ギンリョウソウ
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#1 [向日葵]
こんにちわ向日葵です(。・ω・。)
良かったら見てください

感想板はこちら↓
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荒らし、中傷はご遠慮願います

⏰:08/06/03 21:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#2 [向日葵]
「お嬢様、次の連休はどこにお出かけしますか?」

「やはり花の都、パリなどはいかがですか?」

「もうすぐ涼しくなりますし、ここは1つ暑い所はどうでしょう」

「じゃあ、ハワイなんて素敵じゃありません?」

勝手に騒ぎだすメイド達。
そんな彼女達に静かに微笑みかけ、着替えを手伝おうとする手を制するは、この館の主の娘だ。

「いいえ。私はどこにも行きませんわ……」

彼女の名は野々垣 椿(ノノガキ ツバキ)。

⏰:08/06/03 21:08 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#3 [向日葵]
椿は17歳になる高校生だ。
ファッションデザイナーとして世界的に有名な椿の父は、男手1つで椿を育てた。
父は常に椿の意見を尊重し、椿もそんな父が喜んでくれるならと父の為に最善の道を選ぶ。

そんな野々垣家にも、決まりがあった。

“17歳になれば、婚約者を見つけること”

「椿、そんな相手いるの?」

幼なじみで親友の美嘉が、学校へ行く車の中で聞いてきた。

⏰:08/06/03 21:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#4 [向日葵]
椿は微笑みながらも少し困ったのかうつ向いた。

「いると……言いますか……。立候補して下さった方がいて……」

と言いながらその人物を思い出す。

初めてあったのは椿の誕生日パーティーだった。
元々体が弱い彼女は、パーティーに疲れ、隅の方の椅子に座っていたのだった。
父は心配しながらも、来てくれた客に挨拶をしなければと椿をおいて人混みに紛れていった。

それを見送り、うつ向いてからため息をそっと吐く。

⏰:08/06/03 21:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#5 [向日葵]
[君が椿お嬢さん?]

爽やかな声だった。

ゆっくりと顔をあげれば、同い年か1つ上くらいの男性がにこりと笑って椿を見下ろしている。

青っぽい黒髪が印象的で、椿はぼんやりとしながらも立ち上がり1つ礼をした。

[初めまして。僕は葵 要(アオイ カナメ)って言います]

[野々垣 椿です。本日は足を運んで頂きありがとうございます……]

葵 要と名乗る男性はにこにこしながら椿に握手を求める。

⏰:08/06/03 21:26 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#6 [向日葵]
差し出された手を遠慮しがちに出せば、しっかりと手を掴まれる。
父以外の男性に手を握られるのに慣れていない椿は困りながら顔を赤らめた。

[良ければお話でもどうでしょう。君とは1度ゆっくりと話してみたいと思ったんだ]

そこで彼はどこで聞いたのか、自分が婚約者になりたいと名乗りでたのだ。

父も彼を気に入っている様子で、椿も、ならばと彼を婚約者としようと考えていたのだ。

「でも……」と椿は思う。

⏰:08/06/03 21:32 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#7 [向日葵]
「美嘉ちゃん……ギンリョウソウって……ご存知ですか……?」

椿の話の続きを待っていた美嘉は眉を寄せた。

「ギンリョウソウ?初めて聞いたよ」

パーティーの後の事だった。

たまたま葵 要が携帯で話している所に居あわせた椿は話を聞いてはいけないと踵(キビス)をかえそうとした。

[まるでギンリョウソウのような女の子だったよ]

葵 要は確かにそう言った。
耳慣れないその単語に、椿は思わず足を止めた。

⏰:08/06/03 21:37 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#8 [向日葵]
ギンリョウソウ……?

その単語を調べたくて、辞書を開いた。

意味は<山奥の陰にしか咲かない半透明の白い花>などの意味か書かれていた。

あまり良くない意味だというのは分かった。
しかし分からない。
そんな少女を何故彼は婚約者として名乗りをあげたのだろうか……。

それとも……何か別の意味が……?




――――――――――
―ギンリョウソウ―
――――――――――

⏰:08/06/03 21:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#9 [向日葵]
[第1話]


椿が通う学校はお嬢様が行くような学校ではない。

美嘉と一緒の一般の学校だ。
これは椿の希望で、父も快く許してくれた。
むしろ美嘉がいてくれた方がありがたいと喜んでくれたのだった。

「あ、美嘉、椿。おはよう」

教室に入って、にっこり笑いながら挨拶したのは友人の神田 越(カンダ エツ)だ。優しくいつも前向きな女の子だ。

「おはようございます……」

椿も微笑みかえす。

⏰:08/06/03 21:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#10 [向日葵]
しかし椿の頭の中は、葵 要の事でいっぱいだった。

葵 要。
彼はデザイナー界の期待の新人なのだ。

椿と同い年にも関わらず既に社長業を勤め、彼のデザインした服はパリコレなんかにも出される有名ブランドとなっている。

その名もAKAと言うらしい。

自分の名前がアオイ、だから逆のアカでブランド名をつけたらしい。

容姿も爽やかで、人なつっこい笑顔が人を寄せ付ける。

⏰:08/06/03 21:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#11 [向日葵]
そんな女性にも困らなさそうな彼が、「ギンリョウソウ」と称している自分を好んだのか、椿はやっぱり分からないでいた。

しかし、椿には薄々気づいている事もあったのだ。

――――――――……

「ただいま戻りました」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

迎えてくれるメイドや執事達に会釈して、椿は自室へと向かった。
ベッドに腰掛け、深呼吸をする。

なんだか熱っぽい気がしますね……。

⏰:08/06/03 22:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#12 [向日葵]
体のだるさを感じていると、ドアを誰かがノックした。
返事をすると、ノックした人物が入ってきた。

「あ、父様……。イタリアから帰ってらしたんですか……。お帰りなさいませ」

「たたいま椿。すまないがまた出かけなければならないのだ。その前に顔を見ておきたくてな」

柔らかく笑いながら、父は椿の髪を撫でる。

椿はいつも自分を大事にしてくれる父が大好きだった。

「それと、もうじき要君がくるらしいから、仲良くするんだよ」

⏰:08/06/03 22:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#13 [向日葵]
そう言われて、椿は静かに微笑んで頷いた。
そんな椿に、父は少し困った顔をした。

「椿、本当に要君が婚約者でいいのか?椿は私が彼を気に入ってるからそれでも良いと思ってるんじゃないのか?いいか椿。一生一緒にいる人は、自分の心で決めなきゃならないよ?」

真剣な顔で心配して言ってくれる父に、やはり椿は微笑んだ。

「大丈夫ですよ……父様……」

「失礼します」

凛とした声が椿の部屋に響いた。

⏰:08/06/03 22:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#14 [向日葵]
>>8

×などか書かれていた
○などが書かれていた

⏰:08/06/03 22:21 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#15 [向日葵]
↑も間違いました

×などの意味か書かれて
○などの意味が書かれて

⏰:08/06/03 22:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#16 [向日葵]
>>12

×たたいま
○ただいま

しょっぱなから間違いだらけですいません

⏰:08/06/03 22:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#17 [向日葵]
入口を見れば、スーツ姿の要がいた。
要はにこっと笑うと部屋の扉を閉め、こちらに歩いてくる。

父はそんな要に向き直り笑いかける。

「やあ要君。久しぶりだね。フランスはどうだった?」

「行く度に勉強させられますよ。僕はまだまだ未熟ですね」

「そうかい。向上心があって実にいい。では、邪魔者は退散しようかな」

そう言って、要を信じきっているのか、父は2人を残して出て行ってしまった。父が出て行く際に一礼して見送った要は椿に向き直る。

⏰:08/06/05 23:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#18 [向日葵]
笑いかけられた椿はベッドから立ち上がり要に頭を下げた。

「お仕事ご苦労さまです、葵さま」

「葵さまだなんてよそよそしい。要と呼んでくれて構わないんだよ」

挨拶とでも言うように、要は椿の頬に軽くキスをした。
戸惑いながらも微笑む椿。

「まだ、旦那さまではないので……」

「でもなるのは決まってるんだ。別にいいじゃないか」

⏰:08/06/05 23:53 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#19 [向日葵]
そう言われても、なかなか呼べない椿だ。
やはり微笑むしか出来ない椿の額に、要は手を当てる。

「君、熱がある?」

「……さあ。分かりません。平熱は高い方なので……」

「でも休んだ方がいいね。メイドさんを呼んでこよう」

スタスタと歩き、彼は部屋を出ていった。
その姿を見ながら椿はふと思った。

恋人が体調を崩したなら、まず自分自身がそばにいるものじゃないのだろうかと。

⏰:08/06/05 23:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#20 [向日葵]
しかしすぐに、いいや、と首をふる。
心配なら尚更誰かに言って医者を呼ぶのが先か……と思い直す。

残念ながら椿は付き合った事がない。
なので当然ながら、彼女は恋人同士はどのように接するものかなんて言うのは分からないのだ。

仕方なく、寝巻きに着替える。
するとまた扉をノックされた。
入ってきたのはメイドと要だ。

「椿さま、担当医を呼びましょうか?」

「いえ、寝れば治ります。なので佐々木さんも葵さまも、うつらない内にお帰りなさいませ……」

⏰:08/06/06 00:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#21 [向日葵]
ちなみに佐々木とはメイドの名前である。

「君がそう言うなら言う事を聞こう。明日また来させてもらうよ。ではね」

爽やかな笑みを浮かべ、あっさりと要は帰ってしまった。
そんな要にメイドである佐々木は戸惑い、椿を見るが、何も気にしてないように優しく佐々木に言った。

「佐々木さんも、ね……」

「では、またお時間になりましたら、夕食とお薬を運ばせて頂きます」

メイドは頭を下げてから、出ていく際に部屋の明かりを消した。

⏰:08/06/06 00:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#22 [向日葵]
ベッドに身を沈め、天井を見つめながら椿は1人考える。

こんな、お荷物の自分を婚約者扱いしてくれるのは嬉しい。
優しくだってしてくれるし、こうやって顔も見に来てくれる。
でも彼は心配してるような言葉を椿に向けながらも、その言葉に込もっている気持ちは空っぽのような気がしてならない。

彼の目的は……?

椿は思い当たっている事がある。
だがそれが本当なのかどうか、彼女にはまだ分からないのだった。

―――――――――……

⏰:08/06/06 00:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#23 [向日葵]
「椿、今日椿ん家寄っていい?」

学校で掃除をしている時、美嘉が言った。
椿は箒で床を掃く手を止めて、頷く。

「ハイ。ちょうど今、綺麗な薔薇が咲いているので、是非美嘉ちゃんに見てもらいたいです……」

「本当?椿ん家はいつも綺麗にしてるからなー。椿ん家の庭すっごい好き!」

無邪気に笑う美嘉を見て、どこかホッとする椿。
こんな風に、美嘉はいつも椿に優しさと元気をくれる。
椿は自分にはもったいないとさえ感じる。

⏰:08/06/06 00:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#24 [向日葵]
だから美嘉が何かで悲しんだりしたら、自分が元気を与える事が出来ればいいなと考える。

「あ、越」

美嘉が越を呼び止める。

「今日椿ん家行くんだけど行かない?」

越は一瞬パッと表情を明るくさせるが、しばらく考えてから「あ!」と声をあげた。

「ごめん!今日はお米の特売あるから帰る!」

と言うなりカバンを掴んで、猛スピードで教室から出て行ってしまった。
その姿を見てから、椿と美嘉は顔を合わせる。

⏰:08/06/07 20:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#25 [向日葵]
「越ちゃんも大変ですね……」

「ある意味あの子が母親代わりみたいなとこあるからね」

最近彼女の家に変化があったのか、忙しく動き回るもか楽しそうに毎日を過ごしている。
そんな越に、椿は拍手したい気分だった。

自分は恵まれていると思えば尚更に……。

「じゃそろそろ行こっか」

・・・・・・・・・・・・・・・・

いつも通り、まっすぐ自宅へ帰る。
扉を開ければやはり大勢のメイド達が椿だけでなく美嘉にも挨拶をする。

⏰:08/06/07 20:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#26 [向日葵]
それも昔から知ってるので、美嘉はカラカラ笑って「たっだいまー」と気軽に返事をする。

「お嬢様」

1人のメイドが椿を呼ぶ。

「要さまが来てらっしゃいます。お仕事を持ち込んでらっしゃいますので、お嬢様の挨拶はそれを済んでからの方がいいかと思われたんですが、ご本人はいつでも……とおっしゃってました」

今日も来たのかと椿はぼんやり思った。
しかし仕事をしているなら別に早く挨拶に行かなくてもいいだろう。
こちらだって、美嘉がいるのだし。

⏰:08/06/07 20:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#27 [向日葵]
「わかりました……。ありがとうございます」

しばらくの間は庭にいようと思い、自室に美嘉とカバンを置きに行ってからまた外へと出た。

きちんと切り揃えられている植え込みや、青々とした芝生はいつみても美嘉に「すごい」と言わせるのであった。

「こちらです」

薔薇が咲いている場所に美嘉を案内する。

たどり着いた場所には、様々な形、色をした薔薇が無数に咲いていた。

その周りを、2人は歩く。

⏰:08/06/07 20:23 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#28 [向日葵]
「婚約者、本当にいたんだ。なんか信じられないや。いい人?」

「ええ、もちろんです。だって私なんかの婚約者になって下さるんですもの」

心底そう思ってるらしく、椿は笑顔で美嘉にそう告げる。
しかし美嘉は、椿をじっと見つめると、蔦が絡まったアーチの下で足を止めた。

「椿……美嘉は椿みたいな令嬢のしきたりとかは分からないけど、椿が嫌なら嫌って言っていいと思うよ。」

椿は首を傾げてから、小さく頷きほのかに微笑む。

⏰:08/06/07 23:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#29 [向日葵]
嫌だなんて思ってない。

美嘉や父のように心配してくれる人がいるのは、どれだけ有難い事かと彼女は思う。
要も悪い人ではない。
もしかしたら今日来たのだって昨日熱を出したから心配してくれたのかもしれないのだ。

そう感じれば、嫌だなんて失礼な事を言う筈がないのだ。

美嘉はまだ気にしたように椿を見るが、彼女は微笑み続けているのでそれ以上は何も言わなかった。

ただ、そんな彼女だからこそ、ひそかにしらない所で、その小さな胸を痛めているのではないかと思えば、美嘉は悲しくなったのだった。

⏰:08/06/08 00:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#30 [向日葵]
庭を歩き回り、疲れただろうと美嘉に言い、椿は休憩を取るため部屋へと戻ってきた。

メイドがお茶を運ぶと言ったが、自分ですると言い、今から取りにいく。
出来る事はなるべくしておきたいのだ。

椿1人では重たいティーセットを持てないと思い、美嘉もついてくる。

「あ、セイロンだ。美嘉これ好きなんだー」

「そうだと思って用意してもらったんです」

ほのぼのと会話しながら部屋へ戻る途中、ある部屋の扉が少しだけ開いていたのに気づく。

⏰:08/06/08 00:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#31 [向日葵]
たぶん要が仕事に使っている部屋だ。

そういえば要が来ているのを忘れていた。
仕事だとは言え、帰って来てからだいぶ時間が経ってしまった。
あまり遅い挨拶は失礼に値する。

そう思った椿は自分の紅茶を要に譲ろうとその部屋に歩みよった。

美嘉が持つと言ってくれたので手が空いた椿はノックしようとする。

その時、部屋の中から会話が聞こえた。

「ねぇ要さん。ここの椿嬢だっけ?……が、好きって本当?」

⏰:08/06/08 00:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#32 [向日葵]
女性の声だった。

プライベートな話は聞いてはいけないだろうと、椿は踵(キビス)をかえそうとするが、片手でトレイを持った美嘉が腕を掴んで立ち去るのを防いだ。

どうやら美嘉は、婚約者が椿にふさわしいかを見極めたいらしい。

しばらくの沈黙の後、要のクスリと笑う声が聞こえた。

「好き?そんなの思った事すらないさ」

美嘉は目を見開いた。
気にしたように椿を見るが、まるで他人事のように無表情で要の声に耳を傾けていた。

⏰:08/06/08 00:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#33 [向日葵]
そんな2人が外にいるだなんて知らず、要は続ける。

「彼女の会社は古くからの有名な会社でね。結婚して合併すれば、その肩書きのおかげで僕の会社が更に世界に轟くと思っただけだよ」

「そんな事で結婚するの?」

「お互いにとって別に悪い事じゃないと思うからいいんじゃない?」

そう言った途端、耳障りな音が要の耳まで聞こえた。
そして勢いよく扉が開いたと思えば、そこには美嘉と椿がいたのだった。

⏰:08/06/08 00:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#34 [向日葵]
さっきの音は、美嘉がトレイを床に叩きつけた為ティーセットが割れてしまったのだ。

割った本人は、要の言葉に怒りを隠せず睨みつけていた。
要は机にもたれながら服の新作デザインでも考えていたのか、ノートとペンを持っている。

そのすぐそばには、専属モデルか、またはそれ以上の関係かもしれない綺麗な女性が彼の首に腕を絡ませていた。


「アンタ……何様なのよ……っ!」

ちっ、聞かれたか、と要は眉をひそめる。が、直ぐに開き直ったようにまた話出した。

⏰:08/06/08 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#35 [向日葵]
「椿。君はむしろ僕に感謝してくれないかな。君のような病弱は跡継ぎが産めないかもしれない。つまり結婚してくれる相手なんていないと思うんだ。そこで僕が名乗り出た。もちろん目当ては君ではないけれどね」

最後まで言った途端、美嘉が要の横っ面を力一杯ひっぱたいた。
乾いた音が部屋に響く。

その時戸口にさっきの音は何事かと、そっとメイドがやって来た。

椿は何もないとにこやかに答え、何かメイドに頼んで下がらせた。
そして美嘉と要に目を移す。

⏰:08/06/08 00:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#36 [向日葵]
美嘉はあまりの怒りに目に涙をためていた。

「何が感謝よ!アンタみたいな最低人間より椿を想ってくれる人なんてたくさんいるわよ!」

「最低人間?心外だな。ちゃんと彼女達の事も考えての行動じゃないか」

「何を考えてるって言うのよ……っ。考えてるのは全部ビジネスの事ばっかりじゃないっ!」

「美嘉ちゃんいいんです」

息を荒げて振り返った美嘉は、メイドから何か受け取る椿をみつめた。

椿は渡された袋のような物を持って、美嘉の隣を通りすぎ、要に近付いた。

⏰:08/06/08 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#37 [向日葵]
そして袋を要に差し出す。

「顔、冷やして下さい……」

氷のうらしい。

要は少し戸惑いながらそれを受け取り、頬を冷やした。

「来て頂いたのにご挨拶が遅れました。お仕事ご苦労様でした。今から友人を送ってきます……」

美嘉の手を優しく握り、導くようにして引っ張って行く。
部屋を後にしても、美嘉はグスグス鼻をすすって泣いていた。

⏰:08/06/08 00:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#38 [向日葵]
門前まで来たが、未だ美嘉は泣きやまない。
そんな彼女を、椿は目を細めて見つめる。

「美嘉ちゃん……泣かないで下さい……」

「だ……、て、アイツ……ヒドす……ぎ……」

「いいえ、要さんは正しいです。こんな体が弱い私を、引き取ってくれる人なんて、きっといないって思ってますたから……」

だから、美嘉が泣くような、傷ついた思いはしていない。大丈夫だと告げるのに、美嘉は首を強く横に振り、納得しなかった。

そんな美嘉の態度が嬉しくて、自分より背が高い美嘉の頭を優しく撫でる。

⏰:08/06/08 00:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#39 [向日葵]
「ありがとうございます……美嘉ちゃん……」

・・・・・・・・・・・・・・・・

再び屋敷へ戻ってくると、さっきのモデルさんとすれ違う。
高いヒールを高らかにならして歩いて行く姿は美しく、やはりそういう仕事をしているのだと実感した。

自室へ戻って間もなく、ノックもせずに要が入って来た。

「お仕事お疲れ様です」

椿は一礼する。

「何のつもり?」

顔を上げた時、要は眉を寄せてこちらの考えを探るような目をしていた。

⏰:08/06/08 00:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#40 [向日葵]
「本当に納得してるの?それとも納得したフリして社長に僕の目的をひそかにバラすとか?」

挑戦的な言葉も、椿は静かに微笑んで受け流す。

「私は、納得しています。葵さまがどんなつもりであっても、父が喜んでくれるなら、私は何だっていいんです……。ですからバラされるなんて心配は無用です……」

これは椿の本音だった。
そして彼女は前から気づいていたのだ。

要が自分に対して何の感情も持っていない事を。

知っていながら、椿は父の為だけに婚約者を承諾したのだ。

⏰:08/06/08 00:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#41 [向日葵]
つまり自分も彼になんの感情も無かったのだ。
だから彼を一方的に怒る事なんて出来ないのだった。

「私は、父と、葵さまのサポートをするだけです……」

要は更に眉を寄せた。

ヒドイ事をやってるし言ってる自覚はある。

所詮自分達のような者は政略結婚が主だ。
もともと情なんてものは無い。

だからと言って、彼女はあまりに諦めが良すぎではないだろうか。

⏰:08/06/08 01:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#42 [向日葵]
そんなんだから、余計疑いたくもなるのだ。

「椿、君の目的は?」

「目的……ですか……?」

椿はキョトンとする。

「社長の為の他に、何かあるんじゃないのか?」

しかし椿は穏やかに微笑んでゆっくり首を横に振り否定する。

「何も、ありません」

要は戸惑った。
彼女が眩しく感じたからだ。
一点の曇りもなく、ただ父の為だけと純粋に言い張る椿を真っ直ぐに見れない気がした。

⏰:08/06/08 01:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#43 [向日葵]
※訂正

>>38

×思ってますたから
○思ってましたから

⏰:08/06/10 23:30 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#44 [向日葵]
しかし、と要は頭を切り替える。

椿がの事はよく分からない。だからこそ、常に用心しなければならないと思う事にする。

「君の事はとりあえず保留でいいや。でもね、あまり僕達がよそよそしいのもいけないしね。だから君には僕を好きになってもらうよ」

椿は首をまた傾げる。
そして何故好きにならなきゃいけない必要があるのかが分からないでいた。

好きになっても、要は自分を好く訳でもないのに。

そんな椿の思いが分かったのか、要は言う。

⏰:08/06/10 23:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#45 [向日葵]
「好きになってもらわないと、なんだか好きになれそうにないんだよね、君。だから君から好きになって欲しいんだよ」

にっこり笑って、酷い事を言う。
まるで椿に何を言っても平気だと馬鹿にしてるようにも見えた。

しかし椿は、何も動じていないかのように微笑んだままだった、が、その微笑みは要への抵抗のようでもあったのだ。

椿はまだ、要の要求に首を縦に振っていないからだ。

それには彼も気づいている。

⏰:08/06/10 23:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#46 [向日葵]
椿にだって、気持ちはあるのだ。
あまりに理不尽な事には、簡単にイエスと言いたくはない。

「ま……、好きになってもらえるよう毎日君の顔を見に来るよ。そしたら段々好きかもって思うかもね」

「そうですね……」

椿の返事は、要にとって「やれるものならやってみろ」と聞こえた気がした。

だから余計意地になる。
絶対好きにさせてみせると。

そう決意を固めて、椿の部屋をあとにした。

⏰:08/06/10 23:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#47 [向日葵]
1人残された椿は要がいなくなると同時に笑顔を消していた。

何も思ってないフリをするのは、この顔が一番。
だが今は1人だ。
あんな言葉を言われて傷ついてない訳がない。

[好きになれそうにないから]

自分がどれだけ魅力がないのか、つきつけられた気がした。
ましてや、将来共に過ごすであろう婚約者に……。

大きな窓から、空高くのぼっている月を見つめた。

何を言われても、要の前で動じてはいけない。
全ては父の為。
そう思い望んで、承諾した事だ。

⏰:08/06/10 23:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#48 [向日葵]
だから……文句を言ってはいけない。
言える立場じゃない。

携帯の着信音が鳴りだした。
美嘉からだった。

通話ボタンを押す。

<もしもし椿?あれから大丈夫だった?美嘉頭に血が上ってて冷静になってなかっ……。……椿?>

椿は静かに涙を流していた。

こんな自分でも、心配してけれる誰かはいる。
大丈夫。不安になる事なんてない。

そう思うのに、突き刺ささった言葉のトゲは、思ったよりも痛かったのだった。

⏰:08/06/10 23:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#49 [向日葵]
※訂正

>>48

×心配してけれる
○心配してくれる

⏰:08/06/10 23:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#50 [向日葵]
[第2話]





今日は体育大会だった。
しかし椿は体の事もあり、1日見学。

友達である美嘉や越の華麗な活躍に感嘆し、一方で上昇する気温にぐったりとしたダルさを感じている。

「椿水分ちゃんと取りなよ」

リレーで一仕事終えた美嘉と越が心配そうに椿を覗き込む。
椿はなんとか微笑み、大丈夫だと意思表示する。

⏰:08/06/11 00:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#51 [向日葵]
>>44

×椿がの事
○椿の事

間違いだらけですいません

⏰:08/06/11 08:13 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#52 [向日葵]
「次は応援合戦だから着替えなきゃね」

「その前に自販機行かない?美嘉喉かわいたー!」

「うん。椿は?」

越の問いに椿は待っていると答える。
2人が自販機がある場所へと向かって行くのを見てから、他学年の競技に目を向けた。

皆暑そうに、それでも楽しそうにはしゃいでいる。
自分の体さえ丈夫なら、お祭好きの美嘉と共に勝った事に喜んだり、負けた事に悔やんだり出来るのに……。

そよ風が、彼女の背中の真ん中辺りまである漆黒の髪を切なげに揺らす。

⏰:08/06/15 01:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#53 [向日葵]
そんな椿が儚げな少女に見え、周りの男子がため息をつきたくなるように感じながら見つめているだなんて事は、彼女は知らない。

「野々垣さん」

2人の男子が、話しかけてくる。

「体弱いのに日の下にいて大丈夫?」

「ハイ。日傘もさしてますし、平気です……」

「なんなら一緒に日陰に行かない?」

「え……あの、いいです……」

日傘をギュッと握り、少し引くように体をずらすと、1人の手が細く白い椿の腕を掴んだ。

⏰:08/06/15 01:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#54 [向日葵]
息をのみ、かすかに震える。
しかし男子2人はそんな事おかまいなしに椿を連れて行こうとする。

「野々垣さん細すぎ!やっぱり行こうよ」

「わ、私、友達を待ってますんで……っ」

「まぁいいじゃん。トイレに行ったとか思うって」

嫌……っ!

ギュッと目を瞑った時だった。
後ろから肩を抱かれ、引き寄せられる。

「嫌がってるって分かんない?」

この声は……と、チラリとだけ視線を後ろに向ける。

⏰:08/06/15 01:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#55 [向日葵]
「これ、僕のだから」

サングラスを取り、目だけで相手を威嚇する。
男子2人は、うっ……、とだけ唸って黙って去って行った。
と同時に椿も抱えられていた腕から解放された。

後ろを振り向けば、そこにはやはりと言うか、椿のよく知っている人物が立っている。

「葵さま……。今日はイタリアの筈じゃ……」

「それが延期になったんでね。でも酷いな椿。こんな行事があるなら教えてほしかったよ」

にっこり笑って言っているが、本心は何を思っているか分からない。

⏰:08/06/15 01:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#56 [向日葵]
今だって助けてくれたが、それは自分が有利になる為の作戦であると椿は思っている。
しかし、嫌な顔はしてはいけないのだと頭を素早く切り替え、にこりと微笑む。

「暑い場所はお嫌いと耳にはさみましたんで……」

「嫌いだねー」

着ているスーツは本当に暑そうだ。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、ボタンを2、3個外す。
とても同学年とは思えない大人っぽさが彼から漂う。

「でも君の体操服姿が見れるだなんて貴重じゃないか」

⏰:08/06/15 01:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#57 [向日葵]
貴重って何が貴重なんだろうとか思ったが椿は微笑みだけで要の言葉を受け止めていた。

「……葵さま」

「あのさ椿、前にも言ったけどいい加減“要”って言ってくれないかな?」

「はぁ……。でも、これで慣れていますんで……」

そしてこれは彼女自身の軽い反発でもあった。

簡単に好きになんかなるまい、と。

「ふーん。でもあんまりよそよそしいと僕が困るんだから。君だって、大切なお父さまを悲しませたりはしたくないでしょ?」

⏰:08/06/15 01:39 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#58 [向日葵]
その言葉にピクリと体を震わせ、椿は深々と要に頭を下げた。

「申し訳……ありませんでした……。努力いたしますんで……」

「うん。それでいいんだよ」

椿は短パンをギュッと握る。そして唇を軽く噛んで静かに深呼吸して微笑んでから顔を上げた。

「葵さま……、助けていただきありがとうございました。……でもここは一般の方が入っては駄目なのです。申し訳ありませんが、保護者席の方へ移動して下さい……」

⏰:08/06/15 01:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#59 [向日葵]
「別に気にしなくてもいいじゃないか。それに屋根もない。日陰が……。そうだ。椿、それ、貸して」

指差したのは椿が持っていた日傘だ。
これにはさすがに椿は笑顔を消し、えっ……、と戸惑う。

「でも、あの……」

「言う事が聞けないの?」

威圧的な低い声と、冷たい目で椿を脅す。

ぐっと泣きそうになるのを堪えて、椿は日傘を差し出した。
満足そうに要は受け取る。

⏰:08/06/15 01:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#60 [向日葵]
「君は何か競技に出るの?」

強い日差しにくらりとめまいを感じた気がした。
要の声が遠くから言ってるように聞こえる。

「何も……出ません……」

それでも椿は笑顔でいる。

「ふーん。つまんないね。周りの人も、君自身も」

それだけ言って、要は立ち去る。
そんな要に頭を下げて椿は見送った。
しかし頭を上げる事はなかなか出来なかった。
風がまた、彼女の髪の毛を揺らす。

⏰:08/06/15 01:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#61 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「椿ーただいまーっ。あれ?日傘は?」

美嘉の声に、椅子に座ってうつ向いていた椿は顔を上げながらホッとする。
自然と顔が綻ぶ。

「……壊れたので、違うのを取りに行ってもらってます……」

「え、大丈夫?」

「椿、これかぶってな」

越が1枚の大きめのタオルを椿の頭に被せた。
優しい洗剤の香りが椿の鼻をかすめる。

「ちょっとは涼しいでしょ?」

⏰:08/06/15 01:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#62 [向日葵]
にっこり笑いながら椿の顔を覗き込む越。
そんな越に、心からの微笑みを向ける。
ささくれだった椿の心が、癒されていく瞬間だった。

*******************

笑うしかしないな。と要は思っていた。

椿から教えられた保護者席に彼は立っている。
椿から取り上げた日傘をさして。

彼女の考えや思いがまったく分からない。
あれだけ酷い事を言っても泣きもせず、ただずっと笑っているのだ。

⏰:08/06/15 02:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#63 [向日葵]
何故なんだろう。
要の頭は先ほどからそればかり考えていた。

言い返せばいいのに……。

そう思うなら酷い事を言わなくていいだなんて彼は思いつかないでいる。

別に嫌いな訳じゃない。

客観的に見ても他の令嬢みたいに高飛車でもないし、控え目な所だって可愛いとは思う。

けれど酷い事を言っていじめたくなる。
言い返して欲しいと思うのに、やっぱり椿は笑っているしかしないのだった。

⏰:08/06/15 02:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#64 [向日葵]
今日初めて彼女を抱き締めた。
驚く程の細さだった。
モデルをいつも相手にしているし、彼女達だって体のラインを気にしているから細く見えるし実際に細い。

でも椿はそれ以上だった。
触れた所はすぐに骨が当たる。
柔らかい感触はもちろんあるが、とにかく細かったのだ。
きっと彼女の病弱な体のせいだろう。

そう思えば体の事を悪く言ってしまっただろうかと気になる。
誰よりも病弱な事を気にしているのは彼女だろう。
なのに酷な事を言った。

⏰:08/06/17 00:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#65 [向日葵]
でも……、と要は考え直す。

何を言われてもヘラヘラしている彼女だ。
さほど気にしてもいないだろう。

そう思ってしまえば、要の頭から“悪かった”などと言う言葉は消えていくのだった。

*****************

昼近くになれば気温もあがり日差しもきつくなりはじめてきた。

なんとか倒れずにいれるのは風が少なからず吹いてくれているからだろうと椿は思う。

⏰:08/06/17 00:21 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#66 [向日葵]
だが彼女の体調は少しずつ崩れていってるのもまた事実だ。
周りの生徒が熱気に顔を赤くしているのに対し、椿の顔は青白くさえ見える。

「椿、大丈夫?さっきから水飲んでないみたいだけど」

心配そうに美嘉が覗き込む。
笑顔で答える事すら、そろそろ難しくなってきた。

「日傘まだかなー」

越のタオルではさすがに限度があった。
日にさらされたタオルは段々と熱を含む。

「大丈夫です……。……それより応援合戦そろそろですね……頑張って下さい」

⏰:08/06/17 00:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#67 [向日葵]
そう言うと、美嘉と越は頷いて、離れた場所で円陣を組み始める。

気合いの入った掛け声を耳にしながら椿はうつむく。

暑い……。

タオルをパタパタ揺らして熱を逃がすも上手くいかない。
水を飲めばいいのだけれど飲む元気もわかない。

こんな事では駄目だ。
椿は自分を奮い起こす。

じゃなきゃ美嘉にまで言われてしまう。

[つまんないね]

⏰:08/06/17 00:32 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#68 [向日葵]
ホラ、顔をあげて……。
しっかり前を向かなきゃ……。

言い聞かすも、体は言うことを聞いてくれない。
それでも椿は必死に顔を上げる。

周りの景色がスローモーションのようにゆっくり動いているように感じた。
目を何度こすってもそれは変わらない。

それでも、椅子にちゃんと座り、倒れる事なく背筋を伸ばして前を向けているならいいんだと思い、スローモーションの世界をそのままに、強さを増す日差しに堪えた。

そうしている間に、応援合戦は終わった。

⏰:08/06/22 23:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#69 [向日葵]
「つ、ばきー!次お昼休みだって!教室行こっか!」

美嘉が爽やかに汗を流して椿に微笑みかける。
しかし椿にはその笑顔さえぐにゃぐにゃにしか見えていなかった。
それでも微笑み返し、頷いて立ち上がる。

人混みの中から、越が「委員会の仕事あるから」と叫び、先に行ってしまった。

「午後からも楽しみだねっ」

「そうですね……」

やっと日陰に入れる。
椿はホッした。

⏰:08/06/22 23:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#70 [向日葵]
しかしホッとしたのもつかの間。
次の瞬間、椿の体がぐらりと傾いた。

「椿!?」

美嘉の驚いた声をはっきりと聞きながらも、椿には答える元気がもうなかった。
そして徐々に、意識は遠のいていくのだった。

********************

昼休みだと聞いた要はどこかで昼食をとろうと歩き出したところだった。

すると背後からやけにザワついた声が広がるのを耳にした。

⏰:08/06/22 23:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#71 [向日葵]
何かあったのかと振り向けば、遠く離れた所で人だかりが出来ていた。

「要さま、昼食の方はどちらで」

従者が要に問う。

「ちょっとここで待ってて。何があったか興味あるから」

野次馬精神で要はその場所へと向かう。

「……ばきっ!」

聞いた事がある声だ。
と思えば先日自分をひっぱたいてくれた奴じゃないか。
要は眉を寄せる。

⏰:08/06/22 23:55 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#72 [向日葵]
「椿っ!」

「椿……?」

要が呟く。
やがて見えたのは、担架に乗せられてぐったりとしている椿の姿だった。

思わず目を見開く。
椿について行こうとする美嘉に駆け寄り、その腕を掴んだ。

「アンタ……!」

「椿はどうしたんだ?」

美嘉は要をキッと睨んで腕を振りほどく。

「アンタなんかに関係な……、ちょっと……なんでアンタがそれ持ってるの……」

⏰:08/06/22 23:59 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#73 [向日葵]
美嘉が見つけたのは要が椿からぶんどった日傘だ。
今はたたんで彼が左手に持っている。

「だって椿は壊れたって……」

「……え?」

自分が取った事を言わなかったのかと要は驚く。
全てを察した美嘉は歯を食い縛って要の胸ぐらを掴んだ。

「なんなのアンタ!椿イジメてそんなに楽しいの!?なんでこんな事するのよ!!」

まさか彼女はこの暑い中、誰にも何も言わず堪え続けていたのか?

そう思えば要の頭は混乱した。

どうしてそこまでして……?

⏰:08/06/23 00:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#74 [向日葵]
「椿がいつも笑ってるから何とも思わない鈍感な子とでも思ってるつもり……?ふざけないで!」

胸ぐらを話すついでに美嘉要の胸を叩いた。
突然の衝撃に、要は後ろへ少し下がりながらむせこんだ。

「椿はね、誰も困らせたくないから笑うの。自分のせいで、周りを困らせて大変な思いさせてると思ってるからなんでもないフリをするの!」

要はハッとする。

彼女の、椿の、微笑む理由……。

「なんでアンタなんかが、婚約者なのよ……」

それだけ言って、美嘉は椿の元へと駆け出した。

⏰:08/06/23 00:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#75 [向日葵]
要はその場で立ちすくむ。

椿は要に、本気で笑いかけていたかと考える。
その完璧な笑顔の仮面に惑わされ、自分がどれだけ彼女を苦しめたかとうろたえる。

その仮面の下に、どれだけの辛さを隠していたのだろう。

いや、こんな事気にしなくてもいい。
自分の目的は彼女ではない。彼女の会社だ。
だから……どうでもいい……。

そう思うのに、要の視線は、たった今美嘉が向かった方へと向いていている。

⏰:08/06/23 00:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#76 [向日葵]
椿と自分は似ているのかもしれない。

要も沢山のものを見て見ぬフリをした。
慕ってくる者の裏にある思惑や沢山の恨みの念。
自分の中にある、孤独な感情……。
全ては世界にのし上がる為と捨ててきて、利用した。

椿はそんな自分に似ている。
しかし彼女の場合はもっと綺麗な感情で、そこには“自分の為”だなんて勝手な思いはなく、“人の為”に全てを見て見ぬフリをしている。

きっと、要の事もそうなのだろう……。

⏰:08/06/23 00:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#77 [向日葵]
自分を押し殺して、“人の為”に何もかもを捨てるのは、どれだけの勇気や思いがあるだろう……。

要はため息をついた。

ダメだな……椿の事を考えたら気になって仕方ないじゃないか……。

要は歩き出した。

*******************

ヒヤリとした何かが額に当てられたのを感じ、椿は目をゆっくりと開けた。

「美嘉……ちゃん……」

「良かった……気がついた?」

⏰:08/06/23 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#78 [向日葵]
小さく頷く。

そうか、自分は倒れたのかと思えば、嫌な気持ちでいっぱいになった。
掛け布団から自分の細く白い手を出し見つめる。

頼りない体……。いっそのこと無くなってしまえばいいのに……。
これくらいの暑さにも堪えれないなんて情けなすぎる。

「保健の先生がここでご飯食べていいって言ってるの。食べれる?」

「はい……。ありがとうございます……」

微かな力に頼って体を起こす。
どうやら今は職員も昼休みなので保健室には美嘉と椿しかいないらしい。

⏰:08/06/23 00:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#79 [向日葵]
「あのね椿……、美嘉の前では無理しなくていいんだから。もちろん越の前だってさ……。なんの為の友達だと思ってんの?」

美嘉は軽く頬を膨らませる。
そんな美嘉に椿はそっと笑った。

その気遣いが嬉しい。
だから美嘉達には何も言う事は出来ない。しない。
そう言う人がいるから頑張れる自分がいる。
例えつまらないと言われようと……くじけない。

「ありがとうございます……」

それだけ言うと、美嘉は満足そうに歯を見せて笑った。

⏰:08/06/23 00:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#80 [向日葵]
※訂正

>>74

×美嘉要
○美嘉は要

⏰:08/06/23 00:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#81 [向日葵]
美嘉が持ってきたお弁当を受け取り、食べようとした時だった。

勢いよく保健室の扉が開いた。

驚いた2人はその方を見る。
そこに立っていたのは、要だった。

要は椿の姿を見つけると、土足厳禁だと言うのに靴のまま近づいてくる。

敵対心もあらわに、椿の前に立ちはだかる。

「何よ。まだなんかある訳?」

「心配しなくても君にじゃないよ。僕は椿と話がしたいんだ」

⏰:08/06/26 00:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#82 [向日葵]
椿が微かに体をぴくりと動かせたのを美嘉は視界の隅で認めた。
だから尚更ここをのく訳にはいかないと要を睨みつける。

「これ以上椿をいじめないで……。病人にまで手を出す気?」

「僕はそこまで鬼じゃない」

「どうだか……」

らちがあかないと思ったのか、要は美嘉の後ろにいる椿を見る。
要に見つめらるた椿はハッとする。

「椿、僕と話をしてくれるね?」

⏰:08/06/26 00:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#83 [向日葵]
「ちょっとアンタね……っ」

「美嘉ちゃん」

美嘉は振り返り椿を見る。
彼女は、未だ白い顔をしているにも関わらず、にっこりと完璧に微笑んでいた。

「大丈夫ですから、少し外で待っていてもらえますか?」

美嘉は少し躊躇った。
いくら椿の願いと言えど要が椿をいじめないと言うことはない。
それでも、椿の言う事に従ったのは、椿の事が大切が故だった。

渋々保健室から出て行く。

美嘉が出て行ったと同時に、要はまた近づいた。

「……君は馬鹿か」

⏰:08/06/26 00:27 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#84 [向日葵]
いきなりの暴言に、椿の笑顔はなくなり、驚いた顔が要の目にうつる。

「どうして倒れるまでこの炎天下にいる……。日陰に隠れることくらい出来ただろうっ!それに日傘の事だって、僕がぶん取ったと言えばいいじゃないか!」

椿は瞬きを繰り返した後、また静かに微笑んだ。

「葵さまは悪くないですよ……」

「……!別に……そう言う事を言ってるんじゃない……」

「私は葵さまのおっしゃる通り、つまらない奴なのです……」

⏰:08/06/26 00:31 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#85 [向日葵]
要が再び彼女をみれぱ、椿は窓の外をまぶしそうに見ていた。

「つまらないと、承知だからこそ、何か証明したかったんです。せめてこれぐらいの暑さや日光に堪える事の出来る体ならば、つまらないながら何か出来るんではないかって……」

彼女は自分の手元に視線を落とす。
うつ向くので、綺麗な黒い髪の毛が彼女の顔を隠す。要からは見えない。
椿の顔は悔しさで歪んでいた。

「日傘なんて……無くても元気な人は元気ですもの……」

⏰:08/06/26 00:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#86 [向日葵]
椿が泣いているのではと思った要は、彼女の両肩を持って強制的に顔を上げさせた。

突然の事に椿は驚いていたが、泣いてはいなかった。
要はそれに何故かホッとする。

「ごめんなさい……愚痴になってしまいましたね……」

椿は薄く笑う。
しかし要は、こんな時にまで笑って欲しくなかった。
……こんな時?
彼女が倒れたというだけだ……。
自分はそれを、気にしているのか?

⏰:08/06/30 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#87 [向日葵]
そんな事を思いながら、口を開く。

「笑うな」

吐息のように、椿は「え……」と言った。

「笑いたくない時は笑わなくていい。無理に笑えなんて言わないから。悲しかったら悲しい顔をしてもいいんだ。怒りたかったら、怒ればいいんだ……」

父や美嘉意外にそう言った人は要が初めてだ。
しかし彼は父達とはまた違う立場の人で、尚且つ彼自身を好きになるように仕向けようとしている。

なのに、上辺だけの筈なのに、どうしてそんな真剣な言葉を伝えてくるのだろう。

⏰:08/06/30 00:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#88 [向日葵]
椿は戸惑う。

どうすればいいのか分からない。
そうか、分からないから、この人の前では今まで笑って済ませていたんだ。

彼の巧みな言葉に惑わされてはいけない。

要が自分の事を心配するのは、あくまで利用する為なのだから。

そう胸に刻んだ椿は一度瞬きしてから、やはり微笑んだ。

「悲しい事も、怒る事も、私はありません。幸せなんです。だから笑うのです」

「――っ!だから、そういうんじゃ……っ!」

肩を掴んでいた手に力が入る。

⏰:08/06/30 00:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#89 [向日葵]
痛いのか怖いのか、椿はビクリと体を震わせ、顔を少し歪ませる。

要はそれに気づき、パッと肩から手を離し、そっぽを向く。

気まずい空気が2人の間を漂う。
要は深呼吸して、頭を片手でかき乱した。

「君が笑おうが泣こうが関係無いんだけどな……。でも、笑っているばかりで君の人生が成立するなら、それは間違ってる気がするよ」

「間違ってる……ですか……?」

「笑うだけの君で、本当に社長やさっきの友達は満足なのかな」

⏰:08/06/30 00:40 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#90 [向日葵]
「それは……」

「君は、何もかもに素直に従って、満足?」

椿から、笑顔が消える。

本当に、この人の、要の考えている事が分からない。
だから微笑んでいたいのに、簡単に笑顔を無くさせる。

抵抗しても、仕方ない事を何故させる……?

「要さまは……そんな私でも、満足なのでしょう……?」

要と目が合う。
目を合わせたのは、初めてな気がした。

⏰:08/06/30 00:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#91 [向日葵]
やがて、目に険しさを含ませると、彼は立ち上がった。

「ああそうだった。君が素直に従ってくれれば万々歳だ。忘れていたよ。これからもそうしてくれるとありがたいねっ」

やけくそに言うと、彼は出て行った。
半ば唖然としながら彼が出て行くのを椿は見ていた。

何を怒る事があるのだろう。本当の事な筈なのに……。

……まさか、励まそうとした……?
……そんな訳ない。
だから分かっているでしょう?何度も言ってるじゃない……。

彼が自分を心配する筈がないと……。

⏰:08/06/30 00:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#92 [向日葵]
******************

廊下を突き進みながら要は胸の奥にたまったモヤモヤにイライラしていた。

自分は彼女をどうしたいか分からなくなっている。
椿が言うように素直に従ってくれていれば彼としては満足なのだ。

それなのに要は、自分の前では無理に笑わないで欲しいと思ってしまったのだ。

いつの間にか出ていた真剣な言葉は、出れば出る程どうにか椿に届いてくれと願っていた。

しかし、彼女との壁はあまりに高く、理解してくれる気配すら感じなかった。

そしてその事にも、要は苛立っているのだ。

⏰:08/06/30 00:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#93 [向日葵]
自分が言って始めた事だ。
分かってる。

心を貰うのなんて簡単な事。巧みに並べた単語を繋げて口にすればいい。
ただそれだけだ。
だが、椿にそれは通用しないのだ。

嘘の言葉を、いつしか本当の言葉として引き出してしまう雰囲気を椿は持っている。

「……くそ……」

椿の心を乱すつもりが、自分が乱されているみたいで、当分要のイライラはおさまる気配はないようだ。

*******************

午後の部が始まる。

⏰:08/06/30 00:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#94 [向日葵]
日差しは少しマシになったものの、湿気や気温はマシにはならない。

まだフラフラしているので、美嘉が日陰にいなさいと怒っていたが、椿はサラリと流して今席にいた。

「椿さま」

背後から声がした。
振り向けば、要の従者がいる。

皆が何事かと従者を見るので、気をつかった椿は人があまりいない所へと移動した。

「えと、どうかなさいましたか……?」

「要さまから贈り物でございます」

⏰:08/06/30 01:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#95 [向日葵]
差し出されたのは、黒い日傘で、上品にレースがついてある綺麗な物だった。

「え、でも……」

「伝言もあります」

「伝言?」

「「すまなかった」とだけ、言っておりました」

椿は目を見開いた。

どうして謝るの……?

「要さまは、今から1週間程イギリスへ向かわれます。何かお伝えする事はありますか?」

渡された日傘に目を落とす。
これだって、要の作戦かもしれない。

⏰:08/06/30 01:07 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#96 [向日葵]
けれど、直接伝えてこない不器用な言葉や、ただ返せばいい日傘を買ってきて返す心遣いに、なんとなく胸が温かくなる。

「お気をつけて、とだけ、お伝え願えますか……?」

「かしこまりました」

それだけ言うと、従者は素早く身を翻し行ってしまった。

椿は、貰った日傘を差してみた。
日光に透けたレースを見ると、その柄は小さいけれど椿の形をしていた。

これは作戦?
……それとも。

⏰:08/06/30 01:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#97 [向日葵]
>>94

×今席にいた
○今席にいる

⏰:08/06/30 01:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#98 [向日葵]
携帯変えましたが、向日葵です

⏰:08/07/07 00:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#99 [向日葵]
「椿ー!そんなとこで何やってんのー?」

「あ……いえっ、今戻りますっ」

そう言って椿は美嘉の元へと駆け出した。

椿柄のレースが入った、日傘をさして……。

⏰:08/07/10 21:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#100 [向日葵]
[第3話]

今日は生憎の雨。
どうやら台風が近づいて来ているらしい。
そんなジメジメした空気なのに、椿は広い書庫で探し物をしていた。

体育祭も終わり、今日は代休だ。
ゆっくり休めばいいものの、椿には気になる事があった。

それは、友人である越の家族、“柴”と名乗る男性の事だ。

体育祭で見た彼は、走る為に邪魔なのか、少し長い髪の毛を1つにまとめていた。


それでも椿には見た事がある顔だった。

余計な事だとは分かっている。
でも越に確かめて欲しかったのだった。
もしその人が、自分が知っている人ならば、何の為に越の元にいるのかと……。

⏰:08/07/10 21:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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