの手が、冷たくて……びっくりしたんです」

眉を寄せて、要は頬に自分の手をつけてみる。

「あ、本当だ。気づかなかった。でも君にはいいんじゃない?平均体温高いんだし」

笑ってくれた要はどうやら椿の嘘を信じたようだ。
少しホッとする。
あの出来事は絶対要に知られてはいけない。

⏰:08/09/01 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#365 [向日葵]
もうこれ以上、自分は誰も傷つけてはいけない……。

「あ、でさ、今日来たのは他でもないんだ。椿の様子だけじゃなくって、僕も用事があったんだ」

「あ、ハイ、なんでしょう?」

「ここで言う訳にはいかないからな。とりあえず家に来てくれる?」

要は少し歩き出してから振り向く。
椿はどうしたのかと首を傾げる。

「手くらいは、繋いでも平気?」

また離されるのが嫌なのか、わざわざ訊いてくる。
それも、遠慮がちに笑って。
そんな風に、少しずつ心の中を見せてくれるから、椿は要から目が離せなくなる。

⏰:08/09/02 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#366 [向日葵]
返事代わりに椿はおずおずと手に触れる。
控えめに手を握れば、要が代わりにギュッと握り返してくる。
自分より大きな掌や、長い指に、椿はドキドキした。

要の冷たい手が、心地よく感じる程、体温が上昇しているのにも気づく。

「椿が過ごしている学校の中を1度見て見たかったんだ」

少し顔を上げれば、まるで自分の母校に帰って来たかのように要は辺りを見渡していた。

「で、でも、要さまにはやっぱり質素に見えてしまうんでは……」

「確かにね。でも、アットホームな感じでいいじゃないか」

⏰:08/09/02 01:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#367 [向日葵]
温かい笑顔にホッとする。

要にはそうやって笑っていて欲しい。

椿は心からそう思った。

――――――――…………

「椿さまは何をお飲みになりますか?」

要宅に着いて、部屋に案内されると大久保が訊いてきた。

「仕入れたばかりの紅茶の葉があるだろう。それを出せ」

「それは要さまが飲みたいものでしょう?椿さまのお好みを訊きませんと」

まるで友人のように接する2人に、自然と笑みが溢れる。

⏰:08/09/02 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#368 [向日葵]
まるで自分とメイドの佐々木のようだと思う。
彼女は椿にとって母親のようでもあり姉のようでもある。

「私はじゃあキャンブリックティーをお願いします」

「かしこまりました」

大久保はお茶を淹れに部屋を出ていった。
そして改めて要の部屋の中を見れば、色々な資料の山で一杯だった。

「あ、あの……本当にお忙しくなかったのでしょうか?」

「忙しくないと言ったら嘘になるけど今日の用事は全て済ませたから」

要はスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩める。
そんな姿にもドキドキする自分がなんだか信じられなくて、椿は要が脱ぎ捨てた上着を拾って上着をかける場所にかける。

⏰:08/09/02 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#369 [向日葵]
その姿を、ソファーに座っている要がジッと見つめる。

「そうしてると、本当に奥さんになったみたいだね」

「え……」

椿は動揺してその場で硬直してしまう。

「そろそろ婚約を正式にしない?それとも、まだ君は迷ってる部分がある?」

椿は答えられずにいた。
要はそれを想定していたのか、ポケットから小さな箱を出す。

「あげる。開けてみて」

椿は指先を使って開けてみた。
開けてみて彼女は驚く。

⏰:08/09/02 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#370 [向日葵]
中には小さな椿がついた指輪が入っていたからだ。

椿は要を見る。
彼は穏やかに微笑むと、その指輪を手に取った。

「つけさせてくれる?」

椿はもちろんと思った。
思った一方で、つけて帰った時の自分を想像しているもう1人の自分がいた。

帰ったら聖史がいる。

要と聖史は正式にはまだ戦っている最中なのだ。
これをつけて帰った時、椿は自分が何をされるのかと恐ろしくなった。
そして要に何を話すのかも、不安になった。

⏰:08/09/02 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#371 [向日葵]
沢山の事を思えば思う程、椿は要の訊ねに首を縦に振る事は出来なかった。

「椿……?嫌なの?」

椿はうつむいた。

要は長いため息を吐く。

「僕の自惚れじゃなかったら、君は少しでも僕に好意を抱いてくれてるんだろ?聖史さんとやらよりも僕を選んでくれるのだろう?」

これには、椿は力強く頷いた。

「じゃあ何がダメなの?」

それはあなたを傷つけてしまうかましれないから。
私が何をされるか分からない恐怖に包まれるから。

⏰:08/09/02 02:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#372 [向日葵]
「……ごめん、なさい……」

「分からない。君は僕に諦めないでほしいと言ったんだ!なのに何故婚約が出来ない!……もしかして、まだ僕の気持ちを疑ってる?」

「ちが……」

「じゃあなんで……っ!」

肩を掴み、椿を揺する。
椿はされるがままになりながら泣きそうになっていた。
聖史にされた事を告げても、要はそばにいてくれるだろうか。
夢のように、去って行ってしまわないだろうか……。

「失礼します」

お茶を持ってきた大久保が部屋に入ってくると、要は部屋を出ていった。

⏰:08/09/02 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#373 [向日葵]
部屋の隅で、椿は震える。
大久保はテーブルにお茶を乗せたトレーを置くと、椿に歩み寄り優しく語りかける。

「何かありましたか?」

椿は大久保を見る。
大久保は優しく椿を見つめる。
堪えきれなくなって、椿は涙を流し始めた。

「き、昨日、聖史さんに、無理矢理キスされました……。怖くてすごく嫌なのに、離してくれなくて……」

椿は昨日あった事を全て大久保に話した。
大久保は何も言わず、ただ黙って椿の話に耳を傾けた。

「こんな事、要さまに知られるのが恐いんです……っ。嫌われたらって……っ。こんな事する人だとは思わなかったって、ショックを与えたくないんです……」

⏰:08/09/02 02:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#374 [向日葵]
顔を覆って泣く椿を、大久保は淑女のようにソファーにエスコートする。

「だから、要さまには告げないのですね……」

「ハイ……言えませんこんな事……」

大久保は上着からハンカチを出し、椿の手に握らせた。
それに気づいた椿は、遠慮がちにハンカチで涙を拭く。

「私が口出しするのもなんですが、要さまは椿さまの事を嫌いになんかなりませんよ。大丈夫です」

口元をハンカチで押さえ、まだ潤む目で大久保を見る。
屈んで目線を合わせてくれている大久保は優しく微笑む。

⏰:08/09/03 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#375 [向日葵]
「それでも、椿さまにまだ告げる勇気がないのであれば、私はもちろん喋りません。椿さまも、勇気が出たら要さまにお話してあげてください」

最後にニコリと微笑むと、大久保はふとドアの方を気にした。

「要さまの機嫌が治ったみたいですね。こちらに向かってきます。では、私はこれで……」

ドアから出た彼は、丁度外で出くわしただろう要に一礼して行ってしまう。
代わりに要が部屋に入って来た。

椿の涙を見た要は、幾分気まずそうだった。

「送るよ。だから今日は帰ろう……」

⏰:08/09/03 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#376 [向日葵]
「で、でもお茶をせっかく運んで頂いたのに」

「帰ってきたら僕が飲むよ」

椿は少し落ち着きを取り戻す。
いつまでも泣いていたら要を困らすと思ったからだ。

黙って帰る準備をすすめる。

車を門前にまわしてくれた要は、その場で別れると思いきや一緒に乗ってきた。

どうしたのかと思ったが、彼は何も言わず、そして椿も何も言えず、車内は沈黙に包まれた。

しばらくして、椿の家が見えると要が言った。

「久しぶりに君の家にあがりたいんだけどいいかな?」

「あ、ハイ。どうぞ……」

⏰:08/09/03 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#377 [向日葵]
玄関ホールに入る前、ドア前で椿が一旦立ち止まる。

足が……動いてくれない……。

「どうかした?」

要の声にハッとして、苦笑いを返すと、手に力を入れてドアを握る。

高鳴る心臓は、嫌な予感を表すものか。

それとも……。

⏰:08/09/03 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#378 [向日葵]
[第9話]

玄関ホールに来て間もなく、メイドの佐々木がやってきた。

「おかえりなさいませ椿さま、そしていらっしゃいませ要さま」

「やぁ。久しぶり」

「お怪我の具合は大丈夫ですか?」

「だいぶ良くなったよ。そろそろ抜糸だ」

そんな他愛もない会話を聞きながら、椿は辺りに神経をとがらせた。
いつどこから、聖史が出てくるのかと……。

すると思い出したように佐々木が言った。

「椿さま、聖史さまを見かけませんでした?辺りを散歩してくると言って、帰られた姿を見ないのですが」

⏰:08/09/03 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#379 [向日葵]
それを聞いて椿は少しホッとした。
今ここにいないだけマシだ。
現れでもしたら、それこそ要と火花を撒き散らすかもしれない。
その心配もあった。

でも、いると言う事には変わりないのか……。

「か、要さま。夕飯を一緒に食べませんか……っ?」

要は少し驚いた顔をした。

聖史と会うまで、少しの間でも要といたい。
椿は純粋にそう思った。

「いいけど……じゃあどこか食べに行く?」

「いえ、ここで」

「分かった。じゃあ着替えておいで」

⏰:08/09/03 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#380 [向日葵]
安堵の笑みを浮かべ、椿は自室へと早歩きで行ってしまった。

「ねぇ」

要は近くにいる佐々木に問いかける。

「椿様子が変だけどいつから?昨日?」

「いえ、今朝からです。青い顔をして起床なさいましたから」

「うーん……。また風邪かなぁ……」

要が最早心配しているだなんて知らない椿は少し気分が明るくなり、いそいそと着替えをする。

脱いだ制服を綺麗にハンガーでかけ、出ていこうとした時、後ろから何かに引っ張られた。

⏰:08/09/03 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#381 [向日葵]
悲鳴をあげそうになった口を、何かに塞がれる。

「僕だよ椿」

耳元で囁かれれば、違う意味で椿はぞくりとした。

「聖史……さま……」

聖史は後ろから椿を抱き締め、椿の髪に頬擦りすると満足そうに微笑む。

「早く会いたかった。驚かせようと思ったんだ。あ、心配しなくても着替えは見てないからね」

「離して……下さい……」

椿がそう呟くと、椿を抱き締めていた片手がほどけ、その手の指先で頬に触れる。

⏰:08/09/03 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#382 [向日葵]
「どうして?いいじゃない少しくらい」

「今から、夕飯で……その、お客様も一緒で……っ」

「もしかして要くん?」

密かに苛立った声音。
椿は小刻みに震えだす。
まだ離されていないのに、その場から逃げ出そうとする。
当たり前に、聖史はそれを阻止し、椿を自分の方へ向ける。

「そうなんだね。……まったく椿、どうして僕の言う事を分かってくれないのかな……」

穏やかに笑ってるのに、その言葉は椿に恐怖をもたらすだけだった。
どうにか逃げようとまた試みた時、聖史の唇が椿の唇に重なる。

⏰:08/09/03 02:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#383 [向日葵]
椿は目を見開く。

聖史はしばらく重ねていると、椿を解放した。

「要くんがいるなら、僕も挨拶しないとね」

にっこり笑ってそう言う。

椿はショックで聞いているのかいないのか分からない。
しかし聖史が先に出て行くと、唇が痛くなるまで手で擦った。

・・・・・・・・・・・・・・・

パタンと音がしたので要はその方を見る。
が、要はあからさまに嫌そうな顔をした。

「こんばんわ要くん。久しぶりだね」

「久しぶりだろうが何だろうが、君に会うつもりは更々無かったよ」

⏰:08/09/03 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#384 [向日葵]
不機嫌を露にした要を涼しい顔で流すと、聖史は続けた。

「今から夕飯らしいね。僕も一緒にいいかな?」

「やだ」

「椿の許可がおりていても?」

それには要はグッと押し黙る。

彼女はもう聖史の事を兄のようにしか見ていないのかもしれない。
それに実はもう椿は聖史に答えを告げたのかもしれないと思えば、要は少し胸を張れる気分になった。

本当の事は、何も知らないまま……。

「……なら、いいよ」

聖史はにやりと笑う。
すると静かにまたドアを閉める音が聞こえた。

⏰:08/09/03 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#385 [向日葵]
どこか元気のなさそうな椿が姿を現した。

「椿、聖史さんとやらも一緒に夕飯食べるんだってね」

「え……っ!」

椿はとても驚く。
それを要は怪訝に思った。

自分から許可しておいて、何故そんな反応を見せるのかと。
しかし然程気にはしなかった。

それよりも……。

「椿、なんだか唇が赤くない?」

これには更に椿は動揺した。
口を押さえ、うつむいてしまう。

⏰:08/09/03 02:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#386 [向日葵]
「あ、荒れて……いまして……」

「そうなの?この時期リップクリームはかかせないよ?」

そんな会話をしているそばで、聖史が密かにニヤリと笑っている事を、2人は知らなかった。

食事の間へ行った3人は、それぞれ席に座る。
しばらくすれば料理が運ばれてきて、ナイフとフォークを持つ。

椿は食べる気が起きなかった。
あまり動く事のない椿の手を見て、やはりおかしいと要が声をかける。

「……椿、どうした?」

椿はびくりとすると、ナイフを落としてしまった。

⏰:08/09/03 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#387 [向日葵]
ナイフは床を滑っていくと、聖史の足元へと行ってしまった。

慌てて椅子からおり、身を屈める。

「僕が取ってあげよう」

聖史がそれにならう。

「いえ、いいんで……」

「僕のキスがそんなに嫌だった?」

耳元で聖史が囁く。
椿は青い顔をして素早く立ち上がった。
と思うと、部屋を出ていってしまった。

「椿、どうしたんだ?」

テーブルで四角になっていた為見えなかった要は、椿が落としたナイフを静かにテーブルに置く聖史に問う。

⏰:08/09/03 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#388 [向日葵]
聖史は静かに微笑む。

「さぁ、ただ聞いただけなのにね……」

要は首を傾げる。

「僕のキスがそんなに嫌だった?ってね……」

要は目を見開くと、テーブルを叩くようにして立ち上がった。
聖史はやはり静かに微笑むだけだ。

「お前……っ!」

「前のは刺激が強すぎたからと思って、今日は優しくしたつもりなんだけどなぁ……」

自分の唇をなぞりながら、聖史は楽しそうに呟く。
その聖史を殴りつけるよりも、要は椿の元へ急いだ。

⏰:08/09/03 03:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#389 [向日葵]
>>387

誤]四角
正]死角

⏰:08/09/03 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#390 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・

椿は庭の阿舎(アズマヤ)にいた。
柱に寄りかかるようにしてしゃがみ込んでいる。

膝を抱え、その膝に顔を埋めるようにして、荒くなる息を沈めようと頑張っていた。

椿は限界だった。
足枷をつけられて自由を奪われているような気持ちでいた。

好きでもない人と何度も唇を重ね、好きな人には傷つける態度で接するしか出来ない自分にも苛立っていた。

いっその事……消えてしまいたい……。

どう頑張ったって自分は母のようになれないのだと思ってしまえばそれも許せない事実だった。

⏰:08/09/04 02:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#391 [向日葵]
誰の傷を癒す事も出来ない。
傷つけてしまうだけの自分。
足を引っ張ってしまうだけの自分。

こんな役立たずな自分なんて、要に好きでいてもらう資格はない……。

顔をあげて、袖でもう1度口を拭く。

赤くなろうが、痛くなろうがどうでもいい。

ただあの瞬間の出来事、感触。
全てを無かった事にしてしまいたい……っ。

椿はひたすら口を拭く。
しかしその手は止められた。
手首を掴む手に、椿はビクリと肩を震わして小さく「ひ……っ」と悲鳴を漏らす。

⏰:08/09/04 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#392 [向日葵]
「僕だよ椿」

要の声だった。
もう暗くなってしまった庭園には、彼の姿はあまり見えないけれど、柔らかな声音は彼のものだった。

それでも、椿の震えは治まらない。

「ご……めなさ……。ただ、寒い……だけです……」

寒さなんて感じない。
いや、感じれない。
椿の頭の中は、もう破裂寸前だった。
そんな椿の前に、要は片膝をつく。

彼女の姿は、彼女が要の姿を見えないように見えないが、何かに怯えているのだけは、掴んでいる華奢な手首から伝わってきた。

⏰:08/09/04 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#393 [向日葵]
「ちゃんと呼吸出来てる?なんか息が荒いよ?」

「大丈……夫……です……」

「落ち着いて。大丈夫、僕はここにいるから。椿、落ち着くんだ」

促されるように、椿は落ち着こうとする。
何回も深呼吸して、荒い息を穏やかにしようとする。
要は手首から手を移動させ、椿の指先を包むようにして握る。

指先は、驚く程冷たくなっていた。

椿が段々落ち着いてきたらしい。
耳だけで聞く彼女の息遣いがゆっくりになった。

手を握っていない方の手で、そっと彼女の肩に触れれば、また大きくビクリと震えた。

⏰:08/09/04 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#394 [向日葵]
彼女が何に怯えているのかは要には分からない。

だがとりあえず、聖史から聞いた事を話す。

「あの人から聞いたよ。椿……君、あの人とキスしたんだってね」

椿は息を吸って止まる。
夢の中の要が目の奥に映し出される。
我慢出来なくて、椿は声を押し殺して涙を流す。

「椿……」

「違うんです……っ、私、すご、く嫌で、逃げたくても逃げれなくて……っ」

望んだんじゃない。
好きな訳でもない。

⏰:08/09/04 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#395 [向日葵]
いやらしい女だなんて思わないで。
嫌いにならないで。

「私はしたくてしたんじゃないんですっ!私はそんな事したくなかったっ!そんな……要さまを裏切るような事……っ」

椿は声を荒げて要に訴える。
それに要は驚いた。
椿の本気の否定。
どんな言葉を受けても、笑顔で堪え、全て受け入れていたあの椿が、自分の過ちを全て否定した。

思いをどうにか聞き入れて欲しくて、声をあげてしまった椿はもう声を押し殺して泣く事が出来なくなった。

嗚咽を漏らし、鼻をすする。

そんな椿の両手を、優しく、しかし強く、要は握りしめ、自分の胸元に持っていく。

⏰:08/09/04 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#396 [向日葵]
「椿、大丈夫だよ……。僕は君を責めたりしない」

椿がこちらを見つめるのが分かる。
多分そこにあるだろうと微かな光に見える椿の目をまっすぐ見つめ、要は続ける。

「僕はちゃんと分かってるから。君がそういう子じゃないって知ってるから。……だから、幻滅なんてしない。嫌いになんか、ならないよ」

要は握っている椿の手に力が入るのを感じた。
椿は目をギュッと瞑ってうつむいた。

「信じれない?それじゃ言うよ。僕は君が好きだ」

椿の手が、ピクリと固まる。
彼女は少し身じろぎする。

⏰:08/09/04 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#397 [向日葵]
「椿が好きだよ。信じてくれないなら信じてくれるまで何度でも言う。好きだから、嫌いになんかならないから。ずっと、そばにいるから……」

椿の中に棲んでいた悪夢の塊が、次々に流れ去っていく。

嘘なんて感じない彼の言葉に、椿は自分から要の胸に飛び込む。

急にやって来た重みに、一瞬ぐらついたが、すぐにその細い体を自分の腕で包む。

椿は腕だけで、彼が自分を好きなのが分かった気がした。
だから椿も伝えたかった。

だから思いきりその胸にしがみついた。





どれくらい時間が経っただろう。

⏰:08/09/04 02:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#398 [向日葵]
寒さをようやく感じる余裕の出来た椿の肩には、要の上着がかかっている。

2人は座りながら天高く昇っていく三日月を見上げていた。
手は、強く握られたまま……。

「そうだ。君の友達を今から呼ぶ事は出来ないかな?」

唐突に要が言った。
要は椿にかけている上着の内ポケットから携帯を取り出し時間を確認する。

「8時……、かぁ。別に来れない時間でもないし」

「どうして呼ぶのですか?」

「君を僕の代わりに守ってもらう為」

⏰:08/09/04 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#399 [向日葵]
「え……」と呟く椿の頬に、要は触れる。
すると椿は小さくびくりとしてしまって、申し訳なさそうにうつむく。

「まだ恐い?」

「……すいません」

「いいよ。それだけ君が嫌がってたって事さ」

要は自分の携帯を椿に差し出す。

椿はそれを黙って受け取る。

「今からあの人に勝利を告げにいく。1人で僕のそばにいるのは心細いだろうから、友達に君のそばにいてもらう。その方がきっといいよ」

⏰:08/09/04 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#400 [向日葵]
「電話しろと、言う事でしょうか」

「正解」

椿は携帯を開き、美嘉の家の電話番号を押す。
押してから携帯を耳に当てて呼び出し音を聞きながら、なんとなく要の方を見た。

要は椿の視線に気づくと、柔らかく微笑む。
月明かりに照らされた彼の顔はいつもより素敵に見えた。
だから椿はドキドキ高鳴る胸を抑えねばならなかった。

しばらくして、美嘉が電話に出る。
訳を話せば「すぐ行く!」となんだか張り切っていた。

「自転車でとばして10分ぐらいで着いてみせると意気込んでました」

⏰:08/09/04 03:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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