ギンリョウソウ
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#664 [向日葵]
「はいっ……」
「しかし、どっちだろうね」
椿のお腹に触れようとして、要は躊躇う。
どうしたのかと、椿は要を見ると、要が照れ臭そうに笑う。
「面白いよね。ここに小さな宝物がいるかと思うと、壊れないか心配で、触るのさえ怖いよ」
要の言葉に、椿は笑う。
そして要の手をとると、優しく自分のお腹へと当てた。
その上から、椿は自分の手を重ねる。
「大丈夫です。触れれば触れる程、この子が喜びますよ」
椿がいとおしそうに、お腹を見つめる。
その姿が、また要はいとおしくて、椿を柔らかく抱き締める。
:09/03/21 03:22
:SO906i
:☆☆☆
#665 [向日葵]
でも、やはりどこかぎこちないその腕に、椿はクスリと静かに笑った。
椿は安心して要に身を預ける。
春の日差しに当たっているように、椿の心はほっこりと幸せに満ちていた。
しかし要は、やはりどこか迷っているように、腕の中にいる二つの命を大事に包んだ。
―――――――――…………
「わーっ!ホントにいっ!」
越宅に遊びに来た椿は、越に赤ちゃんの事を言った。
越はキラキラと、椿のお腹を見る。
「なにがあ?」
:09/03/21 03:27
:SO906i
:☆☆☆
#666 [向日葵]
越の妹、苺が、越の膝に乗りながら聞く。
「椿ちゃんのお腹に、赤ちゃんがいれのよ」
「ほあーっ!いちご、あかちゃんだっこするー」
「はい。いっぱいしてあげてください」
苺は満面の笑みで頷くと、兄の空に呼ばれ、出て行った。
しかし入れ替わりに、越の恋人である柴が入ってきた。
越には慣れた事なのか、柴が入ってきても特に気にはしなかった。
「で、どうかしたの?」
:09/03/21 03:32
:SO906i
:☆☆☆
#667 [向日葵]
「え?」
「相談があったから、うちに来たんでしょ?」
椿は急にシュンとする。
うつむいて、言いにくそうにする。
「実は……」
赤ちゃんについて、椿は越に話した。
話を聞いていくうちに、越の顔はだんだんと深刻になった。
「……そう。で、要くんはなんて?」
「一緒に頑張ろうと言って下さいました」
越は自分の事のようにホッと胸を撫で下ろす。
:09/03/21 03:35
:SO906i
:☆☆☆
#668 [向日葵]
「でも……。私が迷い始めてしまいました」
「え……」
椿は数日前、こんな会話を聞いた。
――――――――
―――――――――――
「大久保、僕は怖くて仕方ない」
椿が要の仕事部屋の前を通った時だった。
つい声がしたので、そこで足を止めてしまった。
「もし、椿も、子供も、僕は失う事になったら僕はどうしたらいいと思う?」
椿は目を見開いた。
:09/03/29 03:04
:SO906i
:☆☆☆
#669 [向日葵]
「要さま、弱気はいけません」
「分かってる。でも、不安がつきまとうのは仕方ないだろ……。僕は……それ程強い人間じゃない……っ」
表情は見えなくても、その苦しそうな声に、椿は顔を歪ませた。
もしかして、このままこの子を諦めた方が、要の為でもある……?
椿はお腹に手を触れた。
でも撫でる度、いとおしさが溢れてくれば、そんな事考えたくもなかった。
大切な、大切な一つの命。
そんな簡単に、手放せる訳がなかった。
:09/03/29 03:08
:SO906i
:☆☆☆
#670 [向日葵]
椿はお腹を抱えるようにしてその場に座り込み、涙を流した。
自分は、どうすればいい……?
どうすれば要も、この子も、傷つけないですむ?
ああ……要は、ずっとこんな風に悩んでいたに違いない。
なのに自分は、自分の事しか考えてなかった。
要の気持ちなんて、これっぽっちも……考えてなかった。
――――――
――――――――――
「そう思ったら、何が一番正しい選択か、分からなくなっちゃったんです……っ」
思い出して、椿はまた涙を流した。
:09/03/29 03:11
:SO906i
:☆☆☆
#671 [向日葵]
そんな椿を、越はただ頭を撫でてやるしか出来なかった。
――――――――………………
ひとしきり泣いた椿は、照れ臭そうに謝ってから帰って行った。
椿を乗せた車を、越はみつめ、悩んでいた。
「難しいね……」
隣にいた柴が呟く。
「俺だって、そんな時、どうしたらいいか分かんないや……」
そう呟く柴の手を、越はキュッと握る。
「……うん。……そうだね」
きっと、最後まで、悩み続けるだろうなと、越は思った。
:09/03/29 03:15
:SO906i
:☆☆☆
#672 [向日葵]
それでも、悩みぬいた先に、何かいい答えが待っていると信じている。
だから椿もそうであって欲しいと、越は車が行ってしまった方をしばらく見つめていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
車に揺られながら、椿は体の疲れを感じ、目を瞑る。
そういえば、最近ちゃんと寝てない気がすると思いながら、段々と意識が遠のいていく。
気がつけば、いつの間にか要宅ではなく、実家にいた。
でも、自分の体は動かない。
かと思えば、誰かの力によって、動き出した。
そして薄々気づきつつあった。
:09/03/29 03:20
:SO906i
:☆☆☆
#673 [向日葵]
これは、母のお腹の中だ。
見慣れたドアから、若い父が出てきた。
「お願いだから、安静にしていてくれ。それでなくても君の体は……」
困っている父に対し、心地よい母の声が耳に届く。
「あらあら、そんな事ではこの子に笑われてしまいますよ」
「笑われたっていい。未だ、私はどうしたらいいか迷ってる情けない男なのだから」
母の手が、父の手に重なる。
「大丈夫です。例え私がダメでも、この子はちゃんと生まれてきてくれますわ。私の分も、強く……。ね、椿……」
:09/03/29 03:24
:SO906i
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