ギンリョウソウ
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#172 [向日葵]
まるでそれが珍しいかのように、大久保は要の顔を覗き込む。
そして心配そうな椿を見る。

「汗もよくかいてましたから、直に熱も下がるでしょう。椿さまも無理をなさらずお帰りになってもよろしいのですよ」

もう心配ない。

椿もなんとなく分かっている。
それでも、頼りなく、それでいてしっかりと握られている手を見れば、もう少しいた方がいいいような、いたいような……。

「まだ、あと少し、いてもよろしいですか……」

椿の言葉に、大久保は笑みを深くする。

「お帰りの際は、声をおかけになって下さいね。お送りいたします」

⏰:08/08/04 01:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#173 [向日葵]
そう言うと、大久保は部屋を出て行った。

再び要に視線を戻した椿は、首に少し流れている汗をタオルで拭いてやる。
すると寝巻きのシャツの隙間から、綺麗な鎖骨が見える。

ドキリとした椿は首にタオルをおいたまま赤くなってま固まる。

そういえば、自分はこの人に抱き締められたではないか。

あの時は、溢れ出した気持ちで一杯いっぱいになっていたから、そんなに意識はしなかったけれど、体を完璧要に預けていた。

そうした自分の行動に、恥ずかしさを隠せなかった。

「……ん……っ」

⏰:08/08/04 01:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#174 [向日葵]
要の声に、椿は我に返った。

首に置いてあったままの手を慌ててのける。

すると要がうっすらと目を開けた。

「何椿……。殺す気……?」

「ち、違っ……!汗を拭いていただけです!ごめんなさい……っ!」

「分かってるよ……からかっただけ……」

クスクス笑う要は、少し元気になったように思う。
ホッとして、椿も頬を緩める。
それを要が眩しそうに見ると、ゆっくりと椿の髪の毛をひとふさ取る。

⏰:08/08/04 02:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#175 [向日葵]
そしてそれに口づける……。

「か……要さま……?」

先ほどから赤くなってばかりの椿は、次は自分が熱を出して倒れるんじゃないかと心配になった。
そして要はそんな椿を見て、またクスリと笑う。

髪から手を放すと、今度は椿の頬に触れる。
椿はピクリとする。

「今日、来てくれて……ありがとう……。嬉しかった……」

力なくいい終えると、要は手をパタリと落として、また眠りについた。

嬉しかった……?
私が来て……?

⏰:08/08/04 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#176 [向日葵]
椿はなんとも言えない顔で、寝ている要を見つめる。

「要……さま……」

私は、あなたの心の中にいるのですか……?
でも何故?
あなたが言ったのに。

好きになれそうにないって……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ぼんやりと要のそばに座ったままだった椿は、ふと時計を見た。

もう8時。
そろそろ帰って、しっかりと要を休ませた方がいいだろうと思った椿は、腰を上げた。

すると要がまた唸る。

⏰:08/08/04 02:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#177 [向日葵]
また熱が上がり出したのかと心配になった椿は要の額に手を当てようとした。
その時、要の呟きが聞こえた。

「ゆ……いこ……」

「え……」

ユイコ?

額に触れようとしていた手を、静かに引っ込める。

ユイコじゃない。
要さま、私は、椿です……っ。

そう思いながら椿は口唇を噛んだ。

するとタイミング良く、要が目を開く。

「椿……?帰るのか……?」

⏰:08/08/04 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#178 [向日葵]
今の要から見る椿はぼんやりとしか見えない。
しかし、椿から送られてくる雰囲気に異変を感じた。

「椿……どうしたんだ……?」

椿は何も言わず、頭を下げると、足早に要の部屋を出て行った。

ドアを閉める瞬間、彼がもう1度椿の名を呼ぶのが聞こえたが、それを遮るかのように椿はドアを閉めた。

…………危ない……。
もう少しで本気にしてしまいそうだった。

彼の心に、自分がいる訳がない。
最近の優しさだって、彼の本質的なものであっても、恋から生じる気持ちではないだろう。

⏰:08/08/04 02:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#179 [向日葵]
それに彼はこの世界でのし上がる為に色々なものを捨て、色々なものを利用する人だ。

好きな人がいても、その気持ちを捨てざるを得ない事があっただろう。
それがもしかしたら、彼が呟いた「ユイコ」なのかもしれない。

未だ忘れられず、彼の心にいるのは椿ではないのだ。

この頃、優しくされてばかりだから、勘違いを起こしそうになった。
反省しなくちゃ……。

そう思ってても、胸に突き抜けた痛みは、簡単に病むことはなかった。

ズキズキズキズキ……。
要を思えば思うほど、何故かその痛みは大きくなるのであった。

⏰:08/08/04 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#180 [向日葵]
――――――――……

それから、椿は要を避けはじめた。

要もちょうど仕事が重なったのか、椿宅には来ない日が続いた。

それでも、1日1回は必ずメールや電話が来た。
でも椿は、電話には出なかった。
電話に出ないと次はメールが来て、必ず文面に「なんで電話にでないの?」と不機嫌な文が綴られていた。

椿はその事には触れず、「今日もお疲れさまでした。ゆっくり休んで下さい」としか送らなかった。

許そうとしていた、椿の要に対する心の領域侵入は、また椿によって拒まれ始めた。

⏰:08/08/04 02:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#181 [向日葵]
あれから1週間が経とうとしていた。

要にはこの1週間、やっばり会わなかった。
聞くところによると、現在フランスで開かれる小さなファッションショーの為に服のデザインをあれこれ考えているらしい。

どこか胸が重い椿は、うつむきながら玄関に入る。

「ただいま帰り……」

「椿」

穏やかな声だった。
ハッとして顔を上げた椿は、目を見開く。

「聖史……さま……」

そう呼ばれる人物は、穏やかな笑みを口元にたたえたまま椿に近づく。

⏰:08/08/05 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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