ギンリョウソウ
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#207 [向日葵]
要はありそうな話だと思いながらも、耳を傾け続ける。

「椿はやがて、自分が生まれたせいで奥さまが亡くなったと思ってね……」

それに追い討ちをかけるように、椿が成長する度、使用人達は口をそろえて言った。

[奥さまそっくりですね。奥さまがいたらさぞ喜ばれる事でしょう]

椿は、母と似ているのが嬉しかった反面、皆の母の対する親しみの思いが深いのを感じとっていた。

そんな、皆にとって大切な母を、自分が生まれた事によって死なせてしまった。

⏰:08/08/12 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#208 [向日葵]
――殺シタノハ、私ダ……。

要は目を見開いた。
聖史は話を続ける。

「それから椿は奥さまの話をしてとよく旦那さまにねだっていたらしいよ。奥さまの身代わりを自分がしよう。そうしたら、使用人達の心を満たせると思ったんだろうね……。そんな事抜きでも、椿は大切に思われているのに……」

必死にいい子になり、皆に迷惑をかけない自分になろう。
皆の幸せを1番に願える自分になろう。

かつて母が、そうだったように……。

要は片手で目を覆い、うつむく。

⏰:08/08/12 00:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#209 [向日葵]
何を……考えているんだ椿……。

「そんな椿だからこそ、ちゃんと彼女の裏の感情を分かってくれる人間じゃないと認めない。なのに、君はどうだ、要くん」

要は歯ぎしりしそうな程歯を噛み合わせた。

「自分の欲求や、不満で椿を振り回してはいないかい?」

うるさい……。

「椿を本当に、思いやってはくれてるかい?」

うるさい……。
うるさい……っ!

⏰:08/08/12 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#210 [向日葵]
どうしてお前にそんな事言われなくちゃならないっ!
どうしてお前から椿の事を聞かなくちゃならないっ!

要は机に置いてあったアイスコーヒーが入っているグラスを握りしめる。
そしてそれは、カシャンと音と共に砕ける。
中の液体と氷が、高そうな絨毯を汚していく。

「…………椿は、君と結婚するのを望んでいるのかな……?」

その言葉に、頭のどこかで派手な音を聞いた要は、近くにあった花瓶を思いきり聖史に向かって投げた。

―――――――――…………

何も知らない椿は、いつも通りの時間に美嘉と共に帰って来た。

⏰:08/08/12 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#211 [向日葵]
部屋に行こうと廊下を歩いていると、聖史が姿を見せた。

「あーっ!聖史兄ちゃんっ!ひっさしぶりーっ!……って、どうしたの腕!」

聖史は上着を脱ぎ、カッターの袖を捲っていた。
その腕には、包帯が巻かれていた。

「あぁ、美嘉じゃないか。大きくなったねー」

「美嘉の事なんか今どうでもいいよっ!それより腕ぇっ!」

「大した事ないよ。大丈夫。椿も、心配しなくていいからね」

美嘉の後ろで、椿は顔を青くして言葉を無くしていた。

⏰:08/08/12 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#212 [向日葵]
「カバンを置いておいで。僕は美嘉と喋っているから」

椿はぎこちなく頷き、部屋へと足を進めた。

一瞬要と一戦交えてしまったのかとひやりてしたが、要の姿は無いので違うのだと安心しながら椿は部屋のドアを開けた。

「おかえり……」

「え?」

ベッド近くの窓辺に、要が立っていた。

「要さま……っ。いらっしゃいませっ。どうなさったんですか?こんな所で……」

「僕がどこにいたって不自然じゃいだろう?結婚すれば僕は君の部屋にいる可能性だってある」

⏰:08/08/12 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#213 [向日葵]
口元に微笑みをたたえているのに、目はひどく冷たく、雰囲気は奇妙なものだった。
近づきたくても、なんとかく近づけずにいた椿だが、ふと要の手に目をやると驚いた。

「か……要さま……っ!て……て、手が……っ!!ち……血……っ!」

「あぁこれ?もう乾いているよ」

椿は近づいていって、その手をそっと取る。
乾いていると言えど、おびただしい程の血と傷が、要の手についている。

なのに何故本人は痛がりもせず、平然といるのだろう……。

まさか……と椿は思った。

⏰:08/08/12 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#214 [向日葵]
要は聖史の逆鱗にでも触れてしまったのだろうか?
それで……聖史に……?
そういえば、聖史も怪我していた。

「要さま……聖史さまと何かありましたか……?怪我をなさっているだなんて……」

要は何も言わず、ただ椿を無表情でじっと見ていた。
それがなんだか怖くて、椿は徐々に後退りしていた。

とりあえず、今は事情を訊くより、要の手当てだと思った椿は、黙ったまま部屋を出ようとする。

が、椿の腕を、要が掴んだ。
しかも、怪我している方で。

「……要さま……?」

「そんなに、アイツがいい……?」

⏰:08/08/12 01:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#215 [向日葵]
「え……?」

何の事だろうと思った椿は、急に強く押された。

倒れたのは、幸いベッドの上だった。
起き上がろうとした椿の上に、要が覆い被さる。

ただならぬ空気に、椿は固まった。

「僕よりアイツがいいの?本当はアイツが婚約者の方が良かったって?」

「か、要さま……っ!?」

「僕が奴から勝つのを許せないのかよっ!」

ドンッと、椿の顔の横に拳を降り下ろす。
椿は怖くて、ただ体を固まらせていた。

⏰:08/08/12 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#216 [向日葵]
すると要は苦しそうな、悲しそうな顔をした。

「…………なのに……」

「要……さま……」

「君が……好きなのに……っ」

椿は目を見開く。

今……なんて……?

「それでも、それでもダメなのか……っ!」

苦しそうに目を瞑る要をどうすればいいか分からない椿は、ソッと彼に触れようとした。

すると目を開いた彼の目つきが鋭く変わり、椿の両手を顔の横で押しとらえた。

⏰:08/08/12 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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