ギンリョウソウ
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#601 [向日葵]
「いいのよ。結局美嘉も、アイツを上部だけで判断してた未熟者だもの」
彼は最初、最低な理由で椿に近づき、たくさん傷つけた。
でも彼を知っていけばいく程、椿に対する想いや、彼の辛く重い過去を理解出来た。
「何より、椿が幸せで、あんなに居ても立ってもいられないぐらいアイツが好きなら、美嘉はそれでいいよ」
美嘉の言葉に、越は柔らかく微笑む。
T字路で、バイバイと言い合った美嘉と越は、別々に道を進んだ。
何歩か進むと、後ろから肩を叩かれた。
:09/02/05 01:53
:SO906i
:☆☆☆
#602 [向日葵]
「あっ!」
「お久しぶりです」
立っていたのは、要の従者、大久保だった。
小さな紙袋を片手に持っている。
「どうしたんですか?」
「近くに今日のパーティーの買い出しを。皆さん手が離せないものですから、私が」
にっこり笑って、大久保は美嘉と歩き出す。
もしかしたら、さっきの会話は聞かれた?
一度、彼に弱音というか、本音を語ってしまったとは言え、なんだか気恥ずかしかった。
:09/02/05 01:57
:SO906i
:☆☆☆
#603 [向日葵]
「美嘉さまがお友達で、椿さまはきっと嬉しいんでしょうね」
目を細めて優しく笑う。
やっぱり聞かれてた……。
しかし、からかってる訳じゃなく、心から思ってるみたいだったから、美嘉は普通に照れてしまう。
「パ、パーティーですよね!美嘉も手伝いますっ!」
突然、美嘉は要の家へと走り出す。
「み、美嘉さま!?」
大久保も走り出す。
美嘉は走りながら手を顔に当てる。
どうしてこんなに熱い?
:09/02/05 02:01
:SO906i
:☆☆☆
#604 [向日葵]
パニックを起こして、更に早く走るから、大久保は驚きながらも必死に美嘉を追わなければならないはめになった。
ロマンチックなホワイトクリスマス。
クリスマスと言う特別なイベントに、何かを期待したりするのも、悪くないかもしれない。
:09/02/05 02:03
:SO906i
:☆☆☆
#605 [向日葵]
[第14話]
話は翌年の6月になる。
要と椿の誕生日も終わり、はれて二人は18歳になった。
が、二人には誕生日よりもビックイベントが待っていた。
「椿、やっぱり結婚式はジューンブライドがいいよね。梅雨だけど毎日雨って訳じゃないから、僕はいいと思うんだけど」
「けっこんしき……?」
要と椿はいつものように椿の家の庭を散歩していた。
紫外線はよくないからと要に言われた椿は、日傘を要と相合い傘のようにしてさしている。
「まさか、忘れてた?」
:09/02/05 02:10
:SO906i
:☆☆☆
#606 [向日葵]
忘れていたと言うよりは抜けていた。
「やっぱり盛大にしたいなー。心配しなくても、椿のドレスやアクセサリーは、僕がデザインするからね」
「ジ、ジューンブライドって……っ。あと何週間しかないですよ!?」
只今5月半ば。
「6月中にすればいいんだよ。大安の日をちゃんと選んでね。式場でなんかしなくても、僕の家を使えばいいしね。堅苦しい式は望んでないからね」
いきなり心の準備そこそこに言われた椿は、頭がごちゃごちゃになりそうだった。
:09/02/05 02:15
:SO906i
:☆☆☆
#607 [向日葵]
「だから椿、これから忙しくなるよ」
にっこり笑った要は、とても楽しそうで、嬉しそうだった。
―――――――――……
そしてここからが6月の話。
今は6月始め。式は月末の27日に決まった。
5月に要がにっこり言ったとおり、椿は毎日忙しく過ごしていた。
今でも目が回りそうな程……。
そんな椿が今やっているのは、披露宴での衣装選びだった。
要が何十着も用意するから、椿はより似合うものをとさっきから着せ替え人形のように着たり脱いだりを繰り返している。
:09/02/05 02:20
:SO906i
:☆☆☆
#608 [向日葵]
「椿さまは淡いお色がお似合いですね」
「お肌が白いですものね」
「ピンク色か……オレンジ色でもいいですわね」
口々に、着替えを手伝うメイドが言う。
それに若干引きつりながらの笑顔を返して、椿はそっとため息を吐いた。
要との結婚に不満がある訳ではない。
ただここまで次々と準備をしていくと、疲れてなんだか気が滅入ってくる。
結婚式なんて、しなくていいんじゃないかと思ってしまうくらい……。
:09/02/15 00:53
:SO906i
:☆☆☆
#609 [向日葵]
そう思ってしまって、椿は急いで首を横に振り、マイナス思考を振り払う。
「あ、あの……」
次のドレスを用意しようとするメイド達に、椿は声をかける。
「要さまに、ご用があるので、行ってもよろしいでしょうか?」
「はい。いってらっしゃいませ。ではその間にお茶を用意して参ります」
今度はちゃんと笑顔を返してから、椿は部屋を後にした。
要は別室で仕事と並行させながら式の準備をしていた。
服は既に決まったらしく、椿のドレスが決まる間に、飾りつけの指示や、来客リストを作っているらしい。
:09/02/15 00:58
:SO906i
:☆☆☆
#610 [向日葵]
要がいる部屋にたどり着き、ノックをすれば、中から返事が帰ってきた。
「失礼します」
「ん?ああ、椿か。どうかした?」
仕事用の椅子ではなく、机に座って、何かの資料を見ていた要は、椿に気づくと彼女の元まで足を運ぶ。
「え、ええと……、要さまは、何色がお好きでしょうか……。ドレスが多すぎて、決まらないんです……」
そんな事、自分でさっさと決めろと言われてしまうだろうか?
言ってしまってから、椿は不安になった。
:09/02/15 01:02
:SO906i
:☆☆☆
#611 [向日葵]
「そうなの?じゃあ、僕も一緒に選ぼうか?」
ただでさえ忙しい要に、そんな事までさせてしまうのが悪い気がしてきた椿は首を横に振った。
「い、いえ、いいんです……」
何故か落ち込んだように首をうなだれる椿に困惑した要は、長く綺麗な椿の黒髪を避けて、髪とは対照的な白い頬にそっと触れる。
温かな手に、ゆっくりと顔を上げた椿を、心配そうに覗き込む。
「疲れてない?ここのところ、ずっと忙しくしてたから、ロクに休んでないんじゃないの?」
「……大丈夫です。ちょっと、戸惑ってるだけで、疲れては……」
:09/02/15 01:08
:SO906i
:☆☆☆
#612 [向日葵]
「疲れたなら疲れたって言って。椿が倒れる方が、僕は嫌なんだからね」
頭を優しく撫でられる。
それだけで、疲れた心が癒される。ふんわりと温かくなる。
「本当に、大丈夫です。要さまのお姿を見て、元気になりました」
不意の椿の言葉に、要は少し顔を赤くした。
照れ隠しのように、撫でていた手に力をいれて、椿の髪を乱す。
――――――――…………
ある日の午後。
式準備で忙しい要宅に、二つの影があった。
「で、美嘉たちが?」
美嘉と越だ。
大久保が、要に頼まれて呼んだのだ。
:09/02/15 01:15
:SO906i
:☆☆☆
#613 [向日葵]
「椿が、ドレス選びに一人で困ってるのは分かりましたけど、私達が選んじゃってもいいんですか?」
大久保の説明を聞いていた越が、質問した。
「はい。友達なら、見る目は確かだと、要さまもおっしゃっていましたから。なにより、慣れない事を、椿さま一人でなさっているので、少しでも安らげるようにという意図もおありだと思います」
ならわざわざジューンブライドにこだわるなよ、と美嘉は思ってしまったが、要が意外とロマンチックだと言う面白さの方が勝ってしまって口を閉ざした。
それにここで愚痴っているより早く椿の元へ行ってあげた方がいいと思った。
:09/02/15 01:23
:SO906i
:☆☆☆
#614 [向日葵]
「じゃあ大久保さん、案内お願いします」
「かしこまりました」
一礼して、大久保は歩き出した。
ちょうどドレスを着た時、部屋のドアをノックされた。
と思ったら、返事をする間もなく美嘉が部屋へ入ってきた。
「美嘉ちゃんっ!越ちゃんっ!」
「やっほー椿っ!来たよっ!」
「椿キレイ!」
少し肩を出した淡いグリーンのドレスを着ている椿は、美嘉や越にとって別世界の人に見えた。
:09/02/15 01:29
:SO906i
:☆☆☆
#615 [向日葵]
しかし、美嘉はもう一つの変化に気づいていた。
椿に近づき、声を落として問う。
「椿……なんか痩せてない?」
椿は目を見開く。
休日以外、毎日会ってるから小さな変化に気づかなかったが、肌を少し露出し、体のラインが分かるドレスは、その小さな変化を表すものだった。
キュッと唇をしめた椿は、ゆっくりと口を開く。
「最近、食欲があまりなくて……。でも、調子が悪い訳ではないので……っ」
じっと椿を見つめるが、彼女は柔らかく微笑むだけ。
諦めた美嘉は、数あるドレスの山に目を向けた。
:09/02/22 12:10
:SO906i
:☆☆☆
#616 [向日葵]
「さ、選びましょうかねっ」
そうやってなんともないフリをすれば、椿はホッとしたように息を吐いた。
美嘉が諦めたのは椿を困らせたくない為じゃない。
もちろん心配は心配だ。
この頃は、体の調子もよく、あまり気にせず過ごしていたが、本来はか弱い椿なのだ。
ただでさえ細い椿がまた細くなったとなれば、やはり気になってしまう。
だが、どうやったって、椿が自分の事を素直に話す相手は、もうただ一人だけなのだ。
…………という訳で。
「かぁなめぇーっ!」
:09/02/22 12:14
:SO906i
:☆☆☆
#617 [向日葵]
ノックもせず、大久保が教えてくれた要の作業部屋に、美嘉は乗り込む。
本人が駄目なら本人以上に椿の性格を分かっている要に直談判。
行動派の美嘉はそう考えた。
なんの前触れなしに乗り込んできた美嘉に、要は慣れたのか「ああ君か」と呟き、また資料に目をとおす。
「ちょっとちょっと!紙なんか読んでる場合じゃないの!」
「椿の事なら分かんないよ」
先に訊きたい事の答えを言われた美嘉は、要に向けて歩いていた足をぴたりと止めた。
「え、そうなの?」
:09/02/22 12:19
:SO906i
:☆☆☆
#618 [向日葵]
紙を机に置いた要は、ため息をついた。
「当たり前だろ。分かってるなら何かしてる」
「じゃあ、なんで何もしないの」
「美嘉も知ってるだろ?彼女は大丈夫だと言えば頑なにその意思を貫く。僕にだって出来ない事はあるんだ」
意気込んで来た美嘉は、すっかりその気合いを削がれてしまったので、お構い無しに要の机に腰かける。
「アンタなら何か知ってると思ったんだけどなぁ……」
要は瞬きを数回する。
:09/02/22 12:29
:SO906i
:☆☆☆
#619 [向日葵]
「君の方が分かるだろ?僕はそういうのも込めて君達を呼んだんだよ?」
今度は美嘉が瞬きを数回した。
なんだ、お互いがお互いそう思っていたのか。
最初は絶対こんな奴認めるかと思っていたが、いつの間にか椿の事に関しては頼りにしてる自分に、美嘉は少しおかしくてクスクス笑った。
「要、頼むから、あの子大切にしてやってね……」
間があって、静かだが、力強い返事が返ってきた。
「もちろん」
――――――――…………
:09/02/22 12:33
:SO906i
:☆☆☆
#620 [向日葵]
美嘉たちは夕飯の為に帰って行った。
椿は用意された部屋のソファに身を深く沈めて全身の力を抜いた。
疲れた……。
ただそうしか思えない。
先程、夕飯を済ませたが、今日もあまり食べれなかった。
部屋に来る前、要に心配されたが、曖昧に返して逃げるように部屋に帰って来たのだ。
このままじゃ、要に心配かけっぱなしになってしまう。
しっかりしなきゃと思うのに、今は力が入らなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ふわりと、心地よい感覚に意識がいく。
いつの間にか寝てしまったのか。
:09/02/22 12:39
:SO906i
:☆☆☆
#621 [向日葵]
意識は現実に戻るも、まだ目は眠いから閉じたままだ。
そうしていると、柔らかな所に体を置かれた。
誰かに抱き上げられていたのだと気づく。
薄手の布団を丁寧にかぶせられ、顔にかかった綺麗な髪をそっとよける。そして撫でられる。
目を開ければ、頭が濡れている要がいた。
「あ、ごめん、起こした?」
「い、いえ……」
寝ていては落ち着かないので、ゆっくりと体を起こす。
要はベッドに腰をおろす。
「熟睡してたね。やっぱり疲れがきてるんじゃ……」
:09/02/22 12:44
:SO906i
:☆☆☆
#622 [向日葵]
「い、いえ、そんな……」
「食事もあまりとってないし」
「もともと少食なので……」
ちゃんと、目を見れない椿はうつ向く。
要が体を動かしたと思えば、椿の肩に手を置く。そのまま勢いよく椿をまた布団に沈めた。
「……っ!」
要が覆い被さるようにするので、椿の心臓が高鳴る。
顔に、まだ拭ききれていない要の髪から、雫が落ちてくるが、それを気にしていられる余裕は椿にはなかった。
鋭い目つきで見つめられれば、固まり、ただ要を見つめるしか出来なかった。
:09/02/22 12:50
:SO906i
:☆☆☆
#623 [向日葵]
「僕の目は節穴じゃない。君の調子の悪さなんてお見通しなんだ。いつか君から言ってくれると待っていたんだ」
だって……。
「そうやって、支えあって、夫婦になるんだろ?なのに、僕は未だ一方通行な気分だよ」
だって……言ってしまったら……。
「……でも、君にも譲れないものがあるだろうから、しつこい干渉は、避けるよ」
少し悲しそうに眉を寄せた要は、椿からすっと離れた。
椿は急いで体を起こす。
「ちが……っ、要さま!」
呼ぶと同時に、部屋の扉は閉められた。
:09/02/22 12:55
:SO906i
:☆☆☆
#624 [向日葵]
重く響く音に、椿の胸は痛んだ。
違う……。
言わなかったのは、前のような無理をしてるんじゃなく……。
ただ…………。
今、そう思ってるような事すら言えなかったと言うことは、結局前と同じようなものなのだろうか。
椿はどうしていいかわからなくて、掛布団を握り締めた。
―――――――…………
「要ぇーっ!!」
「またか……」と要は頭をガクンと落とす。
式の事がだいぶ決まり、要は一段落してるとこだった。
:09/02/22 13:01
:SO906i
:☆☆☆
#625 [向日葵]
:09/02/22 13:03
:SO906i
:☆☆☆
#626 [向日葵]
「君はノックというものを知らないの?」
「美嘉は別にアンタを敬う気なんかないもの」
そういう問題か?と半ば呆れながら要は頬杖をつく。
要が座っていたソファの向かい側に美嘉も座る。
「椿の様子が更に変になってる。アンタまたなんかやらかしたの?」
「椿の事意外に用事はないのか君は」
「アンタに用事って何よ」
そう言われては、要も見つからないので「まぁそうか」と息を吐く。
:09/03/08 17:09
:SO906i
:☆☆☆
#627 [向日葵]
「椿を問い詰めたんだよ。疲れているんだろ、何故隠すんだとね」
そこまで言うと、美嘉が渋い顔をして見てきたので、要もなんだと目で応じる。
「まさかその時にいやらしぃー事してやいないでしょうね」
「どういう流れでそんな事をしなくちゃならない……」
「アンタの事だから変なスイッチ入ったんじゃないかと思って。なんて言うの、ホラ、怒りに任せて的なね」
休ますようにと押し倒しはしたが、あの時にそういう他意はなかったので、要はふと浮かんだ光景をすぐに消した。
:09/03/08 17:19
:SO906i
:☆☆☆
#628 [向日葵]
「あるはずない。僕はそんな獣じゃないから」
どうだか、と美嘉は背もたれに体を預ける。
「で、椿はなんて言ったの?」
「何も言わなかった。だからそれからは僕も何も問い詰めちゃいない」
「そう……」
美嘉もなんらかの形で問い詰めようとしたのだろうか。
それが敵わなかったから要ならと来たのかもしれない。
敵視していた美嘉が自分を頼りにしてくれているのが、こんな時だが要は嬉しくもあった。
「で、今椿は?」
「ドレスでいい感じのが見つかって、今は休んでる」
:09/03/08 17:26
:SO906i
:☆☆☆
#629 [向日葵]
なら、と要は席を立った。
あれからあまり話せていないし、今度は感情的にならず、冷静に話そう。
そうした方が、椿もゆっくりと話し出すかもしれない。
そう思って、扉に近づこうとした時、ノックをする音が聞こえた。
椿かもと自ら扉を開けた要だが、目の前にいたのはメイドだった。いきなり開いた扉に驚き、目を見開いている。
「ああ……、何か?」
「あ、ハイ!」
ぼんやりしていたメイドは要の声を聞くと急いで来た理由を話し出した。
「椿さまが、倒れてしまいました……っ!」
:09/03/08 17:31
:SO906i
:☆☆☆
#630 [向日葵]
――――――――…………
体が重い……。
鉛のようだってこの事を言うんだろうなと、暗闇の中で椿は思った。
―僕は一方通行な気分だよ
ああ……また要さまを怒らせた……。
一方通行だなんて、そんな事ないのに……。
私はただ……。
意識が朦朧としている中で、椿は必死に手を伸ばす。
何かを掴もうと。
しかし当然掴める筈もなく、手は空をかく。
なのに、ふと手に暖かさが宿った。
とても安心する。
これは……?
:09/03/08 17:39
:SO906i
:☆☆☆
#631 [向日葵]
そう思った時、闇の中に小さな光が見えた。
――――――――…………
光が戻れば、ここが何かが分かった。
ふかふかのベッドの上。
手を握っているのは……。
「椿……」
その声に、椿はゆっくりと目を開く。
「要さま……」
周りを見ると、美嘉と何人かのメイドがいた。
「良かった……」
ホッとしたように、要は何度も優しく頭を撫でる。
それが心地よくて、椿は目を細める。
:09/03/08 17:44
:SO906i
:☆☆☆
#632 [向日葵]
「では、私どもは何か飲み物を持って参ります」
「あ、美嘉も手伝います」
そう言ってメイドと美嘉は出て行った。
部屋を静けさが包む。
要も椿も、お互いの顔を見つめあったままだ。
何から話そうか、お互いがお互い悩んでいた。
「……。……式は、もうちょっと先にする?」
「え…………」
急な要の言葉に、椿は驚いた。
要は前から考えていたらしく、淡々と話し出す。
「思えば、僕が勝手に決めて進めていた。君の意見なんか聞いてなかった。その勝手で君がこんな状態になってしまったなら、式はまた今度に……」
と、話の途中なのに、椿は布団を頭まですっぽりとかぶった。
その行動に、要は目を丸くさせる。
「つ、椿?」
:09/03/08 17:53
:SO906i
:☆☆☆
#633 [向日葵]
布団に手をかければ、椿は指に力を入れ、布団を剥ごうとする事を拒む。
「嫌です……」
「うん嫌でしょ?だから先のばしに」
「違います……」
要は首を傾げた。
「式が嫌なんじゃないんです。私は……先伸ばしになるのが嫌だったんです」
「え……」
椿の聞きとりにくい声が、更に難しくなる。
声は小さくなり、そして微かに震えている気さえした。
:09/03/08 18:01
:SO906i
:☆☆☆
#634 [向日葵]
「私だって……楽しみにしてたんです……」
最初はこの忙しさにかまけている中での結婚は、本当に幸せなのか分からなかった。
でも、いつも要が隣にいてくれるなら、きっと大丈夫だと思えた。
そうしたら段々と楽しみになれた、式を挙げる日を待つのさえもどかしい程に。
なのに自分の体が弱いせいで、式を伸ばす事になれば、きっと自分は落胆すると思った。
だから椿は、ずっと体の不調を隠していたのだ。
それでも、要が伸ばすと言うなら……。
:09/03/08 18:07
:SO906i
:☆☆☆
#635 [向日葵]
「……いいえ、なんでもありません、私は、要さまの言う事に従い……」
要が椿がかぶっている布団を力づくで剥いだ。
椿が驚いている隙に、要は椿を抱き寄せた。
力が強くて、苦しいけれど、それ以上に心臓がうるさくて、椿は混乱した。
「そう思ってくれる事、すごく嬉しいよ」
要の声は、本当に嬉しそうだ。
椿は少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。
力が緩められたかと思うと、要は体を離し、椿を見つめた。
「でもね、式を挙げるより、僕は椿の事の方が大切なんだ。だから無茶はして欲しくない。分かってくれる?」
:09/03/08 18:14
:SO906i
:☆☆☆
#636 [向日葵]
柔らかな表情に、椿は安心する。
ぼんやりとしながら、こくりと頷く。
頬に手を触れられれば、その体温が心地いい。
「式は伸ばさない。君の希望だからね。尊重するし、本当は僕だって伸ばしたくはないんだ」
照れながら笑う要を見て、椿もようやく笑う事が出来た。
椿の唇に、要の唇が重なる。
優しいけれど、とても熱く、絶対に、要の一方通行じゃない。
それは自分が一番分かる。
だってこんなにも、胸の奥が温かいのだから。
:09/03/08 18:21
:SO906i
:☆☆☆
#637 [向日葵]
――――――――
――――――――――………
―生涯愛しぬく事を誓いますか?
―はい、誓います
―では誓いの口づけを
唇が重なる。
すると歓声が上がって、クラッカーの音が鳴り響いた。
堅苦しい式にはしないという要の言う通り、式は要宅で行われていた。
白い二人の衣装に、クラッカーの中身が絡みつく。
でも二人は幸せそうに笑っている。
椿のウェディングドレス姿は、皆が息をのむ程美しく、要でさえ椿を見るなり見とれ、美嘉が蹴りをいれてやらないと我に返らなかった。
:09/03/08 18:28
:SO906i
:☆☆☆
#638 [向日葵]
「椿ぃーっ!おめでとーう!!」
美嘉が抱きつき、越が写真を撮る。
「ありがとうございます。美嘉ちゃん、越ちゃん、それから……柴さんも」
越の近くにいる、灰色の瞳の青年。
写真でしか見た事がない彼は、越の隣で微笑んでいた。
「招いてくれて、ありがとう」
「と言うか、無理言ってゴメンネ椿」
実は柴は来る予定が無かったのだたが、越が柴がどうしても来たいと言ってると言うのを聞いて、椿は快くそれを受け入れ、柴も招待した。
:09/03/08 18:32
:SO906i
:☆☆☆
#639 [向日葵]
「ねぇ越、俺たちもこんな風にしようよ」
「き、気が早いから!」
ほのぼのするやりとりに微笑んでいると、要が椿に耳打ちをする。
「彼って、前彼女をさらった……」
「ええ、大切な方ですわ」
なるほど、と、要は椿の手を引く。
中庭に出れば、温かな光が二人に降り注ぐ。
中は皆が楽しく会話して、うるさい程だが、中庭は静かなものだった。
「疲れてない?」
「平気です。とても楽しいです」
:09/03/08 18:38
:SO906i
:☆☆☆
#640 [向日葵]
そう、と要は微笑む。
式は延期する事なく、決めていた日どおりに行われた。
椿の体には、少し負担があったが、要が常に気にかけていた為、前のように倒れる事はなかった。
「後で、お父様に手紙を読む時、泣かないか心配です」
「泣いたって構わないよ。寂しいのは仕方ないからね」
少し歩いて、庭にある椅子に椿を座らせた。
隣に要が座らないのかと、椿は要を見上げた。
要はタキシードの内ポケットから何かを取りだそうとしていた。
そして出したものは、四角い紙だ。
:09/03/08 18:44
:SO906i
:☆☆☆
#641 [向日葵]
椿はそれを不思議そうに見つめる。
「それは……?」
「手紙だよ」
「要さまも手紙を読まれるのですか?」
「違う。これは……椿へだよ」
椿は目を見開く。
要は微笑んで、封筒から二枚程、便箋を出す。
「椿が手紙を読む時、泣く心配をしてるなら、今泣いてもらうよ。そうしたら、少しは泣かずに済むでしょ?」
歯を見せて笑う要が眩しい。
椿は要が手紙を読むのを黙って待った。
そして要がゆっくりと読み出す。
:09/03/15 02:36
:SO906i
:☆☆☆
#642 [向日葵]
こんな手紙を書くのは照れます。
読むのはもっと照れます。
でも、伝えたい事があるから、手紙にしました。
沢山あるから、きっと言葉ではつまってしまうと思ったからです。
椿、僕は今日この日、君と結婚出来る事がとても嬉しいです。
初めて君と会った時、君を利用しようとしていた最低な僕を好きになってくれてありがとう。
あの時、椿に言った最低な言葉や、最低な態度は、本当に反省しています。
ごめんなさい。
:09/03/15 02:37
:SO906i
:☆☆☆
#643 [向日葵]
僕はいつしか、椿を守りたいと思うようになり、そして好きになりました。大好きになりました。
出会ってくれて、ありがとう。
君は、お母さまの事があって、自分の事が嫌だと思ってるかもしれない。
もしかしたら、生まれてこない方が良かったんじゃないかって、思った事もあるんじゃないかな……。
でもね、椿。
僕は、君が生まれてきてくれて良かった。
僕と出会ってくれて良かった。
僕を選んでくれて良かった。
ありがとう。
この運命に感謝します。
:09/03/15 02:39
:SO906i
:☆☆☆
#644 [向日葵]
椿、ギンリョウソウって知ってますか?
僕が、君と会った時、椿はその植物みたいな印象を受けました。
目立たなく、暗い場所にひっそりといる……そんな風に。
でも今は違います。
ギンリョウソウは、確かに光の届かない暗い場所に小さく咲いていますが、その白い花は鬱蒼とした闇に映え、心を和ませてくれる。
椿は僕にとってそんな存在です。
かけがえのない、たった一人の大切な人。
:09/03/15 02:40
:SO906i
:☆☆☆
#645 [向日葵]
僕は、君が知ってる通りこんな奴だから、これからの長い時間、君に迷惑をかけると思う。
それでも、支えてくれたら嬉しい。
僕も、君を命にかえても守るよ。
だから一生、そばで笑っていて下さい。
椿、好きです。大好きです。
いや…………
心から、愛しています。
妻・葵 椿へ
夫・葵 要より
:09/03/15 02:41
:SO906i
:☆☆☆
#646 [向日葵]
読み終えた要は、丁寧に便箋を折り、また封筒にしまった。
膝を折り、椿と同じくらいの目線にしてから、椿の手をとり、その手紙を渡す。
「椿、幸せになろうね。世界一、幸せにするね」
柔らかく微笑みながら、要は言った。
固まっていた椿は、突然顔を歪ませて、手紙を顔に押しつけて泣き出した。
嗚咽が漏れてしまうほどに……。
「は……っ、はい、……はいっ……!」
何度も返事をする椿を、要は抱き寄せる。
:09/03/15 02:47
:SO906i
:☆☆☆
#647 [向日葵]
日差しが温かくて、余計に涙が流れる。
私も愛してます。
まだ恥ずかしくて、口にする事は出来なかったが、椿は強く思った。
「なーかしたー、なーかしたー」
聞き慣れない声に、二人は顔をあげる。
「折角の結婚式に、何を泣かせているんだい」
意地悪そうな笑みをたたえた男性と、隣でにこにこ笑っている女性がこちらへ向かってくる。
その二人を見た途端、要は驚いて立ち上がった。
:09/03/15 02:51
:SO906i
:☆☆☆
#648 [向日葵]
「父さんっ!母さんっ!」
それを聞いて、椿は要よりも驚き、急いで止まらぬ涙を抑え、立ち上がった。
「いやぁ、なんとか間に合った間に合った」
飄々と、憎たらしささえ感じる要の父は若く、そしておしゃれだった。
母もまた綺麗だ。
要の父は、要の前までくると、要より背が高く、ニヤリと笑いながら要の頭をペシペシと叩く。
「さすが俺のせがれ。粋な事すんじゃねえかよ。意外とお前ってポエマーだな」
からかう父の言葉に顔を赤らめる要。
何かを言い返したいが、何を言おうか迷っている内に父は椿を見た。
:09/03/15 02:57
:SO906i
:☆☆☆
#649 [向日葵]
目が会った椿は急いで頭を下げる。
要の父は、さっきの意地悪な雰囲気を消し、優しげな目をして椿を見た。
「君が椿さんだね。頭をお上げになって下さい」
そろりと椿は顔を上げ、要の父を見た。
「ご挨拶いたしませんで、すみませんでした」
「いえいえ。あなたの事は要からよく聞いていました。とーってもあなたに惚れ込んでるみたいで、コイツからのメールを読む度、滲み出る笑いをこらえる事は出来ませんでした」
要をいじめるみたいな口調だが、そこに愛情を感じた椿は微笑む。
:09/03/15 03:02
:SO906i
:☆☆☆
#650 [向日葵]
「これからは、俺、いやいや、私達共々、仲良くしましょうね」
「はい、よろしくお願いします」
ジューンブライドという、結婚式の魔法。
幸せになれると椿は思った。
空を見上げれば、梅雨時なのに空は青く、天にいる母も祝福してくれてる気がした。
そして思う。
きっと母も、幸せな花嫁だったのだろうと……。
:09/03/15 03:07
:SO906i
:☆☆☆
#651 [向日葵]
[第15話]
高校も卒業し、椿は要宅に住む事になった。
家を出る時はやっぱり寂しかった。
何せ18年間この家にいたのだから。
要は好きな時に帰る事を許してくれた。
でも椿は、出来るだけ要のそばで仕事を手伝いたいと思ってるので、あまり帰らないようにしようと心を決めていた。
そんな日々も慣れてきた、1年後の事だった。
「椿、こんな事言っていいかわかんないけど……太った?」
思わず持ちかけていたカップを、ショックで落としそうになる。
:09/03/15 03:12
:SO906i
:☆☆☆
#652 [向日葵]
今日は授業がないからと、美嘉が遊びに来て、今は仲良くお茶していた。
「え…………、ええっ!?本当ですか……っ!?」
「まあ椿はそれでやっと標準だけどね。前と比べて、すこーしふっくらしたかなってくらいよ。気にする事ないって!」
言ったのは美嘉なのに、美嘉は気にしないかのようにお茶を飲む。
「でも椿、綺麗になったよねなんか。やっぱりエステとか行くから?」
「僕がいるからに決まってるじゃないか」
二人がいる部屋に、要が入ってきた。
:09/03/15 03:17
:SO906i
:☆☆☆
#653 [向日葵]
少し伸びた前髪をかきあげた要は、背伸びをしてこちらへ歩いてくる。
「アンタと椿の美貌がどう関係あんのよ」
テーブルの上にあるクッキーをひょいとつまみ、口に入れた要は、椿の隣に腰かける。
「そりゃ僕が愛情をそそいでるから」
「やっぱりアンタって馬鹿なんだね」
真顔で言い合う。
相変わらずのやりとりに、椿はクスクスと笑い声をあげる。
「だいたいアンタが言うといやらしく聞こえる」
:09/03/15 03:25
:SO906i
:☆☆☆
#654 [向日葵]
「まあ君の想像に任すよ」
「否定無しだと生々しいからやめて」
椿はまた笑う。
「お仕事は終わりましたか?」
椿も手伝っていたが、美嘉が来たので許しをもらって抜けさせてもらった。
「うん。一段落したよ。だから来たの」
「そろそろ美嘉も帰るよ。邪魔しちゃいけないだろうし」
かばんを持った美嘉は立ち上がった。
見送る為、二人は玄関まで美嘉と一緒に行く。
:09/03/15 03:30
:SO906i
:☆☆☆
#655 [向日葵]
「じゃあね椿、またメールするよ。あんまり要の好き勝手させちゃ駄目だかんねっ」
「み、美嘉ちゃん……っ」
顔を赤くする椿に、美嘉はニヒッと笑って帰って行った。
ドアが閉まると同時に、椿は「うっ」と唸って胸元を押さえた。
異変に気づいた要が、椿の顔を覗き込む。
「椿?どうした?」
「あ……。いえ、なんでも」
「そう?」
:09/03/15 03:34
:SO906i
:☆☆☆
#656 [向日葵]
:09/03/15 03:36
:SO906i
:☆☆☆
#657 [向日葵]
要は歩いて行ってしまった。
椿はその後ろ姿を見ながら気持ち悪い部分を自分でさする。
さすっても、気分の悪さは優れない。
近頃、体が丈夫になった気がして、はしゃぎすぎていたのが負担になっていたのだろうか。
「よ、お姫さん」
後ろから声がするので、椿は振り返る。
そこには、赤茶色した髪の毛を後ろで結った、白衣を着た女の人がいた。
「明智先生」
「明智(あけち)」と呼ばれるその人物は椿ににこって笑いかける。
:09/03/21 02:47
:SO906i
:☆☆☆
#658 [向日葵]
本名、明智 英美(ひでみ)は、葵家の専属医師だ。
要宅には仕事部屋があり、週に何回か来る事になっている。
もちろん、別の場所にある病院の医師でもあり、かなり優秀らしい。
「ん?んん?」
明智は椿の顔をじろじろ見る。
見られている椿は落ち着かず、困惑する。
「お姫さん、なんか雰囲気が違うね」
今日は美嘉も明智もなんなのだろうと、椿は首をひねる。
「もしかして……」
明智が呟く。
:09/03/21 02:53
:SO906i
:☆☆☆
#659 [向日葵]
「先生……?」
「お姫さん、王子さま呼んで、ちょっと外の私の病院まで来て」
深刻な雰囲気に、椿は不安を隠せなかった。
――――――――――…………
「へ……?」
椿と要は診察室の中で口を揃えて呟き、目をまんまるくさせた。
「だからね、もう一回言うよ。お姫さんのお腹に、もう一つ命が宿ってる」
つまりは。
「こ、子供っ!?」
要が声をあげる。
椿も目を見開き、口を笑みの形にした。
:09/03/21 02:58
:SO906i
:☆☆☆
#660 [向日葵]
「やったね椿いっ!!」
要は椿に抱きついた。
二人の間に幸せムードが漂う。
―――が、明智の表情はやはり優れなかった。
「先生……?」
椿がゆっくりと呼ぶ。
「二人とも、よく聞いてね。子供が出来た事は喜ばしい事だ、だけどね……お姫さんの体が……」
「え……」
話はこうだった。
椿の体は、前に比べれば驚く程よくなっていた。
だが、もともと体力がなく、出産に耐えれるかどうかがわからない状態に今あった。
:09/03/21 03:03
:SO906i
:☆☆☆
#661 [向日葵]
椿の体を考えるならば、授かった命をあきらめてしまうか、それとも、産むか……。
「あたしからは何も言えない。お姫さんの命も、授かった命も大切だ。だから、二人にはよく考えてほしい。あたしからは、以上だ……」
重い空気が、診察室を覆いつくす。
要は頭が混乱しそうになっていた。しかし椿は、お腹を柔らかく手のひらで包み、シャンと背筋を伸ばしたままだった。
――――――――…………
「産みます」
今は帰りの車の中だ。
静かに、けれどはっきりと、椿はそう言った。
:09/03/21 03:08
:SO906i
:☆☆☆
#662 [向日葵]
要は眉を寄せて椿を見る。
「椿……。でも……もう少し、考えないか……?」
「私は、命にかえてもこの子を産みます。要さまに、会わせてあげたいんです」
「……」
要は何も言わなかった。
要にだって決めれる訳がない。
どちらも大切な命。
簡単にどちらかを切り捨てるだなんて非情な事は出来ない。
だからと言って、無責任に産めとも言えなかった。
どっちつかずな自分の気持ちに、要は吐き気がしそうだった。
:09/03/21 03:12
:SO906i
:☆☆☆
#663 [向日葵]
家に着いて、椿が家に入ろうとすると、要が椿の腕を引いた。
そのまま手を握って、ゆっくりと庭を歩き出した。
綺麗に剪定された植え込みからは、いい香りがする。
色とりどりの花壇の前で止まり、要は深呼吸した。
「マイナスに、考えちゃいけないよね」
椿は要を見る。
要も椿を見つめて、ぎこちなく微笑んだ。
「体力が無ければ、つければいい。だからさ、こうやって、毎日散歩しようか、椿」
その答えを聞いて、椿は嬉しそうに笑った。
:09/03/21 03:17
:SO906i
:☆☆☆
#664 [向日葵]
「はいっ……」
「しかし、どっちだろうね」
椿のお腹に触れようとして、要は躊躇う。
どうしたのかと、椿は要を見ると、要が照れ臭そうに笑う。
「面白いよね。ここに小さな宝物がいるかと思うと、壊れないか心配で、触るのさえ怖いよ」
要の言葉に、椿は笑う。
そして要の手をとると、優しく自分のお腹へと当てた。
その上から、椿は自分の手を重ねる。
「大丈夫です。触れれば触れる程、この子が喜びますよ」
椿がいとおしそうに、お腹を見つめる。
その姿が、また要はいとおしくて、椿を柔らかく抱き締める。
:09/03/21 03:22
:SO906i
:☆☆☆
#665 [向日葵]
でも、やはりどこかぎこちないその腕に、椿はクスリと静かに笑った。
椿は安心して要に身を預ける。
春の日差しに当たっているように、椿の心はほっこりと幸せに満ちていた。
しかし要は、やはりどこか迷っているように、腕の中にいる二つの命を大事に包んだ。
―――――――――…………
「わーっ!ホントにいっ!」
越宅に遊びに来た椿は、越に赤ちゃんの事を言った。
越はキラキラと、椿のお腹を見る。
「なにがあ?」
:09/03/21 03:27
:SO906i
:☆☆☆
#666 [向日葵]
越の妹、苺が、越の膝に乗りながら聞く。
「椿ちゃんのお腹に、赤ちゃんがいれのよ」
「ほあーっ!いちご、あかちゃんだっこするー」
「はい。いっぱいしてあげてください」
苺は満面の笑みで頷くと、兄の空に呼ばれ、出て行った。
しかし入れ替わりに、越の恋人である柴が入ってきた。
越には慣れた事なのか、柴が入ってきても特に気にはしなかった。
「で、どうかしたの?」
:09/03/21 03:32
:SO906i
:☆☆☆
#667 [向日葵]
「え?」
「相談があったから、うちに来たんでしょ?」
椿は急にシュンとする。
うつむいて、言いにくそうにする。
「実は……」
赤ちゃんについて、椿は越に話した。
話を聞いていくうちに、越の顔はだんだんと深刻になった。
「……そう。で、要くんはなんて?」
「一緒に頑張ろうと言って下さいました」
越は自分の事のようにホッと胸を撫で下ろす。
:09/03/21 03:35
:SO906i
:☆☆☆
#668 [向日葵]
「でも……。私が迷い始めてしまいました」
「え……」
椿は数日前、こんな会話を聞いた。
――――――――
―――――――――――
「大久保、僕は怖くて仕方ない」
椿が要の仕事部屋の前を通った時だった。
つい声がしたので、そこで足を止めてしまった。
「もし、椿も、子供も、僕は失う事になったら僕はどうしたらいいと思う?」
椿は目を見開いた。
:09/03/29 03:04
:SO906i
:☆☆☆
#669 [向日葵]
「要さま、弱気はいけません」
「分かってる。でも、不安がつきまとうのは仕方ないだろ……。僕は……それ程強い人間じゃない……っ」
表情は見えなくても、その苦しそうな声に、椿は顔を歪ませた。
もしかして、このままこの子を諦めた方が、要の為でもある……?
椿はお腹に手を触れた。
でも撫でる度、いとおしさが溢れてくれば、そんな事考えたくもなかった。
大切な、大切な一つの命。
そんな簡単に、手放せる訳がなかった。
:09/03/29 03:08
:SO906i
:☆☆☆
#670 [向日葵]
椿はお腹を抱えるようにしてその場に座り込み、涙を流した。
自分は、どうすればいい……?
どうすれば要も、この子も、傷つけないですむ?
ああ……要は、ずっとこんな風に悩んでいたに違いない。
なのに自分は、自分の事しか考えてなかった。
要の気持ちなんて、これっぽっちも……考えてなかった。
――――――
――――――――――
「そう思ったら、何が一番正しい選択か、分からなくなっちゃったんです……っ」
思い出して、椿はまた涙を流した。
:09/03/29 03:11
:SO906i
:☆☆☆
#671 [向日葵]
そんな椿を、越はただ頭を撫でてやるしか出来なかった。
――――――――………………
ひとしきり泣いた椿は、照れ臭そうに謝ってから帰って行った。
椿を乗せた車を、越はみつめ、悩んでいた。
「難しいね……」
隣にいた柴が呟く。
「俺だって、そんな時、どうしたらいいか分かんないや……」
そう呟く柴の手を、越はキュッと握る。
「……うん。……そうだね」
きっと、最後まで、悩み続けるだろうなと、越は思った。
:09/03/29 03:15
:SO906i
:☆☆☆
#672 [向日葵]
それでも、悩みぬいた先に、何かいい答えが待っていると信じている。
だから椿もそうであって欲しいと、越は車が行ってしまった方をしばらく見つめていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
車に揺られながら、椿は体の疲れを感じ、目を瞑る。
そういえば、最近ちゃんと寝てない気がすると思いながら、段々と意識が遠のいていく。
気がつけば、いつの間にか要宅ではなく、実家にいた。
でも、自分の体は動かない。
かと思えば、誰かの力によって、動き出した。
そして薄々気づきつつあった。
:09/03/29 03:20
:SO906i
:☆☆☆
#673 [向日葵]
これは、母のお腹の中だ。
見慣れたドアから、若い父が出てきた。
「お願いだから、安静にしていてくれ。それでなくても君の体は……」
困っている父に対し、心地よい母の声が耳に届く。
「あらあら、そんな事ではこの子に笑われてしまいますよ」
「笑われたっていい。未だ、私はどうしたらいいか迷ってる情けない男なのだから」
母の手が、父の手に重なる。
「大丈夫です。例え私がダメでも、この子はちゃんと生まれてきてくれますわ。私の分も、強く……。ね、椿……」
:09/03/29 03:24
:SO906i
:☆☆☆
#674 [向日葵]
お腹をさする母。
しかし椿は頭を撫でられている気がした。
だからか、強く思う。
私は、絶対に生きる。
そう強く思う。
「この子は今の事、きっと全部見えてますよ。だからきっと、あなたを悲しますような事しませんわ」
まるで全て分かってるかのように母は言った。
そして次の瞬間、柔らかな温かい光に包まれた。
と思えば、淡い黄色い空間に椿はたたずんでいた。
「ね……椿」
声がして、驚いて椿は振り返れば、優しい笑顔を浮かべた母が立っていた。
:09/03/29 03:29
:SO906i
:☆☆☆
#675 [向日葵]
「母さま……っ!」
思わず走り、椿は母の元へ。
走った勢いのまま、母に抱きつく。
「あらあら駄目よ。この子がびっくりしちゃう」
フフフと笑いながら、母は椿のお腹を、さっき撫でていたように優しい手つきで撫でる。
その感触が、あまりにもリアルで、椿は夢かどうかわからなくなった。
試しに頬を軽くつねってみるが、やっぱり痛いか痛くないか分からなかった。
「母さま……。私、私どうすればいいかわからないです……っ」
母が目の前にいるせいか、急に甘えたくなって、椿は弱音を吐き出す。
:09/03/29 03:34
:SO906i
:☆☆☆
#676 [向日葵]
「もう嫌です……っ。答えが見つからない……っ」
「落ち着いて椿……。大丈夫だから」
母は微笑み、椿の頬を両手で包む。
温かい。
本当にこれは夢……?
「この子は元気ねぇ。早くあなたたちに会いたがってる」
お腹を見つめながら母は呟く。
「私もおばあちゃんかしら?フフ、嬉しい、孫が見れるだなんて」
「で……でも……」
私は……。
:09/03/29 03:37
:SO906i
:☆☆☆
#677 [向日葵]
「あら不安?じゃあ母さまがおまじないをかけてあげる」
そういうと、母は椿のおでこにキスをおとし、また椿のお腹に手をあてると、目をゆっくりと閉じる。
するとしばらくして、お腹がほかほかと温かくなってきた。
何故か、自分の中の命を強く感じれる。それと同時に、体に力がみなぎる気がした。
「これで平気よ」
そういうと、また辺りが光で包まれ出した。
「か、母さま……っ」
「私は、いつまでもあなたたちを見守っているから」
:09/03/29 03:42
:SO906i
:☆☆☆
#678 [向日葵]
―――――――――…………
「椿さま、到着いたしました」
椿は目をゆっくりと開けた。
「お疲れのようで。お部屋でゆっくりなさってください」
椿は車を降りた。
降りて、要宅を見つめる。
疲れてはいなかった。
むしろ体は軽く、そしてお腹は温かいままだった。
あれは、やはり夢じゃない?
母がつかの間の魔法を使ったのだろうか。
それでも、椿は決意をした。
もう、絶対に迷わない。
足を進め、家の中へと入っていく。
真っ直ぐ向かった先は、要の仕事部屋だった。
:09/03/29 03:47
:SO906i
:☆☆☆
#679 [向日葵]
ドアをノックする。
出てきたのは、要本人だった。
「椿……。どうしたの?」
いつもより、凛とした表情の椿に、要は首を傾げる。
「今、お時間よろしいですか?」
「あ……うん」
ソファに二人して座る。
要は戸惑いながら椿を見る。
「要さま。私……やっぱり産みたいです」
「…………。うん。分かってるよ」
「いえ、要さまは私とこの子を疑ってます」
:09/03/29 03:51
:SO906i
:☆☆☆
#680 [向日葵]
「疑ってる?」
要は何がなんだか分からなくなってきて混乱しだす。
でも椿は、冗談を言ってる訳でも、茶化している訳でもなさそうだった。
「私と、この子が、助かる訳ないとお思いなのでは?」
言われて、要は眉を寄せる。
「私は……確かに弱いかもしれない。でも、要さまが思っているより強い人間です。もちろん……この子だって」
要は目を伏せる。
ゆっくりと息を吐き、椿を見る。
「その通りかもしれない。……だって僕は、こんなにも恐れてるから。君や、この子が……全てが、なくなってしまうかと思うと……気が狂いそうだよ」
:09/03/29 03:56
:SO906i
:☆☆☆
#681 [向日葵]
椿はクスリと笑う。
「要さま、お父さまになられるんですよ。お父さまが不安がってましたら、この子まで、不安になって余計に会えないですよ」
さらりとそんな事を言うから、要は驚いて椿を見る。
でも椿は、いとおしそうにお腹を撫でる。
まるで、褒める時、頭を撫でるみたいに……。
「この子は、今きっと、全て見ています。だから、要さまが悲しむような事はしません。もちろん、私だって……」
椿は要の手をとり、優しく包む。
「私を信じて下さい。大丈夫です。私は分かります。必ず、要さまを笑顔にします」
:09/03/29 04:02
:SO906i
:☆☆☆
#682 [向日葵]
母は、父との約束を守れなかった。
命にかえてもだなんて、冗談だっただろう。
誰よりも、父に笑顔になって欲しいと願っていただろう。
だからこそ、椿に願いをたくしたのかもしれない。
母は、椿を産んで亡くなった。
要はだからこそ、椿を心配した。
それが分かるから、椿は言いたかった。
私は母ではない。
私だ、と。
運命は、必ずしも同じじゃないから。
だから私は、必ず要の元へ戻ってくる。
椿はそう言いたかったのだ。
:09/03/29 04:08
:SO906i
:☆☆☆
#683 [向日葵]
その意味を感じとったのか、要は全身の力を抜く。
かと思えば、涙がぽたりと一粒落ちる。
椿の言葉で、不安の鎖が取れたのだろう。
要だって、椿と同じくらい、いや、それ以上に悩んだ。
それは、椿も、椿の中に宿る命も、大切が故に。
要は椿とおでこを合わせて微笑む。
「うん。必ず、笑顔になる。それで、この子が誇れるような父親になるよ」
その言葉に、椿も涙を流した。
「……はい」
:09/03/29 04:12
:SO906i
:☆☆☆
#684 [向日葵]
:09/03/29 04:18
:SO906i
:☆☆☆
#685 [向日葵]
二人は産まれてくる事を楽しみに待った。
要が仕事が休みの時は、散歩に出掛けたし、椿は産まれてくる赤ちゃんの為に手編みで帽子や靴下を作る。
小さな小さなその靴下が出来れば、そっと手に取り、微笑む。
ある日、要が訊いた。
ちょうど、5ヶ月を向かえる頃。
「椿。そういえば、性別ってもう分かるはずだよね?きいてないの?」
赤ちゃん用の玩具を見ていた椿は、こくりと頷いた。
「楽しみは、とっておくタイプですから。要さまは、気になりますか?」
:09/04/03 02:27
:SO906i
:☆☆☆
#686 [向日葵]
すっかり、母親の顔になっている椿を、要は眩しそうに目を細め、見つめた。
ゆっくりとした動作で、椿を抱き締める。
「いや、僕も楽しみにしておくよ」
毎日が幸せだった。
まるで、温かい光に包まれているように。
これは、母の力?
椿はそう思わずにはいられなかった。
そして、いよいよ、臨月になった。
初出産の椿より、何故か要の方が落ち着きがなかった。
:09/04/03 02:31
:SO906i
:☆☆☆
#687 [向日葵]
「椿、何か変だと思ったらすぐに言うんだよ?ああそれと、明智にはちゃんと色々頼んでるから心配はいらないからね。それと……」
「要さま」
クスクスと笑っている椿は、大きくなったお腹を優しく撫でながら要の手を取る。
「そんなにすぐには産まれませんから。とりあえず座りましょう」
手を引かれる要は、少々情けなくなっていた。
自分がこういう落ち着いた態度でいなくちゃいけないのに、取り乱してばかりだ。
「この子に笑われちゃいますよ」
:09/04/03 02:35
:SO906i
:☆☆☆
#688 [向日葵]
複雑な顔をする要に、また椿は笑う。
「いよいよ、会えますね。どんなに、待ち望んでいたか……」
椿がお腹を撫でるのにならって、要も撫でる。
「ん……男の子のような気がする」
「そうですか」
「椿はどっちがいい?」
「どちらでも」
「欲がないなあ」
「元気に産まれてくれたら、それだけでいいんです」
「そうだね」と呟いて、要は椿の肩を抱き寄せると、頬にキスをする。
:09/04/03 02:39
:SO906i
:☆☆☆
#689 [向日葵]
「どちらにしても、可愛い僕らの子供だよ。世界一、いや宇宙一可愛いに違いない」
「はい……」
それからまた、数日間、何事もなく過ごした。
要は、とにかく椿に安静にするようにと、椿にあまり仕事を手伝わせなかった。
その間、椿は、花壇の世話をしたりするのだった。
「もうすぐで、この花の蕾が開きそうですわね」
椿についているメイドが言う。
:09/04/03 02:43
:SO906i
:☆☆☆
#690 [向日葵]
淡いピンク色の花。
椿が前に種を植え、育ててきたのだ。
それに、じょうろで水をやる。
「花が開く瞬間が見れたらいいんですけど……。……っ?」
椿はお腹をおさえる。
確かに今、チクンと痛みがあった。
気のせいかと思えば、またチクンとくる。
それは段々と時間差がなくなり、痛みは、次第に増していく。
「椿さま……?椿さま!大丈夫ですかっ!?」
椿は顔をしかめる。
ああ、あなた、産まれてくるのね。
:09/04/03 02:48
:SO906i
:☆☆☆
#691 [向日葵]
――――――――――…………
分娩室に椿が入って、30分が経った。
椅子に座っても落ち着いていられない要は、先ほどから立ったり座ったりを繰り返していた。
そこに、椿の父が、病院へ来た。
要は一礼する。
「椿は?」
「まだです。30分ほど前に入ったままです」
「そうか……」
父も落ち着かず、近くの窓から外を眺めたり、壁によっかかったりする。
:09/04/03 02:52
:SO906i
:☆☆☆
#692 [向日葵]
「椿は……」
「……え」
「とても、軽く産まれてきてね。なんグラムかは忘れてしまったけど、私は毎日心配だったよ」
要は黙って話を聞く。
「それでも、生きようと、力強く泣く姿に、私は涙が溢れたよ。命というのは、本当に素晴らしいものだと思えた」
「……そうですね」
要も、今は分かる。
自分が父親になるんだと思えば、椿の父のように、ああなんて素晴らしいと思った。
「椿は、体が危ないそうだね」
:09/04/03 02:56
:SO906i
:☆☆☆
#693 [向日葵]
やはり、体の事は、安心出来ないと明智に言われた。
それでも今日まで、二人は光を信じて過ごしてきた。
「でも、私は、椿は大丈夫な気がするよ」
椿の父は、いとおしそうに、分娩室のドアを見る。
その中の椿を見守るように。
もしかすると、妻に重ねているのかもしれない。
要も、ドアを見つめる。
頑張れ……。
それしか言えないけど、要は思った。
―――――――
――――――――――
:09/04/03 03:00
:SO906i
:☆☆☆
#694 [向日葵]
――――――どれくらい、時間が経っただろう。
時計を見るのも、落ち着きなく動くのも疲れてしまった要は、ただただ椅子に座り、祈るように手を組み合わせて、額に押しつけていた。
目を、ふと閉じた時だった。
(…………ま)
「要は目を開ける」
何故か要は、真っ暗な空間にいた。
でもその空間の四方八方には、星のようにチカチカと小さな光が瞬いていた。
どうなってる?
疲れて寝てしまったのか?
:09/04/03 03:05
:SO906i
:☆☆☆
#695 [向日葵]
(と……ま……)
また聞こえた。
可愛らしい声だ。
温かい、黄色い光が、要の腕に宿る。
触ってみれば、ふかふかとしていた。
それはまるで、羽毛のよう。
(父さま……やっと、会えた……)
その声は、その黄色い光から聞こえてきた。
「……君は……」
言いかけた時だった。
突然、大きな泣き声が聞こえてきた。
要はハッとした。
すると、そこは元の病院だった。
:09/04/03 03:10
:SO906i
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#696 [向日葵]
腕の中に、もう光はなかった。
ガチャと開けられると、白い布にくるまれたものを、看護婦が抱いて歩いてくる。
近づくにつれ、泣き声は大きくなっていった。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
要は顔を覗き込む。
小さな小さな口を、目一杯開けて、その子は泣いていた。
ああ……僕たちの光だ……。
「あの、看護婦さん、娘は……」
父に言われ、要はハッとした。
:09/04/03 03:14
:SO906i
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#697 [向日葵]
「椿……っ!!」
要は分娩室に入ろうとしたが、明智に止められた。
「落ち着きな。アンタお父さんだろ。ちゃんと姫の事話すから」
明智は淡々と語り出した。
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――――――――――――
ギンリョウソウ。
今思えば、もう少しマシな植物があっただろうに。
苦笑しながら、要はある所へ向かっていた。
それは、小さな挙式場。
:09/04/03 03:19
:SO906i
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#698 [向日葵]
「とうさま?」
小さな手で、愛娘が要の人差し指を引っ張る。
「いまからどこにいくの?」
「母さまのお友達の結婚式だよ。さっき言っただろ?希望」
希望(のぞみ)。
愛娘につけた名前だ。
要が絶対に希望がいいと言って、回りの意見もきかずにつけたのだ。
「ふうん?」
何度説明しても分からない希望に笑いかけて、頭を撫でてやる。
黒く、綺麗な髪は、椿にそっくりだ。
:09/04/03 03:23
:SO906i
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#699 [向日葵]
「あ、要!こっちこっち!」
式場に着けば、美嘉が手招きする。
「あ、希望っ!大きくなったねーっ。いくつになったの?」
「よーんっ」
短い指で、必死に数を表す。
そう、もうあれから4年も経つのだ。
要ももう少しすれば24歳になる。
「とうさまー。かあさまはー」
「……きっと来るよ」
要は空を見上げた。
今日はいい天気だ。
:09/04/03 03:28
:SO906i
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#700 [向日葵]
自分達の挙式も、そういえば天気が良かった。
そして椿は、今まで見た中で、思わず見とれてしまうほど、綺麗だった。
「あーっ!」
希望が指をさす。
その方を見て、要は微笑む。
「椿」
「かあさまーっ!」
「要さま、希望、美嘉ちゃん」
椿は、ゆっくりした足取りでこちらへ向かってくる。
希望は待ちきれないのか、走って椿を迎えに行く。
「お待たせしました」
:09/04/03 03:32
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#701 [向日葵]
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「椿は……っ!」
希望が誕生した日、要は明智の様子から、最悪の事態が起きたと思った。
あまりに、明智が話さないから、苛立つ。
「早く喋れっ!」
「わーった。わーったからあまり騒ぐな」
フゥとため息をついて、明智は口を開いた。
:09/04/03 03:34
:SO906i
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#702 [向日葵]
「お姫はな……」
ドクンと、鼓動が不規則になる。
音が出るほど、唾を飲み込むのに力が入る。
「……。びっくりするぐらい元気だよ」
思わずこけそうになるのを要は必死に耐えた。
「いっやーあれだけ心配してた体力もなんのその。母の底力?すごいねー」
感慨深げに頷くから、要は歯を食い縛る。
「だったら……深刻な雰囲気醸し出すなあーっ!!」
迷惑なほど、病院に要の叫びが響き渡った。
:09/04/03 03:39
:SO906i
:☆☆☆
#703 [向日葵]
―――――――
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「越と柴くんもやっと結婚かー」
チャペルに向かいながら、美嘉が言った。
「結婚しても、とりあえずはあの家にいるんだってー」
「柴くんが我慢させられるんじゃ……」
同じ男として、要が柴に同情する。
「今までそんなんだから慣れたって」
その言葉に、三人は笑う。
唯一、希望だけが首を傾げていた。
「そういえば椿、どうして遅れたの?」
:09/04/03 03:43
:SO906i
:☆☆☆
#704 [向日葵]
椿が遅れた理由を、美嘉は知らない。
椿は少し照れ臭そうに笑う。
「検診です」
「え、具合悪いの!?」
「いえ……赤ちゃんです」
一瞬、美嘉は固まり、跳び跳ねるようにして驚いた。
「え、ええーっ!!うっそーっ!!」
「もうすぐ3ヶ月だっけ」
「はい」
望まなかった婚約。
そしていつの間にか求めあって結婚。
人生も、運命も、どうなるかなんて分からない。
だから、楽しい。
:09/04/03 03:49
:SO906i
:☆☆☆
#705 [向日葵]
友がいて、愛する子供がいて、大切な人がいて……。
こんなに幸せな事はない。
「ねえ椿、そういえば、ずっと前に、ギンリョウソウって何?って訊いたよね。わかったの?」
椿はとびきりの笑顔で頷いた。
「心を照らしてくれる、大切な存在の事ですわ」
*Fin*
:09/04/03 03:52
:SO906i
:☆☆☆
#706 [向日葵]
上の続きは気にしないでください
*ギンリョウソウ*END
:09/04/03 03:53
:SO906i
:☆☆☆
#707 [向日葵]
:09/04/03 03:56
:SO906i
:☆☆☆
#708 [乃愛]
:09/05/04 21:39
:F01A
:☆☆☆
#709 [ひな]
あげ(*´`*)
:10/01/10 11:52
:N905i
:☆☆☆
#710 [我輩は匿名である]
:10/01/10 13:08
:S001
:☆☆☆
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