ギンリョウソウ
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#691 [向日葵]
――――――――――…………
分娩室に椿が入って、30分が経った。
椅子に座っても落ち着いていられない要は、先ほどから立ったり座ったりを繰り返していた。
そこに、椿の父が、病院へ来た。
要は一礼する。
「椿は?」
「まだです。30分ほど前に入ったままです」
「そうか……」
父も落ち着かず、近くの窓から外を眺めたり、壁によっかかったりする。
:09/04/03 02:52
:SO906i
:☆☆☆
#692 [向日葵]
「椿は……」
「……え」
「とても、軽く産まれてきてね。なんグラムかは忘れてしまったけど、私は毎日心配だったよ」
要は黙って話を聞く。
「それでも、生きようと、力強く泣く姿に、私は涙が溢れたよ。命というのは、本当に素晴らしいものだと思えた」
「……そうですね」
要も、今は分かる。
自分が父親になるんだと思えば、椿の父のように、ああなんて素晴らしいと思った。
「椿は、体が危ないそうだね」
:09/04/03 02:56
:SO906i
:☆☆☆
#693 [向日葵]
やはり、体の事は、安心出来ないと明智に言われた。
それでも今日まで、二人は光を信じて過ごしてきた。
「でも、私は、椿は大丈夫な気がするよ」
椿の父は、いとおしそうに、分娩室のドアを見る。
その中の椿を見守るように。
もしかすると、妻に重ねているのかもしれない。
要も、ドアを見つめる。
頑張れ……。
それしか言えないけど、要は思った。
―――――――
――――――――――
:09/04/03 03:00
:SO906i
:☆☆☆
#694 [向日葵]
――――――どれくらい、時間が経っただろう。
時計を見るのも、落ち着きなく動くのも疲れてしまった要は、ただただ椅子に座り、祈るように手を組み合わせて、額に押しつけていた。
目を、ふと閉じた時だった。
(…………ま)
「要は目を開ける」
何故か要は、真っ暗な空間にいた。
でもその空間の四方八方には、星のようにチカチカと小さな光が瞬いていた。
どうなってる?
疲れて寝てしまったのか?
:09/04/03 03:05
:SO906i
:☆☆☆
#695 [向日葵]
(と……ま……)
また聞こえた。
可愛らしい声だ。
温かい、黄色い光が、要の腕に宿る。
触ってみれば、ふかふかとしていた。
それはまるで、羽毛のよう。
(父さま……やっと、会えた……)
その声は、その黄色い光から聞こえてきた。
「……君は……」
言いかけた時だった。
突然、大きな泣き声が聞こえてきた。
要はハッとした。
すると、そこは元の病院だった。
:09/04/03 03:10
:SO906i
:☆☆☆
#696 [向日葵]
腕の中に、もう光はなかった。
ガチャと開けられると、白い布にくるまれたものを、看護婦が抱いて歩いてくる。
近づくにつれ、泣き声は大きくなっていった。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
要は顔を覗き込む。
小さな小さな口を、目一杯開けて、その子は泣いていた。
ああ……僕たちの光だ……。
「あの、看護婦さん、娘は……」
父に言われ、要はハッとした。
:09/04/03 03:14
:SO906i
:☆☆☆
#697 [向日葵]
「椿……っ!!」
要は分娩室に入ろうとしたが、明智に止められた。
「落ち着きな。アンタお父さんだろ。ちゃんと姫の事話すから」
明智は淡々と語り出した。
――――――――
――――――――――――
ギンリョウソウ。
今思えば、もう少しマシな植物があっただろうに。
苦笑しながら、要はある所へ向かっていた。
それは、小さな挙式場。
:09/04/03 03:19
:SO906i
:☆☆☆
#698 [向日葵]
「とうさま?」
小さな手で、愛娘が要の人差し指を引っ張る。
「いまからどこにいくの?」
「母さまのお友達の結婚式だよ。さっき言っただろ?希望」
希望(のぞみ)。
愛娘につけた名前だ。
要が絶対に希望がいいと言って、回りの意見もきかずにつけたのだ。
「ふうん?」
何度説明しても分からない希望に笑いかけて、頭を撫でてやる。
黒く、綺麗な髪は、椿にそっくりだ。
:09/04/03 03:23
:SO906i
:☆☆☆
#699 [向日葵]
「あ、要!こっちこっち!」
式場に着けば、美嘉が手招きする。
「あ、希望っ!大きくなったねーっ。いくつになったの?」
「よーんっ」
短い指で、必死に数を表す。
そう、もうあれから4年も経つのだ。
要ももう少しすれば24歳になる。
「とうさまー。かあさまはー」
「……きっと来るよ」
要は空を見上げた。
今日はいい天気だ。
:09/04/03 03:28
:SO906i
:☆☆☆
#700 [向日葵]
自分達の挙式も、そういえば天気が良かった。
そして椿は、今まで見た中で、思わず見とれてしまうほど、綺麗だった。
「あーっ!」
希望が指をさす。
その方を見て、要は微笑む。
「椿」
「かあさまーっ!」
「要さま、希望、美嘉ちゃん」
椿は、ゆっくりした足取りでこちらへ向かってくる。
希望は待ちきれないのか、走って椿を迎えに行く。
「お待たせしました」
:09/04/03 03:32
:SO906i
:☆☆☆
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