ギンリョウソウ
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#251 [向日葵]
椿は「でも……」と小さく左右に首を振る。
心配する人は、他にいるかもしれない。
そう、例えば、彼が寝言で呟いた、あの名の人。
“ユイコ”
思えばあの日から、歯車が狂い始めた気がする。
寄り添った心は再び離れた。
そんな気がする。
彼は寄り添ったつもりなんかないかもしれない。
でも椿は、少なくともその時、彼に心を許す準備は出来ていたのだった。
:08/08/18 01:54
:SO906i
:☆☆☆
#252 [向日葵]
:08/08/18 02:13
:SO906i
:☆☆☆
#253 [向日葵]
:08/08/18 02:16
:SO906i
:☆☆☆
#254 [向日葵]
[第6話]
聖史の帰る日が段々と迫ってきた。
もし帰る時に、ついて来て欲しい等と言われたらどうしようと戸惑っていると、聖史は思いもよらぬ事を言った。
それは、長袖じゃないと寒いなと感じた朝の事だった。
「やっぱり再来週に帰る事にしたんだ」
「え?どうしてですか?」
「そりゃ椿ともっと一緒にいたいからだよ」
ストレートにそう言われては、顔を赤くするしかなかった。
その一方で気になる事があった。
要の事だ。
:08/08/20 01:38
:SO906i
:☆☆☆
#255 [向日葵]
何の連絡もないまま1週間がたった。
相変わらず連絡はない。
何度携帯を見て、ため息をついたことか。
あの倒れた時、やっぱり追いかければ良かったと、今更ながら椿は後悔していた。
「――き。椿、聞いてる?」
ぼんやりとしていた椿は聖史の声にハッとして顔を上げた。
「ごめんなさい……っ。なんでしょうか……?」
「もしかして、要くんが気になる?」
「い……いえ、あの……」
返事に困っている椿を、聖史はふわりと包みこんだ。
:08/08/20 01:44
:SO906i
:☆☆☆
#256 [向日葵]
「僕が、椿の心に入る隙間はもうないのかな……?」
聖史は優しい人だ。
入る隙間がないなんて言っては悲しむだろう。
それは隙間がないことなのだろうかと、椿は心の中で首を傾げた。
第一、椿は好きと言う感情がいまいち分からないでいた。
傷つけたくない人と、どうしても気になってしまう人は、どう違うのだろうか。
椿が答えないでいると、聖史はゆるりと腕をほどいて微笑む。
「ごめん。困らせるつもりじゃなかったんだ。それにしても、最近僕は椿にくっつきすぎだね。今日は帰るよ」
:08/08/20 01:50
:SO906i
:☆☆☆
#257 [向日葵]
額に触れるか触れないかのキスを落とし、聖史は颯爽と去って行った。
顔を赤くしながらも、聖史が帰った事に少しホッとしている自分に嫌気がさした。
―――――――――…………
「3針……ねぇ……」
自宅のベッドの上で、包帯を巻いた掌をヒラヒラさせながら要は呟いた。
今は痛み止めを飲んでいるから痛みはない。
こんなのじゃ仕事は出来ないと、しばらくの休暇を取ると言って部屋に引きこもったのは4日前の事。
:08/08/20 01:56
:SO906i
:☆☆☆
#258 [向日葵]
さすがに暇になってきた。
仕事をしたいが、肝心の利き手がこうでははかどる事もなく、結局ベッドの上で寝そべっている。
読書でもしようかと半身を起こした要は、読みかけの本の隣に置いてある携帯に目をやった。
「……はぁ……」
毎日のように、椿から電話やメールが来ていた。
だが自分は返せないでいた。
すると2日ほど前からピタリと来なくなった。
愛想をつかされたかと心配になり、何度返信ボタンを押したか。
しかし文を作成しているうちに指は止まる。
今更何を言ったらいいのかが分からない。
:08/08/20 02:00
:SO906i
:☆☆☆
#259 [向日葵]
押し倒すわ、強引に唇を奪うわ、泣かすわ……。
考えてみれば最悪な事しかしていないではないかと頭を抱える。
それでも、気持ちは伝えた。
ただ椿から何の返事も返ってこない。
毎日のメールからは、前の事ならきにするなという文や、今日どんな出来事があったのかが書かれていた。
今すぐ返事をしてくれないのは、要自身が言った最初の言葉や、突然の兄的存在が現れたせいだろうと考える。
最初の言葉は、これからの自分の誠実な接し方で帳消しにすると意気込んでも、あの聖史がやはり邪魔だと要はイラついた。
:08/08/20 02:06
:SO906i
:☆☆☆
#260 [向日葵]
苦々しいため息をはいた後、ドアをノックされた。
「要さま」
大久保だった。
「なんだ」
「お客様が来ていますが、お通ししてもよろしいですか?」
「もしかして」と、微かな期待が胸をよぎる。
「誰だ」
「早乙女 聖史さ……」
「通すな追い返せ」
大久保が最後まで言う前に要は言った。
なんで奴が来るんだ。
:08/08/20 02:10
:SO906i
:☆☆☆
#261 [向日葵]
大久保は部屋から出ていかない。
戸口で誰かと喋っている。
「あの、要さま。ならばドア越しに話さないかと、早乙女さまがおっしゃってます」
要は大久保に聞こえないように舌打ちした。
きっと要と喋るまで帰る気がないのだろう。
なら早く喋って早く帰ってもらった方が無駄な抵抗を続けるよりマシだ。
「分かった。大久保、下がっていいよ」
大久保は一礼すると、ドアを開けたまま去って行った。
要はドア近くの椅子に移動する。
:08/08/20 02:14
:SO906i
:☆☆☆
#262 [向日葵]
「久しぶりだね」
「君には2度会いたくなかったけどね」
「手の調子はどう?」
「言っただろ。柔じゃない。これくらい痛くも痒くもないね」
微かに笑い声が聞こえる。
なんだか馬鹿にされている気がした要は、青筋をこめかみに浮かべながらさっさと帰ってもらおうと用件を訊く。
「僕も暇じゃないんだ。何の用かな」
「それは失礼。確かめたい事があってね」
「雑談はいい。要点だけ言ってくれ」
:08/08/20 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#263 [向日葵]
「作戦なのかな?」
要はドアの方を向いて眉間にシワを寄せる。
「何が?」
「そうやって、拗ねてるみたいに頑なに椿に会わないのは、彼女の気をひく作戦なのかって訊いてるんだよ」
「拗ねてるだと……?」
事の元凶の奴が、こちらの心情も知らずに馬鹿にして……。
要は立ち上がるとドアに近づき、聖史がいるだろう場所を思いきり拳で叩く。
「君には吐き気がするほどイラつくよ。拗ねてるだと?ふざけた事を言われたものだ。君に僕や椿の何が分かるんだっ!」
:08/08/20 02:23
:SO906i
:☆☆☆
#264 [向日葵]
言い終えてすぐに、反対側からもドンッ!と叩かれた。
「君のせいで……椿は僕に集中してくれない……。僕もそんなに気長じゃないんでね。作戦なら見事だねと、賛辞を贈りにきたんだよ」
冷静な口調だが、要と同じくらい彼もイラついているのだと分かった。
だからわざと要をイラつかせたのだろう。
「フェアに戦わないと言った筈だ。椿が僕で頭がいっぱいなら、僕は万々歳だね」
「なら僕にも考えがある。椿を今度帰る時に、泣き叫んでも連れて行くよ」
それを聞いた要は、戸口に出て聖史の姿を見つける。
聖史はドアに背を預けるようにして腕を組んでいた。
:08/08/20 02:29
:SO906i
:☆☆☆
#265 [向日葵]
「焦らなくても、君が姿を見せればそんな事はしないよ。僕も鬼じゃない。椿が嫌がるのを無理矢理……って言うのは好まない」
「今……僕が悩んでるって分かってて言ってるのか……っ」
どんな状況になろうと、自分が有利に立とうとしむける聖史。
そんな聖史に、要は歯噛みしながら睨みつける。
「フェアには戦わないんだろ?」
ニヤリと笑って、聖史は去って行った。
椿に会いに行かねば。
いや、会いたいんだ。
でも、どんな顔で、椿の前にいけばいいかが、要には分からなくなっていた。
:08/08/20 02:34
:SO906i
:☆☆☆
#266 [向日葵]
―――――――…………
「3針……ですか……」
聖史がいなくなったので、最近なかなか聞けなかった要の様子をメイドの佐々木に訊いて、椿は驚いていた。
「はい。どうもガラスで掌をお怪我されたそうで、痛みと熱があったので担当医に診てもらったところ、3針縫ったらしいです」
たしか要が怪我をしたのは右手。
私生活にも困っているのではないのだろうか……。
でも……。
「ありがとうございました。では……」
「え?椿さま……?」
:08/08/20 02:40
:SO906i
:☆☆☆
#267 [向日葵]
佐々木は少し驚きながら椿を呼び止める。
椿は首を傾げ、佐々木を見る。
「あの……お見舞いに行かれたりしないのですか……?」
「どうしてですか?」
「椿さまは……要さまにご好意があるのではと思いまして……」
椿は佐々木を見つめたまま固まった。
佐々木は続ける。
「こんな事言っては失礼なことを承知で言わせて頂きます……。聖史さまはとてもいい方です。お優しいですし、椿さまを大事にしてくれるでしょう。……ですが……。椿さまは、要さまと一緒の方が、椿さまらしくいるような気がします……」
:08/08/20 02:45
:SO906i
:☆☆☆
#268 [向日葵]
椿は今までの要との時間を思い出していた。
不器用で、でもどこか優しくて……。
弱い部分の自分を怒らないと言ってくれた人……。
「佐々木さん……。好きという感情は、私にはまだ分かりません。傷つけたくない人と、どうしても気になってしまう人はどう違うのでしょう……」
聖史は傷つけたくない人。
要はどうしても気になってしまう人。
どちらも大切な人。
でも椿には、どちらがより大切かなんて決めることは出来なかった。
「佐々木にも……分かりません……」
:08/08/20 02:49
:SO906i
:☆☆☆
#269 [向日葵]
佐々木は椿の両手をソッと握る。
「ですが、傷つけたくない人より、気になる人の方が、心が惹かれている気がします。気になるのは、もっとその人を知りたいから気になるのではないでしょうか……」
「もっと……?」と小さく呟く椿に、佐々木は優しく、まるで母のように微笑む。
「椿さまがもっと知りたいと思っている方を、お選び下さいませ。佐々木は、どちらの方になっても、椿さまがお幸せなら嬉しいですわ……」
椿は佐々木に心からの笑みを向ける。
佐々木だけは、この屋敷の中で、、唯一椿の理解者なのだ。
:08/08/20 02:54
:SO906i
:☆☆☆
#270 [向日葵]
「ありがとうございます……佐々木さん……」
・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋に帰った椿は佐々木に言われた事を色々と考えていた。
ふと顔を上げると、何かがピカピカ光っている。
携帯のランプだった。
手に取り、開くと、不在着信の知らせが表示されていた。
誰だと思い、ボタンを押す。
「え……っ」
驚くのも無理はないだろう。
その電話をかけて来た相手は、もう諦めかけていた要だったのだから。
「要……さま……?」
:08/08/20 02:58
:SO906i
:☆☆☆
#271 [向日葵]
どうして?なんて疑問が浮かび上がる前に、椿はリダイヤルを押していた。
耳の奥で、呼び出し音と鼓動が合唱している。
出て……。
出て……お願い……。
―――――しかし。
椿の願いは届かなかった。
いつまでも鳴り響く呼び出し音に、椿は絶望した。
でも冷静に考えれば、電話で話したところで、何を話せば分からないでいた。
「元気ですか?」なんて、怪我をしてる人に訊ける訳もない。
「大丈夫ですか?」と訊けば、きっと強がるだろう。
:08/08/22 00:41
:SO906i
:☆☆☆
#272 [向日葵]
部屋に敷かれている、ふわふわの絨毯の上に、椿はペタリと座り込む。
[気になる人は、その人をもっと知りたいのでは……?]
もっと……知りたい……。
確かに要の事はもっとよく知りたい。
彼の言葉はほとんどが最初と矛盾していて、はっきり言ってどれが本当か分からなくなってきている。
態度だって、優しくしてくれたと思ったら、今みたいに突き放したり……。
それに、訊きたい事も沢山……。
陽射しが、温かく椿を包む。
:08/08/22 00:48
:SO906i
:☆☆☆
#273 [向日葵]
その温かな光を受ける事で、最近の疲れを癒そうとした。
そこで彼女は首を傾げたくなった。
……疲れ?
何も疲れてなんて……。
[要さまといる方が……]
そんな佐々木の言葉を思い出す。
聖史といる事が、椿にとって疲れる事なのだろうか。
あんなに優しい人を……。
そんな事思っちゃいけない。
いいや、思う資格なんて、ないのに……。
――――――――…………
美嘉はドキドキしていた。
やっぱりこんなのしなくていいのでは……?
:08/08/22 00:53
:SO906i
:☆☆☆
#274 [向日葵]
けれど、椿の笑顔がいつにも増して辛そうなのだ。
どうしたか訊いてもきっと本人は教えてくれない。
聖史は椿にはとっても優しいから、悲しませるような事はしないだろう。
なら、原因はただ1人だった。
先程、彼の従者だと言う人に部屋を案内してもらってから、美嘉は部屋の前でつっ立ったまま入ろうか悩みっぱなしだった。
「いいの……私だけが椿の理解者なんだから……」
呪文のように呟いて、息を吸い込んだ美嘉は、少し乱暴にドアをノックした。
中から返事が聞こえた。
勢いよくドアを開ける。
:08/08/22 00:58
:SO906i
:☆☆☆
#275 [向日葵]
要は美嘉を見ると、明らかに嫌そうな顔をする。
美嘉だって出来れば要と顔を合わせたくないが、今日はなんとしても言ってやりたい事が盛り沢山あった。
「ちょっと、アンタ仕事休んでるの?サボリ?」
「見て分かんない?け・が、してるんだよ」
ソファーに座っていた要は、立ち上がりバルコニーに続くガラス戸に歩いて行く。
ガチャりと開けた所で、美嘉に訊く。
「何か用なの?」
椿の部屋より広いんじゃないかと呆然としながら見ていた庶民の美嘉は、要の声にハッとした。
:08/08/22 01:09
:SO906i
:☆☆☆
#276 [向日葵]
もう冷たいだろう風を、スーツのズボンにカッターを着て、緩めたネクタイをしているだけの寒々しい恰好をしている要は、平然と受けていた。
まるで黄昏たいように、遠くを眺めて。
「えと……最近アンタ、椿にあってないの?」
「君には関係ないだろう」
「あるよ。椿は美嘉の大切な友達なの。中途半端にあの子の事接しないでほしいの」
「君はどちらの味方なんだ?君は僕が嫌いなんだろう?あの聖史さんとやらと椿がくっつけばいいとか思ってるんじゃないのか?」
冷ややかな笑みを、美嘉に向ける。
あまりの冷たさに、美嘉はゾクリとした。
:08/08/22 01:16
:SO906i
:☆☆☆
#277 [向日葵]
けど負けてはいられない。
美嘉を動かすのは椿を守るという使命感だけ。
「聖史兄ちゃんはいい人だけど、椿が望んでないなら意味がない。椿には心から好きな人とくっついて欲しい」
「だから僕に何をしろと?」
「椿に会ってあげて欲しいの」
「……話がまるで分からないよ。明確に説明してくれないか」
「だからぁ!椿はアンタが好きだと思うの!最近元気がないのは、きっとアンタに会いたがってるんだと思うから……。だってそうでしょ?聖史兄ちゃんが好きならいつもそばにいるのに元気ないなんておかしいじゃないっ」
:08/08/22 01:22
:SO906i
:☆☆☆
#278 [向日葵]
そんな事責められたってと要はため息をつく。
椿が自分を好きという図式が要の中で作る事が出来なかった。
彼女が元気ないというのは多分自分を怒らせてしまった後ろめたさと怪我の事が気になっている程度だろうと考える。
「……会わない」
「ちょっとアンタ……」
「いや、会えないんだ……」
美嘉は眉を寄せる。
「どういう事……?」
要はバルコニーに出る。
手すりに両手をついて、剪定されて綺麗な庭の木々を見つめる。
:08/08/22 01:27
:SO906i
:☆☆☆
#279 [向日葵]
「君も見ただろう。僕は椿にあんな事をした奴だ。僕は欲しいものはとことん貪欲でね。でも、そんな自分の欲を抑えれなかったからあんな事態を招いたんだ」
震える椿。
涙を流し、許しを請う姿はどれだけ胸を締めつけるものだったろうか。
聖史なんかに負けたくない。
椿が欲しい。
そうまでして、手にいれようとしたが、許せない。
そして……。
「少し……自分が恐いとも思った。この先、椿を壊してしまったら、どうしようとか……」
あの白い肌を、細い体を、自分が潰してしまったら……。
そう思えば、余計椿に会いづらくなっていた。
:08/08/22 01:33
:SO906i
:☆☆☆
#280 [向日葵]
こちらは真剣に悩んでると言うのに、驚くほどあっけらかんに美嘉は言った。
「なぁんだ。アンタも年相応な考え持ってんじゃん」
「は……?」
「誰だって好きな人の全ては欲しいし、貪欲にだってなるでしょうよ。潰してしまうかもとかマイナスな思考じゃなくってさ、どれだけ好きか分かってもらおうってプラスの思考で考えなさいよ」
要はぽかんとしていた。
どうしてあっさりと物事をそんな風に考えるのか、要には分からなかった。
すると美嘉はカラリと笑った。
「アンタ頭良いくせに意外にあったま悪いんだね!なんかちょっと親近感湧くわ」
:08/08/22 01:40
:SO906i
:☆☆☆
#281 [向日葵]
「はぁ……」
「でもっ!」
美嘉は要に指を突きつける。
ビクリとしながら要は複雑な顔をして美嘉を見る。
「アンタの事、認めた訳じゃないんだからっ!」
それだけ言うと、満足そうに美嘉は出て行った。
「だから……なんなんだ……」
半ば唖然として要は呟く。
するとクスクスと笑っている声が聞こえた。
「大久保……いるなら入ってこい……」
ドアの陰から、大久保が姿を見せる。
おかしそうに笑いながら。
:08/08/22 01:45
:SO906i
:☆☆☆
#282 [向日葵]
そして持っていた紅茶のセットが乗っているトレーをテーブルの上に置く。
どうやらお茶を持って来たが、入ろうとして話が聞こえ、立ち聞きされていたらしい。
「随分と明るいお嬢さんで。椿さまのお友達だというのがなんだか分かります」
「そうかい……。僕は眩しいくらいだよ」
これは決して悪口ではない。
寧ろ要はそんな美嘉が羨ましくさえ思う。
そして椿も、美嘉と同じくらい眩しい。
2人とも、あまり素直で、純粋すぎる。
自分には持っていないものだった。
:08/08/22 01:50
:SO906i
:☆☆☆
#283 [向日葵]
「そろそろ、けじめをつけなくてはならないのでは?」
意味深に微笑みながら、大久保は言った。
「……まあね……。」
―――――――――…………
ガヤガヤと、帰る学生で校舎内はうるさい。
椿は廊下掃除をしながら、今日も1日終わったとホッとしていた。と同時に、もうすぐ中間テストだと言う事実に少しばかり気が滅入っていた。
勉強は嫌いじゃない。
だがいい加減な点数を取ってしまえば野々垣家の恥だと椿は思っている。
:08/08/22 01:56
:SO906i
:☆☆☆
#284 [向日葵]
父は成績なんて気にしなくていいと言うが、普通の学校に行かせてくれたワガママをきいてもらったと思っている椿は、成績だけは優秀でいようと心に決めていた。
もたろん父は、その事だって気にしちゃいない。
「椿ー!」
遠くから越が駆けて来た。
「ハイ。なんでしょうか?」
「今日、放課後遊ばない?珍しく桜が部活無いから、家の手伝いしてくれるって言うの。美嘉も誘ってさ!」
桜とは、彼女の妹だ。
それならばと、椿は頷く。
「掃除は?もう終わり?」
「あとゴミを取れば……」
:08/08/22 02:02
:SO906i
:☆☆☆
#285 [向日葵]
「じゃあ教室で待ってるねっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
掃除を全て終えた椿は、教室に戻ってきた。
「椿っ!美嘉ね、椿に行って欲しいとこがあるんだ!」
入るなり、美嘉が椿に言う。
行って欲しいところ?と椿は首を傾げて瞬きを繰り返す。
「美嘉と越は先回りして待ってるから、10分ぐらいしたら車に乗って!行き先は運転手さんが知ってるからー!」
「え……、美嘉ちゃ……」
美嘉はまるで逃げるように越を引っ張って行ってしまった。
:08/08/22 02:07
:SO906i
:☆☆☆
#286 [向日葵]
ポツリと残された椿は困り果てる。
何かびっくりさせたい事でもあるんだろうか?
仕方ないので、10分教室で過ごした椿は美嘉の指示通り、校門まで行き、いつもの迎えの車に乗り込む。
「あ、あの、尾崎さん。一体どこへ……?」
椿は運転手に訊く。
「申し訳ありませんお嬢様。美嘉さまに言わないよう言われておりますので……」
椿は背もたれにもたれ、過ぎ行く街並みを見る。
一体どこへ連れて行かれるのだろうと不安になりながら。
:08/08/22 02:11
:SO906i
:☆☆☆
#287 [向日葵]
しかししばらくして、椿は気づいた。
1度しか通っていないがこの景色は知っている。
混乱し始めた椿は運転手に話しかける。
「え……!?あの、尾崎さ……。行く場所って……っ!」
「あと少しですので、もうしばらくお待ちください」
そうは言っても、不自然に心臓が鳴り出す。
だってこの道は……っ。
安全に車は停止する。
運転手は後部座席のドアを開ける。
促されるままに、椿はゆっくり足を地につける。
:08/08/22 02:15
:SO906i
:☆☆☆
#288 [向日葵]
「なんで……ここに?」
そう、目の前にあるとても大きな、そしてデザインされている屋敷は、どう見たって要宅だった。
「美嘉さまがどうしてもとおっしゃるので。ではいってらっしゃいませ……」
深々お辞儀をする運転手に、帰ると言えなくなった椿は、足を進めるも戸惑うように何回も振り返った。
そして呼び鈴を鳴らせば、見知った従者が出てきた。
「椿さまっ!如何なされたんですか?」
「こ、こんにちわ大久保さん……。えと、私もよく分からなくて……」
:08/08/22 02:21
:SO906i
:☆☆☆
#289 [向日葵]
:08/08/22 02:33
:SO906i
:☆☆☆
#290 [向日葵]
「どうしましょう……要さまは、今留守してまして……」
戸惑っている椿と同じくらい大久保も戸惑っている。
「え、そうなんですか?」
「ハイ。ユイコさまとお食事に行かれるそうで、私は着いて来なくていいと言われ、屋敷に残ったのですが」
椿の心臓が一際大きく鳴る。
―――――ユイコ……。
「じ、じゃあ私は……帰ります」
椿は徐々に後ずさる。
胸の奥が、鋭い痛みに襲われる。
:08/08/23 02:06
:SO906i
:☆☆☆
#291 [向日葵]
後ろ手にドアノブを持つと、反対側から回されたので、椿は手を放し、その方へ振り向いた。
「……椿?」
ドアを開けた人物が言う。
椿は驚いて目を見開く。
「要……さま……」
2人はお互い驚き固まる。
そんな要の後ろから、小柄な女の子が顔を出した。
椿はその女の子に気づく。
「椿……?」
可愛らしい声を出したその子を、椿はユイコだと直感で思った。
思ったと同時に、いても立ってもいられなくなって、屋敷を飛び出した。
:08/08/23 02:10
:SO906i
:☆☆☆
#292 [向日葵]
[第7話]
呆然としていた要はハッとして振り返る。
「ユイコ。ちょっと待っとけ!」
「あ、ハイ……」
椿を追いかける要に、返事が届いたかは分からない。
ユイコは大久保を振り返る。
「あの方が椿さまですか?」
「ハイそうです」
「あの方が……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
広く長い屋敷から門までの道なりを走り抜けるなど無駄な事だった。
:08/08/23 02:14
:SO906i
:☆☆☆
#293 [向日葵]
そしてそれは体を気遣い、普段運動をしない椿なら尚更辛いものだった。
諦めて椿は歩く。
「あの方が……ユイコさま……」
ふわふわと綺麗な栗色の髪で、可愛らしい人だった。
要と並べばいいカップルに見える。
それがなんだか嫌で、椿は逃げ出した。
せっかく美嘉が作ってくれた機会だと言うのにと、椿は落ち込んだ。
じわりと滲む涙を手の甲で拭い、足を進める。
すると後ろから腕を引かれた。
息をのみ、目を向ければ、息を切らした要がいた。
:08/08/23 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#294 [向日葵]
「待ってよ……」
椿は目を伏せて口を閉じる。
「大体なんで君がここに?」
「美嘉ちゃんが……連れて来て下さったんです。ご挨拶をしようと思っただけですので、もう帰ります」
再び歩き出そうとする椿を、要は慌てて止めた。
「待ってって!なら会ったんだからさ、少しくらい話をしようよ」
「駄目です……っ、そんなの……」
貴方には大切な人がいるのに。
私は邪魔する事は出来ない……。
:08/08/23 02:22
:SO906i
:☆☆☆
#295 [向日葵]
「駄目?駄目ってなんで?」
よく分からないと言った風に要は困った顔をした。
椿は下唇を少し噛む。
そしてやんわりと要が掴む腕を要の手からはずした。
「私は、今…、いえ、要さまのそばにいる事は許されないのです」
「え?椿?」
「…………どうかあの方と、お幸せに」
苦しそうにそう告げ、椿は歩き出す。
これで終わった。
全て終わった。
椿は聖史を選ぶのみしか、道はなくなったのだ。
…………と、本人は思っていあ。
:08/08/23 02:26
:SO906i
:☆☆☆
#296 [向日葵]
「待ってーっ!!」
今度は両肩を掴まれて向き合うように体を回される。
「なんか誤解してない!?何お幸せにって!」
何が誤解なのか、椿にも分からなかった。
だって要と一緒にいたのは……
「思ってらっしゃる方なんですよね……?」
要はしばらくフリーズしていた。何の事かさっぱりなので、今頭の中で、物事を整理している最中らしい。
「……え?唯子の事……?」
椿はうつむいて、小さく頷く。
「な、ばっ……!あれは妹だよ!」
これには椿も目をまんまるくした。
:08/08/23 02:32
:SO906i
:☆☆☆
#297 [向日葵]
そしてすぐに悲しそうな顔をする。
「いいんです。要さまが婚約を解消すると言うなら私は了承しますし……」
「違っ、あの……っ。……あー!もういい!ちょっと来て!」
腕を強く掴まれ、引っ張られる。
抵抗なんてなんのそので、要は椿をズルズルと容赦なく屋敷へ連れて行った。
また屋敷に入ると、玄関ホールには大久保と唯子がいた。
何かを察知した大久保は、意味深に微笑みを椿に向ける。
「改めまして、要さまおかえりなさいませ。そして椿さま、いらっしゃいませ」
:08/08/23 02:36
:SO906i
:☆☆☆
#298 [向日葵]
椿は頭の中を上手く整理出来ず、大久保の言葉にも反応出来ずにいた。
そして要は少し怒ったように声を上げる。
「聞いてよ!椿が唯子が僕の想い人だと言って本当の事を理解しないんだ!」
一瞬玄関ホールがシンと静まる。と、誰かが吹き出した息の音を合図に、玄関ホールに笑い声が谺(コダマ)する。
唯子もクスクス笑い、要だけが「ホラ見ろ」と言わんばかりに椿を見る。
「椿さま、それは禁忌ですよ。いくらなんでもそれはございません」
「え、あの、ですが……」
チラリと唯子を見ると、視線に気づいた唯子はフワリと柔らかく微笑んで履いていたスカートをひと摘まみすると、昔の姫君のようにお辞儀した。
:08/08/23 02:43
:SO906i
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#299 [向日葵]
「はじめまして椿さま。唯子と申します。お兄様とは2つ離れた兄妹でございます。お目にかかれて光栄でございます」
嘘を言っているのだろうか。
でも、要の顔も、大久保の微笑みも、唯子の挨拶も、嘘だとは思えなかった。
そして自分の勘違いだと気づけば、椿は消えてしまいたい程、恥ずかしくなっていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ごゆっくりと……」
パタリとドアを閉められれば、部屋に要と2人っきりになってしまった。
テーブルに置かれている紅茶は湯気が出ている。
:08/08/23 02:47
:SO906i
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#300 [向日葵]
そんな紅茶のように、椿も湯気が出そうな程まだ真っ赤になっていた。
テーブルを挟んで目の前に座っている要は呆れていれため息をはいた。
「まったく……しょうもない……」
「ごめんなさい……」
謝るしかない椿。
自分が情けなすぎて、顔すら上げる事が出来ない。
[椿さまの事は、兄からお聞きしていますわ。早くお会いしたかったのですっ]
花のように笑う唯子は本当にそう思ってくれてるらしかった。
:08/08/23 02:52
:SO906i
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