ギンリョウソウ
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#20 [向日葵]
しかしすぐに、いいや、と首をふる。
心配なら尚更誰かに言って医者を呼ぶのが先か……と思い直す。

残念ながら椿は付き合った事がない。
なので当然ながら、彼女は恋人同士はどのように接するものかなんて言うのは分からないのだ。

仕方なく、寝巻きに着替える。
するとまた扉をノックされた。
入ってきたのはメイドと要だ。

「椿さま、担当医を呼びましょうか?」

「いえ、寝れば治ります。なので佐々木さんも葵さまも、うつらない内にお帰りなさいませ……」

⏰:08/06/06 00:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#21 [向日葵]
ちなみに佐々木とはメイドの名前である。

「君がそう言うなら言う事を聞こう。明日また来させてもらうよ。ではね」

爽やかな笑みを浮かべ、あっさりと要は帰ってしまった。
そんな要にメイドである佐々木は戸惑い、椿を見るが、何も気にしてないように優しく佐々木に言った。

「佐々木さんも、ね……」

「では、またお時間になりましたら、夕食とお薬を運ばせて頂きます」

メイドは頭を下げてから、出ていく際に部屋の明かりを消した。

⏰:08/06/06 00:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#22 [向日葵]
ベッドに身を沈め、天井を見つめながら椿は1人考える。

こんな、お荷物の自分を婚約者扱いしてくれるのは嬉しい。
優しくだってしてくれるし、こうやって顔も見に来てくれる。
でも彼は心配してるような言葉を椿に向けながらも、その言葉に込もっている気持ちは空っぽのような気がしてならない。

彼の目的は……?

椿は思い当たっている事がある。
だがそれが本当なのかどうか、彼女にはまだ分からないのだった。

―――――――――……

⏰:08/06/06 00:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#23 [向日葵]
「椿、今日椿ん家寄っていい?」

学校で掃除をしている時、美嘉が言った。
椿は箒で床を掃く手を止めて、頷く。

「ハイ。ちょうど今、綺麗な薔薇が咲いているので、是非美嘉ちゃんに見てもらいたいです……」

「本当?椿ん家はいつも綺麗にしてるからなー。椿ん家の庭すっごい好き!」

無邪気に笑う美嘉を見て、どこかホッとする椿。
こんな風に、美嘉はいつも椿に優しさと元気をくれる。
椿は自分にはもったいないとさえ感じる。

⏰:08/06/06 00:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#24 [向日葵]
だから美嘉が何かで悲しんだりしたら、自分が元気を与える事が出来ればいいなと考える。

「あ、越」

美嘉が越を呼び止める。

「今日椿ん家行くんだけど行かない?」

越は一瞬パッと表情を明るくさせるが、しばらく考えてから「あ!」と声をあげた。

「ごめん!今日はお米の特売あるから帰る!」

と言うなりカバンを掴んで、猛スピードで教室から出て行ってしまった。
その姿を見てから、椿と美嘉は顔を合わせる。

⏰:08/06/07 20:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#25 [向日葵]
「越ちゃんも大変ですね……」

「ある意味あの子が母親代わりみたいなとこあるからね」

最近彼女の家に変化があったのか、忙しく動き回るもか楽しそうに毎日を過ごしている。
そんな越に、椿は拍手したい気分だった。

自分は恵まれていると思えば尚更に……。

「じゃそろそろ行こっか」

・・・・・・・・・・・・・・・・

いつも通り、まっすぐ自宅へ帰る。
扉を開ければやはり大勢のメイド達が椿だけでなく美嘉にも挨拶をする。

⏰:08/06/07 20:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#26 [向日葵]
それも昔から知ってるので、美嘉はカラカラ笑って「たっだいまー」と気軽に返事をする。

「お嬢様」

1人のメイドが椿を呼ぶ。

「要さまが来てらっしゃいます。お仕事を持ち込んでらっしゃいますので、お嬢様の挨拶はそれを済んでからの方がいいかと思われたんですが、ご本人はいつでも……とおっしゃってました」

今日も来たのかと椿はぼんやり思った。
しかし仕事をしているなら別に早く挨拶に行かなくてもいいだろう。
こちらだって、美嘉がいるのだし。

⏰:08/06/07 20:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#27 [向日葵]
「わかりました……。ありがとうございます」

しばらくの間は庭にいようと思い、自室に美嘉とカバンを置きに行ってからまた外へと出た。

きちんと切り揃えられている植え込みや、青々とした芝生はいつみても美嘉に「すごい」と言わせるのであった。

「こちらです」

薔薇が咲いている場所に美嘉を案内する。

たどり着いた場所には、様々な形、色をした薔薇が無数に咲いていた。

その周りを、2人は歩く。

⏰:08/06/07 20:23 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#28 [向日葵]
「婚約者、本当にいたんだ。なんか信じられないや。いい人?」

「ええ、もちろんです。だって私なんかの婚約者になって下さるんですもの」

心底そう思ってるらしく、椿は笑顔で美嘉にそう告げる。
しかし美嘉は、椿をじっと見つめると、蔦が絡まったアーチの下で足を止めた。

「椿……美嘉は椿みたいな令嬢のしきたりとかは分からないけど、椿が嫌なら嫌って言っていいと思うよ。」

椿は首を傾げてから、小さく頷きほのかに微笑む。

⏰:08/06/07 23:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#29 [向日葵]
嫌だなんて思ってない。

美嘉や父のように心配してくれる人がいるのは、どれだけ有難い事かと彼女は思う。
要も悪い人ではない。
もしかしたら今日来たのだって昨日熱を出したから心配してくれたのかもしれないのだ。

そう感じれば、嫌だなんて失礼な事を言う筈がないのだ。

美嘉はまだ気にしたように椿を見るが、彼女は微笑み続けているのでそれ以上は何も言わなかった。

ただ、そんな彼女だからこそ、ひそかにしらない所で、その小さな胸を痛めているのではないかと思えば、美嘉は悲しくなったのだった。

⏰:08/06/08 00:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#30 [向日葵]
庭を歩き回り、疲れただろうと美嘉に言い、椿は休憩を取るため部屋へと戻ってきた。

メイドがお茶を運ぶと言ったが、自分ですると言い、今から取りにいく。
出来る事はなるべくしておきたいのだ。

椿1人では重たいティーセットを持てないと思い、美嘉もついてくる。

「あ、セイロンだ。美嘉これ好きなんだー」

「そうだと思って用意してもらったんです」

ほのぼのと会話しながら部屋へ戻る途中、ある部屋の扉が少しだけ開いていたのに気づく。

⏰:08/06/08 00:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#31 [向日葵]
たぶん要が仕事に使っている部屋だ。

そういえば要が来ているのを忘れていた。
仕事だとは言え、帰って来てからだいぶ時間が経ってしまった。
あまり遅い挨拶は失礼に値する。

そう思った椿は自分の紅茶を要に譲ろうとその部屋に歩みよった。

美嘉が持つと言ってくれたので手が空いた椿はノックしようとする。

その時、部屋の中から会話が聞こえた。

「ねぇ要さん。ここの椿嬢だっけ?……が、好きって本当?」

⏰:08/06/08 00:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#32 [向日葵]
女性の声だった。

プライベートな話は聞いてはいけないだろうと、椿は踵(キビス)をかえそうとするが、片手でトレイを持った美嘉が腕を掴んで立ち去るのを防いだ。

どうやら美嘉は、婚約者が椿にふさわしいかを見極めたいらしい。

しばらくの沈黙の後、要のクスリと笑う声が聞こえた。

「好き?そんなの思った事すらないさ」

美嘉は目を見開いた。
気にしたように椿を見るが、まるで他人事のように無表情で要の声に耳を傾けていた。

⏰:08/06/08 00:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#33 [向日葵]
そんな2人が外にいるだなんて知らず、要は続ける。

「彼女の会社は古くからの有名な会社でね。結婚して合併すれば、その肩書きのおかげで僕の会社が更に世界に轟くと思っただけだよ」

「そんな事で結婚するの?」

「お互いにとって別に悪い事じゃないと思うからいいんじゃない?」

そう言った途端、耳障りな音が要の耳まで聞こえた。
そして勢いよく扉が開いたと思えば、そこには美嘉と椿がいたのだった。

⏰:08/06/08 00:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#34 [向日葵]
さっきの音は、美嘉がトレイを床に叩きつけた為ティーセットが割れてしまったのだ。

割った本人は、要の言葉に怒りを隠せず睨みつけていた。
要は机にもたれながら服の新作デザインでも考えていたのか、ノートとペンを持っている。

そのすぐそばには、専属モデルか、またはそれ以上の関係かもしれない綺麗な女性が彼の首に腕を絡ませていた。


「アンタ……何様なのよ……っ!」

ちっ、聞かれたか、と要は眉をひそめる。が、直ぐに開き直ったようにまた話出した。

⏰:08/06/08 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#35 [向日葵]
「椿。君はむしろ僕に感謝してくれないかな。君のような病弱は跡継ぎが産めないかもしれない。つまり結婚してくれる相手なんていないと思うんだ。そこで僕が名乗り出た。もちろん目当ては君ではないけれどね」

最後まで言った途端、美嘉が要の横っ面を力一杯ひっぱたいた。
乾いた音が部屋に響く。

その時戸口にさっきの音は何事かと、そっとメイドがやって来た。

椿は何もないとにこやかに答え、何かメイドに頼んで下がらせた。
そして美嘉と要に目を移す。

⏰:08/06/08 00:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#36 [向日葵]
美嘉はあまりの怒りに目に涙をためていた。

「何が感謝よ!アンタみたいな最低人間より椿を想ってくれる人なんてたくさんいるわよ!」

「最低人間?心外だな。ちゃんと彼女達の事も考えての行動じゃないか」

「何を考えてるって言うのよ……っ。考えてるのは全部ビジネスの事ばっかりじゃないっ!」

「美嘉ちゃんいいんです」

息を荒げて振り返った美嘉は、メイドから何か受け取る椿をみつめた。

椿は渡された袋のような物を持って、美嘉の隣を通りすぎ、要に近付いた。

⏰:08/06/08 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#37 [向日葵]
そして袋を要に差し出す。

「顔、冷やして下さい……」

氷のうらしい。

要は少し戸惑いながらそれを受け取り、頬を冷やした。

「来て頂いたのにご挨拶が遅れました。お仕事ご苦労様でした。今から友人を送ってきます……」

美嘉の手を優しく握り、導くようにして引っ張って行く。
部屋を後にしても、美嘉はグスグス鼻をすすって泣いていた。

⏰:08/06/08 00:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#38 [向日葵]
門前まで来たが、未だ美嘉は泣きやまない。
そんな彼女を、椿は目を細めて見つめる。

「美嘉ちゃん……泣かないで下さい……」

「だ……、て、アイツ……ヒドす……ぎ……」

「いいえ、要さんは正しいです。こんな体が弱い私を、引き取ってくれる人なんて、きっといないって思ってますたから……」

だから、美嘉が泣くような、傷ついた思いはしていない。大丈夫だと告げるのに、美嘉は首を強く横に振り、納得しなかった。

そんな美嘉の態度が嬉しくて、自分より背が高い美嘉の頭を優しく撫でる。

⏰:08/06/08 00:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#39 [向日葵]
「ありがとうございます……美嘉ちゃん……」

・・・・・・・・・・・・・・・・

再び屋敷へ戻ってくると、さっきのモデルさんとすれ違う。
高いヒールを高らかにならして歩いて行く姿は美しく、やはりそういう仕事をしているのだと実感した。

自室へ戻って間もなく、ノックもせずに要が入って来た。

「お仕事お疲れ様です」

椿は一礼する。

「何のつもり?」

顔を上げた時、要は眉を寄せてこちらの考えを探るような目をしていた。

⏰:08/06/08 00:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#40 [向日葵]
「本当に納得してるの?それとも納得したフリして社長に僕の目的をひそかにバラすとか?」

挑戦的な言葉も、椿は静かに微笑んで受け流す。

「私は、納得しています。葵さまがどんなつもりであっても、父が喜んでくれるなら、私は何だっていいんです……。ですからバラされるなんて心配は無用です……」

これは椿の本音だった。
そして彼女は前から気づいていたのだ。

要が自分に対して何の感情も持っていない事を。

知っていながら、椿は父の為だけに婚約者を承諾したのだ。

⏰:08/06/08 00:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


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