ギンリョウソウ
最新 最初 🆕
#30 [向日葵]
庭を歩き回り、疲れただろうと美嘉に言い、椿は休憩を取るため部屋へと戻ってきた。

メイドがお茶を運ぶと言ったが、自分ですると言い、今から取りにいく。
出来る事はなるべくしておきたいのだ。

椿1人では重たいティーセットを持てないと思い、美嘉もついてくる。

「あ、セイロンだ。美嘉これ好きなんだー」

「そうだと思って用意してもらったんです」

ほのぼのと会話しながら部屋へ戻る途中、ある部屋の扉が少しだけ開いていたのに気づく。

⏰:08/06/08 00:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#31 [向日葵]
たぶん要が仕事に使っている部屋だ。

そういえば要が来ているのを忘れていた。
仕事だとは言え、帰って来てからだいぶ時間が経ってしまった。
あまり遅い挨拶は失礼に値する。

そう思った椿は自分の紅茶を要に譲ろうとその部屋に歩みよった。

美嘉が持つと言ってくれたので手が空いた椿はノックしようとする。

その時、部屋の中から会話が聞こえた。

「ねぇ要さん。ここの椿嬢だっけ?……が、好きって本当?」

⏰:08/06/08 00:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#32 [向日葵]
女性の声だった。

プライベートな話は聞いてはいけないだろうと、椿は踵(キビス)をかえそうとするが、片手でトレイを持った美嘉が腕を掴んで立ち去るのを防いだ。

どうやら美嘉は、婚約者が椿にふさわしいかを見極めたいらしい。

しばらくの沈黙の後、要のクスリと笑う声が聞こえた。

「好き?そんなの思った事すらないさ」

美嘉は目を見開いた。
気にしたように椿を見るが、まるで他人事のように無表情で要の声に耳を傾けていた。

⏰:08/06/08 00:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#33 [向日葵]
そんな2人が外にいるだなんて知らず、要は続ける。

「彼女の会社は古くからの有名な会社でね。結婚して合併すれば、その肩書きのおかげで僕の会社が更に世界に轟くと思っただけだよ」

「そんな事で結婚するの?」

「お互いにとって別に悪い事じゃないと思うからいいんじゃない?」

そう言った途端、耳障りな音が要の耳まで聞こえた。
そして勢いよく扉が開いたと思えば、そこには美嘉と椿がいたのだった。

⏰:08/06/08 00:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#34 [向日葵]
さっきの音は、美嘉がトレイを床に叩きつけた為ティーセットが割れてしまったのだ。

割った本人は、要の言葉に怒りを隠せず睨みつけていた。
要は机にもたれながら服の新作デザインでも考えていたのか、ノートとペンを持っている。

そのすぐそばには、専属モデルか、またはそれ以上の関係かもしれない綺麗な女性が彼の首に腕を絡ませていた。


「アンタ……何様なのよ……っ!」

ちっ、聞かれたか、と要は眉をひそめる。が、直ぐに開き直ったようにまた話出した。

⏰:08/06/08 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#35 [向日葵]
「椿。君はむしろ僕に感謝してくれないかな。君のような病弱は跡継ぎが産めないかもしれない。つまり結婚してくれる相手なんていないと思うんだ。そこで僕が名乗り出た。もちろん目当ては君ではないけれどね」

最後まで言った途端、美嘉が要の横っ面を力一杯ひっぱたいた。
乾いた音が部屋に響く。

その時戸口にさっきの音は何事かと、そっとメイドがやって来た。

椿は何もないとにこやかに答え、何かメイドに頼んで下がらせた。
そして美嘉と要に目を移す。

⏰:08/06/08 00:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#36 [向日葵]
美嘉はあまりの怒りに目に涙をためていた。

「何が感謝よ!アンタみたいな最低人間より椿を想ってくれる人なんてたくさんいるわよ!」

「最低人間?心外だな。ちゃんと彼女達の事も考えての行動じゃないか」

「何を考えてるって言うのよ……っ。考えてるのは全部ビジネスの事ばっかりじゃないっ!」

「美嘉ちゃんいいんです」

息を荒げて振り返った美嘉は、メイドから何か受け取る椿をみつめた。

椿は渡された袋のような物を持って、美嘉の隣を通りすぎ、要に近付いた。

⏰:08/06/08 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#37 [向日葵]
そして袋を要に差し出す。

「顔、冷やして下さい……」

氷のうらしい。

要は少し戸惑いながらそれを受け取り、頬を冷やした。

「来て頂いたのにご挨拶が遅れました。お仕事ご苦労様でした。今から友人を送ってきます……」

美嘉の手を優しく握り、導くようにして引っ張って行く。
部屋を後にしても、美嘉はグスグス鼻をすすって泣いていた。

⏰:08/06/08 00:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#38 [向日葵]
門前まで来たが、未だ美嘉は泣きやまない。
そんな彼女を、椿は目を細めて見つめる。

「美嘉ちゃん……泣かないで下さい……」

「だ……、て、アイツ……ヒドす……ぎ……」

「いいえ、要さんは正しいです。こんな体が弱い私を、引き取ってくれる人なんて、きっといないって思ってますたから……」

だから、美嘉が泣くような、傷ついた思いはしていない。大丈夫だと告げるのに、美嘉は首を強く横に振り、納得しなかった。

そんな美嘉の態度が嬉しくて、自分より背が高い美嘉の頭を優しく撫でる。

⏰:08/06/08 00:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#39 [向日葵]
「ありがとうございます……美嘉ちゃん……」

・・・・・・・・・・・・・・・・

再び屋敷へ戻ってくると、さっきのモデルさんとすれ違う。
高いヒールを高らかにならして歩いて行く姿は美しく、やはりそういう仕事をしているのだと実感した。

自室へ戻って間もなく、ノックもせずに要が入って来た。

「お仕事お疲れ様です」

椿は一礼する。

「何のつもり?」

顔を上げた時、要は眉を寄せてこちらの考えを探るような目をしていた。

⏰:08/06/08 00:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#40 [向日葵]
「本当に納得してるの?それとも納得したフリして社長に僕の目的をひそかにバラすとか?」

挑戦的な言葉も、椿は静かに微笑んで受け流す。

「私は、納得しています。葵さまがどんなつもりであっても、父が喜んでくれるなら、私は何だっていいんです……。ですからバラされるなんて心配は無用です……」

これは椿の本音だった。
そして彼女は前から気づいていたのだ。

要が自分に対して何の感情も持っていない事を。

知っていながら、椿は父の為だけに婚約者を承諾したのだ。

⏰:08/06/08 00:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#41 [向日葵]
つまり自分も彼になんの感情も無かったのだ。
だから彼を一方的に怒る事なんて出来ないのだった。

「私は、父と、葵さまのサポートをするだけです……」

要は更に眉を寄せた。

ヒドイ事をやってるし言ってる自覚はある。

所詮自分達のような者は政略結婚が主だ。
もともと情なんてものは無い。

だからと言って、彼女はあまりに諦めが良すぎではないだろうか。

⏰:08/06/08 01:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#42 [向日葵]
そんなんだから、余計疑いたくもなるのだ。

「椿、君の目的は?」

「目的……ですか……?」

椿はキョトンとする。

「社長の為の他に、何かあるんじゃないのか?」

しかし椿は穏やかに微笑んでゆっくり首を横に振り否定する。

「何も、ありません」

要は戸惑った。
彼女が眩しく感じたからだ。
一点の曇りもなく、ただ父の為だけと純粋に言い張る椿を真っ直ぐに見れない気がした。

⏰:08/06/08 01:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#43 [向日葵]
※訂正

>>38

×思ってますたから
○思ってましたから

⏰:08/06/10 23:30 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#44 [向日葵]
しかし、と要は頭を切り替える。

椿がの事はよく分からない。だからこそ、常に用心しなければならないと思う事にする。

「君の事はとりあえず保留でいいや。でもね、あまり僕達がよそよそしいのもいけないしね。だから君には僕を好きになってもらうよ」

椿は首をまた傾げる。
そして何故好きにならなきゃいけない必要があるのかが分からないでいた。

好きになっても、要は自分を好く訳でもないのに。

そんな椿の思いが分かったのか、要は言う。

⏰:08/06/10 23:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#45 [向日葵]
「好きになってもらわないと、なんだか好きになれそうにないんだよね、君。だから君から好きになって欲しいんだよ」

にっこり笑って、酷い事を言う。
まるで椿に何を言っても平気だと馬鹿にしてるようにも見えた。

しかし椿は、何も動じていないかのように微笑んだままだった、が、その微笑みは要への抵抗のようでもあったのだ。

椿はまだ、要の要求に首を縦に振っていないからだ。

それには彼も気づいている。

⏰:08/06/10 23:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#46 [向日葵]
椿にだって、気持ちはあるのだ。
あまりに理不尽な事には、簡単にイエスと言いたくはない。

「ま……、好きになってもらえるよう毎日君の顔を見に来るよ。そしたら段々好きかもって思うかもね」

「そうですね……」

椿の返事は、要にとって「やれるものならやってみろ」と聞こえた気がした。

だから余計意地になる。
絶対好きにさせてみせると。

そう決意を固めて、椿の部屋をあとにした。

⏰:08/06/10 23:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#47 [向日葵]
1人残された椿は要がいなくなると同時に笑顔を消していた。

何も思ってないフリをするのは、この顔が一番。
だが今は1人だ。
あんな言葉を言われて傷ついてない訳がない。

[好きになれそうにないから]

自分がどれだけ魅力がないのか、つきつけられた気がした。
ましてや、将来共に過ごすであろう婚約者に……。

大きな窓から、空高くのぼっている月を見つめた。

何を言われても、要の前で動じてはいけない。
全ては父の為。
そう思い望んで、承諾した事だ。

⏰:08/06/10 23:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#48 [向日葵]
だから……文句を言ってはいけない。
言える立場じゃない。

携帯の着信音が鳴りだした。
美嘉からだった。

通話ボタンを押す。

<もしもし椿?あれから大丈夫だった?美嘉頭に血が上ってて冷静になってなかっ……。……椿?>

椿は静かに涙を流していた。

こんな自分でも、心配してけれる誰かはいる。
大丈夫。不安になる事なんてない。

そう思うのに、突き刺ささった言葉のトゲは、思ったよりも痛かったのだった。

⏰:08/06/10 23:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#49 [向日葵]
※訂正

>>48

×心配してけれる
○心配してくれる

⏰:08/06/10 23:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#50 [向日葵]
[第2話]





今日は体育大会だった。
しかし椿は体の事もあり、1日見学。

友達である美嘉や越の華麗な活躍に感嘆し、一方で上昇する気温にぐったりとしたダルさを感じている。

「椿水分ちゃんと取りなよ」

リレーで一仕事終えた美嘉と越が心配そうに椿を覗き込む。
椿はなんとか微笑み、大丈夫だと意思表示する。

⏰:08/06/11 00:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#51 [向日葵]
>>44

×椿がの事
○椿の事

間違いだらけですいません

⏰:08/06/11 08:13 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#52 [向日葵]
「次は応援合戦だから着替えなきゃね」

「その前に自販機行かない?美嘉喉かわいたー!」

「うん。椿は?」

越の問いに椿は待っていると答える。
2人が自販機がある場所へと向かって行くのを見てから、他学年の競技に目を向けた。

皆暑そうに、それでも楽しそうにはしゃいでいる。
自分の体さえ丈夫なら、お祭好きの美嘉と共に勝った事に喜んだり、負けた事に悔やんだり出来るのに……。

そよ風が、彼女の背中の真ん中辺りまである漆黒の髪を切なげに揺らす。

⏰:08/06/15 01:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#53 [向日葵]
そんな椿が儚げな少女に見え、周りの男子がため息をつきたくなるように感じながら見つめているだなんて事は、彼女は知らない。

「野々垣さん」

2人の男子が、話しかけてくる。

「体弱いのに日の下にいて大丈夫?」

「ハイ。日傘もさしてますし、平気です……」

「なんなら一緒に日陰に行かない?」

「え……あの、いいです……」

日傘をギュッと握り、少し引くように体をずらすと、1人の手が細く白い椿の腕を掴んだ。

⏰:08/06/15 01:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#54 [向日葵]
息をのみ、かすかに震える。
しかし男子2人はそんな事おかまいなしに椿を連れて行こうとする。

「野々垣さん細すぎ!やっぱり行こうよ」

「わ、私、友達を待ってますんで……っ」

「まぁいいじゃん。トイレに行ったとか思うって」

嫌……っ!

ギュッと目を瞑った時だった。
後ろから肩を抱かれ、引き寄せられる。

「嫌がってるって分かんない?」

この声は……と、チラリとだけ視線を後ろに向ける。

⏰:08/06/15 01:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#55 [向日葵]
「これ、僕のだから」

サングラスを取り、目だけで相手を威嚇する。
男子2人は、うっ……、とだけ唸って黙って去って行った。
と同時に椿も抱えられていた腕から解放された。

後ろを振り向けば、そこにはやはりと言うか、椿のよく知っている人物が立っている。

「葵さま……。今日はイタリアの筈じゃ……」

「それが延期になったんでね。でも酷いな椿。こんな行事があるなら教えてほしかったよ」

にっこり笑って言っているが、本心は何を思っているか分からない。

⏰:08/06/15 01:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#56 [向日葵]
今だって助けてくれたが、それは自分が有利になる為の作戦であると椿は思っている。
しかし、嫌な顔はしてはいけないのだと頭を素早く切り替え、にこりと微笑む。

「暑い場所はお嫌いと耳にはさみましたんで……」

「嫌いだねー」

着ているスーツは本当に暑そうだ。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、ボタンを2、3個外す。
とても同学年とは思えない大人っぽさが彼から漂う。

「でも君の体操服姿が見れるだなんて貴重じゃないか」

⏰:08/06/15 01:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#57 [向日葵]
貴重って何が貴重なんだろうとか思ったが椿は微笑みだけで要の言葉を受け止めていた。

「……葵さま」

「あのさ椿、前にも言ったけどいい加減“要”って言ってくれないかな?」

「はぁ……。でも、これで慣れていますんで……」

そしてこれは彼女自身の軽い反発でもあった。

簡単に好きになんかなるまい、と。

「ふーん。でもあんまりよそよそしいと僕が困るんだから。君だって、大切なお父さまを悲しませたりはしたくないでしょ?」

⏰:08/06/15 01:39 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#58 [向日葵]
その言葉にピクリと体を震わせ、椿は深々と要に頭を下げた。

「申し訳……ありませんでした……。努力いたしますんで……」

「うん。それでいいんだよ」

椿は短パンをギュッと握る。そして唇を軽く噛んで静かに深呼吸して微笑んでから顔を上げた。

「葵さま……、助けていただきありがとうございました。……でもここは一般の方が入っては駄目なのです。申し訳ありませんが、保護者席の方へ移動して下さい……」

⏰:08/06/15 01:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#59 [向日葵]
「別に気にしなくてもいいじゃないか。それに屋根もない。日陰が……。そうだ。椿、それ、貸して」

指差したのは椿が持っていた日傘だ。
これにはさすがに椿は笑顔を消し、えっ……、と戸惑う。

「でも、あの……」

「言う事が聞けないの?」

威圧的な低い声と、冷たい目で椿を脅す。

ぐっと泣きそうになるのを堪えて、椿は日傘を差し出した。
満足そうに要は受け取る。

⏰:08/06/15 01:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#60 [向日葵]
「君は何か競技に出るの?」

強い日差しにくらりとめまいを感じた気がした。
要の声が遠くから言ってるように聞こえる。

「何も……出ません……」

それでも椿は笑顔でいる。

「ふーん。つまんないね。周りの人も、君自身も」

それだけ言って、要は立ち去る。
そんな要に頭を下げて椿は見送った。
しかし頭を上げる事はなかなか出来なかった。
風がまた、彼女の髪の毛を揺らす。

⏰:08/06/15 01:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194