ギンリョウソウ
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#144 [向日葵]
しかし要は何もかもお見通しだと言うようにクスリと笑った。

「寒いのなら頭から被る必要はないと思うよ?いい加減素直に恐かったと言ったらどう?」

確かに恐かったけれど、いつもはそんな風には思わなかった。
要が「寂しいか?」等と訊くから、隠し通していた形のないものがはっきりとしてしまったみたいで……。

だが結局、椿は寂しかったのは事実なのだ。
それが恐怖を呼び、今に至った。
それでも椿は言った。

「……大丈夫です……」

椿がそう言った後、沈黙が少しの間2人を包んだ。
聞こえるのは、雨と、風と、風に揺れる窓の音だけ……。

⏰:08/07/27 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#145 [向日葵]
そして要がため息をついた。

「何なんだ……君は……」

「え……」

ぐいっと腕を引っ張られ、間近で要と見つめあう形になった。
微かな明かりで見える要の顔は、機嫌が悪いと言うよりは怒っているように見えた。

「僕は君の婚約者なんだ。君が誰にどんな強がりを言おうとそれは勝手だ。だけど、こんな時くらい弱みを僕に見せる事すらしてくれないのかっ!」

椿は目を見開く。

もう要は自分の気持ちに気づいていた。

可愛いとか可愛くないとかどうでもいい。

⏰:08/07/27 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#146 [向日葵]
他人の為なら、何もかも諦めてしまいそうなこの少女を守るのは自分しかいないと感じている。

何が……好きになれそうにないだ……。
痛々しくて、驚く程健気な椿に、徐々に惹かれていたくせに……。

認めたくなかったのは、「好きになれそうにない」と言った彼自身の言葉に意地になっていたからだ。
でも……もう隠す必要はない。
隠そうとしても、椿のする事なす事に、こうして首を突っ込んでしまうのだから……。

「君の本音は僕だけが聞く。他の誰にも打ち明ける事が出来ないのなら、僕だけは君の為に耳を傾ける」

⏰:08/07/27 02:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#147 [向日葵]
椿の華奢な両肩を、腕を引っ張った力より優しく柔らかく掴む。

「だから、無理して笑うな。これは命令だ。君が使用人達に、無理矢理言うことを聞かそうと、この“命令”と言う言葉を使うなら、僕だって無理矢理にでも聞いてもらう」

椿は未だ驚いたように要を見る。

そんな椿の頭には疑問しか浮かばなかった。

どうして?
要は、自分の利益の為に婚約者を名乗っているだけなのに……。
どうしてそんな事が言えてしまうのだろう……。
しかも、そんな真剣に……。

「……しい……」

そして自分もどうしてしまったのだろう。
呟くように、椿が言葉を紡ぐ。

⏰:08/07/27 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#148 [向日葵]
「何……?」

「……い…………」

「はっきり言え!」

少し椿の肩を揺らす。
その肩が、小さく震えだす。

「怒らない。迷惑だなんて思わない……。だから言うんだ」

椿の呼吸が乱れだすのを、要は耳で感じていた。
それでも、言わせなきゃならない。
こうでもしないと、彼女の本音はずっと閉じこもってしまったままで、代わりに嘘の笑顔と言葉が出てくるのがクセになってしまう。

「さ……寂しい……です……っ」

吐息のように、でもはっきりと、彼女の声が聞こえた。
窓からの明かりが、椿の頬を流れる滴を、幻想的に光らせる。

⏰:08/07/27 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#149 [向日葵]
「ずっと……寂しかったんです……。でも私はこんな体で、小さな頃から皆さんに迷惑かけてて……」

溢れ出す涙と共に、何年も閉じ込めていただろう椿の心の言葉がポロポロとこぼれていく。
それん要は黙って受け止めていた。

「せめてワガママだけは言わないで……いい子でいようと……思ってました……。寂しいなんて言っては、また皆さんを困らせるって……こんな日はずっと……朝が来るのが待ち遠しかった……」

「うん……」

「私はこんな事でしか皆さんの為にする事は出来ないんです…………。だから……だか……」

⏰:08/07/27 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#150 [向日葵]
椿は両手で顔を覆って静かに泣く。

それを見ながら要は、過去椿に言った酷い言葉の数々を思い出し、自己嫌悪に陥っていた。

彼女は、要の言葉のトゲを刺したまま過ごしていたのだろうか……。

ぎこちなく手を伸ばし、椿の頭にかかっているシーツを取る。
そして改めて体に巻き付けてやる。

「そんなに自分を責めなくていい……。そんな事をしなくても、皆君が好きだよ……」

椿は首をゆっくり横に振った。
「そんな訳がない」とでも言いたいのだろうか……。

⏰:08/07/27 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#151 [向日葵]
「その証拠に、君のとこのメイドさんが、君のそばにいてやってくれと僕の所へ来たよ」

まだ濡れている目で、椿は要を見る。
要は椿の頬に流れた涙を拭うようにして、そっと触れた。
涙で濡れた頬は、少し冷たい。

「皆君を大事にしてくれる。だから、迷惑だなんて、思わなくていいんだ……」

椿はまた顔を歪めて両手で覆った。

そんな椿を、ふわりと空気を抱くかのように要は包みこんだ。

少しだけ、椿の体がハッと硬直する。

「君は、いらない存在なんかじゃないから……」

⏰:08/07/29 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#152 [向日葵]
優しく包みこまれ、優しい言葉を向けられたら、椿はまた一段と泣いた。

心のどこかでは、簡単に許してはいけない、この人に弱い自分を見せてはいけないと思っているのに、温かい腕からは逃げる事は出来ず、逆にすがりついてしまう。

せめて今だけは、要の気持ちを信じたいと感じる椿は、そう思う反面でこれが本当の要のような気もしていたのだった。

「明日になるまで……ずっとそばにいるよ……」

次から次へと流れてくる涙を止めようとは思わなかった。
要なら、受け止めてくれるように思った。

この寂しかった日々も。
この形容しがたい温かな嬉しさも……。

⏰:08/07/29 01:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#153 [向日葵]
[第4話]

「え、風邪ですか……っ」

爽やかな朝。
朝食を取っていた椿の耳に驚く出来事が入ってきた。

「ハイ。どうやら高熱をお出しになったみたいで……」

それを告げているのはいつも椿の面倒を見てくれている佐々木だ。

「大変……」

実は要が風邪で寝込んでいるという。
原因は2日程前の雨が原因と見られる。

椿は私のせいだと落ち込む。

⏰:08/07/29 01:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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